晴れ渡る夏の高い空を目掛けて飛んでいく。いつかどこかで見たような空を駆ける。妖怪の山の風の龍はどこかへと飛んで行ってしまって。
飛行機雲を探して、私は空を駆ける。見つかるものも無いものを探しながら空を舞う。
「なんで見つからないのに探してるんだろう」
そんな当たり前のことが口に出た。分かっているのに、どうして。
ひゅうひゅうと耳を通る風を聴きながら私は高く高く空を飛んでいく。幻想郷の果てまで、もしかしたら飛んでいってしまえるかと錯覚した。
当てもなく空を飛んでいると大きな声で叫ばれた。
「おおい! おおい! 早苗!」
魔理沙さんだった。いつもように箒に乗って。声をかけてきた。
速度を落として空中に滞空する。追いついた魔理沙さんは私の前で止まった。
「どうしました?」
「いや、早苗が上に上に飛んでいくもんだから気になって見に来ただけなんだ」
どうして私の邪魔をするの? そんな疑問がよぎる。私は探す幻想を見られたくなんてないのに。
どうしてこんなに私は邪険にするんだろうか。ああダメだ。とてもイラついている。
「用事がないなら着いてこないでください。私は一人で飛行機雲を探すんです」
アッと言ってから余計なことを告げたと口を塞ぐ。魔理沙さんは少しだけ疑問に思ったのだろうか。
「飛行機雲を? やめとけ、ここにはそんなもん無い。私も探したことがある。この上を飛んでいく飛行機がいると信じて空を見続けたが何も無いさ。地を見続ける方が凄いよっぽど有益だよ」
あなたも空に魅入られた人でしょうに。
「あなたに何がわかるって言うんですか! 放っておいてください。私は1人で探すんですから」
フイと私は魔理沙さんから目を逸らす。
「そうか。探すって言うなら止めないよ」
さあっと風が大きく吹いた。それに釣られて後ろを見ると魔理沙さんは地上に降りていた。
どうしてこんなにもムキになってしまったのだろうか。どこかで分かっているはずのものを探し求めているのだろうか。
分かんなくなって私はふっと背中から落ちてみた。浮力を抜いて、自然落下するように。びゅうびゅうと風は落ちていく。唐突に怖くなって慌てて元に戻す。気がつけば木にギリギリで落ちていてそのまま勢いを殺せなくて、衝突した。
ガサガサガサ! 体に引っ掻き傷のようなものをつけながら落ちて空を見る。高い空は私を無常に見下ろしていた。
「痛たた……」
痛みに悶えながら立つ。何も無くて、何も見つけられなくて。とても何かをしたようには思えなかった。帰ろう。私の唯一の居場所に。
*
「ただいまです」
社務所の戸を開けてさっさと中に入っていく。
「おー、おかえり早苗。お客さんだよ」
諏訪子様がお出迎えしてくれたと思えば一人、関係の無い妖怪がいた。水色の髪でオッドアイの瞳。トレードマークの茄子色の和傘。多々良小傘がそこにいた。
「小傘さんどうしたんです」
「さ、早苗に会いたくて来たのに……」
震える子鹿のようになっていて面白い。諏訪子様とお会いするなんて思ってなかったんだろうな。ここは守矢神社なのだから会う可能性があるってのに。
「小傘さん本当にアホですね。で、このままも何だから本殿でも行って話しましょう。諏訪子様、それでもいいですよね?」
「いいよ。なんか無茶をしているようだけど気をつけてね」
にこにこと諏訪子様は笑ってくれた。全てお見通しなのだろうけどそうやって放任してくれるのはありがたい。言わなくていいのも助かっている。
「さ、早苗〜」
半泣きのように私に縋るのでとても可愛いな、と思う。
「ほら行きましょう」
小傘さんの手を引いて私たちは本殿まで歩く。私たちは本殿の階段に座った。
「……小傘さん今日は私を驚かさないんですね」
日課になっていたようなことをしてこなくて私は聞いてしまった。
「だって早苗傷だらけだもん。元気になってからじゃないとやだ」
やだってなんだ。やだって。
「まあいいです。会いに来たって、特に理由もないんでしょ」
「理由なら今出来たけど……早苗なんかあった?」
この唐傘お化けは……少しだけ私は怖くなる。バレたくない、こんな卑屈な私を見せたくない……
「何も。私は何もありませんでしたが」
無茶な隠し方。誰が見てもバレる隠し事。
「そっか」
サッと私の頭に傘が差される。ちらっと小傘さんを見ると立って私にかけていた。
「……雨が降るなら少し避けてあげる。だから少し雨宿りして行かない?」
こんな晴れ渡る空の下でそんなこと言うものだから……言うものだから……
少しだけ、私は雨宿りさせてもらおう。
「雨は止んだ?」
少し時間が経って小傘さんは言った。
「とっくの昔に止んでますよ」
茄子色の和傘の中で私は言った。色々言いたいことはあるけれど。まずは一言。
「小傘さんありがとうございます」
「ふふ、お礼は禁止。私が勝手に雨宿りさせただけだもん。空は元通りだし、早苗は何も無かった。それだけだもの」
傘を持って小傘さんは笑った。その笑顔が眩しかった。
「あ、でもまたいつか雨が止まないときはその時ぐらい私が差しに来てあげる。お駄賃でその後に驚いてくれないとダメだよ!」
「ははは……小傘さんったら本当あなた……」
「あっ! 驚いてくれた! 早苗が驚いてくれた!」
「誰が驚いているんですか!」
笑う小傘さんを前に私も大きく笑った。
*
飛行機雲が雨を降らせることは無い。だけれど私は雨を降らせてしまった。幻想となったものを焦がれて追いかけて。雨を降らせてしまうだなんてどんなに間抜けなことなんだろうか。でも、また小傘さんの傘の下で雨宿りはしてみたいと思った。
幻想はきっといつか忘れられていく。私が当たり前だったものすら忘れられて。気がつけば一人、幻想に取り残されるのだろうけれど。そんな雨宿りが出来るのなら、こんな幻想に取り残されるのも良いような気がした。
飛行機雲、時々雨上がり。
今日の天気は不安定でしょう。後に安定するでしょう。
そんな天気予報が聞こえるような気がした。
飛行機雲を探して、私は空を駆ける。見つかるものも無いものを探しながら空を舞う。
「なんで見つからないのに探してるんだろう」
そんな当たり前のことが口に出た。分かっているのに、どうして。
ひゅうひゅうと耳を通る風を聴きながら私は高く高く空を飛んでいく。幻想郷の果てまで、もしかしたら飛んでいってしまえるかと錯覚した。
当てもなく空を飛んでいると大きな声で叫ばれた。
「おおい! おおい! 早苗!」
魔理沙さんだった。いつもように箒に乗って。声をかけてきた。
速度を落として空中に滞空する。追いついた魔理沙さんは私の前で止まった。
「どうしました?」
「いや、早苗が上に上に飛んでいくもんだから気になって見に来ただけなんだ」
どうして私の邪魔をするの? そんな疑問がよぎる。私は探す幻想を見られたくなんてないのに。
どうしてこんなに私は邪険にするんだろうか。ああダメだ。とてもイラついている。
「用事がないなら着いてこないでください。私は一人で飛行機雲を探すんです」
アッと言ってから余計なことを告げたと口を塞ぐ。魔理沙さんは少しだけ疑問に思ったのだろうか。
「飛行機雲を? やめとけ、ここにはそんなもん無い。私も探したことがある。この上を飛んでいく飛行機がいると信じて空を見続けたが何も無いさ。地を見続ける方が凄いよっぽど有益だよ」
あなたも空に魅入られた人でしょうに。
「あなたに何がわかるって言うんですか! 放っておいてください。私は1人で探すんですから」
フイと私は魔理沙さんから目を逸らす。
「そうか。探すって言うなら止めないよ」
さあっと風が大きく吹いた。それに釣られて後ろを見ると魔理沙さんは地上に降りていた。
どうしてこんなにもムキになってしまったのだろうか。どこかで分かっているはずのものを探し求めているのだろうか。
分かんなくなって私はふっと背中から落ちてみた。浮力を抜いて、自然落下するように。びゅうびゅうと風は落ちていく。唐突に怖くなって慌てて元に戻す。気がつけば木にギリギリで落ちていてそのまま勢いを殺せなくて、衝突した。
ガサガサガサ! 体に引っ掻き傷のようなものをつけながら落ちて空を見る。高い空は私を無常に見下ろしていた。
「痛たた……」
痛みに悶えながら立つ。何も無くて、何も見つけられなくて。とても何かをしたようには思えなかった。帰ろう。私の唯一の居場所に。
*
「ただいまです」
社務所の戸を開けてさっさと中に入っていく。
「おー、おかえり早苗。お客さんだよ」
諏訪子様がお出迎えしてくれたと思えば一人、関係の無い妖怪がいた。水色の髪でオッドアイの瞳。トレードマークの茄子色の和傘。多々良小傘がそこにいた。
「小傘さんどうしたんです」
「さ、早苗に会いたくて来たのに……」
震える子鹿のようになっていて面白い。諏訪子様とお会いするなんて思ってなかったんだろうな。ここは守矢神社なのだから会う可能性があるってのに。
「小傘さん本当にアホですね。で、このままも何だから本殿でも行って話しましょう。諏訪子様、それでもいいですよね?」
「いいよ。なんか無茶をしているようだけど気をつけてね」
にこにこと諏訪子様は笑ってくれた。全てお見通しなのだろうけどそうやって放任してくれるのはありがたい。言わなくていいのも助かっている。
「さ、早苗〜」
半泣きのように私に縋るのでとても可愛いな、と思う。
「ほら行きましょう」
小傘さんの手を引いて私たちは本殿まで歩く。私たちは本殿の階段に座った。
「……小傘さん今日は私を驚かさないんですね」
日課になっていたようなことをしてこなくて私は聞いてしまった。
「だって早苗傷だらけだもん。元気になってからじゃないとやだ」
やだってなんだ。やだって。
「まあいいです。会いに来たって、特に理由もないんでしょ」
「理由なら今出来たけど……早苗なんかあった?」
この唐傘お化けは……少しだけ私は怖くなる。バレたくない、こんな卑屈な私を見せたくない……
「何も。私は何もありませんでしたが」
無茶な隠し方。誰が見てもバレる隠し事。
「そっか」
サッと私の頭に傘が差される。ちらっと小傘さんを見ると立って私にかけていた。
「……雨が降るなら少し避けてあげる。だから少し雨宿りして行かない?」
こんな晴れ渡る空の下でそんなこと言うものだから……言うものだから……
少しだけ、私は雨宿りさせてもらおう。
「雨は止んだ?」
少し時間が経って小傘さんは言った。
「とっくの昔に止んでますよ」
茄子色の和傘の中で私は言った。色々言いたいことはあるけれど。まずは一言。
「小傘さんありがとうございます」
「ふふ、お礼は禁止。私が勝手に雨宿りさせただけだもん。空は元通りだし、早苗は何も無かった。それだけだもの」
傘を持って小傘さんは笑った。その笑顔が眩しかった。
「あ、でもまたいつか雨が止まないときはその時ぐらい私が差しに来てあげる。お駄賃でその後に驚いてくれないとダメだよ!」
「ははは……小傘さんったら本当あなた……」
「あっ! 驚いてくれた! 早苗が驚いてくれた!」
「誰が驚いているんですか!」
笑う小傘さんを前に私も大きく笑った。
*
飛行機雲が雨を降らせることは無い。だけれど私は雨を降らせてしまった。幻想となったものを焦がれて追いかけて。雨を降らせてしまうだなんてどんなに間抜けなことなんだろうか。でも、また小傘さんの傘の下で雨宿りはしてみたいと思った。
幻想はきっといつか忘れられていく。私が当たり前だったものすら忘れられて。気がつけば一人、幻想に取り残されるのだろうけれど。そんな雨宿りが出来るのなら、こんな幻想に取り残されるのも良いような気がした。
飛行機雲、時々雨上がり。
今日の天気は不安定でしょう。後に安定するでしょう。
そんな天気予報が聞こえるような気がした。
良いと思います。素敵な関係性でした。
小傘の優しさが身に沁みました
雨もあがったようでよかったです
部分部分での好きはあるのだけれどうまくつなげて読めなかった。
傘をさす小傘、飛行機雲が雨を降らせることはないの下りはセンスの塊だったのですが、
それまでの過程を描かないことがおそらく正解だと分かった上でも
読んででうまく想像で補うことができなかった、
読者としてのレベルが足りなかったことが悔やまれます。