主な登場人物
・椛<もみじ>
本作の主人公、白狼犬走派天狗流に属する白狼天狗。妖怪の山で自警していたが、今回の事件に巻き込まれ、事件現場阻止しようと奮闘するも失敗し、責任を重く思い再度参加する意志をもち「妖怪の山奪還計画」に加わる。
腕前は自警団の中でも上の方に位置するが、隊長・大天狗よりは下に位置するため命令執行および命令権限は持っていない。
・博麗 華夢<はくれい かみゅ>
20代目博麗 霊夢。文の情報を聞きつけ今回の騒動の鎮静を目指す。
表はのんだくれかつ喧嘩好きの不良巫女。裏の家業は情報屋として幻想郷に起きている出来事を把握し行動に移し、代々伝わる異変解決=巫女奉仕活動を行う。
たいがいは力業で通すが、情報を愛し論理的で冷静に判断する場面もある。任侠はあり、独自の正義感を持ち幻想郷の秩序を乱す者はたとえ神だろうと知ったことモットーにしている
・射命丸 文<しゃめいまる あや>
天狗にして幻想郷の情報を配信する新聞屋、裏は情報屋の顔を持ち、[神との和解]では天狗部隊は知らないが、一部から多大な賞賛を得ている。
そのほかちょっとは関わる登場人物
・宇佐見蓮子<うさみ れんこ>
21代目博麗霊夢。華夢に対してのよき相方であり好敵手もある現代から継承した博霊。通称”レン”。天狗からの監視をくぐり抜けつつ外から情報を送る。
・犬走秋乃上<いぬばしり あきのかみ>
白狼犬走派天狗流の師として白狼天狗の長(的な)存在。
第一線ではなく武器の作成(刀鍛冶)、戦術の指南と言った技術職として陰ながら支えている。
プロローグ
幻想郷に酒場は存在する。
ここは天狗族の領地の中ではずれに酒場がある。
山間部の多い中平地に構えるここの店は集まりやすい場所にあり、天狗族以外にも様々な者たちが集まる。
―ちりんちりんっ……
酒場の重ったるい扉が開くと、すきま風が入り込んできた。
にぎわう酒場、種族・属性を問わず活気だっており、少々もやがかかっているが、風は迷わずカウンターと対当している二色に向かった。
「どういう風の吹き回しだぁ?」
二色の泡盛ロックを煽ると吹いてきた風の主に問う。
風の正体、それは白狼犬走派の長である犬走秋乃上である。
「久しぶりじゃな、霊夢」
そういうと秋乃上は二色、博麗霊夢の隣の席を陣取った。
「華夢で良い。 そう言うあんたは秋乃上<アッキー>か、最近見かけないと思ったらまたNEETってたか?」
「大将っ、熱燗を。 近い物はあるがな。 それより頼みがあるんじゃ」
「いつも冷やを頼んでいるあんただ、相当な内容だろうな」
と言い、ロックグラスに残る泡盛を一気に煽る霊夢。
「この酒場にほとんど天狗族がいないところをみれば、そちも察するじゃろうに」
と言いながら霊夢の空いたグラスにキープしてある泡盛をグラスに注ぐ秋乃上。
「わるいな、天狗の山がとられたって話か。 情報網では結構大事になってるぞ」
「その通り。 やっとのことで直属達が本腰をあげてこの2~3日には作戦が開始される」
「そんな中あんたがこうやってのんきに晩酌か?」
「そこら辺はお互い様じゃろう? 今回の作戦に、ある物を作ったんじゃ。 それをあたしの弟子に託す。 もちろん本人には伝えぬ、なぜだかわかるかの?」
「…木を隠すには林の中に限る」
霊夢は注がれた泡盛を煽り、秋乃上は用意された熱燗を杯に注ぐ。
「そういうことじゃ、我が白狼犬走派は武術に秀でては居るが直属の妖力には劣る。 それを補いかつ今回の作戦にあたしは刀を作成した」
そういうと秋乃上は熱燗を煽った。
「『クリエイター』の名を持つあんただ、ただの刀とは思えん」
秋乃上は杯を置き、懐から写真を取り出しては華夢に渡した。
「これは天狗族の諜報部が納めた写真、つい数ヶ月前にある住人から天狗族に渡された『八咫の鏡』じゃ、あたしはこの鏡を使って刀を作ったのじゃ」
霊夢は持っていたグラスを置き、写真を見定め始める。
「鏡を使ったって、天狗族の宝となっているわけだろ?」
「ああ、何度もちょいとお借りしてな。 調べているうちに、その鏡は妖力が発せられることがわかった。 力は未知数だが少なからず光を当てながら鍛えることによって今まで以上の刀ができたのじゃ。 もちろん持ち出して刀を作ってたとなると上層部は黙るわけはないじゃろう」
「まあ、宝を勝手に持ち出しているわけだからな」
霊夢はごそごそと懐をあさり始め、紙の箱を取り出しては卓上に置いた。
「情報に敏感な輩達じゃ、もちろん裏工作はしているから基本は漏れては居ないが…これを私の弟子である『椛』に渡す」
霊夢は紙の箱から筒状の物を取り出しくわえた、それは近年どこからか出回り始めている煙草であった。
「その椛を警護してほしい、そしてこの作戦を成功に導いてほしいのが今回の依頼じゃ」
シュッ…っといきよい良く燐寸を擦らせ、火を点すと煙草を目覚めさせた。
同時に秋乃上は新たに熱燗を杯を満たした。
「…大きくでたな、いずれにせよ、その椛ってのを警護するのが主になりそうだ。 だが取引相手は仮にも天狗族だ、報酬は高くつくぞ?」
「やってくれるかの?」
「最近、すきま風がひどくて、このままではおちおち寝れなくなりそうだからな」
天狗はこの幻想郷の中では良くも悪くも一番優位に立っている存在。
幻想郷には「天知る地知る、風知る博麗知る」という言葉があり、風とは天狗族を表し情報通信に長けており優位に立っている証拠でもある。
このまま天狗族が衰退すれば、天狗族を嫌っている者達は基本喜ぶのだが、幻想郷のパワーバランスが崩れ、さらなる異変が起こるため博麗の仕事が増え対処しきれなくなるおそれがあるのだ。
そのため嫌でもここで引き受けて異変を解決することが今後の幻想郷の平穏になると博麗霊夢は思った。
「そうかっ! 引き受けてくれるのじゃな!」
そう喜ぶと、秋乃上は勢いよく杯を煽り、勢い良く杯を空けた。
「あんたにはいろいろ世話にもなってるしな。 しかし情報がないとその椛ってやつに合流ができんのだが」
「そうじゃったな、一応これが椛じゃ」
と秋乃上はさらに写真を渡した、それは秋乃上とともにもう一人白狼天狗の写真が写っていた。
「それが椛じゃ。 基本はこれを頭に入れておいてくれ、基本天狗族だから天狗情報網で情報は交換している。 あと刀の方…写真を残してはいないのじゃが刀の鍔に2対の紅葉からなる“八葉椛”が目印じゃ」
グラスに残り少ない泡盛を一気に煽る霊夢。
「ほぅ…その椛って単語をつけるところ、ただ刀を作っただけではなさそうだが、まあ作戦が終わってからじっくり聞かせてもらおう。 情報㌧クス」
と構ってくれと待ちわびていた煙草をくわえる霊夢。
「よろしく頼む…のじゃが、本当にできるんじゃろうな?」
ふぅぅ…っと紫煙をたかだかに漂すとその煙を身ながら。
「博麗<カミ>のお告げだ、なんとかなるだろう。 所でどうやって入ろうかねぇ」
エピソード0
「神奈子様…諏訪子様…私はもう長くありません」
東風 谷早苗<こちや さなえ>、現世より幻想郷に越してきた人間。
そして早苗を巫とする神、洩矢諏訪子と八坂神奈子。
現世での神に対する信仰心の無さに落胆し、幻想郷に越してきたことにより異変が起きた。
その後博麗達の活躍により異変騒動を沈静させたこの事件「神との和解」
この東風谷早苗、幻想郷に年という概念はないがすでに人間の寿命を逸脱していた。
本人自身死期はすぐある、と確信していた。
「博麗の巫女より聞いております、元来同じ血でなくても名を継承させるのですが…私はこの幻想郷に越した際、現世より受け入れてくれたお礼と、感謝を込めこの代で終わらせることにしました」
神を司る巫が消えれば、神も当然のごとく消滅する。
それは幻想郷にとって、また現世も変わらない決まりである。
二人の神に残された道はない、だが早苗によって力を得た感謝は二人の神は動揺を隠せないで居た。
「…早苗、これを」
と、八坂神奈子は身につけていた鏡を外し早苗に渡した。
せめて存在するうちにと、和解したもっとも影響のあった相手、感謝の証として八坂神奈子の力の源・体の一部でもある『八咫の鏡』を別名「妖怪の山」と呼ばれる一帯を納めている天狗族に譲り、奉納してもらうことにした。
それから時は流れ、東風谷早苗は人知れず幻想郷の風となった。また風となる二人の神に見守られながら………
ところが、八坂神奈子は存在した。
それは諏訪子の意志と、早苗の奇跡を受け継ぐ形で実体化して存在することになる。
神が幻想郷のルールに則り存在した瞬間。
神奈子は以前に早苗が奉納した八咫の鏡を取り戻しに妖怪の山を目指す。
「停まれ!ここから先は天狗の領地だぞ!!」
妖怪の山に入ってしばらくすると神奈子は後ろから来た天狗の自衛に停められる。
「ここは天狗族の許されている者意外の立ち入りは禁じている!」
少し静止したが無言で神奈子は歩み始めた。
「聞かぬか! それ以上行くなら…!!」
自衛した天狗が神奈子に襲いかかる。
「行くなら?」
その時神奈子はにやけながら振り向いた。
木々が勢いよくざわめき始めた。
エピソード1「異変が起きたとき、二色が現る」
「はぁっ!はぁっ!」
あたりが森で覆われた妖怪の山を駆けめぐる一人の天狗。
天狗族の中でも腕の立つ白狼天狗の椛である。
天狗族の希望を背負い、また天狗族を守り抜くため奪われた居場所を駆け抜ける。
すべては一族のために…
ガサッッッッ!!/「っ!?」ザザィッッ!
草むらの陰から椛に飛び込んできた、妖怪である。
不意は打たれたが、椛は白狼天狗の発達された聴力と瞬発力を生かし、即座に急ブレーキし飛び込んできた妖怪の方に体を向け、同時に刀でなぎ払った。
この山に入ってから椛は幾度とこの仕打ちを受けなれ始めて居たのだ。
ザンッッ!「ぎゃっ!」・ザザッッ…
深い傷を負い、転び落ちる妖怪。
通常なら戦闘不能になっていて当然とおもった椛なのだが、妖怪は立ち上がり再度飛び込んだ。
ガシィィッッ!!!
刀を払うタイミングを逃した椛は盾で力を押し返すしか方法がなかった。
通常ならすぐに押し返せるのだが、妖怪は自身の爪を椛の盾を強く押しつけていた。
「くっどうしてこうも力の持った者達が!?」
深い傷を負っているにもかかわらず、対当に攻防する椛には焦りがあった。
椛は幾度とこういう仕打ちを受けてきてなれ始めてはいたが体力が初期より消耗していることに気がついていなかった。
「グっ!!」/「ぐぁっ!?」
ついにはには椛は妖怪の維持に押され、体制を崩し倒れてしまう。
すぐに相手をとらえ直した時には妖怪は振りかぶり椛に襲いかかり始めた。
―話はさかのぼり、数刻前・妖怪の山の端某所―
ここは妖怪の山の中でもはずれに有る所。
そこに天狗族の兵達が集まっており、大天狗が壇上に上がる。
「諸君、知っての通り我ら領地は新たに来た神により多くの同胞達を犠牲にした。 今回『妖怪の山奪還計画』に手を挙げた諸君の中にもその忌まわしき記憶を残している者も居るだろう。 そう、我ら天狗族の宝である八咫の鏡を奪われ、天狗族の場所を奪われ、諸君らに行き場を失った。 これは許し難い物であり、幻想郷の秩序さえも乱した。 その結果…」
まじまじと大天狗の演説に耳を傾ける天狗族の兵達。
その中に白狼天狗の椛が居た。
この椛という妖怪、妖怪の山が奪われたとき現場にいた自警団の一人である。
自警にあたり、反乱を起こす妖怪との攻防、そして主犯格まで追いつめたが主犯格に返り討ちにあい、一命は取り留めたが自力で避難することができず後から来た援護部隊によって救出された。
気が付いたときには緊急で設営された救護室で目を覚ました。
傷を負った事実より、自警団として警護する任務を果たせなかったことが椛にとって最大の屈辱であった。
この『妖怪の山奪還計画』はすぐに対策本部が建てられたが、今日に至るまでには時間を要した。
原因は負傷者も多く兵を集めるのに時間がかかったのと、天狗の諜報部隊から相手側の情報が鮮明に見えず、また予想以上に増大していくのにタイミングを見失っていたのだ。
だが、そのタイミングが遅れたこともあり椛の傷は完治していた、警護仕切れなかった事を悔い、この計画に参加する事を決意する。
「椛さーんっ!」
同時期、同胞である白狼天狗に声をかけられた。
「椛さんっ、秋乃上様がお呼びになってましたよ。 工房でお待ちしているそうです」
「ボクに? …わかったありがとう」
椛は白狼犬走派の長である犬走 秋乃上<いぬばしり あきのかみ>に自室である工房に呼び出された。
椛は工房の扉を開けると鉄細工、土細工などが飾られる部屋だった。
「秋乃上様、椛参りました」
「よく来たのぅ椛。 今回呼び出したのは他でもないわい」
あぐらの体勢からゆっくりと立ち上がる秋乃上、少々待ちくたびれていた。
秋乃上は工房の数々の細工の置き場からさらに奥より一本の刀をと入りだした。
少々埃はかぶっていたが、ふぅっと息を吹きかけ、鞘から刀の様子をうかがうと一点のサビもなく、真紅にしては明るい色をした鍔を施している刀を取り出した。
実のところ椛は以前の戦闘で自身が愛用していた大刀が折れ使用できなくなっていたのだ(もっとも使用できる状態ではなかったため、救出しにきた援護班は回収しなかった)
「『妖怪の山奪還計画』に参加すると聞いての、今度の作戦にこの刀をつかうのじゃ」
椛は差し出された刀を受け取りながら、
「秋乃上様、刀を貰い受けるのはとてもうれしいのですが…できれば以前の様に大きいのは無いのですか? それと、ボクにはこの鍔は目立ちます」
椛自身、筋力には自身があり、以前の用に大刀を振り回して敵をなぎ払うスタイルを撮っていたため、今回受け取った刀が心なしか不安に思ったのだ。
「なにを言うておる、弾幕はパワーで有れば剣もパワーかもしれぬが、でかければ、また多ければパワーがあるとはかぎらんのじゃ。 心配するな、今回はあたしが作製した中でも気に入っておる代物、今回の作戦に役立つじゃろう」
話を聞きながら鞘から刃を引き抜く椛、その刃の波紋はばらつきはあるが変に偏りもなく、また規則的でもなく全体を通して平均的にな形でまとめられている波紋だった。
軽く2・3回ほど素振りをし、刃を鞘にしまった。
「鍔には2枚の紅葉を左右に合わせ混んだ、刀は持ち主を判断するための手段で有れば鍔は顔じゃ。 塗料は…たしか「ふぇら…なんとかれっど」とかなんかいったかの? 真紅よりは赤く、さらに蝋で表面に塗り込ませてツヤを出しておるからそれなりな距離からでも見える。 あたしは気に入っておる。 そちがたとえ跡形も無くなっても、この刀がそちがいたことを証明してくれる。 まあ、仮にも白狼犬走派の者じゃ。 そうなって欲しくはないのが本音じゃ」
椛は鞘の紐を腰にぎゅっと結び、手を軽く添えてささえた。
その時、招集通信が天狗族内に響き渡った。
秋乃上は軽くため息をつきながら、
「悲しいかな、今のあたしにはこれぐらいしかできぬ。 椛や、必ず帰ってくるのじゃぞ」
と言いつけた。 負けじと椛は必ずや希望をつかむ顔で
「はいっ! ありがとうございます!」
と返し、勢い良く工房から飛び出した。
「まったく、何だかんだで気に入っているようじゃのぅ。 『クリエイター』としてはうれしい限りじゃ」
はっはっは…とうれしく思う秋乃上であった。
「今こそ天狗族の維持と威厳を見せつけるとき! 諸君、我ら天狗としての希望を勝ち取るのだ! 健闘を祈る!」
最後の号令と敬礼を決める大天狗に向かい、バッッッっと一斉に天狗族の兵達は敬礼をした。
同時に兵達は散開し、一路主犯格だと思われる特定された場所に向かっていった。
この当時の状況はこうだ。
主犯:八坂神奈子、宝の略奪と領地の不法占拠。
妖怪の山の奥に越してきた神社に潜伏している。
宝の略奪を期に他崇拝している妖怪達が天狗族に対して攻撃を開始。
いまや妖怪の山の3分の2を占拠していた。
今回の作戦に当たって、目標は3つ
・主犯:八坂神奈子を捕らえる(状況により抵抗するのならば抹殺して良い)
・奪われた宝を奪還する
・妖怪の山を奪還する
その中で神奈子に対して崇拝し、また天狗に嫌気をさしている妖怪達が集結しており、戦況は厳しいものとなっている。
天狗得意の上空からの雷撃による抹殺攻撃も考えたが山の復興に時間を要する上、天狗としての地位を下げてしまう恐れがある。また最近では情報文化が発達しており、阻止する方法が公ではないがでまわっているため、妨害される危険性もありリスクも高い。
そう考えた結果、今回は不本意ながら二手に分かれ、一方は山をかき分け主犯・神奈子を捕らえる、もう一方は援護を行い山を奪還する計画となった。
―話は戻り、再び妖怪の山での攻防
「ぐっ」
力に押され体制を崩してしまった椛、すかさず妖怪は間髪を入れず振りかぶる姿を見ることしかできなかった。
「へぎぃ!?」
と意図しない言葉を発したかと思えば妖怪は椛に対して直角に吹っ飛んでいった。
入れ替わりにフードを被った紅白の二色が椛の視界に入った。
その二色は横からケンカキック(押し出しハイキック)を横から浴びせたのである。
妖怪は10メートル先の木に強く当たり、立ち上がることはなかった。
「やっとみつけたわぁ、さすがに森の中だと遠目からじゃ見えないしな」
と言いながら二色はポケットからタバコを取り出しシュッとライターで火を点けた。
「風のある日はイムコに限る」
タバコを目覚めさせ、ふぅっと紫煙を大気に泳がせた。
「あ…あなたは?」
「私か、私は雇われ天狗の華夢<カミュ>だ。 よろしくな」
と椛に手をかして起きあがらせた。
「ありがとう、ボクは…」
「椛…だろ? その『八葉椛』は他に居ないはずだ」
と自分の鍔をみつつ華夢は答えた。
「『八葉椛』…そんな名前があったのか。 でも何でボクの名前を?」
見ず知らずの者から鍔の名称を教えられ、さらに名前も言い当てられる事には驚きを隠せなかった。
「ちょっと頼まれごとであんたと合流するように言われてな。 なんでかは知らないがそういう風に頼まれている」
煙草をつまみながらふぅぅっと紫煙を大気に解放させてはタバコをくわえ直す。
「それより、相変わらず森だと何処が何処だかわからんな、位置ぐらい把握するか…」
と片手を耳にあて、神経を軽く耳にあわせた。
「グリニッジ。 12時間遅れでもいい、聞こえる?」
それは椛にも聞こえる通常通信だった。
「《3時間経ったら起こすわ。それなりに良好よ》」
お互いが話する相手と特定でき、さらに華夢は話しをすすめる。
華夢がナポレオン、相手がグリニッジと言われる様だ。
「場所を把握したい、それと『エンジニア』の所をお得意の投影法でしめしてくれ」
「《それなりに気配がわかるから位置がわかるわ。 そこからなら川を上った途中に有るわ、川近くに有るはずよ》」
「トンクス、また頼むぜグリニッジ」
「《例には及ばないわよナポレオン、それにしても変よ? エンジニア宅の周辺が繁盛しているわ》」
「…それなりに急いだ方がよさそうだ」
「《そのようね》」
「また何かあったら目覚ましを設定するわ」
「《わかったわ》」
と華夢は神経を戻し、あたりを見回した。
「あの~…」
「ンっ?」
「これからどうするのですか?」
煙草をつまみながらふぅぅっと紫煙を大気に解放させる華夢。
「…今現状でうちらはゲリラ戦線を繰り広げているが、実際私自身もここまでくるのにも一人も仲間と出会ってないし、あってもすでにお休みなさっている者ばかりだった。 兎にも角にも忍び寄り主犯をボッコするのが役目であるが…支援部隊の天狗通信を聞いている限りでは思った以上に状態がよくないようだな」
「…というと?」
ひたすら必至に任務を遂行させようと躍起になってはいた、いかんせん自分の置かれている状況がいまいち把握していない事に気がつき始めている椛であった。
改めてタバコをくわえ、椛の方を見ながら、
「こういうときは情報を集めて作戦を考え直すのさ。 そのためにはここら辺に住んでいる奴が望ましい。 まあ、ついてこなくても良いがしらみつぶしにしていると援護班からあついエールを送られる」
と華夢は歩き始めた。
椛は華夢の言っている事を信じるにはまだ時間がいるが、ここに立ち止まっていても、また今まで通りの行動をしても戦果は上げられないだろうと判断し、とりあえずは華夢と共に行動することを選び、紫煙の出もとを追い始めた。
こうして、華夢と椛の本当の『妖怪の山奪還作戦』が始まるのである。
エピソード2「妖怪の山奪還計画」
「さてっ、それなりに近づいたが…」
二色の傭兵天狗・華夢と白狼天狗・椛は木々を隠れ回り川の上流へと向かった。
隠れながらではあるが、ちょうど洞穴が100mほど先にあることを確認できたがやたらと妖怪たちが出入りしている様に見えた。
「そのまま様子を見ているのも良いが…」
木陰から華夢と椛は様子をうかがっていた。
傭兵天狗の通信がひっきりなしに入ってくる、先ほどまでいた場所では無かったのをみるとそれなりに数が居ると華夢達は思っていた。
華夢が様子をうかがっていたその時、椛はすぐさま後ろに振り返った。
ブゥンっっ!
風斬り音と共に華夢は首を回すと刃が振り下ろされ向かってくるのが見えた。
椛は華夢をかばいながら押し出し回避した。
ザドォォッ!!/ザザァ!
刃は空を切りそのまま土を切り裂いた。
「悪いな、もう大丈夫だ」
かばい倒した形になったが椛は即様立ち上がり、ゆっくりと続いて華夢が立ち上がった。
「もはや終わりは見えてる…」
ゆっくりと刃を持ち上げると妖怪が姿を表した。
「通信番組帯が一致しているところをみると、傭兵かっ!」
椛は八葉椛を抜き、妖怪に向かって構えた。
「私もだけどね」
そういうと一歩後ろにいる華夢は煙草をくわえた。
「もはや天狗の時代は終わる! このままこの身が滅ぶなら!」
傭兵は刀を振り上げ、捨て身で突進し始めた。
合わせて椛も飛びかかる。
ブゥン/ガシィィィッッ!!!!
お互いがお互いを背負い、激しく刃と刃が競り合う。
「くっっっっ!」/「ぐぉぉおおおお!」
ギリギリィギィ……。
「このままではっっ…!!!」
急に自分のかかる力がなくなり、刀と体もろともはじき返せた。
ドサッ…
塊が地面をたたきつけられると、その傭兵は首から上を失った姿が現れた。
「っ!!」
その姿をみて驚かずには居られない椛。
あくまで椛は振り払ったにすぎず、ましてやまだ攻撃という攻撃を行っていないのに相手が倒れているのだ。
「なんだ、天狗族でもこの姿を見ていない奴も居るもんなんだな…」
華夢は堕ちた妖怪に歩み寄り、くわえていたタバコを上向きにして妖怪の前に立てた。
「あんたの生き様、見させてもらったぜ。 だけと今はこれぐらいしかできないんだ、悪いな」
と小声で弔った。
「この傭兵はいったい…」
「……まずその通信を切れ。 話はそこからだ」
「!!」
「情報通信に大きく貢献した天狗族だが、私はそれなりに横で聞かせてもらっている。 だがここでお互いが援護部隊の目的地にさせたくないンだ。 しばらくでいい」
「…わかりました」
と気を静め、通信の一切を遮断した。
「よし、切ったな。 こいつは…いや私もそうだが『存在しない天狗』だ」
「存在しない…天狗?」
「そう裏では呼ばれている。 何で私や他に参加している傭兵天狗が『存在しない天狗』と呼ばれているか知っているか?」
と華夢は新しくタバコを取り出しては、くわえた。
「天狗族の発展に大きく貢献したのがこの傭兵制度だ。 元々この情報技術の先駆者も天狗族であり、勢力をみるみる広げた。 幾多の争いにも向かうところ負け無しだったが、どうしても一族の犠牲は付き物だった。 そこで天狗族とは関係ない妖怪を雇うことにした。 それなりな生活の保証と天狗族の先進的な情報を得る事ができると有ればここにいる妖怪達は負け無しと言っても過言ではない。 だが、その代償に天狗に刃向かえばそこの妖怪の様に死を持って制裁される。 元々天狗では無いから天狗の一族が減ることは無い。 だから『存在しない天狗』と裏では呼ばれているンだ」
「………」
椛は返す言葉が見つからなかった。
自らが繁栄のために行ってきた行為、そしてその裏舞台を次々と他人から明かされ、己の情報不足さをまじまじと見せつけられた。
「ボクは…」
「ま、そんな気にすることはないぜ。 おかげでそっちの生活が成り立って居るンだ。 そこら辺は誇りに持ってて良いんだぜ?」
煙草をつまみ、紫煙を大気に開放させた。
「とりあえず、さっきからあそこに居る連中はそこの傭兵と同じ類が集まってそうだ。 もっとも、今回の主犯に付いた妖怪達もいそうだな」
と改めて洞窟の方を遠目ではあるが視察する華夢。
「覚悟しろよ? 椛。 これからが本番だ」
と右耳に手を添え…
「〈こちら『傭の89』。 川の流れに沿って移動中、特に異常無し〉」
傭兵天狗情報番組帯にて発信をした。
もちろん天狗族である椛にはこの通信は聞こえていた。
椛はこの状況下に何を言っているのかと思ったが…洞穴から妖怪達が一斉に川を下り始めた。
群れが水しぶきを上げて駆け下りてきた。
「さて、あぶり出しには成功したが…いかんせん数は多いか」
と煙草を吐き落とし、踏み込んでもみ消すと同時に腰を少し落とした。
「準備は良いか? 椛」
腰を落としたと同時に戦闘態勢に入る華夢。
「…はいっ!」
椛は改めて刀を構え直した。
一斉にやってくる妖怪達。
お札を取り出し、3~4枚はあるぞと広げ見せつけ、
「ぬんっっっ」
行きよい良くお札を妖怪達に向かって居合い飛ばした。
妖怪達の先頭集団に舞い降り、閃光。
何体かは吹っ飛ばされたがそこは集団戦線、気にせず残りの者達はつっこんできた。
放ったと同時に飛び込んだ華夢と椛。
二人は集団にもまれながらも、一体、また一体を確実にしとめていった。
「うるぁあああ!」
札だけに頼らず、己の拳、また蹴りや極めを屈指し、その場から宙返りしながら他の者に攻撃を行い、アグレッシブファイトを展開するその姿は二色の蝶が華麗に舞う姿その物の華夢。
「はっ! ぬんっっ!」
地面を這い、己の脚力をと旋回性能を生かし相手の隙を与えず刀「八葉椛」でなぎ払い、また盾で相手の攻撃をそらすことを忘れないバランスの取れた攻撃を展開する椛。
あたり一面は水しぶきと煙と怒号が舞う。
同時に有ることに椛は気が付いた。
それは先ほどの妖怪ももとより、この集団のほとんどが傭兵で有ることを示す通信装置をつけていたのである。
これは速様報告せねばと、激しい戦線の中天狗通信を開始する椛。
「〈本部へ! ぬんぅ!…こちら犬走の椛です。 お伝えします、現在傭兵が寝返ってます。 数はわかりませんが、はぁっ! こちらの方に攻撃を仕掛けてきています〉」
「《…こちら本部。 情報に感謝する、傭兵に対しての処置はこちらで行う。 そのまま作戦を継続せよ》」
「〈了解しました〉 おおっ!?」
ガシィ!
相手の刀が椛の防御姿勢に入っている椛の盾を捕らえた。
すぐに盾から刀をはがし、再度攻撃を行うに当たって振りかぶる相手。
ズバァッッッ!
椛はそのまま防御態勢には入らず、犬走特有の瞬発力を生かし下段に飛び込み払った。
次第に怒号と、水しぶきと煙が止んでいき、一面横たわった妖怪達と華夢と椛があらわになった。
死屍累々
その言葉がよく似合う、川の出来事。
「はぁ…はぁ…」
激動の時間が過ぎた。
「ふぅ…こんだけやったんだ。 もういないだろう」
と一息ついた華夢。
改めて洞窟の方に足を運んだ。
「邪魔するぜ」
洞窟の中に入る華夢と椛。
そこには荒らされた部屋、あたりに散乱する工具と部品や欠片。
「追いはぎに遭ったにしては偉く整理されてるな」
とあたりを見回すと、水色の丸まった物が角でふるえていた。
その固まりに歩み寄る華夢。
「天気が悪い日は、博麗が勝手に変えてくれるだろうに」
びくっと一瞬物が硬直し、
「そんなこと、どこにも書いていないじゃない」
「可能な事に関してはしっかり書いているつもりだぜ」
ばっと華夢の方をみて行きよい良く飛び抱きついた。
「華夢っ~!」
丸まっていた物は妖怪であり、ここに住みついて天狗族と交流がある河童の河城にとりであった。
「お~よしよし、良く耐えたな」
「にとり…?」
「ん?…椛~!」
にとりは椛を確認すると、華夢から離れ椛に飛び込んだ。
「ああ、にとり。 久しいね」
椛も久しぶりに会う友に安堵をみせた。
だが抱きついた腕に力が全然入っていなく、こちらが支えなければ抜け落ちてしまうのではないかと支えた。
「ところで、これはいったい…?」
と椛は散乱したあたりを見渡しながらにとりに問う。
ビクッ
するとにとりは静電気が走ったかのように反応したかと思えば頭を抱えて先ほどの様にまるくなってしまった。
「ある日から…く…来る日も来る日も…」
先ほどの安堵した表情とは一転し、ひたすら冷や汗を出し始めた。
「来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も妖怪経ちが押し寄せて来たんだ!押し寄せて来たんだ!!!それで…それで……」
「この装置をはずしていたんだろ?」
と華夢は耳に指を指した、それは華夢が傭兵天狗として参加するに当たって装着を義務づけている耳栓の形をした物だった。
よく見ると通信機だった物の破片がちらほら落ちていた。
「それは…傭兵が使用する通信機」
「そうだ。 さっきみたよな? この装置は作戦中で天狗部隊の情報交換に使う通信機という名目で使っている。 だが、裏切り行為を働いた者に対して制裁を与える装置でもある。 そして、無理に外しても制裁が与えられる親切設計だ」
「じゃあ…なんでにとりを…?」
「簡単だ、どっかからかこの装置の仕様があれば、にとりに無理矢理取ってもらうだけさ。 妖怪の中でもこういった機器の扱いに長けているのを妖怪達は知らない訳じゃない。 例えにとりがどんな状況だろうが知った事じゃない。 なんせ奴らは文字通り必死だからな」
改めて椛はにとりを見る、よく見ると服も部屋に居るはずなのに服は所々切れ、見える肌はアザや切り傷だらけだったのに今気がついた。
それはいやがおうにも妖怪に対しての解除にあたって休みなく行われてきた証拠。
どんな状況でも休ませてはもらえず、また摂関を受けていたのだろう。
「うっ…」
そう想像した椛は口を手で覆った。
「まあ、それが正常な反応だわな。 それをにとりは耐えてきた」
この時華夢の中には沸々とこみ上げてくる物があった、ギリギリっと握る拳が物語っていた。
こうやって情報仲間であり友であり者が、いくら中立な立場とはいえ作戦に巻き込まれる。
散っていった天狗族の兵達、傭兵天狗。
上層部は刻々と時が過ぎるのを待つ一報。
「…〈グリニッジ…お目覚の時間だ〉」
と耳に手を添え、発信をおこなった。
「…さっき情報を聞いていたわ、傭兵を処理するみたい。 華夢もこのままだと吹っ飛ぶ。 その装置を外させて」
はっと椛は気がついた、華夢の立場は傭兵天狗であり、華夢もまたその装置を付けているのだ。
そしてよろけながらも力を振り絞り立ち上がるにとりの姿が華夢にはわかる。
だが華夢は決した。
「いい、自分でやるっ! それを貸せ!」
と地面に転がっていたマイナス精密ドライバーをつかみ、握りしめた・
「ぬんっ!」
ガッッッ/ブワァ
華夢は精密ドライバーで耳に装備している通信装置の上を、つまり耳を刺した。
「!!!っ」
「華夢さん!」
「ぐっ…!」
痛みによろめく華夢、だがあきらめずまた振りかぶった。
ガッ!…ガッ!…ガッ!
「やめて!」
にとりは押さえつけようと飛び込んだが、まとわりついてもすぐにはがされてしまった。
「とめるな! これは私の問題であり、幻想郷の大問題だ!」
返しを壊さない様、耳の肉をちぎり取るため何度も何度もマイナスドライバーでえぐった。
散っていった兵たち、妖怪達をこの一打一打に凝縮した。
「くっ…!」
「うぅ…うぅ」
椛もにとりもその光景はとても直視できる気にはなれなかった。
そして、返しの部分を掘り起こせたのか、華夢は装置とその上をつかみながら装置を引き離そうと始めた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ブチブチっっ!
装置をはずすと振りかぶっては洞窟から行きよい良く装置を投げ飛ばした。
「はぁっ…はぁっ… かゆいぃ…すげぇかゆいぞ!。 このかゆみは今まで受けた にとりの分だ、そして散っていった天狗たち、妖怪として散っていった『存在しない天狗』の痛みだ! 良く聞け!天狗どもがぁ! おまえらが行ったことは確かに繁栄につながった! その代償は本来あるべき妖怪という概念をもみ潰してきた! たとえおまえらが許してもこの私が許すとはまずないぞ! わかったかぁあああああああああああああああ!!」
洞穴から外に向かって怒号を上げる華夢であった。
「華夢さん…」
~しばらくして~
「まったく、激しい声が聞こえたかと思えば…激しく痛めつけた様ね」
しばらくして帽子を被った二色がやってきた。
にとりに耳の手当をして貰いながら華夢は
「まあな、ずっと大人しくしているのも少し飽きた所だったんでな」
「あなたは…?」
椛はやってきた二色に問う。
「私は蓮子、そこにいる華夢の同居人よ」
「聞き覚えのある声色…さっきの華夢さんの通信の相手?」
「ちょっと前くらいの通信を聞いていたなら、あっているわ」
「さて…レン、とりあえずにとりを離脱させてくれ。 ここはそのうち天狗の連中が丁重にもてなしてくれるぜ」
「情報を聞いている分では、そのようになりそうね。 さ、にとり」
と蓮子はにとりを背負った。
「あ…ありがとう」
「例にはおよばないわ」
「さて、後は頼むぞレン」
「当然よ…あ、そうだ」
とすれ違いに小声で
「天狗もとうとう“ハゲボウズ”を用意し始めたわ」
「!!っ、本当か?」
「くれぐれも、上手に焼かれないようにね」
「…トンクス」
そういうと華夢と椛は洞窟を後にした。
エピソード3「神と再和解せよ」
川を上ったところに滝に直面した。
それは通称“天狗の壁”と呼ばれ天狗族最大の防衛ラインである。
今となっては占拠られてしまい、天狗を苦しめる結果になっている。
「ここを越えれば…いよいよやっこさんを拝めるって訳だな」
紫煙を漂わせながら華夢は言う。
バサッ…
「そう、いよいよですよ?」
バサッ…と地上に降り立つ妖怪。
「あなたは、諜報部の文さん」
天狗直属の諜報部隊、射命丸 文<しゃめいまる あや>
「久しくね、椛さん。 この先を行けば…」
と途中で話をやめた、それは有ることに気が付いたのだそれは、華夢を見ながら…
「あれぇ? それにしても、何で博麗さんがこんな所に居るんですかねぇ?」
「博麗!?」
椛は驚いたのには無理はない。
以前、「神との和解」の時に名をはせた人間。
そして、昨今妖怪達の祭りと言う名のデモ行進「百鬼夜行」の時にその場に居た妖怪達をすべて沈黙させたと言うという噂もある。
幻想郷の象徴、博麗。
幻想郷では知らぬ者の居ない人間であり、また天狗族の中でもおそれられている存在でもある。
「華夢さんが…博麗…?」
わずかに後ずさり始める椛。
「本来はそう呼ばれるべき何だろうけど、特に看板はだしてないからな」
「ここは我々が今忙しくやっている最中です、人間は…とくに博麗霊夢さんは出入り禁止ですよ?」
「ほぉ? そこら辺に転がっていた首なし何か意外に、天下の天狗さんがまだ何か隠す必要があるのかな?」
椛は気が付いた。
傭兵に支給している装置を外している現在、華夢は現在天狗族からは部外者扱いになっている。
情報文化によって成長した天狗族、天狗族の不都合を知る者は容赦なく抹殺する事を義務付けている。
もちろんその事実を知った以上、椛は華夢を抹殺しなければならない。 しかしここまでこれたのも華夢のおかげでもある椛は複雑な心境に有っていた。
「《椛…? キーッッ…キキー……》 大人しく帰って今まであったことを忘れる事をおすすめしますよ?」
ビクっ
「!っ……」
椛と華夢の脳内に高周音波が響きわたる。
「【文の奴…天狗族のあれを使い始めたな…。 耳が割れそうだ】 そうだな、部外者が居ちゃ仕方ないもんな。 それに物忘れが激しい方なんだ」
と華夢は腰を落とし、札を握り構えた。
椛は刀を振り上げた。
「そうですよ、とっても邪魔です!」
一本足を地面に食い込ませ、反動で飛び込む文。
腰を一段下げる華夢。
八葉椛を振り下ろし始める椛。
「だろうと思ったよ!」
華夢は先の通り情報通信に長けている。
天狗の裏情報はどこから取ってくるか、それは至極簡単で天狗から直接情報を傍受するのだ。
天狗が大部隊を操るのに、天狗通信を使い、近くにいる天狗族の者をマインドコントロールする術がいくらかあるのは華夢は知っていた。
それがさっき天狗情報に流れた高周音波である。
実際、椛は自分の意志ではなく事実上、文の意志によって華夢を抹殺する意外の事を考えさせない工作を与えてた。
反動で文では無く後ろに居る椛に向かってバックステップ
ゴォッッッ
「!!!っ」
刃が華夢に振り下ろされきる前に、ショルダータックルする体勢になった。
華夢に飛び込んだ力を相対性理論の力も相まって椛はよろめいた。
そのすきに文の居た方に視線を戻すがそこに文は居なかった。
どこだ?と華夢は内心思いながらも顔をを大まかに動かせばその死角を憑かれてしまう。
速様視線だけをかえ、また、目を動かし文を探した。
空を切る音がかすかだが左側から聞こえ、首を曲げ始めた。
「ひだ…」
ドォクシュカッッッ!!!
華夢の真横から文のニードルキックが突き刺さった。
「がぁっっ…」
ザガッッッ!ザザザザッッッ!……
華夢は首がくの字になりながら吹っ飛ばされ、地面に引き面れた。
そして、立ち上がることはなかった。
「…あれ?」
高周音波が途絶え、我に戻った椛。
するとそこには白目ををあけながら口と鼻から、そして通信機をちぎり取ったところから血が流れていた。
「かmっ」
「さっ、椛!」
ビクッ
華夢の方に寄り添おうとしたが、文の一喝で一掃される。
天狗族ではあるが白狼犬走派の椛にとって天狗直属の文には逆らえない立場なのである。
「邪魔は排除しました。 さ、これからが本番ですよっ」
と文は弾ませて“天狗の壁”をあがり始めた。
「…華夢さん。 ボクは…すいませんっ!」
ここまで引っ張ってくれたのは華夢のおかげであり見捨ててはおけない、だが本来の作戦に部外者はおけないこの状況。
断腸の思いではあるが椛は華夢を見捨てて文について行った。
~しばらくして~
「…あたっ…たた……」
首を押さえながら起きあがる華夢。
落ちた煙草をひろうと葉の部分はすべて灰になり、フィルターだけがきれいに残っていた。
華夢は新しく煙草を取り出し、くわえた。
「あのパンヤ(“ぱんちらの文を”略して)めぇ~、私が暇なときに首ブリッジをしてなかったら今頃網焼きされて肥料送りだったわ。 今度有ったらケツドラムの刑にしてやる」
と言いながら歩き始めると
バツバチッッッ!
「ぐわぁっ!?」
何もないところなはずなのに華夢は押し返されてしまった。
いや、よく見ると自分自身の経っている地面とその先の地面の色がほんの少しではあるが変わっていた。
「くそ~結界をはったか。 ここら辺の情報漏洩対策はしっかりしているなぁ」
ゆっくりと立ち上がり、煙草を取り出してはくわえた。
「とは言ってもここでまったりしている訳にはいかないからな…」
腰を落とし、気をため始めた。
「愛札『夢想開封』!!」
霊気をためた力が華夢の右足に集まり、勢いよく飛び出しては結界の貼られている地点で蹴り押し倒す。
バツバツバチバチブチバチバツバチブビバチィババアババチっっっっっっ!
「おぉぉおおおおおおおぉぉおおあぉおおっっっ!!!」
バチチババパァン!
「ぐあっ!」
ついに結界に負け、吹っ飛ばされてしまった華夢。
すぐさま立ち上がり、結界に向かいながら。
「くそがっ!」
ザッっと地面を蹴り上げると、石が結界に向かって飛び込んでいった。
キッ…キキッ……
石ははじかれることもなくそのまま素通りした。
「ン? 石が素通りするって事は…」
ヒュゥゥゥゥゥウウウウ…!
華夢の後ろの方から風切り音が聞こえてきた。
ガッッ!バチバチバィチアバチチィチバアバアバビチバアバッバ!!!!…
「うぉぉ!?」
何かが結界にあたり、力が反発し合う反動が華夢に伝わってきたのを察知した華夢はその場から飛び込み回避した。
反発し合う力がおわると、華夢はその現場をみた。かすかに結界が修復しているのが見えるが、その先に金属の球体が見えた。
何かが起こったかわからずきょとんとする華夢。
「《エンジニアからナポレオン。 睡眠は大切よ?》」
と華夢の方に通信が入って我に戻った。
「……〈エンジニア、好きなときに寝てなければ馬には乗らないわ。 今のは何だった?〉」
「《ナポレオン、へへー新作が完成したんだよ。 霊気を使って放つ秘密兵器》」
「《こちらグリニッジ、エンジニアと一緒に居るけど軽く解説するわ。 私の部屋に避難させたら、丁度いい部品を見つけたみたいでそのまま超電磁砲を作っちゃったみたいなのよ。 さっきのは軽合金の弾よ》」
あらかた現世に避難させたのだろう、とりあえず博麗の原則を守っているかは心配な華夢ではあったが、ひらめいた。
「〈超電磁砲…それだ! エンジニア、もう一発できるか? 今度はタイミングを合わせればここを突破できそうだ〉」
先ほどの石が素通りし、自分自身がはじかれる所をみると少なからず電気抵抗があるだろう。
軽合金、つまりアルミニウムは電気抵抗が薄い、だが超電磁砲は文字通り電気を使い加速させ弾を放つ方式をとっているため、少なからず電気すくなからず帯びることになる。
そして先ほどの結界がめり込む形になり、電気が失うとそのまま落ちる。
結界が力が働いているときは修復しているときであり、きわめて不安定な状態に陥る。
そこで華夢は考えたのが、超電磁砲によって放たれる弾で結界を当てる、不安定状態になっているところに『夢想開封』を放つと言う寸法である。
「〈たのむぜエンジニア、電札『スターライトイレイサー』!〉」
「《かってに銘々しちゃって…》」
そう言い放つと華夢は腰を落とし、気をため始めた。
ヒュゥゥゥゥゥウウウウ…!
「きたきたっ」
華夢の右上空から超電磁砲の弾が飛来してきた、そして結界に激突。
ガッッ!バチバチバィチアバチチィチバアバアバビチバアバッバ!!!!…
「さらにっ愛札『夢想開封』!!」
霊気をためた力が華夢の右足に集まり、勢いよく飛び出しては結界の貼られている地点で蹴り押し倒す。
今度は1からではなく、修復しようとしている結界、つまり不安定な状態をねらってさらに力を押し込む。
バツバツバチバチブチバチバツバチブビバチィババアババチっっっっっっ!
「おぉぉおおおおおおおぉぉおおあぉおおっっっ!!!」
バチチババパリィンリンッッッ!
結界の余波があたりに散らばった。
結界は修復仕切れず、破裂した。
「うっしっっ!」
軽くガッツポーズをとる華夢。
「〈エンジニア、㌧クス。 もう一度お願いすると思うから連絡を待て〉」
「《了解したよっ!》」
通信を終え、足取りが軽くなる華夢。
「【にとりのやつ…さっきまであんなに衰弱していたのに偉く元気になったな。 あとでレンに聞いてみるか】」
と内心思いつつ“天狗の壁”をあがっていく華夢であった。
~一方、先を急いだ射命丸 文と椛~
「さあ、追いつめましたよ」
本拠地である神社にたどり着いた天狗二匹。
そこには数多くの妖怪達が身構え、奥に主犯の注連縄と柱を携えた八坂 神奈子<やさか かなこ>が鎮座していた。
「良いですか椛? ここからが正念場ですよ」
文は腰を落とし戦闘態勢に入った。
「はい!」
その場に居た妖怪達、つまり信仰心を手に入れた者達は二人に襲いかかる。
主犯が集まるところだけあり、数は多かった。
文は上空から、椛は地上から、
文は持ち前の団扇で突風をあおると道を開き、間髪を入れず椛が斬りかかる。
「はぁっ!!」
数が多い、だがここを乗り切れれば天狗の未来が開けると言う信念が椛を支えた。
上空からの雷撃をやめない文は同時に何かを探していた。
「見つけたっ!」
それは今回の主犯とされている八坂神奈子である。
文は今まで椛の付近を扇いでいたが、次に神奈子に向かい力を放った。
同時に力をぶつけた所に文が降り立った。
「見つけましたよ!」
「天狗かっ!」
次の瞬間、文は幻想郷一と謳われる速さを売りに、神奈子の視界から消え、弾を放ち、現れたかと思えば攻撃をくわえて神奈子を攪乱させる。
間にも押し寄せる妖怪達を突風を発生させ攻撃をくわえていた。
そこは文と神奈子の独壇場になっており神奈子は攻撃をしようにも視界を捕らえられず攻撃を行えずにいた。
攪乱作戦が功を奏したか、神奈子がよろめいたその時に文は見逃さなかった。
目の前にそびえ立ち、
「終わりです」
ドォオオオオン!!
目の前で竜巻を発生させ、全勢力を神奈子にぶつけた。
辺り一面は砂煙、ひたすら砂煙である。
天狗自慢の力でもあり、文はにやけていた。
砂煙が晴れ始まると、奥に居たはずの妖怪が倒れていた。
それだけ力の反動が及んでたという事になるが、視界に神奈子の姿が映らなかった。
ビュッ!ぎゅし!
「!?っ」
晴れきろうとした砂煙から縄が飛び込んできたと思えば文の首を捕らえた。
「蛇に巻き付く烏…か」
ぐぐぅっ!
「文さんっ!」
文が捕らわれているのに気が付き、瞬発力で飛び出す椛。
「【ようやっと間に合った…】」
木々を利用して隠れて戦況をみれるところまで来た華夢。
そこには注連縄で首を巻き付かれた文の姿があった。
「おっ…ぉぉおっ…」
ぎりぎりぃ…
縄を自力で外そうにも無力と言う言葉が文には身にしみていた。
ぐぐぅきょっっ!
「〈プツゥーーーン〉」
ビクゥゥっ!
椛と華夢に静電気の様な感覚が走った、それは本来脳の中で切れてはいけない神経が切れた感覚でもあった。
「あっ…あ……」
体が小刻みに震え始まる椛。
ドサッ……
力無くその場に落とされる文。
「【くっ…文のやつ、半ばわざと捕まりにいったな? その者が滅すると近くに居る者は天狗通信を通して感覚を共用させ、また滅したことに対する恨みを増幅させる機能か。 どこまでドSな事を思いつきやがる】」
震えが止まらない椛だが次第に刀を握る力が強くなり、眉間に対しても力がよってくるのが離れてみている華夢からも見えた。
「うぁあああああああああああああああああああああ!」
シュゥンッッッ!!!
正常の時より瞬発力を増す椛。
ザンッ!!ズァザッ!ザサッ!ドドッ!ドンッ!…
「ぐっ!」「がぁあ!!」「ギャァ!」…
その場に居た妖怪達が斬られては倒れ、斬られては吹っ飛ばされと次々と倒れていった。
対峙する妖怪達は必死に椛の攻撃を阻止しようと試みるも為す術も無く吹っ飛ばされた。
ザンッ!ガシッ
椛はある妖怪を斬りつけた後、倒れる前に片方の手で妖怪の首を握りしめ、高々と持ち上げた。
その握りは自身の血管が耐えきれず破れるほどだった。
「あっあわっ…が……」
そうしている間も多勢で椛に飛び込む妖怪達。
ギロォ!
ザザッ…
殺意しかない椛の目を見た妖怪達は思わずおそれて後ずさりした。
そこに飛び込む紅白の二色。
「そこまでだっ」
デゲシィフゥドンッ!
「ガァッ!!」
椛の先に回り込み、裏拳と札の力を顔面に放った。
目の前の妖怪しか集中していなかったせいか、また札の爆発も相まって椛は倒れた。
「少しは頭を冷やそうぜ」
ゆっくりと妖怪達が群がる方に歩み寄るフードを被った二色。
「博麗か…」
社務所を背に神奈子が発した。
「久々普通の名前で呼ばれたわ。 危うく忘れかけてたわ。 さて、そろそろ戯れるのも終わりにしようぜ」
「多勢に無勢、天狗も終わりの様に見えるぞ?」
華夢は煙草をつまみ天に高々と上げ、
「どうかな? 電札『スターライトイレイサー』!」
ヒュゥゥウウヒュウヒュゥウウウウウウ!!!
上空からエネルギー物体が飛来してきた。
ドォオンッッッ。
「グォォッッ!」「ギャアッ!」
ドォンドォンドォンッッッ!
次々と落ちてくる弾、弾。
それは先ほどの非金属弾、にとりの超電磁砲である。
「ぐっっっ!!!」
バチィン!!
すかさず結界を張り防御態勢に入るが、結界を押しとされ被弾する神奈子。
ドンッッ!……
飛来音と落下音が停まるとあたりは砂煙と静電気にあふれていた。
砂煙がさめないが、華夢にはほとんどあたりに気配が無いことを実感していた。
砂煙がはれてくるとそこには八坂神奈子の姿があった。
被弾した後もあり、服が所々かすれていた。
「《ナポレオン~、ごめんごめん勢いよく行ったけど装置が耐えきれなかったみたい》」
ようは兵器が妖力に耐えきれず、壊れてしまったのだ。
「〈十分だ、㌧クスな〉さて、無駄な観客は消えたわけだ」
「まったくだ。 久々常識の無い者と出会ったな」
改めて煙草をくわえ、紫煙を大気に放出させる。
「そこら辺はお互い様だろ?」
お互いの顔がにやけていた、それは開幕の合図。
煙草をくわえ直すと腰を札を放った。
合わせて神奈子も☆の模様を空に切り、妖力を発生させた。
お互いが同時にお互いに向かい飛び込んだ。
力がぶつかり合い、共に相殺した。
力が消えたと同時にお互いは間合いをつめ、お互いが弾を発生させる余地を与えない状態に追い込んだ。
幣で神奈子を払う華夢、注連縄と柱を携えている重装備ながらしゃがみよける神奈子。
携えている注連縄で放つ様に払う神奈子。
仰け反ってよける形になった華夢、体勢を戻さず倒れ込む華夢。
追い打ちに踏みつけ始める神奈子、札を足に盛っていき蹴り上げ爆破させるる華夢。
小爆発、体をひねらせ直撃を免れる神奈子。腕の反動を使って立ち上がる華夢。
「【くっ、やっぱり情報通り強ぇ! 通りで天狗が手こずる訳だ】」
と華夢は実感していた。
事前に手に入れた情報ではここに居た巫<かんなぎ>ともう一人の神がこの神奈子と融合し、実体化、つまり人間と同等になったと言われている。
そもそもその巫は力があり、奇跡を起こすと言われているとだけあり、先代の博麗と同等の力を持っていると聞いたことがあるためあらかた覚悟はしていたが予想通り手強い相手だった。
札を放っても避けられ、拳を突き出しても受け止められ、蹴りをかましても押し返される。
もちろんダメージは与えられている感覚は有るが…
「はぁっ!」/「ぬんっ!」
ガァアアアッッッッ!!
二人の間に互いの拳が混じり合った。
神奈子は涼しい顔を通していた。
華夢も合わせて涼しい顔を通していた。
「《………そうだ》」
う…うぅーん…
「《良い天気だなぁ、コレな…紅葉も良…拝めそうだ》」
こんな時に天気の話が?
「《聞こえて…るか? 椛》」
!!!
この通信は天狗通信ではあるが聞き慣れた声が通信で聞こえた。
それは目の前で弾と、拳と交じ合わせている華夢の声だった。
本来なら入るはずのない通信。
「《いいか? 正常なら良い。 白狼なあんただ はっ! が猫みたいなあんたも見てみたい者だ。 容赦無くたた斬ってくれ》」
落ちていた八葉椛を握り、ゆっくりと立ち上がる椛。
「華夢さん…」
本来、天狗情報に部外者が入ることは禁じており、また進入した者は容赦なく排除しなければならないが、椛はそんなことは今日今現在この瞬間そんな場合ではないと判断した。
猫みたいな…!
と想像を始めた椛、なぜあの人は奥義を知っているのかと一瞬だけ思ったが、それもそんな場合ではないと片づけた。
その想像できる奥義は師である秋乃上から教えられた奥義であり未だ白狼犬走派の中でも使える者が居ないのだがそんな場合ではないとかたづけた。
「〈なうっ!〉ぬんっ!」
華夢は蹴り上げたが空を切りそのままムーンサルトの体勢に入った。
ところが空中で神奈子に注連縄で首を捕捉されてしまった。
「ぐっ!」
ギリギリギリィッ
「終わりだ」
「ど…どうかな?」
ぐわっ!
華夢の後ろから二色が上に現れた、椛である。
椛は視点を神奈子に合わせ、神奈子が椛を捕らえられていながらも宙返りひねりし、振りかぶった。
「はぁああああ!!!」
ズバァッッッイ!!
「!!!」
椛は3Dエアという力の入りにくい不安定な体勢から回り込みかつ斬り倒す。
元々空を舞うことが不得手な白狼天狗にとって難題の奥義である。
「奥義『天狗舞』!」
この技は椛は知っていながらも役に立つ場所は無く、また隙が多いのが欠点であり同じ白狼天狗でも技を使えたのは犬走秋乃上だけだと言われていた。
ゆっくりと体勢が崩れていく神奈子。
刀が反射する、神奈子はフラッシュバックの様に風景が変わった。
「お、おまえは…!」
消えていく視界、その中で神奈子は見覚えのある姿が目に焼き付いた。
「アマ…テ……ラス………」
バザッッ……
その言葉を残し、神奈子は倒れた。
「うわっ!」
同時に縄で絞められた華夢は開放され、落とされた。
「はぁ…はぁっ……」
教えられていたが初めて行った奥義が決められた驚きと、全神経を集中さた反動と、事件後数多くの仲間が散っていた無念、そしてこの瞬間散っていった仲間の悲願が入り交じった感覚に陥り、立ちつくすことしかできなかった。
「やったなっ…〈グリニッジへ、時計が止まった。 修理に来てくれ〉」
椛に詰め寄りながら通信を行う華夢
「はぁ…はぁっ…」
おわった…おわったんだ…と思う
ぴくっ…と微動している神奈子だが気配は感じ取れない、戦える状況にはないと見ている。
「こ、この妖怪が…はぁ…主犯…」
「うぅ…うっ…」
意識を取り戻した文、そこには倒れている神奈子と、それを見下している椛の姿が見えた。
文にとってはまだ終わってなかったかと思ったが瞬時に切り替えチャンスに見えた。
「【アドリブは入ってしまいましたがここでフィナーレです…!】」
キィーンッッ
ビクゥッ!
椛の中に高周音波が受信する。
椛は逆らいながらも、本人とは別の意志でゆっくり、ゆっくりと刀を振り上げた。
ガィィィイインッッッ!
「がぁはっっっ!?」
高周音波に気がついた華夢は文の顔面をサッカーボールキックを浴びせ、気絶させては高周音波を止めた
「…はっ!?」
また先ほどまでと違う風景が浮かぶ椛。
「危うくそのまま帳尻を合わせられそうになったわ」
と華夢は椛を抱えながら神奈子から離させた。
椛は何が起こってたのか理解ができなかったので抵抗することはなかった。
「天狗の描いたシナリオはこうだ。 神奈子に宝を奪われる・天狗がボッコる・天狗の威厳を保つ。 あいだにいろいろとアドリブはあったが、このままでは本当にそのまま帳尻を合わせられそうだった」
「………」
「とりあえず、レンが居ることで現場を荒らされないようにする。 そして私は…」
シュボォッっとライターで煙草を目覚めさせた。
また、通信を使いすぐに蓮子を来るように呼びかけた。
「風が強い日はイムコに限る。 この風を止めてくる…」
煙草のフィルターをかみしめ、行きよい良く飛び出した。
同時に入れ替えで蓮子がやってきた。
「まったく、情報には早いんだから…」
と神奈子の前に立ちながら華夢を見る蓮子。
そう、天狗の戦いは終わったが…華夢の、博麗霊夢の戦いは終わっていない。
エピソードファイナル「幻想の軌跡」
『エマージェンシー! エマージェンシー!』
天狗族の施設に鳴り響く非常事態宣言。
「ぐあぁっ!」
名だたる天狗達ですら吹っ飛ばされる始末。
たった一人の人間を相手に群がっては吹き飛ばされ、また狙撃をしようものなら札で返される。
蹴り、ひねり飛び、幣で払い、札を放ち、拳で答える。
次からやってくる天狗も、ばったばったと倒れていく。
終いには天狗が見ほれてしまい、戦う気が失せてしまうほどだと後の文献に書かれていた。
ドガァラァアアアン!!
扉が行きよい良く壊され、飛び散る煙と埃から幻想郷を象徴する二色の蝶が姿を現した。
「天知る地知る、風知る博麗知る。 だ。 お届けに来たぜ」
と勢いよく扉から出てきたのは20代目博麗霊夢である華夢。
「博麗…!」
「ほぉ、天狗のトップが名前を言ってくれるのは光栄だなぁ。 現場からの怨念をお届けにあがった…」
煙草をくわえながら一歩一歩ゆっくりと大天狗。
シュボォっとライターの火を点け煙草を目覚めさせた瞬間、左右から何かが華夢に向かってきた、それは大天狗の側近だった。
「ヌンッ」
ジュッゴォ/ガィイイン
一方はライターを渡すように投げ、ライターを蹴りながら押し倒し、もう一方は煙草を握り、火種の方を先にして押し殴った。
両者とも火を浴びる結果になり、火傷を負ったところを押さえながら崩れていった。
「ここだけは現場はたいしたことがなかったがここは厳重なんだな。 会議室主義ご苦労なこって」
と言い放つと紫煙を大気に放出させた。
「さて、あんたのしてきたことを、どう片づけてくれようかな」
じりじりと大天狗に歩み寄る華夢。
「さ…さて? 何の事かな?」
じりじりと後ずさる大天狗。
「まずは…八咫の鏡」
バンッ
大天狗は退路を断たれ、背にしている机を支えにした。
「あ…あれは我が宝を奪われたのだ! 報復は当然だろう!」
「ほぉ、聞く天狗聞く天狗がみんなそろえて「「他の者には絶対渡すな」」と聞いて居るぞ?」
華夢自身、この情報は“妖怪の山”奪還作戦に入る前、また入っている途中で流れている天狗通信の傍受しての種だった。
「なら、傭兵大虐殺なんてのはどうかなぁ? ここに現場に居残った人間らしき何かが居るんだ、ガセであっても信じない奴はいないぜ?」
これは作戦中に椛と同行してた際につっこんで来ては倒れた傭兵だった妖怪、またにとりの住処から“天狗の壁”に至る際に首無し妖怪が多数見つかった。 その現場を見ている華夢がここにいる、そして情報通としても知られている博麗はこの情報をながすとなれば間違いなく天狗の利益はまず無い。
カタカタカタ…
小刻みに揺れる机。
「そして…“ハゲボウズ”」
「!!!」
「説明は不用だと思うが知らない連中のために言っておく。 “ハゲボウズ”は超高熱量兵器、今回使おうとすれば文句なしに天狗の山は無かったことになる、しかも向こう数十年な。 情報の早い天狗だ、それなりに情報を取ってきてちゃっちゃとつくった、しかも以前に呼ばれていた“ハゲボウズ”とは段違いの威力だとも言われている。 博麗の原則で例え外の世界から流れていても技術情報を得て作製することは許される行為ではない、もっとも私やあんたら天狗族の連中も人の形をしている以上、人道的ではない物はなおさらだ。 それを今回使えばどうなる事やら、危うく自分や天狗達もダシにされるところだったわ」
「………!!!」
ガタガタガタガタガタ……
支えている机が大天狗の心境を物語る。
「さて、その鼻をへし折られるだけで済むか、それとも存在を折られるだけで済むか…どっちがいい?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ
「う…ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
その後大天狗は隠居すると言う声明を残し表舞台に経つことはなくなった。
エピローグ
ここは妖怪の山の中にある“天狗の壁”の上。
これから調印式が行われる。
片側から側近(のような)妖怪に見守られながら現れる八坂神奈子。
「何であたしが務めるんじゃか…」
と天狗族、天狗族の白狼犬走派の者たちに見守られながら天狗側代表として犬走秋乃上が壇上に上った。
天狗族の長である大天狗は調印の前に隠居を宣言し、すべての物事から退いていた。
八坂神奈子と犬走秋乃上は調印を確認し、「共に共存することを誓う」という言葉を発し、握手した。
この瞬間、神との再和解が成立した。
この調印式は一般的である幻想通信で、また天狗通信番組帯でも全幻想郷中に流され、
その場にいた天狗達、戦線を離脱して治療している天狗達、ほか妖怪達は歓声をあげ、歓喜に浸った。
その歓喜の中、20代目・博麗霊夢は静かに場を後にした。
~明くる日の博麗神社~
「風がおだやかねぇ」
と縁側から外を眺める蓮子。
先の異変の一件が去った後は、一面紅に染まった少し遅れた秋の世界が訪れていた。
「う~ん…うbぉあ…きもぃ…」
縁側の内側で酔い倒れている華夢。
「昨日あれだけ呑んで…」
「ごめんください…」
とあまり人妖ともにやってこない神社に訪問者がきた。
それは、見知った白狼天狗だった。
「ああ、犬走椛さんね」
と縁側から降り、相手をする蓮子。
「やめてくださいよぉ、ボクにはまだ犬走の姓は恥ずかしいのでいつも通り椛で良いです」
と頬を紅く染める椛。
異変の時の作戦で功績をたたえられ、椛は自身の流派である白狼犬走派の犬走を姓として使うことを許されたばかりである。
「う~んっ…椛かぁ…」
のそりのそりと尺取り虫の要領で何とか縁側までたどり着く華夢、二日酔いがひどいようである。
「そうそう、華夢さんに秋乃上様から渡されるよう言いつけられました」
と華夢に歩み物を渡した。
華夢は全身全霊を込めてゆっくりと起きあがり、あぐらをかいた。
「ん?…あのクリエイターめ、私の趣味を本当に理解してそうだな」
それは紙箱で包まれており、元来幻想郷はもとより現世から取り寄せたのだろう、葡萄蒸留酒である。
どこにでもある物ではなく、それは華夢の名前をもじった外来文字で書かれていた。
「椛、アッキー…じゃなかった秋乃上にはありがたくいただいたと伝えておいてくれ」
「はいっ」
と椛は後に使用としたそのとき。
「まあ、せっかく来たのと酒がいただいたんだ。 レン!」
と椛は引き留められた。
「はいはい、おおかたわかるわよ」
と蓮子は部屋の奥に移動し、グラスを4コ持ってきた。
そこに少量ずつ華夢は酒をそそいだ、琥珀色に輝いたグラスを自分に、蓮子に、そして椛に渡した。
「えっ、ボク酒は…」
「まあっせっかく良い酒なんだ、それに自分の酒だ」
「こういう時は乗る物よ?」
「そうね」
「は…はぁ…ってあれ?」
と蓮子にも進められ、乗る気にならなかったが、つきあうことにした椛。
自分を入れて3人なはずだったが内側から声が聞こえたので除いてみる。
「邪魔しているわ」
そこには先の作戦で主犯扱いされていた八坂神奈子の姿があった。
「あなたが…なぜ?」
「なぜってそちらと同じよ、もっとも私が来たときからこうなってたわ」
きょとーんとする椛であったが、ぷっっと笑い始めた。
つい先日まで死を交えた者同士がこうやってすぐ輪に入ってしまう博麗の魅力がおかしかったのだ。
つられて皆も笑い始めた。
その間にも蓮子はグラスに椛が差し入れた葡萄蒸留酒を注ぎ、皆に配った。
「さっ、呑もうぜ呑もうぜ」
華夢はグラスを突き出すと、他も併せてつきだした。
「んじゃ、今回の作戦完了を祝して…」
「「「「乾杯っ!」」」」
キンッ
グラスのはじく音、そして揺らぐ琥珀色。
その後、博麗神社の中では秋の香りと笑い話が響き、絶えなかったと言う。
本日も幻想郷は平和でござい~。
・椛<もみじ>
本作の主人公、白狼犬走派天狗流に属する白狼天狗。妖怪の山で自警していたが、今回の事件に巻き込まれ、事件現場阻止しようと奮闘するも失敗し、責任を重く思い再度参加する意志をもち「妖怪の山奪還計画」に加わる。
腕前は自警団の中でも上の方に位置するが、隊長・大天狗よりは下に位置するため命令執行および命令権限は持っていない。
・博麗 華夢<はくれい かみゅ>
20代目博麗 霊夢。文の情報を聞きつけ今回の騒動の鎮静を目指す。
表はのんだくれかつ喧嘩好きの不良巫女。裏の家業は情報屋として幻想郷に起きている出来事を把握し行動に移し、代々伝わる異変解決=巫女奉仕活動を行う。
たいがいは力業で通すが、情報を愛し論理的で冷静に判断する場面もある。任侠はあり、独自の正義感を持ち幻想郷の秩序を乱す者はたとえ神だろうと知ったことモットーにしている
・射命丸 文<しゃめいまる あや>
天狗にして幻想郷の情報を配信する新聞屋、裏は情報屋の顔を持ち、[神との和解]では天狗部隊は知らないが、一部から多大な賞賛を得ている。
そのほかちょっとは関わる登場人物
・宇佐見蓮子<うさみ れんこ>
21代目博麗霊夢。華夢に対してのよき相方であり好敵手もある現代から継承した博霊。通称”レン”。天狗からの監視をくぐり抜けつつ外から情報を送る。
・犬走秋乃上<いぬばしり あきのかみ>
白狼犬走派天狗流の師として白狼天狗の長(的な)存在。
第一線ではなく武器の作成(刀鍛冶)、戦術の指南と言った技術職として陰ながら支えている。
プロローグ
幻想郷に酒場は存在する。
ここは天狗族の領地の中ではずれに酒場がある。
山間部の多い中平地に構えるここの店は集まりやすい場所にあり、天狗族以外にも様々な者たちが集まる。
―ちりんちりんっ……
酒場の重ったるい扉が開くと、すきま風が入り込んできた。
にぎわう酒場、種族・属性を問わず活気だっており、少々もやがかかっているが、風は迷わずカウンターと対当している二色に向かった。
「どういう風の吹き回しだぁ?」
二色の泡盛ロックを煽ると吹いてきた風の主に問う。
風の正体、それは白狼犬走派の長である犬走秋乃上である。
「久しぶりじゃな、霊夢」
そういうと秋乃上は二色、博麗霊夢の隣の席を陣取った。
「華夢で良い。 そう言うあんたは秋乃上<アッキー>か、最近見かけないと思ったらまたNEETってたか?」
「大将っ、熱燗を。 近い物はあるがな。 それより頼みがあるんじゃ」
「いつも冷やを頼んでいるあんただ、相当な内容だろうな」
と言い、ロックグラスに残る泡盛を一気に煽る霊夢。
「この酒場にほとんど天狗族がいないところをみれば、そちも察するじゃろうに」
と言いながら霊夢の空いたグラスにキープしてある泡盛をグラスに注ぐ秋乃上。
「わるいな、天狗の山がとられたって話か。 情報網では結構大事になってるぞ」
「その通り。 やっとのことで直属達が本腰をあげてこの2~3日には作戦が開始される」
「そんな中あんたがこうやってのんきに晩酌か?」
「そこら辺はお互い様じゃろう? 今回の作戦に、ある物を作ったんじゃ。 それをあたしの弟子に託す。 もちろん本人には伝えぬ、なぜだかわかるかの?」
「…木を隠すには林の中に限る」
霊夢は注がれた泡盛を煽り、秋乃上は用意された熱燗を杯に注ぐ。
「そういうことじゃ、我が白狼犬走派は武術に秀でては居るが直属の妖力には劣る。 それを補いかつ今回の作戦にあたしは刀を作成した」
そういうと秋乃上は熱燗を煽った。
「『クリエイター』の名を持つあんただ、ただの刀とは思えん」
秋乃上は杯を置き、懐から写真を取り出しては華夢に渡した。
「これは天狗族の諜報部が納めた写真、つい数ヶ月前にある住人から天狗族に渡された『八咫の鏡』じゃ、あたしはこの鏡を使って刀を作ったのじゃ」
霊夢は持っていたグラスを置き、写真を見定め始める。
「鏡を使ったって、天狗族の宝となっているわけだろ?」
「ああ、何度もちょいとお借りしてな。 調べているうちに、その鏡は妖力が発せられることがわかった。 力は未知数だが少なからず光を当てながら鍛えることによって今まで以上の刀ができたのじゃ。 もちろん持ち出して刀を作ってたとなると上層部は黙るわけはないじゃろう」
「まあ、宝を勝手に持ち出しているわけだからな」
霊夢はごそごそと懐をあさり始め、紙の箱を取り出しては卓上に置いた。
「情報に敏感な輩達じゃ、もちろん裏工作はしているから基本は漏れては居ないが…これを私の弟子である『椛』に渡す」
霊夢は紙の箱から筒状の物を取り出しくわえた、それは近年どこからか出回り始めている煙草であった。
「その椛を警護してほしい、そしてこの作戦を成功に導いてほしいのが今回の依頼じゃ」
シュッ…っといきよい良く燐寸を擦らせ、火を点すと煙草を目覚めさせた。
同時に秋乃上は新たに熱燗を杯を満たした。
「…大きくでたな、いずれにせよ、その椛ってのを警護するのが主になりそうだ。 だが取引相手は仮にも天狗族だ、報酬は高くつくぞ?」
「やってくれるかの?」
「最近、すきま風がひどくて、このままではおちおち寝れなくなりそうだからな」
天狗はこの幻想郷の中では良くも悪くも一番優位に立っている存在。
幻想郷には「天知る地知る、風知る博麗知る」という言葉があり、風とは天狗族を表し情報通信に長けており優位に立っている証拠でもある。
このまま天狗族が衰退すれば、天狗族を嫌っている者達は基本喜ぶのだが、幻想郷のパワーバランスが崩れ、さらなる異変が起こるため博麗の仕事が増え対処しきれなくなるおそれがあるのだ。
そのため嫌でもここで引き受けて異変を解決することが今後の幻想郷の平穏になると博麗霊夢は思った。
「そうかっ! 引き受けてくれるのじゃな!」
そう喜ぶと、秋乃上は勢いよく杯を煽り、勢い良く杯を空けた。
「あんたにはいろいろ世話にもなってるしな。 しかし情報がないとその椛ってやつに合流ができんのだが」
「そうじゃったな、一応これが椛じゃ」
と秋乃上はさらに写真を渡した、それは秋乃上とともにもう一人白狼天狗の写真が写っていた。
「それが椛じゃ。 基本はこれを頭に入れておいてくれ、基本天狗族だから天狗情報網で情報は交換している。 あと刀の方…写真を残してはいないのじゃが刀の鍔に2対の紅葉からなる“八葉椛”が目印じゃ」
グラスに残り少ない泡盛を一気に煽る霊夢。
「ほぅ…その椛って単語をつけるところ、ただ刀を作っただけではなさそうだが、まあ作戦が終わってからじっくり聞かせてもらおう。 情報㌧クス」
と構ってくれと待ちわびていた煙草をくわえる霊夢。
「よろしく頼む…のじゃが、本当にできるんじゃろうな?」
ふぅぅ…っと紫煙をたかだかに漂すとその煙を身ながら。
「博麗<カミ>のお告げだ、なんとかなるだろう。 所でどうやって入ろうかねぇ」
エピソード0
「神奈子様…諏訪子様…私はもう長くありません」
東風 谷早苗<こちや さなえ>、現世より幻想郷に越してきた人間。
そして早苗を巫とする神、洩矢諏訪子と八坂神奈子。
現世での神に対する信仰心の無さに落胆し、幻想郷に越してきたことにより異変が起きた。
その後博麗達の活躍により異変騒動を沈静させたこの事件「神との和解」
この東風谷早苗、幻想郷に年という概念はないがすでに人間の寿命を逸脱していた。
本人自身死期はすぐある、と確信していた。
「博麗の巫女より聞いております、元来同じ血でなくても名を継承させるのですが…私はこの幻想郷に越した際、現世より受け入れてくれたお礼と、感謝を込めこの代で終わらせることにしました」
神を司る巫が消えれば、神も当然のごとく消滅する。
それは幻想郷にとって、また現世も変わらない決まりである。
二人の神に残された道はない、だが早苗によって力を得た感謝は二人の神は動揺を隠せないで居た。
「…早苗、これを」
と、八坂神奈子は身につけていた鏡を外し早苗に渡した。
せめて存在するうちにと、和解したもっとも影響のあった相手、感謝の証として八坂神奈子の力の源・体の一部でもある『八咫の鏡』を別名「妖怪の山」と呼ばれる一帯を納めている天狗族に譲り、奉納してもらうことにした。
それから時は流れ、東風谷早苗は人知れず幻想郷の風となった。また風となる二人の神に見守られながら………
ところが、八坂神奈子は存在した。
それは諏訪子の意志と、早苗の奇跡を受け継ぐ形で実体化して存在することになる。
神が幻想郷のルールに則り存在した瞬間。
神奈子は以前に早苗が奉納した八咫の鏡を取り戻しに妖怪の山を目指す。
「停まれ!ここから先は天狗の領地だぞ!!」
妖怪の山に入ってしばらくすると神奈子は後ろから来た天狗の自衛に停められる。
「ここは天狗族の許されている者意外の立ち入りは禁じている!」
少し静止したが無言で神奈子は歩み始めた。
「聞かぬか! それ以上行くなら…!!」
自衛した天狗が神奈子に襲いかかる。
「行くなら?」
その時神奈子はにやけながら振り向いた。
木々が勢いよくざわめき始めた。
エピソード1「異変が起きたとき、二色が現る」
「はぁっ!はぁっ!」
あたりが森で覆われた妖怪の山を駆けめぐる一人の天狗。
天狗族の中でも腕の立つ白狼天狗の椛である。
天狗族の希望を背負い、また天狗族を守り抜くため奪われた居場所を駆け抜ける。
すべては一族のために…
ガサッッッッ!!/「っ!?」ザザィッッ!
草むらの陰から椛に飛び込んできた、妖怪である。
不意は打たれたが、椛は白狼天狗の発達された聴力と瞬発力を生かし、即座に急ブレーキし飛び込んできた妖怪の方に体を向け、同時に刀でなぎ払った。
この山に入ってから椛は幾度とこの仕打ちを受けなれ始めて居たのだ。
ザンッッ!「ぎゃっ!」・ザザッッ…
深い傷を負い、転び落ちる妖怪。
通常なら戦闘不能になっていて当然とおもった椛なのだが、妖怪は立ち上がり再度飛び込んだ。
ガシィィッッ!!!
刀を払うタイミングを逃した椛は盾で力を押し返すしか方法がなかった。
通常ならすぐに押し返せるのだが、妖怪は自身の爪を椛の盾を強く押しつけていた。
「くっどうしてこうも力の持った者達が!?」
深い傷を負っているにもかかわらず、対当に攻防する椛には焦りがあった。
椛は幾度とこういう仕打ちを受けてきてなれ始めてはいたが体力が初期より消耗していることに気がついていなかった。
「グっ!!」/「ぐぁっ!?」
ついにはには椛は妖怪の維持に押され、体制を崩し倒れてしまう。
すぐに相手をとらえ直した時には妖怪は振りかぶり椛に襲いかかり始めた。
―話はさかのぼり、数刻前・妖怪の山の端某所―
ここは妖怪の山の中でもはずれに有る所。
そこに天狗族の兵達が集まっており、大天狗が壇上に上がる。
「諸君、知っての通り我ら領地は新たに来た神により多くの同胞達を犠牲にした。 今回『妖怪の山奪還計画』に手を挙げた諸君の中にもその忌まわしき記憶を残している者も居るだろう。 そう、我ら天狗族の宝である八咫の鏡を奪われ、天狗族の場所を奪われ、諸君らに行き場を失った。 これは許し難い物であり、幻想郷の秩序さえも乱した。 その結果…」
まじまじと大天狗の演説に耳を傾ける天狗族の兵達。
その中に白狼天狗の椛が居た。
この椛という妖怪、妖怪の山が奪われたとき現場にいた自警団の一人である。
自警にあたり、反乱を起こす妖怪との攻防、そして主犯格まで追いつめたが主犯格に返り討ちにあい、一命は取り留めたが自力で避難することができず後から来た援護部隊によって救出された。
気が付いたときには緊急で設営された救護室で目を覚ました。
傷を負った事実より、自警団として警護する任務を果たせなかったことが椛にとって最大の屈辱であった。
この『妖怪の山奪還計画』はすぐに対策本部が建てられたが、今日に至るまでには時間を要した。
原因は負傷者も多く兵を集めるのに時間がかかったのと、天狗の諜報部隊から相手側の情報が鮮明に見えず、また予想以上に増大していくのにタイミングを見失っていたのだ。
だが、そのタイミングが遅れたこともあり椛の傷は完治していた、警護仕切れなかった事を悔い、この計画に参加する事を決意する。
「椛さーんっ!」
同時期、同胞である白狼天狗に声をかけられた。
「椛さんっ、秋乃上様がお呼びになってましたよ。 工房でお待ちしているそうです」
「ボクに? …わかったありがとう」
椛は白狼犬走派の長である犬走 秋乃上<いぬばしり あきのかみ>に自室である工房に呼び出された。
椛は工房の扉を開けると鉄細工、土細工などが飾られる部屋だった。
「秋乃上様、椛参りました」
「よく来たのぅ椛。 今回呼び出したのは他でもないわい」
あぐらの体勢からゆっくりと立ち上がる秋乃上、少々待ちくたびれていた。
秋乃上は工房の数々の細工の置き場からさらに奥より一本の刀をと入りだした。
少々埃はかぶっていたが、ふぅっと息を吹きかけ、鞘から刀の様子をうかがうと一点のサビもなく、真紅にしては明るい色をした鍔を施している刀を取り出した。
実のところ椛は以前の戦闘で自身が愛用していた大刀が折れ使用できなくなっていたのだ(もっとも使用できる状態ではなかったため、救出しにきた援護班は回収しなかった)
「『妖怪の山奪還計画』に参加すると聞いての、今度の作戦にこの刀をつかうのじゃ」
椛は差し出された刀を受け取りながら、
「秋乃上様、刀を貰い受けるのはとてもうれしいのですが…できれば以前の様に大きいのは無いのですか? それと、ボクにはこの鍔は目立ちます」
椛自身、筋力には自身があり、以前の用に大刀を振り回して敵をなぎ払うスタイルを撮っていたため、今回受け取った刀が心なしか不安に思ったのだ。
「なにを言うておる、弾幕はパワーで有れば剣もパワーかもしれぬが、でかければ、また多ければパワーがあるとはかぎらんのじゃ。 心配するな、今回はあたしが作製した中でも気に入っておる代物、今回の作戦に役立つじゃろう」
話を聞きながら鞘から刃を引き抜く椛、その刃の波紋はばらつきはあるが変に偏りもなく、また規則的でもなく全体を通して平均的にな形でまとめられている波紋だった。
軽く2・3回ほど素振りをし、刃を鞘にしまった。
「鍔には2枚の紅葉を左右に合わせ混んだ、刀は持ち主を判断するための手段で有れば鍔は顔じゃ。 塗料は…たしか「ふぇら…なんとかれっど」とかなんかいったかの? 真紅よりは赤く、さらに蝋で表面に塗り込ませてツヤを出しておるからそれなりな距離からでも見える。 あたしは気に入っておる。 そちがたとえ跡形も無くなっても、この刀がそちがいたことを証明してくれる。 まあ、仮にも白狼犬走派の者じゃ。 そうなって欲しくはないのが本音じゃ」
椛は鞘の紐を腰にぎゅっと結び、手を軽く添えてささえた。
その時、招集通信が天狗族内に響き渡った。
秋乃上は軽くため息をつきながら、
「悲しいかな、今のあたしにはこれぐらいしかできぬ。 椛や、必ず帰ってくるのじゃぞ」
と言いつけた。 負けじと椛は必ずや希望をつかむ顔で
「はいっ! ありがとうございます!」
と返し、勢い良く工房から飛び出した。
「まったく、何だかんだで気に入っているようじゃのぅ。 『クリエイター』としてはうれしい限りじゃ」
はっはっは…とうれしく思う秋乃上であった。
「今こそ天狗族の維持と威厳を見せつけるとき! 諸君、我ら天狗としての希望を勝ち取るのだ! 健闘を祈る!」
最後の号令と敬礼を決める大天狗に向かい、バッッッっと一斉に天狗族の兵達は敬礼をした。
同時に兵達は散開し、一路主犯格だと思われる特定された場所に向かっていった。
この当時の状況はこうだ。
主犯:八坂神奈子、宝の略奪と領地の不法占拠。
妖怪の山の奥に越してきた神社に潜伏している。
宝の略奪を期に他崇拝している妖怪達が天狗族に対して攻撃を開始。
いまや妖怪の山の3分の2を占拠していた。
今回の作戦に当たって、目標は3つ
・主犯:八坂神奈子を捕らえる(状況により抵抗するのならば抹殺して良い)
・奪われた宝を奪還する
・妖怪の山を奪還する
その中で神奈子に対して崇拝し、また天狗に嫌気をさしている妖怪達が集結しており、戦況は厳しいものとなっている。
天狗得意の上空からの雷撃による抹殺攻撃も考えたが山の復興に時間を要する上、天狗としての地位を下げてしまう恐れがある。また最近では情報文化が発達しており、阻止する方法が公ではないがでまわっているため、妨害される危険性もありリスクも高い。
そう考えた結果、今回は不本意ながら二手に分かれ、一方は山をかき分け主犯・神奈子を捕らえる、もう一方は援護を行い山を奪還する計画となった。
―話は戻り、再び妖怪の山での攻防
「ぐっ」
力に押され体制を崩してしまった椛、すかさず妖怪は間髪を入れず振りかぶる姿を見ることしかできなかった。
「へぎぃ!?」
と意図しない言葉を発したかと思えば妖怪は椛に対して直角に吹っ飛んでいった。
入れ替わりにフードを被った紅白の二色が椛の視界に入った。
その二色は横からケンカキック(押し出しハイキック)を横から浴びせたのである。
妖怪は10メートル先の木に強く当たり、立ち上がることはなかった。
「やっとみつけたわぁ、さすがに森の中だと遠目からじゃ見えないしな」
と言いながら二色はポケットからタバコを取り出しシュッとライターで火を点けた。
「風のある日はイムコに限る」
タバコを目覚めさせ、ふぅっと紫煙を大気に泳がせた。
「あ…あなたは?」
「私か、私は雇われ天狗の華夢<カミュ>だ。 よろしくな」
と椛に手をかして起きあがらせた。
「ありがとう、ボクは…」
「椛…だろ? その『八葉椛』は他に居ないはずだ」
と自分の鍔をみつつ華夢は答えた。
「『八葉椛』…そんな名前があったのか。 でも何でボクの名前を?」
見ず知らずの者から鍔の名称を教えられ、さらに名前も言い当てられる事には驚きを隠せなかった。
「ちょっと頼まれごとであんたと合流するように言われてな。 なんでかは知らないがそういう風に頼まれている」
煙草をつまみながらふぅぅっと紫煙を大気に解放させてはタバコをくわえ直す。
「それより、相変わらず森だと何処が何処だかわからんな、位置ぐらい把握するか…」
と片手を耳にあて、神経を軽く耳にあわせた。
「グリニッジ。 12時間遅れでもいい、聞こえる?」
それは椛にも聞こえる通常通信だった。
「《3時間経ったら起こすわ。それなりに良好よ》」
お互いが話する相手と特定でき、さらに華夢は話しをすすめる。
華夢がナポレオン、相手がグリニッジと言われる様だ。
「場所を把握したい、それと『エンジニア』の所をお得意の投影法でしめしてくれ」
「《それなりに気配がわかるから位置がわかるわ。 そこからなら川を上った途中に有るわ、川近くに有るはずよ》」
「トンクス、また頼むぜグリニッジ」
「《例には及ばないわよナポレオン、それにしても変よ? エンジニア宅の周辺が繁盛しているわ》」
「…それなりに急いだ方がよさそうだ」
「《そのようね》」
「また何かあったら目覚ましを設定するわ」
「《わかったわ》」
と華夢は神経を戻し、あたりを見回した。
「あの~…」
「ンっ?」
「これからどうするのですか?」
煙草をつまみながらふぅぅっと紫煙を大気に解放させる華夢。
「…今現状でうちらはゲリラ戦線を繰り広げているが、実際私自身もここまでくるのにも一人も仲間と出会ってないし、あってもすでにお休みなさっている者ばかりだった。 兎にも角にも忍び寄り主犯をボッコするのが役目であるが…支援部隊の天狗通信を聞いている限りでは思った以上に状態がよくないようだな」
「…というと?」
ひたすら必至に任務を遂行させようと躍起になってはいた、いかんせん自分の置かれている状況がいまいち把握していない事に気がつき始めている椛であった。
改めてタバコをくわえ、椛の方を見ながら、
「こういうときは情報を集めて作戦を考え直すのさ。 そのためにはここら辺に住んでいる奴が望ましい。 まあ、ついてこなくても良いがしらみつぶしにしていると援護班からあついエールを送られる」
と華夢は歩き始めた。
椛は華夢の言っている事を信じるにはまだ時間がいるが、ここに立ち止まっていても、また今まで通りの行動をしても戦果は上げられないだろうと判断し、とりあえずは華夢と共に行動することを選び、紫煙の出もとを追い始めた。
こうして、華夢と椛の本当の『妖怪の山奪還作戦』が始まるのである。
エピソード2「妖怪の山奪還計画」
「さてっ、それなりに近づいたが…」
二色の傭兵天狗・華夢と白狼天狗・椛は木々を隠れ回り川の上流へと向かった。
隠れながらではあるが、ちょうど洞穴が100mほど先にあることを確認できたがやたらと妖怪たちが出入りしている様に見えた。
「そのまま様子を見ているのも良いが…」
木陰から華夢と椛は様子をうかがっていた。
傭兵天狗の通信がひっきりなしに入ってくる、先ほどまでいた場所では無かったのをみるとそれなりに数が居ると華夢達は思っていた。
華夢が様子をうかがっていたその時、椛はすぐさま後ろに振り返った。
ブゥンっっ!
風斬り音と共に華夢は首を回すと刃が振り下ろされ向かってくるのが見えた。
椛は華夢をかばいながら押し出し回避した。
ザドォォッ!!/ザザァ!
刃は空を切りそのまま土を切り裂いた。
「悪いな、もう大丈夫だ」
かばい倒した形になったが椛は即様立ち上がり、ゆっくりと続いて華夢が立ち上がった。
「もはや終わりは見えてる…」
ゆっくりと刃を持ち上げると妖怪が姿を表した。
「通信番組帯が一致しているところをみると、傭兵かっ!」
椛は八葉椛を抜き、妖怪に向かって構えた。
「私もだけどね」
そういうと一歩後ろにいる華夢は煙草をくわえた。
「もはや天狗の時代は終わる! このままこの身が滅ぶなら!」
傭兵は刀を振り上げ、捨て身で突進し始めた。
合わせて椛も飛びかかる。
ブゥン/ガシィィィッッ!!!!
お互いがお互いを背負い、激しく刃と刃が競り合う。
「くっっっっ!」/「ぐぉぉおおおお!」
ギリギリィギィ……。
「このままではっっ…!!!」
急に自分のかかる力がなくなり、刀と体もろともはじき返せた。
ドサッ…
塊が地面をたたきつけられると、その傭兵は首から上を失った姿が現れた。
「っ!!」
その姿をみて驚かずには居られない椛。
あくまで椛は振り払ったにすぎず、ましてやまだ攻撃という攻撃を行っていないのに相手が倒れているのだ。
「なんだ、天狗族でもこの姿を見ていない奴も居るもんなんだな…」
華夢は堕ちた妖怪に歩み寄り、くわえていたタバコを上向きにして妖怪の前に立てた。
「あんたの生き様、見させてもらったぜ。 だけと今はこれぐらいしかできないんだ、悪いな」
と小声で弔った。
「この傭兵はいったい…」
「……まずその通信を切れ。 話はそこからだ」
「!!」
「情報通信に大きく貢献した天狗族だが、私はそれなりに横で聞かせてもらっている。 だがここでお互いが援護部隊の目的地にさせたくないンだ。 しばらくでいい」
「…わかりました」
と気を静め、通信の一切を遮断した。
「よし、切ったな。 こいつは…いや私もそうだが『存在しない天狗』だ」
「存在しない…天狗?」
「そう裏では呼ばれている。 何で私や他に参加している傭兵天狗が『存在しない天狗』と呼ばれているか知っているか?」
と華夢は新しくタバコを取り出しては、くわえた。
「天狗族の発展に大きく貢献したのがこの傭兵制度だ。 元々この情報技術の先駆者も天狗族であり、勢力をみるみる広げた。 幾多の争いにも向かうところ負け無しだったが、どうしても一族の犠牲は付き物だった。 そこで天狗族とは関係ない妖怪を雇うことにした。 それなりな生活の保証と天狗族の先進的な情報を得る事ができると有ればここにいる妖怪達は負け無しと言っても過言ではない。 だが、その代償に天狗に刃向かえばそこの妖怪の様に死を持って制裁される。 元々天狗では無いから天狗の一族が減ることは無い。 だから『存在しない天狗』と裏では呼ばれているンだ」
「………」
椛は返す言葉が見つからなかった。
自らが繁栄のために行ってきた行為、そしてその裏舞台を次々と他人から明かされ、己の情報不足さをまじまじと見せつけられた。
「ボクは…」
「ま、そんな気にすることはないぜ。 おかげでそっちの生活が成り立って居るンだ。 そこら辺は誇りに持ってて良いんだぜ?」
煙草をつまみ、紫煙を大気に開放させた。
「とりあえず、さっきからあそこに居る連中はそこの傭兵と同じ類が集まってそうだ。 もっとも、今回の主犯に付いた妖怪達もいそうだな」
と改めて洞窟の方を遠目ではあるが視察する華夢。
「覚悟しろよ? 椛。 これからが本番だ」
と右耳に手を添え…
「〈こちら『傭の89』。 川の流れに沿って移動中、特に異常無し〉」
傭兵天狗情報番組帯にて発信をした。
もちろん天狗族である椛にはこの通信は聞こえていた。
椛はこの状況下に何を言っているのかと思ったが…洞穴から妖怪達が一斉に川を下り始めた。
群れが水しぶきを上げて駆け下りてきた。
「さて、あぶり出しには成功したが…いかんせん数は多いか」
と煙草を吐き落とし、踏み込んでもみ消すと同時に腰を少し落とした。
「準備は良いか? 椛」
腰を落としたと同時に戦闘態勢に入る華夢。
「…はいっ!」
椛は改めて刀を構え直した。
一斉にやってくる妖怪達。
お札を取り出し、3~4枚はあるぞと広げ見せつけ、
「ぬんっっっ」
行きよい良くお札を妖怪達に向かって居合い飛ばした。
妖怪達の先頭集団に舞い降り、閃光。
何体かは吹っ飛ばされたがそこは集団戦線、気にせず残りの者達はつっこんできた。
放ったと同時に飛び込んだ華夢と椛。
二人は集団にもまれながらも、一体、また一体を確実にしとめていった。
「うるぁあああ!」
札だけに頼らず、己の拳、また蹴りや極めを屈指し、その場から宙返りしながら他の者に攻撃を行い、アグレッシブファイトを展開するその姿は二色の蝶が華麗に舞う姿その物の華夢。
「はっ! ぬんっっ!」
地面を這い、己の脚力をと旋回性能を生かし相手の隙を与えず刀「八葉椛」でなぎ払い、また盾で相手の攻撃をそらすことを忘れないバランスの取れた攻撃を展開する椛。
あたり一面は水しぶきと煙と怒号が舞う。
同時に有ることに椛は気が付いた。
それは先ほどの妖怪ももとより、この集団のほとんどが傭兵で有ることを示す通信装置をつけていたのである。
これは速様報告せねばと、激しい戦線の中天狗通信を開始する椛。
「〈本部へ! ぬんぅ!…こちら犬走の椛です。 お伝えします、現在傭兵が寝返ってます。 数はわかりませんが、はぁっ! こちらの方に攻撃を仕掛けてきています〉」
「《…こちら本部。 情報に感謝する、傭兵に対しての処置はこちらで行う。 そのまま作戦を継続せよ》」
「〈了解しました〉 おおっ!?」
ガシィ!
相手の刀が椛の防御姿勢に入っている椛の盾を捕らえた。
すぐに盾から刀をはがし、再度攻撃を行うに当たって振りかぶる相手。
ズバァッッッ!
椛はそのまま防御態勢には入らず、犬走特有の瞬発力を生かし下段に飛び込み払った。
次第に怒号と、水しぶきと煙が止んでいき、一面横たわった妖怪達と華夢と椛があらわになった。
死屍累々
その言葉がよく似合う、川の出来事。
「はぁ…はぁ…」
激動の時間が過ぎた。
「ふぅ…こんだけやったんだ。 もういないだろう」
と一息ついた華夢。
改めて洞窟の方に足を運んだ。
「邪魔するぜ」
洞窟の中に入る華夢と椛。
そこには荒らされた部屋、あたりに散乱する工具と部品や欠片。
「追いはぎに遭ったにしては偉く整理されてるな」
とあたりを見回すと、水色の丸まった物が角でふるえていた。
その固まりに歩み寄る華夢。
「天気が悪い日は、博麗が勝手に変えてくれるだろうに」
びくっと一瞬物が硬直し、
「そんなこと、どこにも書いていないじゃない」
「可能な事に関してはしっかり書いているつもりだぜ」
ばっと華夢の方をみて行きよい良く飛び抱きついた。
「華夢っ~!」
丸まっていた物は妖怪であり、ここに住みついて天狗族と交流がある河童の河城にとりであった。
「お~よしよし、良く耐えたな」
「にとり…?」
「ん?…椛~!」
にとりは椛を確認すると、華夢から離れ椛に飛び込んだ。
「ああ、にとり。 久しいね」
椛も久しぶりに会う友に安堵をみせた。
だが抱きついた腕に力が全然入っていなく、こちらが支えなければ抜け落ちてしまうのではないかと支えた。
「ところで、これはいったい…?」
と椛は散乱したあたりを見渡しながらにとりに問う。
ビクッ
するとにとりは静電気が走ったかのように反応したかと思えば頭を抱えて先ほどの様にまるくなってしまった。
「ある日から…く…来る日も来る日も…」
先ほどの安堵した表情とは一転し、ひたすら冷や汗を出し始めた。
「来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も来る日も妖怪経ちが押し寄せて来たんだ!押し寄せて来たんだ!!!それで…それで……」
「この装置をはずしていたんだろ?」
と華夢は耳に指を指した、それは華夢が傭兵天狗として参加するに当たって装着を義務づけている耳栓の形をした物だった。
よく見ると通信機だった物の破片がちらほら落ちていた。
「それは…傭兵が使用する通信機」
「そうだ。 さっきみたよな? この装置は作戦中で天狗部隊の情報交換に使う通信機という名目で使っている。 だが、裏切り行為を働いた者に対して制裁を与える装置でもある。 そして、無理に外しても制裁が与えられる親切設計だ」
「じゃあ…なんでにとりを…?」
「簡単だ、どっかからかこの装置の仕様があれば、にとりに無理矢理取ってもらうだけさ。 妖怪の中でもこういった機器の扱いに長けているのを妖怪達は知らない訳じゃない。 例えにとりがどんな状況だろうが知った事じゃない。 なんせ奴らは文字通り必死だからな」
改めて椛はにとりを見る、よく見ると服も部屋に居るはずなのに服は所々切れ、見える肌はアザや切り傷だらけだったのに今気がついた。
それはいやがおうにも妖怪に対しての解除にあたって休みなく行われてきた証拠。
どんな状況でも休ませてはもらえず、また摂関を受けていたのだろう。
「うっ…」
そう想像した椛は口を手で覆った。
「まあ、それが正常な反応だわな。 それをにとりは耐えてきた」
この時華夢の中には沸々とこみ上げてくる物があった、ギリギリっと握る拳が物語っていた。
こうやって情報仲間であり友であり者が、いくら中立な立場とはいえ作戦に巻き込まれる。
散っていった天狗族の兵達、傭兵天狗。
上層部は刻々と時が過ぎるのを待つ一報。
「…〈グリニッジ…お目覚の時間だ〉」
と耳に手を添え、発信をおこなった。
「…さっき情報を聞いていたわ、傭兵を処理するみたい。 華夢もこのままだと吹っ飛ぶ。 その装置を外させて」
はっと椛は気がついた、華夢の立場は傭兵天狗であり、華夢もまたその装置を付けているのだ。
そしてよろけながらも力を振り絞り立ち上がるにとりの姿が華夢にはわかる。
だが華夢は決した。
「いい、自分でやるっ! それを貸せ!」
と地面に転がっていたマイナス精密ドライバーをつかみ、握りしめた・
「ぬんっ!」
ガッッッ/ブワァ
華夢は精密ドライバーで耳に装備している通信装置の上を、つまり耳を刺した。
「!!!っ」
「華夢さん!」
「ぐっ…!」
痛みによろめく華夢、だがあきらめずまた振りかぶった。
ガッ!…ガッ!…ガッ!
「やめて!」
にとりは押さえつけようと飛び込んだが、まとわりついてもすぐにはがされてしまった。
「とめるな! これは私の問題であり、幻想郷の大問題だ!」
返しを壊さない様、耳の肉をちぎり取るため何度も何度もマイナスドライバーでえぐった。
散っていった兵たち、妖怪達をこの一打一打に凝縮した。
「くっ…!」
「うぅ…うぅ」
椛もにとりもその光景はとても直視できる気にはなれなかった。
そして、返しの部分を掘り起こせたのか、華夢は装置とその上をつかみながら装置を引き離そうと始めた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ブチブチっっ!
装置をはずすと振りかぶっては洞窟から行きよい良く装置を投げ飛ばした。
「はぁっ…はぁっ… かゆいぃ…すげぇかゆいぞ!。 このかゆみは今まで受けた にとりの分だ、そして散っていった天狗たち、妖怪として散っていった『存在しない天狗』の痛みだ! 良く聞け!天狗どもがぁ! おまえらが行ったことは確かに繁栄につながった! その代償は本来あるべき妖怪という概念をもみ潰してきた! たとえおまえらが許してもこの私が許すとはまずないぞ! わかったかぁあああああああああああああああ!!」
洞穴から外に向かって怒号を上げる華夢であった。
「華夢さん…」
~しばらくして~
「まったく、激しい声が聞こえたかと思えば…激しく痛めつけた様ね」
しばらくして帽子を被った二色がやってきた。
にとりに耳の手当をして貰いながら華夢は
「まあな、ずっと大人しくしているのも少し飽きた所だったんでな」
「あなたは…?」
椛はやってきた二色に問う。
「私は蓮子、そこにいる華夢の同居人よ」
「聞き覚えのある声色…さっきの華夢さんの通信の相手?」
「ちょっと前くらいの通信を聞いていたなら、あっているわ」
「さて…レン、とりあえずにとりを離脱させてくれ。 ここはそのうち天狗の連中が丁重にもてなしてくれるぜ」
「情報を聞いている分では、そのようになりそうね。 さ、にとり」
と蓮子はにとりを背負った。
「あ…ありがとう」
「例にはおよばないわ」
「さて、後は頼むぞレン」
「当然よ…あ、そうだ」
とすれ違いに小声で
「天狗もとうとう“ハゲボウズ”を用意し始めたわ」
「!!っ、本当か?」
「くれぐれも、上手に焼かれないようにね」
「…トンクス」
そういうと華夢と椛は洞窟を後にした。
エピソード3「神と再和解せよ」
川を上ったところに滝に直面した。
それは通称“天狗の壁”と呼ばれ天狗族最大の防衛ラインである。
今となっては占拠られてしまい、天狗を苦しめる結果になっている。
「ここを越えれば…いよいよやっこさんを拝めるって訳だな」
紫煙を漂わせながら華夢は言う。
バサッ…
「そう、いよいよですよ?」
バサッ…と地上に降り立つ妖怪。
「あなたは、諜報部の文さん」
天狗直属の諜報部隊、射命丸 文<しゃめいまる あや>
「久しくね、椛さん。 この先を行けば…」
と途中で話をやめた、それは有ることに気が付いたのだそれは、華夢を見ながら…
「あれぇ? それにしても、何で博麗さんがこんな所に居るんですかねぇ?」
「博麗!?」
椛は驚いたのには無理はない。
以前、「神との和解」の時に名をはせた人間。
そして、昨今妖怪達の祭りと言う名のデモ行進「百鬼夜行」の時にその場に居た妖怪達をすべて沈黙させたと言うという噂もある。
幻想郷の象徴、博麗。
幻想郷では知らぬ者の居ない人間であり、また天狗族の中でもおそれられている存在でもある。
「華夢さんが…博麗…?」
わずかに後ずさり始める椛。
「本来はそう呼ばれるべき何だろうけど、特に看板はだしてないからな」
「ここは我々が今忙しくやっている最中です、人間は…とくに博麗霊夢さんは出入り禁止ですよ?」
「ほぉ? そこら辺に転がっていた首なし何か意外に、天下の天狗さんがまだ何か隠す必要があるのかな?」
椛は気が付いた。
傭兵に支給している装置を外している現在、華夢は現在天狗族からは部外者扱いになっている。
情報文化によって成長した天狗族、天狗族の不都合を知る者は容赦なく抹殺する事を義務付けている。
もちろんその事実を知った以上、椛は華夢を抹殺しなければならない。 しかしここまでこれたのも華夢のおかげでもある椛は複雑な心境に有っていた。
「《椛…? キーッッ…キキー……》 大人しく帰って今まであったことを忘れる事をおすすめしますよ?」
ビクっ
「!っ……」
椛と華夢の脳内に高周音波が響きわたる。
「【文の奴…天狗族のあれを使い始めたな…。 耳が割れそうだ】 そうだな、部外者が居ちゃ仕方ないもんな。 それに物忘れが激しい方なんだ」
と華夢は腰を落とし、札を握り構えた。
椛は刀を振り上げた。
「そうですよ、とっても邪魔です!」
一本足を地面に食い込ませ、反動で飛び込む文。
腰を一段下げる華夢。
八葉椛を振り下ろし始める椛。
「だろうと思ったよ!」
華夢は先の通り情報通信に長けている。
天狗の裏情報はどこから取ってくるか、それは至極簡単で天狗から直接情報を傍受するのだ。
天狗が大部隊を操るのに、天狗通信を使い、近くにいる天狗族の者をマインドコントロールする術がいくらかあるのは華夢は知っていた。
それがさっき天狗情報に流れた高周音波である。
実際、椛は自分の意志ではなく事実上、文の意志によって華夢を抹殺する意外の事を考えさせない工作を与えてた。
反動で文では無く後ろに居る椛に向かってバックステップ
ゴォッッッ
「!!!っ」
刃が華夢に振り下ろされきる前に、ショルダータックルする体勢になった。
華夢に飛び込んだ力を相対性理論の力も相まって椛はよろめいた。
そのすきに文の居た方に視線を戻すがそこに文は居なかった。
どこだ?と華夢は内心思いながらも顔をを大まかに動かせばその死角を憑かれてしまう。
速様視線だけをかえ、また、目を動かし文を探した。
空を切る音がかすかだが左側から聞こえ、首を曲げ始めた。
「ひだ…」
ドォクシュカッッッ!!!
華夢の真横から文のニードルキックが突き刺さった。
「がぁっっ…」
ザガッッッ!ザザザザッッッ!……
華夢は首がくの字になりながら吹っ飛ばされ、地面に引き面れた。
そして、立ち上がることはなかった。
「…あれ?」
高周音波が途絶え、我に戻った椛。
するとそこには白目ををあけながら口と鼻から、そして通信機をちぎり取ったところから血が流れていた。
「かmっ」
「さっ、椛!」
ビクッ
華夢の方に寄り添おうとしたが、文の一喝で一掃される。
天狗族ではあるが白狼犬走派の椛にとって天狗直属の文には逆らえない立場なのである。
「邪魔は排除しました。 さ、これからが本番ですよっ」
と文は弾ませて“天狗の壁”をあがり始めた。
「…華夢さん。 ボクは…すいませんっ!」
ここまで引っ張ってくれたのは華夢のおかげであり見捨ててはおけない、だが本来の作戦に部外者はおけないこの状況。
断腸の思いではあるが椛は華夢を見捨てて文について行った。
~しばらくして~
「…あたっ…たた……」
首を押さえながら起きあがる華夢。
落ちた煙草をひろうと葉の部分はすべて灰になり、フィルターだけがきれいに残っていた。
華夢は新しく煙草を取り出し、くわえた。
「あのパンヤ(“ぱんちらの文を”略して)めぇ~、私が暇なときに首ブリッジをしてなかったら今頃網焼きされて肥料送りだったわ。 今度有ったらケツドラムの刑にしてやる」
と言いながら歩き始めると
バツバチッッッ!
「ぐわぁっ!?」
何もないところなはずなのに華夢は押し返されてしまった。
いや、よく見ると自分自身の経っている地面とその先の地面の色がほんの少しではあるが変わっていた。
「くそ~結界をはったか。 ここら辺の情報漏洩対策はしっかりしているなぁ」
ゆっくりと立ち上がり、煙草を取り出してはくわえた。
「とは言ってもここでまったりしている訳にはいかないからな…」
腰を落とし、気をため始めた。
「愛札『夢想開封』!!」
霊気をためた力が華夢の右足に集まり、勢いよく飛び出しては結界の貼られている地点で蹴り押し倒す。
バツバツバチバチブチバチバツバチブビバチィババアババチっっっっっっ!
「おぉぉおおおおおおおぉぉおおあぉおおっっっ!!!」
バチチババパァン!
「ぐあっ!」
ついに結界に負け、吹っ飛ばされてしまった華夢。
すぐさま立ち上がり、結界に向かいながら。
「くそがっ!」
ザッっと地面を蹴り上げると、石が結界に向かって飛び込んでいった。
キッ…キキッ……
石ははじかれることもなくそのまま素通りした。
「ン? 石が素通りするって事は…」
ヒュゥゥゥゥゥウウウウ…!
華夢の後ろの方から風切り音が聞こえてきた。
ガッッ!バチバチバィチアバチチィチバアバアバビチバアバッバ!!!!…
「うぉぉ!?」
何かが結界にあたり、力が反発し合う反動が華夢に伝わってきたのを察知した華夢はその場から飛び込み回避した。
反発し合う力がおわると、華夢はその現場をみた。かすかに結界が修復しているのが見えるが、その先に金属の球体が見えた。
何かが起こったかわからずきょとんとする華夢。
「《エンジニアからナポレオン。 睡眠は大切よ?》」
と華夢の方に通信が入って我に戻った。
「……〈エンジニア、好きなときに寝てなければ馬には乗らないわ。 今のは何だった?〉」
「《ナポレオン、へへー新作が完成したんだよ。 霊気を使って放つ秘密兵器》」
「《こちらグリニッジ、エンジニアと一緒に居るけど軽く解説するわ。 私の部屋に避難させたら、丁度いい部品を見つけたみたいでそのまま超電磁砲を作っちゃったみたいなのよ。 さっきのは軽合金の弾よ》」
あらかた現世に避難させたのだろう、とりあえず博麗の原則を守っているかは心配な華夢ではあったが、ひらめいた。
「〈超電磁砲…それだ! エンジニア、もう一発できるか? 今度はタイミングを合わせればここを突破できそうだ〉」
先ほどの石が素通りし、自分自身がはじかれる所をみると少なからず電気抵抗があるだろう。
軽合金、つまりアルミニウムは電気抵抗が薄い、だが超電磁砲は文字通り電気を使い加速させ弾を放つ方式をとっているため、少なからず電気すくなからず帯びることになる。
そして先ほどの結界がめり込む形になり、電気が失うとそのまま落ちる。
結界が力が働いているときは修復しているときであり、きわめて不安定な状態に陥る。
そこで華夢は考えたのが、超電磁砲によって放たれる弾で結界を当てる、不安定状態になっているところに『夢想開封』を放つと言う寸法である。
「〈たのむぜエンジニア、電札『スターライトイレイサー』!〉」
「《かってに銘々しちゃって…》」
そう言い放つと華夢は腰を落とし、気をため始めた。
ヒュゥゥゥゥゥウウウウ…!
「きたきたっ」
華夢の右上空から超電磁砲の弾が飛来してきた、そして結界に激突。
ガッッ!バチバチバィチアバチチィチバアバアバビチバアバッバ!!!!…
「さらにっ愛札『夢想開封』!!」
霊気をためた力が華夢の右足に集まり、勢いよく飛び出しては結界の貼られている地点で蹴り押し倒す。
今度は1からではなく、修復しようとしている結界、つまり不安定な状態をねらってさらに力を押し込む。
バツバツバチバチブチバチバツバチブビバチィババアババチっっっっっっ!
「おぉぉおおおおおおおぉぉおおあぉおおっっっ!!!」
バチチババパリィンリンッッッ!
結界の余波があたりに散らばった。
結界は修復仕切れず、破裂した。
「うっしっっ!」
軽くガッツポーズをとる華夢。
「〈エンジニア、㌧クス。 もう一度お願いすると思うから連絡を待て〉」
「《了解したよっ!》」
通信を終え、足取りが軽くなる華夢。
「【にとりのやつ…さっきまであんなに衰弱していたのに偉く元気になったな。 あとでレンに聞いてみるか】」
と内心思いつつ“天狗の壁”をあがっていく華夢であった。
~一方、先を急いだ射命丸 文と椛~
「さあ、追いつめましたよ」
本拠地である神社にたどり着いた天狗二匹。
そこには数多くの妖怪達が身構え、奥に主犯の注連縄と柱を携えた八坂 神奈子<やさか かなこ>が鎮座していた。
「良いですか椛? ここからが正念場ですよ」
文は腰を落とし戦闘態勢に入った。
「はい!」
その場に居た妖怪達、つまり信仰心を手に入れた者達は二人に襲いかかる。
主犯が集まるところだけあり、数は多かった。
文は上空から、椛は地上から、
文は持ち前の団扇で突風をあおると道を開き、間髪を入れず椛が斬りかかる。
「はぁっ!!」
数が多い、だがここを乗り切れれば天狗の未来が開けると言う信念が椛を支えた。
上空からの雷撃をやめない文は同時に何かを探していた。
「見つけたっ!」
それは今回の主犯とされている八坂神奈子である。
文は今まで椛の付近を扇いでいたが、次に神奈子に向かい力を放った。
同時に力をぶつけた所に文が降り立った。
「見つけましたよ!」
「天狗かっ!」
次の瞬間、文は幻想郷一と謳われる速さを売りに、神奈子の視界から消え、弾を放ち、現れたかと思えば攻撃をくわえて神奈子を攪乱させる。
間にも押し寄せる妖怪達を突風を発生させ攻撃をくわえていた。
そこは文と神奈子の独壇場になっており神奈子は攻撃をしようにも視界を捕らえられず攻撃を行えずにいた。
攪乱作戦が功を奏したか、神奈子がよろめいたその時に文は見逃さなかった。
目の前にそびえ立ち、
「終わりです」
ドォオオオオン!!
目の前で竜巻を発生させ、全勢力を神奈子にぶつけた。
辺り一面は砂煙、ひたすら砂煙である。
天狗自慢の力でもあり、文はにやけていた。
砂煙が晴れ始まると、奥に居たはずの妖怪が倒れていた。
それだけ力の反動が及んでたという事になるが、視界に神奈子の姿が映らなかった。
ビュッ!ぎゅし!
「!?っ」
晴れきろうとした砂煙から縄が飛び込んできたと思えば文の首を捕らえた。
「蛇に巻き付く烏…か」
ぐぐぅっ!
「文さんっ!」
文が捕らわれているのに気が付き、瞬発力で飛び出す椛。
「【ようやっと間に合った…】」
木々を利用して隠れて戦況をみれるところまで来た華夢。
そこには注連縄で首を巻き付かれた文の姿があった。
「おっ…ぉぉおっ…」
ぎりぎりぃ…
縄を自力で外そうにも無力と言う言葉が文には身にしみていた。
ぐぐぅきょっっ!
「〈プツゥーーーン〉」
ビクゥゥっ!
椛と華夢に静電気の様な感覚が走った、それは本来脳の中で切れてはいけない神経が切れた感覚でもあった。
「あっ…あ……」
体が小刻みに震え始まる椛。
ドサッ……
力無くその場に落とされる文。
「【くっ…文のやつ、半ばわざと捕まりにいったな? その者が滅すると近くに居る者は天狗通信を通して感覚を共用させ、また滅したことに対する恨みを増幅させる機能か。 どこまでドSな事を思いつきやがる】」
震えが止まらない椛だが次第に刀を握る力が強くなり、眉間に対しても力がよってくるのが離れてみている華夢からも見えた。
「うぁあああああああああああああああああああああ!」
シュゥンッッッ!!!
正常の時より瞬発力を増す椛。
ザンッ!!ズァザッ!ザサッ!ドドッ!ドンッ!…
「ぐっ!」「がぁあ!!」「ギャァ!」…
その場に居た妖怪達が斬られては倒れ、斬られては吹っ飛ばされと次々と倒れていった。
対峙する妖怪達は必死に椛の攻撃を阻止しようと試みるも為す術も無く吹っ飛ばされた。
ザンッ!ガシッ
椛はある妖怪を斬りつけた後、倒れる前に片方の手で妖怪の首を握りしめ、高々と持ち上げた。
その握りは自身の血管が耐えきれず破れるほどだった。
「あっあわっ…が……」
そうしている間も多勢で椛に飛び込む妖怪達。
ギロォ!
ザザッ…
殺意しかない椛の目を見た妖怪達は思わずおそれて後ずさりした。
そこに飛び込む紅白の二色。
「そこまでだっ」
デゲシィフゥドンッ!
「ガァッ!!」
椛の先に回り込み、裏拳と札の力を顔面に放った。
目の前の妖怪しか集中していなかったせいか、また札の爆発も相まって椛は倒れた。
「少しは頭を冷やそうぜ」
ゆっくりと妖怪達が群がる方に歩み寄るフードを被った二色。
「博麗か…」
社務所を背に神奈子が発した。
「久々普通の名前で呼ばれたわ。 危うく忘れかけてたわ。 さて、そろそろ戯れるのも終わりにしようぜ」
「多勢に無勢、天狗も終わりの様に見えるぞ?」
華夢は煙草をつまみ天に高々と上げ、
「どうかな? 電札『スターライトイレイサー』!」
ヒュゥゥウウヒュウヒュゥウウウウウウ!!!
上空からエネルギー物体が飛来してきた。
ドォオンッッッ。
「グォォッッ!」「ギャアッ!」
ドォンドォンドォンッッッ!
次々と落ちてくる弾、弾。
それは先ほどの非金属弾、にとりの超電磁砲である。
「ぐっっっ!!!」
バチィン!!
すかさず結界を張り防御態勢に入るが、結界を押しとされ被弾する神奈子。
ドンッッ!……
飛来音と落下音が停まるとあたりは砂煙と静電気にあふれていた。
砂煙がさめないが、華夢にはほとんどあたりに気配が無いことを実感していた。
砂煙がはれてくるとそこには八坂神奈子の姿があった。
被弾した後もあり、服が所々かすれていた。
「《ナポレオン~、ごめんごめん勢いよく行ったけど装置が耐えきれなかったみたい》」
ようは兵器が妖力に耐えきれず、壊れてしまったのだ。
「〈十分だ、㌧クスな〉さて、無駄な観客は消えたわけだ」
「まったくだ。 久々常識の無い者と出会ったな」
改めて煙草をくわえ、紫煙を大気に放出させる。
「そこら辺はお互い様だろ?」
お互いの顔がにやけていた、それは開幕の合図。
煙草をくわえ直すと腰を札を放った。
合わせて神奈子も☆の模様を空に切り、妖力を発生させた。
お互いが同時にお互いに向かい飛び込んだ。
力がぶつかり合い、共に相殺した。
力が消えたと同時にお互いは間合いをつめ、お互いが弾を発生させる余地を与えない状態に追い込んだ。
幣で神奈子を払う華夢、注連縄と柱を携えている重装備ながらしゃがみよける神奈子。
携えている注連縄で放つ様に払う神奈子。
仰け反ってよける形になった華夢、体勢を戻さず倒れ込む華夢。
追い打ちに踏みつけ始める神奈子、札を足に盛っていき蹴り上げ爆破させるる華夢。
小爆発、体をひねらせ直撃を免れる神奈子。腕の反動を使って立ち上がる華夢。
「【くっ、やっぱり情報通り強ぇ! 通りで天狗が手こずる訳だ】」
と華夢は実感していた。
事前に手に入れた情報ではここに居た巫<かんなぎ>ともう一人の神がこの神奈子と融合し、実体化、つまり人間と同等になったと言われている。
そもそもその巫は力があり、奇跡を起こすと言われているとだけあり、先代の博麗と同等の力を持っていると聞いたことがあるためあらかた覚悟はしていたが予想通り手強い相手だった。
札を放っても避けられ、拳を突き出しても受け止められ、蹴りをかましても押し返される。
もちろんダメージは与えられている感覚は有るが…
「はぁっ!」/「ぬんっ!」
ガァアアアッッッッ!!
二人の間に互いの拳が混じり合った。
神奈子は涼しい顔を通していた。
華夢も合わせて涼しい顔を通していた。
「《………そうだ》」
う…うぅーん…
「《良い天気だなぁ、コレな…紅葉も良…拝めそうだ》」
こんな時に天気の話が?
「《聞こえて…るか? 椛》」
!!!
この通信は天狗通信ではあるが聞き慣れた声が通信で聞こえた。
それは目の前で弾と、拳と交じ合わせている華夢の声だった。
本来なら入るはずのない通信。
「《いいか? 正常なら良い。 白狼なあんただ はっ! が猫みたいなあんたも見てみたい者だ。 容赦無くたた斬ってくれ》」
落ちていた八葉椛を握り、ゆっくりと立ち上がる椛。
「華夢さん…」
本来、天狗情報に部外者が入ることは禁じており、また進入した者は容赦なく排除しなければならないが、椛はそんなことは今日今現在この瞬間そんな場合ではないと判断した。
猫みたいな…!
と想像を始めた椛、なぜあの人は奥義を知っているのかと一瞬だけ思ったが、それもそんな場合ではないと片づけた。
その想像できる奥義は師である秋乃上から教えられた奥義であり未だ白狼犬走派の中でも使える者が居ないのだがそんな場合ではないとかたづけた。
「〈なうっ!〉ぬんっ!」
華夢は蹴り上げたが空を切りそのままムーンサルトの体勢に入った。
ところが空中で神奈子に注連縄で首を捕捉されてしまった。
「ぐっ!」
ギリギリギリィッ
「終わりだ」
「ど…どうかな?」
ぐわっ!
華夢の後ろから二色が上に現れた、椛である。
椛は視点を神奈子に合わせ、神奈子が椛を捕らえられていながらも宙返りひねりし、振りかぶった。
「はぁああああ!!!」
ズバァッッッイ!!
「!!!」
椛は3Dエアという力の入りにくい不安定な体勢から回り込みかつ斬り倒す。
元々空を舞うことが不得手な白狼天狗にとって難題の奥義である。
「奥義『天狗舞』!」
この技は椛は知っていながらも役に立つ場所は無く、また隙が多いのが欠点であり同じ白狼天狗でも技を使えたのは犬走秋乃上だけだと言われていた。
ゆっくりと体勢が崩れていく神奈子。
刀が反射する、神奈子はフラッシュバックの様に風景が変わった。
「お、おまえは…!」
消えていく視界、その中で神奈子は見覚えのある姿が目に焼き付いた。
「アマ…テ……ラス………」
バザッッ……
その言葉を残し、神奈子は倒れた。
「うわっ!」
同時に縄で絞められた華夢は開放され、落とされた。
「はぁ…はぁっ……」
教えられていたが初めて行った奥義が決められた驚きと、全神経を集中さた反動と、事件後数多くの仲間が散っていた無念、そしてこの瞬間散っていった仲間の悲願が入り交じった感覚に陥り、立ちつくすことしかできなかった。
「やったなっ…〈グリニッジへ、時計が止まった。 修理に来てくれ〉」
椛に詰め寄りながら通信を行う華夢
「はぁ…はぁっ…」
おわった…おわったんだ…と思う
ぴくっ…と微動している神奈子だが気配は感じ取れない、戦える状況にはないと見ている。
「こ、この妖怪が…はぁ…主犯…」
「うぅ…うっ…」
意識を取り戻した文、そこには倒れている神奈子と、それを見下している椛の姿が見えた。
文にとってはまだ終わってなかったかと思ったが瞬時に切り替えチャンスに見えた。
「【アドリブは入ってしまいましたがここでフィナーレです…!】」
キィーンッッ
ビクゥッ!
椛の中に高周音波が受信する。
椛は逆らいながらも、本人とは別の意志でゆっくり、ゆっくりと刀を振り上げた。
ガィィィイインッッッ!
「がぁはっっっ!?」
高周音波に気がついた華夢は文の顔面をサッカーボールキックを浴びせ、気絶させては高周音波を止めた
「…はっ!?」
また先ほどまでと違う風景が浮かぶ椛。
「危うくそのまま帳尻を合わせられそうになったわ」
と華夢は椛を抱えながら神奈子から離させた。
椛は何が起こってたのか理解ができなかったので抵抗することはなかった。
「天狗の描いたシナリオはこうだ。 神奈子に宝を奪われる・天狗がボッコる・天狗の威厳を保つ。 あいだにいろいろとアドリブはあったが、このままでは本当にそのまま帳尻を合わせられそうだった」
「………」
「とりあえず、レンが居ることで現場を荒らされないようにする。 そして私は…」
シュボォッっとライターで煙草を目覚めさせた。
また、通信を使いすぐに蓮子を来るように呼びかけた。
「風が強い日はイムコに限る。 この風を止めてくる…」
煙草のフィルターをかみしめ、行きよい良く飛び出した。
同時に入れ替えで蓮子がやってきた。
「まったく、情報には早いんだから…」
と神奈子の前に立ちながら華夢を見る蓮子。
そう、天狗の戦いは終わったが…華夢の、博麗霊夢の戦いは終わっていない。
エピソードファイナル「幻想の軌跡」
『エマージェンシー! エマージェンシー!』
天狗族の施設に鳴り響く非常事態宣言。
「ぐあぁっ!」
名だたる天狗達ですら吹っ飛ばされる始末。
たった一人の人間を相手に群がっては吹き飛ばされ、また狙撃をしようものなら札で返される。
蹴り、ひねり飛び、幣で払い、札を放ち、拳で答える。
次からやってくる天狗も、ばったばったと倒れていく。
終いには天狗が見ほれてしまい、戦う気が失せてしまうほどだと後の文献に書かれていた。
ドガァラァアアアン!!
扉が行きよい良く壊され、飛び散る煙と埃から幻想郷を象徴する二色の蝶が姿を現した。
「天知る地知る、風知る博麗知る。 だ。 お届けに来たぜ」
と勢いよく扉から出てきたのは20代目博麗霊夢である華夢。
「博麗…!」
「ほぉ、天狗のトップが名前を言ってくれるのは光栄だなぁ。 現場からの怨念をお届けにあがった…」
煙草をくわえながら一歩一歩ゆっくりと大天狗。
シュボォっとライターの火を点け煙草を目覚めさせた瞬間、左右から何かが華夢に向かってきた、それは大天狗の側近だった。
「ヌンッ」
ジュッゴォ/ガィイイン
一方はライターを渡すように投げ、ライターを蹴りながら押し倒し、もう一方は煙草を握り、火種の方を先にして押し殴った。
両者とも火を浴びる結果になり、火傷を負ったところを押さえながら崩れていった。
「ここだけは現場はたいしたことがなかったがここは厳重なんだな。 会議室主義ご苦労なこって」
と言い放つと紫煙を大気に放出させた。
「さて、あんたのしてきたことを、どう片づけてくれようかな」
じりじりと大天狗に歩み寄る華夢。
「さ…さて? 何の事かな?」
じりじりと後ずさる大天狗。
「まずは…八咫の鏡」
バンッ
大天狗は退路を断たれ、背にしている机を支えにした。
「あ…あれは我が宝を奪われたのだ! 報復は当然だろう!」
「ほぉ、聞く天狗聞く天狗がみんなそろえて「「他の者には絶対渡すな」」と聞いて居るぞ?」
華夢自身、この情報は“妖怪の山”奪還作戦に入る前、また入っている途中で流れている天狗通信の傍受しての種だった。
「なら、傭兵大虐殺なんてのはどうかなぁ? ここに現場に居残った人間らしき何かが居るんだ、ガセであっても信じない奴はいないぜ?」
これは作戦中に椛と同行してた際につっこんで来ては倒れた傭兵だった妖怪、またにとりの住処から“天狗の壁”に至る際に首無し妖怪が多数見つかった。 その現場を見ている華夢がここにいる、そして情報通としても知られている博麗はこの情報をながすとなれば間違いなく天狗の利益はまず無い。
カタカタカタ…
小刻みに揺れる机。
「そして…“ハゲボウズ”」
「!!!」
「説明は不用だと思うが知らない連中のために言っておく。 “ハゲボウズ”は超高熱量兵器、今回使おうとすれば文句なしに天狗の山は無かったことになる、しかも向こう数十年な。 情報の早い天狗だ、それなりに情報を取ってきてちゃっちゃとつくった、しかも以前に呼ばれていた“ハゲボウズ”とは段違いの威力だとも言われている。 博麗の原則で例え外の世界から流れていても技術情報を得て作製することは許される行為ではない、もっとも私やあんたら天狗族の連中も人の形をしている以上、人道的ではない物はなおさらだ。 それを今回使えばどうなる事やら、危うく自分や天狗達もダシにされるところだったわ」
「………!!!」
ガタガタガタガタガタ……
支えている机が大天狗の心境を物語る。
「さて、その鼻をへし折られるだけで済むか、それとも存在を折られるだけで済むか…どっちがいい?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ
「う…ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
その後大天狗は隠居すると言う声明を残し表舞台に経つことはなくなった。
エピローグ
ここは妖怪の山の中にある“天狗の壁”の上。
これから調印式が行われる。
片側から側近(のような)妖怪に見守られながら現れる八坂神奈子。
「何であたしが務めるんじゃか…」
と天狗族、天狗族の白狼犬走派の者たちに見守られながら天狗側代表として犬走秋乃上が壇上に上った。
天狗族の長である大天狗は調印の前に隠居を宣言し、すべての物事から退いていた。
八坂神奈子と犬走秋乃上は調印を確認し、「共に共存することを誓う」という言葉を発し、握手した。
この瞬間、神との再和解が成立した。
この調印式は一般的である幻想通信で、また天狗通信番組帯でも全幻想郷中に流され、
その場にいた天狗達、戦線を離脱して治療している天狗達、ほか妖怪達は歓声をあげ、歓喜に浸った。
その歓喜の中、20代目・博麗霊夢は静かに場を後にした。
~明くる日の博麗神社~
「風がおだやかねぇ」
と縁側から外を眺める蓮子。
先の異変の一件が去った後は、一面紅に染まった少し遅れた秋の世界が訪れていた。
「う~ん…うbぉあ…きもぃ…」
縁側の内側で酔い倒れている華夢。
「昨日あれだけ呑んで…」
「ごめんください…」
とあまり人妖ともにやってこない神社に訪問者がきた。
それは、見知った白狼天狗だった。
「ああ、犬走椛さんね」
と縁側から降り、相手をする蓮子。
「やめてくださいよぉ、ボクにはまだ犬走の姓は恥ずかしいのでいつも通り椛で良いです」
と頬を紅く染める椛。
異変の時の作戦で功績をたたえられ、椛は自身の流派である白狼犬走派の犬走を姓として使うことを許されたばかりである。
「う~んっ…椛かぁ…」
のそりのそりと尺取り虫の要領で何とか縁側までたどり着く華夢、二日酔いがひどいようである。
「そうそう、華夢さんに秋乃上様から渡されるよう言いつけられました」
と華夢に歩み物を渡した。
華夢は全身全霊を込めてゆっくりと起きあがり、あぐらをかいた。
「ん?…あのクリエイターめ、私の趣味を本当に理解してそうだな」
それは紙箱で包まれており、元来幻想郷はもとより現世から取り寄せたのだろう、葡萄蒸留酒である。
どこにでもある物ではなく、それは華夢の名前をもじった外来文字で書かれていた。
「椛、アッキー…じゃなかった秋乃上にはありがたくいただいたと伝えておいてくれ」
「はいっ」
と椛は後に使用としたそのとき。
「まあ、せっかく来たのと酒がいただいたんだ。 レン!」
と椛は引き留められた。
「はいはい、おおかたわかるわよ」
と蓮子は部屋の奥に移動し、グラスを4コ持ってきた。
そこに少量ずつ華夢は酒をそそいだ、琥珀色に輝いたグラスを自分に、蓮子に、そして椛に渡した。
「えっ、ボク酒は…」
「まあっせっかく良い酒なんだ、それに自分の酒だ」
「こういう時は乗る物よ?」
「そうね」
「は…はぁ…ってあれ?」
と蓮子にも進められ、乗る気にならなかったが、つきあうことにした椛。
自分を入れて3人なはずだったが内側から声が聞こえたので除いてみる。
「邪魔しているわ」
そこには先の作戦で主犯扱いされていた八坂神奈子の姿があった。
「あなたが…なぜ?」
「なぜってそちらと同じよ、もっとも私が来たときからこうなってたわ」
きょとーんとする椛であったが、ぷっっと笑い始めた。
つい先日まで死を交えた者同士がこうやってすぐ輪に入ってしまう博麗の魅力がおかしかったのだ。
つられて皆も笑い始めた。
その間にも蓮子はグラスに椛が差し入れた葡萄蒸留酒を注ぎ、皆に配った。
「さっ、呑もうぜ呑もうぜ」
華夢はグラスを突き出すと、他も併せてつきだした。
「んじゃ、今回の作戦完了を祝して…」
「「「「乾杯っ!」」」」
キンッ
グラスのはじく音、そして揺らぐ琥珀色。
その後、博麗神社の中では秋の香りと笑い話が響き、絶えなかったと言う。
本日も幻想郷は平和でござい~。
とくにズガアアンとかガキイイインとか戦闘シーンで使われると何してるやらというか、あまり賢そうに見えません(ものすごい失礼な言い方ですが)。
世界観の規模の大きさに対して描写があまりそれらしく見えないので、もっと凝ってくれたほうが嬉しいかも。
オリキャラオリ設定はこの手のにはつきものですが、例えば『クリエイター』などのカタカナ語はもう少し捻ったほうがよろしいかも。
オリ設定があまり親和せず、作品に対して違和感を感じてしまいました。基本後出しだし。
あとあと、突如設定を大量に見せられてもあまり理解はできませんし、ちょっと引いてしまいました。もうすこし説得力があると受け入れやすかったかなあ。
以上、いち読者として気になった部分です。あまり専門的な事は分かりませんので、的外れな事を言っているのかもしれません。
身の丈に合わない辛口批評みたいになってますが、結構設定とかは好きですし、50kbもの文章を書かれる東方への愛情はすごい伝わりましたので、
是非次が読みたいなぁ、と。それが読みやすくて面白いともっといいなぁ、と思う次第です。
4氏の指摘されているとおり、擬音語をそのまま、しかもびっくりマーク付きで使うのもあまり感心しない。
辛辣な言い方をすれば二流三流のラノベ作家の作品みたいだった。
まず誤字が多いです、特にてにをはの間違いは複数人が入り乱れるバトルシーンで読者を混乱させる要因なので気を付けましょう。
次にアクションシーンについてですが、文章からスピード感が感じられません。特にエピソード3冒頭が顕著です。
妙に間延びした描写と単調な文末、無駄な解説が多いことが原因かと。そして動きを技名だけで説明するのはやめましょう。せっかくの見せ場なんですから地の文でしっかり描写してあげてください。
それから結界での電気抵抗云々は原理を完全に勘違いしてますよ。他にも相対性理論の力でよろめくだとか、突っ込みどころ満載なのが気になります。
最後に、原作設定に重きを置く読者の多い創想話ですが、オリジナル設定で高い評価を得ている作品も数多くあります。
そういった作品は、オリジナル設定が読者の一般的な幻想郷観を塗り替えるほどの魅力や説得力を持っているからこそ支持されているのです。
冒頭の人物紹介で設定を語るのではなく、作中、あるいは前作で華夢とはどんな人物なのか、なぜ蓮子が21代目になったのかなどが描かれていれば、この作品はまた違った評価になったのではないかと思います。
いろいろ偉そうに書いてしまいましたが、貴方の情熱はすごく伝わってきたので次作も是非ここに投稿してください。期待しています。
あと、情景描写を的確に丁寧にすれば読みやすくなるかと。