この物語は、遠い未来の幻想郷を舞台にした物語という設定です。
作品集27、30、51、91にこのシリーズがあります。
オリキャラの登場人物
博麗ミカ この時代の博麗の巫女。人間の女の子
霧雨真琴 この時代の霧雨の魔法使い。人間の男の子
十六夜優夜 この時代の完全で瀟洒な(誇張表現あり)従者。雄のワーしばわんこ。
霧雨真理歌 この時代の魔法使い兼幽霊剣士。ミカに懐いている。幽霊系女の子。
そのほか、どこかでみたような孤児院の子供たち。
幻想郷の湖の中心にある小さな島、遠い昔紅魔館という吸血鬼の住む館があった場所。
かつてそこの門番だった美鈴先生は、今は同じ場所に建っている孤児院を守っています。
私と真琴は、たまにそこへ行って身寄りのない人妖の子供たちと遊んだり、弾幕を見せたりするのが楽しみの一つとなっているの。
ほぼ島全体といってもいい孤児院の広い庭で、みんなは思い思いに午後のひと時を過ごしています。
「ミカー、助けてくれ、この子に血を吸われる」
とある吸血鬼の女の子が、真琴の背中に抱きついて首筋を甘噛みしている。
彼のことを気に入ったらしいわ。
たしかフランちゃんといったかな、一本の木の枝に、色とりどりの菱形の宝石をぶら下げたような翼をもつその子は、真琴の叫びを聞かず抱きついたまま、白い乱杭歯をむき出しにしていました。
「真琴、気に入られたのよ、眷族になったら?」
「馬鹿言うな~」
「吸っちゃうぞ~」フランちゃんは楽しそうです。
騒ぎを聞きつけて、美鈴先生が苦笑しながらアドバイスしました。
「真琴君、その子を一定時間直射日光に当ててごらんなさい」
真琴がその子の体を太陽の方向へ向けました。
「あう~」
10秒ほどしてその子は牙を首筋から離し、のけぞる姿勢になり、
そこを美鈴先生が引きはがします。
首に軽い衝撃を感じて、何かが私の背中に飛びつきました。姉のレミィちゃんでした。
「食べちゃうぞ~」
「どうしよう、私まだあんまりおいしくないよ」
「ええ~」
直射日光に当てるのは可哀想なので、神社の護符を軽く額に張り付けます。
こういうのは西洋妖怪にも効くのかな?
「あふ~」 どうやら効果があったみたい。
目を回して両手を離したレミィちゃんを引っぺがしました。あんたは蛭か。
「みんなーおやつですよー」
美鈴先生の声に、レミィちゃんとフランちゃんは復活し、楽しげに羽を動かしています。
今日は孤児院を援助してくれている永遠亭の輝夜さんが来ていて、二人のお供のひとがおやつにパイを作ってくれていました。
真琴と一緒に吸血鬼姉妹を連れて建物に戻ると、果物のいい匂いが厨房から流れ、みんなの鼻孔をくすぐります。
「できましたよ」
月兎の鈴仙さんと、この前知り合った犬耳の執事、優夜さんがエプロン姿でお盆を持ってきて配膳していきます。
「えーと、今日のお茶菓子は、ベリーのプディングでございます」
「優夜、なんのベリーよ?」
「ええと、なんかのベリーです」
「何かって何よ、一応味は良かったけれど」
「まあ、火は通ってありますので」
「それが瀟洒な従者の言い方かしら、もう」 ちょっとイラつく鈴仙さん。
彼は瀟洒で完全な執事を目指してるはずなんだけど、まだまだ頼りないようです。
てゆうか、料理の素材ぐらい把握しておけよ。
「人肉入りじゃないだろうね」 真琴がからかい気味に言います。
「もしそうなら、夕飯は犬鍋ね」とこれもブラックな鈴仙さん。
「じゃあみんな手を合わせてください」蛍系の男の子の、リグリル君が合図する。
「いただきます」
「いただきます」みんなも唱和します。
プディングを口に運ぶのお姫様を、優夜さんが緊張の面持ちで見守っています。
「優夜」
「はいっ」
「おいしいわ、上達したわね」
「ありがとうございます」
プディングはしつこすぎない程度に甘く、私が前に作ったものよりおいしいかも。直接食べ物を作ることまで執事さんの仕事かは知らないけれど、永遠亭というお屋敷で働く人としては優秀なのかもね。
それから真琴の横顔を見て、ふとある事を思い出しました。早く言っておかなけりゃ。
「ああ真琴、真理歌ちゃんに謝っておきなよ。あんた実家へ帰った時、真理歌ちゃんの実験しようとしていた魔法陣の文様、勝手に書き換えたそうじゃない、『あのクソ兄』って怒ってたよ」
「えっ、真理歌がそんなことを? だって、あの魔力シーケンス図だと効率が悪そうだったから……」
「今からでも遅くないからしっかり謝らないと。一応私も『クソ兄じゃなくてせめてバカ兄と呼びなさい』とフォロー入れといたわ」
「それはフォローと言えるのかい、でも、帰ったらそうするよ、ありがとう」
優夜さんは年下の子どもたちと親しげに話しています。
あちこちを放浪して永遠亭に拾われる前、ここでお世話になったことがあったそうです。
美鈴先生と輝夜さんが、後片付けをする優夜さんを優しく見守っています。
「あの子、たまにとんでもないドジをやらかすのよ、いい子だけど」
「あはは、うちに居た時と同じですね、でも、元気そうでなによりです」
「こうやって、新しい世代が育っていくんでしょうね」
「私たちも先輩として負けてられませんね」
こうして、今日も何気ない一日が過ぎていきます。
真琴は真理歌ちゃんと仲直りできるでしょうか?
優夜さんは完全で瀟洒な執事になれるでしょうか?
私も、当代の博麗の巫女として異変を解決しなければならない時もあるでしょう。
でも結構何とかなるんじゃないかなと思います。
ご先祖様、霊夢さん、魔理沙さん、咲夜さん、それに美鈴先生や永遠亭の人たちも、
きっといろんな悩みを抱えながら、それでも人生を楽しむ事を忘れず、
生き抜いていったんじゃないかと思います。
私たちもそのバトンを受け継ごう。そう胸に誓いました。
「ところでミカ、ミスティアさんとこの屋台のツケは払ったのかい」
真琴が嫌なことを思い出させます。
「げっ、忘れてた、真琴立て替えといてよ」
「困るよ、自分で稼げ」
皿を運ぶ優夜さんがこちらを振り向いて肩をすくめました。
「ある意味、博麗らしいとも言えますね」
よそ見が祟って鈴仙さんにぶつかり、案の定皿を割ってしまいました。
「優夜~~~~~」 あらら、犬鍋確定ですね。
訂正、やっぱ何とかならないかも。でもまあのんびりで行こうっと。