勇儀は湯屋に行ったのだった。
せっかくご近所に温泉が湧いたので、居心地良い雰囲気のある場所でかぽーんと一風呂リラックス。
同性同士の恋人ならではの楽しみ方である。
まったりと相方の貧乳もとい品乳を視姦するもよし、すらりと伸びた背中を視姦するもよし、適度にしまった尻を視姦するもよし、何を視姦するにも決して不自然ではない。
であるのだが。
「しっかし、なーんで断られたんだと思う、萃香?」
「そりゃあ、考えていることが口からだだ漏れだからじゃないかね。視姦とか視姦とか」
「私なりの愛情表現なのになあ、おっかしいなあ」
勇儀は不平をこめて、ぶくぶくとてぬぐいで石けんの泡を立てた。
タイル張りの洗い場である。声はよく響く。
客はそこそこいる。高い天井はひのき張り。
そこかしこにひのきの葉が飾られていて、それらも新しい木の良い香りがする。
地上からわざわざ持ってきて建てたらしい。
勇儀は、そういう酔狂は嫌いじゃない。言ってくれれば手伝ったのにとさえ思う。
もっとも自分が手伝ったら、これも興だと言って規格外の千年杉を引っこ抜いて大黒柱にしかねないだろうが。
ともあれ、どうしてただの友人である萃香と二人で湯屋にくることになったのか。
要は恋人に断られたのである。
ごしごしと脇の下やら背中やらを洗いつつ、やりとりを思い返す。
「よー、パルスィ。デート行かない?」
「なによ、勇儀。どこ行こうって言うの」
「最近湯屋出来たらしくってさ。パルスィのハダカ見たいんだよなー」
「お断りします」
間違いなく30秒も会話してなかった。
「パルスィはそう言うところケチだよなあ。一緒に風呂入るぐらいいいじゃんか、減るもんじゃなし」
「品性とか価値とかが減るんじゃないかね」
「品性はともかく、パルスィのハダカの価値は無限大だぞ。私が保証する。見たこと無いけど」
「無いのか。そりゃあ嫌がるだろう」
「ちょっとぐらいなら触ったことはあるよ」
「ああそう。まあそれ以上聞きたくないけど」
「パルスィの一番感じるところは多分ねえ~」
「だから、聞きたくないってば!」
遮られて勇儀は不服である。
最近ノロケ過ぎて誰も聞いてくれないのだ。
恋人が出来てウハウハなのに。
「あれ。っていうか、もしかしてさあ」
突拍子もない萃香の言葉に、勇儀の全身が固まった。
「恋人だと思ってるのは、あんただけなんじゃないのかね」
「なん……だと?」
思わずしげしげと、萃香を見つめてしまった。
何をどうして、地球は平らだ、みたいなことを言っているのだ。
「だって、ちょっとしか触ったことないんだろ? 一体どこに触ったことがあるんだい?」
「か、肩、とか……」
「胸は?」
「なっ、ないよ馬鹿。何言ってんだ」
「手は?」
「ま、まだない……。握ろうとしていっつもタイミング逃すんだ」
「顔は? 唇は? XXXは?」
「……全部ない」
XXXって何だろうと思いながら、勇儀は答えた。
「肩しか触ってないのにどこが感じるのか分かるのかい?」
「たっ、たぶん分かるさ! こー……なんていうか、気合いだ気合い」
「っていうか、勇儀、あんたさ、なんかもっと根本的なところを間違えてる気がするよ」
萃香はざぱりとお湯をかぶって泡を流した。
「こ、根本的なところってなんだよぉ!」
ちょっと泣きそうである。つかみかかる。
小さな萃香の身体に比べて、圧倒的に大きな体躯ではあるのだけれど、難なく振り払われる。
「んー……。まあ、いいじゃないか。とりあえず風呂入ろうよ」
萃香はとててと洗い場のタイルを渡って、湯船へ向かう。
勇儀もついていく。どぶんと大きくお湯がこぼれた。
気が気でなくて、くてんと背筋が曲がってしまう。
「あー、いいお湯」
萃香はてぬぐいを頭に乗せてすっかりいい気分のようだった。
勇儀としては気が休まるどころの話ではなかった。
「なあ、なんだよう、今の。なんで何を間違えてるんだよぅ、私は」
「あんた、ホントめんどくさい女だねえ、勇儀」
「め、めんどくさくなんか無いぞ。一人で風呂にも入れるし!」
「いやいやそうじゃなくてさ……っつうか、一人で入れないのがめんどくさいの基準って何だよ」
萃香はぽりぽりと頬をかいた。
「教えてくれよおしえてくれよぉ……何なんだよ、何が間違ってるって言うんだよぉ」
横から肩をつかんで揺さぶる。萃香の二本の角がぐらぐらゆれた。
「しょうがないねえ。んじゃあ、告白はしたの?」
「しっ、したよ、こっちから『好きだ』って言った」
「返事は?」
「えーっと……」
そのときのことを思い返す。
「好きだ、つきあって下さい」
「……は?」
「いやだから、わたしはパルスィのことが好きで好きで夜も眠れないからパルスィはどうなんだって思ったけどわたしが考えていてもよく分かんないからとりあえずつきあってみたら分かるんじゃないかって思ったんだ」
「……別に、」
そこで回想から引き戻される。
「はぁ!? 『別に』って言ったのか?」
「いや、その後は多分『別に構わないけど』っていうのが続くんだよ。絶対そうだろ?」
どんどん、と湯船のふちを叩いて力説する。
萃香は仰天した。
「ったく、わっかんないなー。どうしてそれがつきあってることになるんだよ!?」
「毎日みかんとかまんじゅうとかプレゼントして、好きだって言って、向こうもそれを受け取って、二人で半分こして食べてるんだから、つきあってることになるだろ!?」
「勇儀それおかしい、絶対おかしいって」
「嫌いだったらそういうことしないって、絶対絶対そうだって!」
言葉は熱くなるが、頭の中でぐるぐると疑問が渦巻いていく。
どうしようどうしよう、本当はつきあってなんか無くて、迷惑だと思われてたらどうしよう。
天井がぐるぐる回る。頭の中がぐらぐら煮えてしまう。熱い。苦しい。釜ゆでにされてるみたいだ。
「勇儀がどれだけ言ったって、パルスィがどう思ってるかななんて分かんないじゃないか」
その一言で、
何かが、切れた。
「そんなにッ! 言うならッ!」
ざばりと立ち上がる。
一気に目の前が暗くなるが、そんなことには負けない。
がぁっと頭に血が上っている。
津波のように、湯船の中が空になる。
「お、おい……勇儀?」
「これから確かめに行くッッ! 止めるな萃香ァーッ!」
一歩。
踏み出しただけで美麗で清潔なタイルにひび割れが起きた。
猛る声と共に、床の上を飛ぶように駆けていく。廊下の木の板が御神渡りのように裂けた。
扉? そんなものは無かった。薄っぺらな木の板が何枚か吹き飛んでいっただけだ。
客? そんなものは居ない。ぺらっぺらなヒトガタが何人か吹き飛んでいっただけだ。
獣じみた声を上げて、勇儀は駆けた。
「どこだぁーっ、パルスィーッ!」
鬼の咆哮が響き渡る。空気がびりびりと震え、硝子窓が残らず割れた。
番台を飛び越えて路上へ飛び出す。体にまとわりついた、『地獄湯』ののれんを振り払って、勇儀は雄々しく立ち上がる。
胸を張って、道を見据える。
通行人がひそひそと囁いている。
「ちょ……なんだ、アレ」
「……裸?」
遠巻きに見られているその視線に臆することなく、勇儀は己のゆくべき方向を探す。
むしろ、他の人妖など見えていない。欲するものは恋人ひとり。
「……橋は、どっちだ」
分からん。でも多分、あっちだ。
匂いで分かる。パルスィの匂いがする方が、行くべき道だ。
どっしりとした二本の足で大地を踏みしめる。砂利の感触。
風が風呂上がりの濡れた体を乾かして通り抜けていく。心地よい。
踏み出す一歩は、大地の重み。
駆け出す二歩は、迅速の極み。
抜け出す三歩は、必殺の高み。
足を踏み出すごとに大地が揺れ、柱が割れ、窓が砕け散る。
他人の迷惑など知ったことか。
恋する乙女はいつだって一生懸命なのだ。世界だって滅ぼせるぐらいに。
と、格好良く言ったところで全裸で地獄街道を爆走中であることには相違ない。
誰も捕まえられない。死にたくないからだ。
あ、一人いた。例外が。
「まっ、待ちなさいよっ!」
そう叫んで立ちふさがるものがあった。
あわてて急ブレーキをかける。
よく目を見張れば、麗しの橋姫である。
「あっ、パルスィ! ちょっと聞きたいことが」
「そんなことより、どうしてあなたハダカなのよ!」
「え? ああ。着る暇がなかった」
「なんで!?」
「急いで聞きたいことがあってな。あんたを探してたんだ」
「そんなことより前ぐらい隠しなさいよ!」
ばさりと手ぬぐいを投げられた。
勇儀は受け取るが、それどころではない。
「あのさ、私たち、付き合ってるんだよな?」
それを聞かないうちには、何をすることもできない。
胸の奥で渦巻いていた疑念がまたよみがえる。
わたしたちは恋人同士だ。
「そっ、そんなことどうだっていいでしょ!」
「良くない! それが気になって服も着られないぐらい慌てて走ってきたんだ」
がしっとパルスィの両肩をつかむ。
鼻先がつかんばかりの至近距離。
見つめ合おうとする。
それでもパルスィは顔をそむける。
ああ、もしかして。
目を合わせてくれないのは、もしかして。
勇儀の頭の中に嫌な心配がよぎる。
真剣に向き合ってくれない。
自分が思いをぶつけるようには、こちらに思いをぶつけてはくれない。
これはやっぱり、わたしだけの、一方通行なんじゃないのか。
絶望に、手の力が、ゆるんだ。
抜け出される。距離を取られる。
背中が丸くなる。目を閉じる。うなだれて、うずくまりたくなる。
さっきまでの全力疾走のせいで、体中が痛くなる。
足の裏がじんじんと痛む。
石を踏みつけにして、タイルを割って、木を踏み抜いて。それで足の裏が破れないなんて、奇跡みたいなものだ。
奇跡なんて、起こるわけがないんだ。
願い続けたら、思いが通じるなんて、そんな奇跡なんて。
起こる、わけ、が。
と。
ぽす、と肩に被さるものがあった。
目を開けた。
風景はぼやけていたけれど、まだ彼女はそばにいてくれた。
「とにかく、服、着なさいよ、馬鹿!」
パルスィは尖った耳の先まで真っ赤になっていた。
上着を掛けられていた。
身長が圧倒的に違うせいで、全然丈が足りない。
それでも、はじめて、パルスィの方から何かをくれた。
今まではずっと、あげるばっかりだったのに。
「私以外のひとに、見て欲しくないの。妬ましくなるの。そんぐらい分かりなさいよ、馬鹿」
ぶつぶつと、口の中で何か言っている。
「わたしの、大切なこいびとなんだから」
そう言って、彼女ははじめてほっぺたにキスをしてくれた。
はじめて、唇に触れた瞬間だった。
せっかくご近所に温泉が湧いたので、居心地良い雰囲気のある場所でかぽーんと一風呂リラックス。
同性同士の恋人ならではの楽しみ方である。
まったりと相方の貧乳もとい品乳を視姦するもよし、すらりと伸びた背中を視姦するもよし、適度にしまった尻を視姦するもよし、何を視姦するにも決して不自然ではない。
であるのだが。
「しっかし、なーんで断られたんだと思う、萃香?」
「そりゃあ、考えていることが口からだだ漏れだからじゃないかね。視姦とか視姦とか」
「私なりの愛情表現なのになあ、おっかしいなあ」
勇儀は不平をこめて、ぶくぶくとてぬぐいで石けんの泡を立てた。
タイル張りの洗い場である。声はよく響く。
客はそこそこいる。高い天井はひのき張り。
そこかしこにひのきの葉が飾られていて、それらも新しい木の良い香りがする。
地上からわざわざ持ってきて建てたらしい。
勇儀は、そういう酔狂は嫌いじゃない。言ってくれれば手伝ったのにとさえ思う。
もっとも自分が手伝ったら、これも興だと言って規格外の千年杉を引っこ抜いて大黒柱にしかねないだろうが。
ともあれ、どうしてただの友人である萃香と二人で湯屋にくることになったのか。
要は恋人に断られたのである。
ごしごしと脇の下やら背中やらを洗いつつ、やりとりを思い返す。
「よー、パルスィ。デート行かない?」
「なによ、勇儀。どこ行こうって言うの」
「最近湯屋出来たらしくってさ。パルスィのハダカ見たいんだよなー」
「お断りします」
間違いなく30秒も会話してなかった。
「パルスィはそう言うところケチだよなあ。一緒に風呂入るぐらいいいじゃんか、減るもんじゃなし」
「品性とか価値とかが減るんじゃないかね」
「品性はともかく、パルスィのハダカの価値は無限大だぞ。私が保証する。見たこと無いけど」
「無いのか。そりゃあ嫌がるだろう」
「ちょっとぐらいなら触ったことはあるよ」
「ああそう。まあそれ以上聞きたくないけど」
「パルスィの一番感じるところは多分ねえ~」
「だから、聞きたくないってば!」
遮られて勇儀は不服である。
最近ノロケ過ぎて誰も聞いてくれないのだ。
恋人が出来てウハウハなのに。
「あれ。っていうか、もしかしてさあ」
突拍子もない萃香の言葉に、勇儀の全身が固まった。
「恋人だと思ってるのは、あんただけなんじゃないのかね」
「なん……だと?」
思わずしげしげと、萃香を見つめてしまった。
何をどうして、地球は平らだ、みたいなことを言っているのだ。
「だって、ちょっとしか触ったことないんだろ? 一体どこに触ったことがあるんだい?」
「か、肩、とか……」
「胸は?」
「なっ、ないよ馬鹿。何言ってんだ」
「手は?」
「ま、まだない……。握ろうとしていっつもタイミング逃すんだ」
「顔は? 唇は? XXXは?」
「……全部ない」
XXXって何だろうと思いながら、勇儀は答えた。
「肩しか触ってないのにどこが感じるのか分かるのかい?」
「たっ、たぶん分かるさ! こー……なんていうか、気合いだ気合い」
「っていうか、勇儀、あんたさ、なんかもっと根本的なところを間違えてる気がするよ」
萃香はざぱりとお湯をかぶって泡を流した。
「こ、根本的なところってなんだよぉ!」
ちょっと泣きそうである。つかみかかる。
小さな萃香の身体に比べて、圧倒的に大きな体躯ではあるのだけれど、難なく振り払われる。
「んー……。まあ、いいじゃないか。とりあえず風呂入ろうよ」
萃香はとててと洗い場のタイルを渡って、湯船へ向かう。
勇儀もついていく。どぶんと大きくお湯がこぼれた。
気が気でなくて、くてんと背筋が曲がってしまう。
「あー、いいお湯」
萃香はてぬぐいを頭に乗せてすっかりいい気分のようだった。
勇儀としては気が休まるどころの話ではなかった。
「なあ、なんだよう、今の。なんで何を間違えてるんだよぅ、私は」
「あんた、ホントめんどくさい女だねえ、勇儀」
「め、めんどくさくなんか無いぞ。一人で風呂にも入れるし!」
「いやいやそうじゃなくてさ……っつうか、一人で入れないのがめんどくさいの基準って何だよ」
萃香はぽりぽりと頬をかいた。
「教えてくれよおしえてくれよぉ……何なんだよ、何が間違ってるって言うんだよぉ」
横から肩をつかんで揺さぶる。萃香の二本の角がぐらぐらゆれた。
「しょうがないねえ。んじゃあ、告白はしたの?」
「しっ、したよ、こっちから『好きだ』って言った」
「返事は?」
「えーっと……」
そのときのことを思い返す。
「好きだ、つきあって下さい」
「……は?」
「いやだから、わたしはパルスィのことが好きで好きで夜も眠れないからパルスィはどうなんだって思ったけどわたしが考えていてもよく分かんないからとりあえずつきあってみたら分かるんじゃないかって思ったんだ」
「……別に、」
そこで回想から引き戻される。
「はぁ!? 『別に』って言ったのか?」
「いや、その後は多分『別に構わないけど』っていうのが続くんだよ。絶対そうだろ?」
どんどん、と湯船のふちを叩いて力説する。
萃香は仰天した。
「ったく、わっかんないなー。どうしてそれがつきあってることになるんだよ!?」
「毎日みかんとかまんじゅうとかプレゼントして、好きだって言って、向こうもそれを受け取って、二人で半分こして食べてるんだから、つきあってることになるだろ!?」
「勇儀それおかしい、絶対おかしいって」
「嫌いだったらそういうことしないって、絶対絶対そうだって!」
言葉は熱くなるが、頭の中でぐるぐると疑問が渦巻いていく。
どうしようどうしよう、本当はつきあってなんか無くて、迷惑だと思われてたらどうしよう。
天井がぐるぐる回る。頭の中がぐらぐら煮えてしまう。熱い。苦しい。釜ゆでにされてるみたいだ。
「勇儀がどれだけ言ったって、パルスィがどう思ってるかななんて分かんないじゃないか」
その一言で、
何かが、切れた。
「そんなにッ! 言うならッ!」
ざばりと立ち上がる。
一気に目の前が暗くなるが、そんなことには負けない。
がぁっと頭に血が上っている。
津波のように、湯船の中が空になる。
「お、おい……勇儀?」
「これから確かめに行くッッ! 止めるな萃香ァーッ!」
一歩。
踏み出しただけで美麗で清潔なタイルにひび割れが起きた。
猛る声と共に、床の上を飛ぶように駆けていく。廊下の木の板が御神渡りのように裂けた。
扉? そんなものは無かった。薄っぺらな木の板が何枚か吹き飛んでいっただけだ。
客? そんなものは居ない。ぺらっぺらなヒトガタが何人か吹き飛んでいっただけだ。
獣じみた声を上げて、勇儀は駆けた。
「どこだぁーっ、パルスィーッ!」
鬼の咆哮が響き渡る。空気がびりびりと震え、硝子窓が残らず割れた。
番台を飛び越えて路上へ飛び出す。体にまとわりついた、『地獄湯』ののれんを振り払って、勇儀は雄々しく立ち上がる。
胸を張って、道を見据える。
通行人がひそひそと囁いている。
「ちょ……なんだ、アレ」
「……裸?」
遠巻きに見られているその視線に臆することなく、勇儀は己のゆくべき方向を探す。
むしろ、他の人妖など見えていない。欲するものは恋人ひとり。
「……橋は、どっちだ」
分からん。でも多分、あっちだ。
匂いで分かる。パルスィの匂いがする方が、行くべき道だ。
どっしりとした二本の足で大地を踏みしめる。砂利の感触。
風が風呂上がりの濡れた体を乾かして通り抜けていく。心地よい。
踏み出す一歩は、大地の重み。
駆け出す二歩は、迅速の極み。
抜け出す三歩は、必殺の高み。
足を踏み出すごとに大地が揺れ、柱が割れ、窓が砕け散る。
他人の迷惑など知ったことか。
恋する乙女はいつだって一生懸命なのだ。世界だって滅ぼせるぐらいに。
と、格好良く言ったところで全裸で地獄街道を爆走中であることには相違ない。
誰も捕まえられない。死にたくないからだ。
あ、一人いた。例外が。
「まっ、待ちなさいよっ!」
そう叫んで立ちふさがるものがあった。
あわてて急ブレーキをかける。
よく目を見張れば、麗しの橋姫である。
「あっ、パルスィ! ちょっと聞きたいことが」
「そんなことより、どうしてあなたハダカなのよ!」
「え? ああ。着る暇がなかった」
「なんで!?」
「急いで聞きたいことがあってな。あんたを探してたんだ」
「そんなことより前ぐらい隠しなさいよ!」
ばさりと手ぬぐいを投げられた。
勇儀は受け取るが、それどころではない。
「あのさ、私たち、付き合ってるんだよな?」
それを聞かないうちには、何をすることもできない。
胸の奥で渦巻いていた疑念がまたよみがえる。
わたしたちは恋人同士だ。
「そっ、そんなことどうだっていいでしょ!」
「良くない! それが気になって服も着られないぐらい慌てて走ってきたんだ」
がしっとパルスィの両肩をつかむ。
鼻先がつかんばかりの至近距離。
見つめ合おうとする。
それでもパルスィは顔をそむける。
ああ、もしかして。
目を合わせてくれないのは、もしかして。
勇儀の頭の中に嫌な心配がよぎる。
真剣に向き合ってくれない。
自分が思いをぶつけるようには、こちらに思いをぶつけてはくれない。
これはやっぱり、わたしだけの、一方通行なんじゃないのか。
絶望に、手の力が、ゆるんだ。
抜け出される。距離を取られる。
背中が丸くなる。目を閉じる。うなだれて、うずくまりたくなる。
さっきまでの全力疾走のせいで、体中が痛くなる。
足の裏がじんじんと痛む。
石を踏みつけにして、タイルを割って、木を踏み抜いて。それで足の裏が破れないなんて、奇跡みたいなものだ。
奇跡なんて、起こるわけがないんだ。
願い続けたら、思いが通じるなんて、そんな奇跡なんて。
起こる、わけ、が。
と。
ぽす、と肩に被さるものがあった。
目を開けた。
風景はぼやけていたけれど、まだ彼女はそばにいてくれた。
「とにかく、服、着なさいよ、馬鹿!」
パルスィは尖った耳の先まで真っ赤になっていた。
上着を掛けられていた。
身長が圧倒的に違うせいで、全然丈が足りない。
それでも、はじめて、パルスィの方から何かをくれた。
今まではずっと、あげるばっかりだったのに。
「私以外のひとに、見て欲しくないの。妬ましくなるの。そんぐらい分かりなさいよ、馬鹿」
ぶつぶつと、口の中で何か言っている。
「わたしの、大切なこいびとなんだから」
そう言って、彼女ははじめてほっぺたにキスをしてくれた。
はじめて、唇に触れた瞬間だった。
わっふるわっふる
100をくれてやる
ワッフルワッフル
あまりにもお馬鹿な展開。しかも当時者が鬼なだけにその被害も甚大で。
どたばたギャグのエッセンスが詰まった砂糖菓子を頂いた気持ちです。
どうも、ご馳走様でした。
しかしすいかはいい迷惑だなww
ぱるぱる可愛いよぱるぱる。
最初っからトバシまくってますね、視○って貴女ww
しかし文章のまわしが秀逸だなあ。実に為になるなる。
恋する鬼の災害によって被害を受けた方々に合掌。
そしてこの二人はその後「離婚」して「友達」になるんですね。
勇パル甘えええええええええ!!!
我々はこれで後10年は戦える。
淡々とした萃香さんの指摘がさりげなく素敵。
これからも偶にはこっちに顔出して下さいね、面白かった
勇パルだ!勇パルが出たぞおおぉ!
なんで二人が好き同士になってるんだよ、勇パルはメジャーなカップリングだから当たり前とか?
甘えんな。
確かにエロスの欠片もないけど楽しめました。
おじさんニヤニヤしちゃったよ♪
100点じゃ足りないよ!
他作品のファンなので応援してます。
萃香の「~かね」口調が少し好きです。
書ききった勢いと止まらない流れ込みで100点あげたい。
でもちょっと感情移入しきれなかった。苦情はそこだけだ。
さぁ、その風呂屋の場所をくわしく教え(ry
おもしろかったです。
勇パルいいなあ。にやにや
実際にふたを開けてみれば、確かに少年漫画的ギャグでしたがエロ差は皆無という。
煩悩にまみれてましたね自分。反省します。
作品の内容ですが、勢いが非常に感じられる作品でした。姐さん純朴すぎるw
アクセル全開で突っ走っているのに、最後の最後でしっかり纏めているのが凄いと思いました。
想像した以上にひどい光景が展開されててワロタ。
初心な勇儀姉さんもイイネ!
恋って怖いねw
全裸部分以外は。だがそれがいい。