Coolier - 新生・東方創想話

幻想御節考

2009/12/31 11:44:50
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 博麗霊夢はゆっくりと目を覚ました。
 今日は大晦日。異変を除けば一年で一番忙しい日かもしれない。だが、慌てる必要はないのだ。掃除はあらかた済ましてある。日頃からすることと言えば掃除か縁側でのお茶飲みなのだから、特別必要なわけでもない。
 それならお節料理となるわけなのだが、その必要も今年はない。
 博麗神社では、毎年正月には妖怪やら何やらがぞろぞろとやってきて数日間に渡って宴会をするのが常となっていた。正月の宴会だから、当然卓にはお節料理も並ぶ。それを霊夢が賄ってきたのだが、近年の異変の増大はそのまま宴会メンバーの増加も意味した。霊夢自身、異変がある度に宴会で手打ちにしてきたのだから仕方がないといえば仕方がないが、とにかく増えた。となれば、作る手間も雪だるま式にゴロゴロと増えていく。
 正直、面倒くさい。
 が、異変の増加はこんなことも教えてくれた。
 別に自分で全部やる必要はないのか。
 以前は、異変が起こると解決に首を突っ込んでくるのは魔理沙ぐらいだったが、最近は他の連中も参加してくる。
 それなら、正月のお節料理も持ち寄らせたってかまうまい。
 異変解決は博麗の巫女の重要な仕事であるから、特別歓迎する気もなかったが、宴会用のお節料理を作るのは巫女の仕事ではないから、正直丸投げしたい。
 だから、こう宣言した。

「場所代としてお節料理を作って持ち寄らなかったら、正月は神社閉める」

 巫女にあるまじき宣言だったが、それだけに決意も感じさせ、一同は納得し、割り当てはクジで決めることになった。
 そんなわけだったから、霊夢は大層穏やかな気分で大晦日を迎えていた。





 魔理沙は作っていた。
 クジ引きで決まった彼女の担当は、煮しめ。自信はあった。一人暮らし歴はそれなりだ。片付けはともかくとして、その他の家事については実績もある。

「片づけなくとも死なないが、食わないと死ぬんだぜ?」

 キリッとした表情で、パチュリーとアリスにそう言い切ったものだ。片付けはメイド任せだったり、人形でやってたり、食事もせずとも死なない魔女二人には致命的に共感が得られなかったが。
 ともかく自信はあった。あったはずだった。魔女風きのこたっぷり煮しめで、舌鼓を連打させるつもりだった。
 だというのに、

「なんでこんなに黒いんだぜ?」
 
 鍋の中身は食欲を失せさせる勢いで黒かった。黒が八、他の色が二である。汁まで黒かった。染み豆腐まで若干黒っぽい、汁を吸ってるから。
 たっぷりの椎茸。なるほどたしかに黒くなる素養はあったかもしれない。だが、ここまで黒く見える理由はないはずだ。
 一体、どうして。
 悩んでいるとあることに気づいた。あるべきはずのアクセントがないので。だから、余計に黒く見えるのだ。魔理沙はあわてて鍋の中をかき回した。
 だが結果は黒、黒、黒。時たま現れる油揚げの黄金が心を癒してくれたが、やはりそれは見つからなかった。

「たしかに入れたはずだよな、人参」

 鮮烈な紅を求めて、やや多めに入れたはずの人参はすっかり姿を消してしまっていた。
 そして、魔理沙は、

「まあ、黒ってのも魔女っぽい色だよな」

 諦めた。
 自分一人、失敗したところで誰かがフォローしてくれるだろう。笑われたら笑われたで、それはそれだ。初笑いを提供できたと考えれば、それも誇らしい、と思うことにした。
 何より、作り直せる材料も時間もない。
 だから、魔理沙は諦めることにした。





 咲夜は作り終えていた。
 お節料理を分担して作ることが決定されたとき、美鈴は言った。
 中華だったらちょっとした自信があるんですよ。
 小悪魔も言った。
 小悪魔風な味付けを見せる時が来たようですね。
 咲夜は苦笑しつつも、二人の手伝いの申し出をありがたく受け入れるつもりでいた。一人でやっても問題はなかったが、なにより心意気がうれしかった。
 そして、紅魔館の代表としてレミリアが引いてきたクジは、

「ウチの担当はカマボコだってさ」

 練り物だった。
 作業は、時間を止めるまでもなく終わった。
 美鈴と小悪魔が切ったカマボコは、しょっぱい味がした。



 

 妖夢は作らなかった。
 彼女が作るはずだったのは栗きんとんだった。

「ねえ、林檎きんとんって新しいと思わない?」
「何を言ってるんですか?」
「気に入らない? それなら、柿きんとんはどうかしら。酔い覚ましにも良いと思うわ」
「そんな創作きんとんにチャレンジしてる時間はないでしょう。栗……食べちゃったんですか?」
「みかんきんとんはどうかしら? 冬の代名詞よ」
「いいです。芋きんとんで代用しますから」
「紫にね、パイナップルっていう果物の缶詰をもらったの、それできんとんを」
「芋も……食べちゃったんですか?」

 妖夢は作らなかった。
 いや、一応主の言うとおり作ってはみた。どれもこれもジャムっぽかった。




 
 輝夜は見守っていた。
 彼女たちが任されたのは肝心要の餅だった。それ、お節じゃなくね? という声もあがったが、徹底的に手間を省くつもりの巫女に封殺された。
 輝夜は永遠亭にそのことを持ち帰ると、永琳に陣頭指揮を執るように命じた。有能と思われる部下に託すのも主の器なのである。永琳は、鈴仙に委ねた。餅つきとなれば兎達の労働力頼みとなる。それなら彼女に預けたほうが効率的と判断したのである。永琳の命を受けて、鈴仙はてゐに相談するつもりでいた。現場の人望を集めるてゐの力が必要だと思ったのである。が、てゐは逃げた。驚き、鈴仙は永琳に報告した。が、永琳はスルーした華麗に。二人とも面倒くさかったのである。
 輝夜はそれを悠然と見守っていた。一番上の人間がオタオタしていては、更に混乱は増すばかりだし、無闇に口を出しても混乱するだろう、そう言ってはみたが、やっぱり面倒くさかったのである。
 そんなところに、大掃除やら急患やらも重なって指揮系統は混乱した。
 輝夜はそんな中でもやはり悠然としていた。嘘。みんながんばれと檄を飛ばしていた、心の中で。
 そんな輝夜の隣にてゐは座っていた。しきりにモグモグと口を動かしている。

「何食べてるの?」
「人参ですよ、姫様」

 言われてみると、手元の器には人参がこんもりと盛られている。

「なんだか、少し黒ずんでるわね。それに一口サイズ」
「ええ。軽く煮えてます」

 「そう」と首をかしげた。

「何丸めてるのよ!? はあ!? 餅よ、餅をつくの! 団子じゃなく!」

 どこからか叫び声が竹林中に響きわたった。

「大変ね」
「大変ですね」

 つぶやき、輝夜は人参を一つもらった。椎茸風味だった。





 霊夢は食べていた。
 細く長くと願いの込められた年越しそば。
 そして初日の出が見える頃には、おせち料理を携えた連中がやってくるだろう。
 なんとも気楽な気分だった。これほど心穏やかに新年を迎えたのは初めてだった。何を心配するでもなく、期待して待っていればいい。
 霊夢は穏やかな気持ちだった。

 初日の出が見える頃までは。
 あれよあれよという間に年末だなあと思ってたら、こんな感じになりました。特に考えてないのがアレですが。
 
 餡子・ごまなお餅を筆頭に、きんとん・伊達巻・黒豆と並ぶお節料理の糖分の高さには胸震える思いがします。

 楽しんでいただけたなら幸いです。
 それでは皆様よいお年を。
美尾
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コメント



0.1010簡易評価
10.80名前が無い程度の能力削除
それぞれ特徴のある御節作りで面白かったです。
もうちょっと他の勢力のも見たかった気がしますが。
13.80名前が無い程度の能力削除
うーむ、実にらしい御節づくり
和風派の魔理沙が煮染めが苦手とは意外でした
でも八雲さんちと守矢神社がなんとかしてくれ……ないよなぁ
14.90名前が無い程度の能力削除
紅魔館w

霊夢がある意味かわいそうだw
というかてゐwwww
16.90ずわいがに削除
あ、面白いw
こういう静かなギャグとか結構笑っちゃいますww