Coolier - 新生・東方創想話

妖刀作品打切

2017/06/27 20:34:35
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「妖刀作品打切?」
「そう、伝説の名刀よ」
「どんな刀? 教えて下さい」

ここは冥界の管理人、西行寺幽々子のお屋敷、白玉楼。彼女に使える剣士兼庭師の少女、魂魄妖夢は、初めてその剣の存在を八雲紫から聞かされた時、思わず立場を忘れて聞き返さずにいられないのであった。

「その剣はどういった物なのでしょうか」 

剣士としての興味からか、少し興奮気味の妖夢が紫にとって可愛らしく思える。

「まあまあ、慌てないで頂戴、それより、この鯛焼き美味しいわ、妖夢もここに座って食べなさい、遠慮はいらないわ」 隣の座布団をぽんぽん軽く叩く。
「もともと私が用意したものなんですけどね」

早く妖刀について教えてもらいたいが、この妖怪の賢者はもったいぶって話すのが好きなひとだった。ぶっちゃけ主と同じといえた。一緒に鯛焼きを食べて過ごすまでは教える気はないらしい。仕方ないので、紫に促されるまま座布団に正座し、一口かじる、結構おいしい。

「実はね、この剣は、普通の刀剣のような実態を持たないのよ」

一口お茶をすすって紫が言う。妖夢は落ち着いた風を装うが、早くその先が聞きたくてうずうずしているのが見て取れた。

「私はあらゆるものの境界を操る事ができるのは知っているわよね」
「はい、現実と幻想、この場所と遠く離れた別の場所、この世とあの世とかもですか?」
「そう、そして物語と現世の境界もね」
「もしかすると、その妖刀も境界を操るもの?」
「ちょっと違うわね。これは物語世界を断ち切り、終わらせる剣、物語に関わる者は皆、好むと好まざるとに関わらず、この剣を振るったり、剣の錆にされたりするの」

妖夢は拍子抜けして、なんだあ、とため息をついた。

「八雲様、それは単に物語の人気が出なかったり、作者のやる気が失せたりして続編が作られなくなるって話でしょ」

紫がたい焼きをかじり、程よく熱いお茶で飲み込んで言う。

「いいえ、本当に妖刀は存在するわ、証拠にそれで斬られた物語には特徴があるのよ」
「特徴、ですか? 斬られた物語世界にも切断面があって、血が吹き出たりするんでしょうか?」
「ご名答よ、妖夢。その通り、斬られた部分からは、書き始めの時より枯れたとはいえ、作者の思いや、それを観たり読んだりした者達の思いがあふれ出て、それが次なる物語の種になるのよ」
「つまり、その作品に影響を受けた人たちが、続きを空想したり、似たような物語を作ってみたくなったりする事なんですね。ようは、そういう剣が存在するんじゃなくて、たとえ話だったんじゃないですか」

妖夢がふと食卓の皿に目を移すと、半分ぐらいまで食べた鯛焼きの残りが、ちゃっかり消滅していやがった。ちょっと悔しい。自分の剣、八雲紫も斬れるのだろうか、と一瞬思う。
八雲紫はそんな妖夢の気持ちを知ってか知らずか、遠くを見る目で語り続ける。

「思いの数だけ世界がある。それが実体を伴うかどうかなんて、境界を操る私にはどうでもいい事。この幻想郷だって過去何度も斬られて、斬られて、そして切片が再生して、みんなの様々な思いを体現した幻想郷が生まれて、そこにはいろいろな在りようの私達が息づいている。中には人々の思いが、この幻想郷には本来居ない住人を生み出す事さえあるし、その全てを把握するのはこの私にも無理なくらい」

以前幽々子から聞いた、いわゆる平行世界とか世界線とかいうやつか。
どこかの世界に、少し違った別の自分が暮らしているかもしれない、という空想は楽しくもあり、また恐ろしくもある。あと鯛焼き返せ。

「それからね、以前ほかの幻想郷をすべて把握して統合しようかと思った事があって、かなりいいところまで進んだのよ」

残念そうな顔からして、その統合とやらは失敗したらしい。

「もしかして、武力を使ったとか?」
「いいえ、いたって平和的な方法でよ、それで日本国幻想郷を立ち上げたんだけど、維持が大変で、結局幻想郷東日本、幻想郷西日本、幻想郷北海道、幻想郷東海、幻想郷四国、幻想郷九州、そして幻想郷貨物に分かれちゃった」

「貨物って何だよ?」 

妖夢は思う、やっぱり斬るか? と。
彼女の言っている事は本当なのだろうか、あるいは頭がおかしくなっているのだろうか、なら斬ってみれば再生時に頭も元通りになるかも知れない、妖夢はついそのように考えてしまう。それにしても、やたら壮大なスケールの話だ。日本各地にこの世界と同じ空間が……いや待て、日本、日本……」

「あの、もしかして、『日本』を冠する幻想郷があるという事は……」

紫は扇をぱっと開いて口元を隠し、くすくすと笑う。

「その通り、外国にも拡散しているわ」
「広がりすぎだろ!」 主の友人にため口になってしまう。
「安心して、各幻想郷はおおむね平和的に共存しているから」
「それならいいんですが、済みません、感情的になってしまいました」
「いい子ね、これは返すわ」 紫は空間の隙間から半分になった鯛焼きを差し出した。
「んんん、からかっていたんですか!」 やっぱ斬るか? 急いで鯛焼きの残りを頬張る。
 
「ただ心配なのはね、多くの幻想郷には霊夢か霊夢相当の巫女達が居るのだけれど、結構妖怪たちに対して攻撃的なのも居るのよ」
「それは怖いですね」 霊夢の強さは弾幕ごっこでも相当なレベルだ。
「外界にその手の幻想を持つ主体が多いのが原因ね。で、その霊夢達が各幻想郷をまたいで『博麗神社』と名乗る広域団体を作って、妖怪たちに集団で賽銭を要求したり、気に入らないと人間を襲っただろうとか因縁をつけてボコボコにしたりするの」

どこのヤクザだよ。妖夢は内心何度目かの突っ込みを入れた。

「何とかならないんですか、もしその『博麗神社』がこっちに攻めてきたら……」
「相当愉快な事態になるわね」 顔からして皮肉の意味で言ったのが分かる。

妖夢は想像する。様々な幻想郷の様々な容姿の霊夢が攻めてきて、いろいろな文体でボコボコにされる自分達。勝てるだろうか? 
  
「でも心配はいらないと思う。各幻想郷にいるのは巫女だけじゃなくて、当然私や幽々子、あなたや魔理沙も同じ人数だけ存在するのよ」
「あっ、そうか!」
「私もいろんな私と連絡を取り合ってどうにか抑えているわ。そのかいあって、『博麗神社』は弱体化して、噂によるとリーダー格の霊夢達が格下の霊夢達に高額の賽銭を要求したり、宴会での酒の提供を強要されたりして、怒った霊夢達が組織を割って出て、『神戸博麗神社』を立ち上げたらしいわ」
「いっそ霊夢さん同士で潰しあったら少しは平和になったりして」
「それは私も考えたんだけど、もし霊夢同士で喰い合う仁義なき霊夢ロワイヤルとなった場合、チャンピオン霊夢が他の全ての霊夢を吸収して、パーフェクト霊夢爆誕なんて事態になったら、もういっそ火星にでも新たな幻想郷を作ってみんなでそこに避難しようかとも考えているわよ」

そこまで話が進んでいるのかと不安になってしまう。
紫は不安がる妖夢がつい可愛らしく思えて、しばらくその顔を眺めた後、種明かしした。

「なーんてね、嘘よ」
「嘘なんですか!?」
「ふふふ、幻想の生きる世界がここ以外にもあるのは本当だけど、そこまでの事態にはなってないし、他の幻想郷を傘下に収めるなんて力、どこも持っていないわ」

妖夢はため息をついて一安心した後、今までの不安の分の怒りがこみ上げてくる。

「もうっ、からかわないでくださいよ。そのパーフェクト霊夢さんを想像して私、どうしたらいいか……」
「怖いの?」
「こ、怖くなんかありません」

顔を真っ赤にして白桜剣を抜き、その場でぶんぶん振り回して威嚇した。

「これから素振りの稽古なので帰ってください。斬られても自己責任ですっ!」
「あら嫌だ、退散退散」
















何の気まぐれか、マヨイガの書斎で物語をつづっていた紫は筆をそっと置き、原稿用紙をそのままにして隙間を開き、博麗神社の境内に向かった。
新緑と青空、さわやかな空気、そしていつもの博麗神社。しかし、その神社はどこか景観が異なっていて、空気は悪くないが雰囲気が違っていた。

「どうしても言えない本音を、物語にアレンジしてぶちまけてみたけれど、みんなは気付くかしらねえ」

気付かれなかったとしても、これで良いのだ、と紫は自分自身に言い聞かせたが、反面孤独感がこみ上げてくるのを抑えられなかった。
全てを打ち明けたらどれほど楽になるだろうか、しかし、皆を巻き込むわけにはいかないのだ。

紫の目は、空間の一点を厳しい表情で見つめている。

「いるのでしょう?」

その言葉に応じて、空間が開き、彼女そっくりの姿をした女性の妖怪が降り立つ。

「こんにちは、八雲紫、答えは出たかしら?」
「答えはノーよ、八雲紫」

やや容姿が違っているが、紫そっくりの姿をした妖怪が現れた。
彼女ももまた、別の幻想郷の八雲紫である。そしてここはもう一つの幻想郷。

「あなたの幻想郷の傘下に入り、全ての幻想郷征服に力を貸す、こんな馬鹿げた話、ノーに決まっているでしょう」
「残念ね、私たちを敵に回したツケは大きいわよ」
「はっ、笑わせないで。まるで自分たちが選ぶ立場みたいな言い方ね」
「貴女はぬる過ぎる、そちらの幻想郷はほぼ最強なのに、貴女は平和共存などと呑気な事を言う」
「でも戦いを一切しないという意味ではないわ、私の大事な世界を守るためなら」
「そう、では、始めましょうか」
「ええ」

妖力を漲らせた二人の八雲紫が激突する。

紫の想いがこの幻想郷を救うと信じて……第一部完。










開口一番魔理沙は言った。



















「なんだこの糞小説は!」

神社に来た八雲藍に退屈だと言ったら、この物語の原稿を読まされたのだ。

「外界から流れてくる漫画にありがちな話だし、未回収の伏線がやたら多いし、誰が書いたんだこれ」
「暇だというから見せてやったんだ。そんな言い方しなくても良いだろう」

顔をしかめ、しっぽが垂れ下がっている。
同じく作品を読んだ霊夢も苦笑気味。

「この日常は虚構だった、っていう話は嫌いじゃないわ。だけど、狂人設定の紫たちの描写がありきたりね」
「そうだぜ、背をのけ反らせて両手広げて高らかに笑ったり、語尾にトランプの記号を付けたりして、はい危険人物ですなんてのはちょっと単純かな」
「先人の描写をただ真似すればいいって思ってない?」
「もっとこう、温和な振る舞いで根っこの思想が狂っているとかの紫が良いな」
「それから、ここで紫が敵を許すシーン、実際のあいつなら確実に殺すわよ、そりゃもう、サディスティックにね」

 いたずらっ子のような含み笑いの霊夢。
藍は紫がそう思われている事に少なからず傷ついた。

「あと別の場面、悲劇的でショッキングな展開はいいが、そのシーンに持っていくために有能だったはずの紫評議会が無能化するのは引く」
「そ、そうか、厳しいな」

藍から感じる妖力が急激に減衰していく。
藍は無表情を維持していたが、しっぽがさらに垂れ下がっていく。

「おい、もしかして、書いたのあんたか」
「楽しんでもらえると思ったのだがな」
「ごめんごめん、私も自分勝手な事言い過ぎた、ただなあ、こういう長編より、きちんと起承転結がある短編から始めてみたらどうかな」
「こういう物語作品は慣れなくてね。でも参考になったよ、ありがとう」
「良いって、私も酷い事言っちまった。5冊ほど本を持っていく予定だったが、お詫びに4冊でいいや」
「手厳しい批評は有難いのだが、こちらとしては持っていくのを自粛してほしいのだが」
「良いところもあるぜ、気弱な紫が苦手な紫との交渉に赴くシーン、心情がリアルだったぜ。個人の体験か?」
「まあな、言いにくいことをフィクションの形で書けるのも物語の良さだよね」

霊夢があっそうだ、と手をポンと叩く。

「いっそ全幻想郷消滅で『死-ん』なんてオチはどうかしら」
「恐ろしい発想をするんだな」
「最強の紫を目指して紫同士が戦うトーナメント編なんてどうだ」

 霊夢、魔理沙のダメ出し、もといアドバイスはしばらく続く。






マヨイガにて、夕食後、八雲紫は藍が書いた物語の一部を読みながら、藍が手厳しい批評を二人から受けたという話を聞いていた。

「残念だけど、あの子たちの言う事も一理あるわね。でも次があるからあんまり気にしなくていいわ」
「言っていただけると助かります」
「それから、藍」

急に紫の声のトーンが低くなった。

「やっぱり、気づいていたのね」
「何のことですか?」

紫は何げなく、みかんの皮を剥きながら話し続ける。

「言いたくても言いたい事を、物語形式で語る、劇中の私と、二人に読ませた時の貴方が言っていたじゃない」
「やっぱり、気づかれていましたか」

みかんをひと房、口に放り込む。

「たぶん、貴方の考えている事は本当よ」
「では、この幻想郷、世界は誰かが書いた物語なのですね」
「その割には驚いていないのね」
「はい、計算して、なんとなくそうではないかと以前から思っていました。でももう驚く事もなく、なるようになるさと開き直っています」

 藍もみかんを食べながら淡々と話している。

 「この私という存在が丸々フィクションだとしても、感じている心は本物に思えます。われ思う、ゆえにわれあり、というやつです。ただ、物語世界が打ち切りとなったらどうなるのかが、少し怖いですね」
 「藍、貴方が書いた設定の妖刀作品打切、あれは面白い概念ね。だけど斬られた作品は消滅しないし、人物も死ぬわけじゃない。むしろ、斬られてからが物語世界の本番と言えるのです」
 「でも、打ち切られては誰もその世界を観ないでしょう」
 「打ち切られた物語は作者の手を離れて独自の道を歩んでいく。そこでは読み手の感情を揺さぶるような悲劇や喜劇はあまり起こらない代わりに、それぞれが等身大の希望や絶望をもって穏やかに時間が流れていく事が多いわね」
 「じゃあ、打ち切られてもこの物語世界は滅びないのですね。でも思ったんですが、外からの干渉を受けない事が必ずしも良い方向に傾くとは限らないかもしれませんね」
 「そうね、だから、私が見回っているのよ」
「ではやはり」
「ちょっとややこしいけど、幻想郷の他にも幻想が息づいている領域がけっこうあるのは知ってるでしょ。それとは別に、この幻想郷を何かの作用で訪れた人々の空想が生んだ、この幻想郷自体のコピーもある。ついでに言うと、作中で貴方が私に語らせたように、物語世界に魅せられた者たちが新たな世界を作る事もたびたびあるわ」
 「紫様、別の幻想の世界をお一人で見回るのは大変でしょう。橙も成長しましたし、私にもお手伝いはできませんか、貴方は一人ではないはずです、それとも、私はまだ頼りないのでしょうか」
「藍、あの物語を通して、言いたかったことはそれなのね」
「ええ、遠回りでしたが」
「でも安心して、コピー幻想郷にも当然私達がいて、やることはその子達とお酒を飲みながら近況を報告するぐらいだから」
「それこそまさに幻想郷ですね」

これはまだ、二人しか知らない幻想郷の秘密。藍はこの秘密はいつの日か多くに知れ渡る事になるだろうが、それをちょっと残念にも思うのだった。

「でねでね、藍、このページの私の判断だけど、過去に似た様な目にあって、本当にこういう行動をとったわ、よく私を見ているのね」
 「そうですか、大体紫様ならこう動くんじゃなかろうかと思ったんです」
 「それでね、こういう場面じゃ霊夢の言う通り、きっちりぶっ殺したわ」
 「それマジで!?」
 「嘘よ」
 「一瞬ビビったじゃないですか」
 「あとここのシーンさんだけど……」
 「藍様、紫様、私も混ぜて~」

 世界の真実などのシリアスな話題はさておき、橙も加わって物語作りで盛り上がる三人の優しい日常だった。
 




 
という幻想郷の物語もあったりして……
とらねこ
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コメント



0.180簡易評価
3.10名前が無い程度の能力削除
こんなネタ使う自分面白いとか思ってそうな作品でした。
5.90名前が無い程度の能力削除
良い時代でしたね
懐かしい気持ちになりました
6.80沙門削除
全ては紫様の手の平の上か。
混沌としているようで、高い視点から見下ろしているような感じを受けました。
うーむ、私もあの連作を続けていれば……。などと感傷に浸ります。
残酷ですが、幻想郷は全てを受け入れるのです。
とりあえず、そんな事を書きながら。
藍様かわいいよ、藍様ハァハァ。
と、お茶をにごしたり。