「フラン様、朝ですよ」
「んー」
咲夜の声と身体を揺さぶる振動に、フランドール・スカーレットは頭からかぶった毛布の中で重いまぶたを持ち上げた。
紅魔館の朝は早い。
毛布を口元まで下げて部屋を見回しても、窓がないため日の光から現在時刻を推し測ることはできないが、習慣通りならまだ未明だろう。
館の住人のほとんどは朝起きて夜寝るという生活サイクルを送っているので、とりたてて夜中に用事がない限りフランとレミリアもそのサイクルに合わせている。
とはいえ未明の起床というのはそのサイクルを考えてもいささか早すぎる。館の住人全員分の朝食を支度する咲夜や手伝いの妖精はともかく、他の館の住人は姉を含めてまだほとんどが夢の中だろう。
フランがこの時間の起床を習慣にしているのにはまた別の理由があった。
「んにゅ、おはよー咲夜。美鈴は?」
「部屋は覗いてみましたけど空でしたから、もう外に出ていると思いますよ?」
「そっか。じゃあ、わたしも早く支度しなきゃ」
「そうですね。お召し物は、ええと……。」
窓のない部屋には闇が満ちている。
夜目の利くフランは扉の隙間からほのかに入り込んでいる、光量を落とした常夜灯の明かりだけで十分に見渡せるが、人間の咲夜は手探りで部屋の明かりを灯した。
咲夜がこちらに背を向けてクローゼットを開いている間に、毛布を剥いでベッドに腰かけ、腕を伸ばして凝り固まった背筋をほぐす。
それほど妙な寝方をしたつもりはないのだが、なんだか不自然な窮屈さを覚えていたのだ。
と、胸元でプチンと何かが弾け飛ぶような音がした。
「フラン様、運動ですからこちらの服でよろしいで――」
「? どうかした?」
運動用の服を片手に振り返った咲夜の表情が凍りついている。
呆然とした顔のままフランの頭の上から爪先まで眺め、また足元から往復させた視線がフランの胸のあたりでぴたりと止まった。
次の瞬間、硬直した表情のまま、咲夜の両目からぶわりと涙が溢れ出た。それこそ滝のように。
「ど、どうしたの!?」
思わず駆け寄ろうとした足が不自然にもつれる。
「わ、と、と」
体勢を立て直す間もなく、フランは咲夜を押し倒す形でのしかかってしまった。
ちょうどフランの胸のあたりに咲夜の顔がある形だ。
すると今度は、しくしくしくと胸の間から泣き声が漏れ聞こえてくる。
「え、ごめんなさい! どこか痛かった!?」
慌てて身体をどけて自由にしてやるが、咲夜のすすり泣きは止まらない。
おろおろとするフランをしり目に、やがて咲夜はふらりと立ち上がると、そのまま幽鬼のような足取りで部屋を出て行ってしまった。
残されたフランとしては状況がまるで理解できない。とりあえず立ち上がり、咲夜が置いていった着替えに手を伸ばす。そこで違和感に気がついた。
衣服が、それを掴んだ自分の手と見比べると不自然なほど小さい。
よくよく自分の身体を確認してみれば、手足が異様に長かった。毛足の長い紅い絨毯を敷き詰められた床はいつもより明らかに遠く、見上げた天井は逆にやたらと近く見える。
一体なにが起こったのかと姿見の前に駆け寄って、今度はフランが絶句した。
*
目の前、と呼ぶには距離を取りすぎた位置に、人型を仮想する。
仮想の中の人型は両手をわずかに開き、顔の前に掲げている。
同様の構えを取り、芝生を踏みしめ一瞬で仮想敵の眼前へと肉迫した。
丹田で練り上げた"気"を左拳に集わせて牽制の一撃を放つ。
仮想敵が左手でこちらのジャブを払うのに合わせ、鋭くステップインして地を踏みしめた左前足、ひねった腰、右肩、上腕、そしてインパクトの瞬間に握り締めた右拳へと順番に気を通わせ右ストレートを一閃。
完璧なフォームに精密な気の運用を上乗せた一撃に、仮想敵のガードが弾け飛ぶ。しかしガードを弾いたところで、拳や肘による追撃を加えるのは間合いからして無理があった。
事実、仮想敵はすでに弾かれたガードを立て直そうとしている。
が、届かないのはあくまで拳だ。
ガードが戻るより先、右拳を振りぬいた腰の勢いもそのまま、左足を軸に右の爪先を跳ね上げた。
スネではなく靴の爪先が仮想敵のこめかみに突き刺さり、たまらず敵はよろける。
右のハイキックを放った勢いを止めず、右足が敵の懐近くの地面に接地すると同時に身体を反転。左の後ろ蹴りを鳩尾へ。
衝撃で吹き飛んだ敵との間に広がった距離を詰め、身体をくの字に折り曲げた敵の首を抱え込んで側頭部へ膝蹴り。
首は抱え込んだまま駄目押しとばかり、気を通わせた膝蹴りの連打で肋骨を砕き、内臓を潰し、首を放すと同時に左肘を振り上げ顎先を跳ね飛ばす。
意識を失いそのまま倒れそうになる敵の手首を掴むと、関節を破壊しながら一本背負いで宙空へと投げ飛ばした。頭から地面へ落下する敵の頚骨を蹴り砕いてとどめだ。
「……あちゃー、またやりすぎちゃいましたかねえ」
藍色の薄闇に包まれた館の中庭で、紅美鈴は身体を温めるための軽い運動をしていた。
以前であれば自らが得意とする八極拳や劈掛拳、あるいは太極拳の套路を行うのが朝の習慣であったのだが、最近は咲夜から教わった外の世界のグンタイカクトウギの動きを実践することが多い。
師匠はもちろん咲夜であるのだが、能力を使わない純粋な肉弾戦では妖怪である美鈴が人間である彼女に劣る道理はない。
だいたいの基礎やコンビネーションを教わってからは散手、グンタイカクトウギで言うところのスパーリングもままならないので、一人で技を磨く時はこうして仮想敵を想定して功夫を積むしかなかった。
もともと套路や中国武術の散手を行う際には仮想敵を相手取っていたのでそれ自体に支障はないのだが、グンタイカクトウギを扱う相手を咲夜しか知らないので自然、仮想敵の動きがどうしても彼女のそれになってしまうのが悩みどころだ。
集中している最中はともかく、首の骨を蹴り砕いて終わらせた後のなんともいえない罪悪感はどうにも後味が悪い。
ならそこまで徹底したとどめを刺さなければいいという話ではあるのだが、筋力、反応速度共に自分より上として設定した仮想敵を相手に手心を加えられるほど美鈴は器用でもなかった。
「それにしても、フラン様おそいなぁ」
見上げると、東の空はすでに滲んだ絵の具のような茜色で染まり始めている。
そもそも、近接戦に強い八極拳と遠間からの攻撃を得手とする劈掛拳を合わせて極めている美鈴がわざわざ咲夜にグンタイカクトウギを習った背景には、フランドールの強い要望があった。
「恥ずかしいから」と言ってハッキリは理由を明かしてくれないが、自身の能力を使わずに相手を制する術を学びたいのだという。吸血鬼としての膂力があれば本来、例えば人間を狩る程度は造作もないことなのだが、少し前まで地下に閉じこもっていたこともあってかフランは手加減というものが一切できない。
レミリアのように巧妙な手加減を伴わない吸血鬼の豪腕に振るわれた一撃が脆弱な種族である人間にかすりでもすれば、まず間違いなく致命傷だろう。
加えてフランの能力は「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」。それを振るおうものなら致命傷どころか木っ端微塵だ。
吸血鬼は肉体を維持するために人間と同様の食事も摂取するが、妖怪にとって重要である精神を保つためには人間の血液もある程度は定期的に摂る必要がある。精神の疲弊、ダメージは妖怪にとっては肉体の損傷以上に死に迫る要素だ。
レミリアとフランで二人分、せいぜい貧血になる程度の血液摂取のために人間をいちいち殺していたのでは里の外を出歩く狩猟対象(とはいえ狩り自体気まぐれで行われるのだが)そのものがいなくなってしまうため、基本的に狩りの際も人間を殺すことはない。
フランが地下にいた頃でも、一人の人間を調達するとわざわざ大がかりな魔法で長期の冷凍保存を施し、食事もかねて少しずつケーキなどに加工していたほどである。
地上に出てその事実を知ったフランは何か思うところがあったのか、武術を学びたいと申し出た。
武術とは人体をいかに効率的に破壊するかを追及する術。つまりは人体のどこをどの程度の力で打つと壊れるかを学ぶことができる術でもある。
中には相手を破壊するのではなく制するための技も含まれているし、フランが自身の膂力を制御する方法を学ぶ上では確かに有効だ。
紅魔館で武術を教えられる筆頭といえばもちろん美鈴なのだが、ここに少々問題が浮上した。
美鈴が修めているのは中国武術。中国武術はその歴史的な背景上、術理に観念的、思想的な要素が多すぎて、実戦で用いるレベルに至るまでにはいささか時間がかかりすぎる。
生きた年月はともかく教養や精神年齢が見た目とそう変わらないフランが理解するには難解なものも多い。
なら咲夜のグンタイカクトウギはどうかといえば、こちらは人体の構造や技の仕組みの解説に関して中国武術に比べれば合理的でわかりやすいものが多いのでフランが学ぶには向いている。
とはいえ、スパーリングのことを考えると人間の咲夜が吸血鬼のフランにそれを教えるのは荷が勝ちすぎてしまう。
咲夜に教わったのかレミリアにも腕力だけが取り得の妖怪を軽くあしらえる程度の心得はあるようだが、これも誰か、特にフランに教えられるほど熟練しているというわけではない。姉妹の基礎体力を考えれば下手を打つと殺し合いに発展してしまう懸念があった。
打開策として、美鈴が咲夜に短期間でグンタイカクトウギを習ってそれをフランに教えるという現在の形に落ち着くこととなった。
中国武術の下地がある美鈴がグンタイカクトウギを習熟するのにたいした時間はかからず、妖怪である美鈴ならうっかりフランの一撃を急所へもろに喰らったとしてもまず死ぬことはなく、結果としてこの案は上手く運んでいると言えた。
流石に屋内で暴れ回ると大惨事を引き起こしてしまうので、未明からフランの肌に危険が及ぶほどの日光が射すまでを稽古の時間に当てるのが日課なのだが、今日は少しフランが遅れている。
稽古場所には館の陰になって朝日が昇ってもしばらくは直射日光を浴びずに済む場所を選んではいるが、それでもあまり十分な稽古時間が取れているとは言えない状況なのは彼女も承知のはずなのだが。
「美鈴おはよ~、遅くなってごめんね~」
と、館の方から待ち人の声が聞こえてきた。
振り返り、「寝坊ですかー?」と軽口で応えようと開いた口が、そのまま硬直する。
「……あ、やっぱり錯覚とかじゃないんだ」
美鈴の反応を見て、金髪と、身体の突出した特定部分を上下に揺らして駆け寄ってきた人物はそう呟いた。
声には聞き覚えがある。というか、間違いなく待ち人の声だ。
「え、ええっと……フラン様、なんですか……?」
光にかざせば透けそうなほど白い柔肌。
艶のある金色の前髪から覗く真紅の瞳と、背中には特徴的な形状の翼。
それだけ見れば確かにフランドール・スカーレットの特徴と一致する。
ただ、それ以外の要素はことごとく自分の見知った彼女と異なる。
身長は美鈴より少し低い程度だろうか。身にまとったパジャマは明らかにサイズが合っておらず、袖口はすらりと伸びた手足の肘や膝のあたりまでしか届いていない。
記憶が確かなら比較的ゆったりとしたパジャマだったはずだが、今は布地がぴっちりと肌に張りつき、へそは剥き出し、胸元に至ってはボタンがいくつか取れて自己主張の豊かな膨らみが谷間を覗かせている。
鼻筋の通った彫像のような美貌と相まって、彼女は異様な妖艶さを漂わせていた。
もっと直截かつわかりやすく評するならば、年相応とは思えない無防備な所作と相まって、ぶっちゃけエロい。
「うん。フランだよ? なんかね、朝起きたらこうなってたのー」
ひょっとしてフラン様のお姉さんか誰かだろうか、ってそれはレミリアお嬢様じゃないかなどと混乱していた美鈴に対し、妖艶な美女は首を傾け朗らかかつ無邪気な笑顔を浮かべた。
どうやら中身は変わっていない。
しかし、身体の方は見間違えようがない。
――フランが大人になっていた。
*
「……こういうのも、異変と呼ぶべきなのかしらね?」
「ええ、異変です。頑として異変だと思いますお嬢様」
紅魔館、食堂。
シャンデリアに照らされた縦に長い食卓には、小間使いの妖精を除いた紅魔館の住人が勢ぞろいしている。
館の主のレミリア・スカーレット、従者の長である十六夜咲夜、美鈴とフラン。そして、普段は滅多に大図書館を出ることのない魔法使いパチュリー・ノーレッジと、その給仕役である小悪魔までもだ。
「あの、咲夜さん。その、そこまで騒ぐほどのことはないんじゃないですか? フラン様も別に体調の不具合とかはないみたいですし、特に問題はないと思うんですけど……。」
「美鈴、富める者の義務として、お願いだから貴女は少し黙っていてもらえる?」
テーブルに両手を突き、普段の落ち着きぶりからは想像もできない鬼気迫る表情で主に詰め寄っていた咲夜は、努めて凍てつかせたような微笑をたたえて美鈴を一瞥した。
美鈴とて武人のはしくれである。
咲夜のまとうそれは紛れもなく殺気。心臓に直接ナイフの切っ先を突きつけられたような悪寒を覚え、口を噤むことが賢明と判断した。
美鈴の反応に満足したのか、咲夜の視線は美鈴のかたわらで無邪気に朝食をほおばる美女……フランへと移された。
その視線には殺気こそないものの、一種羨望めいたものがある。
羨望、という点では美鈴もいくらか共感できる。
とにかく今のフランの姿は見目麗しく成熟した女性のそれなのだ。
さして自身の容姿に配るタチではないが、そんな美鈴をしてすら、わずかな羨望と感嘆を抱かざるをえない。
服装はちょっとした――咲夜にとっては大問題なのだろうが――事情で、他にサイズが合うものがないため美鈴の中華服である。
自分が普段着として着用するものの予備だが、フランが身にまとった途端にそれは真紅のドレスと呼んで差し支えない華麗さを醸しだしていた。
深く入ったスリットからは艶めかしく白い脚がのぞき、ここに男がいたのなら問答無用でその眼球を潰さなければいけないような義務感に襲われたりもする。
「で、原因になにか心当たりはある? フラン」
「ふぇ? 原因ってなに? お姉さま」
レミリアの問いに、フランは食卓から顔を上げて首を傾げる。
上背は美鈴と同じかそれ以上だ。座っていてもレミリアを見下ろす姿勢になる。
姉としてそこに多少思うところがあるのか、レミリアはほんのわずか顔を引き攣らせ、それを振り払うように咳払いをしてから問いに応える。
「貴女が一晩でそんなに成長してしまった理由のことよ。例えば、そうね――なにか変な薬品を口にしたとか、どこか妙な薬品に触れてしまったとか、あからさまにおかしな薬品を注射されたとか」
例を挙げるレミリアの口調は"薬品"のところだけ強調されている。ついでに言えば視線はパチュリーをじっと見据えていたりもする。
半ば以上にらまれたパチュリーは必死に目をそらしているが、その所作自体がレミリアの予測を裏づけていると言えるだろう。
百年以上を生きる魔法使いパチュリー・ノーレッジ。
七属性もの魔法を自在に操り、保有する魔導書は膨大な数に上る。
だが、魔法薬の調合に関しては致命的なまでに才能がない。
あるいはその膨大な魔力量ゆえの失敗なのかもしれないが、本人がそのことを憂い、日々弱点克服のために魔法薬を調合してみては失敗、トラブルの火種になるということは紅魔館では日常茶飯事である。
並の魔法使いの失敗作であればそもそもトラブルを起こすほどの効果など望めないそうだが、なまじ魔力が強力な分、薬品にこめられた魔法の効果が暴走すれば被害は甚大なものになる。
「あ。そういえば昨日、図書館で遊んでる時に喉が渇いちゃって」
――机に置かれていたジュースを飲んでしまった、と。
「言い遺すことがあれば聞くわよ? パチェ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って! 私は止めたのよ!? だいたい、片づけといてって言ったのに――」
「ええ!? そこで責任転嫁はずるいですよパチュリーさま!」
鋭い爪をちらつかせながら詰め寄るレミリアに対し、あからさまに狼狽する二人。
毒々しい紫色で、あまつさえボコボコと泡立っていたというビーカーに入った液体をジュースと判断して躊躇なく飲み干してしまったフランにも問題があると言えなくもないが、なにぶん彼女は地下から出るようになって日が浅い。そうした常識的な観点からの危機感知に疎いのは致し方ないとしたものだろう。
パチュリーと小悪魔には悪いが、今回はフラン(正確にはその成長により精神的ダメージを被った某二名)という被害者が出てしまったこともある。いつも以上にきつい制裁もやむなしと、美鈴はひっそりご冥福をお祈りしてみたりする。断じて本気になった吸血鬼の力が怖いから迂闊に手は出せないとかそういう事情とは無関係である。
ちゃっかり制裁に加わっているメイド長の姿は見なかったことにして、美鈴はフランと仲良く朝食に手をつけ始めた。
* * *
美鈴の動体視力は妖怪としても規格外のものである。
しかし武術において動体視力は、優れていればいるほど有利というものではない。
もちろん優れているに越したことはないのだが、至近距離から放たれる敵の一撃――とりわけそれが人外のものともなれば――をいちいち視認してから回避行動に移ったのでは、どうしてもコンマ数秒単位での攻撃の駆け引きにおいて遅れを取ってしまうものだ。
ゆえにより重要視されるのは"観の目"。
物体の部分を見るのではなく全体を観る視野が重要とされる。
早い話、例えば敵の拳がいつ来るかをその拳を見つめて判断、回避ないし防御するのでは反応が遅れる上、見つめていた拳以外での攻撃への対処が難しくなる。
だが敵の身体全体を眺めていれば、拳が突き出される直前の予備動作、すなわち腰の回転や肩の動きから事前に察知できるのだ。
ゆえに、
「うわ――っとと」
瀑布の如く襲いくるフランの連打を紙一重で美鈴がさばき続けていられるのも、ひとえに武人として培った"観の目"の恩恵によるものと言える。
「シッ!」
鋭い呼気と同時に飛来するフランの右ストレートの軌道を、伸ばされた手首に掌をそえることで自身の顔面からそらす。
間髪入れず、拳を振るった腰の回転をそのままに跳ね上がってくるコンビネーションの右ハイキック。これには重心を落とし、上体を柔らかく使うことでなんとか両腕で受け威力を殺す。
それだけでギシリと腕の骨が軋むが、構わず一歩踏み込んで肘を突き出した。
付け焼き刃の武術ではこらえきれなくなり使用を解禁した八極拳の頂肘(肘打ち)だが、フランはかなり無理な体勢にありながらも左の掌で肘先を包み込むように受け、勢いに逆らわず片足で地を蹴り後退する。
後ろ廻しの要領で半回転、フランのスネを狙った美鈴による左の斧刃脚は、予想以上に距離を取られて空振りと終わった。
その隙を好機と見てか、再びフランは攻勢に転じる。
美鈴の左脚は空を切った勢いで未だ接地していない。この体勢では遠心力をともない振り下ろされる右のロングフックの威力はとうてい殺しきれないが、生憎と長年積み上げてきた美鈴の功夫はそこまでぬるくなかった。
左足の接地を待たず右足で地面を蹴り、フランのフックをかいくぐると同時に腰を落としその懐へ。
両足の震脚に合わせて左右の掌を前後へ突き出し、右の衝撃がフランの胴体を打ち抜いた。
八極拳の"打開"によるカウンターをまともに受けたフランの表情が苦悶に歪む。
吹き飛びかけるフランの右手首を突き出した右手で掴み引き寄せ、そのこめかみに気血を通わせ遠心力を上乗せた手刀を一閃。
劈掛拳の一手、"烏龍盤打"による駄目押しでフランは流石に脳震盪を起こし、膝から崩れ落ちた。
*
「うぅ、まだクラクラする……。最近の美鈴、ほんとに手加減なくなったよね……。」
「あはは、すいません。まあほら、それくらいフラン様の呑み込みが早いってことですよ」
紅魔館の外壁に背中を預け、日陰となった芝生で休憩を取る二人。
こめかみを押さえやや恨みがましく涙目を向けてくるフランに、美鈴はぎこちない苦笑いで受け答えていた。
実際問題、彼女の呑み込みの早さは尋常ではないのだ。
以前、戯れにレミリアへ"鉄山靠"を教授した時にも思ったことだが、吸血鬼という妖怪はその膂力もさることながら、本来気が遠くなるような反復練習の末に身につけるはずの技が染みつくまでが早い上に、一度覚えた技を忘れることがない。
武術とは元来、体力に劣る者が技を以って体力に優れる者を倒すための術とも言われる。
しかし効率も何も度外視し、問答無用の破壊力を持った種族が身につけるとかくも恐ろしいことになるのかと、美鈴は内心で戦々恐々としていたりする。
本来は牽制や相手をコントロールする為に使われるという左ジャブもフランが放つとなると、人間相手なら十二分に一撃必殺であるし、完璧なフォームとタメを作って放たれる右ストレートの威力に至ってはオーバーキルもいいところだ。
加えて今のフランときたら――、
「ん? どうかした?」
小首を傾げるその所作こそ子供らしいが、相変わらず身体の方は立派な成人女性のままなのである。
秘奥に至る万能薬――の、試作品。
それがフランの口にした魔法薬の正体らしい。パチュリー曰く、薬の精製に使われた大規模な魔法陣を媒介としてあらゆる奇跡を叶える薬だとか。
要するに飲んだ者の理想をどんなものでも叶える薬の失敗作である。
図書館の更に地下、霊脈上に張られた魔法陣自体はすでに消去済なのだが、それでも一向にフランの身体が元に戻る兆候はない。
ついでに言えばフラン自身に「大人になりたい」などという望みもなかったという。そういった意味でもやはり失敗作なのは疑いようがなさそうだった。
この問題に関しては目下パチュリーが不眠不休で対策案を練っている最中だ。
……というか、どうして魔法薬の調合が苦手なのにいきなりそんなハードルの高そうなものを作ってしまうのだろう。
「ん。休憩終わり。じゃ、続きしよっか?」
「はーい」
フランの提案に、こっそり集中力を高めつつ立ち上がる。
レミリアに聞いたところ、吸血鬼も人間より遥かに遅いだけで身体の成長はあるのだという。大人となったフランの身体能力は、少なく見積もってもレミリアの倍近くある。
実戦、特に武術の熟練者同士でのそれとなると全力で打ち続けてはスタミナが保たない。
攻防の駆け引きを学ぶ過程で当初の目的だった手加減の仕方などはフランも身につけつつあるが、それでも力を篭めた一撃に関しては気の運用をわずかでも誤れば受けた美鈴の骨折は確実。
今のところ経験値の差でなんとか師としての威厳は保たれているが、それもいつまで保つことやら。
(ていうか、威厳と同時に私の身体が壊れたりとかしませんように……。)
そんなことを内心でぼやきつつ身体をほぐす。
再度フランと対峙し、互いに地を蹴る。
人外同士の苛烈な衝突音が、この朝もいつも通りに紅魔館の外壁を震わせる。
*
結果から言えば、美鈴の懸念が現実のものとなることはなかった。
本物の異変はその日の夜。
突如現れたある外来人によってもたらされることになった。
*
「ヴァン・ヘルシング……確かに男はそう名乗ったのね?」
「ええ。間違いないわ。それにしても、何者なの?」
空間の隙間から上体を覗かせた八雲紫に、レミリアは苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
かたわらに侍した咲夜は顔を伏せ努めて無表情を貫こうとしているようだが、引き結ばれた唇は何かに怯えるかの如く小刻みに震えている。
咲夜がそもそも外来人であることは聞き及んでいる。どうやら彼女も無関係ではないようだ。
「うちの血筋にとっては因縁浅からぬ相手ってとこかしらね。それで、博麗の巫女は?」
「私と同じで外傷はたいしたことないわ。今は結界の方にかかりきりよ」
「……そう。それじゃ、貴女も戻った方がいいわね。一応、忠告は感謝しておくわ」
「あら、随分とまた殊勝な心がけね。それなら、貸しひとつってことにしておこうかしら」
言いつつ、隙間の中に紫の姿は消えていく。
幻想郷と外の世界を隔てる二重の結界が破られたのだ。これからその再構築に取り掛かるのだろう。
「死ぬんじゃないわよ。ここの連中が死ねば、それだけで幻想郷のパワーバランスは大きく崩れて大迷惑なんだから」
激励とも憎まれ口ともつかない言葉を囁くように残し、紫は完全に姿を消した。
しばし重い沈黙が食堂に垂れこめる。レミリアは思案げに机に両肘をつき、咲夜は変わらず佇んでいる。美鈴やフラン、小悪魔は事態が呑み込めずにその様を静観する他ない。少なくともあまり好ましくない人物が幻想郷に押し入ったというのは理解できるが。
沈黙を破り、口火を切ったのはパチュリーだった。
「ヴァン・ヘルシングって……レミィ、確か外の世界の小説に出てくる人間の名前じゃなかった?」
「? ああ、そういえば外の世界では架空の人物ってことになってるようね。その小説なら私も読んだけれど、私の知っている人物とはだいぶかけ離れていたし。アイツはあんな、相談役なんて回りくどいやり方をする人間じゃないわよ」
その後、レミリアがかいつまんで話した男の人物像はこうだ。
ヴァン・ヘルシング。
外の世界の魔法使い――正確には魔術師と呼ばれる人間であって、種族としての魔法使いとは異なるらしい。幻想郷で言えば魔理沙に一番近いか。
現在では特定の人物を指す名前ではなく、最も古く威厳のある吸血鬼ハンターの血筋の長に冠される名前なのだとか。
直接の血縁はないものの、レミリアが大祖と仰ぐツェペシュや、スカーレット家とも古くから争い合う間柄だったという。
"ヴァン・ヘルシング"はあくまで称号のようなものであって、当代の彼とはレミリア自身も面識がないという。
しかし、おそらく当代のヴァン・ヘルシングと目される人物と面識のある人間が一人だけいた。
「私がここ、紅魔館にやって来てから数年……先代はすでに隠居された身でしたから、家督とその秘術がすべて譲られ、代替わりした可能性も十分に考えられます」
十六夜咲夜はそもそも、吸血鬼ハンターとしてこの館を訪れた。
その裏にはヘルシング家がついており、咲夜が幻想郷に入り込むことができたのも、先代のヴァン・ヘルシングの後押しがあってこそだったという。
「けど、そんなに厄介な相手なんですか? 魔法――魔術でしたっけ? そんなもの使えるとはいえ、一応は人間なんですよね」
美鈴は率直な疑問を口にした。
レミリアと咲夜は、ヴァン・ヘルシングなる"人間"に対し明らかな脅威を抱いている。
だが、魔法が使えようと魔術が使えようとしょせんは人間。仮に弾幕を打ち消す類の厄介な能力を備えているとしても、咲夜の能力や、吸血鬼の膂力に敵うとはとても思えない。
咲夜は伏せていた顔を上げ、いっそう苦った表情のまま美鈴に告げる。
「厄介どころか、吸血鬼や他の人外にとっては天敵と言っても良い相手よ。少なくとも彼が先代の秘術を受け継いでいるなら間違いなく。加えて、人間である私にとっても――」
瞬間、館を揺さぶる巨大な衝撃が食堂を襲った。
音源は正門だ。
咲夜が顔色を変えて駆け出すと同時、レミリアは鋭く指示を発した。
「パチュリー、小悪魔、フランは妖精を連れて地下へ。
美鈴、貴女なら戦力になるかもしれない。
咲夜の後を追うわよ――!」
*
悪夢、としか表現できない光景だった。
男は一人だ。歳の頃は二十代後半といったところか。身長は美鈴より頭ひとつ分は高い。細身ではあるが、身にまとうくたびれた黒革のコート越しにも全身くまなく鉄のように鍛え上げられていることが窺える。黒に近い茶髪は無造作に肩先まで伸ばされ、その細面と相まって美丈夫と呼んで差し支えない容姿ではあるのだろう。
だが、美鈴は男の容姿を見ただけで寒気を覚えた。
原因はおそらく、その瞳。
鋭利な刃物の如く細められた青い双眸は、ぎらぎらと血に飢えた捕食者のそれを連想させる。
「まったく。何年も帰って来ないと思えば化け物の従者に成り下がっているとはな。身寄りのない貴様を引き取り鍛えてやった親父が見れば嘆くぞ、人形」
床に伏した咲夜の頭をブーツの靴底で踏みつけ、男――ヴァン・ヘルシングは呆れたように呟いた。
勝負は一瞬だった。
しかしその一瞬を、美鈴の動体視力はハッキリと捉えてしまっていた。
レミリアに追従する形で館のエントランスまで辿り着いた時、すでに咲夜は無作法に扉を破壊し侵入した敵と臨戦態勢にあった。
おそらく時を止めたのだろう。十メートル以上の距離を置いて敵と対峙していた咲夜の姿が掻き消え、――次の瞬間には紅い床へと叩きつけられていた。
その一瞬の間にも攻防はあった。
咲夜は自らの能力が男の眼前で解除されることを予測していたかのように、迷いなく両手のナイフで斬りかかったのだ。
だが、男は人間としてもあまりに鋭い咲夜の動きにたいして驚いた素振りを見せることもなく、躊躇なく彼女の両手首を掴み、へし折り、その頭蓋へ膝を突き入れた。
「その汚い足を離しなさい、ヴァン・ヘルシング!」
まるで路傍の石をどけるかのような気安さでそのまま咲夜の頭蓋を踏み砕こうとする男に、レミリアの叱責が飛ぶ。
男は振り上げた足を床に下ろすと、美鈴と共に螺旋階段の上にいる声の主へぎょろりと視線を投げた。
それだけで、背筋に理解不能の悪寒が走る。
目の前にある、偉大にして高潔、絶対であるはずの主人の肩がひどく小さく頼りないものに見えた。
「レミリア・スカーレットか」
男は表情もなく事務的な、それでいて殺意に満ちた眼差しでレミリアを検分すると、ゆっくりと階段へ歩み寄って来る。
レミリアはそれを許さず、掌から紅い無数の弾幕を放つ。円錐を象り一直線に敵を穿たんと放たれたそれは、優雅さも美しさも度外視した、純粋に殺傷力のみを追及したものだとわかる。
弾幕は全弾が男に命中していく。
しかし、
「ふん。耄碌したか吸血鬼。まさか"ヴァン・ヘルシング"にこんなものが通用すると――」
それを受けて敵が健在であることに驚く暇などなかった。
弾幕が射出される大音声の中、ひときわ大きく乾いた破裂音が轟いたのだ。
男の身体がその背後へと傾ぎ、倒れる。
混乱する美鈴をよそに、レミリアは自身の弾幕が巻き上げた細かな瓦礫で煙る視界の向こうを真剣な眼差しで見つめ、重ねて何度も右手から破裂音を轟かせる。
その手にあるのは、拳銃だった。ここ最近の彼女が趣味にしている射撃で用いる、外の世界の武器だとは聞いている。
人外相手には石礫以下の玩具だ。
それをあの人間離れした敵と対峙したこの局面で使用する意図が美鈴には読めない。
「チッ」
苛立ちに満ちた舌打ちはレミリアのものだった。
煙っていた視界が晴れる。
そこに、全身のところどころから血を滲ませつつもゆっくりと身を起こすヴァン・ヘルシングの姿があった。
*
「まさか、吸血鬼がそんなものを手にしているとはな」
備えあれば憂いなしとはこういうことかと、ヴァン・ヘルシングはひとりごちた。
かつて第一線を退き、秘術を息子である自分に譲る過程で、物は試しと先代の助力によりこの幻想郷に送り込まれた人間がいた。
ナイフや時には銃器を得物とする彼女への対策として念のためケブラー繊維の防弾コートと防刃素材のインナーを重ねて着込んでおいたのだが、よもや吸血鬼を相手にこんな装備が役立つとは思いもしなかった。
顔をかばった左腕の骨にヒビ、肋骨も二本砕かれ、内臓にも多少の損傷は受けている。
自身の負傷状況を冷静に分析し、流血の程度も確認。
高級な防弾コートとはいえ決して分厚いものではない。
人外相手の業者の常道として装備の裏に防護呪符を縫いつけ強化はしてあるが、生憎とヘルシング家の秘術は自身の魔力にまで干渉してしまう。秘術を行使し続けている現在、呪符の効果は望めない。
幸いにして敵の拳銃はブローニング、弾薬は9mmショート。
マグナム弾でも使われていれば今の一撃で殺されていただろうことを考えるに、この程度の負傷で済んだのは僥倖としたものだろう。
なにより、
「流石に驚いたが、今の一撃で仕留め損なったのは致命的だな吸血鬼」
関節への損傷もなく、身体はまだまだ十全に動く。
女子供の吸血鬼が相手なら、まず自身の敗北はあり得ないと言って良い。
ヘルシング家の秘術とは、すなわち"幻想を霊長の常識にまで貶める"魔術である。
その実体は捕捉レンジ半径5メートルほどの結界。結界内では吸血鬼だろうと竜種だろうと、人類の常識の縛りを受けることになる。
幻想の比重が強ければ強いほど効果が強まり、世界――この幻想郷では外の世界とされる場所か――の常識から外れ、姿形からして"ありえない"とされる存在なら結界内においてのみだが存在そのものが消滅する。
幸か不幸か吸血鬼の姿形は人間とそう大きくは変わらず、外見上で消えるのはせいぜいあの翼程度だ。
が、結界内では常識外の膂力も発揮できず、なまじ普通の人間程度には存在を保ててしまうため通常の物理的な手段での殺害が可能となる。
それこそが、"ヴァン・ヘルシング"の名が吸血鬼の天敵とされる理由。
作家、ブラム・ストーカーがどこまで当時の"ヴァン・ヘルシング"について知る人間だったかは知らないが、作中と同様、ヘルシング家は代々精神医学への造詣が深かった。
人外は肉体以上に精神や魂といった部分に生命の比重を大きく持つ。事実、他の同業者は神殺しや呪いの逸話を持つ魔剣、魔槍、あるいはそれらの模造品や、時には伝説上の英雄の力を降霊術により一部借り受けて得物とするのが常だ。中には純粋な概念そのものを武装化して用いる機関もあると聞く。
だが、ヘルシングはそういった武装を用いる必要のない魔道の秘奥へ到達した一族だ。
人間の集合的無意識。ユングの提唱した共時性とおおまかな論理は同一だ。
人類は無意識下で共有する意識領域を持っている。
その大多数の人類が無意識下に持っている"常識"を結界として具現化すれば、人外の持つ常識外の能力やその存在そのものを外の世界の人間が常識内と認める範囲にまで貶めることが可能となった。
自身の魔術すら"常識外"として結界の展開中には使用不能となるが、それを補って余りある戦闘技術の練度は同業者間でも飛び抜けている。
レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレット。
ヘルシングの秘術を前に、幼い吸血鬼は外見通り、幼い子供と同様の膂力しか持ち得ない。
捕捉レンジが限られるため何代にも渡り取り逃がしてきた相手ではあるが、当代のヴァン・ヘルシングである彼は秘術をさらに発展させた。
魔力の通りやすい銀の弾丸にこめた秘術はほんの刹那だが効果を持続し、民間の伝承通り、確実に魔を殺す武器と化す。
先ほどのそれは予想外の奇襲ではあったが、油断がなければ弾丸をよける程度の芸当はいくらでも可能だ。
懐から抜いたオートマチックの拳銃を片手に、彼は必殺の確信を持って吸血鬼へと足を向ける。
「そこで止まれ」
と、吸血鬼が留まる階段の前で邪魔が入った。
中華風の民族衣装に身を包んだ赤い長髪の女だ。
外見からは人間にも見紛うが、
「人外、か」
「ああ、妖怪だよ。ついでに言えば、この館の門番でもある。アンタみたいな人間風情に、これ以上ここを荒らされるのは不愉快だ。帰れ」
「随分と嫌われたものだな。見たところ、人外ではあっても吸血鬼のように人間を同族へ貶める厄介な類ではなさそうだ。大人しく道を譲ってくれるのなら、危害を加える気はないのだが?」
悪い取り引きではないと思うのだが、女は無言で腰を落とし、おそらくは中国拳法と目される構えを取った。
己の秘術を以って結界を破った時に立ち塞がった人間の巫女や妖怪もそうだが、なぜ吸血鬼などかばうのか、まったくもって理解に苦しむ。
軽い頭痛を覚えながら、魔弾の浪費をさけるため拳銃はホルスターに仕舞いこむ。
神社の連中は軽くあしらう程度で済ませてやったが、どうやら目の前の人外には厄介と呼べる程度に武の心得もある様子。
手心など加えて時間を浪費している間に吸血鬼どもの逃走を許せば目も当てられない。
となればすべきことはひとつ。
「殺すか」
無感情に呟くと、彼は一瞬で女の眼前へと肉迫した。
*
人間にしては恐ろしく速い初動だったろうが、美鈴は容易にそれを目視できた。
だが、できたのは目視だけだ。
男が美鈴の攻撃の射程圏内に入るか否か、その瞬間、全身に巡らせた気が霧散するような錯覚に囚われた。
見えていたはずの男の動きが、今はあまりにも速い。
ひるがえる鈍色のナイフの切っ先を紙一重でかわし、踏み込みながら拳を突き出す。
本来であれば男の内臓を破裂させたであろう一撃は、いとも容易く男の左腕で払いのけられた。
こちらの右腕を内側に払った勢いもそのまま、敵は身体を反転させ、右の後ろ廻し蹴りを放ってくる。
側頭部へ襲いかかったブーツのかかとを受け止めた両腕が軋んだ。
まるでフランの一撃を受けた時のような衝撃に、美鈴はようやく先ほどレミリアから耳打ちされた内容を実感する。
――これが、ヴァン・ヘルシングの秘術。
妖怪の力を外の世界の"常識内"に貶める魔術。美鈴の妖怪としての膂力、そして当然、気を使う程度の能力そのものも封じられている。
錯覚ではなく、実際に美鈴の全身を巡っていた気は霧散させられたのだ。
こうなっては、美鈴の筋力は人間の女性とそう変わらない。
なんとか敵の攻撃をしのげているのも、ひとえに日頃から修練を怠らなかった武術のおかげだ。レミリアが自分なら戦力になるかもしれないと考えたのはそれゆえだろう。
だが敵は男性、人体を破壊する術の心得も美鈴と同程度には持っている。
勝負を分けるものがあるとすればそれは互いの体力であり、女性である美鈴は間違いなく敵に劣っている。
「く……ッ!」
突き出された刃物をあえて掌に深々と刺すことで受け止め、顎先を狙った蹴りで無理やり敵を一歩下がらせる。
刃物の扱いには慣れていないし、奪い返されても厄介だ。
敵が咄嗟に手放したナイフを抜き、遠くに放り投げつつも美鈴は歯がみする。
得物は奪ったが、形勢の不利は変わらない。
実を言えば、わずかな攻防の中で敵を打倒しうる策なら見つけた。
だが、レミリアを背後にかばっている上、実行するにはリスクが大きすぎる。
レミリアが逃げてくれるのなら男の不意をついて実行は可能かもしれないが、最大の問題は敵が懐に仕舞い込んだあの拳銃だ。
直感だが、あれには男を中心に作り出されるこの不快な空間以上に不吉な予感を感じるのだ。
おそらくは吸血鬼を遠距離からでも殺し得る武器なのだろう。レミリアもそれが理解できているからこそ微動だにせずにいる。
男の殺気は自分とレミリア、双方へ同等に向けられていた。
わずかでもレミリアが妙な真似をすれば、美鈴から手痛い一撃を受ける覚悟で彼女を狙い撃つはずだ。
吸血鬼の瞬発力を以ってしても避けきれない射撃の技量もおそらくは持っていると考えるべき。
この男は強い。
実際、集中力をレミリアにも割いてくれているおかげでわずかだが反撃の余地があるのだ。
美鈴一人に殺意を絞られれば、数合で勝負は決まっていたに違いない。
だがその数合でレミリアは逃げられる。
それがわかっているからこそ、時間と体力は割くが確実に美鈴を仕留められるこの状況を敵は選んでいるのだ。
「美鈴――!」
せめてほんの数秒でも男の動きを止められれば――。
唇を噛む美鈴の耳に飛び込んで来たのは、聞き馴染んだフランの声だった。
*
(フランドール・スカーレット……?)
不意打ちで背後から放たれた蹴りを身をひねることでかわしつつも、ヘルシングは俄かな動揺を隠せずにいた。
現れたのは金色の長髪に真紅の瞳を持つ成人女性だ。
それらの特徴と吸血鬼としても異様な形状の翼は、事前に得ていた情報と一致する。
だが、その容姿は姉のレミリアより明らかに年上のそれだ。
そんな事態のみならば驚嘆には値しない。
相手は人外。加えて妹の方には多少ながら魔術の心得もあると聞く。ヘルシングの秘術に、その魔術を用いた肉体操作で対抗しようとしたのなら十分に理解の範疇だ。
しかし、結界の内に踏み込んでなおその容姿が元に戻らないのはどういうカラクリか。
結界が持つ効果の有効条件は霊長の集合無意識が"常識外"と認定する事象への干渉。
術者であるヘルシング自身ですら、結界の展開中は己の魔力を奪われるのだ。
にも関わらず、フランドールの容姿の変化は背中の翼、その消失に限られている。
(まさか……。)
中華服の人外とフランドール、前後から瀑布のごとく飛来する連撃を冷静にさばきつつ、ヘルシングの脳裏にはひとつの仮説が閃いた。
似たような矛盾は実のところ、ヘルシングの結界も抱えているものだった。
"警報"や"一度限りの防御"といった簡易な結界であれば、大気に満ちる魔力を吸い上げる陣によって自律させることは可能である。
だが、ヘルシングの結界はそんな生易しいものではない。
カテゴリーでいえば外部の魔力を術者が汲み取り、常に流しこみ続けることでしか維持できない類の結界だ。
しかしこの結界は術者自身、その魔術師としての機能にすら干渉する。
要するに結界を維持するための魔力は結界を発動させたが最後、術者による供給が不可能となる、本来であれば成立しえない魔術である。
ゆえに、厳密にいえばこれは結界などではない。
霊長の集合的無意識内の"常識"を、一時的に現界させる降霊術に近いものだ。
当然のことながらヘルシング自身も霊長の集合的無意識に繋がりを持つ人間の一人。起動に際してはその繋がりを頼り結界を現界させ、維持が可能な制限時間は起動時に注ぎ込んだ魔力量に左右される。
館への侵入に際してはほぼ最大、二時間弱の持続時間を見込んで結界を展開した。
無論、降霊の際には維持させる時間に比例する膨大な魔力消費を強いられるが、起動中の魔術行使はそもそも不可能となる前提だ。問題はない。
(よもや、この吸血鬼がそこまで熟練した魔術師だとは――ッ!)
ヘルシングが思い描いた仮説とは、フランドールが自身の秘術と同様の原理を用いた魔術により成人した人間の肉体を保っているというものだった。
すなわち、幻想郷でもその外でもない、"世界の外側"への干渉。
具体的にそれが何かはわからないが、この世の条理が通用しない外部との連絡により為された魔術であるのなら、確かにこのような事態もあり得る。
いささか敵を侮りすぎていた。
自戒しつつも、依然として彼の瞳は必殺の意に満たされている。
攻防の組み立てを見る限り、フランドールにも武術の心得はあるようだ。だが、技量で言うなら自分や中華服の人外より一段階は劣っている。
幸いにして膂力は人間の女と変わらない。結界の展開時間にもまだまだ余裕がある。
なら、己の為すべきことはひとつ。
邪魔をする人外とレミリア・スカーレット共々、彼女の息の根を確実に止めることだけだ。
*
「フラン!?」
「フラン様!?」
レミリアと美鈴の発した驚き、そして「なぜ来たのか」という非難の混じった声に応える余裕もなく、フランは眼前の男が放つ蹴りを上腕でブロックした。
間髪入れず、美鈴の呼吸に合わせて左拳を突き出すが、美鈴の攻撃と合わせて男は難なくそれをさばく。これでは牽制にもなりはしない。
"ヴァン・ヘルシング"とその能力については幻想郷に来る以前にある程度は知らされている。
それゆえ、美鈴と連携を取り、にも関わらず劣勢を強いられながら、この事態はフランにとってはむしろ僥倖だった。
ヴァン・ヘルシングの展開する結界は、魔法も能力も吸血鬼の力も、すべて人間レベルに貶めてしまうものだと聞いていた。
事実、フランは結界の外からでも男を破壊するための核を取り出すことはできなかったし、筋力も普段とは比較にならないほどに落ちている。
しかし、そこを巡る神経が消えたかのように感じているので翼こそ消えているのだろうが、フランの身体は大人のままだ。
厳密な原理が不明とはいえ、フランの身体の異常はパチュリーの魔法薬によって起こったもの。
なら、男の結界に踏み込んだ瞬間、自分の身体も元の子供へ戻るだろうと覚悟していた。
男は相手が子供だろうと、吸血鬼に対し容赦などしない。
端的に言って、フランは男に殺される覚悟でこの場に来たのだ。
子供の筋力で敵う相手ではないと知りながら、自殺行為と知りながら、それでもここへ来た。
理由など、簡単だ。
「嫌、なの」
自分のせいで、誰かが傷つく。
「もう、嫌なの……!」
自分のせいで、誰かが死んでしまう。
そんなことは耐えられない。
本当は、地下を出ることだって怖かった。
また、誰かを傷つけてしまうかもしれない。
また、誰かを殺してしまうかもしれない。
そんな自分が怖くて、こんな怖い自分は他のみんなだって怖いだろうと、ずっとずっと長い間、思い込んでいた。
けれど咲夜は怖がることなく毎日地下へ食事を運んで来てくれた。
レミリアは半ば強引にでも、自分を地上へ連れ戻してくれた。
美鈴はまるで地下に閉じこもっていた時間の分だとばかり、たくさんたくさん遊んでくれた。
パチュリーは魔法について教えてくれた。
小悪魔はたくさんの面白い本をすすめてくれた。
妖精たちも、こんな自分にいつも笑いかけてくれた。
「だから――」
フランの言葉を遮るように、男の肘が脇腹にめり込む。
肋骨が折れた。痛くて涙が出そうだった。
けれど、それでもフランは踏み止まり、男の顔へ握り締めた拳を放つ。
「だから、わたしは――、」
フランはみんなが好きだった。
力の加減を誤って、うっかり色んなものを壊してしまうこともあったのに。
それでも怖がらず、自分に笑顔を向けてくれるみんなが、フランは大好きだった。
好きになると、余計に自分が怖くなった。怖くて怖くて、それで美鈴に頼んだのだ。
武術を教えて欲しいと。
自分の力を制御する術を身につけたいと。
もう誰も、大事な誰かを傷つけなくて済むように。
もう誰も、大事な誰かが傷つけられることのないように。
だからフランは絶対に、
「――わたしは、みんなを、守りたいのッ!」
美鈴を、咲夜を、レミリアを、みんなを傷つける、眼前の男を許すことなんてできない。
*
「フラン様、十秒です!」
フランの啖呵を聞いて、美鈴も腹を決めた。
唐突な美鈴の指示に、男の肩越しにフランが戸惑うのが気配でわかる。
「十秒、コイツを足止めしてください!
そしたら後は、私が絶対なんとかします!」
策はあるが、勝算はゼロだった。
しかしフランの介入と、その覚悟により、五分とはいかないまでも、それに近い勝算が得られる。
分の悪い賭けだが、今は賭ける他になす術がない。
おそらくもう喋る余裕もないのだろう、フランは無言で首肯するのがやっとだ。
敵の方も良からぬ気配を察したのか美鈴への攻撃にさらなる殺意をたぎらせたが、――美鈴は大きく後退することでそれをかわした。
敵が戸惑い、こちらの真意に気づくより速く、鋭いバックステップで男の結界の有効圏内から飛び出し、蘇った妖怪の膂力でさらに距離を取る。
敵はこちらの意図に気づいたのか、懐の拳銃に手を伸ばそうとする。
当然の判断だ。今までは距離が詰まりすぎていた。だからこそ敵は飛び道具を封印せざるをえなかった。
だが、距離が開くのならおそらくは吸血鬼すら確実に狙い撃つ技量と魔弾、それだけで勝負はつく。
しかしそれも先刻までの話。
敵が懐に伸ばしかけた腕は、背後から襲うフランの膝を受けるため封じられた。
十秒間。
技量と筋力の差を考えれば相当に苦しい賭けだが、その間をフランが凌げるのなら、確実に男を殺せる。
逆にいえば、それができなければ殺されるのはこちらだ。
一秒経過。
美鈴が敵から必要最低限の距離に到達する。
二秒経過。
一度霧散した気を再度練り直すには多少の、しかし現状では気の遠くなるほどに長い時間がかかる。
三秒経過。
フランは呼吸など度外視した連撃で敵を攻め続けている。
呼吸を整えた美鈴は傷ついた身体の痛みを忘却し、丹田で気を練る。
五秒経過。
フランの顎に、敵がカウンターの拳を入れる。続けざまに腹部への膝蹴り。口から血を吐き、ふらつきながら、しかしフランは敵のコートを掴んで関節を取りに行く。
美鈴は練った気を全身の経絡に巡らせる。
七秒経過。
逆に関節を取られ、フランの身体が宙を舞う。ごきりと骨の折れる音とフランの苦悶。
巡らせた気血が男を殺すのに必要な質に達する。
九秒経過。
美鈴は床を踏み抜き、弾丸じみた速度で男との距離を詰める。
迎え撃つ形で男が拳銃を抜く。
頭蓋を蹴られたフランは床に倒れたまま動かない。
男の指が引き金にかかり、美鈴は敗北を覚悟する。
九・五秒経過。
乾いた銃声。
男の拳銃はまだ火を噴いていない。
音源は階段の上だった。
九・六秒経過。
コートで凌いだのか、男はレミリアの銃撃に堪えて美鈴に再度照準を合わせる。
九・七秒経過。
二つの弾幕が刹那の間だが男の視界を塞ぐ。
七色のそれはパチュリー、もうひとつは小悪魔のそれだ。
九・八秒経過。
男の結界の有効圏内に美鈴の身体が入る。
すでに加速を終えた美鈴の身体のスピードは結界内でも衰えない。
しかし男は射殺を諦め、一度仕切り直すため美鈴の攻撃をかわそうとしている。仕切り直されれば勝機はない。
九・九秒経過。
回避のために動きかけた男の足が止まる。
思わず足元を見た男の表情が凍る。
時を止めて近づいたのだろう、咲夜と、そしてフランが折れた腕で両足に絡みついている。
十秒経過。
乱雑に脚を動かして男が二人を蹴り払う。
我に返って顔を上げた男の視界に美鈴はいない。
「八極拳――」
声は懐から。
速度を緩めないまま、美鈴は自身の脚が折れるのも気に留めず床を強く踏みしめている。
「――鉄山靠ッ!」
人外の速度を伴う美鈴の肩先が男の胸に突き刺さる。
筋肉が断裂し、胸骨が砕け散り、心臓が破裂する音を聞きながら、男は自身の敗北と死を実感する。
* * *
「結局なんだったのかしらね、アレ」
「パチュリー様曰く、フラン様の願望が未来の危機に先んじて成就した――ということですけど」
朝のティータイム。パラソルで陽射しを遮るテーブルに肘をつく館の主とその従者はそんな会話していた。
あれから数日。
結局、フランの身体はヴァン・ヘルシング殺害直後に元へ戻った。
――わたしは、みんなを、守りたいのッ!
あの時のそれがフランの願望であるのなら、確かにパチュリーの説は正しいのかもしれない。
あらゆる奇跡を叶える万能の魔法薬。そもそも調合が苦手なくせに彼女がそんなハイレベルなものを作ったのは、ある意味では正しい判断だ。
彼女の魔法薬調合失敗の一因には、その膨大な魔力量がある。なにしろ単に魔法を行使するのではなく、薬品という形ある物体に魔法をこめなくてはならないのだ。小さな風船にキャパシティを超える水を注げば、結果は明らか。
実のところ、小さな力で大きな効果を持つ属性魔法を得意とし、かつ七属性を変幻自在に組み合わせて行使可能というでたらめさの背景には、あまり大きな魔力が必要な魔法を行使すると、彼女自身が制御しきれないという事情があったりもする。これも外の世界で喩えるなら、放水車並の圧力で水を放つことはできるが、自分がそれに振り回されてしまうというか。
とかく、万能の魔法薬とその調合に用いる魔法陣となれば膨大な魔力を必要とするのが道理だろう。自覚的にか無自覚にか、パチュリーがありったけの魔力を注いだのならそれが成功していてもありえないとまではいえない。
そういった真偽を差し引いても、あの"ヴァン・ヘルシング"の秘術を以ってしても破れない魔法的効果をフランの身体が宿していたのは確かだ。
「どうせならあの男の襲来そのものを防げなかったのかとか文句はあるけど、作用したのはあくまでフランの身体に関してだけだし。まあ、成功なら成功で良いんだけど……。」
「はい。それだけなら、良いんですけどね……。」
問題は、先日の一件を成功例と認識したパチュリーが、いつにも増して魔法薬の調合にはりきっていることだ。小悪魔もここ何日か不眠不休で付き合わされているとか。
またぞろ近い内に厄介事が起こるであろうことは想像に難くなく、それが頭痛の種である。フランにも、しばらく図書館には近づかないよう厳命してある。
「まあそれでも――」
「そうですね」
中庭の日陰に視線を移し、レミリアは目を細める。
そこには身体のあちこちに包帯を巻いた美鈴が、フランの振るう拳を片手でいなす姿があった。
フランは笑顔だ。
無邪気で、太陽のような、輝く笑顔。
地下に閉じこもるより前の、もう二度と見ることは叶わないと思っていた、レミリアの大好きな笑顔。
今回の一件で妹があの笑顔を完全に取り戻すことができたのなら、パチュリーの暴走には多少目をつむってやってもいいかなどと、考えてしまう。
我ながら甘いな、と首を振りつつ嘆息するレミリアと、そうですね、と応える咲夜の顔は、どちらも幸福そうな笑みを浮かべていた。
Fin.
元ネタは分かりませんが、この男の能力はいいと思う
ここは常識に捕われないお方の出番だな、いや、無意識といえばあの子か?
このフランドールがあのフランドールか…と思いながら読むと感慨深いものがありました。
バトルシーンも格好良かったですし、パチュリーについてもさり気なく求聞史紀や文花帖で
書かれていた部分に忠実な所があったりしてそこもまた面白く感じられました。
ただ、例の男のついては唐突に現れて唐突に居なくなったという感じがあったので
本当になんだったの?という印象があってそこの部分には若干違和感がありましたが、
そこに目を瞑れば全体を通してよくまとまっていて面白かったので、
素直に楽しませてもらったと言う事でこの点数です。
もし次があればの話ですが、次回作も楽しみにしてます。
ヴァン・ヘルシングって、小説とか以前にそういうものがあったのかな?ていうかイマジンブレイカー的なあれだね。紅魔館の面々がみんなで協力してやっと倒せる相手か、恐ろしい。
みんな頑張ってたけど、特に美鈴とおぜうがカッコ良かったなぁ。
大人フランとか…もう魅力がやばすぎそう。
ともあれ、面白かったです。
美鈴もかっこよかったです。
やっぱ肉弾戦て手に汗握るものがありますよね。
バトル描写が熱い