何事にも、理由がある。
妖怪の山において、(いろんな意味で)知らない者は居ないと言われているのが、ゴシップ多めのブン屋を営む鴉天狗、射命丸文である。
東で騒ぎがあれば飛んでいき、西で宴会があればもっと速く飛んでいく。
騒ぎがあれば大喜び、騒ぎがなければ捏造万歳。
彼女にかかれば線香の煙から山火事を生み出すことだって可能である。
そんな彼女が住むのはとある屋敷。
一人暮らしには少々大きいが、茅葺き屋根の質素な佇まいをみせているその屋敷の奥、彼女が“ネタ庫”と呼称している書斎にその姿はあった。
これまで幻想郷で起きてきたさまざまな事件の資料や自らの新聞『文々。新聞』が保存されているその書斎で、彼女は頭を捻っていた。
「う~む、どうしましょうかねぇ」
三方の壁にはいろいろな書籍が置かれた棚。畳が敷かれた書斎の中央には大きな机があるが、その上には雑然とさまざまな資料が広げられている。その机に向かって胡坐をかいている文は文字通り頭を抱えた。
文が新聞を作る方法は簡単である。何か騒ぎがあれば彼女の耳に入らないわけがない。あとは持ち前の飛翔で現場に駆けつける、それだけのことである。
ただし、いくらネタが尽きない幻想郷でも平和な日だってある。そうなってしまえば前述の方法は仕えない。
ならば、どうするか。
「何かあると思ったんですけどねぇ」
広げられた資料には『紅魔館、メイド長の惨劇!』『白玉楼、食料が枯渇!?』などと書かれている・・・・・・もちろん、この大半が誇大広告であることは間違いない。
つまり、
「ああ・・・・・・天からネタが降ってこないかな」
『ネタが無いなら作ってしまえ』、である。
「紅魔館のネタは三日前に使ってますし、白玉楼なんかは昨日、永遠亭は前のネタでちょっとやりすぎちゃってますし――」
遠い眼で過去を思い出す文の顔が青ざめる。
強大な力を持つ射命丸文ですら、適わない存在は居る。
それはどこぞのスキマ妖怪だったり、絶対に死なない人間だったり。
寒さから来るものではない震えが文を襲った。
自らを抱きしめるように腕を交差させた文は、大きく深呼吸をする。
「焼き鳥にはなりたくないですし、あそこを使うのは止めておきましょう」
比喩ですらない焼き鳥になりたいと思う者は誰もいないだろう。
それはもちろん鴉天狗でもだ。
「となると・・・・・・どこですかねぇ・・・・・・・・・・・・」
もはや机の上の資料は役に立たない。
どうしようもなく視線を彷徨わせた文は、棚の一角に目をやった。
紙束が並べられた棚で、その一角だけが空間を広く取っている。
そこには数個の写真立てと、その中に入る写真。
「・・・・・・・・・・・・」
そこに写っているのは一人の少女である。
紅白が特徴的な衣装に身を包んだ少女の写真。
どこかの縁側に座って撮影者を睨みつけるようにしている写真。
布団に寝転がって目も当てられないような寝相をさらけ出している写真。
そして――美しい弾幕が写った写真。
それらの写真を、懐かしい思いで文は見つめる。
いろんなことがあった、少女との思い出。
笑いあり泣きあり、さまざまなドラマがそこにはあった。
「・・・・・・よし、決めた」
立ち上がった拍子に紙束がいくつか机から滑り落ちたが、目的を決めた文にはそんなことは顛末ごとである。
ネタ帳と書く物を持ったことを確かめると、彼女は部屋から飛び出した。
そんな彼女を、写真の中の少女だけが見送った。
「というわけで、ネタを作らせてください!」
「・・・・・・来て早々、ブン屋にあるまじき発言ね」
幻想郷において無くてはならない(それでいてたまに壊れる)のが、博麗神社だ。
参拝客はたまにしか訪れないがなぜか妖怪は良く訪れるこの神社の巫女が、紅白も眩しい博麗霊夢である。ちなみに何故か開いている腋が特徴的である。
そんな神社の縁側でゆったりとお茶を飲んでいた霊夢だが、いきなり現れた鴉天狗の言葉に思わず懐から針を取り出した。
鴉天狗があるまじきことは発言だけではない、その行動そのものでもある。
大抵の妖怪が鴉天狗の被害者であるが、大抵の妖怪は顛末事と気にも留めない。
「いやぁ前の記事はほんのおふざけですよ、だからネタを何とか・・・・・・」
ただし霊夢は人間であり、どうしても許せない事だってある。
「おふざけで人を『貧乏巫女』呼ばわりするなぁ!」
思わず人の抱くイメージとかけ離れた発言を取ってしまうのも無理が無い。文々。新聞の読者は意外と多い。もちろんそれを信頼できる情報源と取る存在は少ないが、だからといって笑って許せるわけがない。
「ですけど・・・・・・いつも賽銭箱が空なんで貧乏なのかなぁ、と」
「収入源が賽銭だけだと決め付けるな!」
爽やかな笑顔で放たれた言葉に霊夢の怒りと血圧が急上昇する。職業故かはたまた性格故か、集まる人妖の大半が一癖どころか二癖もあるため、ここ一年の間で彼女の血圧はインフレ状態である。今にも血管がぶち切れそうなのは比喩ではない。
だというのに文の笑顔は崩れない。むしろどことなく見下した風にも見えてくる辺り、霊夢の頭に血が昇りすぎているのか否か。
ここまできて、霊夢は深い深呼吸を二回して、冷めかけているお茶を飲み干した。
こんなことを続けて倒れでもすれば目の前の鴉天狗にネタを提供することになる、それだけはプライドが許さない。
「はぁ・・・・・・あんたねぇ、せめて客として来なさいよ」
「客として来る利点は?」
「・・・・・・お茶が出る?」
「お邪魔します博麗霊夢さん、本日はお日柄もよろしく」
早すぎる変わり身に唖然とする暇もなく、文は縁側から上がりこんだ。そのまま机の前に正座する。
その態度に手に持ったままだった針を投げてやろうかと考えた霊夢だったが、自らが言ってしまった以上、どうしようもない。
平穏な時間が過ぎ去ったことを痛感しながら、彼女は台所へと引っ込んでいく。
その後ろ姿を見送って、文は足を崩した。
「人が良いんだか悪いんだか」
自身も理解していることではあるが、今のような態度を取って追い出されたとしても文句は言えない。だというのに、霊夢は律儀にもお茶を淹れようとしている。
(まぁ、それが愛される所以か)
そう結論付けて、文は改めて部屋を見回す。
片付いてる――というよりは物が少ない部屋である。いわゆる女の子らしいインテリアがあるわけでもないし、どこぞの魔女のように本の山というわけでもない。
畳に茸が散らばっていたり空の酒瓶が転がっているのはご愛嬌である。
「人となり、ってものでしょうねぇ」
勝手知ったる博麗神社だが、その様相は巫女によって決まる。お札が大量に置かれたり何やら形容しがたい瓶詰めの“何か”が置かれたことだってある。
そんな懐かしい記憶に浸りながら、文は部屋を“物色”する。といってもここは客を招くための部屋でもある、めぼしい物はない。
ならば、と彼女は襖を開けて部屋を移動、新たに物色を開始。
机があれば引き出しを開け・・・・・・なんてことはさすがの彼女もしない。
「やっぱり、ここですよね」
彼女の目当ては箪笥である。幻想郷で名のある人妖の服装事情というのはとある筋に人気の話題であり、その筋の人間の購読意欲を衰えさせないためにも新鮮なネタは必要である。
そして彼女は、しっかりと下から順番に開けていった箪笥の奥、隠されるようにして仕舞い込まれたそれを見つける。
「こ、これは――!」
(一部の)男心を惹きつける真っ赤でスカーレットな下着。
履くだけで大人っぽく見えるかどうかは本人しだいな黒い下着。
そしてそれぞれの色に合わせたブラジャー。
どう考えても巫女が身につけるものではない。
「・・・・・・ネタげっとだぜ!」
何やら効果音を発しながらそう叫んだ文は、さっそく下着を手に取り調べ始めた。
その様子は誰が見ても変態であり、
ガシャン、と何かが割れる音。
「・・・・・・射命丸?」
持ち主からすれば泥棒であり。
「・・・・・・はっ!」
お茶を淹れるのにどれほどの時間がかかるだろうか、などとどこか冷静な頭で文は考える。
自分の上げた叫び声が、どこまで届いただろうかと考える。
「あ、あ・・・・・・」
つまりは、お茶を淹れた霊夢が部屋に戻る途中で叫び声に気づき、襖を開けてみれば泥棒(変態)が居たので驚いて湯飲みを落とした、ということであり。
そしてそんな彼女の手にはキラリと光る針が握られて。
「くっ!」
言い訳する暇も事情を話す暇も無い、というより事情を話せば余計にまずい。
ならば与えられた選択肢は一つ、『逃走』。
鍛え抜かれた脚力で飛び上がり、そこからは持ち前の飛翔で博麗神社から緊急脱出。
それが文の考えた逃走手段であり、実行には移せなかった手段。
「ふんっ!」
力強く息を吐いて投げられた針の数は幾つだっただろうか。
たった一振りで数十を数える針が飛び、カマイタチ現象を発しながら唸りを上げて飛ぶ。その全てが“目標”に命中した。
「へっ?」
思わず間抜けな声を文が上げたのも無理がない。全ての針が致命傷――どころか身体を避けて服の裾や袖に命中、飛翔する針としては有り得ないほどの運動エネルギーがそのまま文の身体を引っ張り壁へと彼女を縫い付ける。
「は、はわっ!?」
思わずらしくない声を上げながら彼女はもがくが、何やら“力”が込められているのかどう頑張っても針は壁から抜けようとしない。
明らかに無防備な状態だと気づいて文は顔を上げる。ここで針を投げられればダーツの的よろしく投げられ放題である。
だが、幸いにも霊夢は新しい針を握っていない。
「――っ」
代わりに握られているのは、スペルカード。
俯いている霊夢の表情は文からは伺えない。だからこそ、恐怖心がわいてくる。
強大な力を持つ天狗が、恐怖している。
「その下着ね・・・・・・紫と早苗がくれたのよ」
そしてそのまま霊夢の独白。その声音に怒りも羞恥もなく、だからこそ文は冷や汗を流した。
誰でも、本気で怒る前は静かなのである。嵐の前の海のように。
「えぇ、もちろん私の趣味じゃないわ。だけど、もらったから身に着けてみたのよ」
そりゃそうでしょうね、などと普段の口調で相槌すら打てない。
身体どころか、心臓を縫いつけられているかのよう。
「だけどね・・・・・だけどね――!
ブカブカだったのよ!!」
(ああ、それは私には関係ないです)
その思考を言葉に出すことができない。
一つだけいえる、自分の行動が溜まった怒りの放出弁を開いたのだと。
「覚悟は、良いわね」
「『無双転生』!」
「それ、字が違――――」
文の小さな呟きすら飲み込んで。
放出された“ソレ”は全てを飲み込んだ。
その日、博麗神社が揺れた。
~深い意識の狭間~
「新しい巫女ぉ?」
「うんうん、また代替わりしたみたいだよ、ほんと人間って短命だね~」
友達、というほどには親しくないが気の置けない存在である仲間が持ってきた話は博麗神社の巫女が代替わりをしたというものだった。
彼女にとって、それはあまり興味のわかない、というよりいつもの話だった。
彼女たちにとってはほんの少しの時間、人間にとっては大変な時間。
「ねぇねぇ」
「え?」
「写真、撮ってきてよ~得意なんでしょ、盗撮」
「酷っ!」
褒められて嬉しくないわけがないがそれを褒め言葉として受け取るのは人間として間違っている気がする・・・・・・それ以前に彼女は人間ではないが。
手に持ったカメラを撫でながら、射命丸文は苦笑いした。
博麗の巫女は、妖怪を退治する者である。
容赦なく憐れみなく、巫女は仕事をこなしていく。
そんな巫女は妖怪にとって恐ろしい存在であり、また何故か憧れの存在でもあった。
単に容姿が良いからか、人間の癖に強力な力を持っているからか。
何にしろ、巫女の代替わりがある度に写真を撮るのはもはや日課となっていた。
逃げに特化すれば巫女ですら追いつけないその飛翔は仲間からも重宝されている。
そして、今回はいつもと違った。
「あちゃぁ・・・・・・さすがに、まずいですね」
カメラを構えて盗撮――ではなく撮影を開始したまでは良かった。
問題は、鉢合わせたのが着替え中の巫女だったというところだろうか。
「いっつ・・・・・・」
博麗の巫女といえど、乙女に違いはない。
ただ、可愛らしい悲鳴とともに放たれた弾幕は凶悪そのもので。
境内に尻餅をついた文の身体は掠りを入れれば数十を超える傷をつけられていた。
「・・・・・・ほんとに、まずいですね」
“退治する理由”を与えてしまったことに気がついた時には、もう遅い。
今までなら、悪戯程度で済ませられるように抑えてきたし、危なかったら逃げた。
だというのに、今日は不運が重なった。
境内に、紅白の巫女が降り立つ。
「・・・・・・・・・・・・」
無言なのはむしろ恐ろしい。
本当に退治されるのだろうか、それともきついお仕置きでも待っているのだろうか。
その恐怖から、文はぎゅっと目を閉じた。
・・・・・・そして彼女は、自らの手に触れる温もりを感じる。
「まったく・・・・・・写真を撮りたいのならはっきりとそう言えばいいのに」
ぶつぶつと呟きながら甲斐甲斐しく手当てを行う巫女を、文は信じられないモノを見るような目で見つめていた。
その視線に気がついて、巫女は手を止めてふっと笑う。
「あ・・・・・・」
その顔が、どこか自嘲気に見えて。
文は何となく、胸が痛くなった。
「こ、この前はありがとうございました!」
「ん・・・・・・ああ、天狗ね」
覚えていてくれたことに何故か嬉しくなりながら、照れ隠しに持っていたカメラを構える。その様子に溜め息をついた巫女だったが、「撮りたいのならはっきりと~」と言ってしまった手前、どうすることもできない。
でもなぜか気分は悪くない、そう巫女は思っていた。
「・・・・・・あ」
出てこない。
「・・・・・・・・・」
名前が、出てこない。
足元に転がる妖怪の血が、あたり一面に飛び散っている。
その真ん中で血に濡れる巫女の名前が、何故か出てこない。
「・・・・・・あんたも、なの?」
何が、と聞き返すこともできない。
いつもの彼女とかけ離れているから?
“こういう”仕事をしていることぐらい、分かっているのに?
「あんたも、なの?」
もう一度問いかけられた言葉に、その真意に気づけなくて。
だから、文は逃げ出した。
~狭間から抜け出して~
「あ・・・・・・・・・・・・」
視線の先には、天井。
痛む身体をおして上体を起こしてみれば、辺りは薄暗かった。
「えぇと・・・・・・」
いまいち状況が理解できず、文は周りを見回す。
場所は変わっていなかった。見慣れた箪笥と机が置かれている。
彼女は布団に寝かされていた。
「起きたの?」
「っ!」
いきなり声をかけられて彼女は飛び上がる。
視線を向けた先、庭へと通じる襖が開いていた。いつの間にか日が暮れていたよう
で、月と星が輝く夜空が彼女の目に映る。
そして縁側には、紅白の衣装に身を包んだ――
(あ――)
頭では理解できていた、それが“彼女”ではないことぐらい。
だが今まで見ていた“夢”が彼女の心にのしかかる。
だから思わず
「 」
その名を口にしていた。
「・・・・・・誰よ、それ」
「え、あ・・・・・・いやその」
小さな、ほんの小さな呟きだったのに、耳ざとい霊夢はその名前を聴き取った。
だけど、それは聞き覚えがない名前。
「寝ぼけてるの?」
「ああ・・・・・・ボケたのかもしれませんね――三途の川まで行ってきたせいで」
皮肉めいたその口調に霊夢がうっと詰まる。
いくら文に(十割ほど)非があろうとも、霊夢が彼女を殺そうとしたことはある意味間違いではない。というより、文の行動のせいで霊夢は頭に血が昇っていた。
殺意云々ではなく本能である。
「あんたが悪いのよ・・・・・・まったく、泥棒は魔理沙だけにしといてほしいわ」
「そんな、盗むつもりはありませんでしたよ! ただじっくりねっとり観察をして新
聞のネタにしようかと・・・・・・」
「やっぱり殺しておくべきだったか」
ちょっとした罪悪感はどこへやら、霊夢は懐から針を数本取り出した。
回復したとはいえまだ文には逃げるだけの余裕が無い。彼女は慌てて布団を被り直し、それを(脆いながらの)盾とする。
普段の丁寧でそれでいてどこか見下した風に感じられる彼女とは違う様に、霊夢は苦笑して針を戻した。
「まったく・・・・・・変なネタ作らなきゃいいのに」
自分で攻撃しておいて酷い話ではあるが、おおよそ分が悪いのは文である。笑い話程度のレベルではあるが、彼女は結構恨まれていたりする(恨まれるとはいっても酒の席で一気飲みさせられる程度の憎しみだが)。
「真っ当な新聞ならいざ知らず・・・・・・なんであんな新聞書くのよ」
軽い気持ちで聞いた質問に、布団の動きがぴたりと止まる。
「・・・・・・聞きたい、ですか」
なぜ答えようと思ったのだろうか。
「・・・・・・どうしたのよ」
「いえ、お詫びと布団のお礼に、つまらない話でもしようかと」
あんな夢を見たからだろうか。
「つまらなかったらお礼にならないじゃない・・・・・・」
「はは、確かにそうですね」
「・・・・・・でもまぁ、聞いても、良いわね」
私はね、昔は結構やんちゃだったんですよ・・・・・・“今でもじゃないか”って? それは言わないでください。でも、結構恥ずかしいんですよ、昔を思い出すと。
いわゆるカメラ小僧だったんでしょうね、格好良い天狗とか、人気のある妖怪とかを撮影してたんですよ・・・・・・えぇはい、盗撮ですよ盗撮ですよ。
それである日、とある人間を撮影してくれと頼まれたんです――人間ですよ、妖怪じゃなくて。昔から天狗は物好きだったんでしょう。
私は意気揚々と出かけましたよ。数十年ごとの日課といっても過言ではないですし、今回も上手くいくと思ってました。
着替えの最中だったのがまずかったみたいで、反撃されちゃいましたけどね。
あの時の針とお札の痛みは今でも覚えてます。
・・・・・・そうですよ、恥ずかしい話、私は負けたんです。
境内に倒れた私を彼女が見つめる――殺されるかと思いましたね。それだけの理由が私にも彼女にもあったんですから。
でも、彼女はそうはしなかった。
それで、仲良くなっちゃったんですよね。
仲間内からは羨ましがられたり気味悪がられたりしましたよ。何せ、高嶺の花とまで呼ばれていた人と仲良くなれたんですから。
・・・・・・特に遊んだりはしませんでしたね。彼女の仕事が無い日に、一緒に縁側でお茶を飲んだぐらいですから。
でも、楽しかったのは確かです。
それである時、私は彼女の仕事現場に遭遇しちゃったんですよ。
・・・・・・腰が抜けました。
あたり一面が紅に染まり、容赦なく憐憫ない彼女の仕事様に。
そして、私は逃げ出したんです。
・・・・・・「あんたも、なの?」、その言葉が、彼女に言われた最後の一言でした。
あえてぼかされたその“彼女”の名前を、霊夢は知っている。
いや、正確には先ほどの文の呟きでその名を聞いていた。
「・・・・・・でも、それがどうして新聞を書く理由になるの?」
「――その一言が、原因ですね。彼女は――今の話で理解したでしょうけど、強かったんです。だから、彼女は人にも妖怪にも避けられていた。
馬鹿ですね、私は。
彼女が嬉しそうにしている本当の理由にも気づかずに、結局は逃げ出してしまった」
ここまでくれば、霊夢にも理解できる。
『何代目』かは知らないまでも、その“彼女”とやらがどんな職業についていたかを。
彼女はつまり、『博麗の巫女』。
「結局、彼女とは二度と会いませんでした。逃げ帰ってしばらくして、また『代替わり』したことを知りました・・・・・・後悔しても、もう遅すぎました」
だから彼女は、どうしようかと考えた。
どうしようもないことぐらい分かっていた。
それでもどうしようかと考えた。
・・・・・・思い出すのは、彼女の笑顔。博麗の掟も仕事も関係の無い、笑顔。
「だから、私は新聞を書くことにしたんです。
彼女のありのままの姿を知らしめていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。彼女が一人の人間だったことを、皆が知っていればよかったかもしれない。
・・・・・・勝手ですよね、避けておいてこんなこと」
霊夢は何も言わない。
それでも文は喋り続ける。
これは彼女の罪である。もう償うことのできない、大きすぎる罪。
「今の時代は、その頃に比べれば天国ですよ。
人と妖が共存を目指す、理想を目指す幻想郷。
ですが、それでもすれ違いや誤解、偏見はある。
それを何とかするためにも・・・・・・私は、新聞を書き続けます。
それが、『理由』です」
文の話が終わった。
だから、霊夢は口を開く。
「まったく、馬鹿げた理由ね」
「ええそうですよ、ばかげてますよね」
「だけど・・・・・・まぁいいわ、何も言わない」
霊夢は境内に向き直る。なんとなく、文の顔を見られない気がしたから。
一途な想いは、人の心を打つ。
らしくない鴉天狗の告白に、彼女はほんの少し「羨ましいな」と思った。
そこまで想われている昔の巫女が、羨ましかった。
「まぁ、お詫びとお礼ぐらいにはなったわ」
「・・・・・・ありがとうございます」
「でも・・・・・・修理費にはならなかたったわね」
「・・・・・・へ?」
嫌な予感がして、文は布団から這い出た。暗くて見づらいが、部屋の壁を見てみる。
・・・・・・壊れていた、昼間に自らが磔になった壁が壊れていた。
「――これ、私のせいですか」
「ええそうよ、修理費、お願いね」
「・・・・・・・・・・・・はい」
その修理費を稼ぐために『博麗の下着事情!』なる増刊号を文が打ち出すのは別のお話。
そんな彼女を捕まえるために霊夢が妖怪の山に突撃したのもまた別のお話。:
なぜか二人は、笑顔だったという。
てか早苗さァァァァァァァン。
良いストーリーですね。悲しくなってしまうけど。
身内に、全く同じ経験をした娘がいますwww
彼女の場合は、ビンゴで当てたバ○ースーツでしたが
不覚にも吹いた。
きっと需要はあるから心配するな、霊夢。
いい話だった。ごっそさん。
あるとすれば黒・・・かな。
だとしたら紫が渡すのは赤じゃなくて紫にしないと。
話としては何代か前の博麗の巫女の過去話と現在の霊夢の話で良いのかな?
新聞を書き続ける理由が良かったです。
面白作品でした。
誤字の報告
最初の段落?の部分にあるのですが、
>そうなってしまえば前述の方法は仕えない。
正しくは「使えない」ですよね。
以上、報告でした。
当時の巫女が人間・妖怪にも忌み嫌われていて、文だけは仲良くなっていた。
文は巫女を1人の人間としてみることの出来る唯一の妖怪だったけれど、巫女の仕事現場
を見ると、『あんたも(私を嫌う)の?』を言われて、文は恐ろしくなり逃げた。
少し時がすぎ、巫女にいわれた意味を知り会いに行こうとするけど、巫女は代替わりでもういない。
もうこんなことのないようにと文はあえて、捏造の新聞を出すことによって巫女・妖怪の壁をくずそうとしたんじゃないかな?
文の昔話が最高でしたッ!
ヒャッハア!