Coolier - 新生・東方創想話

アリスVSレミリア 後編

2009/10/11 15:26:38
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「フランドーーールッッ!!」

魔理沙が怒りを露わにした表情で叫んだ。
アリスの開けた穴からフランドールが飛んで来て、突然レミリアとアリスの二人をレーヴァティンでまとめて焼き潰したのだった。
そして今もフランドールはレーヴァティンを二人に押し当て続けている。

魔理沙はとっさに八卦炉を懐から取り出し、フランに向ける―――、よりも早く、咲夜がナイフ片手にフランドール目掛けて飛び出していた。

「キャハ♪」

首だけを曲げてフランドールは向かってくる咲夜を見つめた。
その瞳孔が開ききった紅茶色の瞳が咲夜には酷く、おぞましく思えた。
レミリアの真紅に透き通って、いつも楽しげな瞳とは違う。
フランドールは、まるで人間を鍋で煮詰め殺して作ったスープのようなドロリと濁った瞳だ。
人の憎悪も苦痛も嘆きでさえも、フランドールにとっては自身を彩る為の材料でしかない。

姉妹にしてこれほどの違いがあることに咲夜は今、気づいたのだ。

「申し訳ありません、レミリア様。妹様を殺します」

潰れて、焼かれて。最早、どんな形をしているのかさえ、分からない主人に咲夜は覚悟を報告した。
決断したのなら咲夜の行動は速い。
―――――まずはレーヴァティンを持つ両手を断つ。

「”時符”」
プライベートスクェア、とスペルを唱える直前。

「お姉さま?」

レーヴァティンがゆっくりと持ち上げられていく。
フランドールは何も考えてないような、あどけない表情でただ手元の光景を眺めている。

赤い獄炎の下、レミリアが両腕を重ねレーヴァティンを全身で押し上げ、そして跳ね退けた。

「咲夜ぁっ!許す、殺れ!」

カツン、と小気味良い音が響く。
フランドールの左手の甲に銀色のナイフが突き刺さり、しかし肩を叩かれたかのような気軽さでフランドールは咲夜を見た。

瞬間。
フランドールは眼を大きく見開いた。

銀色のナイフが群れて、まるで壁が向かってくるかのような圧迫感を持ってフランドールに襲いかかる。

「アハハ!!凄い凄い」

フランドールは楽しげに拍手をして迎える。
サーカスを見る子供のように。檻に居る虎を見るように。
つまり、ソレはフランドールにとって、その程度の事。
咲夜は内心、愕然とする。だが、それは妹様がナイフの群れを容易に突破できるという予測に至る。
だから、次の手段を瞬時に頭の中で張り巡らせていく。

「うっ?」

フランドールが咲夜に向けた好奇な視線を、唐突に斜め下、自分の右腹部に移した。
細い”足”がミチリ、とフランドールの体にめり込んでいた。
地面とフランドールの間にレミリアが小さく畳んで全身のバネを使い、右足で地面を踏み砕き、同時にめり込ませた左足でフランドールを蹴り飛ばした。

「ンりゃあっ!!」


フランドールは高速で広場の端の壁に激突。
崩落音が響き、土煙りでフランドールの姿が見えなくなった。

しかし、そんな自分の妹にさえ眼もくれずレミリアは振り返り、倒れ伏したアリスに駆け寄る。

「――――」

伸ばした手が、アリスに触れずに止まった。
レミリアは苦々しい表情で立ち尽くした。

アリスはうつ伏せに倒れている。
その背中は黒々と炭化して大きく抉られていた。
背骨は燃え尽きて欠片もなく、本来は前からしか見れない大腸のような細長い臓器が黒く焦げついているのが見えた。

それは死体だった。
死体でしかなく、どれだけ眼を疑ってもそれは死体としか呼べない。
致命的な人体としての欠損。
七色の魔法使いアリス・マーガトロイドは今、ここで絶命していた。
レミリアは、自分の眼を疑った。
今さっきまであんなに楽しく言葉を交わしていた時間が夢のようだった。

「レミリアお嬢様。アリスは」

咲夜が言いにくそうに言葉をかける。

「言うな。分かってるよ」

いや、分かっていない。
レミリアは自身で納得していないのがありありと分かった。
あいつなら、八意 永琳ならなんとか出来るのではないか、とレミリアは思った。

「咲夜。アリスを永遠亭まで連れて行って、あの宇宙人に診てもらえ」
「―――、分かりました」

無駄な事です。と、咲夜は言わなかった。
勿論、それはレミリアの心中を配慮しての事だろう。
命令に忠実に。そして、主人の意を汲んで咲夜はアリスの遺体と共に一瞬でこの広場から消えたのだった。

















永遠亭の静けさに包まれた朝のひと時。


「ッーーーーーーー!!」

突然、誰かの苦しむ叫びが響き渡ったのだ。
冷水を浴びせられたかのように八意 永琳は眼を覚ました。
永遠亭を響き渡らせる程の大きな叫び声が永琳の意識を一気に覚醒させる。

「輝夜!?」

布団を跳ねのけ、廊下を駆けだして声の発信元を辿れば、ある一室。優曇華の部屋だった。
優曇華は狂気を操る、狂気とは人の肉体に作用する振動、周波数の事だ。
ならこの異様に響き渡るサイレンのような叫び声も頷ける。

襖に手をかけ、開け放つ。

只ならぬ状態なのは一目で永琳には分かった。
いや、見れば誰もがその異常にすぐさま気づき、驚くだろう。

優曇華は顔を歪め、耳を両手で塞ぎながら眼を真っ赤にして大粒の涙を溢しながら悶絶していた。
そして、口を大きく開けて大気を震わせる程の振動を発している。
近くに寄るほど、優曇華の叫び声は形を崩して大気を震わせ、部屋にある硬質な物質。陶器や硝子物全てを粉砕していた。

『優曇華!しっかりしなさい!』

永琳の叫び声も、優曇華の振動の前では一ミリも進まずに、掻き消される。
優曇華は目前の永琳さえ見ずに、ただただ焦点を定めずに苦しみ続けた。

永琳の判断は即決だった。

優曇華の首に手を駆け、静脈を圧して意識を落とす。
口の端から透明な唾液を垂らし、優曇華の耳を押さえていた両手が力なく床に落ちた。

「ん~、なんなのー?永琳」

あの騒音の中、未だ眠たそうに寝ぼけ眼を擦りながら輝夜が部屋の入口から永琳に尋ねた。
しかし、事態は一刻の猶予もないと永琳は判断する。

「輝夜。今から外出するわ。朝食は作ってないから寝てなさい」

すれ違いながら永琳は早口で告げると、廊下を早足で進んでいく。
永琳の隣に、いつのまにか因幡 てゐが並走していた。

「てゐ。優曇華を任せるわ」
「分かりました。で、アテは有るんですか?」

問われ。
永琳には優曇華がなんであんな声と振動を発していたのか考察する。

優曇華は何か強力な”周波数”を受信していた。
だから、自身で同じ周波数をぶつけ、相殺しようとしていたのだ。

「ええ。原因は不明。だけど、手立ては二つあるわ」
「へぇ、どんな事するんです?」
「波長を通さない術を永遠亭に張るわ」
「あー、なるほど。では、もう一つは?」
「原因と思われるモノを全部、潰していくわ」

あっさりと永琳は告げ、てゐは可笑しそうに声を漏らした。
訝しげな視線を永琳はてゐに向ける。

「それと、寝まきで外に出るのはどうかと思うんですよねー」

てゐは是非も聞かず右足を軸に回転し、廊下を戻って行く。
永琳は確かに無地で紺色の寝巻きだった。

「……気が付かなかった。どれだけ私は焦ってるのよ」

ただ永琳は満更でもなさそうに口元を緩めた。
いつのまにか、優曇華は永琳にとって慌てるに値する、そういう存在だという証明だったから。
玄関で靴を履き、つま先を地で蹴とばして踵まで入れて永琳はすぐに上空に飛び立った。

眼下にそびえる永遠亭は昔から変わらず、そしてこれからも変わらないであろう。
その為に、決して永遠亭の誰かが欠ける事は許されない。
優曇華の苦しみは分からない。
輝夜が地上に落とされた時の苦しみも永琳は知らない。

知らないけど、想像は出来る。

「輝夜が地上に落とされた時は後悔した」

同じく、優曇華を失ったら私は後悔する。
永琳はそんな未来を想像し、少しだけ息苦しくなるのを感じた。

「今、助けるわ」

そうして永琳は術をかける為に空を見上げ、位置を確認する。

眼を閉じてゆっくりと今見た光景をイメージして、四角い箱で覆っていく。

息を止めて思考をクリアーにする。

眼を開き、雑念を除いた想像を創造する。

ゆっくりとゆっくりと。

永琳の眼には地面から半透明の壁がイメージ通り、永遠亭を囲う形になる様に壁が生まれ始める。

ゆっくりとゆっくりと緩やかに――――。

この隔離する秘術は二時間、三時間はゆうに時間がかかる。

だからといって慌てては決して完成できない。少しでも心が揺らげば壁が垂直にならず、四角い箱じゃなく歪で隙間が開いた不完全な”箱”になってしまう。

ゆっくりとゆっくりと穏やかに――――。


完成まで、まだ時は浅い。
























私はこれは夢だと自覚していた。
まるで家の中で窓から外を見ているかのような感覚。
”外”ではレミリア・スカーレットが唸りを上げて襲ってくる。
だけど”私”は避けずに、攻撃の中心をズラすだけで上空に跳ね飛ばされる。

「わっ、わ。目が」

急速に視界が回転しだした。
回転は留まるところを知らず、そして何故か真っ赤な”糸”が地上に広がっていく。
満遍なく広がった”糸”はサーカスのテントのようでもあった。
私は逆さまで、地上に居るレミリアをただ見つめる。

「―――収束――」

”私”の呟きがきっかけだった。
いつのまにか、辺りに本を破った沢山のページが雪のように舞い始め、一斉に青白い炎に包まれた。
そして、青白い炎からはおびただしい数のよく分からない何か達が生まれ、レミリアに振りかかっていく。
避けられる密度ではない。
レミリアの姿が真っ赤な魔力を発した。

ふっ、と”私”は小さく笑った。

攻撃が通じていないのに?と私は思った。

再び、視界が回り始めた。

赤いカーテンがゆっくりと”私”の右腕に昇ってくる。
沢山の訳の分からない物を飲み込みながら、カーテンは右腕に纏わりついて行き、筒のような物に変わった。
筒の中で沢山の鳴き声と呻き声、それに何かが胎動していた。
背筋をゾゾッと毛虫が昇るようなおぞましさに私は震えるが、”私”は淡々と筒をレミリアに照準を合わせた。

「―――黒の魔法」

筒から膨大なエネルギーが放出される。

「そんな、馬鹿な」

レミリアがこっちを見上げ、口元を楽しそうに歪めていた。レミリアの発している魔力ごと、黒い滝のような炎が飲み込んでいく。

長い間、放射された炎が収まる頃には、広場がぽっかりと底が見えない程の口のような穴をあけていた。

私は落下して、途中で口を開けて硬直していたメイドと魔女二人を見た。
少なくとも、あんなに驚いてる顔は久しぶりだった。特にあの殺人メイドと読書好きな魔女の顔は見ていて爽快だ。
地面に降り立ち、大きく開いた穴に視線を向ける。
穴から一匹の蝙蝠が飛んできて破裂して白い煙を発した。
白い煙から鋭い爪を伸ばした手が飛び出て、煙を引き裂き、風圧で消し飛ばす。

無傷で笑みを浮かべているレミリアが居た。

「私の負けだ。久しぶりに死ぬかと思った」

片手をあげ、レミリアはニヤリと笑ったのだ。

私の知っているレミリアはこんなに素直な性格だった?
いや、これは”私”を認めた証拠だった。
レミリアにとって”私”は対等だと、納得したから嫌みもなく、そして臆面もなく笑いかけたのだ。

私はそれが羨ましく思えた。

誰かに認められるのは嬉しい。中でもレミリアみたいな妖怪にさえ、認めさせた”私”が羨ましい。
そんな思考に没頭してて、目前の光景に気が付かなかった。

レミリアが唐突に叫んだ。

「待てっ!!」

なんだろう、と”私”は振り向いた。
紅色しかなかった。それだけしか思わなかった。
ソレがなんなのか分からなかった。

「きゃは♪壊れちゃえ」

楽しそうな笑い声を最後に耳にして。

ブツン、と耳の奥に電磁音が鳴り響いた。
そして私は、―――鈴仙・優曇華院・イナバ は夢から追い出されて眼を勢いよく開けたのだった。


「……最後のってなに?」

のろのろと、布団を捲りあげ、上半身を起こす。
夢かどうかは分からない。
しかし、優曇華は胸がドキドキする程の楽しかった夢が一気に心臓が止まるかのような冷たさに変わったのが気掛かりだった。

ふと、廊下を誰かが駆けてくる。
足音は段々と大きくなり、そして鈴仙の部屋の前を過ぎ去っていった。
段々と小さくなる足音は輝夜の部屋の方へ向かっていったのだった。

「……てゐかなぁ」

大きく欠伸をして鈴仙は背を伸ばす。ぱきぽき、と心地よい音が響いた。

「ぅ~~~っはぁ!」

唐突に、襖が大きく開け放たれ、鋭い破裂音が響く。
廊下の明かりが暗い部屋に差し込んできた。

「優曇華。体の具合はどう?」
「師匠!っと、体の具合ってなんの事ですか?」
「ああ、そうね。意図的にあんな事は出来ないわね」
「あんな事?」

永琳は鈴仙の部屋の茶箪笥やら戸棚に嵌っているガラス戸を順に指差していく。
どれもこれも、粉々に割れていて酷い有様だった。

「なっ、誰がやったんですかこれ!?」

割れた陶器を示していた永琳の指が真っ直ぐに並行して、鈴仙を示した。
鈴仙は背後を振り向く。
勿論、そこには壁しかない。
永琳を見る。彼女の指先はまだ鈴仙を示していた。

「……覚えがないんですけど」
「そうみたいね。後でしっかり片付けて起きなさい」
「後で、ですか?何かあるんですか?」
「一緒に探して欲しいものがあるのよ。着替えたら声をかけて頂戴」

襖を閉じて永琳が部屋から出ていこうとしたら、鈴仙が思い出したように口を開く。

「そういえば、今さっき誰かが姫様の私室の方へ走って行ったんですけど師匠知ってますか?」

永琳は首を横に振り、「見てくるわ」と告げて襖を閉じていった。
残された鈴仙は部屋の明かりをつけて、あんまりな惨状を見渡した。
お気に入りのコップやら読みかけの小説にガラスの欠片が被っていたり。
これを片付けるとなると、かなり面倒だ。と、ため息を付いた。

しかし、いつまでも億劫な気分でいる事はなく。
永琳に言われた通り、鈴仙は立ち上って寝巻きの腰紐を解き、布団の上に無造作に落とす。
壁際の両開き箪笥をあけ、居服掛けに吊るされた服を取って、机の前にある背もたれ付きの椅子に放り投げた。
そのまま膝を曲げ、小さな引き出しから靴下と、その隣の引き出しから下着を取り出す。
それもまた、椅子の上にポイポイと放り投げられる。

鈴仙は部屋の汚れと整理整頓という言葉には無頓着だった。

さておき。
鈴仙は着替え終わり、廊下を出ると輝夜の部屋へと向かった。
遠くには輝夜の部屋の入口に永琳と咲夜が話をしている。
その背後。
金髪で洋服を纏った等身大の人形が壁を背に、置かれていた。

近づき、人形はよく見ると見たことのある顔だった。
鈴仙の頭の中で小さく、キィィンと微かな振動音が響き、顔をしかめた。

「師匠、着替えましたけど」
「ええ、丁度良かったわ。急患よ、そこの人形遣いの容体を見るわ」
「容体って、師匠。これは―――」

鈴仙の視界に銀色に輝くナイフが映る。
咲夜が赤くなった眼球だけを鈴仙に向け、ナイフを左手に握りしめた。

「有無も是非もなく良いから迅速に診なさい。……確かに死んでる、と私も思う。だけど、永琳が診れば少しは可能性があるんじゃないかと思ったのよ」

咲夜が凶暴な態度と口調を改めて、言葉を紡いだ。

「アリスはただの顔見知り。だけど、それは今日までの話だったのよ。もし、アリスに明日があればきっと新しい関係が出来たのかもしれない。私はソレが惜しいと思ったの」

咲夜の言葉に、鈴仙は「もしかして…」と呟く。

「この人形遣いって貴女の所の吸血鬼と戦っていたの?」
「え、ええ。なんで知ってるのよ?」
「じゃあ、最後のアレ、あの紅いのはなんだったんです?楽しかったのに、紅の所為で夢が終わったの」

質問に答えず、鈴仙はただ疑問をぶつける。
傍らに居た永琳の眼が細く、鈴仙の横顔を見つめていた。

「貴女、……いえ、恐らくそれは妹様のレーヴァティンだと思う。だけど、夢って」

破裂音が咲夜の言葉を遮り、手を叩いた永琳が会話を止める。

「話は後で。診るだけ診てあげるから優曇華、アリスを私の診療室に運んでちょうだい」
「え…。なんでです?これを、ですか?」

鈴仙はアリスの遺体を見て、「これ」と呼んだ。
咲夜の右手が霞んだ。
何かが空気を裂いた音。そして、永琳が鈴仙の眼前に手を伸ばした。、鈴仙の額に突き刺さる直前のナイフを柄の部分を持って受け止めたのだった。
ただ鈴仙は眼を白黒させて、まだ自分が失言をして咲夜に殺されかけた事を理解するに至らない。
危なかった、と鈴仙は思ったが、別に窮地が去ったわけではなかった。
額に突き刺さろうとしたナイフの代わりに永琳の厳しい視線が鈴仙の心を突き刺していたから。

「優曇華、もう一度言ってみなさい。そしたら綺麗に解体して標本にしてあげるから」

鈴仙は咲夜の怒りが理解できず、ただ永琳の言葉を受けて初めて自分の失言に気づいた。
確かに「これ」呼ばわりは死んだ人に対し、物扱いで失礼極まりなかっただろう。その事実に鈴仙は至れなかった。その理由もある。
だから、咲夜にとって、治してもらいたい人物だとしても。
鈴仙にはどう見ても、生きていた妖怪には見えなかった。その自分の感じている答えを告げてみる。

「……すいませんでした。ですが、ただの”人形”ですよね?そう見えるんですが」

咲夜は眼を丸くして呆然と鈴仙を見つめた。
永琳が素早く、アリスの腕に触れて、離した。
―――カシャン、と硬質な音を発して腕は床に落ちた。

「生き物の波長じゃないんです。さっきから二人の言葉を、空気の振動をこの体は綺麗に反射しているんですよ。生物の体は柔らかくて、振動をある程度吸収してしまうんです。だから…」
「嘘よ。抱えていた時は柔らかくて、まだ人肌の温かさを持っていたわ」

永琳が口元を手で覆い、何かを呟き始める。

「まさか、――いえ、そんなはずが。それは魔法とは言わない、………科学と」
「永琳…?」

戸惑う咲夜と鈴仙に、永琳は「分かったわ」と思考を締めた。

「優曇華、今朝貴女は頭を抱えて叫んでいたのよ。それもガラスや陶器を共鳴振動で破裂させてしまうほどの振動を発して」
「は、はぁ。そうだったんですか」
「輝夜に妹紅、さっきの話を聞かせて貰えるかしら?」

部屋の中で輝夜と妹紅がコタツに入りながら、永琳の問いかけに視線を合わせて頷いた。
妹紅の口が開く。

「ああ。夜が明けるちょっと前ぐらいかな、人里の外れた小さな洞窟からアリスが出てきて、で、しばらくしたらその小さな洞窟が見つからなくなったんだよ。きっと魔法で隠したんだと思うよ」
「そう、じゃあ優曇華に咲夜。人里へ行きましょう」

唐突に永琳は踵を返し、誰も彼も置き去りのまま歩きだした。
残された二人は何をするでもなく、呆然と永琳の背中を見ていた。

「はいはい、退いて退いて」

妹紅が鈴仙と咲夜の間を通っていき、その後を輝夜が追った。
二人の迷いもなく永琳を追いかける姿に咲夜と鈴仙もハッとして追いかけ始めた。

鈴仙が追いつくと永琳が口端を上げ、悪い顔で笑っていた。

「よくも私の可愛い弟子を痛めつけてくれたわね。この代償は高くつくわよ」

永遠亭の長い廊下。
静謐な廊下は選んだように永琳の言葉を一際、大きく拾い上げて木霊させた。


「―――――”人形遣い”」、と。


























咲夜の気配が消えたのを確認して、レミリアはふと考えていた。
それは今さっきまで闘っていたアリスの事だった。
今、思えばなんでアリスはあんなスペルを使ったのか――――?

楽しげな声が響いた。

「キャハ♪アリス壊ーれちゃったね?じゃあ、あれは友達じゃないねぇ」

俯いていたレミリアの表情をフランドールがいつのまにか座り込んで下から覗いていた。
思考に捕らわれていてレミリアにはフランドールが嬉しそうにケタケタ笑うまで、その接近に気がつかなかった。
だけど、フランドールはなにもしない。
だから、レミリアはその小馬鹿にした表情に蹴りを叩き込むと決めた。

レミリアの右手が霞む。
軽い破裂音。
フランドールは自分の頬に向けられたレミリアの脚を易々と掴んで、卵を割るかのように握り潰した。

「これはお返しー」

フランドールは一気に跳ねて立ち上がり、続けざまに横蹴りを繰りだす。
脚がレミリアの脇腹に食い込み、中空に蹴り飛ばした。
”中身”がグチャグチャに壊れたのをレミリアは苦しげに血を吐いて、実感する。
重力のままにレミリアは円を描き、地面に左肩から落下していった。

「まだよ、もっと壊すんだから」

トンッ、とフランドールも飛んでレミリアの眼前に着地する。
倒れたレミリアの頭部をボールのように見立て、フランドールは右足を大きく振りかぶって構えた。
ふと、フランドールの楽しげな横顔が真っ白な光に照らされ――――。

「”恋符”マスタースパーク」

フランドールを巨大なレーザーが飲み込んだのだった。
レミリアの眼前を巨大なレーザーが奔って行く。ぼんやりとマスタースパークの発射された方を見る。
魔理沙が八卦炉片手に黒いとんがり帽子を左手で押さえていた。
その隣でパチュリーが、開いた魔術書から光を放ち始める。

白い光の奔流の中から、マスタースパークを物ともせずにフランドールが魔理沙目掛け、低く駆け出した。
フランドールのだらしなく垂らした右腕がゆらり、と揺れて魔理沙の顔面を抉ろうと床を大きく弧円に削りながら唸りをあげる。

「”月符”サイレントセレナ」

パチュリーの足元に魔法陣が浮かび、パチュリーと魔理沙の周囲から蒼い光が高速で魔法陣から空に昇り始める。
フランドールの手が魔理沙に触れる前に、ベキリと酷い音を発した。蒼い光が抉り込むようにフランドールの伸ばされた腕を下から折り曲げ、幾重にも衝突して貫ぬき飛ばす。

「っっ」

フランドールは呆然として、ただ蒼い光に断たれて中空に飛んだ自分の腕の軌跡を目で追った。
何かが潰れた音が生まれた。
フランドールの口から「ごぽり」と血が溢れだす。

「……え?」

フランドールは下を向き、自分の胸から”腕”が生えている事に気づく。
生えた腕の先には鋭利なナイフのような長い爪が五本、綺麗に揃えられていて「コレに貫かれたんだ」と、フランドールは呟いた。
まるで剣のように”腕”はそのままフランドールの胸部から左肩にかけ、一気に引き裂いた。

脱力しでフランドールが膝を床に落とす。

「――――お姉さま」

フランドールの体が夜よりも濃い影に沈む。沈む間際、フランドールは背後で胸を裂いた自分の姉を見る。
確かに見た。
そこには綺麗な紅を瞳に宿した吸血鬼がしっかりとフランドールを見つめていることを。

「キャハ♪」

フランドールの姿は消え、パチュリーと魔理沙には行方が分からなくて視線を彷徨わせた。

「後だ、魔理沙ぁ!」

レミリアの叫びに魔理沙は咄嗟に振り向くが、そこには既にフランドールが再生した両手でレーヴァティンを大きく上段に振りかざしている。
自分の不覚を魔理沙は口にして、八卦炉を構えるが、間に合わないのは明白だった。

「畜生、間に合わな――」

パチュリーは本を開き、水の魔法を唱えた。パチュリーの正面に等身サイズの魔法陣が浮かび、激流の洪水が魔理沙を呑み込んだ。

「っ、パチュリー!!」

洪水に流されつつ魔理沙はパチュリーに手を伸ばしていた。
それは間合いから逃れた魔理沙から、フランドールが楽しげにパチュリーへと視線を移したから。
目標が変わっただけだったのだ。
レーヴァティンが振り下ろされることには変わりはなかった。

「”神槍”スピア・ザ・グングニルッ!」

赤い神速の槍がレーヴァティンと衝突し、せめぎ合う。

―――振り下ろされることには変わりはなかった。が、振り下ろされるまでの時間が間延びした。
それは少なくとも、パチュリーが魔法の詠唱を読み終える程度の時間があった。

「”土&金符”」

今、この瞬間なら。
パチュリーは絶好のチャンスと見た。

「くすくす、あは♪」

だけど、フランドールと視線が交差し、パチュリーの心臓が大きく跳ねた。
フランドールはしっかりとパチュリーの一挙一動を観察していたからだ。
馬鹿にするような笑みで眼を細めて、フランドールは嬉しそうに告げた。

「おそーい♪」

レーヴァティンが唐突に消滅し、グングニルはフランドールの右腕を引き千切って過ぎ去っていく。
千切れた断面から赤い霧のような血が噴出し、だけどフランドールの視線は何をしてもパチュリーを捉えて離さない。
残された左手でフランドールはスペードのマークを先端に模した鞭でパチュリーの広げていた本を弾き飛ばした。

「っ、そんな」

パチュリーが驚き、戸惑いを口にするがフランドールは躊躇しない。
再び、鞭を振り上げると。
左手から炎が生まれ鞭につたっていき、レーヴァティンを具象させるのだった。

「パチュリーも壊れちゃう?」

楽しげな口調でケタケタ笑ってフランドールは今度こそ、レーヴァティンを振り下ろして―――。
レミリアがフランドールとパチュリーの間に割り込み、握りしめた右拳でレーヴァティンを殴りつけ、受け止めたのだった。
同時にレミリアの右腕全体から赤い霧が蒸気のように立ち上って行く。

血が蒸発しているようでもあったし、レーヴァティンを受け止める為の魔力の放出にも見える。
―――どちらにせよ、長くは持たない。
それは相対する二人の表情から分かる。
レミリアが眩しい物を見ているかのように苦しみで眼を細め、対するフランドールは楽しげな笑みを絶やさない。

「っっぁ!!」

ジュ、と焼けた石に水を垂らした音がパチュリーには聞こえた。
レーヴァティンがレミリアの右腕を焼滅し、振り抜いたのだ。
右腕と背中の蝙蝠の羽の片側を根こそぎ焼かれ、レミリアは膝を屈した。左手で右腕の付け根を押さえ、フランドールの加虐的な視線と向き合う。
子供が虫の羽を千切るかのように、フランドールは自分の姉の体を壊して悦びに背筋を震わせている。

「フランドーールッッ!!!」

何処かで、遠い場所か、近い場所か。誰かが叫んだ。

フランドールの楽しそうな笑みが信じられなかった。
だから、その笑顔を魔理沙は箒でぶん殴り、豪快に振り抜いた。
突然の横やりにフランドールは首を捻じ曲げる。
しかし、すぐに歯を剥き、口端を吊りあがらせてフランドールは魔理沙に向かう。

「魔理沙も、壊れっ!?」

魔理沙は右手に魔法陣を浮かべ、フランドールの顔面にたたき込む。
マジックミサイルが至近距離で破裂。掌が爆風で裂かれるのも構わずに拳を強く握りしめる。

「ふざけんじゃねぇぇっ!!アリスを壊せてご機嫌か!?お前が壊したのは取り返しがつかないモノだ!!フラン、お前を、私は、私はっ!!」

魔理沙は水を滴らせたとんがり帽子でフランドールの顔面を無理やりに覆った。
全身水浸しで、そして魔理沙の眼元から顎を伝い、透明な滴が垂れる。
フランドールの左腕がむしゃらに振りまわされるが魔理沙は左足で蹴り押さえる。
八卦炉をフランドールの顔面に押し当て、息をするのも苦しそうに浅い呼吸を繰り返して告げる。

「っはっっぁっ――ッ、私は、お前を許さないッ!」

ゼロ距離で魔理沙は叫ぶ。

「マスタースパーク!」

その直後、魔理沙はフランドールの悲しげな声を聞いた気がした。「ゴメンね、魔理沙」、と。
心臓に針が突き刺さったように魔理沙の胸が痛んだ。
だけど、マスタースパークは止まらず、的確にフランドールの首から上だけを飲み込んでいく。
魔理沙はマスタースパークの放出音に掻き消されながらも呟いた。

「……なんで謝る…?」

魔力の放出が終わると、魔理沙の目の前には首から上を失ったフランドールの体が、ぐらり。と傾き、倒れた。

「お前…本当はどうしたかったんだよッ、フラン!!」

魔理沙が震える右手を握りしめて、無残なフランドールの体に手を伸ばす。
瞬間、レミリアが叫んだのだった。

「待て、フランに近づくな!!」
「っ、何言って」

突然、倒れたフランドールは右足の踵で円を描きながら魔理沙を襲った。

「生きてるの、か?」

空振りした足に魔理沙は呆然として呟き、レミリアが怒鳴る。

「当たり前だよ、馬鹿!いいから、直ぐ離れろ!!」
「馬鹿っていうなっ!!」

言われるがままに魔理沙は距離を取り、合間を見て弾かれた本を拾いに行ってたパチュリーの隣に並ぶ。
二人の魔女の前のレミリアが構える。

「くすくすくす、あは♪」

フランドールの体が一匹の蝙蝠に代わり、すぐに爆ぜて元のフランドールに戻る。
首から上のある、無傷なフランドールの姿に。
紅葉の様に小さな手を開かせ、口元にあててフランドールは笑い出した。

「パチュリーも魔理沙も中々壊れないねー。あの最初に壊したのと全然違うよ?楽しいね!もっとだよ、魔理沙!もっともっともっと頑張ってよ!」

魔理沙には今さっきの謝罪が嘘のように思えてきた。
どうしようもなく、フランドールは破綻している。と魔理沙は自分の思いを踏みにじられ実感した。
破綻している少女は首を傾け、紅茶色の瞳が全てを飲み込むかのように三人を見つめている。

ふと、レミリアが二歩前に進み、フランドールに話しかけた。

「……お前が最初に壊した奴はアリスっていう名前の魔法使いだ」
「ふーん?でも壊れちゃってるんでしょ?じゃあ、もう良いじゃん。興味ないわー」


魔理沙の表情は硬くなり、ぎしりぃぃ、と歯を噛みしめ軋ませた。魔理沙は視線をフランドールに定めたまま、懐から砂時計を取り出した。
パチュリーが小さく魔法を唱え、五色五種の”賢者の石”を作り出す。
二人はフランドールの隙を見て、いつでも魔法を繰りだせるように構えた。

「じゃあ、私も良いか?フランドール」
「何が良いの?お姉さまー?言ってみて!なんだか面白そうだから!」

キャッキャ、と少女らしく嬉声をあげているフランドールの表情が。

「お前を壊して、フランドールという存在を忘れる」

―――凍りついた。

レミリアの言葉にフランドールの笑みが引き攣ったように歪んだ。

「え、なに言ってるの?忘れるってなんで?なんで私のこと忘れるの?」
「だから、お前に倣ってだよ。だって、お前が壊したアリスの事なんか、興味ないんだろう?じゃあ、私もお前に興味が持てなくなる様にお前を壊すよ。それで良いんだろ?フラン」
「アハハ、なに言ってるの今さら?ずうーっと暗い部屋に閉じ込めておいて忘れるも何もない癖に。違う?レミリアお姉さま」

亀裂が入ったような裂けた笑みでフランドールはレミリアの悪態を突いた。
だけど、平然と顔色一つ変えずにレミリアは応えた。

「違うな、フラン。私はずっとお前の事を気にかけていた」
「え?」

今度こそフランドールは何も言えなくなって口を閉ざした。
破綻していた、と魔理沙はさっき思ったがそれは勘違いだった。
だって、これだけまだフランドールには壊れる余地があったのだから。
だから、レミリアがこれから本当にフランドールを体から心まで壊しつくそうとしているのがなんとなく魔理沙は肌で感じていた。

「嘘よ」

短く、フランドールが否定する。

「嘘じゃない。私の眼を見ろ」

堅く、レミリアが495年の間違いを指摘していく。

「嘘じゃないなら、なんで今さら姉みたいな事言うのよ…」

口をわなわなと震わせてフランドールは頭を抱え、俯いていく。
レミリアは何も言わない。
さきほどの宣告通り、ただフランドールを直視しているだけだった。

「じゃあ、なんであの時、あんな事を私に言ったのよ!この、嘘付き!!」

面を上げて叫ぶ。初めてフランドールが苦しそうな顔を見せた。
それはたった一人の家族からの攻撃だった。世界に一人しかいない姉からの言葉が鋭く心を抉り、突き刺している。

だけど、フランドールは忘れていた。

レミリアは495年の間、フランドールに対し。

「ん?」

フランドールの嘆きにレミリアは訝しげに眉を沿える。
その態度にパチュリーは一抹の不安を覚えた。きっと、その予感は正しい。
レミリアが事もなげに、フランドールの嘆きを。


「なんの話だ?私がお前なんかとの会話イチイチ覚えてる筈がないだろ」


覚えがないと切り捨てたのだ。

レミリアは495年の間、フランドールに対し、今までしっかりと向き合った事がなかったとパチュリーは思っている。
レミィは向き合う必要がないからと本気で思っているからだろう、とも。
もし、本当ならばきっとレミリアは姉として最悪の部類に位置しているだろう。
パチュリーは二人の会話を聞いていて小さく嘆息した。

「……………く、ふ、くすくす、あっは?っははは!?キャッハハハハハハ!!?ぁっははははははは」

眼元に涙を溜めていたフランドールの表情が泣きそうな状態から半笑いを浮かべ、やがて小さく漏らした笑い声が大きな声に変貌していく。
天井を仰ぐようにフランドールの笑い声が響き、――ピタリ。と、止まった。
同時に厚い縄が引きちぎれたような音がパチュリーと魔理沙には聞こえた気がしたのだ。

「はははははは、ハ、…は。……――――。っとーに、もーー!!壊す壊す壊すぅっ!!絶ぇ対にお姉さまなんかグチャグチャにしてあげるんだから―――!!」

フランドールが右手を空高く上げた。その手には一枚の真っ赤なスペルカードが握られていた。
だけど、そのスペルカードは使われることは無かった。
フランドールの右手をいつのまにかレミリアが掴んでいたから。

「簡単に友達作れば良いなんて言って悪かったな」
「うっ」

小さな呟き。それはパチュリーには聞こえない程度の声量だった。
フランドールが石像のように固まる。
レミリアがフランドールに今まで優しい言葉を掛けてこなかったのは、レミリアの言葉が簡単にフランドールの心に響いてしまうから。
姉の言葉の前にはフランドールは自分の意思を容易く、捻じ曲げるから。

「………なんでこのタイミングで言うのよ」

フランドールは涙をこぼした。

「少し寝て、待ってろ。フラン」

レミリアの手が躊躇なくフランドールの鳩尾を殴りつける。

フランドールは眼を閉じた。首は項垂れて、手足を力なくぶら下げている。

「パチェ。地下室へ」

レミリアがフランドールを床に寝かせるとパチュリーが魔法でフランドールを水で包みこむ。
しゃぼん玉のような球体の中でフランドールは体を丸めて眼を閉じていた。
パチュリーは広場を後にする。その後をしゃぼん玉が追いかけて、フランドールも退場していく。

「おやすみ、フランドール」

その妹の姿にレミリアは誰に聞かせるでもなく、告げたのだった。




















「ここだ」

満月の光で薄暗くも分かる程度に緑取り取りの草木の茂みを指して、妹紅は告げた。

「この景色がねじ曲がって黒い穴が出来た。で、その穴の奥に洞窟が続いてたんだよ。ただ私が何やってもなぁんも変わらなかったけどね」

輝夜がふーん、と口にして、永琳はただ漠然としたこの景色を見ている。
鈴仙が、ガチャリ。と、まるでそこにドアノブがあるかのように”空間”を掴んで捻って押した。
あっさりと、茂みの景色は平面に変わり開いて、代わりに覗いた扉の奥は暗い闇一色だった。

「あー、ちょっと待ってくれ」

妹紅が咳をしつつ、鈴仙の両肩を押さえる。

「今、どうやった?」
「いや、私は普通のドアがあったので、普通に開けたんですが」

妹紅がどう見えていたのか、鈴仙には分からない。
また逆も然り。
永琳が予測を告げる。

「優曇華が正しい魔力を持っていたから認証したのよ。優曇華にだけはしっかりとその姿を見せていた。それだけのことよ」

訝しげに妹紅は「魔力?鈴仙が?」と尋ねる。
一応、妖怪兎ではあるけれど、鈴仙には妖力はあれど、魔力は無い。魔法なんて使えない。
だから、言われた鈴仙自体も首を傾げるだけだった。

「いち、とーった!」

輝夜が無造作に闇の中に入って行った。
その後に咲夜も続く。すかさず永琳が入って、鈴仙も入って、妹紅が入ろうとしたら、勢いよく扉が閉められる。

「って、おい!」

一人、取り残された妹紅は茂みに向けて告げる。

「あれ、仲間外れじゃん……。うーわー、最悪だ。ちぇ、良いさ、永遠亭組で行ってくればいい、ふん」

拗ねて石ころを蹴り飛ばし、妹紅は人里の上白沢 慧音の家に向かって行った。






扉の向こうは異様な雰囲気だった
生暖かい空気が鈴仙の頬を撫でる。外は深夜だったのに、ここにはオレンジ色の小さな太陽が天蓋に昇っていた。
夕暮れ時の色合いに、黒々として干ばつにあったような亀裂が大地に走っていた。
草木はない。生き物の気配もない。
地獄でもここまで寂しい風景は無かった。

「ここは…?」

輝夜の呟きに、誰かが答える。

「ここは魔界。ようこそ、幻想郷の皆様。生憎とここには何も御座いませんが私が相手をさせてもらいますので退屈はさせません」

少し遠くで金髪のメイドがハキハキとした口調で答えた。
いつから居たのか永琳にも分からなかった。
彼女はゆっくりと近づいて来て、十歩程の間合いを開けて立ち止まり、来訪者四人の顔を見ていく。
その視線が鈴仙で止まる。
にこやかな笑みを浮かべて鈴仙に言葉を向ける。

「お帰り、アリス。今日は友達を連れてきたの?神綺様が泣いて喜ぶわ」
「は?私はアリスじゃないんだけど」
「……んー?そう、みたいね。てっきり乗っ取ったのかと思ったわ。アリスも紛らわしいわね」

一人、メイドが文句を告げる。
誰も彼女の言葉に口を挟もうとしない。
だから、唐突に誰かが応えた。それは決して永琳達ではないという事。

「紛らわしいって、その子。きっとアンテナの補助をしてくれてたみたいよ。だから、微かに残ったアリスの魔力が扉を開けてしまったみたい。つまり彼女たちは侵入者。なら、私が挨拶するべきよね」

メイドの隣の空間がゆらり、と揺れる。
滲むように人の形が生まれ、次第に明確な形を持って揺れが収まる。

「ようこそ。無限の広さを持つ魔界へ、私は神綺と言います。この魔界の創造者であり、神でもあります。よろしくね」

濃い白髪のどこか、おっとりした雰囲気を醸している女性だった。

「ご丁寧に。私は八意 永琳よ。アリスを探しに来たんだけど、今のアンテナの補助、というくだりについて詳しく知りたいわ」
「あらら、うちのアリスが迷惑をかけたみたいね。ごめんなさい」

神綺は簡単に頭を下げた。
隣にいたメイドが笑みを浮かべながらも、怒った表情を浮かべるという斬新な顔で神綺の左肩を持ち上げ、頭を無理やりに上げさせる。

「一応、神綺様私たちの創造者なんですから簡単に頭を下げないでください。しかも、初対面の相手に謝るなんて付け込まれたらどうするんですか?そこの所、分かってますか?」

柔らかい口調ながらも険を帯びた声音に神綺は苦笑する。
どこか、おっとりした主人に厳しくする様は冥界の西行寺 幽々子と魂魄 妖夢を思わせる。

「良いじゃない。別に害があるわけでもないのに」
「……もう一度、言いますよ?付け込まれたら、どうするんですか?」

神綺は少しばかり思案気な表情を浮かべて、一つ頷いた。

「殺すわ」

あっさりと笑みを浮かべて告げた。
同時に神綺の背中に六枚の羽が現れる。木の葉のような形の、だけど禍々しい紫闇色の羽を。
何処となく、神綺の言葉は永琳達に向けられているようだった。

「さて。アンテナの事ね。よっぽど感受性が高かったみたいで、アリスの魔法の余波を受けてた、で合ってる?」
「…ええ、合ってるわ。問題はどういう意図でどんな魔法を使っていたのか、なのよ」

永琳が鈴仙の頭を抱きかかえて言葉を告げる。

「うちの優曇華に対しての魔法じゃないことは分かってる。だから、直接的な害意はなかったと判断するわ。だけど、この魔界から幻想郷にまで届くほどの魔力、いえ魔力で作った振動波を持って何をしていたのか?それを教えて欲しいわ」
「それは答えらないわね。アリスの魔法の実験だからね。私から見てまだまだ、だと思っても我が子の成長を見守るのは親の務め。そして、子を守るのも親の務め。アリスの魔力が感知できなくなったわ。何か知ってる?私は答えたわ」

永琳は黙りこみ、代わりに咲夜が続きを引き取った。

「貴方達の会話はよく分からなかったけど、アリスはこの魔界に居るんじゃないの?」
「いえ?アリスは今朝、魔界を出て行ったわ。それでしばらくしてこの魔界にも届いていた魔力が消えた。だから、尋ねてるの」

だけど、咲夜が永遠亭で見たアリスの体は人形だった。
どういう原理か知らないけれど、アレがアリスだったとは思えなかった。
しかし、紅魔館で闘ったアリスが人形には思えなかった。

「アリスは…死んだと思うわ」
「思う?それはどういうこと?」
「死んだ後のアリスの体がまるで人形みたいになったから。もしかしたら何処かで人形を操って闘っていたのかと考えたわ」
「ふーん。まぁそれもそうね。だけどソレはきっとアリスだったのよ。ほら、だって」

言葉を区切り、神綺は隣のメイドの上着を捲った。
露わになる腹部には人形特有の球体間接で胴体を作られていた。
咲夜にはメイドが人形には見えなかったのに。

「……神綺様、悪戯が過ぎます」
「あはは、そうねぇ。まぁ、こういう事よ。この魔界の住人は私が全て作り出した。それはこの夢子もそうだし、アリスもそうなの。中でもアリスは私の最高傑作でね、もー昔から愛くるしく可愛らしかったのよ」
「つまり、アリスは…」

咲夜が言葉を詰まらせる。
神綺の言葉は咲夜の中でアリスが死んだ事を明確にしたのだった。知らずに拳を握りしめる様子を神綺は眼を細めて見ている。

「さて」

一つ呟き、神綺が指を弾いて軽快な音を鳴らす。
すると、鈴仙の姿が不意に地面の下に落ちた。唐突に開いて鈴仙を飲み込んだ穴は簡単に閉じていった。
永琳が険呑とした視線を向けた。
神綺は平然と微笑みを絶やさないで告げる。

「あの子には悪いけど、アリスの依り代にさせてもらうわ。アリスの波長を一度とはいえ身に受けたのなら、きっと上手く適合するでしょ」
「随分勝手な言い草なのね、所詮は神様か」

永琳の眼が深く沈んでいく。
キリリ、といつの間にか弓矢を取りだし、瞬時に構えた。

「ええ。神様、魔界神だからね。ここは私の世界、全てが私の理屈でまかり通る異界。さぁ、永琳はどうするの?」
「こうするわ」

即答。速射。
放たれた弓矢は眼にも映らぬ速度で神綺に迫る。
ただ風切り音だけがした。
そう、神綺に迫る矢をその銀色のナイフで切り落とした鋭い音が。

「やっぱりこうなるんですね。予想は出来てましたけど」

夢子の手には剣と呼ぶには短く、ナイフと呼ぶには長すぎる刃物が握られていた。
まるで蛇のようにくねり曲がった軌跡で永琳の矢を切り落としたのだ。
咲夜は一瞬でこのメイドが想像もつかない短刀の使い手だと直感した。

「まとめて人形みたいに手足綺麗に切断してあげますから、いつでもどうぞ」

神綺の前を位置取り、夢子は右手に持つ短刀の先を永琳に向けた。
ふ、ふふ。と不気味な笑い声が生まれる。
今まで黙っていた輝夜が永琳の前に進み出ていく、夢子の短刀の刃を握った。

「っ」

夢子が小さく呻いた。
輝夜は短刀を握り、そのまま歩みを進める。喉に刃が食い込んで、赤い滴が垂れ始めても進みを止めない。
喉を貫き、血を口と開いた傷から噴出させて尚、進む。
輝夜の満月のように丸い瞳は夢子を見ているようで何も見ていない。もっと遠く、さらに見えない程遠くの、まるで消えた鈴仙を見つけようとしているような遠い眼で突き進む。
そして、喉が潰れているというのに瑠璃色の声音ではっきりと言葉を発した。

「邪魔よ。退きなさい」

狂気染みた行為に夢子は耐えきれず、一歩後退する。
ふふ、と輝夜が笑って。

「貴女がね」

神綺の冷たい声が響く。

破裂した。血だけを大量に撒き散らし、輝夜の姿は消え失せた。

「言ったじゃない。ここは私の世界って。全てが私の手の中よ」

神綺の言葉に誰かがふっ、と笑った。神綺の眼には咲夜にも永琳にも笑みは浮かんでいない。
じゃあ、誰が?と。しかし、その答えはすぐに”現れた”。
幽霊のように輝夜の姿が浮かび上がる。

「神様でも悪魔でも私の魂は誰にも縛れないのよ」
「へぇ、それホント?」

右手を神綺は輝夜に向ける。
何をするのか先が読めないけど、何でもできる故に輝夜は何が起きても気にしないつもりだった。
ただ悠然と構えて、誘う。

「さぁ、――――生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く死に死に死に死んで死の終わりに冥し。死を知らない私は世界を超越する。神様ごときの分際でつまらないけれど、相手してあげるからかかって来なさい」

不死身の蓬莱人である輝夜は極端にいえば、無限と同等の存在。それは神でも覆せない。

「ただの人間かと思ってたわ。くふ、久しぶりに楽しめそうね。夢子、貴女はそっちのメイドでも適当にあしらっておいて。この二人は私が闘るわ」
「分かりました。その不死身とは相性が悪いですから、神綺様もくれぐれも注意してください」
「はいは~い、頑張るわよ」

夢子は短刀を虚空に放り投げて、神綺の前から離れていく。
同じように咲夜も夢子に合わせて並行して付いて行く。

金髪銀髪メイドコンビの姿が消えて、輝夜は珠の枝を取り出す。

「さぁ、いつでも来なさい」

逸る様に輝夜が誘う。
神綺は誘いに一つ、頷いて口を開く。

「ええ。では、これから本当の事を話しましょう」
「え?」

輝夜がぽかん、と口を開けて永琳を見る。永琳は優しげに眼を細めて、輝夜の頭を一回、二回と撫でた。
神綺はまるで悪戯が成功したかのような、子供みたいな笑みを浮かべて笑ったのだった。



















しばらく歩き続け、仕掛けたのは同時だった。

「「ふっ」」

咲夜が時間を止めてナイフを投げつける。
夢子が空間に波紋を広げ、咲夜のすぐ目の前に短刀を召喚する。

「「っ!!」」

互いに首を傾げ、頬を掠めた。
咲夜は右頬に。
夢子は左頬に。
左右対称の綺麗な初手だった。
まるで映し鏡のように。そして、二人は内心驚きを隠そうと必死だった。

咲夜にとって、突然景色が揺れて銀色の刃が目の前に現れたから。
夢子にとって、投げる動作が一切無かった。まるでそのシーンだけ切り取られたようだった。

「…貴女、名前は?」

夢子が尋ねる。
咲夜は嘲笑う。

「名前を教えても意味がないわ」
「ふふ、確かにそうだったわね」

瞬間、咲夜の両手が高速で動きだす。
夢子は両隣の空間から沢山の短刀を生み出した。

銀と銀が互いに襲いかかる。

二人の間に数十ものの銀色の軌跡が生まれていく。
鉄と鉄が重なり衝突しせめぎ合い、甲高い金属特有の悲鳴が轟き始める。

咲夜は一秒ごとに時を止め、確実に短刀をナイフでぶつけ合わせ、埋め尽くされる刃の群れに隙間を見つければそこにナイフを投げ込んでいた。

十歩分の間合いも無い距離の刃物の投げ合いで咲夜は負けるわけがないと思った。
いや、投げ合いで勝たなければという焦りが咲夜にそう思わせていた。
接近戦は不味い。
分が悪すぎる。そう感じていた。
だから、投げナイフで一気に勝負を決めると考えたのだ。

理論上、時を止める咲夜に負ける要素はない。

一際、大きな接触音が響き、互いに投げ合う手を止める。

咲夜は無傷。しかし、息は荒い。
夢子は。

「あら、もう体力切れ?人間にしては凄かったわよ」

涼しい顔で切り傷一つも負っていなかった。
ただ、その両手には短刀が握られている。
まさか、と咲夜の脳裏に一つの考えが浮かんだ。

「ナイフを切り落としていたの…?」

時を止めた訳でもない。
自分の意志で短刀を召喚しつつ、高速で襲いかかるナイフを見切り、切り落とす。そんな事を夢子はしていたのだ。
―――この化け物め、と咲夜は嘯く。

「失礼ね。こう見えても私は魔界人の中で一番強いだけですよ」

ニッコリと夢子は笑う。
全力を注いでいたばかりに咲夜にその笑顔は想像以上の緊張を与えた。

「では――。」

夢子が駈け出した。
咲夜が認識する頃にはすでに喉元に短刀が迫っていた。
咄嗟にナイフで流しつつ、体を屈める。その先にもう一本の短刀を持った夢子の右手が素早い突きを繰りだした。
ガガッ、と二撃を刃で交わしながら三撃目より速く一気に後退する。
しかし、同じ速度で夢子も間合いを崩さずに咲夜の懐に入り込む。

「くっ!」

夢子の心臓と喉を狙う刃が煌めく。
咲夜は右手のナイフで喉への攻撃を刃と刃でせめぎ合わせ、左手のナイフで心臓への軌道を受け流すも、ナイフが手から弾かれる。
一旦引いた心臓狙いの短刀を再度、突き出される。
夢子の眼が輝く、咲夜の心臓に突き立ったナイフが赤く染まる。そんな光景を目に浮かべているように。

「―――ミス・ディレクション」

咲夜のメイド服に刃がシワを作り、心臓を突き破る――直前。視界の端に煌めきを夢子は見た。
とっさに体を引いて、夢子の喉を何かが掠める。右下から過ぎ去った飛射物を見るとナイフだった、いつ投げた?夢子は眼を見開き、大きく跳躍して後退する。

ふと、中空で夢子は自分の失敗を悟る。
咲夜が亀裂が入ったような口を大きく開けて、歯を剥いて楽しそうな狼のように笑った。

「”幻葬”夜霧の幻影殺人鬼!」

鎖が触れ合うような濃厚な鉄の接触音が響く。
咲夜の周囲に数えきれない程のナイフが浮かんでいた。

夢子が着地する数瞬前に凶悪な数のナイフが走駆する。
膝を曲げ衝撃を緩和した夢子の前には避け切れない程のナイフの壁が迫っていた。
両手を羽根の様に広げ、真正面から迎える。

――――悲鳴が響き渡った。
耳をつんざく様な絶叫が咲夜の鼓膜を穿つようだった。
咲夜は、眼を丸くして今度こそ、呼吸を止めて絶句する。

悲鳴は悲鳴でも、人の出す声ではない。
金属が連続で叩き折られ、切り刻まれるような異常な擦過音だった。
同時に夢子の居るであろう位置で、奇妙な事におびただしい程の数のナイフが軽やかに上空をくるくると弧を描いて重力のままに落ちていく。

「嘘よ、そんなバカな……」

冷静に妖怪を倒せる咲夜でさえ、驚きで胸が震えている。
馬鹿な、あれは、まさか、そんな――――。

「全部切り払っているとでも言うのっ……!」

そのスペル自体避けられる事はあっても、真正面から叩き潰されるなんて事は一度もなかった。
あのお嬢様でさえ、ナイフの群れにグングニルを衝突して打ち払うのが関の山だった。
それなのに、あのメイドは自身の力だけで―――。

カラン、と全てのナイフが落ち切った。

「はぁ、はぁ、はぁ―――ふぅー。流石に今のはキツかったです」

肩を上下させながらも夢子はニッコリと咲夜に短刀を向けたのだった。

「それと、こうでしたか?」

夢子の両隣に空間を埋め尽くす程の銀色の刀が咲夜にギャリリリリリィイ、と一気に矛先を向けた。
咲夜のスペルとは比べ物にならない程の質量だった。
その時点で自分が勘違いしていた事に気づく。
接近戦で勝てない?
遠距離戦の方が、もっと勝ち目が無いじゃないの!

一気に。

「しまっ」

咲夜は異常な程の短刀の嵐に飲み込まれる。
強烈な攻撃音はすぐには止まない。
咲夜が居た場所には短刀が短刀に突き刺さり、その短刀に突き刺さった短刀が重なってさらに短刀が突き刺さり、ソレの繰り返しで銀色の奇妙な山が出来上がっていた。

積み上げた山を見て夢子は静かに呟く。

「少し大人げなかったかも。まぁ、それだけの相手だったから仕方ないわね。神綺様が嘘までついたのにっ!?」

首筋に凍りつくような殺気を感じ、咄嗟に夢子は体を屈めた。
頭上を銀色の軌跡が駆ける。
背後には咲夜が続けざまに容赦なくナイフを振り下ろそうとしていた。
夢子は体を回転させ、その勢いのまま左手で振り下ろされるナイフを持った腕に拳をぶつける。

「痛っっ!」

離して落ちるナイフをつかみ取り、一瞬で咲夜の背後に回り込み、首筋に刃を押し当てる。

「私相手にこれだけ戦えた人は久しぶりよ。凄いわ、貴女」
「それはどういたしまして。離してくれればもっと戦えるわよ?」
「別に良いわよ、離しても」

皮肉で言ったのに、すんなりと提案が受け入れられたことに咲夜は驚く。

「ただし、貴女の名前を知りたいわ」
「そうね、私の名前は―――霊夢よ」
「……へぇ」

それだけだった。
夢子は大した反応もせず、咲夜も静まり返った雰囲気に、ああ、死んだと思った。
しかし、その夢子の反応は咲夜の予想の範囲内だった。
咲夜の左手は上着のポケットに入り込んでいた。右手は夢子のナイフを持つ手に柔らかく触れている。

「残念ね。私は昔同じ名前の巫女に会った事があるのよ。―――さよなら、偽霊夢さん」

ギュ、と夢子のナイフを持つ手が握りしめられた音とカチリ、と歯車が噛み合った音が聞こえた。
それだけだった。
咲夜の首筋に当てられたナイフは身を引く事は無かった。
まるで石像のように夢子は硬直していたからだ。

咲夜は夢子の腕を掻い潜り、ポケットから鎖付きの懐中時計を取り出した。

「貴女の時間は私の物」

咲夜は夢子の首に鎖を掛けて胸元に時計を装飾した。

「ふぅ、驚異的だったわ、お嬢様と出会った次ぐらいにね。だから、これは餞別よ。その時計、そのまま身に付けてると良いわ」

それは「咲夜特製ストップウォッチ」。時計に触れた者、または発動している時に咲夜が触れた者の時間を止める道具。
咲夜は踵を返す。
永琳達とは随分離れてしまった。少し早めに戻って行こうと咲夜は思う。
ふと、思い出したように咲夜は振り向き、停止した夢子に上品な笑みで告げた。


「――――――永遠に」
































フランドールの居なくなった広場で魔理沙は何をするでもなく立ち尽くしている。
魔理沙の事だから、『アリスが死んだのは自分がレミリアと無理に戦わせようとした所為だ。』って、考えている。
そうレミリアは魔理沙の沈んだ横顔を見ながら予想していた。

ふと、パチュリーが分厚い本を片手にゆっくりと浮遊して戻ってきた。

「ねぇ、魔理沙。ちょっと確認したい事があるわ。良いかしら?」
「……は?」

魔理沙はパチュリーが手元に広げた本を見て、顔をしかめる。
それはキノコについて詳しく書かれている図鑑だった。
なんで、こんな時に――。
そう呟きながら、体を重たそうに動かしてパチュリーに近づいて行く。

「このキノコを見て頂戴」

レミリアも一緒に図鑑を覗き、苦い顔をした。

「うえっ、こんな赤黒くて気持ち悪いキノコ初めて見た。なにこれ?しかも見た目通り、”妖怪さえも殺してしまう猛毒キノコ”って。パチェ、これ絶対咲夜に見せるなよ。紅茶に淹れられたら敵わないから」

しかし、そんなレミリアの言葉を二人の魔女は一切聞いてなかった。
魔理沙は眼を見開いて、唇を震わせている。
パチュリーは淡々とした口調で尋ねた。

「アリスに食べさせたキノコでしょ?これ」

恐る恐る、魔理沙はゆっくり「ああ」と、肯定する。

「間違いないぜ。確かに、でもアリスは生きている……?―――そういえば、なんでアリスはあんな事を聞いたんだ?」
「あんな事って?」
「『何日前に食べさせたのか?』って言ったじゃないか!そしたら」

パチュリーは本を畳んだ。
魔理沙の言いたい事をパチュリーは分かっている。だから、魔理沙の言葉を引き継いで告げた。

「そうね。三日前って魔理沙が答えたらアリスはあっさりと、『じゃあ良いわね。』って言ったのを覚えてる。私はあの時、疑問に思ったのだけど魔理沙は何も思わなかったの?アリスは三日前なら何が良かったの?それに、アリスは魔界に行くと書置きがあったけど。そもそもなんで魔界に行ったのかしらね」
「それは、―――実験の為?いやいや、でもあの時にアリスが丁度帰って来て――」

魔理沙の中で何かが形になろうとしていた。
なにかよく分からないけれど、何かがどうにかなりそうな、そんな予感が何処からともなく湧いている気がした。
レミリアが言葉を挟んだ。
純粋な疑問を、闘っていて思った事を尋ねる。

「アリスのあのスペル。ダンタリオンの書庫ってパチェ見たことある?」
「いえ、初めて見たわ。いつもアリスは人形を使って戦うし、人形を通して魔法を使うから」

なるほど、とレミリアが顎に手を当てて言葉を続ける。

「じゃあ、もしかしたらアリスは生きてるかもしれない」

レミリアの言葉に二人は顔を見合わせたのだった。
























フランドール・スカーレットにとってレミリア・スカーレットという存在は大きかった。
自分よりたかが五年早く生まれだけなのに、フランドールは一生レミリアに勝てないと思っている。
それは単純に強い弱いなんて問題じゃない。
いつだってレミリアはフランドールの先を行き、楽しそうな事は楽しみ、怒る事は怒り狂い、悲しむ事はひっそりと胸に刻んでいる。
その背中をフランドールはずっと追いかけて追いかけて。
時折、フランドールが転げてしまってもレミリアは立ち止ってフランドールに手を差し伸べてくれた。
そんな姉との約束があった。
ずっとずっと昔。
『心配する必要はない。私は姉だからな。お前の傍にずっと居るよ』
きっかけは忘れた。
だけど、黄昏の光を背に、レミリアはフランドールに優しく宣言したのだ。その光景は未だ、フランドールの心に刻まれている。
もし全てを壊してしまっても、レミリアだけはいつまでも傍にいる。
現にフランドールはパチュリーと魔理沙に対し、壊してしまうかもしれない不安感が常にあった。しかし、レミリアに対してはそんな気持ちは無かった。
単純にレミリアという存在が壊せないだけかもしれない。
それでも、何をするにもまず壊してしまうのでは?という概念があるフランドールにしてみればレミリアとその他の存在は一線を画している。

「……パチュリーかぁ」

パチュリーとレミリアが仲良く話をしている時。
フランドールはとてつもない寂しさに襲われた。

傍に居るって言ったのに、嘘をつかれた?

いや、そうじゃない。

レミリアはいつだって自分が先に何かをしてそれからフランドールに教えるのだから。
だから、別に嘘だったから悲しいとかじゃない。

フランドールは自分がどんな存在なのか、よく理解しているつもりだった。
”全てを壊す程度の能力”
これがどれほどの枷になっているのか、それはフランドールだけがよく知っている。

友達って楽しいのかなぁ。
パチュリーが本を朗読し、レミリアが口を挟んで楽しげに邪魔をする。そんな光景を見ているとフランドールはそう思ってしまったのだった。

『お姉さまばっかり友達持ってズルいわぁ』

興味本位を隠すために、ズルいという言葉を使った。

『ズルいってなんだよ。お前だって友達作ればいい。壊さなければ、の話だがな』

……壊さなければ?
それは無理よ、お姉さま。
だって私はお姉さまじゃないもの。壊すことしかできないのに。
それでも友達を作るという誘い文句は魅力的で、簡単に無理だと諦める事はできなかった。
フランドールは確認の為にレミリアに尋ねる。

『じゃあお姉さまと戦ってパチュリーって壊れなかったの?お姉さまみたいに強いの?』

しかし、レミリアは言葉を詰まらせ、忠告した。

『……パチュは強いよ。だけど、お前。パチュに手を出すなよ』

言外にお前では友達は作れないと言われている気がした。
だって、パチュリーに手を出すなってことは、壊してしまうかもしれないから。
だけど、レミリアは友達と言った。
私だと壊してしまうのに?お姉さまは?

フランドールは友達という言葉をあまり知らない。
だから、初めて分け与えられなかったモノに深く傷心したのだった。

パチュリーにフランドールは挑戦してみた。結果は負けたけど、パチュリーは満身創痍に近かった。
これじゃあ、まだ壊してしまう。

『さすが吸血鬼の妹ね。日符まで使うとは思わなかったわ』

そうは言うけれど。パチュリーでは駄目だった。これじゃあ、弱すぎる。
私は駄目だったのに。お姉さまは大丈夫だった?
―――理不尽よ。
なんでお姉さまは良いのに、私だけ駄目なの!?
なんでなんでなんでなんでなんでなの?
眼に涙が溜まっていく、パチュリーがこっちを見ている。
悔しくて理不尽でどうしようもなくて、フランドールは溢れる涙が我慢出来なかった。

こんな苦しくて嫌な気持ちは初めてだった。

だから、フランドールは溢れていく涙と”こんな気持ち”を―――。

右手でキュっと掴んで。

「……っ」

壊した。
同時にフランドールの胸の奥で何かが砕けて消えていくのが分かった。
サラサラと眼から涙が壊れて消えていく。
不意にフランドールを今まで襲っていた感情は消える。

まるでぽっかりと開いた穴になにか落としてしまったように。
もう、今の感情は思い出せない。あれ?私、さっきまでなんであんなに苦しかったの?と。

姉に置いてかれるのが嫌な気持ち。
自分ではどうしようもない悔しさ。

その二つが欠損した。

レミリアに置いてかれなければ良い。
自分で駄目なら姉も駄目にしてしまえば良い。

すんなりとそんな思いが生まれた事にフランドールは驚き、だけど平坦な感情のままに受け入れた。
素直な気持ちを呟く。
パチュリーが目を剥いてフランドールを凝視した。

『ちえっ、壊せなかった。アイツに友達なんて許したくないのに』

この時、フランドールは破綻してしまったのだった。

いつからか、レミリアが気付いた時にはフランドールは手の施し用がなくて、館の深い深い地下室へと閉じ込める事しかできなかったのだ。
























咲夜は絶句していた。
目前の光景が信じられないと、あまりの予想外な景色がそこにはあった。

「くっ、ここは魔界!であれば、確率でさえも貴女の思いのままね。反則に近いわ」

永琳が苦しげに顔を歪める。
神綺は今まで変わらない悠然とした笑みを浮かべて永琳の言葉を心外そうに反論する。

「嫌ねぇ。そんな無粋な事はしてないわよ。これは単純に実力の差。ほら、運も実力の内でしょ?だから貴女が弱いのは仕方ないのよ」

永琳が弱い?
そんな言葉を平然と神綺は吐いた。
強い、弱いなんて―――。
咲夜は目の前が暗くなって、立ち眩みに襲われる。

「ふふっ、永琳に構ってばかりだとすぐに足元掬われるわよ」

輝夜は穏やかに笑い声を洩らして、手を伸ばす。
そこにはルーレットがあって、細く長い指が針を勢いよく弾く。そして、針の指し示したモノは―――”6”。

いつのまにか、なぜなのか。
八畳間の畳が敷き詰められ、その上にコタツがあり、さらにコタツの上を占領しているもの。
そこで咲夜は絶句していた。

「……なんで貴女達ボードゲームなんてやってるのよ」

楽しげに輝夜がボード上の自分の駒を手に取り、マス目を六ヶ所進めた。
そして、きゃー。と嬌声を上げた。

「ルーレットの数に合わせた資金がカジノで手に入るだって、永琳!」

ぎぎぎ、と固い動きで永琳は首を回して、ぎこちない笑みを浮かべた。

「良かったわね。輝夜、―――――ちっ」

舌打ちを放ち、今度は永琳がルーレットを回した。”2”が出る。
ぴくり、と口の端を引きつらせて駒を手に取り、進めた。

”子供が生まれた。他のプレイヤーからご祝儀三百万ずつ貰える”

「あー、永琳また子供作ったー。ホント、やらしいわねぇ」

輝夜がニヤニヤと笑う。
神綺も同調して告げた。

「そして、またゴールした時に子供たち全員を売りさばくのよ。泣いてるわよー、お母さん売らないでーって」
「そうなのよねー?」

輝夜と神綺が楽しそうに二人合わせて首を傾ける。
永琳の額に血管が浮き上がった。俯き、「絶対泣かす、次は泣かす、明日泣かす」と、呟いていた。

咲夜はあまりにバカらしくて、コタツを蹴り上げる。
宙を舞うボード、そして三種類の駒。そして神綺と輝夜の涙。
カツカツン、と二人の額にナイフが突き刺さった。
そんな中、永琳が咲夜を見つめていた。
その視線に気づき、咲夜は永琳を見る。
永琳は親指を立てて、爽やかな笑みを浮かべた。

「……はぁ。馬鹿馬鹿しい。私があっちで死闘繰り広げていたというのにこっちは遊んでいたなんて、…あのメイドも報われないわね」

咲夜の呟きに神綺が口を開く。

「あら?ちゃんと見てたわよ。時を止められるのねぇ。あれじゃあいくら強くても敵いっこないわよ。こっちは不死身、そっちは時間操作能力者。とんでもない人たちが来たものね」
「見てたのなら助けないの?」
「もう助けたわよ。ああ、それでね。夢子がどうしても貴女の名前を知りたいんだって。今度、幻想郷に遊びに行くから宜しくとも言ってたわ。なんだか時計を返したいって」

咲夜は深く息を吐いて、爽やかな笑みを作る。

「ええ、私の名前は紅 美鈴よ」

さらりと咲夜は他人の名前を発した。
神綺が眼を何回も瞬かせ、咲夜と永琳を見合わせる。

「永琳と美鈴って同じ”りん”だけど、貴女達って親子なの?同じ銀髪だけど」

永琳はふっと軽やかに笑った。
笑って弓矢を召喚した。眼に止まらぬ速さで弓を引いて、神綺の額に向ける。

「それはどういうことなのか、詳しく聞きたいわね」

笑みを消して、冷淡な視線を突きつける。

「触れちゃ不味かった?ごめんなさいね」
「違うわよ、どっちが母で娘に見えたのか。はっきりさせなさい」

―――え?と輝夜が言葉を漏らす。
キリリィ、と弓が鳴いた。
神綺は「はぁ」と、曖昧な言葉を漏らしたけど。額には冷汗が浮かんでいた。返答次第で殺されるのは明白で、答えもまた明白だった。
だから、神綺には言えなかった。
そんな胸中を察したのか、輝夜が笑いだして告げた。

「あはははは!どう見ても、永琳が―――」

ヒュン、と輝夜の頬を矢が掠めた。
永琳がにっこり笑った。

「輝夜?口は災いの元よ」
「あぁ、うん。ごめんなさい。うん、黙るわ」

あっさりと言葉を改めて輝夜は黙る。
今までのフラストレーションを開放させるかのような勢いだった。さっき神綺(多分、輝夜にも)に泣かす泣かすなんて呟いてたぐらいだから。
永琳の視線が狼が獲物を選りすぐりするように神綺に移り、神綺は全身を挙動させた。

「あー、まぁ、そのね?ほら、私も立場上お母さんって呼ばれる事が」
「私も?今、誰と一緒くたにして”私も”と言ったの?」
「えー……あ、ほら。帰って来たわよ」

ふと、そこに居たかのように鈴仙の姿があった。

「……何してるんですか師匠?」

鈴仙が言いにくそうに尋ねた。

「優曇華、この状況見て分からないの?」
「ええ、全然分からないです」

そりゃそうだ、と咲夜は内心で頷いたのだった。











「それじゃあ、またね」

神綺との別れはやけにあっさりしたものだった。
咲夜はとんでもなく無駄な時間を過ごした気がしていた。
そもそも、魔界にはアリスがいると聞いたから同行しただけの話。
これでは何も得られてはいない。
どことなく苛立たせた表情を浮かべていた。

「さて、じゃあ美鈴さん。館に帰ってみると良いわ」

永琳が不意にそんな事を言った。

「私たちは永遠亭に帰るけど、人形は保管しとくからいつでも取りに来てと伝えておいてちょうだい」
「……なにを言ってるの?誰にそんな事を言うのよ」

永琳は事も無げに告げた。

「決まってるじゃない。アリス・マーガトロイドに、よ」

咲夜は自分の耳を疑ったのだった。
























どれだけの時間が過ぎ去ったのか、既にフランドールには知る由も無かった。
ただ考えるだけの時間だけがあった。
別に今さら姉がどんな事をしていても興味はない。
だとすれば、なんで自分はあんな事をしようとしたのだろう。

フランドールの目の前には閉ざされたハズの地下室の壁が大きく抉られている。
物を壊す程度の破壊力じゃ決して築けない傷痕。

それは羨望だったのかもしれない。
もしくは期待だったのかもしれない。

いや、自分さえ上回るこのチカラ。
誰だろう、と思った。
こんな事をした人なら、きっと私よりも壊れてるんだ。そう思った。

どちらにせよ、なんにせよ。
これを為した魔女はすでに壊してしまったからもう、意味はない。

あっけなく簡単に壊れてしまった。

壊れて……失った。

慣れたとはいえ、いつしか何かを成さないと”生きてる意味”が無い。そんな思いが微かにあった。
495年なんてあっという間だった。
胸を焼く様な焦りがフランドールに今までなんらかの行為をさせてきた。

本を読む。
破いた。

掃除をする。
壁に穴を開けた。

姉とケンカする。
虐められた。

どれもこれも、失敗に終わった。

パチュリーに相談しても、姉に相談しても駄目だった。

フランドールは両ひざを抱いて部屋の隅っこに座っている。
ふと、誰かがこの部屋への階段を下りてくる足音が聞こえてきた。

そういえば。
「魔理沙、怒ってたなぁ」

他人事のように呟く。
そうしなければフランドールは耐えられなかった。これ以上、自分の感情を壊すわけにはいかなかった。
魔理沙が怒った時、私は咄嗟に謝ってしまった。
―――嫌われたくなかったから。
面白い人間だから。
私と遊んでくれると言った人間だから。

もし、あの時謝らずに”魔理沙に嫌われたくない気持ち”を壊してしまっていたなら……。

フランドールの眼には血溜まりに沈む魔理沙の光景が浮かんだ。
今、自分が好きな者を壊しても何も感じなくなってしまったなら、それはなんて恐怖だろう。

今の自分が魔理沙を壊したくないと思っていても、もしその気持ちが壊れたなら私は躊躇なく魔理沙を壊す。

そんな事は嫌だ。
だから、フランドールは孤独と共に魔理沙に嫌われたくない一心を真摯に受け止め、なんとか消化しようとしている。
他人事のように俯瞰して、ゆっくりとゆっくりと近づいて、少しずつ受け入れてかないといけない。

本能的にフランドールは自分を守る術を身に付けていた。

ただし、それを理解する者は誰もいない。
それでも、全ては自分の能力の事だから、どうしても独りで悩まないといけない。

フランドールはあらゆる意味で今、孤独だった。
孤独故に独りで抱きかかえていた。


古びた扉が軋みながら開かれる。


そして、彼女は地下室に入ってきた。
三体の人形を周りに浮かせて彼女は部屋の隅から端まで視線を彷徨わせ、ふとフランドールを見つけた。

「……なんで?壊れたはずじゃあ」

フランドールの呆然とした呟きが静かに響く。
その答えをアリス・マーガトロイドは黙して語らない。

ただ、一言。
それだけでフランドールは救われた気がした。

「私は壊れない」

切実な声が響いてアリスに向かう。

「嘘よ。ちゃんと壊したもの」

アリスは両手を腰に当てて、顔を横向けてため息をついた。
そして、無造作にアリスはフランドールの手の届く間合いにまで近寄って来た。
その時、左脇に抱えていた本を持って、縦と横にぐるりと巻かれて十字架に見えていた固定具を取り外す。

「そう、じゃあもう一度私を壊してみる?」

淡々とした口調だけどアリスは微笑んだ。
まるで悪魔の様な甘い誘いだった。
確かにアリスは壊れていない。だけど、もう一度壊してしまうかもしれないし、壊れないかもしれない。
壊れないのならフランドールは良いと思った。
もし、壊れてしまったならばアリスはどうなる?
だけど、本当に壊れないとアリスは断言している。
わからない。わからないけども―――。

フランドールは思考を止める。

ただ地下室に楽しげな短い笑いが木霊する。

「キャハ♪”禁忌”レーヴァティン」

紅い大きな大きな剣が顕現する。
フランドールは両手にレーヴァティンを持って立ち上がった。
両手を上段にゆっくり振りかざす。
その動作を自分で遅いと感じた。……なんでだろう。
数瞬で答えは見つからない。仕方なくレーヴァティンはアリス目掛け振り落とされる。

「”巫符”白の魔法」

アリスの前に本が浮いて、白い光を放つ。
それは不思議な光。
眩しくない。目に突き刺さるような陽の光ではない。
体と溶け合って柔らかく浸透していく、暖かくて心地の良い光。
地下室を染め上げ、何よりも紅いはずのレーヴァティンでさえも白く染め上げる。
全てが包まれた瞬間、フランドールは羽根になった様に体が軽くなった気がした。

異変は一瞬だった。

柔らかい光が消えると地下室はまるで世界を反対にしたようだった。
地面から雪が空に降っていくような、沢山の白い粒がふわふわと天井に昇って、消えていく。

「………綺麗…」

フランドールは”雪”の行く末を見上げる。
魂が天国に昇ってるような景色だった。

「壊さないの?」

アリスがくすくす笑って言う。
むぅ、とフランドールは笑われて少し悔しいと思った。だけど、どこかそんな悔しさも心地よかった。
ふと、さっき出したレーヴァティンが無くなってる事に気づく。

「あれ?……”禁忌”レーヴァティン!」

力一杯叫んでもレーヴァティンは生まれない、または自分の魔力が一切集まらない事に気付いた。

「ええ!?なんでなの?ねぇ、なんでなのアリス」

今度はアリスが呆然とする番だった。

「あれ?フランドール。なんで私の名前知ってるのよ?」
「そっちこそ。なんで私の名前を知ってるの?」
「レミリアから聞いたのよ」
「そう、私もお姉さまから聞いたの」

不意に沈黙が下りて、二人は同時にくすくすと、笑いだす。

「これも運命か。レミリアは凄いわね」
「無い無い。お姉さまに運命操作なんてチカラ扱えてないよ」
「レミリアの事、お姉さまって呼ぶのね」
「……んー、気分で決まるわ。迷惑掛けちゃったからね。少しだけおとなしい妹をしようと思ったの」

フランドールは小さく笑った。
狂気染みた笑みと暴虐な魔力さえ使わなければ里に居る可愛げのある無邪気な子供たちと何ら変わらなかった。
アリスは「良いわね、妹」と呟いた。

「それで魔力が上手く使えないの。これってアリスの仕業?」
「ええ。白は浮く力を持っているの。だから白の魔法はこの次元よりも上を攻撃する魔法であり、そして全ての魔力や妖力を白で染め上げ、昇華させる魔法。こんな景色みたいにね」
「そうなの!?凄い凄い!綺麗!!」

手を叩いてフランドールは嬉しそうに告げた。
ただ、アリスの説明を理解してるようには思えなかった。
それでもアリスにしてみれば意外だった。
見た目は人形のように綺麗だけど、暴れ始めれば手も付けられないと言われていたフランドールが、まるでアリスの理想としている自律人形と重なる事に。
可愛くて強くて無邪気で愛くるしい。
ふと、神綺がどんな気持ちで自分を作ったのか、一瞬だけ触れた気がした。

「さぁ、じゃあ行きましょう。家から焼いた桃のパイを持ってきたの。フランドールの分もあるから一緒に食べましょう」
「え?」

躊躇なくアリスはフランドールの手を取って歩きだす。
部屋を出て暗い螺旋階段を昇って行く。
暗い石階段を一歩一歩確かめるようにゆっくりと。

ふと。フランドールは気付いた。
アリスを壊せなかった事に。
それもそうだった。魔力を使えなくさせるのだから。
つまり、アリス・マーガトロイドは決してフランドールには壊すことは出来ない。

『お前だって友達作ればいい。壊さなければ、の話だがな』

レミリアの言葉が脳裏に浮かんだ。
壊さなければ……。
アリスは壊せなかった。
それはつまり、フランドールにとって―――。

「あっ」

突然、立ち止まったフランドールにアリスは振り返った。

「どうかしたの?」

しかし、アリスから見てフランドールは俯いていて、その表情は伺い知れない。
フランドールはある事実に気づき、赤く染めた頬を俯いて隠していた。

「ううん、なんでもないよ」
「……そう」

アリスが前を向き直し、また歩き出す。
フランドールは繋がれた手に従って歩く。
今は何も言うつもりは無かった。

ただ地下室から連れ出してくれたその手の温もりだけを感じていた。





























黒だけの世界。

地下に落とされた鈴仙はそこで見た光景を忘れない。

鈴仙の目の前には沢山の人形が左右に列を成していた。
ただどれもこれも、ガラクタで右腕が無かった眼が無かったり、そもそも人の形を取っていない、手が四つある人形まで。
奇妙な光景だった。
ただ不気味だけど怖いとは思わなかった。この人形たちには何もない。本当に伽藍洞で魂とか気配の欠片もない。
これだったら夜中の竹林の方が風を切る音で怖いかも知れなかった。

「――――?」

進んでいくと、左右の人形の数は減っていく。
代わりに精巧な作りの人形になっていってる気がした。
剥き身で肌色の人形のガラクタ達は完全に消え失せ、簡素な服を纏った人形から、ドレスのようなフリルが沢山付いた華麗な洋服の人形。

そして、黒い魔女の姿と紅白の巫女服を纏った人形。

さらに進むと、桜色の和服の亡霊に似た人形にメイド服の銀髪の人形。

そこからは誰を模した人形なのか、一目で分かる人形が並んでいる。

魂魄 妖夢に八雲 紫、上白沢 慧音とリグル・ナイトバグ、チルノに紅 美鈴。レミリア・スカーレットにパチュリー・ノーレッジ、―――。
鈴仙が今まで知り合った幻想郷の面々の人形があった。

「……なによ、これ」

ここまで来れば不気味も良い所。
最初の意思を微塵も感じさせない人形のガラクタの方がまだ鈴仙にとっては良かったのだ。
なぜなら、この人形たちはまるで本人がそこで眠っているかのように思えるぐらい、よく似ている。似ているというレベルではない。まるで鏡で映し取ったかのような人形だった。

「実験よ」

誰かが鈴仙の呟きに答える。
しかし、答えはない。
だけど、聞いた事のある声だった。アリスの声だった。

「貴女には迷惑かけたわね。まさか、あんな影響が出るなんて予想もできなかったわ」
「実験?影響ってなんなのよ?」
「この魔界から等身大の人形を操って幻想郷でどれだけ動けるか、という実験。以前ね、地底へ魔理沙を行かせたの。その時に紫の手を借りて遠距離でも会話できる術を借りたわ。声を遠くに転送できるなら人形を操る糸も転送して、操作できないかって考えた。だから私は特殊な魔力を作り出す魔法を開発したわ。糸は大きく揺らすとその分エネルギーが大きくなるの。エネルギーが大きくなる分、糸の範囲は長くなっていくのよ。だから私は無数の極細の”糸”を激しく揺らして、人形に繋げて動かした。自分の魔力を伝導させる事に成功したのよ。極細の糸を模した魔力、それが私の新しい魔法。―――思えば、貴女は狂気の波長を操るのよね。もしかしたら、私の魔法と特性が似ていて貴女は私の魔法を受けてしまった。そんなところね」

そんなところね、と言われても分かりません。という顔で鈴仙は首を傾げていた。

「いやー、その魔法の所為でどんな目にあったのか覚えてないのでなんとも言えないんだけど」
「そう、それは幸せね。無理やり自分の体が唐突に動き出すのよ。自分の意志と反して、それは自分の体を無視するということ。体の制御が効かない、極端に言えば血液が逆流するようなモノ。普通だったら悶え苦しんで死ぬでしょうに良かったわね」
「うっ、それって本当?」
「ホント、ホント。私が気付いて糸の揺れ幅を変えなければ認識出来ない魔力でバーンよ」
「バーンて、体が破裂ってこと?」
「いえ、脳ミソが」
「怖いぃ!!って、ええ?じゃあ、あの夢ってもしかして」

ええ、と誰かが頷いたような気配はした。
不思議と目前に広がる闇自体がアリスに思えてきた。

「波長を合わせたの。だから、ダイレクトに私が見てた光景を見てしまったのよ」
「そう。見てて楽しかったわよ。魔法って凄いのね」
「……そうかしら?私はそうは思わないわ。だって現に開発した魔法も結局は貴女の能力と似ていた。月の民は優れた技術を持つと言われてる。永琳ならきっとすぐに見抜かれると思うのよ」

そう言って彼女は自嘲気に言った。そんな事は無かった。確かに月の生活はこの幻想郷よりも快適だった。
それでもあそこには無いモノが幻想郷にはあった。

「それは逆を言えば、師匠にならさらに改善できる余地があるって事じゃないの?」
「ま、そうだけどね。ただ問題があるとすれば永琳は貸しを作りたくない人物なの」

確かに、と鈴仙は納得した。
永琳の日頃のお仕置きを思い出す。
「口答えなんて聞いていないの」と言い放ち、注射器で青色の爽やかな液体を注入してきて、鈴仙はとてもハッピーな気分にさせられる。
……あれは恐ろしい。
普段の私だったら絶対にしないような事でも平然としてしまう様になるからだ。
例えば人里へ薬売りの時も飛び跳ねながら町中を駆けまわったり。

「さて、でも永琳に相談するのは良いアイデアね」

アリスがさっきと反対な事を告げた。

「え?今、師匠には」
「ええ。だから貴女にお願いがあるのよ」
「はぁ、良いけど」
「そうじゃあ、この地下で見た光景を貴方なりに永琳に伝えて頂戴。それだけで良いから」

この景色を?
不思議に思いながらも鈴仙は了承したのだった。

「じゃあ、永琳達の居た場所に戻ってもらうわ」

それだけ言われてアリスの気配が消える。
不意に世界が薄っすらと色を無くしていく。まるで深い黒から更に深い白へと。
いつのまにか目の前にはボードゲームとコタツが転がっており、八畳間の畳に座り込んだ神綺に永琳が弓矢を向け、輝夜が青い顔で心なしか震えている。そして、咲夜が呆れた顔で嘆息していた。

「……何してるんですか師匠?」
「優曇華、この状況見て分からないの?」

そうは言われても鈴仙には皆目見当がつかなかった。


―――――――――、と。そこまでが師匠と離れて見てきた光景です」

鈴仙は報告を済ませる為に永琳の私室に居た。
畳の敷かれた部屋にコタツ。
鈴仙の前には永琳が神妙な面持ちでミカンの皮を剥いていた。

「そう、それはご苦労だったわね。それにしても、……やっぱりアリスはとんでもなかったわね。まさか、そんな事までしていたなんて」
「はぁ?やっぱり凄いんですかね?波長の魔法って」
「全然。そんなもの、たまに外から流れてくるラジオの方が凄いわよ。本当に凄いのはその波長の魔法で何をしていたのかってことよ」

永琳が何を言いたいのかまったく理解できない鈴仙はただ、永琳の言葉に耳を傾ける。

「波長の糸で操っていた?ふふ、そんな生易しいモノじゃないわ。咲夜は言ったわ。アリスを運んでくるときにはまだ人肌の温度があったと。その時点でアレは人形じゃなく、れっきとした生きたアリスだったのよ。それが死んでアリスの体はただの人形に変わった。その前後の差異は、”命の有無”。アリスは波長の魔法で別の魔法をかけていたのよ。魔界に行って実感したわ。アリスは命を作る魔法を使っていたと。科学でも”自然な命”を作る事は難しい。それは最初の体から作り、命を育み、魂を定着させないといけないから。アリスは無制限で新しい命を創造できる、それは究極の魔法と呼ぶに値するわ。体は人形。そして命は魔法で。そして科学にも通ずる魔法で自分の魂と”別の生きた体”を同調させて操っていたのよ。つまり、昨日までの時点でアリスは二人、存在していたの。魔界と幻想郷に」

説明を受けても鈴仙には興味がなかった。
永琳は天才だから、驚けたのだと思っていた。
そんな心中を察してか、永琳はそういえば、と呟く。

「てゐが昨日、看病していたのにいつのまにか居なくなって、って呟いていたわ。あの子はあの子で優曇華の事、心配してたのよ。お礼でも行って来なさい」
「ええ、本当ですか?うーん、てゐが私の心配ねぇ…」

永琳は一つミカンを口に入れる。

「失礼しました」

丁寧に襖を閉めて鈴仙は去って行った。
永琳は一人、ため息を吐く。
理由はアリス・マーガトロイドと神綺の凄まじさについてだった。

「沢山の人形ねぇ。優曇華は気付かなかった、それがどんな幸せなことか…。本来は私も知ってはいけない立場だけども、なるほど。アリスが伝えて欲しいって言うわけね。確かに私も貴女の手伝いをしたくなったわよ。八雲 紫はこの幻想郷を守っている。だけど、アリスはこの幻想郷が滅びた時の事を考えているのね」

誰に言うでもなく永琳は一人喋り続ける。

「まさか、この幻想郷中の住人の人形を作り、もし幻想郷が滅びて誰も助からない状況に陥った時、アリスは住人全ての魂を魔界で作ってある”命を与えた生き人形”に移すつもりなんてね。膨大な作業……それでもアリスは遣り遂げるわね。あの魔界神の娘なら。……神綺も神綺で創造なんてスキル持ってるし、あげくにはあの金髪メイドの腹部を人形のように見せかけて咲夜にアリスが死んだと嘘を教え、アリスが魔界で何をしていたのか悟らせないようにした事。知能なんて無限の広さを持つ魔界を創造するぐらいだから…頭脳もずば抜けてる。そうでしょう?神綺」

「ええ。驚いたわ。全問正解ね、もう満点あげちゃう」

何もない空間から滑る様に腕が飛び出して永琳の額に向かっていく。
その手には『よく出来ました!!』と掘られたハンコが握られていた。
がっ、とその腕を握りしめ永琳は穏やかに笑う。しかして、握った手には無数の血管が浮かんでおり、本気で握り潰そうとしている事が分かる。

「ただ、私をそんな過大評価されると照れちゃうわよ」

止めた腕から、肩へ。そして全身がまるで塗料を落としていくかのように上半身から下半身へと。神綺は姿を見せた。

「お茶しに来たのよ。ほら、魔界名物の”押し潰せ饅頭”を持って来たわ」

草色の包装紙に包まれた箱をコタツの上に置いた。
代わりに、神綺の前に五枚の黒い札が置かれる。

「?」

神綺はその札を手に取り、裏返すと木の枝や満開の桜が描かれていた。
永琳は黒い札の山をコタツの中心に置いた。

「今度はカードゲームで勝負よ」
「うふ、見かけによらず負けず嫌いなのね」

そう告げて二人は密やかに勝負に勤しんでいくのだった。




































長い、夜が明けた。
ロビーのソファで魔理沙は疲れきって眠っている。
小さな暖炉とテーブル。そこにパチュリーが音もなく本を読んでいて、レミリアは帰ってきた咲夜の淹れた紅茶に口を付けている。

カチカチ、と針の進む音がやけにゆっくりに聞こえる。

ふと、誰かの足音が聞こえてくる。
ロビーが静かだから一際目立って聞こえてくる。

パチュリーは本を畳んで扉に視線を向ける。

古めかしい木目調の両開き扉が開かれた。
アリスはフランドールの手を引いて部屋に入ってくる。

「では、パイを切り分けますわ」

咲夜が珍しく、ナイフより少し長い短刀を取り出してテーブルの上に置いてあったパイを綺麗に切り分けていく。

「咲夜、その短刀どうしたんだ?」

レミリアが尋ねると咲夜は静かに言葉を紡いだ。

「はい。魔界に行った時に同じメイドの方に時計をあげたんですが、それだけだと釣り合わないと思いまして短刀を一本、くすねてきました」
「時計って、…まぁ良いわ」
「そういえば言い忘れてましたけど。魔界から帰って来る時に珍しいキノコがあったので、それで紅茶を作ってみました」

ピクリ、と紅茶を持ったレミリアの手が硬直した。
そういえば、今日の紅茶はやけに舌がピリピリするとレミリアは感じていた。

「咲夜、それどんなキノコ?」
「ええ、見るも無残な毒々しくて色が」
「やっぱり言わなくて良いよ。いつもの普通の紅茶を淹れてくれ。あと、今後絶対にキノコで紅茶を作らないで」
「分かりました」

レミリアの口にしていた紅茶のカップを下げて、咲夜は部屋の端に置いてあった移動式の机で新しい紅茶を作りだす。
ボソっと咲夜は呟く。
静かな分、パチュリーとレミリアにはしっかりと咲夜の言葉が聞こえた。

「お嬢様の好きそうな赤黒いキノコだったんですが……」

レミリアがパチュリーに視線を向けるが、パチュリーは首を横に振るう。

「余命三分の運命ね、レミィ」
「動いたら死ぬかな?破裂すると思う?」
「してみたら?ただ、もしあのキノコだったら全身の汗腺から血が溢れ出て真っ赤に染まるそうよ。……本は汚さないでね」
「うーん。パチェは厳しいなぁ。死に様も考慮させるなんて」
「当然、本は知識の泉なの。そうでしょ?アリス。そのグリモワール、一度読んでみたいのだけど」

アリスがテーブルを回り、余っている椅子に腰掛ける。
その対面にフランドールも座る。

「駄目よ。魔力を持つパチュリーが読んだら制御できなくて爆発するわよ」
「余命一秒の運命だね、パチェ」
「今の私じゃ爆発して死ぬそうよ」
「良いんじゃない?だけど、爆発するなら空でしてよ。赤い花火見ながら紅茶を呑むのも風流だろ」
「……善処させてもらうわ」

かちゃり、とレミリアの前に咲夜が紅茶を置く。
アリス、パチュリー、フランドールの順で置いて行く。
パチュリーが紅茶を口に付ける。
その姿を見て、レミリアは初めて紅茶を手に持った。

「お嬢様、そこまで疑心暗鬼しなくても大丈夫ですよ。その紅茶はいつもの通り」
「それは悪かったね。どうもキノコに嫌な印象が根付いたから」
「そうですか。では、安心してください。いつもの通り、お嬢様の紅茶にはベラドンナの毒しか入れてませんから」
「ベラドンナって……まぁ、それなら良いか」
「ああ、レミィが咲夜に毒されていく。……文字通り」

あはは、とレミリアが笑いだす。

「そう、文字通り!これだから人間は困るよ、気が利きすぎて私が退屈してしまう」

アリスは顔をしかめてレミリアに言い放つ。

「ベラドンナの毒って普通に効くじゃない。笑いごとで済ませるって…さすがレミリアね」
「そういえば、アリス。こんな話を知ってるかしら?昔の魔女はベラドンナの毒を全身に塗って空を飛んでいたそうよ。猛毒なのにね。アリスも今度やってみたらどうかしら?飛びたてるわよ、天国に」
「あっははははははは!パチェ、それ本当?いや、人間ってつくづく凄いよ。想像もつかない事をしてみせる。なぁ、咲夜」
「私に振られても困ります。私如きがお嬢様の想像を超える事なんて出来ませんわ」
「それ咲夜が一番該当しない言葉だと思うんだけどね。……さて、アリス。悪かった」

唐突にレミリアが謝った。
とはいえ、別に頭を下げるでもなく、逆に無い胸を張って威張る様に告げた。
それでも心の底から謝ったと分かるのがなんとも不思議な光景だった。

「臆病者と言った事を謝る。謝った上で、相談なんだがアリス。私の友達にならないか?」

アリスは口を閉じて考える。
確かにレミリアには興味があった。いくら、グリモワールがなくて違う物で代用した黒の魔法とはいえ、しっかりと生き延びている辺りに。
もしくはレミリアの能力、性格に……。
そこまで考えてアリスはレミリアの事を気に入っている事に気づく。

アリスは小さく笑って、口を開く。

「駄目よ」

眼を見開かせた。レミリアも。そして、アリスも。
沈黙を破ったのは今まで黙っていたフランドールだったのだ。
フランドールは身を乗り出して告げた。

「アリス!アリスは私と」

言葉を区切り、フランドールはレミリアに恐る恐る視線を向ける。
その時、レミリアは穏やかに柔らかく笑った。
アリスはその表情を知っていた。魔界に居た時、神綺と夢子が自分に向ける笑みと同じ笑みだった。

「私と友達じゃあ、……駄目?」

決死の思いでフランドールはアリスに問いかける。
その思いはアリスの胸に届いていた。
だから。

「昔、昔の話ね。暗い暗い部屋に一人の少女が居たのよ」
「うん?うんうん」

まるで予想していた答えと違い、だけど瞬間的にフランドールは自分の事なのかと思って耳を傾ける。

「その子は周りから死の少女なんて呼ばれていたわ。魔力だけは桁はずれにあって、なのにちっとも制御できない。放つ魔法は手加減した魔法と思いっきり爆発させるだけの魔法しか使えない。極端な魔法ばっかり、そんな少女を見かねた偉い人は少女に本を預けるの。それは七つの魔法と一つの奇跡を宿した魔法の本。そんなある日に二人の人間とある妖怪と怨霊が少女の世界に襲いかかってきた。少女は迎え討つけども、結局負けてしまうの。その後は結局その四人に好き勝手されて、少女は悔しくてその四人に会いに行くのよ。魔法の本を携えて戦いを挑むのだけど、また負ける。ただ、負けたけど、四人の居た世界は緑が綺麗に並んでいて空も青く果てがない。暗い暗い部屋ばっかりだった少女の胸にぽっかり穴を開けたわ。そして、少女は彼女達の世界に移り住むのよ」

紅茶で乾いた唇を湿らせてアリスは話を紡ぐ。

「そこで少女は様々な人と出会い、色々な物を眼にしたの。一つ一つがどれも新鮮で少女が付けている日記には溢れるばかりの文字が書き連なられているわ。巫女に魔女、花の妖怪に祟り神、長い冬、終わらない夜、延々と続く宴会、咲き乱れる花、そして紅い霧の異変。そこで少女は紅い館を知ったわ。その館には吸血鬼を主とし、傍に人間のメイド、本の虫の魔女に悪魔のなれの果て、門番をしている妖怪。後で知ったのだけど、その館には隠された吸血鬼の妹が居たらしいわ。そして、少女と吸血鬼の妹は出会い、これから色々な物を見ていくでしょう」

フランドールは右手で軽く胸を押さえて頬を薄く桃色に染めている。
アリスはフランドールに尋ねる。

「ねぇ、フランドール。もし、貴女がその少女だったらこれから色々な物を見ていくと言ったけれど、何が見たい?それとも何がしたいと思ったのかしら?」
「え?……わからないよぉ」
「そう。私だったらきっと二人は外を歩くだけでも良いと思うの。そこで朝日の昇る前の薄闇を見るのも、夕暮れの焼けるような黄昏を見るだけでも良い。人里には色々な物が売ってるわ、そこで物を見て欲しい物があれば買えば良い。どうかしら?」

尋ねられ、夢中で聞いて想像していたフランドールの意識がすぐ目の前のアリスに向けられる。
フランドールは屈託ない笑顔を浮かべる。

「……うん、見て見たいわ。ううん、見せてよアリス!貴女の世界を私に見せて!」

思っていた以上に喜びを表すフランドールにアリスは自然と頬が綻ぶのが分かった。
しかし。

「それはフランを外に出すってことなのか?」

レミリアの言葉でフランドールの笑顔は強張った。
アリスはフランドールに何故、そんな顔をさせるのかとレミリアを睨む。

「そうよ。何か悪いかしら?」
「ああ。暴れて手当たり次第壊し始めたらどうする?人里なんかで暴れたら脆弱な人間は死ぬだろう」
「暴れても魔力を使わせない魔法があるわ。それにどうしてもと言うならこのグリモワールの固定具を改良してフランドールの能力を抑える装具を作るわ」
「……そうか。じゃあフランは圧倒的に弱くなるわけだ。私がなんでフランを地下室に閉じ込めていたか分かるか?」

レミリアが椅子から立ち上り、テーブルから少し離れた位置でアリスと向き合う。

「フランがこれ以上、自分の感情を壊さないためだ。もし弱くなってフランが傷つき、自分を壊すような事があれば、一生フランは外に出さない」

フランドールは姉の言葉に、そんなと呟く。裏切られたような気持だった。

「なるほど、レミリアの考えも分かるわ。だけど、間違っているわよソレ」
「何がだ」

アリスも椅子から立ち上り、レミリアの前に立ちはばかる。

「傷づくのは当たり前。問題は傷ついたなら、誰かがその痛みを分かってあげないといけないわ。レミリア、貴女は自分がフランドールの気持ちに気づかなくて、壊れてしまった事を恐れてしまった、怖いから眼を背けて誤魔化しているだけよ。よくそれで姉と名乗れたものね」
「確かにお前は臆病者じゃなかったな、アリス」

レミリアが目を尖らせ、鋭利な爪を伸ばす。
牙を剥いて、獰猛さを露わにする。
見るに恐ろしい形相を、アリスは手のひらで引っぱたいた。

「良いから聞きなさい。耳が痛いのも分かるけど、馬鹿にしてるわけじゃないの。これは私の思った嘘偽りのない言葉よ、まさか友達になろうとした人の言葉も聞けないの?」
「……お前。…はっ、パチェのようで冷静だけど魔理沙みたいに猛々しいのな。そっか、アリスは一歩踏み込めば面倒見が良い奴なのか」
「さぁね。フランドールがちょっと私に似ていたからかも知れない」

レミリアはテーブルに戻って行き、自分の紅茶を一気に飲み干した。

「フラン。外に出るのを許可するわ」
「――ホント!?お姉さま!」
「ああ、ただし」

鋭利に伸ばした爪でアリスを示す。

「アリスが私と戦って勝てたなら、だ」












昨日の惨劇もそのままな広場でアリスとレミリアは再び、対峙する。
口火を切ったのはアリスが最初だった。

「戦って勝つなんて条件はフランドールの為でしょ」
「アリスには隠せないか。そうだよ、外には隙間妖怪や心を読む妖怪までもが居る。最低限、私よりも強い奴じゃないと安心してフランを任せられない」
「それもそうね。大丈夫よ、今回の実験で良い結果出せたから当分はまたグリモワールの魔法に専念するわ」
「実験ね。まさか、別の体を用意して遠隔操作で私と戦わせていたなんて思いもしなかったよ」

お互いに時を惜しむように会話をしていく。

「丁度、地上に帰って来た時に魔理沙とパチュリーがあんな事言ったからね。接近戦主体のレミリアなら稼働状況を確認するには最適だと思ったのよ」
「ははっ、私が実験材料か。やっぱり魔女はとんでもない奴ばっかりだな」
「そうね。魔女は好奇心のためなら吸血鬼とさえ戦うのよ」
「ふん、恐れ入るよアリス。ますます気に行った」
「そうかしら?私としては少しぐらい妹への気遣いを直に言葉にして伝えて欲しい所ね。そうすればフランドールはもっと変わると思うわ」
「そんなこと言われたのは初めてだな、考えておくよ。……じゃあ、アリス。精々頑張って」

レミリアが膝を屈め、前傾姿勢をとる。

「ええ、最初から全力よ。……姉も大変なのね」

アリスはグリモワールを開く。
本から紅い光が溢れ出す。

「じゃあ、行くわよ。レミリア。”神符”―――」

レミリアの全身から赤い魔力が一気に周囲を紅色に染め上げていく。

「ああ、”創符”―――」

アリスのグリモワールから溢れ出していた赤い魔力が一気に迸り、空を貫く様に放射される。

レミリアもアリスも微笑んでいる。だけど、発せられる魔力は互いに本気だった。
二人は互いに信じていた。私たちなら衝突しあっても大丈夫だと。
どこか、そんな絆を感じ合っていた。


レミリアは自分の信じる運命の為に。
アリスは自分の描いた未来の為に。


アリスが告げる。

レミリアが叫ぶ。



「―――赤の魔法」
「―――紅の魔法!」




紅と赤が全てを染め上げていき――――――。































博麗 霊夢は、里に降りて買い物をしていた。
人ごみが忙しなく動いていて、活気があふれている快晴の日だった。
とある店で霊夢は唸りながら悩んでいた。
その手には二つの茶葉が。

一つは高価だけど量が少ない。
一つは値引きされていて量が多い。

かれこれ、十分は悩んでいた。
頭に捻じった手拭いを巻いていた店主もそんな霊夢に苦笑いを浮かべていた。

「巫女さんよぉ。このままじゃあ日が暮れちまうぞ」

この店の常連である霊夢はいつもこんな調子だった。
それでも急かされたのがきっかけか、霊夢は高価な茶葉を棚に戻す。

「今日はこっちにするわ。ねぇ、あの茶葉ってどんな味がするの?」
「はは、そいつは買ってのお楽しみだい。なんだい。未練たっぷりじゃねぇか。いっそ、一緒に買ってちまえば良いだろ?」
「なによ、ケチ。良いわよ、今度買うから。それまであの茶葉取っておいてよね」

お金を払って、それだけ告げると霊夢は憤然として店を出ていく。

「はいはーい。またのお越しを宜しく~」

どこか笑いを含んだ言葉が霊夢を送り出す。

「ふん。この店も試飲させてくれればもっと盛えるのに」

そんな勝手な事を言って霊夢は大通りに出る。
試飲なんか始めたら逆に霊夢があれもこれもとお茶を飲み過ぎて逆に売上が落ちるのは明白なのだけども。

「……?」

ふと言葉を漏らしてしまう。

「……珍しい組み合わせね」

前方には人形を従えた少女と日傘を差して背中に七色の宝石を付けた翼を持つ少女だった。
フランドールは楽しそうにアリスに語りかけていた。
アリスはそっけなく、だけどしっかりとフランドールの話に耳を傾けている。
アリスの手はフランドールの手を握っていた。

まるで本当の姉妹みたいな光景だった。

「もし、レミリアがあんな優しい事してたら何か企んでるとしか思えないけどね。………うん」

何かを考え、霊夢は振りかえり、今出てきた店へ戻って行く。

「…ん?なんだ、忘れものかい?」

店主が訝しげに問いかける。
霊夢は「ええ。忘れものよ」と、自分で戻した高価な茶葉を手に取って店主の前にまで持っていく。

「やっぱり気が変わった。これも一緒に頂戴」

そう告げた霊夢がどことなく嬉しそうだったのを店主は感じて、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。

「なにか良い事でもあったのかい?」


霊夢は一つ頷いて答える。


「ええ。今日はお茶が美味しく呑めそうなのよ」
前編と比べて後編は長いです。
それでも書き上げられて良かったと思いました。
後は最後まで読んで頂ければ幸いです。



ちなみに今回の不幸大賞・優勝者は美鈴な気がする。
設楽秋
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コメント



0.2510簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
案内とホームが多すぎて何処に行けばいいのかわからなくなる都心の駅のような作品でした。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
アリス強いなぁ
だから何?って感じかな
強引なのが多い

内容も理解しがたいです
8.60名前が無い程度の能力削除
三魔女と紅魔館だけで充分完結させられる話に
永遠亭やら魔界組やらを無理矢理詰め込んでいるので、
全体として散漫と言うか非常にバランスが悪く感じました。
アリススゴイを描きたいのか妹様のファーストステップを描きたいのかも……。
部分部分が好みに合う分、余計に読後感がスッキリしません。
9.70名前が無い程度の能力削除
書きたいことは絞った方がいいんじゃないですかね
13.50名前が無い程度の能力削除
うん、アリスが本当は強いっていうのも理解できる。
実質私も本気で戦えばレミリアとか紫といい勝負できるぐらいの実力者だと思ってるし。
だけど、この文が凄い違和感があった。何がアリスVSレミリアなのか。まず題名からだいぶ逸れてますよね。
前半はだいぶいい感じでしたが後編ではもうすでにカットされています。演出なんですが。
永遠メンバーも旧作メンバーもなんか「出したかったから出した」という感じです。
短く言うと詰め込みすぎ。この一言に尽きますね。
アリスVSレミリアのSSを書くならそれに絞って、アリスの強さの確信に迫りたいならそれに絞って、フランドールの外とのふれあいについて書くならそれに絞って書くべきではないでしょうか。
この作品ではそれらを一気にやってしまっているため、しかもそれを物語の進行と同時に視点を変えながらやっているため違和感が出るのだと思います。
でもアリスが強いよーて作品は好きですので次回に期待しますね
22.40名前が無い程度の能力削除
うーん…
前編読んだときはバトルもいいなあと思っていたんですけど、後半になって自分の中のキャライメージとの乖離が激しくなってしまい厳しかったです。
フランを館のメンバーは切り捨てようとしたりするかなあと思ったのを筆頭に。
書きたいこと、伝えたいことがたくさんあるというのは理解できましたが、ここまで詰め込んでしまうと読んでいる側としはイメージ補完できませんでした。
書いているときもまとめがさぞ大変だったと思います。
長編書ききったことは凄いと思います。次回以降も期待してます。
23.80名前が無い程度の能力削除
↑の方々も言ってるように、なんか色んな所に手を出し過ぎて上手くまとまってなかったように思います。
正直読みにくかったです。

しかし、個人的に「アリスが本気を出せば強い」という作品が好きですし
最後の方のアリスとフランのやりとりなどが凄く良かったと思うのでこの点数で。

次回作に期待です!
27.40名前が無い程度の能力削除
具を変えた八宝菜を作ろうとして失敗した感じ?
食べれるけどなんか微妙みたいな。

アリスとレミリアのバトルもの
アリスとフランのほのぼの
魔界と永遠亭+咲夜のバトルとギャグに分けた方がまとまったんじゃないでしょうか。
32.無評価名前が無い程度の能力削除
前編・後編とも楽しく読ませていただきました。
私も上記の方と同意見です。それぞれ、分けてしまった方が
レミリアとアリスの戦いなどが際立つと思います。

とても人を惹き付ける文章でしたので、これからも頑張ってください
次の作品も楽しみにしています!
33.100名前が無い程度の能力削除
36.40名前が無い程度の能力削除
みなさんの言う通り詰め込みすぎているように思います。
この作品を構成するテーマはどれも魅力的なのですが、良い材料をごった煮にしても美味しくなるとは限りません。
やはり個別に分けるか、涙を飲んでどれかを捨てるべきでしたね。文の書き方に関してもかなり不安定で「?」な箇所が多かったです。
発想の素晴らしい箇所やハッとするような箇所も多かっただけに勿体ないですね。色々と。
しかし、謎が多く巷で色々な噂が囁かれているアリスという存在の一つの形を提示していただけたこと、
そして咲夜さんと夢子さんの夢の対決を書いていただけたことは個人的にとても嬉しかったです。
39.無評価設楽秋削除
書いてる時はそんな気にはならなかったんですが、言われると確かにごちゃごちゃしてるかもしれないです。
もっと分かりやすく、まとめないといけなかったですね。

沢山のコメントにあるように、次書く時の注意点として気を付けさせてもらいます。
それと、まぁ。読んでもらってありがとうございました。
45.80名前が無い程度の能力削除
まぁ って・・・
永遠亭組らのあたりは上の人が書いてるように分けたほうがいいと思いました
47.80名前が無い程度の能力削除
え、後編……?
読み終わってから改めてタイトル確認して絶望した前編読んでないwww

これだけが独立してたとしても読める内容だったので……


他の人の言う通り、風呂敷を広げすぎた感はありますね。
まあ、そう感じはしましたが、面白かったかと聞かれれば「はい」と答えることができる作品ですね。
次回からは、もう少し焦点を絞って書けばより良くなると思います。
49.90名前が無い程度の能力削除
もう少し評価が高くても良いと思うんだがなぁ・・・

確かに完璧にまとめ切れてない感は少なからず感じます。
しかしそれを含めてもこの構成力とこの壮大な話をここまでまとめ上げた事にただ脱帽です。

バトルシーンの複雑な状況も良く書けてる方だと思います。
個人的にこういうハッピーな終わり方が一番好きなので満足して読み終える事が出来ました。

少し大げさに聞こえるかもかもしれませんが。
大変面白いお話でした、
次回作を期待させていただきます。
50.無評価名前が無い程度の能力削除
辛口コメントの中であえて言おう

こまけぇこたぁいいんだよ!!(AA略)
51.90名前が無い程度の能力削除
結構酷評されてますが、個人的にはいい作品だと思います
前後編と続けて読みましたが、特に後編の序盤辺りからは思わず読み入ってしまいました
詰め込みすぎという評価も否定は出来ませんが、世界観に入り込めさえすれば面白く読めると思います
52.無評価名前が無い程度の能力削除
何というかコメント見てて思ったんですが、正直"見てやってる"って態度の人が確実にいますよね・・・

あくまで"自分の意思で"見てるってこと、コメントだって"見てもらう"ために書くってことを意識して欲しいです

作品の質を問う前に自分自身のコメントの質を考える、このくらいの良識はあって然るべきじゃないでしょうか

助言や忠告だって一歩書き方を違えればただの批判文と見なされかねないんですから。

感想に関係の無い長文失礼しました
56.90名前が無い程度の能力削除
うん!おもしろかった!
63.100名前が無い程度の能力削除
アリスさんが強いお話は大好物ですし、面白かったと思います。
まぁ今更ですが。