あなたの中のフランドール像とそぐわない場合があります。
どうもこんばんは、レミリア・スカーレットですーうーぅーぅー☆(1人ドップラー効果)
ここ数年、吸血鬼(笑)とかカリスマ(笑)とか運命(笑)とかって随分舐められた扱いされてるけど、頑張って紅魔館の当主をやってます。
まあ昔みたいに戦争とかを頻繁にやるような世界でもないから舐められても別にいいんだけどね。
喧嘩を売られて激昂して買うのはただの馬鹿がやることよ。
って、私の人格者っぷりはどうでもよくて、最近少し悩みがあるの。
フランドール、いるじゃない? 可愛い可愛い私の妹。
最近私を舐め切ってるけど、もちろん妹の愛への前ではそんなこと大したことないの。
そんなことより、頭の痛いことがあるのよ。
「お姉様はわかってないなぁ、やっぱり咲夜のメイド服はミニスカートじゃないと」
「馬鹿言わないでよ、はしたない。メイド服は清楚にロンスカであるべきでしょ」
「何言ってんのさ、ミニスカだよ? そこに普通の靴下なら咲夜の美脚が、ニーソならそれとスカートの裾の間に見える絶対領域が輝くんだよ!? 吸血鬼ならそそられて当たり前でしょ!!」
私の妹が変態になりました。いやまあ言いたいことはわかるんだけど。
もうかれこれ30分くらい、私達はフランの部屋で『メイド服のスカートはロングとミニのどちらであるべきか』論争していた。
いい年こいて何やってるんだろうと思わざるを得ない。
「そんな可哀想な男や一部の性癖異常な女を狙った格好して何になるっていうのよ。メイドたる者、媚を売っていいのは主人に対してだけ。それ以外は常に優雅に美しくあれ、よ。その振る舞いの中にこそメイドの本当の素晴らしさがあるんじゃない」
これが真理よ。そして咲夜を愛でていいのは私だけだ。幼い頃から育ててきた咲夜を何処の相手にだってやるものか。
この間もベッドの上で世界で一番誰が好き?と尋ねたら、「お嬢様、です……」と赤い乙女の笑顔で答えてくれたさ。
だと言うのに。
「そんなことないって! パチェのとこの漫画とか小説の挿絵とか、可愛いメイドはみんなミニスカだったもん!」
500年くらい大事に大事に育てた結果がこれだよ。私に生意気言うようになったのはまだ目を瞑るけど、これはない。
魔導書や歴史書で勉強させてた合間に、娯楽書も用意して読ませた私が言うのもアレだけど、これはないわー。大事なことなので二回言った。
呆れ、少し息を吐いてからフランを諭す。
「あなた、家に籠りっきりで暇だからってああいうのを読むのはいいけど、二次元と三次元の区別ぐらいはつけなさいな」
「何をー!」
「お前ら、そういう話はついていけない他人がいる傍らでするもんじゃないぜ……」
フランがさらに突っかかってこようとした時、少し離れたところにいた魔理沙が横グングニルを入れてきた。ああ、いたわねコイツ。
その表情は思いっきりドン引きだ、仕方あるまい。同じ少女でも人間と吸血鬼とじゃ感性は違うのだし。
……というか私達は赤の他人がいる前でこんなわけのわからん問答をしていたのか。カリスマのカの字もないわー。
「でもさぁ魔理沙、魔理沙だって咲夜にはミニスカの方が似合うって思うでしょー?」
数少ない友人(というかフランに友人ってコイツしかいないんじゃ)を味方に引き入れようと、猫なで声で魔理沙にすり寄るフラン。お前そんな声出せたんか。
たまにはそんな声で私に絡んでこいよ、即ハグして抱き締めて撫で撫でしてやるのに。普段のフランの私への態度を思い出して心にヒビが入った。
そんな妹の期待に添わず、魔理沙はフランにゆさゆさ揺られながら微妙な表情で「あー」だの「うーん」だのはっきりしない呻き声を漏らすのみ。
彼女にとっては付いていけない世界なんだろう。安心しろ、いずれちゃんとした世界に招待してやるさ。
高い高いで魔理沙がフランを誤魔化している折、重い扉にノックの音が響き、次の瞬間開かれた。
現れたのは我が家が誇る最強メイド。うんうん、姿勢は躾通り凛として美しい。やはり従者たる者こうであれ。
「失礼します。お嬢様、妹様。間もなくお食事の用意ができますので、少ししたらいらしてください。魔理沙も食べてくでしょ?」
「もっちろんだぜ♪」
フランをベッドに放り投げて、ナイスタイミングと言わんばかりに咲夜の元へ駆け寄る魔理沙。
こちらに失礼します、と一声かけ、2人は階段を飛んでいく。
「今日のメニューは何だ?」
「人肉じゃないハンバーグよ、あんたも食べるだろうと思ってね」
会話が聞こえる。こいつら仲がいいよな。咲夜もいい友人を持ったもんだ、親として喜ぶべきことだろう。
「流石だぜ。デザートはお前の唇がいいな」
「バカ言わないの」
よっしゃ魔理沙食事の後表出ろ、タダで帰れると思うな。キサマも面白い存在だと認定しているから我らの世界に招待してやろう、無論性的な意味で。
よかったな、招待予定の3人で一番最初だ、喜ぶといい。そして私の下で啼き叫べ!
私がベッドの上のあられもない姿の魔理沙を夢想している間に2人の姿は見えなくなった。。
何、私の性癖も十分おかしい? 吸血鬼はこれで普通よ、フランのがただ低俗で見てられないのだ。
「むー」
「むくれてないで、片付けしなさい。手伝ってあげるから」
私が妄想という世界から帰った時、放り捨てられたフランはベッドの上にふくれっ面で座っていた。
いつまでも問答してても仕方ない、そう悟った私達は床の目立つ塵や遊び道具をまとめることにする。
……少女(笑)掃除中……
「さて、そろそろ食堂に行くわよ」
「わかったー」
少しの間があり、部屋がそれなりに綺麗になったので、フランと一緒に部屋を出ようとする。
今から徒歩で食堂に向かえばちょうどいい頃合いだろう。
が、階段の最初の一段目に2人で足をかけた瞬間。
「ひっ!!? い、嫌ぁぁぁぁァァァァーーーー!!!」
形容しがたい絶叫を上げながらフランがバックステップで部屋まで超高速移動、そのまま壁に激突した。
そして恐怖に歪み怯えた顔で座り込む。激突した壁には若干ながらヒビが入り、開脚状態のフランのドロワは丸見え。眼福。じゃねぇ!!!
慌てて駆け寄る!
「ど、どうしたのよフラン!?」
「そっそそそそそそそそそそこぉぉぉぉぉ!! か、階段階段んんんん!」
「か、階段?」
ガクガクと震えながら階段を指差す。普段私を馬鹿にしている雰囲気など影も形もなかった。
とりあえず階段に近づいて確認する。まだフランの精神が今以上に荒れていた時などは見えないものが見えていたこともあり、心配だった。
『見えないが居るもの』が見えるだけならまだしも、『居もしないもの』が見えていたのならマズイ。
しかし、私の心配をよそに、そこにいたのは。
「……もしかしてこの虫?」
念のため確認。
「(コクコクコクコクコクコクコクコク!!)」
超高速で顔を上下させるフラン。もはや壊れた機械の様な動きだった。
再び、今度は思いっきり呆れ、溜息をつく。
「ただのコックローチじゃない……見たことないの?」
この地ではゴキブリと呼ばれる、焦げ茶に輝く装甲を持った平べったい虫が一匹いるだけだった。
……マジで?
いや確かに、昔幼い咲夜や妖精メイドが「キッチンに出たぁぁぁぁ!!!」などと泣きながら縋りついてきたこともあり、恐怖する対象になりうることは知っている。
が、別段でかいというわけでもなく、群れてもなく、秘められた魔の力を持ってるわけでもないただの虫にその慌てようってアンタ。
お前、鏡見て自分の種族確かめてみ?
今のフランにこんなツッコミをしない存在がいるだろうか、いや、いまい。
お姉ちゃん悲しいよ、誇り高き血族が虫一匹に取り乱すなんて。
「い、嫌なの、そ、そ、そそいつだけは嫌なのぉぉぉぉ!!」
取り乱した相手を宥めるのに、話を聞くのは有効な手段。どうしてか聞いてみた。
「む、昔ね? 部屋に1人でいたら、そ、そいつが何匹かで固まってたの」
ふむ。今でこそフランの部屋は綺麗だが、それは咲夜の働きによるものだ。
何処の世界に情緒不安定な吸血鬼に「掃除するからそこのいてー」なんて言える猛者がいるというのか。
幸いフランが壊したものは塵のように消えていくため、ゴミ屋敷となることはなかったが、内装はもうボロボロだった。
そしてそんな内装の部屋の何処かに、ヤツらが巣食っていたとしてもおかしくはない。
「そ、それで何かなと思って近づいたら、ピクピク動き出して」
ああ、恐らく触角ね。
「い、一匹壊したの。そ、そしたらそいつらが、そいつらが……」
飛躍しすぎだろ、とは言わないでおいた。
頭を抱え、ワナワナと震えながら元々白い顔が青褪めていく。当時のことを思い出しているんだろう。
「い、一斉に私に向かって飛んできたの!! い、嫌ぁぁぁぁ!!」
なにそれ超こわい。そりゃ幼心にトラウマになったろう、これからはもっと優しくしてあげようと決めた。
だから消えなさい、『今度から脅し文句を「リグルかさとり呼ぶぞ」にしようと考えた私』! そうなったら命が危ういよ、主に私とその2人の。
「落ち着きなさいって」
「お姉様は平気なのぉ……?」
「当たり前でしょ」
昔戦争で前線に立っていた時、えげつない姿の妖怪と対峙したことなど腐るほどある。今さらゴキ一匹に取り乱すわけがない。
涙でボロボロの顔をハンカチで拭いてやる。しばらく撫でてやる内に、ひっくひっくと嗚咽を漏らす回数も、次第に減っていった。
「さて、もう大丈夫でしょ。食堂に行きましょ」
「……嫌だ」
「どうして? 泣いて赤い顔を見られたくないとか?」
「それもあるけど……アイツがいる近くを通りたくない」
「……仕方ないわね」
やれやれ、相当重症ね。ここら辺で姉の威厳(微笑)を見せてやるとしますか。
フランから離れ、ヤツと対峙。ヤツも私に注意を向けているらしく触角をピクピク動かしている。
きっと私が少しでも動けば這い回るなり飛んでくるなりするつもりなのだろう、って何で虫相手に心理戦を繰り広げなきゃならんのだ。
ま、いいわ。もう私は動かないから、それにヤツが反応することもない。
「貴様に罪はないけど、恨むなら私の館に巣食った貴様自身を、私の妹の心に傷をつけた貴様の先祖を、私と出会ってしまった貴様の不運を恨みなさい」
虫相手に役不足な台詞を投げかけ、いったん集中する。そして。
「死ね!!」
平和な御時世、まさかこんなところで使うことになるとは思ってなかった、弱い者なら中てるだけで死に至らしめる吸血鬼の妖気。
虫一匹殺すくらいわけはない。魔理沙はどうかわからないが。
それを全身から練りだしヤツにぶつける。そのままヤツは一歩も動くことなく絶命した。
フランもすぐにこの技を使えてたら、トラウマになることもなかっただろうに。今度力の使い方を教えてあげましょう。
最後に死体に一発弾をぶつける。それだけでヤツは細胞一つ残さずこの世から消えた。来世ではいい奴に生まれ変われよ。会いたくもないが。
「……ふぅ。フラン、もう大丈夫よ」
振り返り、フランを呼ぶ。けれども立ち上がろうとしない。
「どうしたの?」
「……アイツのいた階段なんて通りたくない」
なんだそりゃ。
「じゃあ、ここにいる?」
「やだ。皆で食べたい」
「どうしろっていうのよ……」
上に行きたい、けど階段を歩きたくないって、どういう難題なんだい。
難題難題うるさい永遠亭の姫君だって解けるわけ……あるじゃん!
「じゃあ、飛んで行きましょう」
「ムリ」
「なんで!?」
「っ、だって……」
泣きそうな顔で口を尖らせて、フランは言い淀む。そして、
「腰……抜けちゃったんだもん」
帰ってきた答えはとても可愛かった。
「…………」
「…………」
「……可愛いわね、あんた」
「う、うるさいうるさいうるさい!! バカ!!」
大声で罵ってくる。けれど、そんな赤い顔をしていちゃ迫力なんてまったくないわよ?
「ふふ、バカで結構。で、どうするの?」
「おんぶで連れてけ」
「えー」
「連れてけ!!」
「はいはい」
台詞と口調が一致していないフランに苦笑する。
でも、可愛らしい一面を見せてくれた妹に免じて、理不尽な要求に答えてあげよう。
背を向けてしゃがみこむ。のそのそとフランが負ぶさってきた。
立ち上がり、首に手が回ってきたのを確認して歩き出す。
1歩、2歩、3歩……やがてデンジャーゾーンを越えた。
最後にこんな風に負ぶってあげたのは何年前になるだろう、そんなことを思う。
けれど、確実に言えることは。
「ん~……重くなったわねぇ~」
成長したなぁと言いたかったのだが、フランはそう受け取らなかったようで。
「うるさい。絞め殺すぞ」
そんなことを不機嫌そうな低い声でのたまいながら、実際首に回した両腕に力を込めてくる。
「ふふっ」
「何が可笑しいのさ」
「別に? もう通り過ぎた、さっきヤツがいた段に向かって背中からダイブしてもいいかなって思っただけよ」
「やめて! やめてぇ!!」
マジ泣きの懇願。やっぱり可愛いなぁ。
ま、当然よね。そうなったら踏むのさえ拒んだ場所に背を付けるのはフランなのだし。
大人しくなったフランをそのままに、歩を進める。
「あ、お、お姉様」
「何?」
「食堂の前で降ろしてよ、こんな情けない姿見られたくないもん」
「あらあら、ジャンケンに負けた私が罰ゲームで運ばされた、ってことにしてあげてもよかったんだけど?」
「え? あ、あーうん。お姉様がそれでいいならそういうことでいいよ」
「まったく、可愛い奴だなお前は」
「う、うるさい!」
「あ、そうそう実はね」
「何?」
――ヤツはこの家の中どころか、人里とか魔理沙の家とか神社とか森とか、幻想郷中にウジャウジャいるのよ――
なんて言ったら……幻想郷が炎に包まれるだろうなぁ。そうならなくても引き籠り確定だろう、言わないでおきましょう。
「やっぱり、何でもないわ」
「? そう。さ、早く行って」
「理不尽ねぇもう。はいはい」
普段は生意気だけど、こんな可愛らしい一面があることも知れたし、それだけで十分だ。
次にこの子にお姉さんらしいことができるのはいつになるだろう、そんなことを思いながら、私は長いこの階段を登っていった。
どうもこんばんは、レミリア・スカーレットですーうーぅーぅー☆(1人ドップラー効果)
ここ数年、吸血鬼(笑)とかカリスマ(笑)とか運命(笑)とかって随分舐められた扱いされてるけど、頑張って紅魔館の当主をやってます。
まあ昔みたいに戦争とかを頻繁にやるような世界でもないから舐められても別にいいんだけどね。
喧嘩を売られて激昂して買うのはただの馬鹿がやることよ。
って、私の人格者っぷりはどうでもよくて、最近少し悩みがあるの。
フランドール、いるじゃない? 可愛い可愛い私の妹。
最近私を舐め切ってるけど、もちろん妹の愛への前ではそんなこと大したことないの。
そんなことより、頭の痛いことがあるのよ。
「お姉様はわかってないなぁ、やっぱり咲夜のメイド服はミニスカートじゃないと」
「馬鹿言わないでよ、はしたない。メイド服は清楚にロンスカであるべきでしょ」
「何言ってんのさ、ミニスカだよ? そこに普通の靴下なら咲夜の美脚が、ニーソならそれとスカートの裾の間に見える絶対領域が輝くんだよ!? 吸血鬼ならそそられて当たり前でしょ!!」
私の妹が変態になりました。いやまあ言いたいことはわかるんだけど。
もうかれこれ30分くらい、私達はフランの部屋で『メイド服のスカートはロングとミニのどちらであるべきか』論争していた。
いい年こいて何やってるんだろうと思わざるを得ない。
「そんな可哀想な男や一部の性癖異常な女を狙った格好して何になるっていうのよ。メイドたる者、媚を売っていいのは主人に対してだけ。それ以外は常に優雅に美しくあれ、よ。その振る舞いの中にこそメイドの本当の素晴らしさがあるんじゃない」
これが真理よ。そして咲夜を愛でていいのは私だけだ。幼い頃から育ててきた咲夜を何処の相手にだってやるものか。
この間もベッドの上で世界で一番誰が好き?と尋ねたら、「お嬢様、です……」と赤い乙女の笑顔で答えてくれたさ。
だと言うのに。
「そんなことないって! パチェのとこの漫画とか小説の挿絵とか、可愛いメイドはみんなミニスカだったもん!」
500年くらい大事に大事に育てた結果がこれだよ。私に生意気言うようになったのはまだ目を瞑るけど、これはない。
魔導書や歴史書で勉強させてた合間に、娯楽書も用意して読ませた私が言うのもアレだけど、これはないわー。大事なことなので二回言った。
呆れ、少し息を吐いてからフランを諭す。
「あなた、家に籠りっきりで暇だからってああいうのを読むのはいいけど、二次元と三次元の区別ぐらいはつけなさいな」
「何をー!」
「お前ら、そういう話はついていけない他人がいる傍らでするもんじゃないぜ……」
フランがさらに突っかかってこようとした時、少し離れたところにいた魔理沙が横グングニルを入れてきた。ああ、いたわねコイツ。
その表情は思いっきりドン引きだ、仕方あるまい。同じ少女でも人間と吸血鬼とじゃ感性は違うのだし。
……というか私達は赤の他人がいる前でこんなわけのわからん問答をしていたのか。カリスマのカの字もないわー。
「でもさぁ魔理沙、魔理沙だって咲夜にはミニスカの方が似合うって思うでしょー?」
数少ない友人(というかフランに友人ってコイツしかいないんじゃ)を味方に引き入れようと、猫なで声で魔理沙にすり寄るフラン。お前そんな声出せたんか。
たまにはそんな声で私に絡んでこいよ、即ハグして抱き締めて撫で撫でしてやるのに。普段のフランの私への態度を思い出して心にヒビが入った。
そんな妹の期待に添わず、魔理沙はフランにゆさゆさ揺られながら微妙な表情で「あー」だの「うーん」だのはっきりしない呻き声を漏らすのみ。
彼女にとっては付いていけない世界なんだろう。安心しろ、いずれちゃんとした世界に招待してやるさ。
高い高いで魔理沙がフランを誤魔化している折、重い扉にノックの音が響き、次の瞬間開かれた。
現れたのは我が家が誇る最強メイド。うんうん、姿勢は躾通り凛として美しい。やはり従者たる者こうであれ。
「失礼します。お嬢様、妹様。間もなくお食事の用意ができますので、少ししたらいらしてください。魔理沙も食べてくでしょ?」
「もっちろんだぜ♪」
フランをベッドに放り投げて、ナイスタイミングと言わんばかりに咲夜の元へ駆け寄る魔理沙。
こちらに失礼します、と一声かけ、2人は階段を飛んでいく。
「今日のメニューは何だ?」
「人肉じゃないハンバーグよ、あんたも食べるだろうと思ってね」
会話が聞こえる。こいつら仲がいいよな。咲夜もいい友人を持ったもんだ、親として喜ぶべきことだろう。
「流石だぜ。デザートはお前の唇がいいな」
「バカ言わないの」
よっしゃ魔理沙食事の後表出ろ、タダで帰れると思うな。キサマも面白い存在だと認定しているから我らの世界に招待してやろう、無論性的な意味で。
よかったな、招待予定の3人で一番最初だ、喜ぶといい。そして私の下で啼き叫べ!
私がベッドの上のあられもない姿の魔理沙を夢想している間に2人の姿は見えなくなった。。
何、私の性癖も十分おかしい? 吸血鬼はこれで普通よ、フランのがただ低俗で見てられないのだ。
「むー」
「むくれてないで、片付けしなさい。手伝ってあげるから」
私が妄想という世界から帰った時、放り捨てられたフランはベッドの上にふくれっ面で座っていた。
いつまでも問答してても仕方ない、そう悟った私達は床の目立つ塵や遊び道具をまとめることにする。
……少女(笑)掃除中……
「さて、そろそろ食堂に行くわよ」
「わかったー」
少しの間があり、部屋がそれなりに綺麗になったので、フランと一緒に部屋を出ようとする。
今から徒歩で食堂に向かえばちょうどいい頃合いだろう。
が、階段の最初の一段目に2人で足をかけた瞬間。
「ひっ!!? い、嫌ぁぁぁぁァァァァーーーー!!!」
形容しがたい絶叫を上げながらフランがバックステップで部屋まで超高速移動、そのまま壁に激突した。
そして恐怖に歪み怯えた顔で座り込む。激突した壁には若干ながらヒビが入り、開脚状態のフランのドロワは丸見え。眼福。じゃねぇ!!!
慌てて駆け寄る!
「ど、どうしたのよフラン!?」
「そっそそそそそそそそそそこぉぉぉぉぉ!! か、階段階段んんんん!」
「か、階段?」
ガクガクと震えながら階段を指差す。普段私を馬鹿にしている雰囲気など影も形もなかった。
とりあえず階段に近づいて確認する。まだフランの精神が今以上に荒れていた時などは見えないものが見えていたこともあり、心配だった。
『見えないが居るもの』が見えるだけならまだしも、『居もしないもの』が見えていたのならマズイ。
しかし、私の心配をよそに、そこにいたのは。
「……もしかしてこの虫?」
念のため確認。
「(コクコクコクコクコクコクコクコク!!)」
超高速で顔を上下させるフラン。もはや壊れた機械の様な動きだった。
再び、今度は思いっきり呆れ、溜息をつく。
「ただのコックローチじゃない……見たことないの?」
この地ではゴキブリと呼ばれる、焦げ茶に輝く装甲を持った平べったい虫が一匹いるだけだった。
……マジで?
いや確かに、昔幼い咲夜や妖精メイドが「キッチンに出たぁぁぁぁ!!!」などと泣きながら縋りついてきたこともあり、恐怖する対象になりうることは知っている。
が、別段でかいというわけでもなく、群れてもなく、秘められた魔の力を持ってるわけでもないただの虫にその慌てようってアンタ。
お前、鏡見て自分の種族確かめてみ?
今のフランにこんなツッコミをしない存在がいるだろうか、いや、いまい。
お姉ちゃん悲しいよ、誇り高き血族が虫一匹に取り乱すなんて。
「い、嫌なの、そ、そ、そそいつだけは嫌なのぉぉぉぉ!!」
取り乱した相手を宥めるのに、話を聞くのは有効な手段。どうしてか聞いてみた。
「む、昔ね? 部屋に1人でいたら、そ、そいつが何匹かで固まってたの」
ふむ。今でこそフランの部屋は綺麗だが、それは咲夜の働きによるものだ。
何処の世界に情緒不安定な吸血鬼に「掃除するからそこのいてー」なんて言える猛者がいるというのか。
幸いフランが壊したものは塵のように消えていくため、ゴミ屋敷となることはなかったが、内装はもうボロボロだった。
そしてそんな内装の部屋の何処かに、ヤツらが巣食っていたとしてもおかしくはない。
「そ、それで何かなと思って近づいたら、ピクピク動き出して」
ああ、恐らく触角ね。
「い、一匹壊したの。そ、そしたらそいつらが、そいつらが……」
飛躍しすぎだろ、とは言わないでおいた。
頭を抱え、ワナワナと震えながら元々白い顔が青褪めていく。当時のことを思い出しているんだろう。
「い、一斉に私に向かって飛んできたの!! い、嫌ぁぁぁぁ!!」
なにそれ超こわい。そりゃ幼心にトラウマになったろう、これからはもっと優しくしてあげようと決めた。
だから消えなさい、『今度から脅し文句を「リグルかさとり呼ぶぞ」にしようと考えた私』! そうなったら命が危ういよ、主に私とその2人の。
「落ち着きなさいって」
「お姉様は平気なのぉ……?」
「当たり前でしょ」
昔戦争で前線に立っていた時、えげつない姿の妖怪と対峙したことなど腐るほどある。今さらゴキ一匹に取り乱すわけがない。
涙でボロボロの顔をハンカチで拭いてやる。しばらく撫でてやる内に、ひっくひっくと嗚咽を漏らす回数も、次第に減っていった。
「さて、もう大丈夫でしょ。食堂に行きましょ」
「……嫌だ」
「どうして? 泣いて赤い顔を見られたくないとか?」
「それもあるけど……アイツがいる近くを通りたくない」
「……仕方ないわね」
やれやれ、相当重症ね。ここら辺で姉の威厳(微笑)を見せてやるとしますか。
フランから離れ、ヤツと対峙。ヤツも私に注意を向けているらしく触角をピクピク動かしている。
きっと私が少しでも動けば這い回るなり飛んでくるなりするつもりなのだろう、って何で虫相手に心理戦を繰り広げなきゃならんのだ。
ま、いいわ。もう私は動かないから、それにヤツが反応することもない。
「貴様に罪はないけど、恨むなら私の館に巣食った貴様自身を、私の妹の心に傷をつけた貴様の先祖を、私と出会ってしまった貴様の不運を恨みなさい」
虫相手に役不足な台詞を投げかけ、いったん集中する。そして。
「死ね!!」
平和な御時世、まさかこんなところで使うことになるとは思ってなかった、弱い者なら中てるだけで死に至らしめる吸血鬼の妖気。
虫一匹殺すくらいわけはない。魔理沙はどうかわからないが。
それを全身から練りだしヤツにぶつける。そのままヤツは一歩も動くことなく絶命した。
フランもすぐにこの技を使えてたら、トラウマになることもなかっただろうに。今度力の使い方を教えてあげましょう。
最後に死体に一発弾をぶつける。それだけでヤツは細胞一つ残さずこの世から消えた。来世ではいい奴に生まれ変われよ。会いたくもないが。
「……ふぅ。フラン、もう大丈夫よ」
振り返り、フランを呼ぶ。けれども立ち上がろうとしない。
「どうしたの?」
「……アイツのいた階段なんて通りたくない」
なんだそりゃ。
「じゃあ、ここにいる?」
「やだ。皆で食べたい」
「どうしろっていうのよ……」
上に行きたい、けど階段を歩きたくないって、どういう難題なんだい。
難題難題うるさい永遠亭の姫君だって解けるわけ……あるじゃん!
「じゃあ、飛んで行きましょう」
「ムリ」
「なんで!?」
「っ、だって……」
泣きそうな顔で口を尖らせて、フランは言い淀む。そして、
「腰……抜けちゃったんだもん」
帰ってきた答えはとても可愛かった。
「…………」
「…………」
「……可愛いわね、あんた」
「う、うるさいうるさいうるさい!! バカ!!」
大声で罵ってくる。けれど、そんな赤い顔をしていちゃ迫力なんてまったくないわよ?
「ふふ、バカで結構。で、どうするの?」
「おんぶで連れてけ」
「えー」
「連れてけ!!」
「はいはい」
台詞と口調が一致していないフランに苦笑する。
でも、可愛らしい一面を見せてくれた妹に免じて、理不尽な要求に答えてあげよう。
背を向けてしゃがみこむ。のそのそとフランが負ぶさってきた。
立ち上がり、首に手が回ってきたのを確認して歩き出す。
1歩、2歩、3歩……やがてデンジャーゾーンを越えた。
最後にこんな風に負ぶってあげたのは何年前になるだろう、そんなことを思う。
けれど、確実に言えることは。
「ん~……重くなったわねぇ~」
成長したなぁと言いたかったのだが、フランはそう受け取らなかったようで。
「うるさい。絞め殺すぞ」
そんなことを不機嫌そうな低い声でのたまいながら、実際首に回した両腕に力を込めてくる。
「ふふっ」
「何が可笑しいのさ」
「別に? もう通り過ぎた、さっきヤツがいた段に向かって背中からダイブしてもいいかなって思っただけよ」
「やめて! やめてぇ!!」
マジ泣きの懇願。やっぱり可愛いなぁ。
ま、当然よね。そうなったら踏むのさえ拒んだ場所に背を付けるのはフランなのだし。
大人しくなったフランをそのままに、歩を進める。
「あ、お、お姉様」
「何?」
「食堂の前で降ろしてよ、こんな情けない姿見られたくないもん」
「あらあら、ジャンケンに負けた私が罰ゲームで運ばされた、ってことにしてあげてもよかったんだけど?」
「え? あ、あーうん。お姉様がそれでいいならそういうことでいいよ」
「まったく、可愛い奴だなお前は」
「う、うるさい!」
「あ、そうそう実はね」
「何?」
――ヤツはこの家の中どころか、人里とか魔理沙の家とか神社とか森とか、幻想郷中にウジャウジャいるのよ――
なんて言ったら……幻想郷が炎に包まれるだろうなぁ。そうならなくても引き籠り確定だろう、言わないでおきましょう。
「やっぱり、何でもないわ」
「? そう。さ、早く行って」
「理不尽ねぇもう。はいはい」
普段は生意気だけど、こんな可愛らしい一面があることも知れたし、それだけで十分だ。
次にこの子にお姉さんらしいことができるのはいつになるだろう、そんなことを思いながら、私は長いこの階段を登っていった。
とりあえずフランちゃんの愛らしさに、百点ここに置いておきますね。
それにしてもフランちゃん可愛い(*´ω`*)
レミリアもお姉ちゃんなのですね~
そしてフランちゃんかわいい
仲間ー!!
フランちゃん可愛いよ!!
これは有名だけどゴキブリは脳が胸あたりにあるから頭をつぶしても一週間は生きられるんだよね
ふたりともかわいすぎる
>6
ウチの場合は可愛い姉なんだ。そういう年上の威厳のある姉がほすぃ・・・
俺の妹はGごときなら平然と叩き潰すなあ
可愛いっつうか、たくましいw
Gは……もう嫌だ。足の裏にトラウマがよみがえるんdeah。
所々の地の文からてっきりフランがにーにー! もといねーね!! って叫ぶと思ってました。
あとムシャクシャしたんで近所の子に兄ちゃん言わせたら可愛すぎて死ねた。
あと、作者こんにゃろうめww