「ドロワーズはもういやよ!お姉様ッ!!」
程良く晴れた午後の紅魔館/屋敷の中にあるサロン――――その一角。
天然の大理石から切り出して造られた瀟洒なテーブル/その上に紅茶セットと様々な茶菓子の山。
椅子から勢いよく立ち上がった少女Aの高らかな宣言―――興奮気味に。
相席している対面の椅子&その傍ら―――二人の少女。
対面の少女B=口から盛大に紅茶を噴き出して盛大に咽る/吐き出た紅茶で白いテーブルクロスが紅茶色に染める。「ゲホッ!!――いきなりどうしたというの?フラン」
少女B―――青みの強い紫のショート/濃厚な深紅の瞳/幼い身体に大きく背中の開いたナイトドレス。
咳き込んで丸まっていた背中をピンと伸ばして何とか復帰/落ち着きを取り戻した風でティーカップの残りを一口―――少女Aに話の先を促す。
傍らに立つ少女C=いつの間にか手にした布巾/紅茶の広がったテーブルクロスを拭っている。「フランお嬢様――いきなり何を言い出すのですか?」
少女C―――輝かしい銀髪/鮮鋭な蒼い瞳/凛とした姿態にエプロンドレス+カチューシャ/いきなりの宣言に驚きの顔。
言い出しっぺである少女A=二人に懇願。「だって私…ドロワーズしか下着持ってないんだもん…私だって咲夜みたいな可愛い女の子の下着がほしいよ!!」
少女A=フラン―――眩い金髪/少女Bとそっくりの深紅の瞳/ワンピース風の真っ赤なドレス/必死に自分の主張をアピール。
少女C――咲夜が反応/燃え上がる勢いで赤面。「フランお嬢様!そんな事言わないでください!!」
少女B――にやにや。「へぇ…一体咲夜はどんな下着を着けているのかしら?」
「この前ね、咲夜と一緒にお風呂に入った時に見たの!黒くってね、横の紐で着けるのだったの!とっても可愛いんだー♪」とフラン――羨望の眼差しを咲夜へと向け
る。
「あら?咲夜はいつもそんな下着を身に着けて、私達に給仕しているのかしら?」少女Bも横目で咲夜を舐めるように凝視=もはや視姦。
「レミリアお嬢様まで……からかわないで下さい…私は…あの…そのぉ…」
徐々に声が小さくなる咲夜―――モジモジと所在無さげに視線を泳がせる。
少女B=レミリアがフランへと視線を移して言った。
「それで?フランはそういう下着が欲しいのかしら?」
フラン――その言葉を聞いてぱぁっと顔が明るくなる/期待の表情。「買ってくれるの!?お姉様?」
レミリア――しばらく考え込むように小さく呻いて見せる/やがてフランに向かって優しく微笑しながら言った。
「そうね―――いいわよ?」
「え!?いいのぉ!!やったぁ!!」
言葉と共に飛び上がって喜ぶフラン――――しかし、レミリアが目の前に指を一つ立てて左右に振る。
「た・だ・し 下着選びは乙女の嗜み。自分の下着は自分で選んで買ってくる事が条件よ?」いい?分かった?という続きがありそうな口調で付け加える。
「うんうん♪分かった♪」
本当に分かっているのかどうか怪しい浮かれた様子で部屋を出ていくフラン。
咲夜が小声で言った。「良いんですか?あんな事言ってしまって、フランお嬢様が直接出られるような場所なんか、この幻想郷にあったかどうか―――」
レミリアの応え。「貴女がいつも私物を買い出しに行く魔法の森には、何でも取り扱ってる店があるじゃないの?あそこなら下着の一つや二つくらいあるでしょ
う?―――それにね、これは“テスト”なのよ」
「“テスト”……ですか?」レミリアの言葉に咲夜が面食らう。
「そう――霊夢達のおかげでフランは今までよりも、ずっと正気でいられる時間が長くなってきているわ。そこであの子が屋敷の外とどれだけコミュニケーションが取れ
るか試すと言う訳よ。」
納得する咲夜。「成程…ですが、流石にフランお嬢様お一人では心配ですね…」
レミリア=呆気にとられた顔。「???何を言ってるの?貴女も一緒に行くのよ?下着の知識どころか、常識も何も無いあの子がちゃんとした下着なんて選べるはずも無
いもの」妹の無知さをあっさりと断言/フランのお守という最重要かつ超危険すぎる仕事をあっさりと従者へ投げた。
咲夜=納得半分/やるせなさ半分の表情―――小さく呟く。「……そうですよね…そうでした…」
レミリアがフランの開けたドアを指差して言う。「当然よ。早く行きなさい。フランが一人で外に行ってしまっていいの?」
それを聞いた咲夜は、既に出て行ってしまったフランを追いかけるためにやや急いで部屋を出た。
幻想郷―――魔法の森。
空模様に関係なく常に薄暗い森の中/他では見る事の出来ない珍妙奇天烈な動植物/人間などが立ち入ろうものなら、あっと言う間に遭難して二度と出られない魔性の森。
明らかに危険極まりない森の中で更に人目を避けるようにひっそりと建つ家が一軒。
どう見ても人が住んでいる様には見えないボロボロの様相/見ただけではモロに廃屋な雰囲気/瓦葺きの屋根の上に唯一、そこが店らしい事を際し示す『香霖堂』の看板。
そんな廃屋同然の建物の前まで咲夜はやって来ていた。森の中ではぐれない様にフランとはしっかりと手を繋いで。
「着きましたよ。フランお嬢様」
咲夜が後ろにいるフランに向かって言った。
「ここ?」目の前の建物を見たフランの疑いの眼差し。「ホントにこんな所に可愛い下着があるの?」
当然の疑問=確かにそう思っても無理のない店の外見の酷さ。
「どんな物があるかは、入ってみてのお楽しみです。とりあえず中に入りましょう」言いながら入り口の扉に手を掛ける。
軋んだ音と共に扉が開く―――店の中/散らかった用途不明のガラクタ/向かいのカウンターに男=大して面白くもなさそうに新聞を眺めている。
咲夜は男に声を掛けた。「こんにちは。霖乃助さん」
男の視線が新聞から咲夜に移る。「ん?…咲夜君か、いらっしゃい。今日は何を?」ぶっきらぼうな返答=この店の店主であり家主でもある森近霖乃助のいつもの対応
―――咲夜を一瞥した後、再び新聞に視線を戻す。
咲夜の応え。「今日は用があるのは私じゃないんです―――さぁフランお嬢様、中にお入りになってください」入り口のドアを半開きから全開に―――店の入り口で控え
ているフランを店の中へと招き入れる。
声に遅れておずおずとやってくるフラン。「ねぇ咲夜ぁ……ホントにここに下着あるのぉ?」店の中を胡散臭そうに見回す―――未だに懐疑の表情。
咲夜は言った。「フランお嬢様。この方が店主の森近霖乃助さんですわ」
霖乃助が答えた。「ようこそ――自分がこの香霖堂で故買屋を営んでいる森近霖乃助だ。どうぞよろしく」
フランも返した。「うん!私はフランドール・スカーレット。フランって呼んでいいよ♪」
自己紹介が終わると、物珍しさ全開でフランが店中のあちこちを見回す/駆け回る/覗き込む/495年の人生にして初めての買い物にうきうき気分で辺りを物色する。
「フランお嬢様――はしたないですよ。店の中を駆け回るのはお止めください」
咲夜=はしゃぐフランをピシャリと制止。渋々最初の立ち位置に戻るフラン――むっと膨れ顔。
霖乃助が言った。「それで?今日はどんなものを買いに来たんだい?」
「可愛い下着が欲しいの♪」
即答――フランが自分の欲しい商品の名前を口にした。
紅魔館/正門前――――屋敷同様に紅魔の入り口として実にふさわしい、赤一色に塗装された外壁/鉄門/門番詰め所/庭番詰め所/もはや色彩の暴力といっても過言ではな
いほど毒々しい配色。
「ねえ…美鈴…」レミリアが目の前の女に声を掛けた。
「何です?お嬢様……ハァッ!!!」拳を虚空に向かって放ちながら女が答える
女=腰まである長い赤毛/淡い緑色の瞳/健康的な身体にフィットした深緑色の中国服=日課である一日三度の太極拳でせっせと汗を流している最中の紅美鈴。
レミリアがぽつりと言った。「やっぱり…フランを外に行かせたのは失敗だったかしらね?」
美鈴=その一言に溜息/呆れ顔――拳を突き出すのを辞めてレミリアへと振り向く。
「咲夜さん達が出発してから一時間も経って無いのに、何を言い出すんですか?最初にお嬢様が言い出したんですよ?“妹様を外に出しても大丈夫なようにしよう”って。」
レミリア=痛い所を突かれた顔。「うっ…そ、そうだけど…やっぱりフランの事を思うと心配で…」
美鈴=もう一度溜息/叱咤。「そんなことだから、お嬢様はいつまでたっても妹離れできないんですよ?」いい加減にしろと言わんばかりの口調。
さらに苦い顔のレミリア/目を泳がせる。「それは解っているんだけど…」
「とにかく、もう行かせてしまった以上、後は二人を信じて待つだけですよお嬢様」
「かわいい下着が欲しいの♪」
隣のフランの高らかな声―――恥ずかしさを超えて清々しさすら覚えるほどの大宣言。
聞いている自分の方が恥ずかしくなる―――咲夜の正直な感想。
その言葉にさっきまで置物の様だった目の前の男の顔が面白いほどに面食らう―――そんな事を大声で言われるとは恐らく夢にも思わなかっただろうから。
「…し、下着…かい?」いつもの雰囲気からは想像もつかないほどに拍子ぬけた声音。
フランが恥など全く以て感じさせない大声で更に自分の欲しい物の詳細を続けて叫ぶ。
「うん!可愛くってね。横を紐で着ける―――」「いえ、この前私に売って下さった物と同じものでいいんです。」
咲夜がこれ以上フランに変なことを言われる前に話に割り込む/言うタイミングを逃したフランが少し拗ねたように店内を歩き回り始める/霖乃助が言った。
「ああ。それならまだ在庫が幾つか残っていたと思うけど――」
「そうですか。それを見せていただけますか?」
「構わないよ。ちょっと取ってくるから、少し待っててくれ」霖乃助が店の奥の在庫棚へと引っ込む。
咲夜=ほっと一息―――フランへと向き直る。「フランお嬢様。どうやらお望みの下着があるそうですよ」
フラン=ウキウキ笑顔。「ホント!?どんなのかなぁ?」
少し待つと店の奥から霖乃助が戻って来た―――大きめの木箱を持って。
「お待たせ。この中に商品用の下着は全部入ってるんだ」
音を立ててそれを店のカウンターへと置く=納品用の大きめの桐箱。
霖乃助が桐箱を開ける―――目の前に現れた色とりどりの下着/シンプルな水色の縞模様からフリルの付いた小悪魔的なデザインの物まで多種他様な下着の山/その中の
一つを手に取って咲夜たちに見せる=扇情的な黒のシースルー。
霖乃助の解説。「これが以前に咲夜君に頼まれて里の職人に作らせた物だけど、今ではいろんな種類が人里では出回っていてね。知り合いの伝手もあって結構な種類も
数も用意してある。よかったらそれも見てみるかい?」
咲夜が頷く。「じゃあそうしようかしら」
「なら箱の中から好きな物を選んでくれ。決まったら声を掛けてくれればいいから。」
霖乃助=下着を箱に戻す/椅子に座って近くにあった古本を読み始める――言うことは全部終わったと言わんばかり。
「ねぇねぇ咲夜♪コレかわいいよ、コレ♪」早速フランが桐箱の隅にあった一つの下着を取り出す。
手に取ったソレ=女性全般――特にフランの様な少女が穿くとかなり危険な香りのする極小マイクロカットの黒ビキニ/それを実に天真爛漫な顔で見せてくる―――見て
いる方が眩しくなるほどの満面の笑み――
「うっ………」
フランの下着選びのセンスに咲夜の息が一瞬詰まる―――しかし眩しい笑顔のフランに掛ける言葉が見つからず/なんとも言葉にできない雰囲気。
何とか言葉を喉から出す。「……フランお嬢様。それはやめましょう?」
その言葉にすぐさま反応/抗議が飛ぶ。「えー!なんで?とっても可愛いのにー!」
「その下着はフランお嬢様にはまだ早すぎますわ。お嬢様がもう少し大きくなられたら、また買いに来ましょうね。」
咲夜=小さい子供に言い聞かせるようなお母さん的口調/穏やかかつ問答無用の威圧感を発揮/優しい笑顔のまま危険極まりない犯罪的極小サイズの下着を速やかに戻さ
せる。
「かわいいのにぃ……」フランが渋々と言った表情で箱に下着を戻す/他の下着を探し始める。
「それよりもコレなんかどうでしょう?」
他の物でフランの気を引こうとする/何とかまともな部類の下着を探そうとする/桐箱中央にあった実に年頃の女の子らしい白と水色のストライプを取り出してみせた。
「えっとね……じゃあ、これは?」そんな咲夜の事など完全に眼中に無いフラン/咲夜を見向きもせずに桐箱から新たに取り出される下着=鋭角的カットの深紅のハイレ
グ/危険極まりない下着第二弾。
咲夜の頭に筋の様なものが痙攣ぎみに浮きあがる―――もちろん顔は笑顔のまま。
「咲夜?」
自分が咲夜のストレスの原因とはこれっぽっちも思わず、気付かずのフラン=咲夜の顔が笑顔のまますごい勢いで険しくなるのを見て声を掛ける。
「なんでもありませんわ。」
フランに向かって口に出かけた言葉のあれこれを何とか飲み込む/この場を切り抜けることに専念。
「お嬢様?お嬢様が欲しいのは“可愛くて紐で穿ける下着”ですよね?」。
「うん?そうだけど、かわいいのなら何でもいいかなーって思えてきたから。もうあんまり形は気にしてないよ?」
「だったらコレなんかどうでしょうか?」桐箱の中央辺りをゴソゴソ激しく物色/とても言葉にはできない下着の山から何とか取り出した真珠色の紐パン。
「うーん…可愛いけど、白かぁ。こう黒いのとか、赤いのがいいな…」
「あら。お嬢様なら白でも十分にお似合いになりますよ?」咲夜――煽てて畳みかける/どうかコレくらいにしてくれという内心の叫びを隠して。
「そう…かな?」
「はい♪」
「えへへ…じゃあそれがいいな♪」フラン――無邪気な笑顔。
「畏まりましたわ。霖乃助さん。」咲夜――声をあげて霖乃助を呼んだ。
「ん?もう下着は決まったのかい?」霖乃助が新聞を畳んで立ち上がる。
「うん♪コレ♪」フランが早速、咲夜に選んでもらった下着を見せる。
それを見ると霖乃助が聞き返す様に言った。
「これ一つだけでいいのかい?」
「え?他にも買っていいの?」
フラン―――何故霖乃助がそう聞くのか分からずに思わず聞き返す。
霖乃助―――困った顔/そういう風に聞き返されるとは思わなかったと言わんばかり。
「それは僕に聞かれても困るな…でも、女性の下着は下履きが一つあればいいと言う物じゃないと思うのだけどね?それともこのデザインを幾つか欲しいと言う事か
な?」
要約=それ一つでいいの?上下揃えないの?
「うーん…他にも買っていいならもっと選ぶけど…」フランがちらりと咲夜を横眼で覗き見る―――さながら物欲しさと申し訳なさに悩む小さな子供の視線。
「うっ……」あまりのフランの視線に耐えられずに思わず目を逸らす――――咲夜の買ってあげたい気持ちが、今後の紅魔館の家計という大きな重りと天秤にかけられ
る。
今月の家計の方が優勢な中、ちらりとフランに目を戻す。
「ねぇ……咲夜ぁ…買っちゃダメなのぉ…?」なおも咲夜に懇願中のフラン/その濡れた瞳に咲夜の顔が映った。
その瞬間に咲夜の天秤のバランスが見事に片方に向かって崩壊―――全力で買ってあげたい衝動の方に傾いた。
「はぁ…分かりました。なら他の下着も選んで買いましょうね。」
「やったぁ♪」聞くや否やフランが再び駆け足で桐箱へと向かう。
咲夜=うきうき気分で再び桐箱を漁るフランを尻目に財布を確認―――何処まで家計に支障なく買う事が出来るかを必死に脳内で暗算。
「…咲夜君?もしよかったら、今回のお代は紅魔館宛てにツケにしておくよ?」様子を見かねた霖乃助の助け船=支払い方法の提案。
藁にも縋る気持ちで霖乃助の助け船に飛び乗る。「ええ。是非お願いします。」
安堵した咲夜の顔を見て、珍しく笑って見せる霖乃助―――咲夜が顔を顰める。
「…何か私がおかしい事を言いましたか?」
くつくつと声無き笑いの霖乃助=手を振って悪意のない笑いだという事を表現。
「すまない。笑うつもりじゃなかったんだ。君達二人が主従と言う関係よりも仲のいい姉妹か親子に見えたものだから――」
咲夜も思わず微笑む。「あら?なら今の私はさしずめ、可愛い妹に甘いお姉さんか、我が子を溺愛する母親ですか?」
「そんな風に見えただけさ。別に他意は無いよ。それよりも折角だし、咲夜君も何か買っていってくれると嬉しんだが。」
「そうですね。なら、折角ですから私も何か洋服を見せて貰えますか?」
霖乃助の応え。「言わなくても分かると思うけど、言ってくれれば特注で何か作る事も出来るから、欲しい物は僕に言ってくれればいい。出来るだけ安くしておく
よ。」
言い終わって椅子から立ち上がる霖乃助=商品の服を取りに行くために再び店の奥へ。その背中に向かって咲夜が言った。
「それだけ商売上手なのに、こんな森の中にわざわざ店を構えるなんて、霖乃助さんは相変わらず変わり者ですね。」
店の奥から返ってくる――感慨深げな霖乃助の声。
「否定はしないよ。変わり者と言う所はね。でもここでの生活も慣れれば中々の物だよ。それにここに住んでいるのは、他にも訳があるのさ―――」
その時に声――後ろから。
「咲夜ぁー?何してるの?」咲夜が止めないのをいい事に、かなり際どい下着を手に既に何点かチョイス済みのフランが咲夜を呼ぶ。
「ああ、すみません。フランお嬢様。今行きますね。」
桐箱の前のフランへ向かうために咲夜は踵を返した。
紅魔館/地下三階の大図書館―――地上階まで届くほどの巨大な吹き抜け構造にも関わらず、その広大な空間を埋め尽くす高さ・幅・大きさの本棚の山/さながら本棚お化
けのジャングル。
巨大本棚の群生する大図書館の地表に少女が二人=巨大なテーブルの上にある紅茶セット一式+それを埋め尽くす大量の本で建築された斜塔×10と共に優雅なティータ
イム。
「レミィ?――――レミィ?聞いてるの?」
「えっ!?――――も、勿論聞いてるわよ、パチェ」とレミィ=レミリア。
「嘘ね。レミィったら私の話を全く上の空だったじゃない。もしそうじゃないと言うなら、 私が今した話が何の話だったかもう一度言ってみて頂戴?」
「……ごめんなさい。考え事をしていて聞いて無かったわ。」
「やっぱり…大方、フランと咲夜の事が気になって仕方が無いんでしょう?」
レミリア=痛い所を突かれた顔。「………そうよ。」
「だったら、最初から外出なんてさせなければいいのに。」呆れた調子の声=パチェことパチュリー・ノーレッジ。
知的な菫色の瞳/艶めいたウェーブ気味のロング/ふんわりとした薄紫のネグリジェ/手近にある斜塔から本を抜き出して鑑賞中。
「咲夜にも言ったけど、これはフランに対するテストなのよ。」
「テスト?」パチュリーが首を傾げる。
「ええ。咲夜にも言ったのだけれど、霊夢達のおかげでフランもだんだんと本来の優しい性格を取り戻してきているのよ。私としては、もっと外と接触して多くの経験と
思い出を作ってほしいの。それで今回はフランが何処まで屋敷の外に対応できるかを見ようと言う訳。」
パチュリー=納得顔。「“可愛い子には旅をさせよ”ってこと?でもテストを出す割には随分とフランの事が心配の様ね?」
その言葉を聞いた瞬間にレミリアの顔が一変=ものすごく情けない顔に。「あたりまえじゃない!!世間知らずのあの子にもしもの事があったら………私は一体どうやっ
てこれからを生きて行けばいいの!?」テーブルを思いっきり叩いて身を乗り出す。
パチュリー=あまりのことに戸惑い/うろたえる。「咲夜を一緒に行かせたんでしょ?彼女ならきっと心配無いわよ、レミィ。」
更に身を乗り出すレミリア。「いいえ!咲夜だからこそ心配なのよ!咲夜ったらいつも思わぬところで致命的な事をやらかすんだから!」自分の従者の最大の欠点を指摘
/自信ありげに断言。
「……じゃあ何で咲夜に行かせたのよ?そこまで心配ならレミィが一緒に行けば良かったじゃないの。」尤もな指摘。
レミリア―――情けない顔にカリスマが再度復帰。「それは駄目よ。それじゃ意味が無いもの。フランには私が一緒に居なくても大丈夫なようになってほしいんだか
ら。今回は監視と助手の意味も兼ねて咲夜には一緒に行って貰ったのよ。」
自信たっぷりにまたも言い切る/その直後に更に表情が変化/悶絶。「あぁぁぁ!!でも!でも!もしも今のあの子の身に何かあったら……いえ、咲夜なら大丈夫よ…
きっと…レミリア自分を信じなさい…ああでも…咲夜じゃ何かあっても駄目かもしれないし……あー!!」
パチュリー―――頭を抱えて言葉にならない呻きを上げ続ける友人に溜息/なぜ自分がこんな面倒な人物と友人になってしまったのかと軽く後悔。
「まずは貴女が落ち着いた方がいいみたいねレミィ。」空になったティーカップに紅茶を注いでレミリアへ手渡した。「それで喉を潤した方がいいわ。レミィがここで悩
んでいても仕方ないもの。」
レミリア―――手渡されたティーカップを掴むと淑女らしさの欠片も無い痛飲/ゴクゴクと喉が音を立てて紅茶を嚥下。
「……ふぅ、そうね。この事は咲夜に任せたんだから、私はただそれを信じて待つだけよね。パチェ。」座っていた席を立って図書館の入り口に向かって踵を返す。
「あら?行ってしまうの?レミィ。」
「ええ。ここにいても落ち着けないから、気晴らしにまた美鈴の所にでも行ってくるわ。」レミリアが背中越しに言葉を返す―――扉を開けてすたすたと出て行った。
「まったく……レミィの姉馬鹿具合にも困ったものね…でも、そこがレミィの面白いところなのだけれどね」
部屋を出て行った親友に向かってパチュリーはそう小さく呟いた。
魔法の森/香霖堂から紅魔館への帰り道―――常に薄暗い森の中は吸血鬼のフランにとっての絶好のお散歩コース。
“かわいい下着の購入”という念願の目的を達成し、行きよりも更にウキウキ気分のフラン=日傘も必要無いので森の中を思いっ切り駆け回って冒険/散策中。
逆に結構な大きさの紙袋を両手に持った咲夜=結局フランに言われるがまま香霖堂にあった下着を殆ど買い尽してしまい、レミリアへの言い訳とこれからの節約方法を必
死に頭の中で模索中。
「いっぱい買えて良かったね。咲夜」頭の痛い咲夜の事など欠片も気にせずにフランが笑いかける。
「そうですね。フランお嬢様。」内心の頭の痛さを棚に上げて微笑み返す。
突然フランが真顔になって尋ねた。「ねえ咲夜?どうしてお姉様は急に私を外に出したの?」
咲夜――呆然。「いきなりどうしたんですか?フランお嬢様。」
フラン――断言。「だってよく考えたらおかしいわ。今まで散々出るなって言っておいて、今日に限って外に出ていいなんて絶対におかしいもの。」
咲夜――今さらどういう風に話したものかと逡巡/本当に今さら過ぎて逆に言えない/ごまかす。「フランお嬢様はいつも外に出るのを我慢していますから、今日はきっ
とそのご褒美ですよ。」
フラン―――首をかしげる/曖昧に頷く。「ふーん。そんなもんかなぁ?」
咲夜――頷く/フランに手を差し出す。「そんなものですよ。さぁ、レミリアお嬢様がきっと心配していますから早く帰りましょう。」
フランが咲夜の手を取る/しっかりと握る。「なんかさ、咲夜ってお母さんみたいだね。」
霖乃助に続いてフランにも同じ事を言われるとは思わかった咲夜が思わず微笑む/フランの手を握り返す。
魔法の森を抜ける/夕日が咲夜たちを照らす/咲夜がフランから預かっていた日傘を渡した。
「さぁフランお嬢様。森を抜けましたから、もうすぐお屋敷に着きますよ。レミリアお嬢様にフランお嬢様がお選びになった可愛い下着を見せて差し上げましょう。」
「うん。行こ咲夜♪」
二人は行きと同じようにしっかりと手を繋いで紅魔館へと向かって歩み出した。
夕方の紅魔館/入り口門前―――押し問答する二人/美鈴とレミリア。
レミリア――もがく/今にも飛び立つ勢い。「美鈴!やっぱり私フランを探しに行ってくるわ!!」
美鈴―――必死にレミリアを引きとめる/羽交い絞めにする。「もうすぐ妹様は帰ってきますから!あともう少しの辛抱ですよ。どこまで姉馬鹿なんですか!」
「何と言われようともう我慢できないわ!フラン…お姉ちゃんが今行くからね。」
「お姉様ぁー♪」ふと声―――森の方向から。
レミリアが声の来た方向を見る。その視線の先=やや遠くに日傘を差したフランと咲夜。
フランが日傘を持っていない方の手で手を振っている。歩いて近づくのがもどかしいのか、走ってレミリアの元まで駆け寄って抱き着いた。
「ただいま!お姉様!!」
「おかえりなさいフラン。どうだったかしら?初めての買い物は?」
レミリア=先程の動揺っぷりなど一切見せずに、胸の中のフランの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「うん♪とっても楽しかった♪ありがとうお姉様♪」
「これでもう今度からフラン一人でも買い物が出来るわね。これからはフランが好きな時に外に出て、好きに買い物に行くといいわ。」
「ホント!?いつでも外に行っていいの!?」レミリアの信じられない言葉に思わずフランが聞き返す。
「ええ。そのために今日はフランを外に行かせたんですもの。咲夜?今日のフランはどうだったのかしら?」
「問題ありませんわ。今日のご様子でしたら、これからお一人で何処へ外出なさっても問題ないかと。」と咲夜=レミリアとは目を合わせずに返答。
「それなら何の問題は無いわね、安心したわ――――それでフラン。ちゃんと下着は選べたかしら?」
「うん。ちゃんと選べたよ、ホラ♪」
フラン=もう紐と呼んで差し支えないほどに面積の少ない網目模様のタンガ/それをレミリアの目の前へ無造作に差し出した。
レミリア=しばらく反応できずにそれをガン見/理解が追いついた途端にその顔が途端に赤面/絶叫。
「咲夜ッ!!コレはどういう事なのッ!!?何のために貴女を一緒に行かせたと思ってるのッ!!」
「申し訳ありません…しかし、フランお嬢様はどうしてもそれがよろしいと…」咲夜が蚊の無く様な言い訳を囁く。
「関係無いわ!こんな…こんな…」他の紙袋に入った際どい下着の山を見つけたレミリアがそれを真っ赤な顔で睨みつける。
「ねぇねぇ?何でお姉様は顔を赤くしてるの?」頭上に?を浮かべたフランが割って入る―――大きな縦スリットの入ったリオカットを突きつけながら。
「~~~~~~~~!!」レミリアの顔が更に炎上/その羞恥心に耐えられず館の中へと逃げる様に空を飛んで行く。
「あーッ!!お姉様が逃げたー!!」フランも館へと飛んで行く。
不意に肩をたたかれる/後ろから声。「お疲れ様です。咲夜さん。」美鈴――咲夜を労う。
「ただいま美鈴。どうだった?今日のお嬢様は?」
快活な笑い声。「今日は特にひどかったんですよぉー。二言目にはすぐ「やっぱりフランを探しに行ってくるわ!」ですもん」
呆れる/予想通り。「やっぱり…本当に手のかかるご主人様だこと…さて、私はお夕飯の支度をしなくちゃ。よかったら貴女も今夜は一緒に夕食をどう?」
明朗な声。「ありがとうございます!!是非ご一緒させていただきますね」
「じゃあ、後で厨房にいらっしゃいな。飛び切りのをご馳走してあげるから」
咲夜は微笑みながら二人の主人が飛んで行った屋敷の方へと歩いて行った。
個性といえば個性なんだろうけど。
この長さならいいけど長編ならかなりきつい。
あと霖乃助、故買屋を自称するのは止めた方が……
でも、文才は物凄く有る。才能があるのに奇を衒うのはやめよう。僕への自戒ともして。
例えば僕なら、解りやすい情景描写を使うべきだと思う。一意見として。
「ただでさえ広大な(メイド長による空間操作の賜物だが、)紅魔館の地下三階をまるまる一階分使った大図書館―――地上階まで届くほどの巨大な吹き抜け構造にも関わらず、巨大な本棚の山はまるで、高さにおいて、広さにおいて、幅において、それでは足りないとばかりに成長するジャングルの様でもあった。
巨大本棚の群生する大図書館の地表に少女が二人、巨大なテーブルの上にある紅茶セット一式と、まるでそれを埋め尽くすかのように数え切れない本棚で建築された今にも倒れそう・・・と言うほどではないが、少々ぐらついた幾つもの斜塔と共に優雅なティータイム」
と、このように。 喋りすぎました。恨みを買ったかもしれませんから、怒らせてしまったならば、私はここで謝りましょう。
いつもの癖が出てしまいました。 御指摘ありがとうございます。
そういえばこの夏の暑さも佳境に入った、って感じがしませんね。 最近は。
盂蘭盆会過ぎたら涼しくなったことは一度もないですがね。
これが異変だったら巫女さんにどうにかして貰うんですが、
残念ながら地面で跳ねる程に強い、スコールのような雨も、
扇風機を2時間タイマーにセットしないと、眠れそうにもない夜も、
日中の気温が体温以上あるというこの暑く蒸したような日々も、
畢竟私たちのの責任なので、私たちがどうにかするべき事なのですが。
未だ見習うことは多い弱卒です。私は。
あの方の文体を見た時は目からウロコだったなぁ……。
何だかんだで、読み始めればあっという間に読み終わりました。
ただ、牛乳を一気飲まされて後味が微妙に残るばかりといった感じに……。
10の方のように描写を増やすと味わえる気もしますが、ここまで一気に読める流れが途切れないか……少なくとも、これで文章力は低いわけない。
是非、次回作も読ませて下さい。
シ◯ピーゲルの先入観で、戦闘の場合は唄いながらピアノ線やらで生首吹っ飛ばすような血なまぐさいフランしか思い浮かばない……。しかしこの疾走感。いつか読んでみたいです、戦闘モノ。長文、失礼しました。
情景描写の文章も、一字下げはあった方がいいと思われます。
最初に見た時点で文章がみっちり詰まっているのは、視覚的に読みたくなくなる事があります。
ザ・スニで読む、文庫で読む、ネットで読む、状況によりますが、自分はちょっと圧迫感を感じました。
それを個性にするのも無論アリですが、個人的に違和感として挙げさせていただきます。
自分の場合、この文体で書こうとしてもこうまですんなりと書けないので羨ましい。
初投稿、お疲れ様です! これからも頑張って下さい。
正直自分は話を作るのも書くのも巧くないですが、これからもssを書いていければいいなと思いました。
コメント下さった方、そしてこの文を読んで下さった方本当にありがとうございました。