――そして採用されたらね、と、いたずらっぽく。
「馬鹿な……。そんなキャッチフレーズ、採用されるわけがない……! そんな、ミーハー丸出しのキャッチフレーズなんて!」
「ミーハーとかーチョー古いんですケドーまじわけわかめー」
「お前の方が古いわっ! わけわかめとか何十年前だよ!」
「壊れた……! 度重なる不遇で、はたてさんが壊れたぁ!」
空が白み始めたばかりの妖怪の山。その何処かに建つ、射命丸の自宅で、先程からこのような馬鹿らしい議論が続けられていた。
議論の発端は、先程姫海棠はたて女史が発せられた、まあメタフィクショナルな話をするならば、この話のタイトルとなった言葉である。
読者諸君には勿論お分かりだろうが、今年の流行語大賞――ぶっちゃけ四つもあったらありがたみが薄れる――をただ繋げただけの、安直な言葉遊びだ。
何故はたて女史はこのような言葉を口走ってしまったのか。理由は簡単である。
『カッとなってやった』
はい出た。日本人お馴染みの言い回しですね。『遺憾砲』と並んで、お茶の間に毎年届けられる言葉第一位と言ってもいいだろう。むしろこっちが流行語大賞でいいんじゃないかな。
ともかく、魔が差したのである。別にこれ言わせるのはたてじゃなくても良かったじゃんとか、そんなことは置いておいて、魔が差したのだ。
とはいえ、はたて女史も決して何の理由も無くこんな朗読するだけで何故か川が汚れるようなクソキャッチフレーズ――おおっと、口が滑った。を口走った訳では無い。
そこに至るまでの過程には、こんな会話が存在したのである。
『今年も、後一月程を残すのみとなったわね』
『全く、月日が流れるのは本当に早い。今年もあっという間に終わってしまいました』
『そうねー。『今でしょ』から始まり、『じぇじぇじぇ』『倍返しだ』『お・も・て・な・し』と、粒ぞろいの一年だったわねー』
『……椛は、今年の大晦日、何をして過ごすのかしら』
『……実は、まだ決まっていないんです。もし良かったら、一緒に初詣に――』
『ちなみに私は今年もガキ使で年越しよー。今年は地球防衛軍らしいから楽しみだわー』
『…………勿論、私は構わないわよ』
『…………ありがとうございます、文さん。うわー、すごく楽しみだぁ――』
『ところでさー、この話って完璧に出落ち――』
『うるさいだまれ! こいつ私たちのラブラブちゅっちゅうふふな話の始まりを邪魔するだけじゃなくて、メタ発言まで始めやがった!』
『どうしてくれるんですか!? はたてさん!』
『どちらにせよタイトルの時点で無理じゃん。そんなことよりサメの話しようぜ』
「うっさい! 幻想郷に海無いでしょうが!」
『文さん、興奮のあまりセリフが二重括弧から普通の括弧になってます!』
「おおっと、ヤバイヤバイ……、あーあー、テステス』
『オーケーです』
『それじゃやり直すわよ。……今年も、後一月程を』
『そーだ。妖怪の山って毎年キャッチフレーズ的なもの決めるじゃんか』
『あああああ!!! ええ加減にせんとブチ転がすぞワレェ!』
『文さん! 興奮のあまり妖怪の山弁丸出しになってます!』
『あーもう! 仕方ない、ラブラブちゅっちゅうふふは諦めましょう。はたて、東方という物語の核心に迫るような、ふかいふかーい話をお願いします』
『いや、キャッチフレーズについて、私なりに考えたんだけど――』
――そうして、冒頭に戻る。
とにかく、こんな冗長で意味がなく、長ったらしいだけで中身のない会話があったのである。
射命丸は先ほどの怒りがまだ収まらないようで、フー、フー、と肩で呼吸をしながらはたてを睨みつけている。
はたてはその視線を涼しげに受け流すと、なおも口を開いた。
「そんなに怒らないでよぉー。文ちゃんおこ? おこなの? はたたんガチショボ沈殿丸」
「がああああ! テメー自分が女子高生っぽい服装してるからって流行り言葉使ってれば許されると思ってんじゃねーぞコラァ!」
「文さん落ち着いてください! シリアスな物語が無理なら、ここから別の方向に修正していけばいいんです。一旦冷静になりましょう」
「はー、はー……。そうね。私としたことが冷静さを欠いていたわ」
「ではまず、別の話を始めるところから――」
「えー。キャッチフレーズについては話さないの?」
再び口を挟んだはたてを、射命丸はさらにきつく睨みつける。
しかし椛は、ふと思いついたかのようにポン、と手を打ち、口を開いた。
「いや、いいんじゃないですか?」
「へ? も、椛?」
「さっすがもみもみ。よく分かってるねー」
「……話を修正するのなら、そういう方向もいいんじゃないか、って思うんです。キャッチフレーズについて真剣に語り合うことで、シリアスっぽい雰囲気も再構築できるんじゃあないでしょうか」
「ふーむ、そういうのもあるのか……。よし、その方向で行きますか」
「もう無理だと思うけどぉー。で、どうすんの? 私のキャッチフレーズは」
「却下!!!」
射命丸は机をぶっ叩くと、はたてを指差して叫んだ。
「大体アンタはいっつもふざけ過ぎなのよ! 物語の時ぐらいちったあ真面目にやりなさい!」
「私はこれがデフォだもーん。大体そんなこと言うんなら、文が作ってみなさいよ、キャッチフレーズ」
「うっ」
急所を突かれたかのように、射命丸の勢いがしおしおと萎んでいく。
畳みかけるように、椛も口を開いた。
「そうですね。文さんもちょっと考えてみてください。いつも新聞作ってるんだし、これくらいお手の物ですよね!」
「うううっ」
期待に満ちた眼差しに、射命丸は思わず目を逸らした。疾しい心の持ち主には、純粋な心は毒なのだ。
はたてはしめた、と口を歪めて、射命丸を更に煽った。
「おーそいんだおそいんだ。あーやちゃんがーおーそーいんだー」
「お前は小学生かっ! 今考えてるんだから静かにしなさい!」
射命丸は、あれじゃないこれじゃない、と何度も首を捻り、うーんうーん、と唸り始めた。
はたては口笛を吹きながら、椛は多少緊張した面持ちで射命丸の閃きを待ち続ける。
暫くの後、射命丸はまるで天啓が降りて来たかのように面を上げると、口を開いた。
「これよ……! これだわっ!」
「うわあ凄いドヤ顔。あの尸解仙にも勝てるんじゃない?」
「文さん! 良いのが思い付いたんですかっ!?」
「ええ……。これなら、きっと採用されるに違いないわ」
射命丸はクイズミ○オネアのみ○もん○ばりに言葉を溜めて、静かに、そのキャッチフレーズを告げた。
『人が、妖怪が、幻想郷がひとつになった。ZUNさん、新作をありがとう』
……ドヤァァァ、という擬音すら聞こえてきそうなキメ顔で、射命丸はその言葉を言い放った。
はたては先ほどとは打って変わって無表情でその様子を眺め、椛はこれ以上無い程の居た堪れなさを感じ、引き攣った愛想笑いを浮かべ、乾いた笑い声を零すことしかできなかった。
たっぷり一分は経っただろうか。痛い沈黙が場を支配する。射命丸のドヤ顔の仮面が崩れてきたころ、はたてがボソッと呟いた。
「ほーん、で?」
その言葉と共に、射命丸は床に倒れ伏した。慌てて椛が抱き起す。
あまりの恥ずかしさに耐えられなくなったのだろう。その瞳には羞恥のあまり涙さえ浮かんでいた。
「見ないでっ……。椛、こんな私を見ないでえええ!」
「そんなんと比べればまだアヤノミクスとかのがマシだわ」
「はたてさんちょっと静かにっ! 文さん! いやっ、私は良かったと思いますよ! ホントに!」
射命丸はその言葉を聞いて、椛の顔を見上げて、問いかける。
「……ほんとう? ぐすっ」
「本当です!」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとです!」
「ほんとのほんとにほんと?」
「ほんとのほんとにほんとです!」
「でも実はぁー?」
「ちょっと微妙だと思いま……あっ!」
椛は素直な良い子なのである。しかし今回ばかりは、その事が災いした。
はたての誘導尋問によって、射命丸の為を想ってひた隠しにしていた本音が曝け出されてしまったのだ。
椛のその言葉を聞いて、今度こそ射命丸が力尽きた。
口から出た饅頭の様な霊魂が何事かを呟きながら天へと昇っていく。おお、きもいきもい。
椛は逝った射命丸の亡骸を抱きしめると、腹の中から絞り出したかのような声で絶叫した。
「あ、文さあああああああああん!」
「あ、一旦カット」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それなりの時間が過ぎ、射命丸の魂はようやく自らの身体に帰ることが出来た。
「ここは誰? 私はどこ?」
「ちょっとおかしくなっちゃってるねー。はいよっと」
「うぐえっ!」
どうやらショックのあまり精神に異常をきたしていたようだが、はたての45°チョップによって元の世界に戻ってこれた様である。
暫く急き込んだ後、射命丸は二人の顔を交互に見やると、ゴホン、と一つ咳払いをして、言った。
「えーまあ、さっきの私の発言は無かったことに――」
『人が、妖怪が、幻想郷が一つになった。ZUNさん、新作をありが――』
「わー! わあああああ! わーわーわー! 忘れて! 忘れてください!」
幻想郷の黒歴史と言えば某うふふ魔法使いや、某辻斬り庭師、某吸血鬼のあられもない惨敗などがあるが、ここにも一つ、新たな黒歴史が生まれた。
この新たな黒歴史は、幻想郷の宴会などで長く語り継がれていくことだろう。
話が随分と脱線してしまったことに気付いて、椛は二人に問いかけた。
「それで、結局キャッチフレーズはどうするんですか? 二人のうちのどっちかを大天狗様にお伝えしますか?」
「や、私はもみもみのも聞きたいね」
「あ、確かに私も聞きたいですね」
「えっ、私のですか? ちょっと恥ずかしいですね……」
「そうだ、私たちは新しい言葉ばっかり使ってたから、今度は昔の言葉を使ってみてよ」
「あ、それ面白そうですね。椛、やってみて」
「えーと、そうですね……」
椛は首を捻り、頭の中にあるいくつかの言葉を結び付けようとした。
しかしやはり、なかなか上手く行かない。どれだけ活かそうと思っても死語は死語なのだ。
それでも、試行錯誤の結果、なにやら一つのキャッチフレーズが完成した。
同時に椛は思った。このキャッチフレーズなら、さっきの二つの方がまだマシだと。
しかし、言わない訳にはいかない。非常に嫌そうな顔をしながらも、椛は重い口を開いた。
『おっはー! 妖怪の山のペレストロイカだっちゅーの!』
……射命丸の家の入口から、隙間風が吹き込む。その風があまりに冷た過ぎて、三人は思わずぶるっと身を震わせた。
先程よりももっと居た堪れない空気が場を支配する。
はたてが、三人の思いを代表し、達観した笑みを浮かべて呟いた。
「……やっぱり、ありきたりなキャッチフレーズが一番だわ」
――百理ある。
「馬鹿な……。そんなキャッチフレーズ、採用されるわけがない……! そんな、ミーハー丸出しのキャッチフレーズなんて!」
「ミーハーとかーチョー古いんですケドーまじわけわかめー」
「お前の方が古いわっ! わけわかめとか何十年前だよ!」
「壊れた……! 度重なる不遇で、はたてさんが壊れたぁ!」
空が白み始めたばかりの妖怪の山。その何処かに建つ、射命丸の自宅で、先程からこのような馬鹿らしい議論が続けられていた。
議論の発端は、先程姫海棠はたて女史が発せられた、まあメタフィクショナルな話をするならば、この話のタイトルとなった言葉である。
読者諸君には勿論お分かりだろうが、今年の流行語大賞――ぶっちゃけ四つもあったらありがたみが薄れる――をただ繋げただけの、安直な言葉遊びだ。
何故はたて女史はこのような言葉を口走ってしまったのか。理由は簡単である。
『カッとなってやった』
はい出た。日本人お馴染みの言い回しですね。『遺憾砲』と並んで、お茶の間に毎年届けられる言葉第一位と言ってもいいだろう。むしろこっちが流行語大賞でいいんじゃないかな。
ともかく、魔が差したのである。別にこれ言わせるのはたてじゃなくても良かったじゃんとか、そんなことは置いておいて、魔が差したのだ。
とはいえ、はたて女史も決して何の理由も無くこんな朗読するだけで何故か川が汚れるようなクソキャッチフレーズ――おおっと、口が滑った。を口走った訳では無い。
そこに至るまでの過程には、こんな会話が存在したのである。
『今年も、後一月程を残すのみとなったわね』
『全く、月日が流れるのは本当に早い。今年もあっという間に終わってしまいました』
『そうねー。『今でしょ』から始まり、『じぇじぇじぇ』『倍返しだ』『お・も・て・な・し』と、粒ぞろいの一年だったわねー』
『……椛は、今年の大晦日、何をして過ごすのかしら』
『……実は、まだ決まっていないんです。もし良かったら、一緒に初詣に――』
『ちなみに私は今年もガキ使で年越しよー。今年は地球防衛軍らしいから楽しみだわー』
『…………勿論、私は構わないわよ』
『…………ありがとうございます、文さん。うわー、すごく楽しみだぁ――』
『ところでさー、この話って完璧に出落ち――』
『うるさいだまれ! こいつ私たちのラブラブちゅっちゅうふふな話の始まりを邪魔するだけじゃなくて、メタ発言まで始めやがった!』
『どうしてくれるんですか!? はたてさん!』
『どちらにせよタイトルの時点で無理じゃん。そんなことよりサメの話しようぜ』
「うっさい! 幻想郷に海無いでしょうが!」
『文さん、興奮のあまりセリフが二重括弧から普通の括弧になってます!』
「おおっと、ヤバイヤバイ……、あーあー、テステス』
『オーケーです』
『それじゃやり直すわよ。……今年も、後一月程を』
『そーだ。妖怪の山って毎年キャッチフレーズ的なもの決めるじゃんか』
『あああああ!!! ええ加減にせんとブチ転がすぞワレェ!』
『文さん! 興奮のあまり妖怪の山弁丸出しになってます!』
『あーもう! 仕方ない、ラブラブちゅっちゅうふふは諦めましょう。はたて、東方という物語の核心に迫るような、ふかいふかーい話をお願いします』
『いや、キャッチフレーズについて、私なりに考えたんだけど――』
――そうして、冒頭に戻る。
とにかく、こんな冗長で意味がなく、長ったらしいだけで中身のない会話があったのである。
射命丸は先ほどの怒りがまだ収まらないようで、フー、フー、と肩で呼吸をしながらはたてを睨みつけている。
はたてはその視線を涼しげに受け流すと、なおも口を開いた。
「そんなに怒らないでよぉー。文ちゃんおこ? おこなの? はたたんガチショボ沈殿丸」
「がああああ! テメー自分が女子高生っぽい服装してるからって流行り言葉使ってれば許されると思ってんじゃねーぞコラァ!」
「文さん落ち着いてください! シリアスな物語が無理なら、ここから別の方向に修正していけばいいんです。一旦冷静になりましょう」
「はー、はー……。そうね。私としたことが冷静さを欠いていたわ」
「ではまず、別の話を始めるところから――」
「えー。キャッチフレーズについては話さないの?」
再び口を挟んだはたてを、射命丸はさらにきつく睨みつける。
しかし椛は、ふと思いついたかのようにポン、と手を打ち、口を開いた。
「いや、いいんじゃないですか?」
「へ? も、椛?」
「さっすがもみもみ。よく分かってるねー」
「……話を修正するのなら、そういう方向もいいんじゃないか、って思うんです。キャッチフレーズについて真剣に語り合うことで、シリアスっぽい雰囲気も再構築できるんじゃあないでしょうか」
「ふーむ、そういうのもあるのか……。よし、その方向で行きますか」
「もう無理だと思うけどぉー。で、どうすんの? 私のキャッチフレーズは」
「却下!!!」
射命丸は机をぶっ叩くと、はたてを指差して叫んだ。
「大体アンタはいっつもふざけ過ぎなのよ! 物語の時ぐらいちったあ真面目にやりなさい!」
「私はこれがデフォだもーん。大体そんなこと言うんなら、文が作ってみなさいよ、キャッチフレーズ」
「うっ」
急所を突かれたかのように、射命丸の勢いがしおしおと萎んでいく。
畳みかけるように、椛も口を開いた。
「そうですね。文さんもちょっと考えてみてください。いつも新聞作ってるんだし、これくらいお手の物ですよね!」
「うううっ」
期待に満ちた眼差しに、射命丸は思わず目を逸らした。疾しい心の持ち主には、純粋な心は毒なのだ。
はたてはしめた、と口を歪めて、射命丸を更に煽った。
「おーそいんだおそいんだ。あーやちゃんがーおーそーいんだー」
「お前は小学生かっ! 今考えてるんだから静かにしなさい!」
射命丸は、あれじゃないこれじゃない、と何度も首を捻り、うーんうーん、と唸り始めた。
はたては口笛を吹きながら、椛は多少緊張した面持ちで射命丸の閃きを待ち続ける。
暫くの後、射命丸はまるで天啓が降りて来たかのように面を上げると、口を開いた。
「これよ……! これだわっ!」
「うわあ凄いドヤ顔。あの尸解仙にも勝てるんじゃない?」
「文さん! 良いのが思い付いたんですかっ!?」
「ええ……。これなら、きっと採用されるに違いないわ」
射命丸はクイズミ○オネアのみ○もん○ばりに言葉を溜めて、静かに、そのキャッチフレーズを告げた。
『人が、妖怪が、幻想郷がひとつになった。ZUNさん、新作をありがとう』
……ドヤァァァ、という擬音すら聞こえてきそうなキメ顔で、射命丸はその言葉を言い放った。
はたては先ほどとは打って変わって無表情でその様子を眺め、椛はこれ以上無い程の居た堪れなさを感じ、引き攣った愛想笑いを浮かべ、乾いた笑い声を零すことしかできなかった。
たっぷり一分は経っただろうか。痛い沈黙が場を支配する。射命丸のドヤ顔の仮面が崩れてきたころ、はたてがボソッと呟いた。
「ほーん、で?」
その言葉と共に、射命丸は床に倒れ伏した。慌てて椛が抱き起す。
あまりの恥ずかしさに耐えられなくなったのだろう。その瞳には羞恥のあまり涙さえ浮かんでいた。
「見ないでっ……。椛、こんな私を見ないでえええ!」
「そんなんと比べればまだアヤノミクスとかのがマシだわ」
「はたてさんちょっと静かにっ! 文さん! いやっ、私は良かったと思いますよ! ホントに!」
射命丸はその言葉を聞いて、椛の顔を見上げて、問いかける。
「……ほんとう? ぐすっ」
「本当です!」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとです!」
「ほんとのほんとにほんと?」
「ほんとのほんとにほんとです!」
「でも実はぁー?」
「ちょっと微妙だと思いま……あっ!」
椛は素直な良い子なのである。しかし今回ばかりは、その事が災いした。
はたての誘導尋問によって、射命丸の為を想ってひた隠しにしていた本音が曝け出されてしまったのだ。
椛のその言葉を聞いて、今度こそ射命丸が力尽きた。
口から出た饅頭の様な霊魂が何事かを呟きながら天へと昇っていく。おお、きもいきもい。
椛は逝った射命丸の亡骸を抱きしめると、腹の中から絞り出したかのような声で絶叫した。
「あ、文さあああああああああん!」
「あ、一旦カット」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それなりの時間が過ぎ、射命丸の魂はようやく自らの身体に帰ることが出来た。
「ここは誰? 私はどこ?」
「ちょっとおかしくなっちゃってるねー。はいよっと」
「うぐえっ!」
どうやらショックのあまり精神に異常をきたしていたようだが、はたての45°チョップによって元の世界に戻ってこれた様である。
暫く急き込んだ後、射命丸は二人の顔を交互に見やると、ゴホン、と一つ咳払いをして、言った。
「えーまあ、さっきの私の発言は無かったことに――」
『人が、妖怪が、幻想郷が一つになった。ZUNさん、新作をありが――』
「わー! わあああああ! わーわーわー! 忘れて! 忘れてください!」
幻想郷の黒歴史と言えば某うふふ魔法使いや、某辻斬り庭師、某吸血鬼のあられもない惨敗などがあるが、ここにも一つ、新たな黒歴史が生まれた。
この新たな黒歴史は、幻想郷の宴会などで長く語り継がれていくことだろう。
話が随分と脱線してしまったことに気付いて、椛は二人に問いかけた。
「それで、結局キャッチフレーズはどうするんですか? 二人のうちのどっちかを大天狗様にお伝えしますか?」
「や、私はもみもみのも聞きたいね」
「あ、確かに私も聞きたいですね」
「えっ、私のですか? ちょっと恥ずかしいですね……」
「そうだ、私たちは新しい言葉ばっかり使ってたから、今度は昔の言葉を使ってみてよ」
「あ、それ面白そうですね。椛、やってみて」
「えーと、そうですね……」
椛は首を捻り、頭の中にあるいくつかの言葉を結び付けようとした。
しかしやはり、なかなか上手く行かない。どれだけ活かそうと思っても死語は死語なのだ。
それでも、試行錯誤の結果、なにやら一つのキャッチフレーズが完成した。
同時に椛は思った。このキャッチフレーズなら、さっきの二つの方がまだマシだと。
しかし、言わない訳にはいかない。非常に嫌そうな顔をしながらも、椛は重い口を開いた。
『おっはー! 妖怪の山のペレストロイカだっちゅーの!』
……射命丸の家の入口から、隙間風が吹き込む。その風があまりに冷た過ぎて、三人は思わずぶるっと身を震わせた。
先程よりももっと居た堪れない空気が場を支配する。
はたてが、三人の思いを代表し、達観した笑みを浮かべて呟いた。
「……やっぱり、ありきたりなキャッチフレーズが一番だわ」
――百理ある。
ものすごい敗北感を感じる
45°のチョップは袈裟なのか逆袈裟なのか左なのか右なのか
おめでとう!ぶんぶんまるはぷんぷんまるにしんかした!
流行語大賞って4つあったんですね