『歴史を呑む会 ~お品書き~』
・発酵の妙
・お手頃
・マスパ
・匠の技
・郷土愛
・百年前の革新
・不明酒
◇ ◇ ◇ ◇
歴史を呑む会in博麗神社
「さぁ皆、自慢の酒は持ってきたか? 存分に語れ! そして、呑み明かせ!」
上白沢慧音の音頭で『歴史を呑む会』が始まった。各々の自慢の一品を持ち寄り、好きに語り合う集まりだ。
今回のテーマは『日本酒』らしい。
さて、今日はどんな銘酒が拝めるのやら……
◆
「霊夢ーまだ始まんないのか?」
「今準備してるところじゃない。妹紅を見習って、あんたも手伝いなさいよ」
「へいへい」と魔理沙が重い腰を上げる。霊夢は流石に手慣れたもので、見る間に宴会場が出来上がる。妹紅も……うん、ちゃんと働いているな。
調理場にはアリスと早苗か。和食か洋食か、それとも中華か。まぁ二人に任せておけば問題はないだろう。
「先生、結界はこんなもんで足りるかな」
「えぇ、十分です。いつもありがとうございます」
神奈子様に結界を内から強化してもらい、建物にも被害が及ばない様にしている。酔っぱらいは何をするかわからないからな。気を付けるに越したことはない。
さて、そろそろ良い頃合いだ。私も準備に取り掛かろう。今日も無事に終わってくれよ。
◆一番手「早苗の甘酒」
「では一番手、東風谷早苗です。私のお酒は、これです!」
利き猪口に液体が注がれる。白く、ドロドロしたそれは、あっと言う間に蛇の目を覆い隠した。
「これは……『甘酒』じゃないか! 早苗、ふざけてるのか?」
「えぇ、確かに甘酒です。アルコールもゼロ。ただし、酒粕と砂糖を使わない、米麹と発酵の甘酒です!」
「なに? いや……そんな事言っても、所詮は甘酒じゃないか!」
「魔理沙、まずは飲んでみなさいよ。美味しいわよ、これ」
霊夢に窘められ、私はお猪口を見つめる。
白い、いや、少し色が着いているか。米の粒も残っていて、緩いお粥の様にも見える。
匂いは……甘い。でも、これは砂糖なんかじゃない、優しい、米の匂いだ。
……なんだよ皆、美味い美味いって。これ甘酒だろう?早苗に気でも遣ってるのか?
やれやれと、お猪口を口に運び、一気に煽る。
「……甘い。甘過ぎるぞ! これで砂糖を使ってないって言うのか?」
「えぇ、その通りです。魔理沙さんも知っているでしょう? 『発酵の力』を!」
「くっ!」
甘い。凄く甘いのに、喉に刺すような違和感もない。自然な、純粋な甘さだ。
「美味い……」
「でしょう?」
してやったり、と笑う早苗。悔しいが、この甘酒は美味い。『甘酒』というジャンルでありながら、米の美味さをこんなにも強く感じる。甘党、辛党入り混じるこの宴会でも、かなりの高評価だ。
ポン! と膝を叩き、天を仰いで叫ぶ。
「うまいぞーー!!」
「うむ! 素晴らしい酒だった! 発酵の力とは、まるで奇跡の様だな! 次回も期待しているぞ!」
「はい!」
慧音が良いタイミングで場を進めていく。今日は期待できそうだ。
◆二番手「博麗のワンカップ」
「二番手は私ね。有難く呑みなさい!」
コトン、とガラスの瓶が置かれた。まさか、いや、見間違うはずもない! これは……
「ワン……カップ?」
「正しくは『ワンカップ博麗』よ。どうぞ召し上がれ」
「いや、呑むけどさ。ワンカップって言ったら安酒の代名詞じゃないのか?私だって昔呑んだことあるけど……」
「いいから呑め」
流石に悪ふざけが過ぎるぜ。匂いも、味も、全く良いイメージが沸かない。
無色透明、香りも鼻にツンとして、「あぁ、間違いなくワンカップだ」と感じた。
味は……
「……悪くない」
「相変わらず口が悪いわね」
「いや、悪くないんだ。キレだって」
「美味しい?」
「……」
「まぁ、あんたの趣味じゃないのは分かってたわ。早苗、例のものを皆に」
「準備はできてますよ!」
悪くない……想像よりも、ずっと。ちょっと戸惑ってしまうくらい。でも、好んで呑むかと訊かれれば、私の答えはノーだ。アルコールの香りが口内に残る。
「どうぞ」と早苗が新たに皿を持ってきた。
「焼き鳥、皮か」
「そう、一緒に食べてみて」
皮を噛むと鳥の油が口内に広がった。それを洗い流す様に、『博麗』を煽る。
「……悪くない」
「どっちの意味で?」
「いや、美味いよ。皮も『博麗』も。お互いの良さを引き立たせている様で。うん、悪くない」
霊夢は満足げに笑って見せた。こんな飲み方もあるのか。すごく落ち着ける呑み方だ。
一杯のワンカップと、焼き鳥。悪くない。何よりも……
「リーズナブルだしな」
「大切よ、それ」
「うむ! 私も大好きだ! しかし、安いと思って買い過ぎると痛い目を見るぞ!」
いいタイミングだけど……この先生、何言ってるんだ?
◆三番手「魔理沙のスパークリング」
「待たせたな! 私の酒はこれだ! 気を付けろよ、シャンパンみたいに吹き出すからな!」
皆の前に四合瓶とタオルが置かれる。小気味良い音と共に小さく悲鳴が聞こえてきた。アリス、お前器用なんじゃないのかよ。
「もう、こんなになるなんて聞いてないわよ……」
「いや、私はちゃんと注意したぞ? まぁ無事開いたなら呑んでみてくれ」
シュワシュワと白い泡が立つ。少しオリも見えるかな。小さな気泡が弾ける度に、微かに柑橘系の香りがするようだった。可愛いグラスに注いだら、日本酒には見えないだろう。
「発泡してるけど、濁り酒とは少し違うのね……」
「まぁ大本は同じじゃないか? ただ、この酒はもっと呑みやすいぞ」
アリスが恐る恐る口を付け、確かめるように呑み込んだ。
「あら? 炭酸がもっとキツイかと思ったけど、見た目よりずっと弱いのね。それに角が無くて凄く呑みやすい」
「香りはどうだ?」
「口に含む前と後で全然違うわね。後味や鼻腔から抜ける香りには、しっかりと日本酒らしさを感じられるわ」
「よーし、味の方はどうだ?」
スンスンと鼻を鳴らして、アリスは再度口に含み味わった。
「少し甘い……かな? でも、舌でも香りを感じられるくらい、お米の香りがするの。しいて言うならお米の味?」
「なるほどなぁ」
「ねぇ魔理沙、なんだか舌がふわふわするの。ちょっと見てよ。べー」
「おーい。早苗、水くれー」
「そろそろだと思ってました!」
口をもごもごさせるアリスに水を飲ませてやる。
「うむ! 呑みやすいとはいえ酒だからな! 酔ったら水! 先生との約束だ!」
……先生、水飲みますか?
◆四番手「アリス8%」
「復活よ! これでもくらいなさい!」
フラフラなアリスとは対照的に、上海が器用に利き猪口に酒を注いでいく。こいつ実は自律してるんじゃないか?
「お米ってこんなに小さくなるのね! 磨きの技を思い知るがいいわ!」
本体はもう放っとこう。さて、色は無色透明、いや水か? 香りは、私の知っている日本酒じゃない。なんだ? よくわからないぞ?
まぁ、酒は呑んでこそだ!
「美味いけど、なんだ? ……薄いのか?」
「ふふふ、磨きの技を体感したようね」
「あぁそうだな。アリス、これはどんな酒なんだ」
「言った通りよ。お米を磨いて、磨いて。8%まで磨いたお米で作った日本酒よ!」
「ふーん……ってそれを今出したのか!?」
「えぇ、とっておきのお酒よ」
「だー! もったいねー! 早苗! 水!」
「えぇっ? ど、どうぞ!」
早苗から水を受け取り、口をゆすぐ。塩を舐めて、水を飲んで、集中!
「もう、どうしたのよ」
「……データが全てじゃないけどさ。8%磨きなんて正気の沙汰じゃないぜ。まさしく逸品だ」
「だからとっておきって言ったじゃない」
「くっ……もう一杯だ」
酒が再びお猪口を満たす。今度はもっと味に集中して……うん、やっぱり凄く呑みやすい。すっと入ってくる。微かに、、フルーティーな、香りが……
「……のみやすくておいしいです」
「でしょー?」
ニコニコと得意そうな顔のアリスが恨めしい。
「うむ! 私も酔っていて味がわからなかったぞ! 高い酒は最初に開けるに限るな! あっはっはっはっ!」
先生、あんたもか! これを最初に呑みたかったです!
◆五番手「神奈子の地酒」
「だいぶ出来上がって来たみたいだね……っしゃあぁぁぁ! 神の酒を呑めえぇぇ!」
テンション高いよ!
神奈子の酒が注がれる。色は、薄くついてるな。爽やかな良い香りだ。
「っおおー! 辛いぞー! なんか重みが凄いぃぃ!」
「そうか? 辛くも甘くもないし、まさに水の様に呑めるぞ」
「いや、冷静かよ。美味いのはわかるんだけど、私にはちょっと辛過ぎるぜ」
ぐいぐい呑み進める神奈子に対抗してみるが、いかんせんペースが上がらない。霊夢だって美味しそうに呑んでるのに。
「これは私の地元の酒でな。料理にも使ったりするし、すっかり身体に馴染んでいるのかもしれん」
「そんなもんかなぁ」
「まぁ、無理をせずに好きな酒を呑め。他人の逸品が、必ずしも自分にとってもそうだとは限らんからな」
「それもそうだな、ごちそうさま! 美味かったぜ!」
「私はもう一杯いただくわ」
霊夢の奴。あんなに美味そうに呑みやがって。
「私もこの酒が好きだぞ! 美味い! 水みてぇだあぁぁ!」
先生! そろそろ戻ってきて!
◆六番手「妹紅の山廃」
「私の酒は癖が強いぞー! 山廃の癖は世界一ぃぃぃ!」
「キャー! もこもこたーん!」
なんで満月でもないのに変身してんだよ! 先生興奮しすぎだよ!
何もなかったかの様に、妹紅の酒が注がれる。色は今日一番だ、少し茶色く見える。それに、熟成しきったような、甘ったるい香りがする。
「甘い? コクって言うか独特な重みが。それに香り! 強すぎ!」
「それが『山廃』の実力さ! 一度呑んだら忘れられない、癖になったら止まらない!」
「確かに、この味は一度呑んだら忘れないぜ」
本当に独特。新しく『山廃』ってカテゴリーが私の中にできてしまった。
「どう、癖になりそう?」
「独特な酒だよなぁ……私はぐいぐい呑めそうにないけど、偶に呑むたくなるかも」
「それで十分! そうして繰り返し呑むうちに、虜になってしまうのさ!」
なるほどな。んー今度里の酒屋で探してみるか!
「キャー! もこ……流石は妹紅だな! 私も虜になってしまったぞ!」
戻ってきたか! ……いや、本当に大丈夫か?
◆大取り「慧音の不明酒」
「うむ、楽しかった会も私で最後か。さぁ! 存分に味わってくれ!」
言葉はしっかりしてるけど、まだ変身解けてないよ? 大丈夫?
ドン、と新聞紙で包まれた一升瓶が出てきた。お猪口に注がれたお酒は、薄く色づいている。それに、なんだか深みのある香りだ。
「不思議な香りがします!」
「なんだか複雑な味ね」
「私にはわかるぜ! 山廃だ!」
「この磨き! 大吟醸ね!」
「それにしては香りがなぁ……」
「吟醸くらいじゃない?」
口々に感想を述べるが、皆バラバラだった。
「先生お手上げだぜ。これは何の酒なんだ?」
「不明だ」
「えっ?」
「まぁ、今皆が言ったもの全てだ。吟醸、大吟醸、山廃、全て混ざったものだな」
そう言って新聞紙を外すと、今言ったものが全てラベルに書かれていた。
ウィスキーやワインだってブレンドしたものがあるし、日本酒にもそういうのがあるのかな?
それにしたって欲張りだぜ。
「まぁ、呑みやすい酒だな。少し山廃の存在感が強いけど、かなりまろやかになってる」
「美味いか?」
「不思議な味だな。でも美味いよ」
「そうか」と先生はなんだか満足そうだ。
「二度と呑めない酒だ、よく味わえよ」
「混ぜればいいだけだろ? なんで呑めないんだよ」
「さてな。まぁ味わって呑め」
呑みやすくて、あっと言う間に先生の酒は空になった。
「……さて、歴史を呑む会はここまでだ! おまえらー! 朝まで呑むぞー!」
「「っしゃおらー!」」
・発酵の妙
・お手頃
・マスパ
・匠の技
・郷土愛
・百年前の革新
・不明酒
◇ ◇ ◇ ◇
歴史を呑む会in博麗神社
「さぁ皆、自慢の酒は持ってきたか? 存分に語れ! そして、呑み明かせ!」
上白沢慧音の音頭で『歴史を呑む会』が始まった。各々の自慢の一品を持ち寄り、好きに語り合う集まりだ。
今回のテーマは『日本酒』らしい。
さて、今日はどんな銘酒が拝めるのやら……
◆
「霊夢ーまだ始まんないのか?」
「今準備してるところじゃない。妹紅を見習って、あんたも手伝いなさいよ」
「へいへい」と魔理沙が重い腰を上げる。霊夢は流石に手慣れたもので、見る間に宴会場が出来上がる。妹紅も……うん、ちゃんと働いているな。
調理場にはアリスと早苗か。和食か洋食か、それとも中華か。まぁ二人に任せておけば問題はないだろう。
「先生、結界はこんなもんで足りるかな」
「えぇ、十分です。いつもありがとうございます」
神奈子様に結界を内から強化してもらい、建物にも被害が及ばない様にしている。酔っぱらいは何をするかわからないからな。気を付けるに越したことはない。
さて、そろそろ良い頃合いだ。私も準備に取り掛かろう。今日も無事に終わってくれよ。
◆一番手「早苗の甘酒」
「では一番手、東風谷早苗です。私のお酒は、これです!」
利き猪口に液体が注がれる。白く、ドロドロしたそれは、あっと言う間に蛇の目を覆い隠した。
「これは……『甘酒』じゃないか! 早苗、ふざけてるのか?」
「えぇ、確かに甘酒です。アルコールもゼロ。ただし、酒粕と砂糖を使わない、米麹と発酵の甘酒です!」
「なに? いや……そんな事言っても、所詮は甘酒じゃないか!」
「魔理沙、まずは飲んでみなさいよ。美味しいわよ、これ」
霊夢に窘められ、私はお猪口を見つめる。
白い、いや、少し色が着いているか。米の粒も残っていて、緩いお粥の様にも見える。
匂いは……甘い。でも、これは砂糖なんかじゃない、優しい、米の匂いだ。
……なんだよ皆、美味い美味いって。これ甘酒だろう?早苗に気でも遣ってるのか?
やれやれと、お猪口を口に運び、一気に煽る。
「……甘い。甘過ぎるぞ! これで砂糖を使ってないって言うのか?」
「えぇ、その通りです。魔理沙さんも知っているでしょう? 『発酵の力』を!」
「くっ!」
甘い。凄く甘いのに、喉に刺すような違和感もない。自然な、純粋な甘さだ。
「美味い……」
「でしょう?」
してやったり、と笑う早苗。悔しいが、この甘酒は美味い。『甘酒』というジャンルでありながら、米の美味さをこんなにも強く感じる。甘党、辛党入り混じるこの宴会でも、かなりの高評価だ。
ポン! と膝を叩き、天を仰いで叫ぶ。
「うまいぞーー!!」
「うむ! 素晴らしい酒だった! 発酵の力とは、まるで奇跡の様だな! 次回も期待しているぞ!」
「はい!」
慧音が良いタイミングで場を進めていく。今日は期待できそうだ。
◆二番手「博麗のワンカップ」
「二番手は私ね。有難く呑みなさい!」
コトン、とガラスの瓶が置かれた。まさか、いや、見間違うはずもない! これは……
「ワン……カップ?」
「正しくは『ワンカップ博麗』よ。どうぞ召し上がれ」
「いや、呑むけどさ。ワンカップって言ったら安酒の代名詞じゃないのか?私だって昔呑んだことあるけど……」
「いいから呑め」
流石に悪ふざけが過ぎるぜ。匂いも、味も、全く良いイメージが沸かない。
無色透明、香りも鼻にツンとして、「あぁ、間違いなくワンカップだ」と感じた。
味は……
「……悪くない」
「相変わらず口が悪いわね」
「いや、悪くないんだ。キレだって」
「美味しい?」
「……」
「まぁ、あんたの趣味じゃないのは分かってたわ。早苗、例のものを皆に」
「準備はできてますよ!」
悪くない……想像よりも、ずっと。ちょっと戸惑ってしまうくらい。でも、好んで呑むかと訊かれれば、私の答えはノーだ。アルコールの香りが口内に残る。
「どうぞ」と早苗が新たに皿を持ってきた。
「焼き鳥、皮か」
「そう、一緒に食べてみて」
皮を噛むと鳥の油が口内に広がった。それを洗い流す様に、『博麗』を煽る。
「……悪くない」
「どっちの意味で?」
「いや、美味いよ。皮も『博麗』も。お互いの良さを引き立たせている様で。うん、悪くない」
霊夢は満足げに笑って見せた。こんな飲み方もあるのか。すごく落ち着ける呑み方だ。
一杯のワンカップと、焼き鳥。悪くない。何よりも……
「リーズナブルだしな」
「大切よ、それ」
「うむ! 私も大好きだ! しかし、安いと思って買い過ぎると痛い目を見るぞ!」
いいタイミングだけど……この先生、何言ってるんだ?
◆三番手「魔理沙のスパークリング」
「待たせたな! 私の酒はこれだ! 気を付けろよ、シャンパンみたいに吹き出すからな!」
皆の前に四合瓶とタオルが置かれる。小気味良い音と共に小さく悲鳴が聞こえてきた。アリス、お前器用なんじゃないのかよ。
「もう、こんなになるなんて聞いてないわよ……」
「いや、私はちゃんと注意したぞ? まぁ無事開いたなら呑んでみてくれ」
シュワシュワと白い泡が立つ。少しオリも見えるかな。小さな気泡が弾ける度に、微かに柑橘系の香りがするようだった。可愛いグラスに注いだら、日本酒には見えないだろう。
「発泡してるけど、濁り酒とは少し違うのね……」
「まぁ大本は同じじゃないか? ただ、この酒はもっと呑みやすいぞ」
アリスが恐る恐る口を付け、確かめるように呑み込んだ。
「あら? 炭酸がもっとキツイかと思ったけど、見た目よりずっと弱いのね。それに角が無くて凄く呑みやすい」
「香りはどうだ?」
「口に含む前と後で全然違うわね。後味や鼻腔から抜ける香りには、しっかりと日本酒らしさを感じられるわ」
「よーし、味の方はどうだ?」
スンスンと鼻を鳴らして、アリスは再度口に含み味わった。
「少し甘い……かな? でも、舌でも香りを感じられるくらい、お米の香りがするの。しいて言うならお米の味?」
「なるほどなぁ」
「ねぇ魔理沙、なんだか舌がふわふわするの。ちょっと見てよ。べー」
「おーい。早苗、水くれー」
「そろそろだと思ってました!」
口をもごもごさせるアリスに水を飲ませてやる。
「うむ! 呑みやすいとはいえ酒だからな! 酔ったら水! 先生との約束だ!」
……先生、水飲みますか?
◆四番手「アリス8%」
「復活よ! これでもくらいなさい!」
フラフラなアリスとは対照的に、上海が器用に利き猪口に酒を注いでいく。こいつ実は自律してるんじゃないか?
「お米ってこんなに小さくなるのね! 磨きの技を思い知るがいいわ!」
本体はもう放っとこう。さて、色は無色透明、いや水か? 香りは、私の知っている日本酒じゃない。なんだ? よくわからないぞ?
まぁ、酒は呑んでこそだ!
「美味いけど、なんだ? ……薄いのか?」
「ふふふ、磨きの技を体感したようね」
「あぁそうだな。アリス、これはどんな酒なんだ」
「言った通りよ。お米を磨いて、磨いて。8%まで磨いたお米で作った日本酒よ!」
「ふーん……ってそれを今出したのか!?」
「えぇ、とっておきのお酒よ」
「だー! もったいねー! 早苗! 水!」
「えぇっ? ど、どうぞ!」
早苗から水を受け取り、口をゆすぐ。塩を舐めて、水を飲んで、集中!
「もう、どうしたのよ」
「……データが全てじゃないけどさ。8%磨きなんて正気の沙汰じゃないぜ。まさしく逸品だ」
「だからとっておきって言ったじゃない」
「くっ……もう一杯だ」
酒が再びお猪口を満たす。今度はもっと味に集中して……うん、やっぱり凄く呑みやすい。すっと入ってくる。微かに、、フルーティーな、香りが……
「……のみやすくておいしいです」
「でしょー?」
ニコニコと得意そうな顔のアリスが恨めしい。
「うむ! 私も酔っていて味がわからなかったぞ! 高い酒は最初に開けるに限るな! あっはっはっはっ!」
先生、あんたもか! これを最初に呑みたかったです!
◆五番手「神奈子の地酒」
「だいぶ出来上がって来たみたいだね……っしゃあぁぁぁ! 神の酒を呑めえぇぇ!」
テンション高いよ!
神奈子の酒が注がれる。色は、薄くついてるな。爽やかな良い香りだ。
「っおおー! 辛いぞー! なんか重みが凄いぃぃ!」
「そうか? 辛くも甘くもないし、まさに水の様に呑めるぞ」
「いや、冷静かよ。美味いのはわかるんだけど、私にはちょっと辛過ぎるぜ」
ぐいぐい呑み進める神奈子に対抗してみるが、いかんせんペースが上がらない。霊夢だって美味しそうに呑んでるのに。
「これは私の地元の酒でな。料理にも使ったりするし、すっかり身体に馴染んでいるのかもしれん」
「そんなもんかなぁ」
「まぁ、無理をせずに好きな酒を呑め。他人の逸品が、必ずしも自分にとってもそうだとは限らんからな」
「それもそうだな、ごちそうさま! 美味かったぜ!」
「私はもう一杯いただくわ」
霊夢の奴。あんなに美味そうに呑みやがって。
「私もこの酒が好きだぞ! 美味い! 水みてぇだあぁぁ!」
先生! そろそろ戻ってきて!
◆六番手「妹紅の山廃」
「私の酒は癖が強いぞー! 山廃の癖は世界一ぃぃぃ!」
「キャー! もこもこたーん!」
なんで満月でもないのに変身してんだよ! 先生興奮しすぎだよ!
何もなかったかの様に、妹紅の酒が注がれる。色は今日一番だ、少し茶色く見える。それに、熟成しきったような、甘ったるい香りがする。
「甘い? コクって言うか独特な重みが。それに香り! 強すぎ!」
「それが『山廃』の実力さ! 一度呑んだら忘れられない、癖になったら止まらない!」
「確かに、この味は一度呑んだら忘れないぜ」
本当に独特。新しく『山廃』ってカテゴリーが私の中にできてしまった。
「どう、癖になりそう?」
「独特な酒だよなぁ……私はぐいぐい呑めそうにないけど、偶に呑むたくなるかも」
「それで十分! そうして繰り返し呑むうちに、虜になってしまうのさ!」
なるほどな。んー今度里の酒屋で探してみるか!
「キャー! もこ……流石は妹紅だな! 私も虜になってしまったぞ!」
戻ってきたか! ……いや、本当に大丈夫か?
◆大取り「慧音の不明酒」
「うむ、楽しかった会も私で最後か。さぁ! 存分に味わってくれ!」
言葉はしっかりしてるけど、まだ変身解けてないよ? 大丈夫?
ドン、と新聞紙で包まれた一升瓶が出てきた。お猪口に注がれたお酒は、薄く色づいている。それに、なんだか深みのある香りだ。
「不思議な香りがします!」
「なんだか複雑な味ね」
「私にはわかるぜ! 山廃だ!」
「この磨き! 大吟醸ね!」
「それにしては香りがなぁ……」
「吟醸くらいじゃない?」
口々に感想を述べるが、皆バラバラだった。
「先生お手上げだぜ。これは何の酒なんだ?」
「不明だ」
「えっ?」
「まぁ、今皆が言ったもの全てだ。吟醸、大吟醸、山廃、全て混ざったものだな」
そう言って新聞紙を外すと、今言ったものが全てラベルに書かれていた。
ウィスキーやワインだってブレンドしたものがあるし、日本酒にもそういうのがあるのかな?
それにしたって欲張りだぜ。
「まぁ、呑みやすい酒だな。少し山廃の存在感が強いけど、かなりまろやかになってる」
「美味いか?」
「不思議な味だな。でも美味いよ」
「そうか」と先生はなんだか満足そうだ。
「二度と呑めない酒だ、よく味わえよ」
「混ぜればいいだけだろ? なんで呑めないんだよ」
「さてな。まぁ味わって呑め」
呑みやすくて、あっと言う間に先生の酒は空になった。
「……さて、歴史を呑む会はここまでだ! おまえらー! 朝まで呑むぞー!」
「「っしゃおらー!」」
特にアリスの8%の意味が分かったのが満足。アリス流石やわ。
そしてそうでありながらも、発酵の発見から精米、明治の新製法、東日本大震災まで、歴史を辿る構成になっているのがすごいです。慧音らしい取り組みかなと。
それゆえに後書きも含めて解けない謎も分からない部分もあった。悔しいぜ。
だから買ってきてしまったよ、お酒。
特に山廃に興味があります。
このお話は飯テロならぬ酒テロかな?
ご馳走様でした。
半分は知らないけど興味湧いてとりあえず軽く調べましたよ
ワンカップ博麗はどこから出てますか
磨きや、先生のお酒を知っている方がいてビックリしてます。
あとがきの補足って程でもないですが、知らない方にとっては日本酒の歴史、知っている方にとっては日本酒と歴史(災害)の備忘録、って事になるかと思います。
ワンカップ博麗はネーミングを某大関から。中身は地酒ワンカップも増えてきたので色々です。
とりあえず、幻想郷に行けば呑めます!