暴月抄シリーズ2作目、前作を読んで頂くと、よりお楽しみ頂けるとおもいます。読まなくても多分大丈夫です多分
麗かな春の陽気の中、博霊霊夢は境内の掃除をしながら、霧雨魔理沙と談笑している、博霊神社の平凡な日常だ。
「ったく、来るのは妖怪かあんただけ、賽銭箱がちっとも貯まらないじゃない……」
「おいおい~、毎回きのこ持ってきてるのに、その言い方はないZE?」
呆れ顔の霊夢を尻目に、魔理沙は博霊神社に残されている最後のお茶請けを頬張る、お茶請けと言っても焼き海苔に塩をまぶした、霊夢のアイデア料理である。
「あーもう、なんかこう、異変でも起きないかしらねー?」
霊夢は面倒くさそうな表情を浮かべて、賽銭箱を覗き込んだ。
幻想郷で起こる異変を巫女が解決すれば、参拝客も増え、博霊神社の財政も持ち直す、と霊夢は考えている様だが、これまでいくつもの異変を解決してきている博霊神社の賽銭箱が貧しいのはどうやら他に原因があるようだ。
「あ、そうよ」
霊夢は何かを思いついたように手を叩く、それを魔理沙はため息交じりに呆れた様な視線を霊夢に送る。
「福の神を降ろして金銀財宝を出すのよ!良い考えだと思わない?」
冗談交じりに話す霊夢だったが、魔理沙の反応は違った。
「……霊夢、それは駄目だろ……」
魔理沙は嫌に真剣な表情をして霊夢を見つめる、普段冗談ばかり言っている魔理沙の真剣な表情に霊夢は面食らう、第二次月面戦争以降、むやみに神降ろしをしないと依姫と約束をしたことは魔理沙にも話したが、普段の二人の会話で、魔理沙がここまで真剣な、というか、鬼気迫ると形容したほうが適当な表情を見せたのは始めてだったからだ。
永夜異変の時に、魔理沙とアリスをコテンパンにのした時でさえ魔理沙は苦笑いしていた程、二人の仲は表向き良好に見えた。
そんな魔理沙が眉間に深いシワを寄せて、やや震えた様な声で言ったのだ、霊夢も気圧されたのか、こわばった笑みを浮かべてしまった。
「じょ、冗談よ、依姫にどやされるわよね?ちょっとー、顔怖いわよ?」
霊夢は極めて平静を装って、引きつりながらも笑顔で魔理沙の頬を指でつつく、魔理沙も一瞬はっとしたような顔になり、すぐにいつものへらへらとした表情に戻っていた。
「あっははーそうだろ?もう月は懲り懲りだZE」
何とも形容し難い重い雰囲気が二人の間を包む、二人ともバツの悪そうに目線を逸らしてしまった。
「な、なぁ霊夢『何!この禍々しい魔力!』
魔理沙が声をかけようとした瞬間、霊夢は頭を両手で抱えて叫んだ。
普通の魔法使いである魔理沙は気が付かなかったが、幻想郷のどこかで強大なオーラが発せられたのだ。
この時幻想郷の強者達はこの状況を把握し、対策を練っていた。
「どうしたんだよ霊夢、いきなり叫ぶなんて、何があったんだ?」
「あんたはわからない?この胸焼けしそうな禍々しい魔力、この力はそんじょそこらの妖怪じゃ無いわね……」
霊夢は傍から見たら変質者と間違うほどのニヤケ顔をしていた。
魔理沙は霊夢の顔を覗き込んで一歩後ろに下がった。
「うふふ、久しぶりの異変ね?パーッと日頃の鬱憤をぶちかますわよー!ついでに異変解決で参拝客ゲットよ」
霊夢は気合を入れて自らの頬を両手で張ると、一気に上空へ飛び上がり、グルリと辺りを見回す。
魔理沙も箒に跨り後に続くが、当人ですら分からなかったが、何故かいつものワクワク感がしなかった。
「うーん、あっちね?」
霊夢が指差す方向、それは、吸血鬼姉妹が住む、大きな館、紅魔館のある方角であった。
以前のような紅い霧が発生しているわけでは無いが、紅魔館から発せられる禍々しいオーラは館の辺りをどす黒く包み込んでいて、魔理沙にも目視できるほどであった。
「なんか物凄くやばそうだけど……」
魔理沙は紅魔館を包み込むどす黒いオーラを目の当たりにして、思わず体中の毛が逆立つような戦慄を覚えた。
「……」
霊夢も無言で遠くに見える講魔館を見詰める……
「魔理沙、あなたはここにいなさい、荷が重過ぎるわ」
霊夢は唐突に言うと一気に加速して、紅魔館の方に行ってしまった。
「そうしたいのは、やまやまだZE」
魔理沙は速度は上げず、ゆっくり紅魔館へ向かうことにした。
「ん?あれは……」
魔理沙が神社を出て一時間ほどたった時、魔理沙はこちらへ向かって低空飛行してくる物体を見つけた。
「パチュリー?」
紅魔館の動けない大図書館パチュリーが、息も絶え絶え全速力で博霊神社の方に向かっていた。
「おーい、パチュリー?」
魔理沙が大声でパチュリーを呼び止めると、魔理沙の声には人一倍敏感に反応するパチュリーはすぐに魔理沙の声を聞き分け、ピタリと止まり顔を上げ、魔理沙の方を見上げた。
「魔理沙!?」
パチュリーは全身汗だくで青ざめた顔をしていた。
体の弱いパチュリーは紅魔館から出ることは殆ど無く、活動時間のほぼ全てを椅子に座ってすごしているので、全速力を出して紅魔館からここまで飛んで来るのに、持てる体力の殆どを使い果たしてしまったのだろう、フラフラと魔理沙の所に、辿り着いた所で力尽き魔理沙に寄り掛かった。
「はぁ、はぁ…ま、魔理沙、はぁ……」
「ああ、とにかく少し休もう、後ろに乗っていいから、霊夢が先に紅魔館に向かってるから、心配は無いと思うけど、事情を説明してくれるか?
」
魔理沙は箒の前に座り直し、パチュリーを箒の後ろに乗せて先ほどより速度を落とした。
パチュリーの体調を考えての事だったが、魔理沙自身もあまり乗り気にはなれず、着くころには異変が解決していればいい、などと考えていた。
「魔理沙、私、よく分からないんだけれど、さっき凄い魔力のようなものを感じて、そしたらレミィが、霊夢の所に全力で行けって…あの時のレミィ、今までに無いくらい鬼気迫る顔して、『死ぬ気で急ぎなさい!また私と会いたいならね!』って、凄い形相で……」
「へ、へぇーそうなんだ……」
魔理沙はそれ以上声を発する事が出来なかった。
励ましてやりたいと思ったが、喉から声が出ない、魔理沙は今までの異変とは比べ物にならない何かを感じ取っていたのだ。
しばらくして、魔理沙とパチュリーは紅魔館にたどり着いた。
そこは既に先程まで紅魔館を包んでいた、どす黒いオーラは無く、半壊した紅魔館とそれを見てぼー然としている霊夢の姿があるだけであった。
「な、何が起きたって言うのよ…こんな、こんなのって、レミィ!咲夜!美鈴!皆…」
「中で咲夜とレミリア、妖精メイド…それと美鈴の死体があったわ」
冷静に言い放つ霊夢だが、眼は泣き腫らしたのか赤く充血している、右拳からは出血し青くあざになっている、そして、何かを覚悟したような決意に満ちた瞳をしていた。
パチュリーの泣き声が響き渡る紅魔館……三人は始めて己の無力さを痛感し、友の死という現実に起こってしまった悲劇を悲しみそして怒りに変えるのであった。
「犯人はフランね」
ようやく泣き止んだパチュリーが第一声を放つ、それは友の仇を討つ決意を意味した。
フランドール・スカーレットの危険性は紅魔館の住人ならば、誰もが周知する事実、今まで平穏に過ごせたこと自体が幸運だったのかも知れないが、スペルカードルールを破る事は誰もが予想し得ない事であった。
「私たちが動かなくても、紫とかが動くんじゃないか?」
魔理沙はもはやこの展開に付いて行く事ができなくなっていた。
人間であり、普通の魔法使いの魔理沙の実力ではスペカ無しでの殺し合い等、できるはずも無かったのだ。
「馬鹿、博霊の巫女が動かなきゃ誰もついては来ないわよ、あんたはもう家に帰ってなさい、こっからは本当に危険だから…」
霊夢はそういうと、ふわりと上空に上がった。
「私も行くわ、みんなの仇は私が取らないといけないもの…魔理沙、あなたは無理しないでね…それじゃあ……」
パチュリーも霊夢の後を追って飛んでいってしまった。
半壊した紅魔館と死体の山を目の前に、魔理沙はただ立っている事しか出来なかった。
やがて日が沈み、辺りは暗闇に包まれる、魔理沙はただただ、呆然とする事しか出来ないでいた。
「ん?なんだ、これ?」
ぼうっと視線を泳がせると、青白く光る何かを見つけた。
魔理沙はそれを手に取ると、それは、魔理沙の掌に吸い込まれていった。
「なななな、なんなんだ!?…なんか、身体の内側から、凄い力が沸いてくるZE、これなら……」
魔理沙は霊夢たちが向かった方向を見据えて、箒に乗り、一気に加速した。
その瞬間あの禍々しいオーラが発生し、魔理沙をどす黒いオーラで包み込んだ。
「おわー、すごいZEこれ!」
魔理沙はこの時、あの最速の烏天狗、射名丸文を遥かに上回る速さで飛行していた。
全速力で霊夢達を追った結果、ものの十秒足らずで追いついてしまった。
「よお、霊夢、見てくれよこれ、凄いだろう?」
満面の笑みではしゃぐ魔理沙を霊夢は困惑した表情で睨み付けている、パチュリーも驚いているようだが、魔理沙は気にせず続ける。
「いやー、これならフランも相手になんないよな、あっはっはー」
大はしゃぎの魔理沙の足元を霊夢は指差す、魔理沙もそれに気付き、初めて足に違和感を感じ、足元に目をやると、何かキラキラとした物が付いた紐状の何かが足首にひっかかっていた。
「フランの羽……」
パチュリーが呟く、魔理沙の足にひっかかっていたのは、フランの狂気の象徴とも言える、翼であった。
「フランの羽に、その禍々しい魔力、魔理沙あんたまさか……」
「ちょっとまって、魔理沙は最初にこの魔力を感じた時、あなたと一緒に神社に居たんでしょ?流石に魔理沙が犯人ってのは無理があると思うし……」
パチュリーは努めて冷静に霊夢の考えを否定した。
パチュリーの思い人である魔理沙が、犯人であるはずが無いと確信しているからだ。
「そうね、確かにそうか、それじゃあ魔理沙、あんた、何かあった?何か拾ったとか?」
「ああ、なんか、木の実みたいなやつを拾ったらさ、凄い力がわいてきたZE」
魔理沙の言葉を聞いて、霊夢は袖口から木の板を取り出し、魔理沙に見せた。
木の板には、刃物で削りだした様に、木の実の絵と猫妖怪と書かれていた。
「多分咲夜が最後の力で残してくれた、メッセージ……」
「おお、これこれ、この実だZE」
「これって、古代の魔道植物の書で見たことあるわ、むきゅ」
パチュリーは呪文を詠唱して、一冊の本を召還し、ページをめくっていく、その様子を固唾を呑んで見守る霊夢、いくつかページをめくった所で、パチュリーは一つ深呼吸する、そして本の内容を読み始めた。
「名称ダークソウル、人間、妖怪などに憑依する植物の種、憑依された者は負の気持ちが増大し、己の限界を超えるオーラと言う気の力が手に入る、この種子は普段は眠っているが一度に大量の魔力や妖気等のエネルギーを送り込まれることで目覚める、目覚めた後は憑依された宿主の生命力を吸い尽くし成長する、種子が成長するごとに宿主に与える気の量が増していく、やがて発芽し、開花した時……うぐぅおふぅ」
パチュリーは分からなかった、突然腹部を貫かれるような痛みが走ったが、パチュリーには何が起きたのか、分かりたくなかったのだ。
「いい加減うるさいZE」
「ま、魔理沙あんた、なんだってこんなことをーーー!?」
霊夢の怒号の叫びも空しく、魔理沙の拳はパチュリーの腹部を貫通した。
パチュリーは臓物を辺りに撒き散らし、血反吐をはいて竹林へと落下した。
「あははー、あのパチュリーがあっけないZE」
「これも、ダークソウルの影響なの?あんた、このままじゃ死ぬわよ!」
霊夢は薄々気付いてはいた、しかし認めたくは無い事実、もはや魔理沙には理性は存在していないと、そして、このまま私も殺されるのだと……
「あなたは私が殺させないわ、命に代えても」
突如、霊夢の周りの空間に切れ目が入り、ぱっくりと空間が口を開けた。
「あなたは……」
空間の切れ目から出た腕が霊夢を空間の中に引き込んで、空間は元の夜空へと姿を変えた。
「なんだったんだ?まっいっか、…まだまだ命が足んないZE」
不気味に笑う魔理沙は幻想郷の闇夜に消えていった。
つづく……かも?
麗かな春の陽気の中、博霊霊夢は境内の掃除をしながら、霧雨魔理沙と談笑している、博霊神社の平凡な日常だ。
「ったく、来るのは妖怪かあんただけ、賽銭箱がちっとも貯まらないじゃない……」
「おいおい~、毎回きのこ持ってきてるのに、その言い方はないZE?」
呆れ顔の霊夢を尻目に、魔理沙は博霊神社に残されている最後のお茶請けを頬張る、お茶請けと言っても焼き海苔に塩をまぶした、霊夢のアイデア料理である。
「あーもう、なんかこう、異変でも起きないかしらねー?」
霊夢は面倒くさそうな表情を浮かべて、賽銭箱を覗き込んだ。
幻想郷で起こる異変を巫女が解決すれば、参拝客も増え、博霊神社の財政も持ち直す、と霊夢は考えている様だが、これまでいくつもの異変を解決してきている博霊神社の賽銭箱が貧しいのはどうやら他に原因があるようだ。
「あ、そうよ」
霊夢は何かを思いついたように手を叩く、それを魔理沙はため息交じりに呆れた様な視線を霊夢に送る。
「福の神を降ろして金銀財宝を出すのよ!良い考えだと思わない?」
冗談交じりに話す霊夢だったが、魔理沙の反応は違った。
「……霊夢、それは駄目だろ……」
魔理沙は嫌に真剣な表情をして霊夢を見つめる、普段冗談ばかり言っている魔理沙の真剣な表情に霊夢は面食らう、第二次月面戦争以降、むやみに神降ろしをしないと依姫と約束をしたことは魔理沙にも話したが、普段の二人の会話で、魔理沙がここまで真剣な、というか、鬼気迫ると形容したほうが適当な表情を見せたのは始めてだったからだ。
永夜異変の時に、魔理沙とアリスをコテンパンにのした時でさえ魔理沙は苦笑いしていた程、二人の仲は表向き良好に見えた。
そんな魔理沙が眉間に深いシワを寄せて、やや震えた様な声で言ったのだ、霊夢も気圧されたのか、こわばった笑みを浮かべてしまった。
「じょ、冗談よ、依姫にどやされるわよね?ちょっとー、顔怖いわよ?」
霊夢は極めて平静を装って、引きつりながらも笑顔で魔理沙の頬を指でつつく、魔理沙も一瞬はっとしたような顔になり、すぐにいつものへらへらとした表情に戻っていた。
「あっははーそうだろ?もう月は懲り懲りだZE」
何とも形容し難い重い雰囲気が二人の間を包む、二人ともバツの悪そうに目線を逸らしてしまった。
「な、なぁ霊夢『何!この禍々しい魔力!』
魔理沙が声をかけようとした瞬間、霊夢は頭を両手で抱えて叫んだ。
普通の魔法使いである魔理沙は気が付かなかったが、幻想郷のどこかで強大なオーラが発せられたのだ。
この時幻想郷の強者達はこの状況を把握し、対策を練っていた。
「どうしたんだよ霊夢、いきなり叫ぶなんて、何があったんだ?」
「あんたはわからない?この胸焼けしそうな禍々しい魔力、この力はそんじょそこらの妖怪じゃ無いわね……」
霊夢は傍から見たら変質者と間違うほどのニヤケ顔をしていた。
魔理沙は霊夢の顔を覗き込んで一歩後ろに下がった。
「うふふ、久しぶりの異変ね?パーッと日頃の鬱憤をぶちかますわよー!ついでに異変解決で参拝客ゲットよ」
霊夢は気合を入れて自らの頬を両手で張ると、一気に上空へ飛び上がり、グルリと辺りを見回す。
魔理沙も箒に跨り後に続くが、当人ですら分からなかったが、何故かいつものワクワク感がしなかった。
「うーん、あっちね?」
霊夢が指差す方向、それは、吸血鬼姉妹が住む、大きな館、紅魔館のある方角であった。
以前のような紅い霧が発生しているわけでは無いが、紅魔館から発せられる禍々しいオーラは館の辺りをどす黒く包み込んでいて、魔理沙にも目視できるほどであった。
「なんか物凄くやばそうだけど……」
魔理沙は紅魔館を包み込むどす黒いオーラを目の当たりにして、思わず体中の毛が逆立つような戦慄を覚えた。
「……」
霊夢も無言で遠くに見える講魔館を見詰める……
「魔理沙、あなたはここにいなさい、荷が重過ぎるわ」
霊夢は唐突に言うと一気に加速して、紅魔館の方に行ってしまった。
「そうしたいのは、やまやまだZE」
魔理沙は速度は上げず、ゆっくり紅魔館へ向かうことにした。
「ん?あれは……」
魔理沙が神社を出て一時間ほどたった時、魔理沙はこちらへ向かって低空飛行してくる物体を見つけた。
「パチュリー?」
紅魔館の動けない大図書館パチュリーが、息も絶え絶え全速力で博霊神社の方に向かっていた。
「おーい、パチュリー?」
魔理沙が大声でパチュリーを呼び止めると、魔理沙の声には人一倍敏感に反応するパチュリーはすぐに魔理沙の声を聞き分け、ピタリと止まり顔を上げ、魔理沙の方を見上げた。
「魔理沙!?」
パチュリーは全身汗だくで青ざめた顔をしていた。
体の弱いパチュリーは紅魔館から出ることは殆ど無く、活動時間のほぼ全てを椅子に座ってすごしているので、全速力を出して紅魔館からここまで飛んで来るのに、持てる体力の殆どを使い果たしてしまったのだろう、フラフラと魔理沙の所に、辿り着いた所で力尽き魔理沙に寄り掛かった。
「はぁ、はぁ…ま、魔理沙、はぁ……」
「ああ、とにかく少し休もう、後ろに乗っていいから、霊夢が先に紅魔館に向かってるから、心配は無いと思うけど、事情を説明してくれるか?
」
魔理沙は箒の前に座り直し、パチュリーを箒の後ろに乗せて先ほどより速度を落とした。
パチュリーの体調を考えての事だったが、魔理沙自身もあまり乗り気にはなれず、着くころには異変が解決していればいい、などと考えていた。
「魔理沙、私、よく分からないんだけれど、さっき凄い魔力のようなものを感じて、そしたらレミィが、霊夢の所に全力で行けって…あの時のレミィ、今までに無いくらい鬼気迫る顔して、『死ぬ気で急ぎなさい!また私と会いたいならね!』って、凄い形相で……」
「へ、へぇーそうなんだ……」
魔理沙はそれ以上声を発する事が出来なかった。
励ましてやりたいと思ったが、喉から声が出ない、魔理沙は今までの異変とは比べ物にならない何かを感じ取っていたのだ。
しばらくして、魔理沙とパチュリーは紅魔館にたどり着いた。
そこは既に先程まで紅魔館を包んでいた、どす黒いオーラは無く、半壊した紅魔館とそれを見てぼー然としている霊夢の姿があるだけであった。
「な、何が起きたって言うのよ…こんな、こんなのって、レミィ!咲夜!美鈴!皆…」
「中で咲夜とレミリア、妖精メイド…それと美鈴の死体があったわ」
冷静に言い放つ霊夢だが、眼は泣き腫らしたのか赤く充血している、右拳からは出血し青くあざになっている、そして、何かを覚悟したような決意に満ちた瞳をしていた。
パチュリーの泣き声が響き渡る紅魔館……三人は始めて己の無力さを痛感し、友の死という現実に起こってしまった悲劇を悲しみそして怒りに変えるのであった。
「犯人はフランね」
ようやく泣き止んだパチュリーが第一声を放つ、それは友の仇を討つ決意を意味した。
フランドール・スカーレットの危険性は紅魔館の住人ならば、誰もが周知する事実、今まで平穏に過ごせたこと自体が幸運だったのかも知れないが、スペルカードルールを破る事は誰もが予想し得ない事であった。
「私たちが動かなくても、紫とかが動くんじゃないか?」
魔理沙はもはやこの展開に付いて行く事ができなくなっていた。
人間であり、普通の魔法使いの魔理沙の実力ではスペカ無しでの殺し合い等、できるはずも無かったのだ。
「馬鹿、博霊の巫女が動かなきゃ誰もついては来ないわよ、あんたはもう家に帰ってなさい、こっからは本当に危険だから…」
霊夢はそういうと、ふわりと上空に上がった。
「私も行くわ、みんなの仇は私が取らないといけないもの…魔理沙、あなたは無理しないでね…それじゃあ……」
パチュリーも霊夢の後を追って飛んでいってしまった。
半壊した紅魔館と死体の山を目の前に、魔理沙はただ立っている事しか出来なかった。
やがて日が沈み、辺りは暗闇に包まれる、魔理沙はただただ、呆然とする事しか出来ないでいた。
「ん?なんだ、これ?」
ぼうっと視線を泳がせると、青白く光る何かを見つけた。
魔理沙はそれを手に取ると、それは、魔理沙の掌に吸い込まれていった。
「なななな、なんなんだ!?…なんか、身体の内側から、凄い力が沸いてくるZE、これなら……」
魔理沙は霊夢たちが向かった方向を見据えて、箒に乗り、一気に加速した。
その瞬間あの禍々しいオーラが発生し、魔理沙をどす黒いオーラで包み込んだ。
「おわー、すごいZEこれ!」
魔理沙はこの時、あの最速の烏天狗、射名丸文を遥かに上回る速さで飛行していた。
全速力で霊夢達を追った結果、ものの十秒足らずで追いついてしまった。
「よお、霊夢、見てくれよこれ、凄いだろう?」
満面の笑みではしゃぐ魔理沙を霊夢は困惑した表情で睨み付けている、パチュリーも驚いているようだが、魔理沙は気にせず続ける。
「いやー、これならフランも相手になんないよな、あっはっはー」
大はしゃぎの魔理沙の足元を霊夢は指差す、魔理沙もそれに気付き、初めて足に違和感を感じ、足元に目をやると、何かキラキラとした物が付いた紐状の何かが足首にひっかかっていた。
「フランの羽……」
パチュリーが呟く、魔理沙の足にひっかかっていたのは、フランの狂気の象徴とも言える、翼であった。
「フランの羽に、その禍々しい魔力、魔理沙あんたまさか……」
「ちょっとまって、魔理沙は最初にこの魔力を感じた時、あなたと一緒に神社に居たんでしょ?流石に魔理沙が犯人ってのは無理があると思うし……」
パチュリーは努めて冷静に霊夢の考えを否定した。
パチュリーの思い人である魔理沙が、犯人であるはずが無いと確信しているからだ。
「そうね、確かにそうか、それじゃあ魔理沙、あんた、何かあった?何か拾ったとか?」
「ああ、なんか、木の実みたいなやつを拾ったらさ、凄い力がわいてきたZE」
魔理沙の言葉を聞いて、霊夢は袖口から木の板を取り出し、魔理沙に見せた。
木の板には、刃物で削りだした様に、木の実の絵と猫妖怪と書かれていた。
「多分咲夜が最後の力で残してくれた、メッセージ……」
「おお、これこれ、この実だZE」
「これって、古代の魔道植物の書で見たことあるわ、むきゅ」
パチュリーは呪文を詠唱して、一冊の本を召還し、ページをめくっていく、その様子を固唾を呑んで見守る霊夢、いくつかページをめくった所で、パチュリーは一つ深呼吸する、そして本の内容を読み始めた。
「名称ダークソウル、人間、妖怪などに憑依する植物の種、憑依された者は負の気持ちが増大し、己の限界を超えるオーラと言う気の力が手に入る、この種子は普段は眠っているが一度に大量の魔力や妖気等のエネルギーを送り込まれることで目覚める、目覚めた後は憑依された宿主の生命力を吸い尽くし成長する、種子が成長するごとに宿主に与える気の量が増していく、やがて発芽し、開花した時……うぐぅおふぅ」
パチュリーは分からなかった、突然腹部を貫かれるような痛みが走ったが、パチュリーには何が起きたのか、分かりたくなかったのだ。
「いい加減うるさいZE」
「ま、魔理沙あんた、なんだってこんなことをーーー!?」
霊夢の怒号の叫びも空しく、魔理沙の拳はパチュリーの腹部を貫通した。
パチュリーは臓物を辺りに撒き散らし、血反吐をはいて竹林へと落下した。
「あははー、あのパチュリーがあっけないZE」
「これも、ダークソウルの影響なの?あんた、このままじゃ死ぬわよ!」
霊夢は薄々気付いてはいた、しかし認めたくは無い事実、もはや魔理沙には理性は存在していないと、そして、このまま私も殺されるのだと……
「あなたは私が殺させないわ、命に代えても」
突如、霊夢の周りの空間に切れ目が入り、ぱっくりと空間が口を開けた。
「あなたは……」
空間の切れ目から出た腕が霊夢を空間の中に引き込んで、空間は元の夜空へと姿を変えた。
「なんだったんだ?まっいっか、…まだまだ命が足んないZE」
不気味に笑う魔理沙は幻想郷の闇夜に消えていった。
つづく……かも?
序章の時はヘルヘイムの果実でも幻想入りしたのかと思ったけど。