「無い。無い! ここにも無い!」
長い髪を振り乱し一心不乱に辺りを掻き回す一人の女性。
彼女は永遠亭に住む八意永琳。
その名を知る者が今の光景を見れば、誰も彼もが唖然とするだろう。
それほどまでに、今の彼女は取り乱しているのだ。
「ああもう! どこに‥‥」
「師匠? 何してるんですか?」
「ああウドンゲ! ちょうどいいところに! 実はかくかくしかじかで‥‥」
永琳の話を要約すると、研究中だった薬が丸ごとごっそりと無くなっている。
その薬の効能は人妖の心を大きく変化させる、大変に危険な代物である。
万一誰かに悪用されれば、幻想郷の秩序は乱れに乱れる。
との事だった。
「な、なんだってそんな厄介な物作ってるんですか!」
「違うのよ! 研究中だって言ったでしょう? 最終的には効果を弱めて、人々の役に立つ物になる予定だったの」
「役に? というと?」
「その薬がもたらす変化というのは、人々が心の片隅に宿す人格を表面に出すというものなの。だから上手く調整すれば自分の気持ちを素直に表現できない人達の助けになるのよ。いわゆるツンデレの治療薬ってところかしら」
一部の嗜好を持つ人々には「余計な事をするな」と怒られそうな薬である。
「なるほど。まあ、話はわかりました」
「この薬の存在を知っているのは、私にあなた。それから姫様と‥‥」
「ま、まさか」
「‥‥てゐ」
「犯人がわかりました」
悪戯兎の名を欲しいままにする彼女が、こんな面白そうな効果の出る薬を放っておく筈が無かった。
「とにかく、あの薬はてゐが考えているより危険な物よ。早く捕まえて取り戻さないと‥‥ところで、あなたがさっきから飲んでいるのは何?」
「これですか? これはさっき‥‥さっき、てゐがくれたんですよ。他にもいっぱい持ってたみたいです。」
「‥‥まずい事になったわね。薬を取り戻すのは手遅れだったみたい」
「はい。そうみたいですね」
「あの子ったら、薬を混ぜた飲み物を配って歩いているのね」
「どうするんですか!」
「放置しても明日には効果が消えると思うけど、薬の危険性を皆に知らせないと。あなたの手も借りて、大混乱になる前にね」
「わかりました! それじゃあ‥‥ヒック!」
「どうしたの?」
「と思ったんですけど、やっぱり嫌ですよ。悪いのは師匠とてゐじゃないですか。どうして私が手伝わないといけないんですか」
「ウ、ウドンゲ?」
「やるなら一人でやるか、てゐに手伝わせてくださいよ。それに、面白いじゃないですか。誰かが慌てふためく姿なんて、想像するだけでゾクゾクしちゃ‥‥ヒック! あ、え!? 私ったらなんて事を!?」
「‥‥今のが薬の効果よ。どうやらあなたには、ひどく冷酷な一面があるようね」
「そ、そんなあ!」
両手で顔を押さえしゃがみ込む鈴仙。
どうやら、垣間見えた自分の内面が相当お気に召さなかったようだ。
「これでわかったでしょう? 下手をすれば、人間関係に修復できない傷が入るわ」
「そ、そうですね」
「私もあなたが少し怖くなったし」
「師匠!?」
「冗談よ。それじゃ支度しましょう」
「はい! ヒック‥‥だから、どうして私が付き合わないといけないんですか」
「‥‥‥‥」
「咲夜、お茶が飲みたいわ。妖怪兎が持ってきた飲み物も悪くなかったけど、やっぱり私は紅茶が好みね」
「はい。すぐに‥‥ヒック!」
「ん? どしたの?」
「あの‥‥面倒なんで今度にしてもらえませんか?」
「へ?」
「ヒック! あ、あれ? 私、今何を‥‥申し訳ありません! すぐに支度します!」
「え、ええ。よろしくね」
「ヒック! ‥‥やっぱめんどくさいです」
「さ、咲夜。あなた一体何が‥‥ヒック! 咲夜、どうしちゃったの!? 咲夜が変になっちゃったよう!」
てゐのターゲットとなったのは紅魔館の面々だった。
「ヒック! あ、あらやだ。私とした事が取り乱しちゃったわね」
「どうでもいいですよー。それより、お昼寝でもしましょうよー」
「‥‥これは明らかにおかしいわね」
「ヒック! そ、そうですね。この私が怠けたくなるだなんて‥‥」
「きっと原因は兎に渡されたジュースね。他にあれを飲んだのは?」
「はい。お嬢様とフランドール様、私に美鈴。それから図書館にも持って行きました」
「幹部全滅じゃないの。とにかく、美鈴を呼んできなさい。図書館で話し合いよ」
「かしこまりま‥‥ヒック! 疲れるから、後でいいじゃないですかあ」
「ああもう!」
焦れたレミリアは、咲夜に代わって美鈴を呼びに行く事になった。
「美鈴!」
「あら、お嬢様。どうしたんですか?」
「あなた、兎が持ってきたジュース飲んだわよね?」
「はい。美味しかったですねー」
「何か変わりは無い?」
「変わりですか? 特には‥‥ヒック!」
「きたわね」
「別に異常はありません。それより、気が散るので用が済んだならどこかに行ってください。誰かと一緒にいるの、嫌いなんですよ」
「うわ、腹立つ」
「ヒック! お、おや? 今のは‥‥」
「わかったでしょう? あのジュースを飲むとおかしくなるみたいなの。ヒック! とにかく大変なんだから! すぐに来てちょうだいよぉ!」
「なるほど、確かに大変ですね。ちょっと可愛いですけど」
「うるさいうるさい! いいから早く来てって言って‥‥ヒック! ‥‥ごほん、そういうわけだから、あなたもいらっしゃい」
「わかりました。‥‥ん? ちょっと待ってください。誰か来ました」
気配を捉えた美鈴が見た先には、竹林の薬師とその弟子が飛んでくる姿だった。
「というわけで、この度はてゐが本当にご迷惑を‥‥」
「いや、話を聞く限りあなたのせいでもあるわよね」
「うう‥‥」
事態の説明をするためにあちこちを飛び回った永琳と鈴仙は、ようやく被害者を見つける事ができた。
話を始めた途端、図書館まで引っ張り込まれたわけだが。
「まあいいわ。つまり、おかしくなるというよりも、隠された性格が出てくるわけね」
「ええ」
「あははは! いい気味!」
「あなたは黙ってて。お願いだから。それじゃ、私達はこれで‥‥」
どうやら時間が経つごとに隠れた性格が出てくる頻度が増すらしい。
紅魔館へ来る前も、行く先々で鈴仙がトラブルを引き起こしていた。
縛り上げて永遠亭に置いて来ようかとも思ったが、元に戻る度に泣きそうな顔をする鈴仙が可哀想に思えて、そうもできなかったのだ。
従って、用件が済んだ今さっさと退散してしまうに限る。
永琳は鈴仙を引っ張って逃げるように帰っていった。
「今のところ効果が出てるのは、私に咲夜に美鈴か‥‥咲夜は怠け者の一面があるみたいね」
「そ、そんな‥‥」
「美鈴は‥‥一匹狼気質があるのね。知らなかったわ。そしてカチンときたわ」
「あ、あれは違います! 何かの間違いですよ!」
「で、レミィは凄くお子様なところがあるのね。よかったじゃない。見た目にぴったりで」
「うっさい。あんたは効果出てないの?」
「私、飲んでないもの。あんな怪しげな物を疑いもせずに飲むだなんて、信じられない。ね? 小悪魔」
「‥‥‥‥」
「小悪魔?」
「あの‥‥パチュリー様に断られた後、グラスに移してお出ししたんですけど」
「ええ!? なんて事してるのよ!」
「だって勿体無いじゃないですか!」
「ほうほう。小悪魔に出された物は疑いもせずに飲むわけね。へえ」
「ち、違‥‥ヒック! ど、どうして‥‥どうしてそんな意地悪な事を言うの? パチュリー、とっても悲しい!」
「うっ‥‥」
「だけど、私は泣かないわ。小鳥さんやお花さんに励ましてもらうんだもの!」
「‥‥‥‥」
「でも、やっぱり少しだけ涙が出ちゃう。女の子だもん」
「‥‥‥‥」
パチュリーの隠された性格は夢見る乙女。
皆ドン引きであった。
「ヒック! ‥‥はっ! わ、私は一体何を‥‥忘れなさい! 今すぐに!」
「いや、あの‥‥うん」
「パチュリー様‥‥」
「なんていうか‥‥その‥‥」
「やめて! そんな哀れむような視線はやめて!」
大惨事である。
今まで築き上げてきた知的でクールなイメージが崩壊した。
「と、ところでフラン様は?」
「ああ、あの子ならもうすぐ来ると思うわ」
「フランドール様はどんな風になるんでしょうね」
「さあ。でも、あの子は元々情緒不安定気味だし、思っている事もすぐ表に出すし。裏表なんて無いんじゃないかしら」
「そうですね。ヒック! ところで、いつまでここにいればいいんです? いつまでも仲良しこよしでお喋りしてないで、早く仕事に戻りたいんですけど」
「美鈴! お嬢様になんて口を‥‥ヒック! ま、どうでもいいんだけどねー」
「ヒック! 美鈴も咲夜も、しっかりしてよ! あなた達がそんなんじゃ、不安で泣きたくなっちゃうじゃない!」
「ヒック! レミィ、泣かないで。お日様に笑われてしまうわ」
事態に収拾がつかなくなり始めた時だった。
「お待たせー。遅くなってごめんね。大事な話って何?」
「ヒック! フラン、あなたはなんともない?」
「え? どういう事?」
「いえ、なんともないならそれでいいのよ」
「んー? 変なお姉様。ヒック!?」
「!!」
きた!
不安が頭を過ぎる。
もしかしたら最近薄れていた狂気が表に出るかも知れない。
そうなった時、薬の効果でヘロヘロになっている今の自分達で止める事はできるだろうか。
ゴクリ、生唾を飲み込む音が妙に鮮明に聞こえる。
「‥‥‥‥」
フランドールは動かない。
緊張が走る。
「‥‥フラン?」
「‥‥‥‥」
「フラ‥‥っ!?」
もう一度声をかけようとした刹那、フランドールが勢いよく手を振り上げる。
そして‥‥
「一番、フランドール・スカーレット! 面白い事やります!」
「うわ! 最悪!」
フランの秘めていたもの。
それは隙あらばメイド達が仕込もうとする、残念成分だった。
「えー、まずはモノマネから。モチを喉に詰まらせたアヒル。グワッ、グワッグワッ‥‥グワワワワッ!」
「ヒック! フラン、やめて! やめてよう! お姉ちゃん恥ずかしいわよう!」
「ZZZ‥‥むにゃむにゃ‥‥」
「もういいですよね? 私、門に戻りますね。あとは勝手にやっててください」
「ああ、今日も小鳥さん達が楽しそうにお歌を歌っているわ‥‥」
紅魔館は今日も平和です。
長い髪を振り乱し一心不乱に辺りを掻き回す一人の女性。
彼女は永遠亭に住む八意永琳。
その名を知る者が今の光景を見れば、誰も彼もが唖然とするだろう。
それほどまでに、今の彼女は取り乱しているのだ。
「ああもう! どこに‥‥」
「師匠? 何してるんですか?」
「ああウドンゲ! ちょうどいいところに! 実はかくかくしかじかで‥‥」
永琳の話を要約すると、研究中だった薬が丸ごとごっそりと無くなっている。
その薬の効能は人妖の心を大きく変化させる、大変に危険な代物である。
万一誰かに悪用されれば、幻想郷の秩序は乱れに乱れる。
との事だった。
「な、なんだってそんな厄介な物作ってるんですか!」
「違うのよ! 研究中だって言ったでしょう? 最終的には効果を弱めて、人々の役に立つ物になる予定だったの」
「役に? というと?」
「その薬がもたらす変化というのは、人々が心の片隅に宿す人格を表面に出すというものなの。だから上手く調整すれば自分の気持ちを素直に表現できない人達の助けになるのよ。いわゆるツンデレの治療薬ってところかしら」
一部の嗜好を持つ人々には「余計な事をするな」と怒られそうな薬である。
「なるほど。まあ、話はわかりました」
「この薬の存在を知っているのは、私にあなた。それから姫様と‥‥」
「ま、まさか」
「‥‥てゐ」
「犯人がわかりました」
悪戯兎の名を欲しいままにする彼女が、こんな面白そうな効果の出る薬を放っておく筈が無かった。
「とにかく、あの薬はてゐが考えているより危険な物よ。早く捕まえて取り戻さないと‥‥ところで、あなたがさっきから飲んでいるのは何?」
「これですか? これはさっき‥‥さっき、てゐがくれたんですよ。他にもいっぱい持ってたみたいです。」
「‥‥まずい事になったわね。薬を取り戻すのは手遅れだったみたい」
「はい。そうみたいですね」
「あの子ったら、薬を混ぜた飲み物を配って歩いているのね」
「どうするんですか!」
「放置しても明日には効果が消えると思うけど、薬の危険性を皆に知らせないと。あなたの手も借りて、大混乱になる前にね」
「わかりました! それじゃあ‥‥ヒック!」
「どうしたの?」
「と思ったんですけど、やっぱり嫌ですよ。悪いのは師匠とてゐじゃないですか。どうして私が手伝わないといけないんですか」
「ウ、ウドンゲ?」
「やるなら一人でやるか、てゐに手伝わせてくださいよ。それに、面白いじゃないですか。誰かが慌てふためく姿なんて、想像するだけでゾクゾクしちゃ‥‥ヒック! あ、え!? 私ったらなんて事を!?」
「‥‥今のが薬の効果よ。どうやらあなたには、ひどく冷酷な一面があるようね」
「そ、そんなあ!」
両手で顔を押さえしゃがみ込む鈴仙。
どうやら、垣間見えた自分の内面が相当お気に召さなかったようだ。
「これでわかったでしょう? 下手をすれば、人間関係に修復できない傷が入るわ」
「そ、そうですね」
「私もあなたが少し怖くなったし」
「師匠!?」
「冗談よ。それじゃ支度しましょう」
「はい! ヒック‥‥だから、どうして私が付き合わないといけないんですか」
「‥‥‥‥」
「咲夜、お茶が飲みたいわ。妖怪兎が持ってきた飲み物も悪くなかったけど、やっぱり私は紅茶が好みね」
「はい。すぐに‥‥ヒック!」
「ん? どしたの?」
「あの‥‥面倒なんで今度にしてもらえませんか?」
「へ?」
「ヒック! あ、あれ? 私、今何を‥‥申し訳ありません! すぐに支度します!」
「え、ええ。よろしくね」
「ヒック! ‥‥やっぱめんどくさいです」
「さ、咲夜。あなた一体何が‥‥ヒック! 咲夜、どうしちゃったの!? 咲夜が変になっちゃったよう!」
てゐのターゲットとなったのは紅魔館の面々だった。
「ヒック! あ、あらやだ。私とした事が取り乱しちゃったわね」
「どうでもいいですよー。それより、お昼寝でもしましょうよー」
「‥‥これは明らかにおかしいわね」
「ヒック! そ、そうですね。この私が怠けたくなるだなんて‥‥」
「きっと原因は兎に渡されたジュースね。他にあれを飲んだのは?」
「はい。お嬢様とフランドール様、私に美鈴。それから図書館にも持って行きました」
「幹部全滅じゃないの。とにかく、美鈴を呼んできなさい。図書館で話し合いよ」
「かしこまりま‥‥ヒック! 疲れるから、後でいいじゃないですかあ」
「ああもう!」
焦れたレミリアは、咲夜に代わって美鈴を呼びに行く事になった。
「美鈴!」
「あら、お嬢様。どうしたんですか?」
「あなた、兎が持ってきたジュース飲んだわよね?」
「はい。美味しかったですねー」
「何か変わりは無い?」
「変わりですか? 特には‥‥ヒック!」
「きたわね」
「別に異常はありません。それより、気が散るので用が済んだならどこかに行ってください。誰かと一緒にいるの、嫌いなんですよ」
「うわ、腹立つ」
「ヒック! お、おや? 今のは‥‥」
「わかったでしょう? あのジュースを飲むとおかしくなるみたいなの。ヒック! とにかく大変なんだから! すぐに来てちょうだいよぉ!」
「なるほど、確かに大変ですね。ちょっと可愛いですけど」
「うるさいうるさい! いいから早く来てって言って‥‥ヒック! ‥‥ごほん、そういうわけだから、あなたもいらっしゃい」
「わかりました。‥‥ん? ちょっと待ってください。誰か来ました」
気配を捉えた美鈴が見た先には、竹林の薬師とその弟子が飛んでくる姿だった。
「というわけで、この度はてゐが本当にご迷惑を‥‥」
「いや、話を聞く限りあなたのせいでもあるわよね」
「うう‥‥」
事態の説明をするためにあちこちを飛び回った永琳と鈴仙は、ようやく被害者を見つける事ができた。
話を始めた途端、図書館まで引っ張り込まれたわけだが。
「まあいいわ。つまり、おかしくなるというよりも、隠された性格が出てくるわけね」
「ええ」
「あははは! いい気味!」
「あなたは黙ってて。お願いだから。それじゃ、私達はこれで‥‥」
どうやら時間が経つごとに隠れた性格が出てくる頻度が増すらしい。
紅魔館へ来る前も、行く先々で鈴仙がトラブルを引き起こしていた。
縛り上げて永遠亭に置いて来ようかとも思ったが、元に戻る度に泣きそうな顔をする鈴仙が可哀想に思えて、そうもできなかったのだ。
従って、用件が済んだ今さっさと退散してしまうに限る。
永琳は鈴仙を引っ張って逃げるように帰っていった。
「今のところ効果が出てるのは、私に咲夜に美鈴か‥‥咲夜は怠け者の一面があるみたいね」
「そ、そんな‥‥」
「美鈴は‥‥一匹狼気質があるのね。知らなかったわ。そしてカチンときたわ」
「あ、あれは違います! 何かの間違いですよ!」
「で、レミィは凄くお子様なところがあるのね。よかったじゃない。見た目にぴったりで」
「うっさい。あんたは効果出てないの?」
「私、飲んでないもの。あんな怪しげな物を疑いもせずに飲むだなんて、信じられない。ね? 小悪魔」
「‥‥‥‥」
「小悪魔?」
「あの‥‥パチュリー様に断られた後、グラスに移してお出ししたんですけど」
「ええ!? なんて事してるのよ!」
「だって勿体無いじゃないですか!」
「ほうほう。小悪魔に出された物は疑いもせずに飲むわけね。へえ」
「ち、違‥‥ヒック! ど、どうして‥‥どうしてそんな意地悪な事を言うの? パチュリー、とっても悲しい!」
「うっ‥‥」
「だけど、私は泣かないわ。小鳥さんやお花さんに励ましてもらうんだもの!」
「‥‥‥‥」
「でも、やっぱり少しだけ涙が出ちゃう。女の子だもん」
「‥‥‥‥」
パチュリーの隠された性格は夢見る乙女。
皆ドン引きであった。
「ヒック! ‥‥はっ! わ、私は一体何を‥‥忘れなさい! 今すぐに!」
「いや、あの‥‥うん」
「パチュリー様‥‥」
「なんていうか‥‥その‥‥」
「やめて! そんな哀れむような視線はやめて!」
大惨事である。
今まで築き上げてきた知的でクールなイメージが崩壊した。
「と、ところでフラン様は?」
「ああ、あの子ならもうすぐ来ると思うわ」
「フランドール様はどんな風になるんでしょうね」
「さあ。でも、あの子は元々情緒不安定気味だし、思っている事もすぐ表に出すし。裏表なんて無いんじゃないかしら」
「そうですね。ヒック! ところで、いつまでここにいればいいんです? いつまでも仲良しこよしでお喋りしてないで、早く仕事に戻りたいんですけど」
「美鈴! お嬢様になんて口を‥‥ヒック! ま、どうでもいいんだけどねー」
「ヒック! 美鈴も咲夜も、しっかりしてよ! あなた達がそんなんじゃ、不安で泣きたくなっちゃうじゃない!」
「ヒック! レミィ、泣かないで。お日様に笑われてしまうわ」
事態に収拾がつかなくなり始めた時だった。
「お待たせー。遅くなってごめんね。大事な話って何?」
「ヒック! フラン、あなたはなんともない?」
「え? どういう事?」
「いえ、なんともないならそれでいいのよ」
「んー? 変なお姉様。ヒック!?」
「!!」
きた!
不安が頭を過ぎる。
もしかしたら最近薄れていた狂気が表に出るかも知れない。
そうなった時、薬の効果でヘロヘロになっている今の自分達で止める事はできるだろうか。
ゴクリ、生唾を飲み込む音が妙に鮮明に聞こえる。
「‥‥‥‥」
フランドールは動かない。
緊張が走る。
「‥‥フラン?」
「‥‥‥‥」
「フラ‥‥っ!?」
もう一度声をかけようとした刹那、フランドールが勢いよく手を振り上げる。
そして‥‥
「一番、フランドール・スカーレット! 面白い事やります!」
「うわ! 最悪!」
フランの秘めていたもの。
それは隙あらばメイド達が仕込もうとする、残念成分だった。
「えー、まずはモノマネから。モチを喉に詰まらせたアヒル。グワッ、グワッグワッ‥‥グワワワワッ!」
「ヒック! フラン、やめて! やめてよう! お姉ちゃん恥ずかしいわよう!」
「ZZZ‥‥むにゃむにゃ‥‥」
「もういいですよね? 私、門に戻りますね。あとは勝手にやっててください」
「ああ、今日も小鳥さん達が楽しそうにお歌を歌っているわ‥‥」
紅魔館は今日も平和です。
咲夜さんの怠けっぷりがあの人を彷彿とさせる
どうしてこうなった(2回目)
これは、是非とも続きが見たい。
お嬢様かわいいよ
私は萌えると言うより、嬉しいので100点を入れるが、異存のあるものは以降、100点を入れたまえw
さて、ブリッツェンさん、あなたの名をかなりの短期間で、検索してしまいますw