「あら、面白そうなものを見つけたわ」
紅魔館の地下にある大図書館で、パチュリーはとある本を見つけた。
古い魔道書のようだ。
「これは…相手の気持ちがわかる魔法…!?」
パチュリーはページをめくってみて驚いた。
なぜなら、彼女には気になって仕方がない人がいたからだ。
「この呪文を使えば…魔理沙が私のことをどう思っているかがわかるわ!」
早速彼女は小悪魔を呼んで一緒に魔法の実験に取り掛かった。
しばらくして。
「よし、あとちょっとね! 小悪魔、そこにある粉を取ってもらえるかしら?」
「はい。…これですね?」
「うん、それよ」
「よっと。ってうわあ!」
粉の入った容器を持ってパチュリーの元に向かおうとした小悪魔だったが、本につまづいて転んでしまった。
その瞬間、粉の入った容器が宙を舞う。
「きゃあっ!」
まばゆい閃光が図書館を包む。
「…ごほっごほっ!」
舞い上がった埃に咳き込むパチュリーの視線の先には、床に倒れ付した小悪魔がいた。
「こ、こーあーくーまー!」
「ひいっ! す、すいませーん!」
パチュリーは小悪魔を睨んだ。
小悪魔は主人であるパチュリーに叱られて涙目になっている。
「…それにしても、この魔法の失敗によってどんな効果がどんなところに現れるのかわからないわね」
「ど、どうしましょう…」
パチュリーは涙目でへたり込んでいる小悪魔のほうに目をやるが、またすぐに視線を戻してため息をついた。
「急いでどんなことが起こったのか調査しないとね」
ところ変わって白玉楼。
先ほどの事件の発生から少しだけ時は過ぎ、朝を迎えていた。
「ふわー…さて、幽々子様が起きる前に朝食を作りましょうか」
妖夢はそんなことを言いながら体を起こす。
「…あれ?」
自分の体が少しおかしいことに気づく。
「…こんなに背、高かったかな? しかもなんか胸の辺りに違和感があるような」
昨日より背が少し高くなっている。
そのうえ、胸の辺りは昨日とは比べ物にならないほどに成長している。
「と、とりあえず鏡…」
嫌な予感がする、と思いながら近くにあった手鏡を取って中を覗き込んだ。
「な、なんじゃこりゃああああああ!?」
妖夢は絶叫した。
「何で私が幽々子様に!?」
鏡の中には妖夢の顔ではなく、彼女の主人である幽々子の顔が映っている。
「と、とりあえず幽々子様のところに行こう!」
うん、と頷いて幽々子の部屋へと駆けていく妖夢。
いつもより体が重い。
「ゆ、幽々子様! 起きてください!」
部屋の中にいきなり入るようなことはせずに、ふすまをドンドンと叩く。
「うーん…何よ妖夢。朝食は出来たの?」
「そんなことより大変なんですよ!」
「何が大変なのかしら…あら? 私の体、こんなに小さかったかしらね?」
まさか。
またもや嫌な予感がした妖夢はバン!と勢いよくふすまを開けた。
「そ、そんな…」
妖夢の目の前には白い髪をした少女…
自分の体があった。
「あら? 何で私がいるのかしら?」
「ゆ、幽々子様と私が…い、入れ替わってる…!?」
妖夢はお茶を幽々子に差し出した。
「ありがと妖夢」
幽々子は早速お茶を飲んだ。
知らない人が見たら妖夢が下克上に成功して幽々子を従えた…と勘違いしそうである。
「ゆ、幽々子様…何で私たちこんなことになっているんでしょうか…」
「わからないわね」
戸惑う妖夢とは対照的に幽々子は落ち着いている。
いや、落ち着きすぎている。
「何でそんなに落ち着いていられるんですかぁ!」
「妖夢、こんな時に慌てるのはよくないわ。何事にも冷静に対処しなくちゃ」
「それはそうですけど…」
「それに…」
「それに…なんですか?」
「こういう状況は楽しまなくちゃね」
「どうやって楽しめばいいんですか…」
楽天的な幽々子にため息をつく妖夢。
「それにしても…」
幽々子はお茶を置いて自分の胸を触った。
「もっと食べないと成長しないわよ?」
「っ…! 余計なお世話ですっ!」
そんなやり取りをしていたときだった。
「すみませーん、妖夢さんいますかー?」
聞き覚えのある声が玄関から聞こえてきた。
「あ! 忘れてた! 今日は咲夜さんと鈴仙さんが遊びに来るんだった! ど、どうしよう…」
「落ち着きなさい妖夢。ちゃんと事情を話せばわかってくれるわ」
「は、はい。わかりました…」
幽々子の言葉で落ち着きを取り戻した妖夢は玄関へ急いだ。
「妖夢さんいますかねぇ?」
「いると思うけど…」
鈴仙と咲夜は妖夢に誘われて、白玉楼にやってきていた。
この三人はよく雑談などをする仲である。
雑談の内容は近況や主人に対しての愚痴だったりする。
少し待っていると中から足音が聞こえてきた。
ガラガラと、玄関が開いた。
「お待たせしました!」
「…え?」
二人は驚いた。
扉の向こうに現れたのは幽々子だったからだ。
幽々子の身の回りのことはいつも妖夢がやるはずであり、玄関先に出てくることは珍しい。
「え、えーっとおはようございます幽々子さん。妖夢さんはいますか?」
「あの、信じてもらえないかもしれないんですけど…私が妖夢です」
「は、はい?」
「ま、またまたご冗談を…」
鈴仙は素っ頓狂な声を出し、咲夜は引きつった笑みを浮かべた。
「だから、私が妖夢なんですって!」
「それはマジですか…?」
「ええ、マジです…」
そうため息をついた妖夢を二人は信じられないような顔でみていた。
「…とりあえず、私たちでよければ相談に乗りますのでどういうことが起きたか教えてもらえませんか?」
「ありがとうございます。さ、上がってください。」
鈴仙の言葉に対して感謝しながら、二人を中に上げる妖夢。
(咲夜さん、なんか幽々子さんに案内されているって思うと違和感を感じますね…)
(ええ、そうね…中身は妖夢なんだけど、外見が幽々子さんだからね…)
二人は妖夢の後ろでそんなことをひそひそと話していた。
「あら、いらっしゃい」
幽々子は二人に目をやって声をかけた。
「あ、お邪魔してます」
「いえいえ」
落ち着きのある幽々子の声を聞いた二人はこう思った。
(見た目や声こそ妖夢だけど、中身は完全に幽々子だ…!)
「それではお茶を持ってきます」
妖夢はそう言って台所へとお茶を入れに行く。
「なんか不思議な気分ねぇ、私が働いてる姿を見るのは」
微笑みながら妖夢を目で追う幽々子。
「幽々子さんは驚かないんですね。」
「ええ。年をとるとね、不測の事態に直面しても不思議と落ち着けるようになるのよ」
「そ、そんなもんなんですか…」
「ええ、そんなもんなの」
二人が幽々子とそんな会話をしていると妖夢がお茶を持って戻ってきた。
「お茶です」
お茶を出し終わった妖夢は幽々子の隣に座る。
「さて、何でこうなったのか教えてもらえますか?」
「それが…自分にもよくわからないんですよ。朝起きたらすでにこんなことに…」
「うーん…いきなり変わった…ねえ」
咲夜は不思議そうに首をかしげた。
「うちの師匠なら体を入れ替える薬とか普通に作っちゃいそうな気がしますけどね」
「う、確かに…」
咲夜と妖夢は彼女なら本当に作りそうだ…と思った。
「だけどそんな薬作ったとか聞かないし、まず違いますね」
永琳の薬説はあっけなく否定された。
「そういえば紅魔館の図書館においてあった本の中にぶつかった衝撃で体が入れ替わった…っていう本を見たことがあるんだけど、
そんなことはなかった?」
咲夜の言葉に妖夢は
「いえ、そんなことはないです。それに寝てる間にこうなったんですよ?」
「そ、そうよね…」
衝撃説も否定される。
「残る可能性は…魔法…ね」
咲夜は冷静に言った。
「というか最初からそれしか考えられなかった気もするんですが」
「とりあえず、犯人候補は三人ね」
咲夜は妖夢のつっこみを無視して続ける。
「まず最初にアリス」
「アリスさん、ですか」
「でもアリスさんは可能性低そうですね」
「妖夢の言うとおりね。彼女はそこまで魔法は使わないわ。せいぜい人形を動かす魔法くらいしか使わないでしょう」
というわけでアリスは除外された。
残るは…
「この二人ってどちらも怪しいんですけど」
「鈴仙さんに同意です…」
「私も同意。ということで二人から話を聞きましょう」
咲夜はそういうと席を立った。
「さあ、行くわよ」
「幽々子様、すみません。私もこの問題を解決するために行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい。怪我には気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
こうして三人は犯人探しへと出かけるのであった。
「まずは一人目ね」
三人は魔法の森にある魔理沙の家へとやってきた。
「聞き込みを開始するわよ」
咲夜の先導で二人は玄関へと進む。
軽くノックをすると中から声がした。
「おー、開いてるぜー」
声を聞いてから、がちゃりとドアを開けて中に入る。
「お、これまた珍しい奴が来たな。
妖夢じゃなくて幽々子がわざわざこんなところに来るとは思わなかったよ」
魔理沙は幽々子の姿をした妖夢だということがわかっていないようだ。
「あなた、最近魔法を使ったりしたかしら?」
「いきなりなんだよ? まあ、最近使ったような気もするな」
「あなたの使う魔法の中に人の体を入れ替える…とかいうのはある?」
今度は鈴仙がそう質問した。
「いや、そんなものはないが? おかしなことを聞くな」
とりあえず、ここは魔理沙に訳を話して協力してもらおう。
そう思い咲夜は魔理沙に事情を話した。
「ふむ、簡単には信じられんな。」
「魔理沙の力で何とかならないかしら?」
「おい咲夜、無茶言うなよ。さすがに無理だ。何とかしたけりゃ魔法をかけた本人に聞いてみな。
この幻想郷でこんな魔法を使えるのは…もうわかるよな?」
「ええ、十分と言ってもいいほどわかってるわ…」
三人は紅魔館へとやってきた。
目当ては地下にある大図書館だ。
「パチュリーさん! いませんか!?」
妖夢は大きな声で叫んだが、返事は返ってこない。
「おかしいな…」
「あ、咲夜さん! どうでした?」
鈴仙は咲夜に聞いた。
咲夜は妖精メイドにパチュリーがどこにいるか聞きに行っていたのだ。
「メイドに聞いたところによると、パチュリー様は小悪魔を連れて外に出て行ったらしいわ。」
「ということは、探さなきゃならないんですか?」
「ええ、そうね。とりあえず、外に出ましょう」
三人は外に出た。
「どこを探しましょうか?」
「…地道に聞き込んでいくしかなさそうですね」
「そうね。出来るだけ多くの人に聞いてみましょう!」
それから湖、森、里で聞き込みを行ったが、パチュリーを見たというものは誰もいなかった。
聞き込みをしているうちにいつの間にかあたりは暗くなっていた。
「しょうがない…今日はここまでね。とりあえず今日は解散しましょう。」
「そうですね…妖夢さん、気を落とさないでくださいね」
「はい…今日はありがとうございました」
ぺこりと妖夢は頭を下げる。
そして三人はそれぞれ自分の家へと帰っていった。
「はあ…パチュリーさんったら…一体どこにいるのかな…」
落ち込みながら白玉楼へと歩き出す。
「ただいま戻りました。」
白玉楼へたどり着いた頃にはもう空に星が光っていた。
「はあ…しばらくはこのままかも…」
そう一人呟きながら幽々子が待っているはずの居間へと向かった。
「あら、遅かったわね」
居間には幽々子と…
「ぱ、パチュリーさん!?」
パチュリー、そして小悪魔がいた。
「今日はすまなかったわね。小悪魔がミスをしなければこんなことにならなかったのに」
「うう、反省してます…」
小悪魔は涙目になりながら顔を伏せた。
「さて、私がここまで来たのは実験の失敗によってどんな影響が出たのか調べるためだったんだけど…
聞いてみるとあなたたちは体が入れ替わってしまったそうじゃない。」
「はい。気が付くとこんなことに…
それで…私たちは元に戻るんですか!?」
「ええ、もちろんよ」
ゆっくりと頷くパチュリー。
「さあ、早速始めるから二人とも外に出てもらえるかしら?」
4人は庭に出る。
パチュリーは二人を並べて立たせ、自分はその目の前に立った。
「始めるわよ、準備はいいかしら?」
「はい」
「いいわよ」
二人が準備できたことを確認するとパチュリーは呪文を唱えていく。
呪文を唱えていくと二人の体が光り始める。
完全に呪文を唱え終わった時、彼女たちの体は元に戻っていた。
「も、元に戻った…!」
「ふう、やっといつもの体に戻れたわね」
「さて、これで終わりね。私はこれで失礼するわ。行くわよ、小悪魔」
「は、はい!」
小悪魔とパチュリーはくるりと二人に背を向けて白玉楼を後にした。
「やっと元に戻れましたね」
「そうねぇ」
夕食が終わり、食後のお茶を飲みながら会話をする。
「それにしても…大変だったわね」
「ええ、体が違うといつもみたいに動けませんしね」
そうね、と答えながら幽々子はお茶をすする。
「そういえば妖夢がいない間にお風呂沸かしておいたわよ」
「え? 珍しいですね、幽々子様が家事をしてくれるなんて」
「たまには自分の働かないといけないかなって思ったのよ。
妖夢の体になったせいかしらね。いつもより体が軽かったから、久しぶりに頑張ったわ」
「…お手数をおかけしてすみません。それじゃあ先に入らせてもらいますね」
「ええ、行ってらっしゃい」
風呂場へ向かう妖夢を幽々子は微笑みながら送った。
入浴が終わり、妖夢は日課でもある体重測定をした。
「な、なんで!?」
妖夢の体重は前日と比べてかなり増えていた。
「まさか…!」
そう、妖夢がいないときに幽々子はいつものようにたくさんのものを食べていたのだ。
その時の幽々子の体は妖夢の体だったのでもちろん増えるのは妖夢の体重である。
「も、もう入れ替わりなんてしたくなーいっ!」
風呂場で妖夢は一人絶叫した…
そして元に戻った時に体重が増えていた妖夢に合掌。
誤字の報告です。
いくつか小悪魔が『子悪魔』なってますよ。
基本的に涙目が好きな自分・・w
涙目かわいいよ涙目。
>>5
誤字の指摘ありがとうございます^^
誠に申し訳ありませんでした!
文章表現や話の流れが肉付きに乏しいように感じました。
ネタそのものは面白いと思うので、もっと色々工夫すると見違えるような気がします。
あと、細かい話ですが鈴仙の口調に違和感が…
どうして敬語にしたんでしょう?
テンポが悪かったり、内容不足なところは今後見直していきたいです。
鈴仙の口調って敬語じゃありませんでしたっけ?
今から永夜抄をプレイして確認してきます^^;
もし口調の違和感で不快にさせてしまっていたら申し訳ありません!
申し訳ありませんでした!
内容不足な点は私の能力不足でした。
これからも精進して皆様に満足してもらえるような文章を書くことを心がけて行きたいです。
風が吹けば桶屋が儲かるぐらい飛躍した異変でしたが、なんだかほのぼのしちゃいました。
いつも内容が淡白になってしまう悪い癖を自分は持っているようです^^;
ほのぼのしたという評価、ありがとうございます!