ファーストキスはレモンの味と聞いたことがある。
あとはイチゴだとか桃だとか、多かれ少なかれみんな爽やかな表現のイメージを持っているもんだ。
私はもちろんその前に食ったもんの味がするんだろうことは分かっていたが、それでもいつも飲んでるコーヒーとか、好きな銘柄の煙草とか、ひとつまみ程度のロマンチックを感じるものだと期待していた。
たしかにちょっと酸っぱかったけど、まさか腐った卵とグレープフルーツを足して割らずにぶちまけたみたいな味だなんて思いもよらなかった。
自分の中からも込み上げるものを全力で堪えつつ整理する。
いつもの如く鍋を囲んで、その癖珍しく妖精連中がそれぞれ散っていったもんで、所在のないまま、酔い潰れて卓袱台に頬をつけて眠る霊夢を見ていた。
そしたら色気なんか欠片もないはずの顔がなんだか妙に可愛らしく思えてきて、誰に見られるでもないのに、酒酔いのせいだと言い訳をしながら目をつぶって口付けた。
しばらくふわふわとした唇を感じて頭もふわふわになりかけたところ、なんとか我に帰ってうっすら目を開くと、さっきまで薄く赤らんでいた霊夢の顔は、なんたらとかいう試験紙も顔負けの早さで真っ青になっていて。
今に至る。
非常事態に直面した時、人間意外に咀嚼する余裕があるもんだ。
もちろん物理的な話ではなく。
いくら霊夢のものといえど、他人の腹から逆流してきたものをもう一度受け入れる度量はない。
牛の反芻ですら自前のもんだぞ。
なんなら一緒に飯を食っていた分モノを構成するラインナップが想像できるのがまた始末が悪い。
むしろ二倍増しで吐き戻さなかった私の気力を誉めてもらいたい。
「がぶえっ、ぺっ!」
とりあえず口の隙間からなかに入り込んだモノを吐き出す。
大人向けの表現で粘膜交換とか見たことあるが胃酸までオプションで付いてくるのはちょっと覚えがない。
取り急ぎ飲み掛けの茶でうがいを済ませて介抱に移る。
寝ながら吐くのはちょっとマズいが、顔が横向いた状態だったのは不幸中の幸いだ、吐いたモンで詰まる心配がない。
顔を拭いて、巫女服を軽く脱がせる。……巫女服なのかこれ?まあドロドロだけど似たような服いっぱい持ってるからそこは気にしないでいいだろ。
あとはひとまず冷えないように毛布でもかけて、とりあえずやれることは終わりだ。あれだけ飲み会をやってるとこういうことばかり手慣れてくる。
しばらく咽せたあとヒューヒュー言いながら霊夢の目が開いた。
首から下はまだゲロまみれなのに涙目でちょっと艶っぽい。
酸っぱい匂いでそれどころじゃないが。
「うぇー……口の中気持ち悪い……」
開口一番、世界が終わったみたいな声色で言う先のない文句を垂れた。
寝起きの口内環境としては最悪の部類だろうからまあ、気持ちはわからんでもない。
哀れみの視線を外しつつ洗面器とうがい用の水を用意してやる。
「あー、最悪……ありがと魔理沙、ごめんね服汚してまで看てもらったみたいで」
こういうときは妙にしおらしい。
もどした直後に元気溌剌なやつもなかなかいないだろうけども。
ただまあ、私の服が汚れたのは看病する前なのでこちらも後ろめたいというか、なんというか。
ある意味霊夢よりダメージを受けてはいるので自業自得分は清算できていると思いたい。
「いや……まあ、あんま気にすんなよ……」
唸りながら項垂れる霊夢の背中をさする。
今後どんなに素敵な形で口付けの機会が訪れたとしても、今回の件が頭を過る予感を覚えつつ、たぶん私の表情は吐き出すに吐き出せない悲しみを湛えていたと思う。
あとはイチゴだとか桃だとか、多かれ少なかれみんな爽やかな表現のイメージを持っているもんだ。
私はもちろんその前に食ったもんの味がするんだろうことは分かっていたが、それでもいつも飲んでるコーヒーとか、好きな銘柄の煙草とか、ひとつまみ程度のロマンチックを感じるものだと期待していた。
たしかにちょっと酸っぱかったけど、まさか腐った卵とグレープフルーツを足して割らずにぶちまけたみたいな味だなんて思いもよらなかった。
自分の中からも込み上げるものを全力で堪えつつ整理する。
いつもの如く鍋を囲んで、その癖珍しく妖精連中がそれぞれ散っていったもんで、所在のないまま、酔い潰れて卓袱台に頬をつけて眠る霊夢を見ていた。
そしたら色気なんか欠片もないはずの顔がなんだか妙に可愛らしく思えてきて、誰に見られるでもないのに、酒酔いのせいだと言い訳をしながら目をつぶって口付けた。
しばらくふわふわとした唇を感じて頭もふわふわになりかけたところ、なんとか我に帰ってうっすら目を開くと、さっきまで薄く赤らんでいた霊夢の顔は、なんたらとかいう試験紙も顔負けの早さで真っ青になっていて。
今に至る。
非常事態に直面した時、人間意外に咀嚼する余裕があるもんだ。
もちろん物理的な話ではなく。
いくら霊夢のものといえど、他人の腹から逆流してきたものをもう一度受け入れる度量はない。
牛の反芻ですら自前のもんだぞ。
なんなら一緒に飯を食っていた分モノを構成するラインナップが想像できるのがまた始末が悪い。
むしろ二倍増しで吐き戻さなかった私の気力を誉めてもらいたい。
「がぶえっ、ぺっ!」
とりあえず口の隙間からなかに入り込んだモノを吐き出す。
大人向けの表現で粘膜交換とか見たことあるが胃酸までオプションで付いてくるのはちょっと覚えがない。
取り急ぎ飲み掛けの茶でうがいを済ませて介抱に移る。
寝ながら吐くのはちょっとマズいが、顔が横向いた状態だったのは不幸中の幸いだ、吐いたモンで詰まる心配がない。
顔を拭いて、巫女服を軽く脱がせる。……巫女服なのかこれ?まあドロドロだけど似たような服いっぱい持ってるからそこは気にしないでいいだろ。
あとはひとまず冷えないように毛布でもかけて、とりあえずやれることは終わりだ。あれだけ飲み会をやってるとこういうことばかり手慣れてくる。
しばらく咽せたあとヒューヒュー言いながら霊夢の目が開いた。
首から下はまだゲロまみれなのに涙目でちょっと艶っぽい。
酸っぱい匂いでそれどころじゃないが。
「うぇー……口の中気持ち悪い……」
開口一番、世界が終わったみたいな声色で言う先のない文句を垂れた。
寝起きの口内環境としては最悪の部類だろうからまあ、気持ちはわからんでもない。
哀れみの視線を外しつつ洗面器とうがい用の水を用意してやる。
「あー、最悪……ありがと魔理沙、ごめんね服汚してまで看てもらったみたいで」
こういうときは妙にしおらしい。
もどした直後に元気溌剌なやつもなかなかいないだろうけども。
ただまあ、私の服が汚れたのは看病する前なのでこちらも後ろめたいというか、なんというか。
ある意味霊夢よりダメージを受けてはいるので自業自得分は清算できていると思いたい。
「いや……まあ、あんま気にすんなよ……」
唸りながら項垂れる霊夢の背中をさする。
今後どんなに素敵な形で口付けの機会が訪れたとしても、今回の件が頭を過る予感を覚えつつ、たぶん私の表情は吐き出すに吐き出せない悲しみを湛えていたと思う。