その日の朝、博麗霊夢は久々の熟睡から目覚めた。
朝食を終え、今は縁側でお茶を啜りながらこれまた久々の休日をのんびりと過ごしている。
秋の涼しさを感じさせる風が体を通り抜け、目覚めたばかりの体を再び眠りへと誘う。
が、そんな時に限って来客があったりするのは何かの法則であろうか?
「お! 霊夢お前帰ってきてたのか!」
来客は霧雨魔理沙。魔法の森に住む魔法使いである。
「2ヶ月もいないもんだから死んだんじゃないかと思ってたぜ」
そう言いながら、魔理沙はお茶請けの煎餅に手を伸ばす。
「そう簡単にくたばってたまるかっての……まあ、死ぬ程忙しかったけど」
「それでどうだったんだ? やっぱり広がってたのか?」
「ええ、広がってたわ。……紫や早苗の言っていた通り、幻想郷は『日本列島全て』に広がってた」
そう言って霊夢はお茶を啜る。
「それを見て回っていたわけか。そりゃ2ヶ月もかかるわな」
「大きな調整は私がやったけど、後は紫達に任せた。……広すぎてやってらんないわよ。
で、ここは今どうなってるの?」
「ん? ああ、こっちか」
魔理沙は口の中の煎餅をお茶で流し込む。
「何か『じえいたい』って連中が来て、色々見てるな。……霊夢?」
振り向けば、台所へ向かう霊夢。
「また誰かが来そうな気がしてね」
霊夢の勘はよく当たる。この時も例外ではなかった。
「霊夢さぁん、いますかぁ!」
次の来客は東風谷早苗。妖怪の山にある神社の風祝である。
「いやー、大変だったそうですねー。あ、お土産です」
そう言って紙袋から箱を取り出す早苗。どうやらお菓子らしい。
「ありがと。後で食べるわ」
「霊夢、今開けちゃ駄目か?」
「駄目よ。――魔理沙、戸棚にしまっといて」
「とにかく、生ものですから早めに食べてくださいね」
早苗はお茶に口をつける。
「あちち……それでどうでした?」
「どうって何が?」
「元・外の世界の感想ですよ」
「結構汚かったわ」
「それだけですか?」
「あと『飛行機』ってのは結構うるさかった。……それで、そっちはどうなの?
二人で大喧嘩したって聞いたけど?」
「すぐに済みましたよ。ただの言い争いでしたから。……結局勝ったのは諏訪子様でした。
諏訪子様も『昔とった杵柄だ』と仰ってましたし。まあ、『この国』もどうにかなるでしょう」
そう言って早苗はお茶を啜る。
「しっかし、神様達もよくやるわねぇ」
空を見上げる霊夢。そこには一筋の飛行機雲。
「全部まとめて結界越えだなんて」
――――――
しばらく前のことである。
「早苗、厄介なことになったよ」
出雲であった神様同士の会合から帰ってきた守矢神社の主神、八坂神奈子は帰ってくるなりそう言った。
「全員、こっちに引っ越してくるって」
「……はい?」
早苗は、何を言っているのか理解できなかった。
「だからさ」
神奈子は早苗の両肩をつかみ、しっかりと目を見つめて言った。
「向うの神様、全員、幻想郷に引っ越す、OK?」
「……ええーーっ!!」
ショックで気絶した早苗が目を覚ましたのは翌日だった。
「あ、早苗! 大丈夫!」
「だ、大丈夫です諏訪子様!」
起き上がった早苗に抱きつく諏訪子。
「よかったぁ……」
「大丈夫ですから離れてください! それよりも神奈子様に――」
「あの話なら本当だよ」
早苗から離れる諏訪子。
「私達は反対したんだけどねぇ……多勢に無勢だからしょうがないさ」
「でも! 全員やってきたら土地が足りなくなるんじゃないですか!」
「それは大丈夫。『人も土地も全部まとめて持っていく』ってさ」
「でもそれじゃ――」
自分達は新天地を求めて幻想郷に来たのだ。神様全員が土地も人も全部持ってくれば、
そこはかつて自分達がいた世界と全く同じ世界になる。
「スキマもその場でOKしたんだ。幻想郷がちょっとばかし広くなる程度だと思えば楽だよ」
「ちょっとじゃなくて思いっきりじゃないですか! そもそも何でそういうことになったんですか!」
「それはわたしが説明するよ」
いつの間にか神奈子が傍にいた。
「実はね、私達がこっち来た後、日本と中国の間で戦争があったのさ」
「戦争……ですか……?」
「それで日本が負けちまった。いや、戦わずして無条件降伏しちまったのさ。
……全く、政治家のだらしない事ったらありゃしない」
折角勝てる戦だったのに、と神奈子は呟く。
「で、だ。早苗も知ってる通り、中国は共産主義国家だ。そして共産主義は宗教を否定している。
……さて、ここで問題だ。中国軍が日本に進駐したらどうなると思う?」
「ええと、共産主義国家だから宗教を否定……あ! 神社やお寺が壊されちゃうってことですよね!」
「正解。だからそうなる前に引っ越すってこと。現役だろうが引退済みだろうが、
幻想郷という場所なら信仰も維持できると考えた訳だ」
「……でも、よく紫さんがOKしましたね」
「スキマも何か思うことがあったんだろう。日本が日本で無くなるのが嫌だったんじゃないか?」
――――――
「しかし、紫も何考えてるのかさっぱりわからないわねぇ」
温くなったお茶を啜りながら霊夢は呟く。
「全くだぜ」
それに答える魔理沙。
「……私は何となくわかる気がします」
「何がよ?」
早苗は湯飲みを置き、淡々と語り始める。
「昔から日本人はどんなものも受け入れてきました。それこそ、思想も宗教も」
霊夢と魔理沙は興味ありげに早苗を見つめている。
「でもそれは、『日本』という国家があったからこそだと思うんです。たとえアメリカに占領されようと、
『日本』という国であり続けたから復興できた。――霊夢さんも見てきたでしょう?
あの高層ビルの群れを」
「え? ああ、確かに見たわ。でかいのが沢山あったわ」
「でも中国は違う……あの国は宗教弾圧がとても厳しいんです。思想も宗教も共産主義以外認めないってぐらい。
あの国に占領されたら、神社や寺は焼き払われて、巫女や僧侶は皆殺し。そのぐらい厳しいんです」
「その内バチがあたるんじゃないか?」
魔理沙がそれとなく呟く。
「あの国は一つのローラーなんです。何もかも押し潰し、自分の望む色に染め上げる。
だから『日本』が『日本』でなくなってしまう。――紫さんはそれが嫌だったのかもしれません」
「国ねぇ……」
霊夢は寝転がりながら呟く。
「ここで生まれてここで育った私には理解を超える話だわ」
「私も同じだぜ」
「……私も自分で何を言っているのかよくわからなくなってきました」
無言。静寂が神社を包む。遠くからは調査でやってきたヘリコプターの羽音。
「まあ、どうなるにせよこれからよ。……それはおいといて、早苗、そもそもあんたは何しに来たのよ」
「あっ、はい、実はですね。臨時政府が出来たことを知らせに来たんです」
「臨時政府?」
早苗はすっかり冷めてしまったお茶で口を湿らせる。
「ええ、八坂様と諏訪子様が中心となったクーデターで、政府を乗っ取ったんです。それが成功したのでお知らせに」
「そういえば紫が携帯電話でそんな感じの事を話してたような気がするわ……私は『くうこう』や『みなと』に
『出入り口』を作るので忙しかったからよく覚えてないけど」
「『クーデター』ねぇ……それなら私も参加したかったぜ」
なんだか面白そうだし、と話に食いつく魔理沙。それに対していやいやと早苗は手を振る。
「そんなに面白いものでもないですよ。……今回ばかりは私も死ぬかと思いましたし」
「一体何があったんだ?」
「聞きたいですか?」
「もちろんだ」
早苗は、仕方ないですね、とため息をついて話し出す。
「まず諏訪子様が総理大臣宛に脅迫電話を掛けまして」
魔理沙はよくわからない、といった顔で早苗を見つめる。
「……要するにこの国で一番偉い人に『今からお前を殺しに行く』と言ったんです」
「わはははは! そりゃ傑作だぜ!」
腹を抱えて笑う魔理沙を横目に早苗は話し続ける。
「一応私は止めたんですよ。――その後、わざわざ警備が厳重になったところで、
妖怪達を率いたお二方が警備を突破しようと大暴れしまして」
「で、どうなったんだ?」
「見事突破しましたよ。ええ、これ以上ないほど見事に。……ある鬼の方なんか、
『久々に大暴れできてすっきりした』と仰ってましたから」
「そりゃ見ものだぜ」
「私は胃に穴が開くかと思いましたよ……まあ、その後は単純です。議員を叩き出して
『自分が首相だ』と諏訪子様が宣言なさったのです。……ちょっとゴタゴタはありましたけど」
「文句言う奴はいなかったのかよ?」
「……弾幕で黙らせてました」
「なら今アイツを倒せば私が一番だな。霊夢もそう思うだろ?」
「やめといた方がいいわよ……」
霊夢が起き上がりながら答える。
「政治って結構面倒らしいし。第一魔理沙、あんた1億2千万人の面倒見れる? しかも現在戦争中の国の」
「……無理だな」
「そういうことよ。諦めなさい」
「それに諏訪子様も事が治まったら政権を人間に戻す、と仰ってましたから。……それはそうと霊夢さん」
「何よ」
「『出入り口』ってどういう事ですか?」
「どうもこうもそのままの意味よ。博麗大結界の出入り口。家で例えれば扉。……紫が言うには、これが無いと国が滅ぶって」
「一体どうやったんですか……」
「倉庫にあったのよねぇ。確か60年位前の奴だったかしら? 今と同じ事をして日本をほぼ不可侵の国にするっていう計画書が」
「おかしいな、その頃にはもう結界で外とは断絶してた筈だ。そんな計画自体立つわけが無い」
魔理沙が疑問を口にする。
「私もそう思ったのよ。それで暇なときに過去の記録を調べていったらとんでもない事がわかったのよ!」
「何だ?」
「何ですか?」
「結界が張られた頃、当時の巫女と紫が政府と取引してた」
早苗の眉毛がピクリと動く。
「……どんな取引ですか?」
「簡単に言うと、幻想郷の存在を認める代わりに、その住人は大日本帝国に協力する、また帝国も幻想郷維持に協力するって事。
しかも天皇陛下の署名つき」
空気が固まった。
「そそ、それってとんでもないことじゃないですか!」
「まあ、計画自体は日本中の神様の協力を得なきゃならないから無理ってボツになったそうだけど」
「いやそういう問題じゃないですって!」
「もう終わった契約だし。国ごと幻想郷になったんだから、味噌もナニもなんとやら」
「それもそうですけど……でも問題ですよ! 人体実験されちゃうかもしれないじゃないですか!」
「まあいいじゃないか。その時はその時で」
魔理沙が笑いながら答える。
「そういう奴は退治しちまえばいいんだよ。いつものようにさ」
「それはそうですけど……」
その時、三人の腹時計が鳴った。
「そうだ、『じえいたい』って連中から貰った『缶詰』があるから、それを食べてみないか?」
「これ、自衛隊員は『カンメシ』って言うらしいですよ」
「そう。――この赤飯、結構美味しいわね」
「この沢庵もいけるな」
三人は、昼食に魔理沙が入手してきた「カンメシ」を試食していた。……どうやって入手したのかは二人とも聞かなかったが。
「こんな便利で旨い物があるなら、これから先にも期待が持てるな」
「自衛隊員しか貰えませんよ?」
「なら毎日連中から調達してやるぜ」
「……ここの人間がはしたなく思われるからやめてください。それにいつかそういう物を売る店ができると思いますよ」
物騒なことを言う魔理沙と、それをたしなめる早苗。霊夢はそれを尻目に缶詰に箸を伸ばしている。
「そうなったら霖之助さんは失業かしら?」
「まさか。香霖なら平気だろ」
「怪しいですよ? 大きな店舗ができて個人店舗が潰れるのはよくあることですから」
ソーセージ貰いますね、と箸を伸ばす早苗。
「それにしても、これからどうなるんでしょうね……」
「きっと今まで以上に異変が起こると思うわ」
「これは異変どころか天変地異すら超えてるからな。興奮して暴れる連中がいてもおかしくないぜ」
「例えば?」
早苗が二人に訊く。
「まずあの天人。今のところ一番の候補よ。他所様の神社を崩さないか心配だわ」
「そもそも大都市で地震起こしたらお終いですからねぇ」
「レミリアもやりそうだぜ」
「紅霧異変のことですか? 今そんなことしたらレミリアさんはホームレスになっちゃいますね」
「どういう意味だ?」
「今、八坂様が自衛隊、つまり軍のトップですから。変な事したらすぐに爆弾積んだ戦闘機がやってきて、
元凶のアジトが瓦礫の山になっちゃいますね」
「……この神社は狙わないように手綱は握っときなさいよ」
「そもそもお前のところはどうなんだよ。河童や地底の連中が暴れたりしないだろうな?」
「その辺は大丈夫です! 核融合という夢の力がありますからね。向うの方から協力を求めてきますよ」
「だといいけど」
「怪しいもんだぜ」
「何でそんな目で見るんですかぁ……」
「それじゃ、私はもう帰りますね」
そう言って早苗は立ち上がる。
「おう、じゃあな」
「変な事したら私が退治しに行くって二人に言っときなさいよ」
「あはは、わかりましたよ」
そう言って早苗は博麗神社を後にした。
「なあ霊夢」
「何よ」
「『へりこぷたー』の音が近づいていないか?」
その言葉に思わず耳を澄ませる霊夢。音は段々大きくなっている。
「言われてみればそうね」
大きくなった羽音は、会話を遮るくらいにまでになった。
「そういえば連中はここにも来るって話だぜ!」
「それを先に言ってよ!」
音が小さくなっていく。おそらく着陸してエンジンを止めたのだろう。
慌てて外へ駆け出す霊夢。彼女が外へ出たときには、既に何人かがヘリコプターから降りていた。
霊夢は、緑を基調とした迷彩服の集団――他の色も混じっているが――を前に、
威厳たっぷり、かつ親しみをこめてこう言い放った。
「こんにちは、元・外の世界の皆さん。素敵なお賽銭箱はあちらよ」
朝食を終え、今は縁側でお茶を啜りながらこれまた久々の休日をのんびりと過ごしている。
秋の涼しさを感じさせる風が体を通り抜け、目覚めたばかりの体を再び眠りへと誘う。
が、そんな時に限って来客があったりするのは何かの法則であろうか?
「お! 霊夢お前帰ってきてたのか!」
来客は霧雨魔理沙。魔法の森に住む魔法使いである。
「2ヶ月もいないもんだから死んだんじゃないかと思ってたぜ」
そう言いながら、魔理沙はお茶請けの煎餅に手を伸ばす。
「そう簡単にくたばってたまるかっての……まあ、死ぬ程忙しかったけど」
「それでどうだったんだ? やっぱり広がってたのか?」
「ええ、広がってたわ。……紫や早苗の言っていた通り、幻想郷は『日本列島全て』に広がってた」
そう言って霊夢はお茶を啜る。
「それを見て回っていたわけか。そりゃ2ヶ月もかかるわな」
「大きな調整は私がやったけど、後は紫達に任せた。……広すぎてやってらんないわよ。
で、ここは今どうなってるの?」
「ん? ああ、こっちか」
魔理沙は口の中の煎餅をお茶で流し込む。
「何か『じえいたい』って連中が来て、色々見てるな。……霊夢?」
振り向けば、台所へ向かう霊夢。
「また誰かが来そうな気がしてね」
霊夢の勘はよく当たる。この時も例外ではなかった。
「霊夢さぁん、いますかぁ!」
次の来客は東風谷早苗。妖怪の山にある神社の風祝である。
「いやー、大変だったそうですねー。あ、お土産です」
そう言って紙袋から箱を取り出す早苗。どうやらお菓子らしい。
「ありがと。後で食べるわ」
「霊夢、今開けちゃ駄目か?」
「駄目よ。――魔理沙、戸棚にしまっといて」
「とにかく、生ものですから早めに食べてくださいね」
早苗はお茶に口をつける。
「あちち……それでどうでした?」
「どうって何が?」
「元・外の世界の感想ですよ」
「結構汚かったわ」
「それだけですか?」
「あと『飛行機』ってのは結構うるさかった。……それで、そっちはどうなの?
二人で大喧嘩したって聞いたけど?」
「すぐに済みましたよ。ただの言い争いでしたから。……結局勝ったのは諏訪子様でした。
諏訪子様も『昔とった杵柄だ』と仰ってましたし。まあ、『この国』もどうにかなるでしょう」
そう言って早苗はお茶を啜る。
「しっかし、神様達もよくやるわねぇ」
空を見上げる霊夢。そこには一筋の飛行機雲。
「全部まとめて結界越えだなんて」
――――――
しばらく前のことである。
「早苗、厄介なことになったよ」
出雲であった神様同士の会合から帰ってきた守矢神社の主神、八坂神奈子は帰ってくるなりそう言った。
「全員、こっちに引っ越してくるって」
「……はい?」
早苗は、何を言っているのか理解できなかった。
「だからさ」
神奈子は早苗の両肩をつかみ、しっかりと目を見つめて言った。
「向うの神様、全員、幻想郷に引っ越す、OK?」
「……ええーーっ!!」
ショックで気絶した早苗が目を覚ましたのは翌日だった。
「あ、早苗! 大丈夫!」
「だ、大丈夫です諏訪子様!」
起き上がった早苗に抱きつく諏訪子。
「よかったぁ……」
「大丈夫ですから離れてください! それよりも神奈子様に――」
「あの話なら本当だよ」
早苗から離れる諏訪子。
「私達は反対したんだけどねぇ……多勢に無勢だからしょうがないさ」
「でも! 全員やってきたら土地が足りなくなるんじゃないですか!」
「それは大丈夫。『人も土地も全部まとめて持っていく』ってさ」
「でもそれじゃ――」
自分達は新天地を求めて幻想郷に来たのだ。神様全員が土地も人も全部持ってくれば、
そこはかつて自分達がいた世界と全く同じ世界になる。
「スキマもその場でOKしたんだ。幻想郷がちょっとばかし広くなる程度だと思えば楽だよ」
「ちょっとじゃなくて思いっきりじゃないですか! そもそも何でそういうことになったんですか!」
「それはわたしが説明するよ」
いつの間にか神奈子が傍にいた。
「実はね、私達がこっち来た後、日本と中国の間で戦争があったのさ」
「戦争……ですか……?」
「それで日本が負けちまった。いや、戦わずして無条件降伏しちまったのさ。
……全く、政治家のだらしない事ったらありゃしない」
折角勝てる戦だったのに、と神奈子は呟く。
「で、だ。早苗も知ってる通り、中国は共産主義国家だ。そして共産主義は宗教を否定している。
……さて、ここで問題だ。中国軍が日本に進駐したらどうなると思う?」
「ええと、共産主義国家だから宗教を否定……あ! 神社やお寺が壊されちゃうってことですよね!」
「正解。だからそうなる前に引っ越すってこと。現役だろうが引退済みだろうが、
幻想郷という場所なら信仰も維持できると考えた訳だ」
「……でも、よく紫さんがOKしましたね」
「スキマも何か思うことがあったんだろう。日本が日本で無くなるのが嫌だったんじゃないか?」
――――――
「しかし、紫も何考えてるのかさっぱりわからないわねぇ」
温くなったお茶を啜りながら霊夢は呟く。
「全くだぜ」
それに答える魔理沙。
「……私は何となくわかる気がします」
「何がよ?」
早苗は湯飲みを置き、淡々と語り始める。
「昔から日本人はどんなものも受け入れてきました。それこそ、思想も宗教も」
霊夢と魔理沙は興味ありげに早苗を見つめている。
「でもそれは、『日本』という国家があったからこそだと思うんです。たとえアメリカに占領されようと、
『日本』という国であり続けたから復興できた。――霊夢さんも見てきたでしょう?
あの高層ビルの群れを」
「え? ああ、確かに見たわ。でかいのが沢山あったわ」
「でも中国は違う……あの国は宗教弾圧がとても厳しいんです。思想も宗教も共産主義以外認めないってぐらい。
あの国に占領されたら、神社や寺は焼き払われて、巫女や僧侶は皆殺し。そのぐらい厳しいんです」
「その内バチがあたるんじゃないか?」
魔理沙がそれとなく呟く。
「あの国は一つのローラーなんです。何もかも押し潰し、自分の望む色に染め上げる。
だから『日本』が『日本』でなくなってしまう。――紫さんはそれが嫌だったのかもしれません」
「国ねぇ……」
霊夢は寝転がりながら呟く。
「ここで生まれてここで育った私には理解を超える話だわ」
「私も同じだぜ」
「……私も自分で何を言っているのかよくわからなくなってきました」
無言。静寂が神社を包む。遠くからは調査でやってきたヘリコプターの羽音。
「まあ、どうなるにせよこれからよ。……それはおいといて、早苗、そもそもあんたは何しに来たのよ」
「あっ、はい、実はですね。臨時政府が出来たことを知らせに来たんです」
「臨時政府?」
早苗はすっかり冷めてしまったお茶で口を湿らせる。
「ええ、八坂様と諏訪子様が中心となったクーデターで、政府を乗っ取ったんです。それが成功したのでお知らせに」
「そういえば紫が携帯電話でそんな感じの事を話してたような気がするわ……私は『くうこう』や『みなと』に
『出入り口』を作るので忙しかったからよく覚えてないけど」
「『クーデター』ねぇ……それなら私も参加したかったぜ」
なんだか面白そうだし、と話に食いつく魔理沙。それに対していやいやと早苗は手を振る。
「そんなに面白いものでもないですよ。……今回ばかりは私も死ぬかと思いましたし」
「一体何があったんだ?」
「聞きたいですか?」
「もちろんだ」
早苗は、仕方ないですね、とため息をついて話し出す。
「まず諏訪子様が総理大臣宛に脅迫電話を掛けまして」
魔理沙はよくわからない、といった顔で早苗を見つめる。
「……要するにこの国で一番偉い人に『今からお前を殺しに行く』と言ったんです」
「わはははは! そりゃ傑作だぜ!」
腹を抱えて笑う魔理沙を横目に早苗は話し続ける。
「一応私は止めたんですよ。――その後、わざわざ警備が厳重になったところで、
妖怪達を率いたお二方が警備を突破しようと大暴れしまして」
「で、どうなったんだ?」
「見事突破しましたよ。ええ、これ以上ないほど見事に。……ある鬼の方なんか、
『久々に大暴れできてすっきりした』と仰ってましたから」
「そりゃ見ものだぜ」
「私は胃に穴が開くかと思いましたよ……まあ、その後は単純です。議員を叩き出して
『自分が首相だ』と諏訪子様が宣言なさったのです。……ちょっとゴタゴタはありましたけど」
「文句言う奴はいなかったのかよ?」
「……弾幕で黙らせてました」
「なら今アイツを倒せば私が一番だな。霊夢もそう思うだろ?」
「やめといた方がいいわよ……」
霊夢が起き上がりながら答える。
「政治って結構面倒らしいし。第一魔理沙、あんた1億2千万人の面倒見れる? しかも現在戦争中の国の」
「……無理だな」
「そういうことよ。諦めなさい」
「それに諏訪子様も事が治まったら政権を人間に戻す、と仰ってましたから。……それはそうと霊夢さん」
「何よ」
「『出入り口』ってどういう事ですか?」
「どうもこうもそのままの意味よ。博麗大結界の出入り口。家で例えれば扉。……紫が言うには、これが無いと国が滅ぶって」
「一体どうやったんですか……」
「倉庫にあったのよねぇ。確か60年位前の奴だったかしら? 今と同じ事をして日本をほぼ不可侵の国にするっていう計画書が」
「おかしいな、その頃にはもう結界で外とは断絶してた筈だ。そんな計画自体立つわけが無い」
魔理沙が疑問を口にする。
「私もそう思ったのよ。それで暇なときに過去の記録を調べていったらとんでもない事がわかったのよ!」
「何だ?」
「何ですか?」
「結界が張られた頃、当時の巫女と紫が政府と取引してた」
早苗の眉毛がピクリと動く。
「……どんな取引ですか?」
「簡単に言うと、幻想郷の存在を認める代わりに、その住人は大日本帝国に協力する、また帝国も幻想郷維持に協力するって事。
しかも天皇陛下の署名つき」
空気が固まった。
「そそ、それってとんでもないことじゃないですか!」
「まあ、計画自体は日本中の神様の協力を得なきゃならないから無理ってボツになったそうだけど」
「いやそういう問題じゃないですって!」
「もう終わった契約だし。国ごと幻想郷になったんだから、味噌もナニもなんとやら」
「それもそうですけど……でも問題ですよ! 人体実験されちゃうかもしれないじゃないですか!」
「まあいいじゃないか。その時はその時で」
魔理沙が笑いながら答える。
「そういう奴は退治しちまえばいいんだよ。いつものようにさ」
「それはそうですけど……」
その時、三人の腹時計が鳴った。
「そうだ、『じえいたい』って連中から貰った『缶詰』があるから、それを食べてみないか?」
「これ、自衛隊員は『カンメシ』って言うらしいですよ」
「そう。――この赤飯、結構美味しいわね」
「この沢庵もいけるな」
三人は、昼食に魔理沙が入手してきた「カンメシ」を試食していた。……どうやって入手したのかは二人とも聞かなかったが。
「こんな便利で旨い物があるなら、これから先にも期待が持てるな」
「自衛隊員しか貰えませんよ?」
「なら毎日連中から調達してやるぜ」
「……ここの人間がはしたなく思われるからやめてください。それにいつかそういう物を売る店ができると思いますよ」
物騒なことを言う魔理沙と、それをたしなめる早苗。霊夢はそれを尻目に缶詰に箸を伸ばしている。
「そうなったら霖之助さんは失業かしら?」
「まさか。香霖なら平気だろ」
「怪しいですよ? 大きな店舗ができて個人店舗が潰れるのはよくあることですから」
ソーセージ貰いますね、と箸を伸ばす早苗。
「それにしても、これからどうなるんでしょうね……」
「きっと今まで以上に異変が起こると思うわ」
「これは異変どころか天変地異すら超えてるからな。興奮して暴れる連中がいてもおかしくないぜ」
「例えば?」
早苗が二人に訊く。
「まずあの天人。今のところ一番の候補よ。他所様の神社を崩さないか心配だわ」
「そもそも大都市で地震起こしたらお終いですからねぇ」
「レミリアもやりそうだぜ」
「紅霧異変のことですか? 今そんなことしたらレミリアさんはホームレスになっちゃいますね」
「どういう意味だ?」
「今、八坂様が自衛隊、つまり軍のトップですから。変な事したらすぐに爆弾積んだ戦闘機がやってきて、
元凶のアジトが瓦礫の山になっちゃいますね」
「……この神社は狙わないように手綱は握っときなさいよ」
「そもそもお前のところはどうなんだよ。河童や地底の連中が暴れたりしないだろうな?」
「その辺は大丈夫です! 核融合という夢の力がありますからね。向うの方から協力を求めてきますよ」
「だといいけど」
「怪しいもんだぜ」
「何でそんな目で見るんですかぁ……」
「それじゃ、私はもう帰りますね」
そう言って早苗は立ち上がる。
「おう、じゃあな」
「変な事したら私が退治しに行くって二人に言っときなさいよ」
「あはは、わかりましたよ」
そう言って早苗は博麗神社を後にした。
「なあ霊夢」
「何よ」
「『へりこぷたー』の音が近づいていないか?」
その言葉に思わず耳を澄ませる霊夢。音は段々大きくなっている。
「言われてみればそうね」
大きくなった羽音は、会話を遮るくらいにまでになった。
「そういえば連中はここにも来るって話だぜ!」
「それを先に言ってよ!」
音が小さくなっていく。おそらく着陸してエンジンを止めたのだろう。
慌てて外へ駆け出す霊夢。彼女が外へ出たときには、既に何人かがヘリコプターから降りていた。
霊夢は、緑を基調とした迷彩服の集団――他の色も混じっているが――を前に、
威厳たっぷり、かつ親しみをこめてこう言い放った。
「こんにちは、元・外の世界の皆さん。素敵なお賽銭箱はあちらよ」
今のままだと安い右な感じでキモい。
政治ってのはどう転んでも賛否別れるわけで…。
それと、共産主義と社会主義の違いって理解できてます?
東方幻想戦記
話としてはこういう架空戦記っぽいの好きですし面白いと思いますが、ネットは誰でも見る事が出来る媒体ですから
御自身のホームページ、ブログ等で発表される分には法律と規約の範囲内ではどんな表現も自由だと思いますが
此処のように発表の場を提供してもらって書かれる場合、悪ふざけにしても国名や人種、思想などデリケートな問題
を取り上げる場合はたとえ投稿規程に無くても伏せ字にしたり表現をぼかすなどされた方が私は良いと思います。
日本がまるごと幻想入りしたパニックを書けばギャグになるかもしれないし、
日本が幻想入りした経緯を東方キャラに皮肉らせれば悪ふざけになった気がする
あるいは社会、兵器、法律なんかの知識を使ってみんなのいう架空戦記物にするとか
ただデリケートな問題に触れたのも中途半端なのもわざとで、あとがきが一種のあおりだとしたら悪ふざけとしては成功している気がする
後、その手の話題と全く関わりの無いサイト借りてこういうのをやるのはどうかと思います。
「日本国が丸ごと幻想郷に越してくる」というインパクトのあるトンデモ設定が、その過程や説明等に字数ソースを食い潰されていて生きていない。中国がどうこうなんて要らんのです。何処ぞの国と戦争やって負けました。属国化で文化とか宗教とか否定されそうな雰囲気なので、思い切って夜逃げして来ました。それだけでいいんです。そも中国だの主義だの持ち出す理由もメリットもありません。東方世界にも関係ありません。
また、物語の語り部であり作品的視点位置でもある霊夢達が、この現状に対して大した姿勢も情報も持っていない事がネタを殺してはいないでしょうか。登場人物達の認識情報が噂や伝聞の域を出ない事で、「日本国が幻想郷に来てどうなったのか」という事象が、まるで見えてこない。擦りガラス越しに映画を見せられている気分です。大きな物語が展開されているようなのに、読者には何も伝えようとしない。或いは伝える事に失敗している。
それとも作者氏が書きたかったのは、他国やイデオロギーの悪口であったり、現状が根こそぎひっくり返りそうな事態を理解できず暢気に構えている人妖の愚鈍さだけなのでしょうか。
題材ではなく小説作品としての拙さから、評価不能です。
ただ、この話は単純につまらなかった。
でもクーデターを書けばもっと面白くなったはず
というかそこがクライマックスでしょう
その他諏訪vs妖怪賢者会談とか、見所は山ほどあったはずなのに
内容の割りにアッサリしすぎているのが問題かな。
作品の面白さとかは二の次で政治が絡む作品書いたら即タブー扱いってのは問題あると思うぞ
どこぞの言論弾圧国家じゃないんだぞ
恐ろしいことだ
ネタをネタとして消化しきれてない。
某巨大掲示板や動画サイトなら大ウケかもしれないけどねぇ。
まあ、細かいツッコミは他のコメ衆がやってるからいいとして。
どこぞの言論弾圧国家ではなく、言論・表現や、思想・信条の自由も保障された社会だからこそ。
デリケートな扱いが要求される物の一つが、政治ネタであると考えます。
夏ごろにも、広島の原爆忌を扱った作品が叩かれまくった挙句、削除された事がありましたしね。
これ以上話すと信仰じゃなくて政治の話しになるので略しますが。
点数はそれと関係無く。
単純に設定も背景も説明不足で理解不能。クーデターなどの見せ場のシーンは流す。これで評価するのは無理です。
せめて表現を曖昧にしてたら少しは笑えたと思うけど。
→賢者議定書の流布
→以前から燻っていた人間排斥主義の爆発
→いつの間にか人間に担ぎ出される命蓮寺
→そうこうするうち宣戦布告
→電撃戦(←当たり前)
→追い詰められた人里側が大量の幻想入り(ヒキニート)を投入して物量作戦展開。督戦隊大忙し。人は隙間からゴミのように湧いて来るの
→妖怪過激派勢力の殲滅。偉い人は大本営で自決。残党は地下潜伏
→ナズーリン主義の台頭と人里住民の大量虐殺
戦争やりたいならこれくらい破滅的にやってくれないと
応援してますよ
ただ今のままだとあちこち足りないので点は低めで
チベットとか見て作者はそう思ったのかもしれないけど、日本と中国は似た宗教観(神道、仏教が中心の民間信仰)だから。
他の国を否定するな、とは言わないが読者がそれを嫌悪しても文句は言えないぞ。創想話が他から恨まれる可能性も有る。
他にも言ってる人がいるけど、名指しする必要は無かった。後、キャラの活躍とかメインが省かれてるから全く面白くない。
こんなとこ。
確かに安い右って感じだ