村紗水蜜に寺子屋の生徒達2名が殺されかけたのはふた月ほど前
商店街にて、ある妖怪が久々に狼藉を働き、重傷者が数人出たのが更にそれより1週間前。
里は、そもそも緊迫していた。
退治屋達が幾人か動員され、巫女までも動く事態になったのは言うまでもない。
轟々とした非難の嵐の中、何かしら物でも投げつけた者がいたらしい。
上白沢慧音がようやく聖白蓮と寅丸星に会った時、二人は濃いクマと共にうっすらとした
痣を顔に数多く作っていた。抵抗も避ける事もしなかったと見える。
同情は特に覚えた訳では無いが、おそらくどさくさに紛れての事だろう、と彼女はその時
やや冷め気味に考えていた。
そして先日、正式に村紗の処置が決まり、外観上周囲は納得した。
事件は夕暮れ時、里も外れの方面―――しかも命蓮寺に続く―――幅狭い道と、林の間を
堀の様に流れる川で起こったのだった。
生徒達の保護者の片方は、寺の檀家である。
もう片方はかの復活した聖人や山の神社の支持者と言う訳でも無かったが、話を必要以上に
こじらせたくはなかっただろう。
後から考えれば、当事者達が最も冷静だったし、その家族には年寄りが多かった。
妖怪なんて、という諦観や慣れ、他にも落胆があったのかもしれないが、そこまで深くは
慧音も踏み込むつもりは無かった。
全く持って冷静では無かったのは、寧ろ部外者の方だ。
檀家や退治屋達は部外者と言うべきではないかもしれないが。
(おかげで、こんなに遅れてしまった)
生徒達本人を伴っての現場検証は、そろそろ事件を忘れかけた者でも出始める頃に行われた。
寺子屋からの帰り道にて川べりに放置されていた古い小舟を、投棄物と勝手に捉えた生徒達
は不届きにも河を下って遊び――――件の地点で、村紗に遭遇した。
気持ちの上でも健康面でも日常生活を十分送れるようになった生徒達は、最初は怒られるの
も承知の上で、状況を最初から説明してくれたが―――――その地点で、村紗の説明となると、
一様に声を落とし、やがて何も喋れなくなった。
人通りの少ない場所でなかった。
近くにはいくつかの畑と、影を落とす大木の下に休憩用にか腰掛けがいくつかしつらえられ
ていた。
ただ、これが夕暮れ近くともなれば、大人でも恐怖を覚えたかもしれない。
顔を見合わせ、それ以上説明できなくなった子供達に換わり、保護者の数名から細い声が
上がった。
「続けるんですか?」
時間も経ち、本人達に事前に同意を得、正確な状況をしるためとは言え、やはり酷ではない
だろうかと
「―――それもそうですね」
他の生徒達にも、下校時から帰宅までの改めての諸注意を今後どう行うか――何と指導する
かを頭の片隅で組み立てながら、慧音は全員に頭を下げた。
中途半端に解散だ。
生徒二人は、川を覗き込みながら、一様に下を向いている。
保護者達は促しても、振り向きもしない。
ふと気が付くと、見物人が何人かさも他人事といった小馬鹿にした顔でこちら一同を覗いて
いた。
――――「言わんこっちゃない」「だから ~~って言ったのさ」「今更何やってんだ」
野次馬の中で見かけた連中かもしれないし、そうでもないかもしれない。
騒ぎが起きてからの、当の家族達や命蓮寺が直接交わした会話も、退治屋達との交渉も、
何一つこの連中は知るまい。
少なくとも、慧音は何かを「言われた」記憶など無い。
一同疲れた顔をして部外者を睨んだが、そそくさと帰って行くだけだった。
慧音は改めて、保護者達に許可を取り――川淵に立ちすくむ生徒達が、顔を傾ければ何とか
見えるギリギリの位置にまで行った。
まずは、現場まで来て現場の検証に立ち会った心苦しさをねぎらい
「お昼もまだだろう。この後の補習の予定についても話したいから、食事にでも行こう」
と提案。
ずっと気まずそうな少年達は、家族と教師を幾度か交互に見つめて、項垂れながら教師を
選んだ。
来る途中の丼飯屋でも想像したのだろうか。 確かに少しお高い店だ。
だが、慧音は別の方向へ歩き出した。寺子屋とは別の方角である。
帰りは全員を送る事も約束しての事。本当に疲れた様子の保護者達に会釈をすると高齢者達
が何だかまだ顔に余裕がある様に見えた。
年季による精神力の強さか、一世代前の、今よりは辛辣な幻想郷の弱者としての身分を思い
知る世代特有の諦観か………
一行が歩いて行くと、道の先で三人の妖怪が休んでいた。
知らない連中だったが、人里に昼間から、如何にも暇を持て余しているのは、大物か只者で
あろう。
群れているのだから、只者に違いない。腹も減っていない様だし、襲う様な事はないはずだ。
向こうも慧音達がそう思っている事を解っていたらしく。露骨に尊大な態度で話しかけてきた。
「ご苦労様でしたね」
一応会釈
「命蓮寺に殴り込み行った帰りでござんすかぁ」
連中の近くにまで来たので、「それは違う」ときっぱり言ったが、3人は笑って言った。
「生徒が殺されちゃったんだって?」
「殺されてはいませんよ」と言っただけで、何が可笑しいのか連中は手を叩いて笑った。
下卑た笑いだった。
生徒達に少し歩を早める様に促し、吐きたい言葉を腹に落として、慧音は進んだ。
その背中に向けて、自分達は安全だと言う前提で、3人の妖怪はなおも言う。
「だから言っただろ」
「ガキなんざ檻ん中で飼えってよ」
「妖怪なめてっからそうなんだよ」
本当にそんな事を言われた覚えは誰も無い。
無視して去る一同に、若干むきになった声で、妖怪の一人は、 偽善者 と吐き捨てた。
何と何を混同し解釈して言っているのだろう?
しかし、こんな事はうんざりするほど、あの事件から体験しているのだった。
話は、やや人里も外れに位置する店で行われた。
客はそこそこ多かった。
だがほぼ全員押し黙っていたので静かだった。陰鬱な店だ。
よく見ると少なからず妖怪達も客として食事をしている。
外れに近い店だからさほどおかしくはないのだが、先程の連中同様、余裕の無さそうな連中
だった。良くて中の下、下の上といったところか。
人間も似たようなものだった。腕っ節の弱そうな奴は少ないが、特に強そうな奴もいない。
大半がどこか苛立っている。
そして皆やたら若い。
社会に溶け込めない荒くれ者達の溜り場、と言う程では無く、単純に人と関わりを持ちたが
らない・上手くいかない・ストレスを溜めている連中の休憩場所といったところか。
それぞれが、声を潜め耳をふさいでいるような。
「ここなら好都合」
蕎麦を4人前頼み、やや奮発して山菜の天ぷらを一皿追加し、無言で啜る事4.5分間。
天ぷらも無くなり、茶を飲んで人心地ついた辺りで慧音は全員を見渡したが、それぞれは
項垂れたままだった。
「顔あげなさい」
しばらくとりとめない会話が続き、無駄話を経て、「最近辛かったね」という労いの言葉を
かけていくと、ようやく、二人は慧音をきちんと見始めた。
悲しさとか辛さとか、疲れとかとは明らかに違ったベクトルで、顔をしかめていた。
少し考えて、慧音は似たような表情は教室で何度も見ている事に気が付いた。
どうして黙っているのか、解っていたはずだった。
そして、自分自身も同じ様に顔を少ししかめながら、言った。
「浅かったな。あの川」
生徒達はほぼ同時に、「あー… まー そのお」とか曖昧な呻き声をあげる。
正直、言ってる慧音自身も気まずかった。
実際に現場の小川まで言って、最初に首を捻ってしまったのだった。
生徒達は最初の最初から気まずそうだったし、保護者達も何人かは気が付いていただろう。
踏み込んで考えると、ひと段落した事件を、周囲を巻き込みまた一から調べる必要がある。
それは避けたかった。
「正直に、最初から話してくれないか」
「正直にって言っても、隠してたつもりはないんですがぁ」
「なんて言いますか―」
「いや、言いにくかった事があるのは、百も承知だし、口外はしないよ」
「そんじゃ話しますけど」
そもそもこの事件は。
まず、小川を小舟で下っていた生徒には、村紗から話かけたのだと聞いている。
別段口論になった訳でも無く、挨拶程度のやりとりを続けて、通り過ぎようとした時、生徒
達は船が浸水している事に気が付いた。
勿論村紗の仕業に違いないが、 この時川べりから離れた流れの中央に生徒達はおり、――
―その時ムラサが何をしていたのかは、実ははっきりしていない。
ただ傍観していただけだったらしい、という事で話は進められている。
そこから先を、生徒達も村紗もよく覚えていないと言っている。
そして生徒達を救助した、運よく通りかかった農家の男の談だが、村紗は小脇に一人を抱え、
そして残った片手でもうの足首を掴180度逆さにし、顔面を水面に浸していたのだと言う。
――村紗本人は、「曖昧だが、きっとそれはやった」と供述している。
「ちょうど、僕達が差し掛かった時、ムラサさんは錨と柄杓を洗っていたんです」
「それで、挨拶したら―――僕は一応顔なじみでしたので」
檀家の子供だ。
「で、世間話が始まってしまいまして……」
「世間話?」
「まあ、大した事じゃないんですが」
「挨拶程度をちょっとやって、通り過ぎたんじゃなかったのか?」
「ちょっと長く話し込んでました」
そこから、供述と違う。
思い切り訝しげな慧音の表情を怒りと受け取ったのか、生徒達は取り繕うように支離滅裂な
説明を各々し始めたが、今いち理解できなかった。
黙っていると、生徒達も少し落ち着いて、寸劇が始まった。
「あ、俺ムラサさんの役ですからね?」
「ああ、うん」
「『あー センチョー こんにちはー』」
「『やあ君かいコンニチハー』」
「『洗濯ですかー』」
「『錨なんて使うこと少ないんだけどねー』」
「…………」
センチョーは渾名だろう。
「『いやーこんな夕暮れにこどもたちだけで危ないなあ』」
「『大丈夫っすよ、この川浅いし』」
「『そうやって海をなめてはいけないなあー』 ザバリ」
「『海じゃないですよ川ですよお』」
「『”板子一枚下は地獄”って言うだろう?』 ザバリ」
「『あはは……』」
「『私が死んだ日も、そうやって油断してたもんさー』 ザバリザバリ」
「ちょっと待て」
慧音は、思わずムラサ役の生徒の腕をつかんでしまった。
何かせわしなく、手首を定期的に傾けつつ、グルグルとひたすら体の前で回しているのだ。
「さっきからなんだ、その、腕の動きと『ザバザバ』ってのは」
「あ、ずっと柄杓で、船に水を汲んでまして」
ザバリザバリザバリ
「『いやーこの前、一輪と一緒に紅魔館の野外パーティーいったんだけど』 ザバーザバー」
「『あ、おいらも行きましたー』」
「『あそこのメイド長、よく見ると目の白い部分黄色いんだよねー』 ザバーザバー」
「『きっとストレスため込んでるんですよー』」
「『まあさあ、私もお寺の生活が長く続いてると……」
「待て待て 待て待て」
話がやはり違う
「『気が付いたら』、浸水してたんじゃなかったのか」
「いや…… ほんとに気が付いたら、取り返しがつかないくらい水が入っていて……」
「気づいてるじゃないか」
「………世間話に夢中で……」」
「何か『あ、水入れてるな』ってうすぼんやりと思ってたんですが」
いささか戦慄してしまった。
「水難事故を引き起こす程度の能力」――――もう少し物理的なものだと考えていたが、
対象の人間の意識にまで踏み込む事もできるのか?
「話してたら楽しくて………」
生徒達の目は悲しげだった。
実際に里を案内した時に会話したが、あの船幽霊、少なくとも話して不愉快な奴では無い。
「で、同じ様に気が付いたら、あの浅い川でうつ伏せになって窒息しかけてたって訳かね」
改めて恐ろしい能力である。
「あ、それは、こう―――僕達が焦っている時にムラサが腕でまとめて浮かべたんです」
「こう、腕っ節で素早く」
そこは原始的なのか。
あの火車が死体を盗むのに力と素早さに頼り切ってるようなものかだろう。
「……君達は、抵抗しなかったのか」
「いえ、抵抗はしようとしてもがいたら―――ムラサさんの方が慌てて何か叫び始めて」
「『やっちまったー』とかそんな感じだったな……」
「で、僕は一度助けてもらったんです」
そして、小脇に抱えられた。
更に村紗は慌てふためきながら、続いてもう一人助けようと足を持ち上げた。
そして、そのまま岸にまずは上げようとして――――
「徐に、顔を水面に浸されまして――――」
「一度引き上げられたのに?」
「一度引き上げられて、助かった と思ったんですが、もう一度………」
この時ムラサは叫んでいなかったという。突然無言になった事で、二人は痺れる様な恐怖を
感じたという。
「……ムラサさん、ちらっと見えたら、信じられない程怖い顔してニヤついてました」
抵抗する気も失くすほど、冷たい笑み。
「あれは何でだろう?」
「あいつが船幽霊だという事は解っているね?」
後天的に得た技術でさえ、職人はずっと使わずにいるとストレスに感じる事がある。
動物の本能や習性を抑え込むことは至難の技―――というか、命にも関わろう。
本人の代名詞とも言える、「能力」を妖怪が抑え込むのは―――――
「多分我慢できなかったんだろうな」
これは、元々全員一致の見解だった。
怨恨に関わる事件では無い事は皆解っていた。
「はあ…………」
「元々人を殺す事が目的の能力だ。一度は本当に君達を助けようと思ったんだろうけれどね」
村紗との世間話がよほど面白かったのか、前半は落ち着いて話していた生徒達だったが、
改めて恐怖を思い出した様子だった。
また気持ちを後退させてしまった事に変わりは無い。
慧音は心から4人に礼を述べ、そして謝った。
「まあ…随分と違うねえ 今まで話してくれた事とは」
「ごめんなさい」
なぁなぁな話だ。
襲うつもりはなかったが本能に負けて子供を襲い、妖怪だと解っていながら世間話の楽しさ
にかまけて、まんまと船ごと浅い川で沈没させられ、自重する事はできたのに結局せず、
逃げる事もできたのに結局逃げなかった。
締まらない事件だ。
とは言え、言い出せなかった気持ちは痛いほど理解できた。
「タイミングが合わないっていうか・・・・・・・・・」
「父さん達が怒鳴ってるの聞いてたら、話せなかったんですよう」
家族だけならまだしも
「たくさん、色々な人や、知らない妖怪や退治屋や巫女さんまで来てたじゃないですか」
そう――本当にあらゆる方面から、様々な連中と顔を突き合わせ、一方的に話を聞かされた。
・村紗への直接の制裁を求める人間・主に信者の妖怪達
・命蓮寺全体をとにかく糾弾する人間達
・村紗をひたすら庇い立てする妖怪達
・妖怪自体の優位性を持ち出し、人間の抗議を許さない妖怪達
・被害者達に、寛容を強いて訴えを退けようとする人間達
・妖怪の害悪さを強調して罵倒する人間達
・命蓮寺に、本来非は無いと謝罪を撤回させようとする妖怪達
・人間の味方ヅラをして、命蓮寺を糾弾する妖怪達
・ただの野次馬
・一緒に暴れて騒げれば満足と言う連中
共通点は、殺されかけた二人の事を心から慮ってはいないという事。
保護者達の感情だって、一様ではない。
憤慨・悲しみ・不安・恐怖―――――そして諦観と不満
――――「これが、そこらの山の野良妖怪とかの仕業だったら、どんなに解りやすいか」
1人の母親の言葉が、今でも突き刺さっている。
檀家があったという事は大きいし、それだけ命蓮寺は複雑な存在だったという事か。
「先生」
再び下を向き始めたまま、生徒達は言う
「俺、どうしたらいいか解らないです」
「・・・・・・・・・もう大体理解できたし、これ以上話したくなければ話さなくても良いぞ
話しても君達の立場が悪くはならないし、命蓮寺がまたややこしくなって困るだけだがな」
村紗の処置自体はまた変わるかもしれないが。
「いや、そうじゃなく」
「キャプテン――いや、ムラサと話すの、楽しかったんですよ」
声も震えている。
「普通に会って話するの初めてじゃなかったし、こんな事がなければ面白い人だし」
「なのに、あんな怖い顔して、僕達何もやってないのにあんな事・・・・・・」
「そりゃ妖怪だからさ」
理由なんていらない。
――――最初に、聖白蓮に街を案内した時、不安と期待とやる気に満ちていた表情が脳裏を
よぎったが、きっぱりと言った。
「それが本来の有り様なんだよ」
正直、わき腹少しうずく気分だった。が、こうした機会だからこそ基本に立ち返って
綺麗ごとを言ってはいられまい。
「向こうも君達を憎くて襲う訳じゃない。巫女さんが妖怪が嫌いだから退治してるんじゃ
なく、妖怪だからという理由だけで暴力をふるうだろう。あれと同じで、たとえ君達が
もっと仲が良かろうと仮にムラサの恩人だろうと、殺す時は殺すんだ」
これは少し大袈裟に、意図的に悪く言ったが間違いではあるまい
「そういうのを、お寺じゃなるべくやめよう って言ってるって聞いたんですけど…」
それはそうだろうし、無駄ではないだろうが、その理想への道程がいかに遠いかを改めて
思い知らされる事件ではないだろうか。
正直な所―――――本当に命蓮寺には、生徒達が殺されかけたとあって、本当に殴り込みに
行ってやろうかと思ったほどだった。が、代表者の聖白蓮が感じているであろう焦燥感は、
そんな怒りを上まっているだろう。
「難題だね、それは。それこそ私から簡単に解決策をいう事なんかできないよ」
「全員殺しゃあいいんだよな」
割かし大きな声が聞こえた。
なるべく小声で話していたし、客達は無関心を決め込んでいると思っていたが、少し離れた
席の人間の青年が独りで言っていたのだった。
思わず振り返ると、すぐに顔を逸らした。
「まあ、だから人間側も退治し続ける必要があるし、本当に食われたり殺されたりしない様
に心構えや方法を、大人が教える訳だ―――」
「かかってくりゃいいんだよ。こっちから叩き潰してやるぜ……」
明らかにこちらを意識してる。単純にやかましくて、慧音はもう一度青年の方を向いたが、
すぐにまた目を逸らす。
どれだけイライラしているのか、妖怪に何か嫌な思い出があるのか知らないが、こちらと目
も合わせられない男が、「叩き潰してやる」とは笑えるを越えて泣けてくる。しかも何だか
喋り方もわざとらしい。
「ムラサのやつも馬鹿過ぎるな」
「ああ、糞野郎だ。人間も簡単に死に過ぎだよなあ」
今度は、他の妖怪の客達が悪しざまに呟き始めた。
(まずいな)―――と、慧音は軽く悔やむ。今更また騒ぎが広がるとは思えなかったが、こう
してしっかり盗み聞きしていたか。落ち着いて話せる場所を選んだつもりだったが・・・・・・
しかし、どいつもこいつも見るからに、あまり信用を周りから得られてない様な妖怪と人間
ばかりなのが救いだろうか。
思い思いの部外者達の小声での愚痴は、村紗と生徒二人・慧音、そして命蓮寺→妖怪全体、
人間と言う生き物全体への罵倒へと広がった。
非常に、芝居がかかった、考えたかのような言い方で。
―――だから言ってんだよ
―――言わんこっちゃねえ
―――あれだけ言われてんのに
「だから、お前らいつ誰にどこで言ったんだ?」――――慧音はずっと言いたかった事を
今回も胸におさめた。
しかし今回―――――慧音にも1つ気に食わない事があった。
(あの船幽霊は将来どうなるんだ)
村紗自身の態度を、個人的に許せなった。
本人は糾弾を受け、口答えは一切しなかったし、丁寧に謝罪もしていた。
退治屋達に徹底的に攻撃されても抵抗はしなかったし、白蓮の横で正座していた時も真摯な
顔つきだった。
だが―――――自分のやった事を反省しているとは思えなかった。
辛そうで悲しそうな顔はしていた。
だが、それは自分が報いを受けている事や、命蓮寺がその事で困っている事自体への申し訳
なさからそうした顔になっているだけで、子供二人を殺しかけた事を後悔しているとはとても
思えなかった。
慧音は寺子屋では、生徒達を様々な理由で叱り飛ばす。懲罰も加える。
そんな時に、たまに見せるのと同じ様な表情が読み取れたのだ。
「こんな目にあってしまって、あえて責苦を受けている自分は、何と可哀想なのだろう」
「あんな事最初からなかったことにしたい。ばれてしまうなんて。ああ辛い面倒くさい」
「私のせいで怒られている人達がいる。申し訳ない。何とかさっさと終わらせたい」
他の生徒を苛めた者などにとくに多い。
ふざけるな――――と、根気よく理解できるまで感情的にならずに言い聞かせるのに毎回
苦労している。
頭突きだけでは済まなくなりそうになった事もある。
そこを、聖白蓮はどこまで理解しているだろうか?
そしてそこも含めて村紗に理解させられるだろうか?
そもそも船幽霊にそんな事は無理だろうか?
「妖怪なんだから当然だ」「そんなものだ」と割り切る気持ちにはなれなかった。
慧音自身もどこか命蓮寺の面々に期待していた部分があったのかもしれないし、そこが甘い
考えだと言われればそれまでだろうか。そんなものだ、と言いきらなければいけなというのか。
目の前でどうにもやりきれない顔の二人に改めて言う。
「今回、学ぶことは二つあると私は思う」
二人は真摯に、何か縋るように慧音を見て頷いた。
「まず、改めて妖怪は、都合の良い存在じゃない という当たり前の事なんだ」
敢えて「宿敵」とか「天敵」とかいう言葉は使わなかった。
「これは繰り返し学んできたけど、実際に痛い目にあったのは初めてだったな。ある意味
大きな体験だ。 そしてもう一つは―――――」
二人は少し前向きな事を期待したのかもしれない
「その妖怪達と、どうしてもこの幻想郷で付き合わずには生きていけない という事だ」
「そこに」ずっといるのだから。
案の定二人は顔を曇らせた。
言うのもちと辛いし、本当ならもっと幼児期にきっちりと叩き込むべきことなのだろうが、
それだけ幻想郷の治安も変わったという事だろうか。
「何かの天変地異か伝染病が、極端にご都合主義で起きでもしない限り、妖怪だけが死に
絶えて人間だけの暮らしが成り立つなんて事はまずありえないし、そもそも人間だけに
なったらなったで、今の生活は到底維持できないだろう」
不意に先程の青年を見ると、またすぐ目を逸らしていた。
「妖怪達全員が―――この先変化は何かの方向で訪れるかもしれないが―――全く人間に
敵意も持たず危害を加えなくなる『完全な平和』な日が来る事も無いだろう」
人間同士でさえ、集団となれば争いが絶えないと言うのに。
「・・・・・・慧音先生……」
「どう考えて、どう付き合うかは君達次第だ。喧嘩腰に構えるのもいいだろうし、怯え続ける
者もいるし、上手く共存できる者もいる」
「…………」
「本当に妖怪と付き合いを断絶したいなら」
周りの呟きは、少し止んだ。
「君達が幻想郷を捨てて外の世界へでも行ってみるか――――何かの手段で、妖怪を自分達
で皆殺しにするしか」
できるものなら。
いや―――――案外これからは不可能ではないか?――――と自分で考えてしまい、慧音は
ゾッとしてしまった。
生徒二人は腕組みして、大汗掻きながら唸っている。
「この先、人里の生活がそこまで悪くなると決まった訳じゃない」
「・・・・・・難しいなあ」
「うち、実はもめてるんですよね…檀家続けるかどうかって事で」
「それは仕方ないな……」
まあ、人の噂も~、と言う諺もあるし、今に始まった事件でも無し。
元々日本人自体が良くも悪くも忘れっぽい民族だし、その内事件のこと自体が忘れる日も
来るだろう と慧音は多少軽く考えていた。勿論、深刻な影響はその後に残っていくだろうが、
そうした事件を一つ一つ明確に覚え続けて恨みが積る社会だろうか?
「命蓮寺はもうしばらく大変な事になるだろうが・・・・・・・・・」
「あ………」
「まあ全員が根に持つ訳でも無し」
「あ・・・」
「それこそ君達次第でも………あー…………」
不意に隣のテーブルを見て、生徒達から固まり、次いで纏めようとしていた慧音も固まった。
不自然な汗が流れた。
あまり味わった事ない感情だった。
「えーと………」
「………こんにちはぁ」
律儀に挨拶すると、そこに座っていた客も、「こんにちはー」と返した。
しわがれた、枯れきった声だった。
認めたくなかった。
しかし。
村紗本人だった。
あの海兵服ではなく、地味な作務衣を着ている。
帽子の代わりに、古い手ぬぐいを頭に巻いていた。
覗いて見える髪が、直毛である。
実際には見ていないが、丸刈りにした、と聞いていたので、恐ろしい速さで伸びた様だ。
恐る恐る、慧音は二人の代わりに聞いてしまった。
「どうされたんですか?」
思わず敬語。
「破門されましたー」
「「「あー… まー そのお」」」
3人で暫く顔を見合す。
村紗は、ちょっと別の「元々そういう種類の」妖怪なんじゃないかと思う程、顔色が悪く、
枯れきった表情をしていた。
頬にはうっすらと何かの跡が線として残っていた。多分涙だろう。呪いのようにも見える。
泣きに泣きすぎて、水分がなくなったとでも言わんばかりに。
「―――本当に?」
「はい。本当に、つい先程」
先程 と来たか。
叱られて反省してると見せかけて自己憐憫に浸っているだけの子供など―――そこには
いなかった。
慧音は今まで受け持ってきた生徒達の中に、似たような状況の子供がいなかったかと例えを
脳内で検索したが、結果は見つからなかった。
ここまで―――枯れた―――という言葉が合う状況も珍しい。
「えっと、破門ってあんた」
「あ、ご心配なく」
村紗は頭の手ぬぐいを指さした。
「能力も封印されました。柄杓も錨もありませんし、この手ぬぐい自分じゃ取れないんです」
「いやまあ、そのあのなんだ」
そんな都合の良い事ができるのか?
色々聞きたいことや疑問に思う事が自分でも整理ができていない。
聖ならもしかしたらできるかもしれないが、単なる「思い込み」という奴かもしれない。
「えっと……本当に破門なんですか?命蓮寺が?あんたを?」
「『何の罪も無い、しかも檀家の無抵抗の子供を殺そうとするなど何事か』と」
全くその通りではあるが
「『迷惑かけました申し訳ない』って聖以外に寅丸や一輪達にも謝り続けたら
『お前ちょっと違くない?』と激怒されて」
「そりゃ・・・・・・・・・」
「それから何やかんや話して、破門となりました」
その、「何やかんや」は何だよ……短いのか長いのか!?
言いたかったが、慧音も揃って、食堂に着く前以上に皆気まずい空気が流れ始めた。
「―――改めて申し訳ない。何といったらヨロシイモノカ……」
それが村紗の本心なのかどうかは声が枯れすぎていてちょっと判別がつかなかったが、
疑う気になれなかった。
(妖怪として死にかける程の退治による責苦と、寺から無期限の外出禁止とか、そういう
話じゃなかったのか)
本当に生徒達が殺害されていたのなら、退治屋が全力で村紗本人を殺すに至っただろうが、
結果論として生きていた(更に真相では一応助けようとした)ので、暫く再起不能に成る程度に
痛めつけられた上での話だ。
考えてみれば、妥当な処置かもしれないが、命蓮寺が一度入った―――しかも古株で復活に
まで一役買った門下生を、破門と言う形をとるとは最初から考えられなかったのだった。
「言い訳のしようもありません」
やや間をおいて
「………三途の川で、沈めるて発散してる訳にはいかなかったの……?」
「いや、それも我慢して―――もう使わない様にしようって思ってたら、君達見て、つい
ムラムラと……」
それきり4人は黙ってしまった。
時間にすれば短かったのかもしれないが、恐ろしく長く感じられた。
その内、店内が騒がしい事に気が付いた。
ぼそぼそとしか話していなかった客達が、割と普通の声で話し始めているのだった。
慌てている。
煩いと思っていたら、一人の青年がおずおずと村紗に尋ねた
「あの村紗さん……他の一輪さんやぬえさんは・・・・・・・・・」
「うん・・・・・・改めてお酒の事とか含めて・・・・・・色々叱られてた……」
とばっちりと言えばとばっちり。
「えと、ナズーリンさんやマミゾウさんは・・・・・・」
「全員に、ちょっと甘すぎたって聖は言ってマシタヨ」
「そうですか・・・・・・変な事聞いて申し訳ございません」
店内のざわめきはより一層高まった。
「外出禁止 って子は結構いるんじゃないかな」
「………本当ですか…」
「色々厳しくなるのは間違いないですね」
一気に落胆のどよめきが広がった。
何なんだこいつらは。
妖怪も人間も、中には苦悶の声をあげている者さえいる。
それが、本当に自分達の不利益になるとでも言うように。
ややあって、今度は他の妖怪が寄ってきて質問している。
「あのすみません。本当に……その何と言いますか、反省されているご様子ですし、
もう一度謝られては?」
「私が謝るのは、聖じゃないんですってば。もっとこのまま私自身気まずい気分で過ごし
続けないといけないと思うてオリマスヨ?」
「いやまあ……その……」
よく見ると、その妖怪は先程村紗を悪しざまに貶していた妖怪だった。
そしてさっき話しかけていた人間は、いちいち「叩き潰してやる」などと抜かしていた青年
だった。
二人とも共通して、敬語で話していたがとても自然だった。多分、これが素なのだろう。
「慧音先生……?」
「いやもう……私もどうしていいもんか」
生徒の内の一人等は、尋常ではない大汗をかいて震えている。別に恐怖する事は無いだろう
と言い聞かせた。
気を取り直して、再度村紗に話しかける
「君ねえ、何かタイミング良く隣に座ってたけど……」
「たまたまデスヨオ」
「うんたまたまかもしれないね。しかしあれですよ」
ゴホン、咳払いして姿勢を正し、別に敬語になる必要はないと気を取り直して
「まさかとは思うが、破門の原因が、この子達にあるとか考えてはいまいな……?」
「――――マサカ」
村紗は更に俯いた。目の辺りがビクビクと痙攣している。泣こうとしているのだが、本当に
涙が出尽くして流れないとか、そんな現象だろうか?恐らく演技でない事が分かるので、
腹立たしくすらある。
「先生……?」
「いや、言わせてくれ。そもそも、普段から素行がわかるかったんだし、神社でも人を
沈めてたくらいの……」
「あれは、人間ではなく河童をからかって手水鉢に顔を浸させたんデス」
「そうか、うむ。だが勘違いしてはいけないぞ。こうなったのも……」
「もう、いいですよ先生…… 俺達助かったんだし――――その……!」
先程から真っ青になっていた生徒は、震える声で、しかし一際高く訴えた。
何かの使命感を感じさえする真剣な声で。
「俺自身は、もう怒ってないんです」
もう一人に目を合わせると、気づいたように激しく頷いた。
「その、話すと面白いし楽しい人達も沢山いるけど、やっぱり妖怪って俺達の敵なんだって
改めて解りましたし―――川遊びも迂闊にやるもんじゃないって身につまされましたし」
「せ、センチョー……いや、ムラサさんも悪いと思ってる訳で……」
敵だ、と解ったのなら、何故故庇うか
「これ以上あんまり言うのも……」
「俺は、できればその、許してほしい」
おおーーーっ
店内は歓声が沸き立った。
何人かは素直に感動し、拍手までしている。
「ふ ざけるなあ!!!」
慧音は拳でテーブルを叩きつけた。
烏合の衆達は、一気に静まり返る。
「綺麗ゴトを言うんじゃない! 何だ、簡単に”許してほしい”などと……!」
ああ、もう一気に私が一人で悪人じゃないか印象最悪じゃないか空気最悪じゃないかと思い
つつも、慧音は言わずにはいられなかった。
俯いて震える村紗の正面に座り、顔をあげさせるとはっきり言った。
「本当に辛いのは、お前自身じゃないからな!お前の被害者の方だって事は忘れるなっ」
自分を可哀想だと思う権利すら本当は無いはずだろう――――今の村紗に言うのも暴論
かもしれなかった。が、本人は否定もせずに小さく頷いた。これから先、村紗はもっと辛い目
に遭うだろうと予想できた。
そして考えてみればそもそも船ごと沈めるのが生業だった妖怪であるし、下手に人殺し自体
に罪悪感など持ってしまえば、存在自体が危ういのかもしれない。だが慮る気は起きない。
静まり返った中、ポツリと誰かが言う。
「―――俺は生き残るために、食うために人を殺したけど、あいつは違うよな」
続いて更に誰かが隠れるように
「足引っ張りやがって……」
意味は解らなかった。そして、更に後ろの方で誰かが言った。
「大体あのガキども、夕方に何やってたんだよ」
慧音はその声の主だけは見逃さなかった。
即座に立ち上がり、人だかりの中に隠れるようにそっぽを向いていた人間の男を、粗雑に
首根っこを掴んで先程のテーブルまで引きずり回した。
「部外者が調子に乗るな」
血走った眼付で、自分の帽子よりも高い位置に襟首を摘みあげると、悲しいほどの只者は、
今の村紗よりもみっともなく震えて頷くしかなかった。
「簡単に解った様な口を叩くな! お前らにいつ代弁を頼んだんだ!? よく理解しよう
ともしない奴がとやかく言うな!」
そのままドサリ、と無様に床に落下した男を中心に、他の客達はいそいそと散らばり始めた。
男は―――まあ、小心者が勢いで言ったと言うだけらしく、素直に3人に謝った。
そして―――最初に見せに来た時同様、店内は皆押し黙り始めるのだった。
慧音は、暫くしてから、自分が散々嫌がっていた立派な「一々口出しする部外者」の一人に
なっていた事に気づき、頭を抱えた。
追加で3人分菓子などを注文し、お茶を呷って一息ついても3人は黙ったままだった。
しばらくすると、ナズーリンが店内にやって来た。
慧音達に気づき、深刻な顔で会釈すると、項垂れたままの村紗に顔をあげるように促した。
「行こう」
何だ、結局破門なんて見せかけか? と思ったが、あの化け物鼠だけは別居なので、まずはそこに身を寄せるのだろう。
それにしても、村紗はよく見ると中々高い料理を注文していた。当面の生活費がどれほどあるのかしらないが、あれでやっていけるのだろうか。
村紗は改めて挨拶すると、とぼとぼと出て行った。
「………あれ、その内―――いつになるか解りませんけど、また寺に帰れますよね?」
「―――聖さんもそのつもりだよねえ?」
「子供に強制家出させる親みたいなもんだろう…多分」
二人が去った後、改めてそんな確信に近い想像が容易にできた。
全くなぁなぁな世界だ。
そして、あんなに怒鳴ってしまったが、この事件もなぁなぁに幕を閉じていく。
気が付くと、もう夕暮れ時だ。
教師が里の外れで、こんな時間まで生徒を連れているとはこちらの方が問題である。
とにかく慎重に二人の家に直接送り届けねばと緊張して立ち上がると―――他の客達も
皆立って何かをそれぞれ真剣な面持ちで打ち合わせていた。
人間の若い女性二人が、買い物籠の中身をテーブルに広げて確認している。
そこへ妖怪1人それを眺めて「ちょっとまだ足りない」等と言う。二人が小銭を支払うと、
野菜中心の籠の中身に、自前の生魚を数匹追加させた。
まだ若い兄弟が、中でもやや屈強そうな長身の妖怪に声をかけ、饅頭を渡すと、全く嫌がる
様子も無く頷き、3人並んで店を後にした。
何かの何度も読み込まれたと思われる、何かの演目のしおりを熱心に見つめて話し合って
いる集団もいる。
雰囲気は楽しそうだが―――――どこか気まずそうだった。
時折小声で、先程の村紗の発言を繰り返している。
これは、何だ?
よく見ると、皆同じ扇子か手ぬぐいを持っていた。
同じ四字熟語が、変に気取った筆跡で描かれていたが、ちょっと思い出せない。
「ああ……そういえば、この先の道は………」
里も外れにあるこの店。
時刻はもうすぐ夜。
普通の人が歩くのには危険な場所だ。
「魔理紗がやたら怒ってたな………」
慧音はうっすらと気づいていた。
ちょっと周りと上手くとけこめず、何かイライラした――――ストレスを発散させたい客層
命蓮寺の門下生たちのその後
「部外者がこれ以上口をはさむな」 と本心で慧音は言った。
しかし、ある遠い遠い意味では皆身内だったのだ。
「いや、それでも………!」
と、生徒の一人が、袖を呆れたように引っ張り始めた。
そして、先程「許してあげてよ」と訴え歓声を浴びた友人を無言で、脱力仕切った顔で
指さした。
「…………そういう事か、そっちをとりたいか……」
「まあ…………」
「………勉強しろよ?」
少年は、恥ずかしげに上着を脱いだ。
その下のシャツには、客達が標準装備していた手ぬぐいと同じく、「鳥獣伎楽」の文字が
やたら気取った書体で描かれていたのだった。
了
商店街にて、ある妖怪が久々に狼藉を働き、重傷者が数人出たのが更にそれより1週間前。
里は、そもそも緊迫していた。
退治屋達が幾人か動員され、巫女までも動く事態になったのは言うまでもない。
轟々とした非難の嵐の中、何かしら物でも投げつけた者がいたらしい。
上白沢慧音がようやく聖白蓮と寅丸星に会った時、二人は濃いクマと共にうっすらとした
痣を顔に数多く作っていた。抵抗も避ける事もしなかったと見える。
同情は特に覚えた訳では無いが、おそらくどさくさに紛れての事だろう、と彼女はその時
やや冷め気味に考えていた。
そして先日、正式に村紗の処置が決まり、外観上周囲は納得した。
事件は夕暮れ時、里も外れの方面―――しかも命蓮寺に続く―――幅狭い道と、林の間を
堀の様に流れる川で起こったのだった。
生徒達の保護者の片方は、寺の檀家である。
もう片方はかの復活した聖人や山の神社の支持者と言う訳でも無かったが、話を必要以上に
こじらせたくはなかっただろう。
後から考えれば、当事者達が最も冷静だったし、その家族には年寄りが多かった。
妖怪なんて、という諦観や慣れ、他にも落胆があったのかもしれないが、そこまで深くは
慧音も踏み込むつもりは無かった。
全く持って冷静では無かったのは、寧ろ部外者の方だ。
檀家や退治屋達は部外者と言うべきではないかもしれないが。
(おかげで、こんなに遅れてしまった)
生徒達本人を伴っての現場検証は、そろそろ事件を忘れかけた者でも出始める頃に行われた。
寺子屋からの帰り道にて川べりに放置されていた古い小舟を、投棄物と勝手に捉えた生徒達
は不届きにも河を下って遊び――――件の地点で、村紗に遭遇した。
気持ちの上でも健康面でも日常生活を十分送れるようになった生徒達は、最初は怒られるの
も承知の上で、状況を最初から説明してくれたが―――――その地点で、村紗の説明となると、
一様に声を落とし、やがて何も喋れなくなった。
人通りの少ない場所でなかった。
近くにはいくつかの畑と、影を落とす大木の下に休憩用にか腰掛けがいくつかしつらえられ
ていた。
ただ、これが夕暮れ近くともなれば、大人でも恐怖を覚えたかもしれない。
顔を見合わせ、それ以上説明できなくなった子供達に換わり、保護者の数名から細い声が
上がった。
「続けるんですか?」
時間も経ち、本人達に事前に同意を得、正確な状況をしるためとは言え、やはり酷ではない
だろうかと
「―――それもそうですね」
他の生徒達にも、下校時から帰宅までの改めての諸注意を今後どう行うか――何と指導する
かを頭の片隅で組み立てながら、慧音は全員に頭を下げた。
中途半端に解散だ。
生徒二人は、川を覗き込みながら、一様に下を向いている。
保護者達は促しても、振り向きもしない。
ふと気が付くと、見物人が何人かさも他人事といった小馬鹿にした顔でこちら一同を覗いて
いた。
――――「言わんこっちゃない」「だから ~~って言ったのさ」「今更何やってんだ」
野次馬の中で見かけた連中かもしれないし、そうでもないかもしれない。
騒ぎが起きてからの、当の家族達や命蓮寺が直接交わした会話も、退治屋達との交渉も、
何一つこの連中は知るまい。
少なくとも、慧音は何かを「言われた」記憶など無い。
一同疲れた顔をして部外者を睨んだが、そそくさと帰って行くだけだった。
慧音は改めて、保護者達に許可を取り――川淵に立ちすくむ生徒達が、顔を傾ければ何とか
見えるギリギリの位置にまで行った。
まずは、現場まで来て現場の検証に立ち会った心苦しさをねぎらい
「お昼もまだだろう。この後の補習の予定についても話したいから、食事にでも行こう」
と提案。
ずっと気まずそうな少年達は、家族と教師を幾度か交互に見つめて、項垂れながら教師を
選んだ。
来る途中の丼飯屋でも想像したのだろうか。 確かに少しお高い店だ。
だが、慧音は別の方向へ歩き出した。寺子屋とは別の方角である。
帰りは全員を送る事も約束しての事。本当に疲れた様子の保護者達に会釈をすると高齢者達
が何だかまだ顔に余裕がある様に見えた。
年季による精神力の強さか、一世代前の、今よりは辛辣な幻想郷の弱者としての身分を思い
知る世代特有の諦観か………
一行が歩いて行くと、道の先で三人の妖怪が休んでいた。
知らない連中だったが、人里に昼間から、如何にも暇を持て余しているのは、大物か只者で
あろう。
群れているのだから、只者に違いない。腹も減っていない様だし、襲う様な事はないはずだ。
向こうも慧音達がそう思っている事を解っていたらしく。露骨に尊大な態度で話しかけてきた。
「ご苦労様でしたね」
一応会釈
「命蓮寺に殴り込み行った帰りでござんすかぁ」
連中の近くにまで来たので、「それは違う」ときっぱり言ったが、3人は笑って言った。
「生徒が殺されちゃったんだって?」
「殺されてはいませんよ」と言っただけで、何が可笑しいのか連中は手を叩いて笑った。
下卑た笑いだった。
生徒達に少し歩を早める様に促し、吐きたい言葉を腹に落として、慧音は進んだ。
その背中に向けて、自分達は安全だと言う前提で、3人の妖怪はなおも言う。
「だから言っただろ」
「ガキなんざ檻ん中で飼えってよ」
「妖怪なめてっからそうなんだよ」
本当にそんな事を言われた覚えは誰も無い。
無視して去る一同に、若干むきになった声で、妖怪の一人は、 偽善者 と吐き捨てた。
何と何を混同し解釈して言っているのだろう?
しかし、こんな事はうんざりするほど、あの事件から体験しているのだった。
話は、やや人里も外れに位置する店で行われた。
客はそこそこ多かった。
だがほぼ全員押し黙っていたので静かだった。陰鬱な店だ。
よく見ると少なからず妖怪達も客として食事をしている。
外れに近い店だからさほどおかしくはないのだが、先程の連中同様、余裕の無さそうな連中
だった。良くて中の下、下の上といったところか。
人間も似たようなものだった。腕っ節の弱そうな奴は少ないが、特に強そうな奴もいない。
大半がどこか苛立っている。
そして皆やたら若い。
社会に溶け込めない荒くれ者達の溜り場、と言う程では無く、単純に人と関わりを持ちたが
らない・上手くいかない・ストレスを溜めている連中の休憩場所といったところか。
それぞれが、声を潜め耳をふさいでいるような。
「ここなら好都合」
蕎麦を4人前頼み、やや奮発して山菜の天ぷらを一皿追加し、無言で啜る事4.5分間。
天ぷらも無くなり、茶を飲んで人心地ついた辺りで慧音は全員を見渡したが、それぞれは
項垂れたままだった。
「顔あげなさい」
しばらくとりとめない会話が続き、無駄話を経て、「最近辛かったね」という労いの言葉を
かけていくと、ようやく、二人は慧音をきちんと見始めた。
悲しさとか辛さとか、疲れとかとは明らかに違ったベクトルで、顔をしかめていた。
少し考えて、慧音は似たような表情は教室で何度も見ている事に気が付いた。
どうして黙っているのか、解っていたはずだった。
そして、自分自身も同じ様に顔を少ししかめながら、言った。
「浅かったな。あの川」
生徒達はほぼ同時に、「あー… まー そのお」とか曖昧な呻き声をあげる。
正直、言ってる慧音自身も気まずかった。
実際に現場の小川まで言って、最初に首を捻ってしまったのだった。
生徒達は最初の最初から気まずそうだったし、保護者達も何人かは気が付いていただろう。
踏み込んで考えると、ひと段落した事件を、周囲を巻き込みまた一から調べる必要がある。
それは避けたかった。
「正直に、最初から話してくれないか」
「正直にって言っても、隠してたつもりはないんですがぁ」
「なんて言いますか―」
「いや、言いにくかった事があるのは、百も承知だし、口外はしないよ」
「そんじゃ話しますけど」
そもそもこの事件は。
まず、小川を小舟で下っていた生徒には、村紗から話かけたのだと聞いている。
別段口論になった訳でも無く、挨拶程度のやりとりを続けて、通り過ぎようとした時、生徒
達は船が浸水している事に気が付いた。
勿論村紗の仕業に違いないが、 この時川べりから離れた流れの中央に生徒達はおり、――
―その時ムラサが何をしていたのかは、実ははっきりしていない。
ただ傍観していただけだったらしい、という事で話は進められている。
そこから先を、生徒達も村紗もよく覚えていないと言っている。
そして生徒達を救助した、運よく通りかかった農家の男の談だが、村紗は小脇に一人を抱え、
そして残った片手でもうの足首を掴180度逆さにし、顔面を水面に浸していたのだと言う。
――村紗本人は、「曖昧だが、きっとそれはやった」と供述している。
「ちょうど、僕達が差し掛かった時、ムラサさんは錨と柄杓を洗っていたんです」
「それで、挨拶したら―――僕は一応顔なじみでしたので」
檀家の子供だ。
「で、世間話が始まってしまいまして……」
「世間話?」
「まあ、大した事じゃないんですが」
「挨拶程度をちょっとやって、通り過ぎたんじゃなかったのか?」
「ちょっと長く話し込んでました」
そこから、供述と違う。
思い切り訝しげな慧音の表情を怒りと受け取ったのか、生徒達は取り繕うように支離滅裂な
説明を各々し始めたが、今いち理解できなかった。
黙っていると、生徒達も少し落ち着いて、寸劇が始まった。
「あ、俺ムラサさんの役ですからね?」
「ああ、うん」
「『あー センチョー こんにちはー』」
「『やあ君かいコンニチハー』」
「『洗濯ですかー』」
「『錨なんて使うこと少ないんだけどねー』」
「…………」
センチョーは渾名だろう。
「『いやーこんな夕暮れにこどもたちだけで危ないなあ』」
「『大丈夫っすよ、この川浅いし』」
「『そうやって海をなめてはいけないなあー』 ザバリ」
「『海じゃないですよ川ですよお』」
「『”板子一枚下は地獄”って言うだろう?』 ザバリ」
「『あはは……』」
「『私が死んだ日も、そうやって油断してたもんさー』 ザバリザバリ」
「ちょっと待て」
慧音は、思わずムラサ役の生徒の腕をつかんでしまった。
何かせわしなく、手首を定期的に傾けつつ、グルグルとひたすら体の前で回しているのだ。
「さっきからなんだ、その、腕の動きと『ザバザバ』ってのは」
「あ、ずっと柄杓で、船に水を汲んでまして」
ザバリザバリザバリ
「『いやーこの前、一輪と一緒に紅魔館の野外パーティーいったんだけど』 ザバーザバー」
「『あ、おいらも行きましたー』」
「『あそこのメイド長、よく見ると目の白い部分黄色いんだよねー』 ザバーザバー」
「『きっとストレスため込んでるんですよー』」
「『まあさあ、私もお寺の生活が長く続いてると……」
「待て待て 待て待て」
話がやはり違う
「『気が付いたら』、浸水してたんじゃなかったのか」
「いや…… ほんとに気が付いたら、取り返しがつかないくらい水が入っていて……」
「気づいてるじゃないか」
「………世間話に夢中で……」」
「何か『あ、水入れてるな』ってうすぼんやりと思ってたんですが」
いささか戦慄してしまった。
「水難事故を引き起こす程度の能力」――――もう少し物理的なものだと考えていたが、
対象の人間の意識にまで踏み込む事もできるのか?
「話してたら楽しくて………」
生徒達の目は悲しげだった。
実際に里を案内した時に会話したが、あの船幽霊、少なくとも話して不愉快な奴では無い。
「で、同じ様に気が付いたら、あの浅い川でうつ伏せになって窒息しかけてたって訳かね」
改めて恐ろしい能力である。
「あ、それは、こう―――僕達が焦っている時にムラサが腕でまとめて浮かべたんです」
「こう、腕っ節で素早く」
そこは原始的なのか。
あの火車が死体を盗むのに力と素早さに頼り切ってるようなものかだろう。
「……君達は、抵抗しなかったのか」
「いえ、抵抗はしようとしてもがいたら―――ムラサさんの方が慌てて何か叫び始めて」
「『やっちまったー』とかそんな感じだったな……」
「で、僕は一度助けてもらったんです」
そして、小脇に抱えられた。
更に村紗は慌てふためきながら、続いてもう一人助けようと足を持ち上げた。
そして、そのまま岸にまずは上げようとして――――
「徐に、顔を水面に浸されまして――――」
「一度引き上げられたのに?」
「一度引き上げられて、助かった と思ったんですが、もう一度………」
この時ムラサは叫んでいなかったという。突然無言になった事で、二人は痺れる様な恐怖を
感じたという。
「……ムラサさん、ちらっと見えたら、信じられない程怖い顔してニヤついてました」
抵抗する気も失くすほど、冷たい笑み。
「あれは何でだろう?」
「あいつが船幽霊だという事は解っているね?」
後天的に得た技術でさえ、職人はずっと使わずにいるとストレスに感じる事がある。
動物の本能や習性を抑え込むことは至難の技―――というか、命にも関わろう。
本人の代名詞とも言える、「能力」を妖怪が抑え込むのは―――――
「多分我慢できなかったんだろうな」
これは、元々全員一致の見解だった。
怨恨に関わる事件では無い事は皆解っていた。
「はあ…………」
「元々人を殺す事が目的の能力だ。一度は本当に君達を助けようと思ったんだろうけれどね」
村紗との世間話がよほど面白かったのか、前半は落ち着いて話していた生徒達だったが、
改めて恐怖を思い出した様子だった。
また気持ちを後退させてしまった事に変わりは無い。
慧音は心から4人に礼を述べ、そして謝った。
「まあ…随分と違うねえ 今まで話してくれた事とは」
「ごめんなさい」
なぁなぁな話だ。
襲うつもりはなかったが本能に負けて子供を襲い、妖怪だと解っていながら世間話の楽しさ
にかまけて、まんまと船ごと浅い川で沈没させられ、自重する事はできたのに結局せず、
逃げる事もできたのに結局逃げなかった。
締まらない事件だ。
とは言え、言い出せなかった気持ちは痛いほど理解できた。
「タイミングが合わないっていうか・・・・・・・・・」
「父さん達が怒鳴ってるの聞いてたら、話せなかったんですよう」
家族だけならまだしも
「たくさん、色々な人や、知らない妖怪や退治屋や巫女さんまで来てたじゃないですか」
そう――本当にあらゆる方面から、様々な連中と顔を突き合わせ、一方的に話を聞かされた。
・村紗への直接の制裁を求める人間・主に信者の妖怪達
・命蓮寺全体をとにかく糾弾する人間達
・村紗をひたすら庇い立てする妖怪達
・妖怪自体の優位性を持ち出し、人間の抗議を許さない妖怪達
・被害者達に、寛容を強いて訴えを退けようとする人間達
・妖怪の害悪さを強調して罵倒する人間達
・命蓮寺に、本来非は無いと謝罪を撤回させようとする妖怪達
・人間の味方ヅラをして、命蓮寺を糾弾する妖怪達
・ただの野次馬
・一緒に暴れて騒げれば満足と言う連中
共通点は、殺されかけた二人の事を心から慮ってはいないという事。
保護者達の感情だって、一様ではない。
憤慨・悲しみ・不安・恐怖―――――そして諦観と不満
――――「これが、そこらの山の野良妖怪とかの仕業だったら、どんなに解りやすいか」
1人の母親の言葉が、今でも突き刺さっている。
檀家があったという事は大きいし、それだけ命蓮寺は複雑な存在だったという事か。
「先生」
再び下を向き始めたまま、生徒達は言う
「俺、どうしたらいいか解らないです」
「・・・・・・・・・もう大体理解できたし、これ以上話したくなければ話さなくても良いぞ
話しても君達の立場が悪くはならないし、命蓮寺がまたややこしくなって困るだけだがな」
村紗の処置自体はまた変わるかもしれないが。
「いや、そうじゃなく」
「キャプテン――いや、ムラサと話すの、楽しかったんですよ」
声も震えている。
「普通に会って話するの初めてじゃなかったし、こんな事がなければ面白い人だし」
「なのに、あんな怖い顔して、僕達何もやってないのにあんな事・・・・・・」
「そりゃ妖怪だからさ」
理由なんていらない。
――――最初に、聖白蓮に街を案内した時、不安と期待とやる気に満ちていた表情が脳裏を
よぎったが、きっぱりと言った。
「それが本来の有り様なんだよ」
正直、わき腹少しうずく気分だった。が、こうした機会だからこそ基本に立ち返って
綺麗ごとを言ってはいられまい。
「向こうも君達を憎くて襲う訳じゃない。巫女さんが妖怪が嫌いだから退治してるんじゃ
なく、妖怪だからという理由だけで暴力をふるうだろう。あれと同じで、たとえ君達が
もっと仲が良かろうと仮にムラサの恩人だろうと、殺す時は殺すんだ」
これは少し大袈裟に、意図的に悪く言ったが間違いではあるまい
「そういうのを、お寺じゃなるべくやめよう って言ってるって聞いたんですけど…」
それはそうだろうし、無駄ではないだろうが、その理想への道程がいかに遠いかを改めて
思い知らされる事件ではないだろうか。
正直な所―――――本当に命蓮寺には、生徒達が殺されかけたとあって、本当に殴り込みに
行ってやろうかと思ったほどだった。が、代表者の聖白蓮が感じているであろう焦燥感は、
そんな怒りを上まっているだろう。
「難題だね、それは。それこそ私から簡単に解決策をいう事なんかできないよ」
「全員殺しゃあいいんだよな」
割かし大きな声が聞こえた。
なるべく小声で話していたし、客達は無関心を決め込んでいると思っていたが、少し離れた
席の人間の青年が独りで言っていたのだった。
思わず振り返ると、すぐに顔を逸らした。
「まあ、だから人間側も退治し続ける必要があるし、本当に食われたり殺されたりしない様
に心構えや方法を、大人が教える訳だ―――」
「かかってくりゃいいんだよ。こっちから叩き潰してやるぜ……」
明らかにこちらを意識してる。単純にやかましくて、慧音はもう一度青年の方を向いたが、
すぐにまた目を逸らす。
どれだけイライラしているのか、妖怪に何か嫌な思い出があるのか知らないが、こちらと目
も合わせられない男が、「叩き潰してやる」とは笑えるを越えて泣けてくる。しかも何だか
喋り方もわざとらしい。
「ムラサのやつも馬鹿過ぎるな」
「ああ、糞野郎だ。人間も簡単に死に過ぎだよなあ」
今度は、他の妖怪の客達が悪しざまに呟き始めた。
(まずいな)―――と、慧音は軽く悔やむ。今更また騒ぎが広がるとは思えなかったが、こう
してしっかり盗み聞きしていたか。落ち着いて話せる場所を選んだつもりだったが・・・・・・
しかし、どいつもこいつも見るからに、あまり信用を周りから得られてない様な妖怪と人間
ばかりなのが救いだろうか。
思い思いの部外者達の小声での愚痴は、村紗と生徒二人・慧音、そして命蓮寺→妖怪全体、
人間と言う生き物全体への罵倒へと広がった。
非常に、芝居がかかった、考えたかのような言い方で。
―――だから言ってんだよ
―――言わんこっちゃねえ
―――あれだけ言われてんのに
「だから、お前らいつ誰にどこで言ったんだ?」――――慧音はずっと言いたかった事を
今回も胸におさめた。
しかし今回―――――慧音にも1つ気に食わない事があった。
(あの船幽霊は将来どうなるんだ)
村紗自身の態度を、個人的に許せなった。
本人は糾弾を受け、口答えは一切しなかったし、丁寧に謝罪もしていた。
退治屋達に徹底的に攻撃されても抵抗はしなかったし、白蓮の横で正座していた時も真摯な
顔つきだった。
だが―――――自分のやった事を反省しているとは思えなかった。
辛そうで悲しそうな顔はしていた。
だが、それは自分が報いを受けている事や、命蓮寺がその事で困っている事自体への申し訳
なさからそうした顔になっているだけで、子供二人を殺しかけた事を後悔しているとはとても
思えなかった。
慧音は寺子屋では、生徒達を様々な理由で叱り飛ばす。懲罰も加える。
そんな時に、たまに見せるのと同じ様な表情が読み取れたのだ。
「こんな目にあってしまって、あえて責苦を受けている自分は、何と可哀想なのだろう」
「あんな事最初からなかったことにしたい。ばれてしまうなんて。ああ辛い面倒くさい」
「私のせいで怒られている人達がいる。申し訳ない。何とかさっさと終わらせたい」
他の生徒を苛めた者などにとくに多い。
ふざけるな――――と、根気よく理解できるまで感情的にならずに言い聞かせるのに毎回
苦労している。
頭突きだけでは済まなくなりそうになった事もある。
そこを、聖白蓮はどこまで理解しているだろうか?
そしてそこも含めて村紗に理解させられるだろうか?
そもそも船幽霊にそんな事は無理だろうか?
「妖怪なんだから当然だ」「そんなものだ」と割り切る気持ちにはなれなかった。
慧音自身もどこか命蓮寺の面々に期待していた部分があったのかもしれないし、そこが甘い
考えだと言われればそれまでだろうか。そんなものだ、と言いきらなければいけなというのか。
目の前でどうにもやりきれない顔の二人に改めて言う。
「今回、学ぶことは二つあると私は思う」
二人は真摯に、何か縋るように慧音を見て頷いた。
「まず、改めて妖怪は、都合の良い存在じゃない という当たり前の事なんだ」
敢えて「宿敵」とか「天敵」とかいう言葉は使わなかった。
「これは繰り返し学んできたけど、実際に痛い目にあったのは初めてだったな。ある意味
大きな体験だ。 そしてもう一つは―――――」
二人は少し前向きな事を期待したのかもしれない
「その妖怪達と、どうしてもこの幻想郷で付き合わずには生きていけない という事だ」
「そこに」ずっといるのだから。
案の定二人は顔を曇らせた。
言うのもちと辛いし、本当ならもっと幼児期にきっちりと叩き込むべきことなのだろうが、
それだけ幻想郷の治安も変わったという事だろうか。
「何かの天変地異か伝染病が、極端にご都合主義で起きでもしない限り、妖怪だけが死に
絶えて人間だけの暮らしが成り立つなんて事はまずありえないし、そもそも人間だけに
なったらなったで、今の生活は到底維持できないだろう」
不意に先程の青年を見ると、またすぐ目を逸らしていた。
「妖怪達全員が―――この先変化は何かの方向で訪れるかもしれないが―――全く人間に
敵意も持たず危害を加えなくなる『完全な平和』な日が来る事も無いだろう」
人間同士でさえ、集団となれば争いが絶えないと言うのに。
「・・・・・・慧音先生……」
「どう考えて、どう付き合うかは君達次第だ。喧嘩腰に構えるのもいいだろうし、怯え続ける
者もいるし、上手く共存できる者もいる」
「…………」
「本当に妖怪と付き合いを断絶したいなら」
周りの呟きは、少し止んだ。
「君達が幻想郷を捨てて外の世界へでも行ってみるか――――何かの手段で、妖怪を自分達
で皆殺しにするしか」
できるものなら。
いや―――――案外これからは不可能ではないか?――――と自分で考えてしまい、慧音は
ゾッとしてしまった。
生徒二人は腕組みして、大汗掻きながら唸っている。
「この先、人里の生活がそこまで悪くなると決まった訳じゃない」
「・・・・・・難しいなあ」
「うち、実はもめてるんですよね…檀家続けるかどうかって事で」
「それは仕方ないな……」
まあ、人の噂も~、と言う諺もあるし、今に始まった事件でも無し。
元々日本人自体が良くも悪くも忘れっぽい民族だし、その内事件のこと自体が忘れる日も
来るだろう と慧音は多少軽く考えていた。勿論、深刻な影響はその後に残っていくだろうが、
そうした事件を一つ一つ明確に覚え続けて恨みが積る社会だろうか?
「命蓮寺はもうしばらく大変な事になるだろうが・・・・・・・・・」
「あ………」
「まあ全員が根に持つ訳でも無し」
「あ・・・」
「それこそ君達次第でも………あー…………」
不意に隣のテーブルを見て、生徒達から固まり、次いで纏めようとしていた慧音も固まった。
不自然な汗が流れた。
あまり味わった事ない感情だった。
「えーと………」
「………こんにちはぁ」
律儀に挨拶すると、そこに座っていた客も、「こんにちはー」と返した。
しわがれた、枯れきった声だった。
認めたくなかった。
しかし。
村紗本人だった。
あの海兵服ではなく、地味な作務衣を着ている。
帽子の代わりに、古い手ぬぐいを頭に巻いていた。
覗いて見える髪が、直毛である。
実際には見ていないが、丸刈りにした、と聞いていたので、恐ろしい速さで伸びた様だ。
恐る恐る、慧音は二人の代わりに聞いてしまった。
「どうされたんですか?」
思わず敬語。
「破門されましたー」
「「「あー… まー そのお」」」
3人で暫く顔を見合す。
村紗は、ちょっと別の「元々そういう種類の」妖怪なんじゃないかと思う程、顔色が悪く、
枯れきった表情をしていた。
頬にはうっすらと何かの跡が線として残っていた。多分涙だろう。呪いのようにも見える。
泣きに泣きすぎて、水分がなくなったとでも言わんばかりに。
「―――本当に?」
「はい。本当に、つい先程」
先程 と来たか。
叱られて反省してると見せかけて自己憐憫に浸っているだけの子供など―――そこには
いなかった。
慧音は今まで受け持ってきた生徒達の中に、似たような状況の子供がいなかったかと例えを
脳内で検索したが、結果は見つからなかった。
ここまで―――枯れた―――という言葉が合う状況も珍しい。
「えっと、破門ってあんた」
「あ、ご心配なく」
村紗は頭の手ぬぐいを指さした。
「能力も封印されました。柄杓も錨もありませんし、この手ぬぐい自分じゃ取れないんです」
「いやまあ、そのあのなんだ」
そんな都合の良い事ができるのか?
色々聞きたいことや疑問に思う事が自分でも整理ができていない。
聖ならもしかしたらできるかもしれないが、単なる「思い込み」という奴かもしれない。
「えっと……本当に破門なんですか?命蓮寺が?あんたを?」
「『何の罪も無い、しかも檀家の無抵抗の子供を殺そうとするなど何事か』と」
全くその通りではあるが
「『迷惑かけました申し訳ない』って聖以外に寅丸や一輪達にも謝り続けたら
『お前ちょっと違くない?』と激怒されて」
「そりゃ・・・・・・・・・」
「それから何やかんや話して、破門となりました」
その、「何やかんや」は何だよ……短いのか長いのか!?
言いたかったが、慧音も揃って、食堂に着く前以上に皆気まずい空気が流れ始めた。
「―――改めて申し訳ない。何といったらヨロシイモノカ……」
それが村紗の本心なのかどうかは声が枯れすぎていてちょっと判別がつかなかったが、
疑う気になれなかった。
(妖怪として死にかける程の退治による責苦と、寺から無期限の外出禁止とか、そういう
話じゃなかったのか)
本当に生徒達が殺害されていたのなら、退治屋が全力で村紗本人を殺すに至っただろうが、
結果論として生きていた(更に真相では一応助けようとした)ので、暫く再起不能に成る程度に
痛めつけられた上での話だ。
考えてみれば、妥当な処置かもしれないが、命蓮寺が一度入った―――しかも古株で復活に
まで一役買った門下生を、破門と言う形をとるとは最初から考えられなかったのだった。
「言い訳のしようもありません」
やや間をおいて
「………三途の川で、沈めるて発散してる訳にはいかなかったの……?」
「いや、それも我慢して―――もう使わない様にしようって思ってたら、君達見て、つい
ムラムラと……」
それきり4人は黙ってしまった。
時間にすれば短かったのかもしれないが、恐ろしく長く感じられた。
その内、店内が騒がしい事に気が付いた。
ぼそぼそとしか話していなかった客達が、割と普通の声で話し始めているのだった。
慌てている。
煩いと思っていたら、一人の青年がおずおずと村紗に尋ねた
「あの村紗さん……他の一輪さんやぬえさんは・・・・・・・・・」
「うん・・・・・・改めてお酒の事とか含めて・・・・・・色々叱られてた……」
とばっちりと言えばとばっちり。
「えと、ナズーリンさんやマミゾウさんは・・・・・・」
「全員に、ちょっと甘すぎたって聖は言ってマシタヨ」
「そうですか・・・・・・変な事聞いて申し訳ございません」
店内のざわめきはより一層高まった。
「外出禁止 って子は結構いるんじゃないかな」
「………本当ですか…」
「色々厳しくなるのは間違いないですね」
一気に落胆のどよめきが広がった。
何なんだこいつらは。
妖怪も人間も、中には苦悶の声をあげている者さえいる。
それが、本当に自分達の不利益になるとでも言うように。
ややあって、今度は他の妖怪が寄ってきて質問している。
「あのすみません。本当に……その何と言いますか、反省されているご様子ですし、
もう一度謝られては?」
「私が謝るのは、聖じゃないんですってば。もっとこのまま私自身気まずい気分で過ごし
続けないといけないと思うてオリマスヨ?」
「いやまあ……その……」
よく見ると、その妖怪は先程村紗を悪しざまに貶していた妖怪だった。
そしてさっき話しかけていた人間は、いちいち「叩き潰してやる」などと抜かしていた青年
だった。
二人とも共通して、敬語で話していたがとても自然だった。多分、これが素なのだろう。
「慧音先生……?」
「いやもう……私もどうしていいもんか」
生徒の内の一人等は、尋常ではない大汗をかいて震えている。別に恐怖する事は無いだろう
と言い聞かせた。
気を取り直して、再度村紗に話しかける
「君ねえ、何かタイミング良く隣に座ってたけど……」
「たまたまデスヨオ」
「うんたまたまかもしれないね。しかしあれですよ」
ゴホン、咳払いして姿勢を正し、別に敬語になる必要はないと気を取り直して
「まさかとは思うが、破門の原因が、この子達にあるとか考えてはいまいな……?」
「――――マサカ」
村紗は更に俯いた。目の辺りがビクビクと痙攣している。泣こうとしているのだが、本当に
涙が出尽くして流れないとか、そんな現象だろうか?恐らく演技でない事が分かるので、
腹立たしくすらある。
「先生……?」
「いや、言わせてくれ。そもそも、普段から素行がわかるかったんだし、神社でも人を
沈めてたくらいの……」
「あれは、人間ではなく河童をからかって手水鉢に顔を浸させたんデス」
「そうか、うむ。だが勘違いしてはいけないぞ。こうなったのも……」
「もう、いいですよ先生…… 俺達助かったんだし――――その……!」
先程から真っ青になっていた生徒は、震える声で、しかし一際高く訴えた。
何かの使命感を感じさえする真剣な声で。
「俺自身は、もう怒ってないんです」
もう一人に目を合わせると、気づいたように激しく頷いた。
「その、話すと面白いし楽しい人達も沢山いるけど、やっぱり妖怪って俺達の敵なんだって
改めて解りましたし―――川遊びも迂闊にやるもんじゃないって身につまされましたし」
「せ、センチョー……いや、ムラサさんも悪いと思ってる訳で……」
敵だ、と解ったのなら、何故故庇うか
「これ以上あんまり言うのも……」
「俺は、できればその、許してほしい」
おおーーーっ
店内は歓声が沸き立った。
何人かは素直に感動し、拍手までしている。
「ふ ざけるなあ!!!」
慧音は拳でテーブルを叩きつけた。
烏合の衆達は、一気に静まり返る。
「綺麗ゴトを言うんじゃない! 何だ、簡単に”許してほしい”などと……!」
ああ、もう一気に私が一人で悪人じゃないか印象最悪じゃないか空気最悪じゃないかと思い
つつも、慧音は言わずにはいられなかった。
俯いて震える村紗の正面に座り、顔をあげさせるとはっきり言った。
「本当に辛いのは、お前自身じゃないからな!お前の被害者の方だって事は忘れるなっ」
自分を可哀想だと思う権利すら本当は無いはずだろう――――今の村紗に言うのも暴論
かもしれなかった。が、本人は否定もせずに小さく頷いた。これから先、村紗はもっと辛い目
に遭うだろうと予想できた。
そして考えてみればそもそも船ごと沈めるのが生業だった妖怪であるし、下手に人殺し自体
に罪悪感など持ってしまえば、存在自体が危ういのかもしれない。だが慮る気は起きない。
静まり返った中、ポツリと誰かが言う。
「―――俺は生き残るために、食うために人を殺したけど、あいつは違うよな」
続いて更に誰かが隠れるように
「足引っ張りやがって……」
意味は解らなかった。そして、更に後ろの方で誰かが言った。
「大体あのガキども、夕方に何やってたんだよ」
慧音はその声の主だけは見逃さなかった。
即座に立ち上がり、人だかりの中に隠れるようにそっぽを向いていた人間の男を、粗雑に
首根っこを掴んで先程のテーブルまで引きずり回した。
「部外者が調子に乗るな」
血走った眼付で、自分の帽子よりも高い位置に襟首を摘みあげると、悲しいほどの只者は、
今の村紗よりもみっともなく震えて頷くしかなかった。
「簡単に解った様な口を叩くな! お前らにいつ代弁を頼んだんだ!? よく理解しよう
ともしない奴がとやかく言うな!」
そのままドサリ、と無様に床に落下した男を中心に、他の客達はいそいそと散らばり始めた。
男は―――まあ、小心者が勢いで言ったと言うだけらしく、素直に3人に謝った。
そして―――最初に見せに来た時同様、店内は皆押し黙り始めるのだった。
慧音は、暫くしてから、自分が散々嫌がっていた立派な「一々口出しする部外者」の一人に
なっていた事に気づき、頭を抱えた。
追加で3人分菓子などを注文し、お茶を呷って一息ついても3人は黙ったままだった。
しばらくすると、ナズーリンが店内にやって来た。
慧音達に気づき、深刻な顔で会釈すると、項垂れたままの村紗に顔をあげるように促した。
「行こう」
何だ、結局破門なんて見せかけか? と思ったが、あの化け物鼠だけは別居なので、まずはそこに身を寄せるのだろう。
それにしても、村紗はよく見ると中々高い料理を注文していた。当面の生活費がどれほどあるのかしらないが、あれでやっていけるのだろうか。
村紗は改めて挨拶すると、とぼとぼと出て行った。
「………あれ、その内―――いつになるか解りませんけど、また寺に帰れますよね?」
「―――聖さんもそのつもりだよねえ?」
「子供に強制家出させる親みたいなもんだろう…多分」
二人が去った後、改めてそんな確信に近い想像が容易にできた。
全くなぁなぁな世界だ。
そして、あんなに怒鳴ってしまったが、この事件もなぁなぁに幕を閉じていく。
気が付くと、もう夕暮れ時だ。
教師が里の外れで、こんな時間まで生徒を連れているとはこちらの方が問題である。
とにかく慎重に二人の家に直接送り届けねばと緊張して立ち上がると―――他の客達も
皆立って何かをそれぞれ真剣な面持ちで打ち合わせていた。
人間の若い女性二人が、買い物籠の中身をテーブルに広げて確認している。
そこへ妖怪1人それを眺めて「ちょっとまだ足りない」等と言う。二人が小銭を支払うと、
野菜中心の籠の中身に、自前の生魚を数匹追加させた。
まだ若い兄弟が、中でもやや屈強そうな長身の妖怪に声をかけ、饅頭を渡すと、全く嫌がる
様子も無く頷き、3人並んで店を後にした。
何かの何度も読み込まれたと思われる、何かの演目のしおりを熱心に見つめて話し合って
いる集団もいる。
雰囲気は楽しそうだが―――――どこか気まずそうだった。
時折小声で、先程の村紗の発言を繰り返している。
これは、何だ?
よく見ると、皆同じ扇子か手ぬぐいを持っていた。
同じ四字熟語が、変に気取った筆跡で描かれていたが、ちょっと思い出せない。
「ああ……そういえば、この先の道は………」
里も外れにあるこの店。
時刻はもうすぐ夜。
普通の人が歩くのには危険な場所だ。
「魔理紗がやたら怒ってたな………」
慧音はうっすらと気づいていた。
ちょっと周りと上手くとけこめず、何かイライラした――――ストレスを発散させたい客層
命蓮寺の門下生たちのその後
「部外者がこれ以上口をはさむな」 と本心で慧音は言った。
しかし、ある遠い遠い意味では皆身内だったのだ。
「いや、それでも………!」
と、生徒の一人が、袖を呆れたように引っ張り始めた。
そして、先程「許してあげてよ」と訴え歓声を浴びた友人を無言で、脱力仕切った顔で
指さした。
「…………そういう事か、そっちをとりたいか……」
「まあ…………」
「………勉強しろよ?」
少年は、恥ずかしげに上着を脱いだ。
その下のシャツには、客達が標準装備していた手ぬぐいと同じく、「鳥獣伎楽」の文字が
やたら気取った書体で描かれていたのだった。
了
病気」と切り捨てずにここまで真摯に向き合ったSSというのはとても貴重だと思う
最近原作の展開や公式二次の有り方について内心疑問に思っている人もちらほら見受けられるようになったが、このSSはそういう人達への答えの一つになるだろう
ちょっと脱字が気になった。
これってあれですね、障害者や痴呆老人が関わった傷害事件とかもだいたいこんな終わり方するんですよね。
前向きに解釈すれば、この幻想郷での妖怪なんてのは、生活に少し問題を抱えた人間、くらいの存在まで墜ちているのかもしれないなあと。
あと、白蓮さん、それは悪手でしょう。慧音センセみたいに生徒が理解するまで根気強く説教するべきなんじゃないですかね。
描かれていない部分で白蓮さんが何をしていて、何を考えて破門なんて答えを選んだのか気になるところです。
ただ小説としての体をなしていない部分が少し目立ってしまいました。