秋穣子は深く溜息を吐いた。
空をどんよりと重く灰色の雲が覆っている。それはまるで、自分の心のようだと彼女は思った。あの、どこまでも澄み切って高い秋の空が恋しくて仕方ない。
神奈子から聞いたアドバイスで、人里に来て焼き芋の移動販売を始めてみた。これで冬の間も信仰を集められるかも知れないと。
だが……お客さんはまるで来てくれそうになかった。
人がいないというわけではない。むしろ、この広場は人通りが激しく、他に出ている出店ではお客がついている。
「お客さん……来ないね。穣子」
ぽつりと、残念そうに静葉が呟いてくる。
「そう思うのなら、もっと大きな声を出してよ、お姉ちゃん」
「ごっ、ごめんなさい穣子。私も、頑張っているんだけど」
姉がびくりと震えて、呼び込みを再開する。けれど、どうしても照れが捨てきれないのか、いまいち声が大きくない。あと、覇気もなければ迫力もない。
「うううぅ、穣子が恐いよぅ」
静葉が怯えたように独り言を漏らしてくる。こちらに聞こえるように言ってくるとは、随分と非難がましいことだと思う。それが更に穣子の神経を逆撫でた。聞こえないふりをするが。
泣きたいのはこっちの方だ。
丹誠込めて育てた最高のサツマイモ。甘み、形、食感。どれをとってもこれほどの出来のものは幻想郷のどこを探しても無いだろうと穣子は自負している。
そんなサツマイモをじっくりと焼き上げた、至高にして究極の石焼き芋。
それを……自分の愛情が詰まった石焼き芋を食べて貰えない嘆きと悲しみ。それは所詮、紅葉の神である姉には、豊穣の神である自分の気持ちは分からないのかも知れない。
「お姉ちゃん。……ど~してそんなにもやる気がないの? 本気で売る気あるの?」
「あるっ! あるわよ?」
「じゃあ、あの子達みたいにやってよっ!」
そう言って穣子は別の角の出店を指差した。
夜雀と山彦の妖怪がやっている八目鰻の串焼き屋。そこはずっと行列が並んで繁盛していた。活気のある山彦の声にお客さんが吸い寄せられているとしか思えない。
そっちは静葉も気にはなっていたのか、しばらく見詰めていたが……。
「うぅ……ごめん。流石にあそこまで大きな声は、無理よ」
しょんぼりと肩を縮めて静葉が謝ってくる。そんな姉を見て、穣子は小さく舌打ちした。
「妬ましい……妬ましいわ。あの子達さえいなければ……」
「穣子、そんな橋姫みたいなこと言っちゃダメよ」
「くっくっくっ、あの八目鰻を泥鱒とすり替えてやろうかしら」
「それ、あの子達もうやっているみたいよ?」
「……何でそんなんで繁盛しちゃうのよ? 妬ましいわね」
ぎりぎりと穣子は親指の爪を噛んだ。
全く以て、真面目にやる者が損をする世の中だと思う。
「ねぇ、穣子?」
「…………何よ?」
静葉が小さく身を震わせながら、こちらに振り向いてくる。媚びるように、上目遣いになる。あざとい。長年の付き合いの経験上、本人は無自覚らしいのだが。自然にこんな態度が取れる女は男受けもいいのだろう。妬ましい。
“お芋……食べちゃダメ?”
その一言に、穣子の体が固まる。
怒りに身が震え、そのこめかみには大きく青筋が浮き出た。
「お~ねぇ~ちゃ~ん?」
自然と、自分の目が吊り上がっていることを穣子は自覚する。溢れる怒気を抑えることが出来ない。
「商売物に手を付けようなんて、何を考えているのよっ? そんなの、ダメに決まっているでしょっ!?」
怒鳴りつけると、静葉が小さく悲鳴を上げた。
「で、でもでも……でもね?」
「何よ?」
身を縮めながらも、静葉は視線だけは真っ直ぐに見返してきた。
「朝からずっと、美味しそうな匂いがしているのよ?」
「当たり前じゃない」
「私、穣子の作ったお芋……大好きなのよ?」
「知っているわよ」
「寒い中にアツアツの石焼き芋って最高じゃない?」
「私だってそう思うわよ」
「お腹空いた……」
「……そうね」
きっ、と静葉がその目に力を込める。
「もう、我慢出来ないのっ!」
「我慢しなさいっ!」
再び怒鳴る。しかし、静葉に引く様子は無い。その目は「芋食いたい」と雄弁に語っていた。
「穣子……どうしてもダメだというのね?」
「そうよ」
「ならっ! 勝負よっ!」
涎を垂らしながら、静葉がスペルカードを取り出してきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
穣子は目を細め、目の前……10尺(約18 m)ほど離れて空を飛ぶ静葉を見る。
屋台は近くにいた、いがぐり頭の青年に頼んで見張って貰った。やたらとにこにこしているだけで、いまいちこちらの意志が伝わっていたかどうかは不安だが、まあ悪さはしないだろう。店番としてはあてにもならないのかもだが。
何にしても、さっさとこの脳天気な姉をしばき倒さなければならない。
「先手必勝っ! さあっ! 喰らいなさい穣子っ!」
先にスペルカードを使用したのは静葉の方だった。出方を伺っていたのだが、僅かに穣子は遅れる。
だが、まあいいと穣子は思った。短期決戦。時間もないので、宣言したのは互いに一枚のみ。先にスペルカードを使わせて、こちらが避けてしまえば……あとはこちらのものだ。
“葉符「狂いの落葉――”
静葉の周囲を無数の……紅の弾幕が囲む。そして、それらは降り注ぐ落葉の如く緩やかなカーブを描いて穣子へと迫ってきた。
静葉の使用したスペルカードに、穣子はほくそ笑む。
このスペルカードの対処法は分かっている。なるべく前に出て、変化の少ないうちにこちらの弾幕を浴びせてしまえばいいのだ。
なので、穣子は攻略法に則って真っ直ぐに静葉の元へと飛翔して近付いていく。
だが、そこで静葉がにやりと笑みを浮かべるのを穣子は見た。
「んなっ!?」
“――葬の型”
突如として高速の大玉弾が真っ正面から撃ち出されてきた。
あまりにも突然のことで、避けようがない。思わず硬直した瞬間、まともに穣子は大玉に被弾してしまう。
「ちょ、ちょっとっ!?」
穣子は非難の声を上げようとするのだが。
「きゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」
次の瞬間、大量の赤い小粒弾が穣子を覆い尽くしてきた。目の前の視界が真っ赤に染まる。
悲鳴を上げながら、穣子は地上へと落下していった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
全身ボロボロになりながら、穣子は静葉を睨んだ。家に帰ってこの服を繕うのに、どれだけ時間が必要になるんだろうか。
そんな彼女の目の前で、静葉が実に幸せそうな笑顔を浮かべ、芋を頬張っている。
「お姉ちゃん。流石にあれは狡くない? 何なのよ『狂いの落葉・葬の型』って、聞いたこと無いわよ?」
ネーミングセンスもひどいし……とは、心の中だけでとどめておく。
「言ってないもの。取っておきの時しか使わないし。もっとも、通常版に慣れたところでその裏を掻くっていう、一度しか使えない初見殺しだけど」
それってeasyのアイシクルフォールに慣れて正面安置だと思ったらnormalのアイシクルフォールで痛い目に遭うという……氷精並の作戦ではないか。でも引っかかってしまった以上、口に出しては言えないが。
「お姉ちゃんにとって、芋を食べるのがそんなにも取っておきなの?」
じっとりとした視線を送る。
静葉は「えへへ」と笑いながら頷いた。我が姉ながら、それでいいのかと穣子は少し呆れた。
しかし、どうにも……本気で怒る気にはなれなくなってしまう。
負けたことも勿論ある。だが、姉は本当に美味しそうに芋を食べているのだ。お客さんでないのは残念だが、やっぱり美味しく食べて貰える姿を見ると、嬉しく思ってしまう。
「あなたも、お店を見てくれて、ありがとう。はい、あなたもどうぞ」
「あっ!? ちょっと!?」
穣子が止めるのも間に合わず、静葉は手にした物とは別の焼き芋を掴み、いがぐり頭の青年へと渡した。
青年が笑顔でそれを受け取る。
「まぁまぁ、いいじゃないの」
「ん……もぅ」
今さら返せと言うわけにもいかず、穣子は小さく唇を尖らせた。
青年もまた、芋を頬張る。そんな彼の笑顔がより一層、明るいものになった気がした。
「ほら、穣子も食べたらどう?」
「え?」
静葉が穣子にも芋を差し出してくる。
甘い匂いが穣子の鼻とお腹を刺激する。そういえば、今日は朝からろくに食べていなかった。
しかし……それを素直に受け取ることは出来ない。思わず手を伸ばそうとして、穣子は躊躇した。反対していた自分に、これを食べる資格があるのだろうか?
「ほらほら、何を気にしているのよ? みんなで食べた方が美味しいじゃない?」
「う……うん」
だが、目の前には明るい静葉の笑顔。その表情には、何の裏も無い。
そんな笑顔だから妙に断りづらくて、穣子は押し切られるように芋を手渡されてしまった。
ささやかに罪悪感を覚えながら、ゆっくりと穣子は芋を口にする。
その途端、口いっぱいに芋の甘みが広がった。
「……美味しい」
思わず、ぽつりと呟く。当然のことなのに、分かっていたのに、穣子にはそれがやけに新鮮に思えた。
凍えていた体と心が、ほんわりと温められていくような、そんな感覚を彼女は覚える。
「美味しいよね。穣子」
「…………うん」
訪ねてくる静葉に、穣子は微笑みながら頷いた。
何だか……いつの間にか、あんなにも怒っていたのがどうでもよくなってきた。売れないのは悲しいけれど、せめてこのお芋を食べるときくらいは、幸せな気分でいたい。そう、穣子は思う。
“ごめん下さい。二本頂けるかしら?”
「ふぁいっ!?」
不意に声を掛けられ、穣子は慌てて顔を上げた。横目で見ると、静葉も同様だった。
声の主に目を向けると、そこには透き通るほどに白い肌を持つ赤い瞳の少女と、銀髪を三つ編みしたメイド姿の少女がそこにいた。従者に傘を持たせるあたり、どこぞのお嬢様だろうか?
「お食事中? に悪いわね。でも、あなた達も悪いのよ? そんなにも美味しそうに食べているんだもの。気になるじゃない」
メイドがくすりと笑みを浮かべて言ってくる。穣子は顔を赤らめた。
「は、はいっ! 申し訳ありません。気付かなくて。今用意しますっ!」
慌てて穣子は焼き芋を取りに向かおうとした。だが、既に静葉の方が一歩早く動いていて、てきぱきと芋を新聞紙で包んでお嬢様とメイドに渡した。
メイドが財布を取り出し、代金を手渡してくる。それが妙に嬉しかった。
では早速と、お客二人が芋にかぶりつく。
二人とも無言だった。
だが二人は、はふっはふっと、一心不乱に芋をかじり続ける。どうやら気に入って貰えたようだ。
しかし、カリスマすら漂うお嬢様と、美人のメイドがこんなところで芋を貪り食う光景というのも、なかなか凄いものだなあと穣子は思う。
「はふっ。まったく……こんな、芋を焼いただけなどという原始的なもののくせに……んっ、なかなか美味いじゃないか咲夜」
「ときとして、シンプルな調理こそが、その素材を最高に引き出す方法になる。そういうことですよ。お嬢様」
「……ちなみに聞いておくが、おやつを手抜きしようとかは考えていないよな?」
「いえいえ、そんな滅相もない」
にこやかに笑みを浮かべてメイドがお嬢様に答える。しかし、こう……あまりにもにこやかなので、かえって彼女の真意は分からない。穣子はそんな気がした。
「ならいい。それと咲夜、あと二本買って帰るわよ」
「お土産ですか?」
「ああ、フランとパチェの分だ」
お嬢様が頷く。
「畏まりました。……すみません、あと三本用意して貰えるかしら?」
三本?
どういうことかと、穣子は首を傾げた。それはお嬢様も同様のようだった。
「美鈴の分ですが、いけなかったでしょうか?」
ああなるほど、とお嬢様が得心のいった表情を浮かべる。そして、少しだけ思案したようだった。
「門番にか……。ふむ……まあいいか。財布は咲夜に預けているしな。構わないわ」
「ありがとうございます。お嬢様」
「妖精メイド達には見付からないようにしなさいよ? 流石に、奴ら全員の分を買って帰るのは無理だろうからな」
「分かっております。お嬢様」
どうやら、三本でいいみたいだ。
再びメイドが財布を取り出し、料金を支払う。
静葉が芋を三つ新聞紙で包んで、メイドに渡した。
そして、彼女らは踵を返し、穣子達から遠ざかっていった。
それを見送って、穣子は体を震わせる。
「……う」
「う?」
「売れたっ! 売れたね。お姉ちゃんっ!」
芋を片手に、大きく両腕を上げて穣子は歓声を上げた。たったの五本かも知れない。だが、それでもあのお客達は満足してくれたようだ。その反応を見られただけでも、心が満たされる。
「そうね、よかったわね。穣子」
「うんっ! ……うんっ!」
喩えようもない達成感。穣子は感激する。芋が売れることがこんなにも嬉しいことだとは、思いもしなかった。
視界が涙で少しぼやけてしまう。
“あの~、すみません。俺にも一本下さい、穣子様”
「えっ!?」
穣子が振り返ると、そこには精悍な顔と屈強な体を持つ若い青年が立っていた。
「あら? あなた……確か……東の集落に住んでる……」
「ああ、覚えててくれたんですか? 有り難うございます。米と大豆を作っている力丸です。夏は本当にお世話になりました」
後頭部に右手を当て、青年が穣子に頭を下げてくる。
「あ、あー。やっぱり、力丸君じゃない。どう? あれから畑の様子はどうだったのかしら?」
「ええ、お陰様で今年も無事に収穫を迎えることが出来ました。これもすべて穣子様のおかげです。本当に有り難うございました」
「そうなんだ。よかったー。私、あれからあまり様子を見に行けなくて……気にはなっていたんだけど、ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらず。穣子様の教えのおかげで、本当に助かりました」
笑顔を浮かべてくる青年に、穣子も笑顔を返した。
「あのー、お芋の用意出来ましたよ?」
「あ、どうも有り難うございます静葉様。ええと、おいくらですか?」
穣子は芋の金額を伝えた。青年はそれを聞いて財布からお金を取り出し、穣子の手に渡した。
「毎度、有り難うございました~☆」
「いえ……こちらこそ、安心しました」
「え? 安心?」
穣子は疑問符を頭に浮かべた。
曖昧に……少し照れ臭そうに青年が笑みを浮かべてくる。
「あはは……その、すみません。実は少し前にもここの通りには寄っていまして、でもそのとき……買っていこうかなと思ったんですが、何だか穣子様のご機嫌が悪そうだったので……つい」
「え? ……あ。そそ……そうだったんだ。その、こっちこそごめんなさい。変に気を遣わせちゃったのね」
顔を赤らめながら、穣子は青年に頭を下げた。
「でも、穣子様と静葉様の笑顔が見れて、何だか俺……ほっとしました。頑張ってください」
「うんっ! ありがとう。今後もよろしくね?」
「ええ、見掛けたらまた来ます」
そう言って、手を振って青年は屋台から去っていった。その後ろ姿を見送りながら穣子は顔をほころばせる。
「……ねぇ穣子?」
「ん? 何よお姉ちゃん?」
「あの人、ちょっと格好良くなかった? 穣子って、ああいうのが好みなの? なんだか、やけに親しかったし」
思わず、穣子は固まった。
顔が熱くなるのを自覚する。そんな風に彼を考えたことはないはずだが。
「なっ!? なななな、いきなり何を言い出すのよ? 吃驚するじゃないっ! そんなわけないでしょ? あの人は、夏にお米の育ちがよくなくて、私がアドバイスしてあげただけ。本当にそれだけなんだからね? 特別なこと何て何もないの。勘違いしないでよ?」
「本当にー?」
にやにやと、静葉が白い歯を見せてくる。からかっている、絶対に自分の反応を楽しんでいる。何だかむかつく。
「そんなこと言うなんて、お姉ちゃんの方こそ、力丸君に気があるんじゃないの? 『格好いい』なんてさー」
「さぁて? どうかしらねー?」
ふんふ~ん♪ と鼻歌交じりで曖昧な返事をしてくる姉。そんな反応が、余計に神経を逆撫でした。本気で怒るとか、そんな気はないのだが。
「すみません、お芋頂けるかしら?」
そんなやりとりをしていると、また新しいお客がやって来た。今度は中年の女性だ。
「あ、はい。有り難うございます」
素早く静葉が芋を包み、お客へと渡した。
「穣子、そろそろ次のお芋を焼かないと」
「うん。そうみたいだね」
いつの間にか、随分と焼き上げた芋が少なくなっていた。
「でも、何だか急に売れるようになったわね。やっぱり、お客さんが来ると他の人も釣られるのかしら?」
「ん~、それもあると思うんだけど。……あ」
急に何かを思い出したように、静葉が声を上げてくる。
「どうしたの? お姉ちゃん?」
「うん、お客さんの相手しているうちに、いつの間にかお留守番を頼んだあの人……帰っちゃったみたいね。もっと、ちゃんとしたお礼を言っておきたかったのに」
「あ、そういえば」
気付いたら、あのいがぐり頭の青年は周囲から姿を消していた。ことさら無視しようとしたわけではないのだが……完全に忘れていた。彼にしてみたら、同じ事なのかも知れないが。
「悪いことしちゃったかなあ」
ちゃんとお礼を言えなかったことを穣子は残念に思う。
「そうね、今度会ったらちゃんとお礼を言いましょ? それでね、穣子?」
「うん?」
「さっきの話なんだけど、お客さんもそうだけど……笑顔も大切なんじゃないかなって思ったの」
「笑顔?」
うん、と静葉が頷く。
「あの人を思い出したのもそうだけど、笑顔がないと、やっぱりそのお店って立ち寄りにくいじゃない。私達、そういうのが欠けていたんじゃないかなって、そう思うの」
「……あ」
穣子は己を振り返る。思い当たる節はある。お客が来るまでの姉に対する態度は、確かにいいものではなかっただろう。
「そう……ね。今度から気を付けるわ、お姉ちゃん」
「うん。頑張りましょ。私も、何だかやる気出てきたし」
見つめ合って、二人は笑った。
と、今度は山彦の少女がこちらに近付いてくるのが見えた。夜雀と一緒に出店をやっている、あの山彦だ。
「あ、あれ? あの子……」
「何の用かしら?」
はっ、と穣子は思い至る。
「ま、まさか。営業妨害? この広場で出てきた杭は叩こうって訳なの? 容赦のない新人潰し?」
「落ち着きなさい穣子。あの風格からして、せいぜいSTGなら1ボスか2ボスクラスよ。私達の敵じゃないわ。……二人がかりなら、あるいは」
「ダメじゃないのそれ。それに、最近はラスボスが1ボスをするという噂よ? 2ボスがEXに出てきたりとか。くっ……もしや、サツマイモをジャガイモにすり替える気なの? 気を付けないと」
「ジャガバターも美味しいけどね? バターを買ってくる?」
「……それは最終手段よ。お姉ちゃん」
とてとてと駆け寄ってくる山彦に、戦々恐々としながらも二人は笑顔を浮かべ続ける。
そして――
“焼き芋二つ下さいな~っ!”
広場に山彦の注文が大きく響いて、秋の神様はほっと胸を撫で下ろした。
―END―
空をどんよりと重く灰色の雲が覆っている。それはまるで、自分の心のようだと彼女は思った。あの、どこまでも澄み切って高い秋の空が恋しくて仕方ない。
神奈子から聞いたアドバイスで、人里に来て焼き芋の移動販売を始めてみた。これで冬の間も信仰を集められるかも知れないと。
だが……お客さんはまるで来てくれそうになかった。
人がいないというわけではない。むしろ、この広場は人通りが激しく、他に出ている出店ではお客がついている。
「お客さん……来ないね。穣子」
ぽつりと、残念そうに静葉が呟いてくる。
「そう思うのなら、もっと大きな声を出してよ、お姉ちゃん」
「ごっ、ごめんなさい穣子。私も、頑張っているんだけど」
姉がびくりと震えて、呼び込みを再開する。けれど、どうしても照れが捨てきれないのか、いまいち声が大きくない。あと、覇気もなければ迫力もない。
「うううぅ、穣子が恐いよぅ」
静葉が怯えたように独り言を漏らしてくる。こちらに聞こえるように言ってくるとは、随分と非難がましいことだと思う。それが更に穣子の神経を逆撫でた。聞こえないふりをするが。
泣きたいのはこっちの方だ。
丹誠込めて育てた最高のサツマイモ。甘み、形、食感。どれをとってもこれほどの出来のものは幻想郷のどこを探しても無いだろうと穣子は自負している。
そんなサツマイモをじっくりと焼き上げた、至高にして究極の石焼き芋。
それを……自分の愛情が詰まった石焼き芋を食べて貰えない嘆きと悲しみ。それは所詮、紅葉の神である姉には、豊穣の神である自分の気持ちは分からないのかも知れない。
「お姉ちゃん。……ど~してそんなにもやる気がないの? 本気で売る気あるの?」
「あるっ! あるわよ?」
「じゃあ、あの子達みたいにやってよっ!」
そう言って穣子は別の角の出店を指差した。
夜雀と山彦の妖怪がやっている八目鰻の串焼き屋。そこはずっと行列が並んで繁盛していた。活気のある山彦の声にお客さんが吸い寄せられているとしか思えない。
そっちは静葉も気にはなっていたのか、しばらく見詰めていたが……。
「うぅ……ごめん。流石にあそこまで大きな声は、無理よ」
しょんぼりと肩を縮めて静葉が謝ってくる。そんな姉を見て、穣子は小さく舌打ちした。
「妬ましい……妬ましいわ。あの子達さえいなければ……」
「穣子、そんな橋姫みたいなこと言っちゃダメよ」
「くっくっくっ、あの八目鰻を泥鱒とすり替えてやろうかしら」
「それ、あの子達もうやっているみたいよ?」
「……何でそんなんで繁盛しちゃうのよ? 妬ましいわね」
ぎりぎりと穣子は親指の爪を噛んだ。
全く以て、真面目にやる者が損をする世の中だと思う。
「ねぇ、穣子?」
「…………何よ?」
静葉が小さく身を震わせながら、こちらに振り向いてくる。媚びるように、上目遣いになる。あざとい。長年の付き合いの経験上、本人は無自覚らしいのだが。自然にこんな態度が取れる女は男受けもいいのだろう。妬ましい。
“お芋……食べちゃダメ?”
その一言に、穣子の体が固まる。
怒りに身が震え、そのこめかみには大きく青筋が浮き出た。
「お~ねぇ~ちゃ~ん?」
自然と、自分の目が吊り上がっていることを穣子は自覚する。溢れる怒気を抑えることが出来ない。
「商売物に手を付けようなんて、何を考えているのよっ? そんなの、ダメに決まっているでしょっ!?」
怒鳴りつけると、静葉が小さく悲鳴を上げた。
「で、でもでも……でもね?」
「何よ?」
身を縮めながらも、静葉は視線だけは真っ直ぐに見返してきた。
「朝からずっと、美味しそうな匂いがしているのよ?」
「当たり前じゃない」
「私、穣子の作ったお芋……大好きなのよ?」
「知っているわよ」
「寒い中にアツアツの石焼き芋って最高じゃない?」
「私だってそう思うわよ」
「お腹空いた……」
「……そうね」
きっ、と静葉がその目に力を込める。
「もう、我慢出来ないのっ!」
「我慢しなさいっ!」
再び怒鳴る。しかし、静葉に引く様子は無い。その目は「芋食いたい」と雄弁に語っていた。
「穣子……どうしてもダメだというのね?」
「そうよ」
「ならっ! 勝負よっ!」
涎を垂らしながら、静葉がスペルカードを取り出してきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
穣子は目を細め、目の前……10尺(約18 m)ほど離れて空を飛ぶ静葉を見る。
屋台は近くにいた、いがぐり頭の青年に頼んで見張って貰った。やたらとにこにこしているだけで、いまいちこちらの意志が伝わっていたかどうかは不安だが、まあ悪さはしないだろう。店番としてはあてにもならないのかもだが。
何にしても、さっさとこの脳天気な姉をしばき倒さなければならない。
「先手必勝っ! さあっ! 喰らいなさい穣子っ!」
先にスペルカードを使用したのは静葉の方だった。出方を伺っていたのだが、僅かに穣子は遅れる。
だが、まあいいと穣子は思った。短期決戦。時間もないので、宣言したのは互いに一枚のみ。先にスペルカードを使わせて、こちらが避けてしまえば……あとはこちらのものだ。
“葉符「狂いの落葉――”
静葉の周囲を無数の……紅の弾幕が囲む。そして、それらは降り注ぐ落葉の如く緩やかなカーブを描いて穣子へと迫ってきた。
静葉の使用したスペルカードに、穣子はほくそ笑む。
このスペルカードの対処法は分かっている。なるべく前に出て、変化の少ないうちにこちらの弾幕を浴びせてしまえばいいのだ。
なので、穣子は攻略法に則って真っ直ぐに静葉の元へと飛翔して近付いていく。
だが、そこで静葉がにやりと笑みを浮かべるのを穣子は見た。
「んなっ!?」
“――葬の型”
突如として高速の大玉弾が真っ正面から撃ち出されてきた。
あまりにも突然のことで、避けようがない。思わず硬直した瞬間、まともに穣子は大玉に被弾してしまう。
「ちょ、ちょっとっ!?」
穣子は非難の声を上げようとするのだが。
「きゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」
次の瞬間、大量の赤い小粒弾が穣子を覆い尽くしてきた。目の前の視界が真っ赤に染まる。
悲鳴を上げながら、穣子は地上へと落下していった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
全身ボロボロになりながら、穣子は静葉を睨んだ。家に帰ってこの服を繕うのに、どれだけ時間が必要になるんだろうか。
そんな彼女の目の前で、静葉が実に幸せそうな笑顔を浮かべ、芋を頬張っている。
「お姉ちゃん。流石にあれは狡くない? 何なのよ『狂いの落葉・葬の型』って、聞いたこと無いわよ?」
ネーミングセンスもひどいし……とは、心の中だけでとどめておく。
「言ってないもの。取っておきの時しか使わないし。もっとも、通常版に慣れたところでその裏を掻くっていう、一度しか使えない初見殺しだけど」
それってeasyのアイシクルフォールに慣れて正面安置だと思ったらnormalのアイシクルフォールで痛い目に遭うという……氷精並の作戦ではないか。でも引っかかってしまった以上、口に出しては言えないが。
「お姉ちゃんにとって、芋を食べるのがそんなにも取っておきなの?」
じっとりとした視線を送る。
静葉は「えへへ」と笑いながら頷いた。我が姉ながら、それでいいのかと穣子は少し呆れた。
しかし、どうにも……本気で怒る気にはなれなくなってしまう。
負けたことも勿論ある。だが、姉は本当に美味しそうに芋を食べているのだ。お客さんでないのは残念だが、やっぱり美味しく食べて貰える姿を見ると、嬉しく思ってしまう。
「あなたも、お店を見てくれて、ありがとう。はい、あなたもどうぞ」
「あっ!? ちょっと!?」
穣子が止めるのも間に合わず、静葉は手にした物とは別の焼き芋を掴み、いがぐり頭の青年へと渡した。
青年が笑顔でそれを受け取る。
「まぁまぁ、いいじゃないの」
「ん……もぅ」
今さら返せと言うわけにもいかず、穣子は小さく唇を尖らせた。
青年もまた、芋を頬張る。そんな彼の笑顔がより一層、明るいものになった気がした。
「ほら、穣子も食べたらどう?」
「え?」
静葉が穣子にも芋を差し出してくる。
甘い匂いが穣子の鼻とお腹を刺激する。そういえば、今日は朝からろくに食べていなかった。
しかし……それを素直に受け取ることは出来ない。思わず手を伸ばそうとして、穣子は躊躇した。反対していた自分に、これを食べる資格があるのだろうか?
「ほらほら、何を気にしているのよ? みんなで食べた方が美味しいじゃない?」
「う……うん」
だが、目の前には明るい静葉の笑顔。その表情には、何の裏も無い。
そんな笑顔だから妙に断りづらくて、穣子は押し切られるように芋を手渡されてしまった。
ささやかに罪悪感を覚えながら、ゆっくりと穣子は芋を口にする。
その途端、口いっぱいに芋の甘みが広がった。
「……美味しい」
思わず、ぽつりと呟く。当然のことなのに、分かっていたのに、穣子にはそれがやけに新鮮に思えた。
凍えていた体と心が、ほんわりと温められていくような、そんな感覚を彼女は覚える。
「美味しいよね。穣子」
「…………うん」
訪ねてくる静葉に、穣子は微笑みながら頷いた。
何だか……いつの間にか、あんなにも怒っていたのがどうでもよくなってきた。売れないのは悲しいけれど、せめてこのお芋を食べるときくらいは、幸せな気分でいたい。そう、穣子は思う。
“ごめん下さい。二本頂けるかしら?”
「ふぁいっ!?」
不意に声を掛けられ、穣子は慌てて顔を上げた。横目で見ると、静葉も同様だった。
声の主に目を向けると、そこには透き通るほどに白い肌を持つ赤い瞳の少女と、銀髪を三つ編みしたメイド姿の少女がそこにいた。従者に傘を持たせるあたり、どこぞのお嬢様だろうか?
「お食事中? に悪いわね。でも、あなた達も悪いのよ? そんなにも美味しそうに食べているんだもの。気になるじゃない」
メイドがくすりと笑みを浮かべて言ってくる。穣子は顔を赤らめた。
「は、はいっ! 申し訳ありません。気付かなくて。今用意しますっ!」
慌てて穣子は焼き芋を取りに向かおうとした。だが、既に静葉の方が一歩早く動いていて、てきぱきと芋を新聞紙で包んでお嬢様とメイドに渡した。
メイドが財布を取り出し、代金を手渡してくる。それが妙に嬉しかった。
では早速と、お客二人が芋にかぶりつく。
二人とも無言だった。
だが二人は、はふっはふっと、一心不乱に芋をかじり続ける。どうやら気に入って貰えたようだ。
しかし、カリスマすら漂うお嬢様と、美人のメイドがこんなところで芋を貪り食う光景というのも、なかなか凄いものだなあと穣子は思う。
「はふっ。まったく……こんな、芋を焼いただけなどという原始的なもののくせに……んっ、なかなか美味いじゃないか咲夜」
「ときとして、シンプルな調理こそが、その素材を最高に引き出す方法になる。そういうことですよ。お嬢様」
「……ちなみに聞いておくが、おやつを手抜きしようとかは考えていないよな?」
「いえいえ、そんな滅相もない」
にこやかに笑みを浮かべてメイドがお嬢様に答える。しかし、こう……あまりにもにこやかなので、かえって彼女の真意は分からない。穣子はそんな気がした。
「ならいい。それと咲夜、あと二本買って帰るわよ」
「お土産ですか?」
「ああ、フランとパチェの分だ」
お嬢様が頷く。
「畏まりました。……すみません、あと三本用意して貰えるかしら?」
三本?
どういうことかと、穣子は首を傾げた。それはお嬢様も同様のようだった。
「美鈴の分ですが、いけなかったでしょうか?」
ああなるほど、とお嬢様が得心のいった表情を浮かべる。そして、少しだけ思案したようだった。
「門番にか……。ふむ……まあいいか。財布は咲夜に預けているしな。構わないわ」
「ありがとうございます。お嬢様」
「妖精メイド達には見付からないようにしなさいよ? 流石に、奴ら全員の分を買って帰るのは無理だろうからな」
「分かっております。お嬢様」
どうやら、三本でいいみたいだ。
再びメイドが財布を取り出し、料金を支払う。
静葉が芋を三つ新聞紙で包んで、メイドに渡した。
そして、彼女らは踵を返し、穣子達から遠ざかっていった。
それを見送って、穣子は体を震わせる。
「……う」
「う?」
「売れたっ! 売れたね。お姉ちゃんっ!」
芋を片手に、大きく両腕を上げて穣子は歓声を上げた。たったの五本かも知れない。だが、それでもあのお客達は満足してくれたようだ。その反応を見られただけでも、心が満たされる。
「そうね、よかったわね。穣子」
「うんっ! ……うんっ!」
喩えようもない達成感。穣子は感激する。芋が売れることがこんなにも嬉しいことだとは、思いもしなかった。
視界が涙で少しぼやけてしまう。
“あの~、すみません。俺にも一本下さい、穣子様”
「えっ!?」
穣子が振り返ると、そこには精悍な顔と屈強な体を持つ若い青年が立っていた。
「あら? あなた……確か……東の集落に住んでる……」
「ああ、覚えててくれたんですか? 有り難うございます。米と大豆を作っている力丸です。夏は本当にお世話になりました」
後頭部に右手を当て、青年が穣子に頭を下げてくる。
「あ、あー。やっぱり、力丸君じゃない。どう? あれから畑の様子はどうだったのかしら?」
「ええ、お陰様で今年も無事に収穫を迎えることが出来ました。これもすべて穣子様のおかげです。本当に有り難うございました」
「そうなんだ。よかったー。私、あれからあまり様子を見に行けなくて……気にはなっていたんだけど、ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらず。穣子様の教えのおかげで、本当に助かりました」
笑顔を浮かべてくる青年に、穣子も笑顔を返した。
「あのー、お芋の用意出来ましたよ?」
「あ、どうも有り難うございます静葉様。ええと、おいくらですか?」
穣子は芋の金額を伝えた。青年はそれを聞いて財布からお金を取り出し、穣子の手に渡した。
「毎度、有り難うございました~☆」
「いえ……こちらこそ、安心しました」
「え? 安心?」
穣子は疑問符を頭に浮かべた。
曖昧に……少し照れ臭そうに青年が笑みを浮かべてくる。
「あはは……その、すみません。実は少し前にもここの通りには寄っていまして、でもそのとき……買っていこうかなと思ったんですが、何だか穣子様のご機嫌が悪そうだったので……つい」
「え? ……あ。そそ……そうだったんだ。その、こっちこそごめんなさい。変に気を遣わせちゃったのね」
顔を赤らめながら、穣子は青年に頭を下げた。
「でも、穣子様と静葉様の笑顔が見れて、何だか俺……ほっとしました。頑張ってください」
「うんっ! ありがとう。今後もよろしくね?」
「ええ、見掛けたらまた来ます」
そう言って、手を振って青年は屋台から去っていった。その後ろ姿を見送りながら穣子は顔をほころばせる。
「……ねぇ穣子?」
「ん? 何よお姉ちゃん?」
「あの人、ちょっと格好良くなかった? 穣子って、ああいうのが好みなの? なんだか、やけに親しかったし」
思わず、穣子は固まった。
顔が熱くなるのを自覚する。そんな風に彼を考えたことはないはずだが。
「なっ!? なななな、いきなり何を言い出すのよ? 吃驚するじゃないっ! そんなわけないでしょ? あの人は、夏にお米の育ちがよくなくて、私がアドバイスしてあげただけ。本当にそれだけなんだからね? 特別なこと何て何もないの。勘違いしないでよ?」
「本当にー?」
にやにやと、静葉が白い歯を見せてくる。からかっている、絶対に自分の反応を楽しんでいる。何だかむかつく。
「そんなこと言うなんて、お姉ちゃんの方こそ、力丸君に気があるんじゃないの? 『格好いい』なんてさー」
「さぁて? どうかしらねー?」
ふんふ~ん♪ と鼻歌交じりで曖昧な返事をしてくる姉。そんな反応が、余計に神経を逆撫でした。本気で怒るとか、そんな気はないのだが。
「すみません、お芋頂けるかしら?」
そんなやりとりをしていると、また新しいお客がやって来た。今度は中年の女性だ。
「あ、はい。有り難うございます」
素早く静葉が芋を包み、お客へと渡した。
「穣子、そろそろ次のお芋を焼かないと」
「うん。そうみたいだね」
いつの間にか、随分と焼き上げた芋が少なくなっていた。
「でも、何だか急に売れるようになったわね。やっぱり、お客さんが来ると他の人も釣られるのかしら?」
「ん~、それもあると思うんだけど。……あ」
急に何かを思い出したように、静葉が声を上げてくる。
「どうしたの? お姉ちゃん?」
「うん、お客さんの相手しているうちに、いつの間にかお留守番を頼んだあの人……帰っちゃったみたいね。もっと、ちゃんとしたお礼を言っておきたかったのに」
「あ、そういえば」
気付いたら、あのいがぐり頭の青年は周囲から姿を消していた。ことさら無視しようとしたわけではないのだが……完全に忘れていた。彼にしてみたら、同じ事なのかも知れないが。
「悪いことしちゃったかなあ」
ちゃんとお礼を言えなかったことを穣子は残念に思う。
「そうね、今度会ったらちゃんとお礼を言いましょ? それでね、穣子?」
「うん?」
「さっきの話なんだけど、お客さんもそうだけど……笑顔も大切なんじゃないかなって思ったの」
「笑顔?」
うん、と静葉が頷く。
「あの人を思い出したのもそうだけど、笑顔がないと、やっぱりそのお店って立ち寄りにくいじゃない。私達、そういうのが欠けていたんじゃないかなって、そう思うの」
「……あ」
穣子は己を振り返る。思い当たる節はある。お客が来るまでの姉に対する態度は、確かにいいものではなかっただろう。
「そう……ね。今度から気を付けるわ、お姉ちゃん」
「うん。頑張りましょ。私も、何だかやる気出てきたし」
見つめ合って、二人は笑った。
と、今度は山彦の少女がこちらに近付いてくるのが見えた。夜雀と一緒に出店をやっている、あの山彦だ。
「あ、あれ? あの子……」
「何の用かしら?」
はっ、と穣子は思い至る。
「ま、まさか。営業妨害? この広場で出てきた杭は叩こうって訳なの? 容赦のない新人潰し?」
「落ち着きなさい穣子。あの風格からして、せいぜいSTGなら1ボスか2ボスクラスよ。私達の敵じゃないわ。……二人がかりなら、あるいは」
「ダメじゃないのそれ。それに、最近はラスボスが1ボスをするという噂よ? 2ボスがEXに出てきたりとか。くっ……もしや、サツマイモをジャガイモにすり替える気なの? 気を付けないと」
「ジャガバターも美味しいけどね? バターを買ってくる?」
「……それは最終手段よ。お姉ちゃん」
とてとてと駆け寄ってくる山彦に、戦々恐々としながらも二人は笑顔を浮かべ続ける。
そして――
“焼き芋二つ下さいな~っ!”
広場に山彦の注文が大きく響いて、秋の神様はほっと胸を撫で下ろした。
―END―
秋姉妹のお芋、おひとつ下さいな~
追記の件については、(個人的な意見ですが)投稿してまだ1日たってないですし気にしすぎかと…。
お読み頂き、有り難うございます。
芋売りの秋神様達が可愛いと言っていた抱けて、嬉しいです。
どこかほっとする可愛らしさがあると思います。彼女たちは。
そんなあなたには、きっと秋神様達も喜んでお芋をごちそうしてくれる気がします。
拙作をお読み頂き、多謝です。
ちょっと、タグでも評価の理由は聞いてみたいと思います。
やっぱり、投稿する以上は少しでも読んでくれる方に楽しんで頂けるようなものを書きたいので。
読んでいるだけでぽかぽかとする、この時期に合った作品ではないでしょうか。
作品に関しては、素人目から見て、いちいち指摘しなければならないほどの違和感はありません。文章も読みやすく、秋姉妹やお嬢様、咲夜さんもとても愛らしく思えました。
作者様の態度も、丁寧で、指摘を貰いたいというものも、執筆にかける想いがにじみ出ています。一読者としては嬉しい限りです。
ただ少し、作者様も仰る通り、秋姉妹の焼き芋屋ネタの作品が過去に多かったために目に付きにくいのかもしれません。
これからも素晴らしい作品を期待しております。まずは福男レースですかね、イベント事の季節は気にしたら負けだと思います。
まー奇をてらった話が好きな人ばかりじゃないでしょうけど・・・芋を売って買うだけの話だから若者向けじゃないよなぁ・・・?
評価は水物、あまり気になさらない方が。
反省点を探すのも大切ですが、自分の中の「面白い」に次々取り組んでいくほうがいいのでは、と思います。
それこそ、いかめしい顔をした穣子様になってしまっては、意味がないですし。
まず、文章そのものに問題が有ったわけではないと言って頂き、ほっとしています。
自分は、書く側としても読む側としても過去に既出のネタについては気にしていなかったのですが、いくらかは気を付けた方がいいのかも知れませんね。「また同じネタか」みたいに読んで下さる方達に想わせてしまっても残念ですし。
拙作をお読み頂き、有り難うございます。今後とも、精進して参ります。
>7さん
うーむぅ、普通でしたか。
自分が奇をてらうと、越えては行けない一線を越えて色々と崩壊してしまう可能性が恐くて、なかなか二次創作では踏み出せなかったりします。
あと、自分自身、どちらかというと「普通」の物語が好きで、「普通」でも面白いを目指していきたいと思っているのです。
でも、過去作の感想によるとそれ故にオチが読みやすかったりするというのもあるようなので、そこはずっと課題なのですが。
それと……実際、オッサンなので若者向けな話は、もうなかなか書けないのかも? 自分では全く気付いていなかったのですが。orz
ですが、どういう部分が問題だったのかという理由として、自分では気付かなかった話なので凄く助かります。
拙作をお読み頂き、そしてご助言を頂き、有り難うございました。
>8さん
所詮、自分は自分の中で面白いと思える物しか書けないので、まずは自分の中で面白いと思える物を書いてきたつもりですし、これからもそんな作品を書いていくつもりです。
ただ、これまで色々な作品とその評価を見ていて、本気で怒られているような作品とかも目にしていて……自分のも、そこまで酷いのかなと心配になったのです。
そして、改められるところが有れば改めたいなと。
まあ、自分でも「こんな話書いておいて、俺も穣子の事を言えないよな~」と思いつつ、後書きなどにお願いを書いたのですが。人間、出来ていませんね(苦笑)。
ひとまず、評価はともかくとして崩壊した話を投稿してしまっていたわけではないと分かり、安心しました。
拙作をお読み頂き、有り難うございました。
助言希望との事で申し上げます。
何故秋姉妹の芋は最初売れなかったのか、という説得力に欠ける気がします。
簡単に言えば笑顔が無かったからなのですが、寒い冬の日に、ほかほかのお芋を秋姉妹が売ってたらなんぼ仏頂面でも僕は買う可能性が高いです。
ここはこのお話のコアになる部分であり、大事にしたいですね。
物語のディテールとは、物語の説得力です。
そのあたりを少しお考えになってはいかがでしょう。
なるほど、説得力ですか。
自分は割と、その店の雰囲気を気にする方なので、そのせいかそれでも買うという人がいる可能性を失念していました。
でも、考えてみれば寒い中でアツアツのいい匂いのする芋がすぐ目の前にあったら、ちょっと店員さんが仏頂面でも買う人がいるというのは全然不思議ではないですね。
なかなか自分以外の……自分に存在していなかった価値観や感覚を我が物にするのは難しいですが、「仏頂面でも芋を買う人もいる」という感覚を知ることが出来、勉強になりました。
あと、今作での具体的な対応策としては、それは穣子の機嫌の悪さをもっとオーバーにすることで、説得力を増せたのかなと思います。
「ここまで態度悪ければ、そりゃあお客さんも寄りつかんわ」みたいな感じで。
リアリティのバランスを考えると、それはそれで匙加減が難しいのかもですが……うぬぬ。
でも、有り難うございます。自分では気付けなかった部分なので、今後の創作ではもう少し視野を広げられる方法を考えてみたいと思います。
拙作をお読み頂き、多謝です。
ですが咲夜さんとお嬢様は小悪魔さんの分は買ってあげてもよかったのではないでしょうか。
追記の件に関して僕から特に言えることはありません。
楽しくお読み頂けたようで嬉しい限りです。
小悪魔については、個人的にはあの館では妖精メイド達と同様の立場というか扱いになっているものと思い、自分はああしました。
でも、咲夜さんのことですから、こっそりとパチュリーには大きめの芋を渡して、食べきれないパチュリーが小悪魔と半分こ……みたいなイベントが発生しているのかも知れません。
拙作をお読み頂き、多謝です。
なぜ点数が入っていないのかはこちらが聞きたいくらいです。
話の展開もありがちではありますがとても心あたたまるものになっていて良いと思いますし、
特別文章がおかしいとも思えません。
とてもおもしろかったですよ?自信をもってください。
タグに「批評&助言希望」なんて書いてはコメントする方はハードルが上がってしまい、さらにあまつさえ後書きで「評価少ないけど理由教えてー」なんて書いたら、完全に本編の「『お客さん来ないねー』と暗い雰囲気の秋姉妹石焼き芋屋台」と同じじゃないですか。
仙台四郎は、明るくて好意に満ちた空間にこそやって来るのでしょう。小説の売り上げが装丁や売り場、帯に左右されるのと同様、ネット小説もタグや後書きを明るく楽しく好意あるものにすることで閲覧数や評価が増えるのだと思います。