白玉楼で迎えるいつもの静謐な朝。だが今日はいつもと違う目覚めだった。
脂が溶ける様な悪臭が鼻につく。布団から起き上がり異臭が漂う方へ向かう。
どうやら厨房が原因のようだ。料理番の幽霊は何をしているのか。
厨房へ向かい料理をしている者に声を掛ける。
「ちょっと、一体何の料理…」
いつもの料理番の幽霊ではない事に気付いた。あの大柄な背格好は庭師の妖忌だ。
彼が厨房に立つ事など今まで一度も無かったのに。今日は子供が入りそうな程大きな鍋を掻き混ぜている。
何だろう、この異様な雰囲気は。
それ以外にも違和感が拭えない。そうだ。妖夢だ。
いつも祖父の妖忌の後を付いて回る妖夢の姿が見えない。
「お早うございます。幽々子様」
私に気付いた妖忌が魂の抜けた様な虚ろな表情で振り返る。
「妖忌、妖夢は何処なの?」
「さて…今朝から姿が見えません」
返事をしながらも妖忌は大鍋を掻き混ぜる手を休めない。
掻き混ぜるたびに固い物が鍋の縁に当たる低い音がする。
嫌な予感がする。昨日、妖夢が言った言葉が彼をこのような凶行に駆り立てたのだろうか。
「妖忌、料理を止めなさい」
「いえ、止める事は出来ません」
「その手を止めなさい」
「幽々子様の命でも聞けません」
妖忌の意識がこちら側に無く埒が明かない。酷だが事実に目を向けさせて妖忌の目を覚ます以外に無い。
大きく息を吸い込みお腹の底から声を出す。
「止めろって言ってんでしょうが!どこにトンコツスープでゆで卵作る人間が居るのよ!」
「な、これは私のオリジナルの創作料理で…!」
「貴方、ド素人なのに何で変なアレンジ加えてるのよ!味付け卵作るつもりなら殻くらい剥きなさい!」
妖忌が天井を見上げる。妖夢から言われた言葉を思い出しているのだろう。
あの言葉が妖忌をここまで追い込んだのか。
妖忌が拳を握り締め叫ぶ。
「そうです。幽々子様のおっしゃる通り私は料理に関して全くの素人です。だからこそ妖夢からの尊敬を料理によって再び勝ち取るのです!」
うん。確かに昨日の妖夢の一言はきつかった。いつもはお祖父ちゃん、お祖父ちゃんと慕ってるあの子が凄く冷めた顔で「お祖父ちゃん、ゆで卵も作れないんだ…」だったから。
子供って残酷よね。まぁ私もそのやり取り見てお腹抱えて笑ったけど。ごめんなさい。
でもね、それよりもね。
「臭いが朝からキツ過ぎるのよ…妖夢は油っこい料理苦手なの知ってるでしょ?」
妖忌がムンクの「叫び」みたいな顔で固まった。そして膝から崩れ落ちた。
え?もしかして孫娘の嗜好知らなかったの?
「そうだったのですか…!朝から妖夢の姿が見えないのは、もしや…」
大嫌いな臭いがする白玉楼から逃げたんでしょうね。あの子の中の優先順位は「大嫌いな臭いから逃げる>お祖父ちゃんと一緒に居る」なのね。
しばらくの沈黙の後、両手を床に付いてうな垂れていた妖忌が立ち上がる。虚ろな表情は消え目に輝きが戻っている。さすがね、妖忌。ついでに鍋の火消してくれないかしら。さっきから焦げ付いてるみたいで鼻が曲がりそうなんだけど。
「孫娘の好きな料理一つ知らずに何が祖父か、何が師匠か!幽々子様、私は今から料理の道を究めます。この白玉楼に戻る時、それは妖夢の笑顔が見られる調理法を会得した時です。では今から顕界に行って修行の旅に出ます!」
そのまま疾風のように走り去って行った。うん、全然正気に戻って無かったようね。せめて妖夢の好きな料理聞いてから旅に出なさいよ。
そして白玉楼には私と、焦げ付き悪臭が強くなる一方の鍋が取り残された。
…妖夢と幽霊たちはトンコツの匂いが消えるまで帰って来なかった。
脂が溶ける様な悪臭が鼻につく。布団から起き上がり異臭が漂う方へ向かう。
どうやら厨房が原因のようだ。料理番の幽霊は何をしているのか。
厨房へ向かい料理をしている者に声を掛ける。
「ちょっと、一体何の料理…」
いつもの料理番の幽霊ではない事に気付いた。あの大柄な背格好は庭師の妖忌だ。
彼が厨房に立つ事など今まで一度も無かったのに。今日は子供が入りそうな程大きな鍋を掻き混ぜている。
何だろう、この異様な雰囲気は。
それ以外にも違和感が拭えない。そうだ。妖夢だ。
いつも祖父の妖忌の後を付いて回る妖夢の姿が見えない。
「お早うございます。幽々子様」
私に気付いた妖忌が魂の抜けた様な虚ろな表情で振り返る。
「妖忌、妖夢は何処なの?」
「さて…今朝から姿が見えません」
返事をしながらも妖忌は大鍋を掻き混ぜる手を休めない。
掻き混ぜるたびに固い物が鍋の縁に当たる低い音がする。
嫌な予感がする。昨日、妖夢が言った言葉が彼をこのような凶行に駆り立てたのだろうか。
「妖忌、料理を止めなさい」
「いえ、止める事は出来ません」
「その手を止めなさい」
「幽々子様の命でも聞けません」
妖忌の意識がこちら側に無く埒が明かない。酷だが事実に目を向けさせて妖忌の目を覚ます以外に無い。
大きく息を吸い込みお腹の底から声を出す。
「止めろって言ってんでしょうが!どこにトンコツスープでゆで卵作る人間が居るのよ!」
「な、これは私のオリジナルの創作料理で…!」
「貴方、ド素人なのに何で変なアレンジ加えてるのよ!味付け卵作るつもりなら殻くらい剥きなさい!」
妖忌が天井を見上げる。妖夢から言われた言葉を思い出しているのだろう。
あの言葉が妖忌をここまで追い込んだのか。
妖忌が拳を握り締め叫ぶ。
「そうです。幽々子様のおっしゃる通り私は料理に関して全くの素人です。だからこそ妖夢からの尊敬を料理によって再び勝ち取るのです!」
うん。確かに昨日の妖夢の一言はきつかった。いつもはお祖父ちゃん、お祖父ちゃんと慕ってるあの子が凄く冷めた顔で「お祖父ちゃん、ゆで卵も作れないんだ…」だったから。
子供って残酷よね。まぁ私もそのやり取り見てお腹抱えて笑ったけど。ごめんなさい。
でもね、それよりもね。
「臭いが朝からキツ過ぎるのよ…妖夢は油っこい料理苦手なの知ってるでしょ?」
妖忌がムンクの「叫び」みたいな顔で固まった。そして膝から崩れ落ちた。
え?もしかして孫娘の嗜好知らなかったの?
「そうだったのですか…!朝から妖夢の姿が見えないのは、もしや…」
大嫌いな臭いがする白玉楼から逃げたんでしょうね。あの子の中の優先順位は「大嫌いな臭いから逃げる>お祖父ちゃんと一緒に居る」なのね。
しばらくの沈黙の後、両手を床に付いてうな垂れていた妖忌が立ち上がる。虚ろな表情は消え目に輝きが戻っている。さすがね、妖忌。ついでに鍋の火消してくれないかしら。さっきから焦げ付いてるみたいで鼻が曲がりそうなんだけど。
「孫娘の好きな料理一つ知らずに何が祖父か、何が師匠か!幽々子様、私は今から料理の道を究めます。この白玉楼に戻る時、それは妖夢の笑顔が見られる調理法を会得した時です。では今から顕界に行って修行の旅に出ます!」
そのまま疾風のように走り去って行った。うん、全然正気に戻って無かったようね。せめて妖夢の好きな料理聞いてから旅に出なさいよ。
そして白玉楼には私と、焦げ付き悪臭が強くなる一方の鍋が取り残された。
…妖夢と幽霊たちはトンコツの匂いが消えるまで帰って来なかった。
同じ福岡の俺歓喜wwwラーメンスタジアム自分もよく行きます。
それにしても面白かった。じーさん自重wwww
あの独特のイントネーションでの「茹でた孫」は今でも頭に残っています
おかげで鍋の中は妖夢だなと思ってしまいました
読んでみたらおもしろかった
福岡っていいとこですもんね。
ありがとうございます。短編は削る部分に苦労します。
>>6様
きっと今も幻想郷の何処かで修行を…
>>8様
妖夢も知らない意外な過去!
>>9様
学生時代から福岡です。お茶目なお爺さんが好きです。
>>11様
最初のタイトル案が「茹でた孫」でストレート過ぎるかと思い変えました。
>>13様
ありがとうございます。もっとひどい話を書きたいです。文の無精卵ネタ以上の話を…
>>16様
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
>>かりも警部様
「福岡良かトコ一度はおいで」
>>23様
大食いネタの無い幽々子様なので心配でしたが大丈夫だったみたいですね。
ありがとうございます。