Coolier - 新生・東方創想話

カガミ

2008/08/07 18:45:54
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 ※ちょこっとオリキャラが出てきます(話の大筋には関係しないのでご安心を)
 
 
 
 ~幻想郷~
 ここは紅魔館、の大図書館。
 紅魔館の主の友人であるパチュリー・ノーレッジが主を務め、その使い魔である小悪魔が管理を行う図書館。
 広い図書館に、そこを狭く感じさせるほど建ち並んだ本棚の数々は見た者を圧倒させる。
 揃った本は高名な著者が書いた魔術書から出所不明な安物、果ては鉛筆の芯に相手の名前を書いた紙を巻きつけ云々なるまじない書の類まで。
 そんな図書館の主であるパチュリーは・・・顔面蒼白になっていた。
「というわけでこれがネクラミノコン、こっちが六忘星大魔術で―――」
 目の前に積み上げられていく本は高位に当たる魔術書―――を騙った安物の類、ではあるがパチュリーにとって大事な蔵書であることに変わりはない。
 そんな本を無造作に、目の前の黒と白を基調とした服に身を包み魔女の帽子を被った少女―――霧雨魔理沙は机へと積み上げていく。
 その行為は本に優しくないのではあるが、それを注意する気持ちはパチュリーにはなかった―――否、そんな余裕はなかった。
「で、これが狂戦士の魂を封じた本でこっちが魔術六課全書で―――」
 その本は全て、霧雨魔理沙が“借りた”もの、正確にいえば死ぬまで借りると宣言したもの。
 それらの本が、目の前に積み上げられていく。
「よし、これで全部だぜ」
 うずたかく積み上げられた本の塔は奇跡的なバランスでもっていた。思わずそれを倒してしまいたい衝動に駆られるパチュリー。それほど彼女は狼狽していた。
「ま、魔理沙―――」
「ん? まさか足りなかったか?」
「い、いえ違うのよ・・・」
 目の前の友人は何か間違った茸でも食べてしまったのだろうか、それともとうとう狂気に当てられたのだろうか、などと友人に対してのものとは到底思えない感想をパチュリーは抱いた。
「ど、どうして急に返そうと思ったの?」
「んー、やっぱり借り過ぎてたかな、と思ってな」
 帽子をゆらゆら揺らしながら、魔理沙は目の前のブック・タワーのバランスをいじくっていく。
 危険を伴うその作業を止める思考がパチュリーに浮かばなかった。
「―――今日は茸のシチューでも食べたの?」
「いんや、朝は和食だぜ」
 いつもの表情でいつも通りの口調で、目の前の魔理沙はやはり魔理沙だった。
 ただ今行っているその行動―――本の返却というその行動だけが、明らかに魔理沙らしくない。
 ついさっき現れた小悪魔も、口をあんぐりと開けたまま返却されていく本の目録を確認している。
「・・・とりあえず、ありがとう」
 自らの本を返してもらうだけなのだから感謝を伝えるのはおかしなことだが、それでもそうさせるだけの違和感。
 と、小悪魔が目を見開く。
「ぱ、パチュリー様」
「どうしたの?」
「本が・・・多いです」
 ああ、とパチュリーは思った。やはり魔理沙はおかしくなったのだと、本人は否
定するだろうが。
 慌てて拘束の魔法と治癒の魔法を展開しようとしたパチュリーに対して、魔理沙は口を開いた。
「ああそれ・・・延滞料金代わりのお礼だと思ってくれ」
 
 お礼・・・お礼・・・お礼・・・
 ぐるぐるとパチュリーの頭の中に単語が飛び交い―――
「むきゅー」
「ぱ、パチュリー様ぁっぁぁぁ!?」
 あっさりとその意識を手放した。
 
 
 
 
 
「つまり、私を殺しに来たと?」
 レミリア・スカーレットの言葉に、跪いた男は震え上がる。
 ここは大広間・・・今、そこに居るのはレミリアと跪く男、そして咲夜に美鈴。
 だが、正確にいえば違う―――男は、“跪かせられている”のだ。
 上から下まで真っ黒なローブに身を包んだ男は、美鈴によって腕をねじ上げられている。ほんの少しでも抵抗を示せば即座に折られるだろう。
 むしろ、折られるだけで済めば良い方かもしれない。
「お嬢様ぁ、いったい今度は誰に恨みを買ったんですか?」
「心当たりが多すぎるようですね、お嬢様」
 こんな状況でも呑気な美鈴と、冷ややかな視線を男に送る咲夜。
 この空間における異物である男は、さらに震え上がった。
 咲夜の視線が怖いわけではない、能天気な様子ながら自らの腕を骨が悲鳴を上げるまでねじ上げる美鈴に恐怖しているのだ。
 余談ながら、紅魔館を襲撃したこの男、格闘戦に持ち込んだ美鈴に敗北し、現在に至っていたりする。
「見覚えのある衣装ではないけど・・・まるでGね」
 さらっと失礼なことを言ってのけた吸血鬼に、だが男は反論できない。
 その口を開いてしまえば、悲鳴が漏れ出てしまうから。
「Gって・・・あの蛍ですか?」
「二次に毒されすぎよ、注意しなさい美鈴」
 コントのように続く会話に、男は思う。
 殺すならいっそ殺してくれ、と。
「まぁ、どんな恨みを買ったか知らないけど・・・恨みに返すのはもちろん―――」
 レミリアが右手を挙げる。それを見て、やっと男は安堵した。
 ああ、これで解放される、と。
「―――これよね」
 挙げられた右手が・・・振り下ろされた。
 
 
「It’s a show time!」
 ゴスロリチックな服装に身を包んだ紅い髪の少女―――小悪魔が姿を表す。
 男は思わず息を呑んだ、その可愛さ―――否、その状況の異常さに。
「はいはいみなさん、料理をお願いします」
 何時の間にか男は解放されていた。
 美鈴は手を叩いて誰かを呼んでいる。
 と、廊下の向こうから妖精メイド達が現われた。彼女達が持っているのは―――
 料理の載せられたトレイ。
「・・・は?」
 思わず、男は声を出した。
 ああ、これは夢だろうか。今、まさに殺されようとしている意識が見せた幻なのだろうか。
 そんな逃避を始めた男を、レミリアの声が現実へと引き戻す。
「恨みに返すのは―――優しさよ!」
 高々と人差し指を天へと突き出して、レミリアはそう叫んだ。
 
 
「というわけでせっかくのパーティなのに、パチェは来ないの?」
「ああ・・・パチュリー様はパニックに陥られまして、今、魔理沙さんが看病をして
おられます―――って、お嬢様が急にパーティをするなんて言い出すから私はこっ
ちに来たんですよ!」
「いいじゃないたまには」
「・・・でも、あのGみたいな人間と一緒にパーティって、どのような気まぐれで?」
「・・・・・・ただの気まぐれよ」
 
 
 
 
 
 
「・・・どういう風の吹き回しかしら、霊夢」
「こういう風よ」
 博麗神社は、賑わいに満ちていた。
 氷精や夜雀、蛍に闇の妖怪など、それこそ色とりどりの面々が揃っている。
 彼女達は、勝手気ままに境内で遊んでいた。
「だからって、いいの?」
 紫が指差す先には、舞い上がる砂ぼこりや倒される石灯籠。
 それを見て、霊夢は立ち上がった。
「あんたたち~、終わったら片づけなさいよ~」
「は~い」
 分かっているのかいないのか、遊びに夢中な少女達。
 それでも満足したのか、霊夢は再び縁側に座った。置いてある湯呑みを引き寄せて、中身を確認する。
 すっかり冷めてしまっていたが、霊夢はそれを美味しそうに飲んだ。
「いいの? 騒がしい上に掃除が大変そうだけど」
 紫の言葉は正しく、下手をすればいつもの境内掃除より手間がかかることになりそうだった。
 だが、霊夢はゆっくりとお茶を飲んでいる。
「大丈夫よ、終わったら片付けさせるから」
「大丈夫かしら・・・」
 いつもは胡散臭さを漂わせる紫だが、今回ばかりは心配そうにしていた。
 だが、それは別に境内を心配していたわけではない。
「霊夢・・・風邪でも引いた?」
「引いてないわよ」
 否定する霊夢。
 それでも心配なのか、紫は自らの右手を霊夢の額に当てた。
「くすぐったいわよ」
「熱は無いわね・・・口、開けて」
「あーん」
 大きく口が開く。喉を確認するが、特に赤くも腫れてもいない。
「おかしいわね・・・いっそ竹藪の医者にでも―――」
「私は大丈夫よ、今日も朝ごはんはしっかりと食べてるし」
 体は大丈夫だと言いたいのだろう。
 思わず「いや頭が心配なのよ」と言いかけて紫は口をつぐんだ。
 針は痛い。
「じゃあ・・・・・・・・・なんで今日は彼女たちを遊ばせてあげているの?」
 たっぷり数秒は悩んで紫はそう口にした。
 何せ、このような事態は今までなかった。
 それこそ、“異変”と言っていいくらいである。
 紫の(ある意味失礼な)問いかけに、これまた数秒悩んで霊夢は答えた。
「だって、たまには優しくしてもいいじゃない」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「紫様、これが今回のまとめです」
「ありがとう、藍・・・多いわね」
 渡された紙の束は相当な厚さになっていたが、紫はそれを一枚ずつめくっていった。
 大図書館では魔理沙が本を返し、
 紅魔館では襲撃者をもてなし、
 そして博麗神社では優しくなった巫女。
「それだけならまだ良かったんだけど・・・」
 永遠亭、白玉楼、人里、妖怪の山、果ては三途の川。
 これらに共通していることは一つ、
 住人が妙に優しくなったということ。
 
 証言1
 「今日、私はとんでもない失敗をしたんです。
  思わず頭を抱えたら後ろからし・・・じゃなくてその・・・とりあえずその人が来たんです。
  これはお仕置きフラグ!? と思ったら、「あら、大丈夫?」って声をかけられたんす。
  偽物かと思いました」
 
 証言2
 「今日も私はさぼ・・・戦略的休息をとっていたんだ。
  そしたら、背後から肩を叩かれたのさ。
  もちろんすぐに振り返りながらの三点土下座、なれたもんだよ。
  そしたら・・・「具合でも悪いのですか?」だって!
  よっぽど真面目に働こうかと思ったよ―――働かなかったけどね!」
 
「とまぁ、こんな感じだそうです」
「ここまで来るともはや異変ね」
 ある意味酷い感想をもらしているが真実である。
 別に博麗の巫女だって、吸血鬼だって冷血ではない。
 だが、彼女達は自らのテリトリーを不用意に侵した者に容赦をしない。
「でもまぁ、いいんじゃないですか。全員が怒りっぽくなるよりは」
 少々呑気ではあるが、藍の言ったことも正しい。
 それでも、紫は気になっていた。
「ちょっと“外”へ出かけてくるわ」
「かしこまりました」
 
 
 
 この場合の“外”とは、
「結構久し振りね」
 すなわち“幻想郷の外”である。
 言葉通り、ここ最近は滅多に“外”には出ていない紫。
 その顔に、哀れみの表情が浮かんでいた。
「・・・まさかここまでなんて」
 
 街は、荒廃していた。
 瓦礫の山が道路に溢れ、家々は崩れかけている。
 どこか遠くからは、銃声や爆音が響いていた。
 
「いつかこうなるとは思っていたけど」
 
 人類の憎しみは募りに募り、
 世界に三度目の大戦をもたらした。
 諸国が争い、大国が破滅し、
 そして―――世界から“優しさ”が消えた。
 
「それが異変の原因、ね」
 幻想郷に入れるモノは、忘れられたモノ。
 今、外の世界に“優しさ”は存在しない。
 どこからか、悲鳴が聴こえた。
「・・・居てもしょうがない、か」
 隙間が展開される。
 その中にまでは、銃声も爆音も悲鳴も届かない。
 隙間の中に入った紫は、振り返った。
「願うわ、何時か―――」
 
「この異変が解決することを」
 
 
 
 
・・・・・・何が書きたかったんでしょうね。
 
犯行動機としては、「最近嫌な事件多いな→優しさなんて幻想か」
といった安易過ぎるもの。
いっそラストの現実社会を某救世主伝説世界にした方が良かったかもしれない。
でもそういう書き方は苦手。
 
 
次回作は、「博麗の魂」的SSを予定しております。
 
 
追記
評価とコメントありがとうございます。
今を否定する気はありませんが、私は確実に昔と違っていると思いますよ。
隣人とのつながりが薄れ、殺意も明確でないような殺人が起き・・・・・・
これ以上はここで書くべき内容ではないですね。
 
ユキトさん
それでも、やさしさを失わない人間は居ると思います。
こんなSSが現実になるなんて、有り得ないと願いたいです。
 
名前が無い程度の能力さん
・・・作者を忘れましたが、現世とあの世が逆転するSSがあったような。
そんな笑い話になれば良いのですが。
 
名前が無い程度の能力さん
もともと安易な発想から生まれたネタですし・・・・・・
良い締め方にはいつも悩んでます。
 
名前が無い程度の能力さん
私ももっと練り上げられると思いますが、
私の力ではこれが精一杯だったようで。
 
名前が無い程度の能力さん
でも実は、微妙にカガミとは違うんですよね・・・・・・
 
からなくらなさん
やっぱりあっさりとしてますよね。
こってりトンコツが大好物なんですが、SSはそうもいかず。
 
名前が無い程度の能力さん
最近~や若者~で区別する気はありませんが、
昔と比べて悪化しているのは事実だと個人的には思います。
もちろん戦時中などと比べるなら別問題ですが。
 
名前が無い程度の能力さん
人間はそこら辺、図太くて傲慢だから大丈夫でしょう。
第三次で世界が滅びなければ、の話ですが。
 
名前が無い程度の能力さん
今の世界、というより日本はむしろ、悲惨さだけを語りすぎて、
それが起こった時の議論すら封じ込めるような人間が多いような。
・・・・・・悲惨さを語り継ぐことも、戦争を議論することも、両方行われてほしいです。
 
須達龍也さん
ブラックジョークであることを願います。現実になるわけないと思いますが。
・・・・・・私はやはり、悪化していると思いますよ。
メディアに流されてるだけかもしれませんが。
 
名前が無い程度の能力さん
憎しみが消えることはないでしょう。
たとえば、他者を妬むのは負の感情ですが、それは向上心にもつながります。
・・・・・・もしかして人の感情って幻想入りしないんじゃorz
RYO
[email protected]
http://book.geocities.jp/kanadesimono/ryoseisakuzyo-iriguti.html
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コメント



0.770簡易評価
2.70ユキト削除
ぐはっ・・・重すぎます。
いつかはこうなってしまうのでしょうけど、あんまり突きつけられたくない現実ですね。
3.70名前が無い程度の能力削除
そのうち大量の人間がやってこないことを切に願います
外の世界で全ての人間が幻想となったとき、幻想郷はどうなるんでしょうね
4.60名前が無い程度の能力削除
うぅーむ、有り得そうで怖い。戦争まで行かなくても最近の世間は荒んでるし。

個人的には締めがあっさり過ぎたように感じました。前半の描写がちゃんとしている分、駆け足に感じてしまいました。発想は素直におもしろかったですよ。
7.70名前が無い程度の能力削除
もっと練り上げられるテーマですよね。もっと面白くできそうです。
芯になっている題材はいいとこついたなと思いました。
8.70名前が無い程度の能力削除
戦争が幻想となったら、幻想郷も滅ぶのでしょうね。
カガミなのですから……
平和には忘れないことが肝心だと思うのです。
9.70からなくらな削除
ふむふむ、おもしろうぃ
上の人も言っている通り、題材がよろしいかと
ちょいと最後のほうが淡々としすぎていたような気もします
次回作も期待
10.無評価名前が無い程度の能力削除
最近は~とよく言われますが、最近の前の前は今よりよっぽど荒れてたですけどね
しかも、最近~とか若者は~とか言ってる多くの大人はここにあたるという恐怖
というか、事件そのものは前からそんなに変化してなくて、どちらかといえば取り上げ方が変わった
18.70名前が無い程度の能力削除
第三次世界大戦が終わった後は、また優しさが生まれて欲しいな。その辺のことは大丈夫だろうと信じてる。
20.70名前が無い程度の能力削除
戦争は無くなって欲しいけど、戦争の悲惨さを忘れてしまうと再び戦争が起こる
今の世界は、あるいは戦争の悲惨を感じとる心が幻想入りした世界なのかもしれない
優しいは幻想郷にも外の世界にも、等しくあって欲しい
24.70須達龍也削除
ギャグかと思いきや、意表をついてシリアス…いや、ブラックジョークの類になるのでしょうか。
最近は~というフレーズはいい加減ニュースで聞き飽きました。結構前からですよと。
作品の感想でなくなってきそうなので、ここまでで。
26.70名前が無い程度の能力削除
ということは逆に憎しみとかが幻想になったら
それはそれで大変だよぁ