暑い。
本当にクソ暑い。
そんな汚い表現が飛び出すほどに、幻想郷の夏は暑かった。
風鈴が、小さくチリンと鳴った。
博麗神社には、涼を取る術がなかった。
離れの襖を全て開け放ったが、体感で吹く風は全くない。さっきの風鈴を鳴らす程度の風がまれに吹く程度だ。
団扇で扇いでも吹く風は生温く、しかも暑さで疲れがあっという間に溜まって長時間は扇いでいられない。
扇風機とか、冷たいアイスとか、そんな文明の利器も当然一切ない。
つまり、博麗霊夢は詰んでいた。
「あぁー」
霊夢は気の抜けた声を上げた。
彼女は今、離れの縁側でだらしなく横たわっていた。
両袖は暑いので剥ぎ取っていた。上着の紅衣は胸までまくり上げて、へそどころかその上まで見えんばかりだ。そしてスカートである緋袴は、半分ずり落ちて半ケツになってしまっている。
年頃の少女がこれである。いくら暑さのせいとはいえ、はしたなすぎる。
そして極めつけは……このアへ顔だ。
「幸せぇへぇぇぇ」
口端から涎まで垂れている。ばっちぃ。
対照的なのは、胸元に抱えられた哀れな氷精である。こっちは完全に事後の表情になってしまっていた。
「あー」とか「うー」とか霊夢が呻いても、全く反応を示す気配が無い。
どうしてこんな事態になったのか? まぁ説明せずとも、大方見当はつくのであろうが。
思えば運の悪い氷精であった。名をチルノという。
妖精は悪戯をするのが本性である。チルノは特にその気が強い。この悪戯が生きがいの妖精はこのクソ暑い中、あろうことか博麗神社に忍び込んで一つやらかそうとしたのである。対涼感センサーがこれ以上ないくらいにビンビンに敏感になっていた霊夢が、この氷精の存在を見逃すはずがなかった。霊夢は離れの縁側から一瞬のうちに氷精の元まで辿り着くと、驚きで固まっている彼女を二本の腕でがっちりと捕まえ、そのままお持ち帰りしたという訳である。弾幕を撃つ暇すら与えなかったほどの早業であったのは言うまでもない。
当然チルノは抵抗した。手足をばたつかせ、何とか紅白の悪魔から逃れようとした。チルノは他の妖精にすら劣るほどのおバカな妖精であったが、この状況が自分に与える影響の意味は簡単に理解できた。
捕まったら遊ぶことが出来なくなる。―――命ではなく、自由的な意味で。
だがチルノがもがけばもがくほど、彼女を捕らえて離さない二本の腕は緩むどころか、ますますその締め付ける力を上げていった。
ただの半死半病人にしか見えないこの巫女のどこにそんな力が―――
そんな疑問も、やがてどうあがいても逃げられないという恐怖と諦観で支配され、チルノから抵抗する気力を奪っていった。
そして完全に抵抗する意思を失くし、白旗を上げざるを得なくなった時に聞いた巫女の歓喜の言葉が、チルノの耳から離れなくなっていた。
「むふふ。もう、逃がさないわよぉ……」
それから数十分。
チルノはいまだに巫女の腕の中で拘束されたままだった。
「あぁ……最高ぉ……」
ふにふに
チルノのほっぺに顔を擦り付けながら、霊夢はうっとりとした表情で呟く。
抱きかかえたチルノからは一定の冷気が漏れ続けている。その冷たさは夏の暑さで暖まった体温と相まって、言いようのない心地よさを感じさせるのだ。
まさに至福。自然が産みし最高の産物である。
今のチルノは、霊夢にとって最高の抱き枕になっていた。とてつもなく心地よい適度なひんやり感。霊夢が呆けたようになるのも無理はなかった。
「……ねぇ、霊夢」
チルノがしばらくぶりに口をきいた。
「あたい、いつになったら帰れるの……?」
「うふふ。そんなの決まってるじゃない。暑くなくなるまで、よ」
「……ふえぇぇぇ」
チルノは抗議の悲鳴を上げた。だがその声もすぐに小さくなって掻き消えていく。
この巫女は、やると言ったことは必ずやる。たとえそれがどんな理不尽なことでもだ。この巫女のむちゃくちゃな強引さは、ある程度付き合いがある者ならば誰でも知っていることだった。抗議したところで無意味なのである。
紅白の悪魔はムフフと妖しげに嗤う。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。この夏の間は、私があんたを養ってあげるからさ」
「……いいよぉ、別に。それに、あたいがいると魔理沙に迷惑じゃないの?」
「あら、私と魔理沙の関係知ってるの? どこで知ったのかしら。悪い子ね」
「みんな知ってるよ。あんなにいちゃいちゃやってればさ」
「まぁ。恥ずかしいわ」
口では恥ずかしそうに言いつつも、顔はニヤニヤと笑っている。いつもの霊夢だと赤面ものの会話の内容なのだが、そうならないあたり、頭は暑さで相当参っているようだ。
「うふふ。まぁ、魔理沙なんて今はどうでもいいわ。大事なのはチルノ、あんたよ」
「あたい?」
「そうよ。今ね、私の心はあんたに魅せられて離れないの。なんでか分かる?」
「……わかんないよ」
多分それは、教えられてもきっとわからないことだろう。でも正直なところ、分かっても分かりたく無い感じがするなぁ……
そんなことを考えていると、急に腕の締め付けがきつくなった。思わずチルノは、ぐぇっとカエルが潰れたような声を上げた。
「なにすんだよっ」
「ねぇ、チルノ。聴いて」
「な、何を」
「私の胸の音を」
「ほぇ?」
なんでそんなことを、と霊夢に問いただす間もなく、がっちり捕まえている腕の片方が頭に伸びてむぎゅうっと強制的に霊夢の胸元に押さえつけられた。
ふにっとしたやわらかい感覚が、チルノを強襲する。その意外な心地よさに、不本意にもチルノは赤面した。
「チルノ、聴こえる? 私の胸の音が。鼓動が早いでしょう?」
「え、あ、うん」
「これはね、灼熱の暑さの中、互いの身体を抱きしめあって、その鼓動の音に耳を澄ましていると分かるの」
「そうなの?」
「すると不思議で、だんだん鼓動が早くなって、全身に痺れるような快感が満たされていくのよ」
「へ?」
「さらにお肌とお肌の触れ合いで感じる柔らかさが、この快感を増幅していって……」
「え?……えぇ?」
「この感覚、私は知ってるわ。これは恋なのよ、間違いないわ」
もう何か色々と間違っているとしか言いようのない霊夢の恋理論だった。暑さで頭が湧いているとか、そんなレベルを通り越したぶっ飛び方だ。あまりに予想の斜め上過ぎる展開に処理が追い付かず、チルノは呆けたようになってしまっていたが、本質的な違和感がチルノにツッコミの声を上げさせていた。
「「そんな恋があってたまるかぁ!!」」
声がハモった。霊夢はもう一か所の声の出処の方に振り返る。
霧雨魔理沙が、肩で息をしながら立っていた。
「あら魔理沙、ごきげんよう」
「ご機嫌じゃないぜ! ちっともご機嫌じゃないぜ! なんだよこれは! チルノといちゃいちゃしやがって! まるで浮気現場じゃないか! しかもなんか様になってるし! せっかくこのクソ暑いなか来たっていうのに、なんてもんを見せられてんだよ私は!」
「浮気じゃないわよ。私はただ正直な気持ちを言っただけよ。もちろん魔理沙の事も大好きなんだから」
「だああああ! 下手に純粋なだけになおさら質悪いぜ!」
やりきれない気持ちを示すように、魔理沙は地団太を踏んだ。額から汗がぽたぽたと落ちていく。
「大体なんだよさっきの説明は! 暑さの中抱きしめあう? 余計暑くなるだろ! だんだん鼓動が早くなる? 当然だろ暑いんだから! で、それが快感? もうマゾかよ! そして全体的に説明がエロい! 聞いててこっちが恥ずかしくなるぜ! というか、そうじゃないだろ! 恋ってのはさぁ! なんというか、純粋というか、清純というか……もっと綺麗な感じがすることじゃないかなぁ!? なのになんで、霊夢は恋をそんな風に感じてるんだ?」
「いつも魔理沙としているときに感じることをそのまま言っただけなんだけど。体触ったりとか、肌に触れ合ったりとか……」
「よし、よし! 分かった! なんか全体的に私のせいだった! だからそれ以上言うなよ! 頼むから!」
相手の弱点を突きに行ったと思ったら、逆に地雷を踏み抜いて盛大に自爆した魔理沙だった。チルノが未だにキョトンとしたままで理解が追い付いていなさそうなのがせめてもの救いか。
「まぁあれだ、霊夢の恋愛観がアレなのは私のせいだったっぽいから良しとしよう。妙にエロっぽい説明だったのも納得がいった。だがそれでも一言物申させてもらうのは、お前のその格好だよ! なんだよそれは! はしたなすぎて、なんか、もう、エロ過ぎるぜ! ただでさえ暑いのに、さらに体温が上がって暑くなるだろ! 知ってるか? 体温が上がると鼻血が出やすくなるんだぜ!? とにかく目のやり場に困る! 私が!!!」
「だって暑いんだもの、しょうがないじゃない」
「せめてサラシくらいは巻けよ!!」
そのとき、ひゅおぅっと都合のいい風が都合よく吹いた。その風で霊夢の紅衣がふわっとめくれあがって―――
魔理沙の鼻腔が決壊した。
「………………ぐぼっ」
ぼたたっ、と結構な量の血が、鼻を押さえる魔理沙の手から零れ落ちた。
「え、魔理沙、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇ……」
暑さと出血で、頭がくらくらした。気合で意識を保たなければ、今にも気絶しそうな勢いだ。そしてそれ以上に、自我を失わないようにするので魔理沙は必死だった。
どうしてこうなった。私はただ、霊夢のところに遊びに来ただけなのに。―――やっぱりこんなクソ暑い日に外は出歩くものじゃなかったんだ。
魔理沙は朦朧とした意識のまま、じろりと霊夢を睨みつけた。
心配そうにこちらを霊夢が見ている。腕にはチルノが抱えられている。その様子はまるで仲の良い姉妹のようだ。しかも変に似合っている。
いつもの両袖は無い。スカートは短い。生腕。生足。チルノの後ろに見える紅衣はめくれあがって、腋と脇腹が露わになっている。魅惑的な肌色が目に映る。先ほどの光景がフラッシュバックする。
魔理沙の理性のタガが、壊れて歪む音がした。
「なんで私がこんな目に……全部霊夢のせいだぜ」
「もしかして、怒ってる?」
「怒ってる? 怒ってる以上の感情だぜ。いやいや、それも違うな。これを言葉で言い表すならば……そう、これが恋だ」
「恋? 魔理沙も恋を感じているの?」
「あぁ、そうだ。間違いないぜ。だってこんなに霊夢が魅力的に見えるんだ。恋じゃなくて何だって云うんだ? だがその恋のせいで今私はえらく苦しむ羽目になっている。暑さも加わったその他色々で、頭がパンクしそうなんだ。だから掃除をしないとな」
魔理沙は懐をごそごそと漁って八卦炉を取り出すと、それを霊夢に向けた。
あれぇ、と霊夢が小首を傾げた。
「え、掃除って、魔理沙の頭の中の、じゃないの?」
「頭の中の掃除だぜ。頭には眼が付いてて、そこから得た情報が頭に送られる。そのせいで無限に湧き上がる衝動が、頭の中でキャパオーバーを起こしかけてるんだ。私の中に残ったわずかな理性じゃ、それ全部はねじ伏せきれない。だったら情報が入ってくるのを遮断するしかない。つまり、視界の情報を消せば万事丸く収まるって訳だ」
「どういう事よ。三行で簡潔に」
「霊夢がエロいのが悪い。チルノといちゃいちゃしてて、それすらも可愛く思えるのが悪い」
「えぇぇぇ……なんだか腑に落ちないわ。恋って悪いことなの?」
「悪くはないが、仕方ないんだぜ。これ以上お前を見てると私がどうにかなっちまうからな。きっと暑さのせいだぜ。悪く思うなよ」
八卦炉の中央部が怪しげな光を発し始めた。霊夢は、あぁ、と諦めたように呟く。
そんな理由であの光に吹っ飛ばされるのかぁ。離れの修理どれくらいになるかしら。あぁ、でも、納得いかないけど仕方ない気もするわね。きっと私も魔理沙も悪くない。暑さと恋のせいで皆おかしくなっちゃってるだけだもの。恋って本当に大変よね。
霊夢は八卦炉の光をただぼんやりと見つめたまま、逃げようともしなかった。そもそも暑さとチルノの冷気で、霊夢の正常な思考と判断と感情はどこか宇宙の彼方へすっ飛んでしまっていたのだ。それに実際のところ、魔理沙の八卦炉の光がそんなに恐怖だとは霊夢は感じていなかった。
霊夢はその光が来るのを待った。だがいつまで待っても、それは来なかった。
ついに魔理沙が、いつまで経ってもウンともスンとも言わない八卦炉をいじくりだした。
「……回路がオーバーヒートを起こしてる」
魔理沙は観念したように頭上を見上げた。相変わらず太陽は、バカみたいに熱気を降らし続けている。
「暑さのせいか」
「暑さのせいね」
ぴゅうと一瞬風が吹いた。魔理沙の帽子が煽られて、ふわりと地面に落ちた。額に出来た大粒の汗が、頬とかを伝って顎先からぽとりと落ちる。魔理沙の張り詰めたような意識の糸は、もういつ切れてもおかしくなかった。
「霊夢」
「なに」
「チルノ貸してくれ」
「いやよ。私が暑くなるでしょ」
「じゃあお前ごと抱きしめていいか」
「それならいいわ」
そこからの魔理沙の行動は、自動化された機械の様な過程だった。すでに無意識が、魔理沙の身体を支配していたのかもしれない。
魔理沙はよたつきそうでよたついていない足取りで霊夢に近づくと、
縁側に膝をついて背中に手を回して、
霊夢ごと二人を押し倒した。
―――ひんやり
漏れ出るチルノの冷気が、魔理沙の身体を取り巻いていく。冷気は熱気が満ちる空気と魔理沙を隔てる層となり、魔理沙を固有の幻想へと導いた。
「…………最高だぜぇ」
生き返った魔理沙が、第一声に発したのがこの一言である。顔はありし時の霊夢のようにふにゃふにゃになっていた。まぁ無理も無いことではある。
ちなみにようやく今になって、チルノが脳内状況処理を終えて「あたい全部理解した! 結果的にもう逃げられない!」とかのたまったが、もはや後の祭りであった。
「魔理沙、大丈夫?」
霊夢が心配そうな口調で、でも表情は全く心配してなさそうな表情で、魔理沙に訊いた。魔理沙も同じく蕩けた表情のまま、大丈夫だぜ、と変にしっかりした口調で答えた。
「私はいつも普通で何ともないぜ」
「嘘おっしゃい。普通の魔理沙が、マスパで私を吹き飛ばそうとするもんですか」
「あれれ、私そんなことをしようとしてたのか?」
「ついさっきの事よ。覚えて無いの?」
「あぁ、悪いな。どうも都合の悪いことはすぐ忘れてしまうんだ」
「暑さのせいかしら」
「暑さのせいだぜ」
触れ合えるほどに近い位置で顔を見合わせる霊夢と魔理沙は、互いの顔を見てくすくすと笑った。このまま顔を近づければ、キスだってできそうだ。互いの混乱で大惨事が起きそうだったことも、今の二人にはもうどうでも良いことになっていた。
二人は今日やっと、一番良い距離を見つけたのだ。その安堵感が、二人を包んでいった。
「今日も私にさわるの?」
「もちろんだ。というか、もうさわってるぜ。こんな体勢だからな」
魔理沙は背中に回した手を、するりと紅衣の下に滑り込ませた。肌越しに霊夢の体温を直に感じる。そしてその柔らかさも。
「今日の霊夢、いつもより冷こいな」
「あら、そう? きっとチルノのおかげね」
「んん、チルノ様々だな」
「ふふ。でも、今日の魔理沙って可笑しいわ。エロいのダメってあれほど言ってたのに、いつもより大胆に手を伸ばすんだもの」
「あ……うむむ。だって、まぁ、その……今日の霊夢は、仕方ないじゃないか」
「答えになってないわね。でもその言い方が一番分かる。さわって確かめたいのでしょう? いつも以上に」
霊夢は片手を魔理沙の腕に伸ばすと、すうっと魔理沙の腕を艶やかになぞった。魔理沙のことを笑いはしたものの、霊夢もまた、魔理沙にさわりたくて仕方なかったのだ。
「あぁ、そうだ……霊夢の肌がこんなに気持ちいいって感じたのは、多分初めてだ。霊夢が言ってたこと、なんだか分かるような気がする」
「魔理沙、感じるでしょ? 身体の中に、暑さとは違う温かさが出来て、それがとても快感なの。これは恋かしら?」
「恋だな、きっと。だって、私も同じものを感じてるんだから」
もう一度、二人は互いの顔を見つめあってくすくすと笑い合った。互いの肌を通じて感じあう興奮が、二人の中にこれまでに感じたことのない心地良さを生まれさせていた。この感覚をもっと知りたい、手放したくないと、二人は心の底からそう願った。
「ねぇ、魔理沙。もっと私にさわって? 私、貴女をもっと感じていたい。魔理沙を感じていたいの」
「私もだぜ、霊夢。私ももっと霊夢を感じていたい。霊夢に触れていたい。だけど……その前に……」
魔理沙の意識の糸が急速に緩んでいく。自分の視界が徐々に狭くなっていくのに、魔理沙は気づいていた。
「……少し、眠っていいか。暑くて、でも気持ち良くて、ここは霊夢の隣だから……」
「そうね、今日は疲れたでしょう。焦ることは無いわ。時間はまだ、たくさんあるもの」
霊夢はこつんと、自分の額を魔理沙の額に当てた。魔理沙はもう、軽い寝息を立てていた。
その唇にキスをしようとして―――出来なかった。恥ずかしさが先に立ったのだ。真っ赤になった顔で霊夢は、やっぱり私にはまだ早いわね、と独り言ちた。
「おやすみなさい。魔理沙」
幻想郷の夏は暑かった。本当に暑かった。これの何処が楽園なんだ、と文句を言いたくなるほどにクソ暑かった。
だが博麗神社の縁側には、確かに楽園があった。そこで静かに寝息を立てる二人の少女限定で、暑さすらその立ち入りを拒む超限定空間ではあったが。
―――くぅくぅ
―――すぅすぅ
深い眠りが、紅白の少女が締め付けていた腕をわずかに緩ませる。すると二人の間がもぞもぞと動き出した。氷精のチルノだ。
チルノは楽園の一番良い空間から顔だけ出して、ぷはぁと息を吐いた。
「あたい、なんとなく分かった。恋ってやわらかい!」
そう呟くチルノの頬は紅かった。チルノは霊夢と魔理沙の間で、恋の気持ち良さを感じた少女になったのだ。
風鈴が、小さくチリンと鳴った。もう少し、暑さは続きそうだ。
本当にクソ暑い。
そんな汚い表現が飛び出すほどに、幻想郷の夏は暑かった。
風鈴が、小さくチリンと鳴った。
博麗神社には、涼を取る術がなかった。
離れの襖を全て開け放ったが、体感で吹く風は全くない。さっきの風鈴を鳴らす程度の風がまれに吹く程度だ。
団扇で扇いでも吹く風は生温く、しかも暑さで疲れがあっという間に溜まって長時間は扇いでいられない。
扇風機とか、冷たいアイスとか、そんな文明の利器も当然一切ない。
つまり、博麗霊夢は詰んでいた。
「あぁー」
霊夢は気の抜けた声を上げた。
彼女は今、離れの縁側でだらしなく横たわっていた。
両袖は暑いので剥ぎ取っていた。上着の紅衣は胸までまくり上げて、へそどころかその上まで見えんばかりだ。そしてスカートである緋袴は、半分ずり落ちて半ケツになってしまっている。
年頃の少女がこれである。いくら暑さのせいとはいえ、はしたなすぎる。
そして極めつけは……このアへ顔だ。
「幸せぇへぇぇぇ」
口端から涎まで垂れている。ばっちぃ。
対照的なのは、胸元に抱えられた哀れな氷精である。こっちは完全に事後の表情になってしまっていた。
「あー」とか「うー」とか霊夢が呻いても、全く反応を示す気配が無い。
どうしてこんな事態になったのか? まぁ説明せずとも、大方見当はつくのであろうが。
思えば運の悪い氷精であった。名をチルノという。
妖精は悪戯をするのが本性である。チルノは特にその気が強い。この悪戯が生きがいの妖精はこのクソ暑い中、あろうことか博麗神社に忍び込んで一つやらかそうとしたのである。対涼感センサーがこれ以上ないくらいにビンビンに敏感になっていた霊夢が、この氷精の存在を見逃すはずがなかった。霊夢は離れの縁側から一瞬のうちに氷精の元まで辿り着くと、驚きで固まっている彼女を二本の腕でがっちりと捕まえ、そのままお持ち帰りしたという訳である。弾幕を撃つ暇すら与えなかったほどの早業であったのは言うまでもない。
当然チルノは抵抗した。手足をばたつかせ、何とか紅白の悪魔から逃れようとした。チルノは他の妖精にすら劣るほどのおバカな妖精であったが、この状況が自分に与える影響の意味は簡単に理解できた。
捕まったら遊ぶことが出来なくなる。―――命ではなく、自由的な意味で。
だがチルノがもがけばもがくほど、彼女を捕らえて離さない二本の腕は緩むどころか、ますますその締め付ける力を上げていった。
ただの半死半病人にしか見えないこの巫女のどこにそんな力が―――
そんな疑問も、やがてどうあがいても逃げられないという恐怖と諦観で支配され、チルノから抵抗する気力を奪っていった。
そして完全に抵抗する意思を失くし、白旗を上げざるを得なくなった時に聞いた巫女の歓喜の言葉が、チルノの耳から離れなくなっていた。
「むふふ。もう、逃がさないわよぉ……」
それから数十分。
チルノはいまだに巫女の腕の中で拘束されたままだった。
「あぁ……最高ぉ……」
ふにふに
チルノのほっぺに顔を擦り付けながら、霊夢はうっとりとした表情で呟く。
抱きかかえたチルノからは一定の冷気が漏れ続けている。その冷たさは夏の暑さで暖まった体温と相まって、言いようのない心地よさを感じさせるのだ。
まさに至福。自然が産みし最高の産物である。
今のチルノは、霊夢にとって最高の抱き枕になっていた。とてつもなく心地よい適度なひんやり感。霊夢が呆けたようになるのも無理はなかった。
「……ねぇ、霊夢」
チルノがしばらくぶりに口をきいた。
「あたい、いつになったら帰れるの……?」
「うふふ。そんなの決まってるじゃない。暑くなくなるまで、よ」
「……ふえぇぇぇ」
チルノは抗議の悲鳴を上げた。だがその声もすぐに小さくなって掻き消えていく。
この巫女は、やると言ったことは必ずやる。たとえそれがどんな理不尽なことでもだ。この巫女のむちゃくちゃな強引さは、ある程度付き合いがある者ならば誰でも知っていることだった。抗議したところで無意味なのである。
紅白の悪魔はムフフと妖しげに嗤う。
「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。この夏の間は、私があんたを養ってあげるからさ」
「……いいよぉ、別に。それに、あたいがいると魔理沙に迷惑じゃないの?」
「あら、私と魔理沙の関係知ってるの? どこで知ったのかしら。悪い子ね」
「みんな知ってるよ。あんなにいちゃいちゃやってればさ」
「まぁ。恥ずかしいわ」
口では恥ずかしそうに言いつつも、顔はニヤニヤと笑っている。いつもの霊夢だと赤面ものの会話の内容なのだが、そうならないあたり、頭は暑さで相当参っているようだ。
「うふふ。まぁ、魔理沙なんて今はどうでもいいわ。大事なのはチルノ、あんたよ」
「あたい?」
「そうよ。今ね、私の心はあんたに魅せられて離れないの。なんでか分かる?」
「……わかんないよ」
多分それは、教えられてもきっとわからないことだろう。でも正直なところ、分かっても分かりたく無い感じがするなぁ……
そんなことを考えていると、急に腕の締め付けがきつくなった。思わずチルノは、ぐぇっとカエルが潰れたような声を上げた。
「なにすんだよっ」
「ねぇ、チルノ。聴いて」
「な、何を」
「私の胸の音を」
「ほぇ?」
なんでそんなことを、と霊夢に問いただす間もなく、がっちり捕まえている腕の片方が頭に伸びてむぎゅうっと強制的に霊夢の胸元に押さえつけられた。
ふにっとしたやわらかい感覚が、チルノを強襲する。その意外な心地よさに、不本意にもチルノは赤面した。
「チルノ、聴こえる? 私の胸の音が。鼓動が早いでしょう?」
「え、あ、うん」
「これはね、灼熱の暑さの中、互いの身体を抱きしめあって、その鼓動の音に耳を澄ましていると分かるの」
「そうなの?」
「すると不思議で、だんだん鼓動が早くなって、全身に痺れるような快感が満たされていくのよ」
「へ?」
「さらにお肌とお肌の触れ合いで感じる柔らかさが、この快感を増幅していって……」
「え?……えぇ?」
「この感覚、私は知ってるわ。これは恋なのよ、間違いないわ」
もう何か色々と間違っているとしか言いようのない霊夢の恋理論だった。暑さで頭が湧いているとか、そんなレベルを通り越したぶっ飛び方だ。あまりに予想の斜め上過ぎる展開に処理が追い付かず、チルノは呆けたようになってしまっていたが、本質的な違和感がチルノにツッコミの声を上げさせていた。
「「そんな恋があってたまるかぁ!!」」
声がハモった。霊夢はもう一か所の声の出処の方に振り返る。
霧雨魔理沙が、肩で息をしながら立っていた。
「あら魔理沙、ごきげんよう」
「ご機嫌じゃないぜ! ちっともご機嫌じゃないぜ! なんだよこれは! チルノといちゃいちゃしやがって! まるで浮気現場じゃないか! しかもなんか様になってるし! せっかくこのクソ暑いなか来たっていうのに、なんてもんを見せられてんだよ私は!」
「浮気じゃないわよ。私はただ正直な気持ちを言っただけよ。もちろん魔理沙の事も大好きなんだから」
「だああああ! 下手に純粋なだけになおさら質悪いぜ!」
やりきれない気持ちを示すように、魔理沙は地団太を踏んだ。額から汗がぽたぽたと落ちていく。
「大体なんだよさっきの説明は! 暑さの中抱きしめあう? 余計暑くなるだろ! だんだん鼓動が早くなる? 当然だろ暑いんだから! で、それが快感? もうマゾかよ! そして全体的に説明がエロい! 聞いててこっちが恥ずかしくなるぜ! というか、そうじゃないだろ! 恋ってのはさぁ! なんというか、純粋というか、清純というか……もっと綺麗な感じがすることじゃないかなぁ!? なのになんで、霊夢は恋をそんな風に感じてるんだ?」
「いつも魔理沙としているときに感じることをそのまま言っただけなんだけど。体触ったりとか、肌に触れ合ったりとか……」
「よし、よし! 分かった! なんか全体的に私のせいだった! だからそれ以上言うなよ! 頼むから!」
相手の弱点を突きに行ったと思ったら、逆に地雷を踏み抜いて盛大に自爆した魔理沙だった。チルノが未だにキョトンとしたままで理解が追い付いていなさそうなのがせめてもの救いか。
「まぁあれだ、霊夢の恋愛観がアレなのは私のせいだったっぽいから良しとしよう。妙にエロっぽい説明だったのも納得がいった。だがそれでも一言物申させてもらうのは、お前のその格好だよ! なんだよそれは! はしたなすぎて、なんか、もう、エロ過ぎるぜ! ただでさえ暑いのに、さらに体温が上がって暑くなるだろ! 知ってるか? 体温が上がると鼻血が出やすくなるんだぜ!? とにかく目のやり場に困る! 私が!!!」
「だって暑いんだもの、しょうがないじゃない」
「せめてサラシくらいは巻けよ!!」
そのとき、ひゅおぅっと都合のいい風が都合よく吹いた。その風で霊夢の紅衣がふわっとめくれあがって―――
魔理沙の鼻腔が決壊した。
「………………ぐぼっ」
ぼたたっ、と結構な量の血が、鼻を押さえる魔理沙の手から零れ落ちた。
「え、魔理沙、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇ……」
暑さと出血で、頭がくらくらした。気合で意識を保たなければ、今にも気絶しそうな勢いだ。そしてそれ以上に、自我を失わないようにするので魔理沙は必死だった。
どうしてこうなった。私はただ、霊夢のところに遊びに来ただけなのに。―――やっぱりこんなクソ暑い日に外は出歩くものじゃなかったんだ。
魔理沙は朦朧とした意識のまま、じろりと霊夢を睨みつけた。
心配そうにこちらを霊夢が見ている。腕にはチルノが抱えられている。その様子はまるで仲の良い姉妹のようだ。しかも変に似合っている。
いつもの両袖は無い。スカートは短い。生腕。生足。チルノの後ろに見える紅衣はめくれあがって、腋と脇腹が露わになっている。魅惑的な肌色が目に映る。先ほどの光景がフラッシュバックする。
魔理沙の理性のタガが、壊れて歪む音がした。
「なんで私がこんな目に……全部霊夢のせいだぜ」
「もしかして、怒ってる?」
「怒ってる? 怒ってる以上の感情だぜ。いやいや、それも違うな。これを言葉で言い表すならば……そう、これが恋だ」
「恋? 魔理沙も恋を感じているの?」
「あぁ、そうだ。間違いないぜ。だってこんなに霊夢が魅力的に見えるんだ。恋じゃなくて何だって云うんだ? だがその恋のせいで今私はえらく苦しむ羽目になっている。暑さも加わったその他色々で、頭がパンクしそうなんだ。だから掃除をしないとな」
魔理沙は懐をごそごそと漁って八卦炉を取り出すと、それを霊夢に向けた。
あれぇ、と霊夢が小首を傾げた。
「え、掃除って、魔理沙の頭の中の、じゃないの?」
「頭の中の掃除だぜ。頭には眼が付いてて、そこから得た情報が頭に送られる。そのせいで無限に湧き上がる衝動が、頭の中でキャパオーバーを起こしかけてるんだ。私の中に残ったわずかな理性じゃ、それ全部はねじ伏せきれない。だったら情報が入ってくるのを遮断するしかない。つまり、視界の情報を消せば万事丸く収まるって訳だ」
「どういう事よ。三行で簡潔に」
「霊夢がエロいのが悪い。チルノといちゃいちゃしてて、それすらも可愛く思えるのが悪い」
「えぇぇぇ……なんだか腑に落ちないわ。恋って悪いことなの?」
「悪くはないが、仕方ないんだぜ。これ以上お前を見てると私がどうにかなっちまうからな。きっと暑さのせいだぜ。悪く思うなよ」
八卦炉の中央部が怪しげな光を発し始めた。霊夢は、あぁ、と諦めたように呟く。
そんな理由であの光に吹っ飛ばされるのかぁ。離れの修理どれくらいになるかしら。あぁ、でも、納得いかないけど仕方ない気もするわね。きっと私も魔理沙も悪くない。暑さと恋のせいで皆おかしくなっちゃってるだけだもの。恋って本当に大変よね。
霊夢は八卦炉の光をただぼんやりと見つめたまま、逃げようともしなかった。そもそも暑さとチルノの冷気で、霊夢の正常な思考と判断と感情はどこか宇宙の彼方へすっ飛んでしまっていたのだ。それに実際のところ、魔理沙の八卦炉の光がそんなに恐怖だとは霊夢は感じていなかった。
霊夢はその光が来るのを待った。だがいつまで待っても、それは来なかった。
ついに魔理沙が、いつまで経ってもウンともスンとも言わない八卦炉をいじくりだした。
「……回路がオーバーヒートを起こしてる」
魔理沙は観念したように頭上を見上げた。相変わらず太陽は、バカみたいに熱気を降らし続けている。
「暑さのせいか」
「暑さのせいね」
ぴゅうと一瞬風が吹いた。魔理沙の帽子が煽られて、ふわりと地面に落ちた。額に出来た大粒の汗が、頬とかを伝って顎先からぽとりと落ちる。魔理沙の張り詰めたような意識の糸は、もういつ切れてもおかしくなかった。
「霊夢」
「なに」
「チルノ貸してくれ」
「いやよ。私が暑くなるでしょ」
「じゃあお前ごと抱きしめていいか」
「それならいいわ」
そこからの魔理沙の行動は、自動化された機械の様な過程だった。すでに無意識が、魔理沙の身体を支配していたのかもしれない。
魔理沙はよたつきそうでよたついていない足取りで霊夢に近づくと、
縁側に膝をついて背中に手を回して、
霊夢ごと二人を押し倒した。
―――ひんやり
漏れ出るチルノの冷気が、魔理沙の身体を取り巻いていく。冷気は熱気が満ちる空気と魔理沙を隔てる層となり、魔理沙を固有の幻想へと導いた。
「…………最高だぜぇ」
生き返った魔理沙が、第一声に発したのがこの一言である。顔はありし時の霊夢のようにふにゃふにゃになっていた。まぁ無理も無いことではある。
ちなみにようやく今になって、チルノが脳内状況処理を終えて「あたい全部理解した! 結果的にもう逃げられない!」とかのたまったが、もはや後の祭りであった。
「魔理沙、大丈夫?」
霊夢が心配そうな口調で、でも表情は全く心配してなさそうな表情で、魔理沙に訊いた。魔理沙も同じく蕩けた表情のまま、大丈夫だぜ、と変にしっかりした口調で答えた。
「私はいつも普通で何ともないぜ」
「嘘おっしゃい。普通の魔理沙が、マスパで私を吹き飛ばそうとするもんですか」
「あれれ、私そんなことをしようとしてたのか?」
「ついさっきの事よ。覚えて無いの?」
「あぁ、悪いな。どうも都合の悪いことはすぐ忘れてしまうんだ」
「暑さのせいかしら」
「暑さのせいだぜ」
触れ合えるほどに近い位置で顔を見合わせる霊夢と魔理沙は、互いの顔を見てくすくすと笑った。このまま顔を近づければ、キスだってできそうだ。互いの混乱で大惨事が起きそうだったことも、今の二人にはもうどうでも良いことになっていた。
二人は今日やっと、一番良い距離を見つけたのだ。その安堵感が、二人を包んでいった。
「今日も私にさわるの?」
「もちろんだ。というか、もうさわってるぜ。こんな体勢だからな」
魔理沙は背中に回した手を、するりと紅衣の下に滑り込ませた。肌越しに霊夢の体温を直に感じる。そしてその柔らかさも。
「今日の霊夢、いつもより冷こいな」
「あら、そう? きっとチルノのおかげね」
「んん、チルノ様々だな」
「ふふ。でも、今日の魔理沙って可笑しいわ。エロいのダメってあれほど言ってたのに、いつもより大胆に手を伸ばすんだもの」
「あ……うむむ。だって、まぁ、その……今日の霊夢は、仕方ないじゃないか」
「答えになってないわね。でもその言い方が一番分かる。さわって確かめたいのでしょう? いつも以上に」
霊夢は片手を魔理沙の腕に伸ばすと、すうっと魔理沙の腕を艶やかになぞった。魔理沙のことを笑いはしたものの、霊夢もまた、魔理沙にさわりたくて仕方なかったのだ。
「あぁ、そうだ……霊夢の肌がこんなに気持ちいいって感じたのは、多分初めてだ。霊夢が言ってたこと、なんだか分かるような気がする」
「魔理沙、感じるでしょ? 身体の中に、暑さとは違う温かさが出来て、それがとても快感なの。これは恋かしら?」
「恋だな、きっと。だって、私も同じものを感じてるんだから」
もう一度、二人は互いの顔を見つめあってくすくすと笑い合った。互いの肌を通じて感じあう興奮が、二人の中にこれまでに感じたことのない心地良さを生まれさせていた。この感覚をもっと知りたい、手放したくないと、二人は心の底からそう願った。
「ねぇ、魔理沙。もっと私にさわって? 私、貴女をもっと感じていたい。魔理沙を感じていたいの」
「私もだぜ、霊夢。私ももっと霊夢を感じていたい。霊夢に触れていたい。だけど……その前に……」
魔理沙の意識の糸が急速に緩んでいく。自分の視界が徐々に狭くなっていくのに、魔理沙は気づいていた。
「……少し、眠っていいか。暑くて、でも気持ち良くて、ここは霊夢の隣だから……」
「そうね、今日は疲れたでしょう。焦ることは無いわ。時間はまだ、たくさんあるもの」
霊夢はこつんと、自分の額を魔理沙の額に当てた。魔理沙はもう、軽い寝息を立てていた。
その唇にキスをしようとして―――出来なかった。恥ずかしさが先に立ったのだ。真っ赤になった顔で霊夢は、やっぱり私にはまだ早いわね、と独り言ちた。
「おやすみなさい。魔理沙」
幻想郷の夏は暑かった。本当に暑かった。これの何処が楽園なんだ、と文句を言いたくなるほどにクソ暑かった。
だが博麗神社の縁側には、確かに楽園があった。そこで静かに寝息を立てる二人の少女限定で、暑さすらその立ち入りを拒む超限定空間ではあったが。
―――くぅくぅ
―――すぅすぅ
深い眠りが、紅白の少女が締め付けていた腕をわずかに緩ませる。すると二人の間がもぞもぞと動き出した。氷精のチルノだ。
チルノは楽園の一番良い空間から顔だけ出して、ぷはぁと息を吐いた。
「あたい、なんとなく分かった。恋ってやわらかい!」
そう呟くチルノの頬は紅かった。チルノは霊夢と魔理沙の間で、恋の気持ち良さを感じた少女になったのだ。
風鈴が、小さくチリンと鳴った。もう少し、暑さは続きそうだ。
評価も間もないのにロクな目にあわないってどういうこと?こんな出来、とか思うんなら納得いくまで書き直せばいいんじゃないですか?
へんな逃げ道をつくるのは目にみえると不快です。
あとチルノそこ代われ…いや仲間に入れてくださいお願いします。
横っ面思いっきりひっぱたかれた気分です。おかげで目が覚めました。
どうかしてました。自分で自信を持てない作品なんぞ、ホント出すべきではないのです。
そして作品として出す以上、そのようなことを口には決して出すべきではない。
反省としてこの作品は残しますが、このような作品は二度と創りません。
次の作品は胸を張って出せるように精一杯努力します。本当に申し訳ございませんでした。
そうすることで、ラストの風鈴の音に事態の好転などを示す意味が出てくるかも。
*「暑夏に霊夢が詰んでいた」→「チルノで幸せ」がつながらない。詰んでいた状況にチルノが蜘蛛の糸として現れるとするのが良いかも。
*笑いというのがギャップで生まれるという視点からすると、チルノを冷静な立ち位置に固定して、霊夢と魔理沙をクレイジーさを強調するのが良いかも。
クレイジーさの強調というのはもっと悪ノリしてみることも含む。たとえば霊夢がチルノを捕らえるときも、「対涼感センサー」という面白い要素を出したのだから、さらに進めて、「チルノの背後から高速で接近する段ボールがあり、振り返ると転がった段ボール。何これ?と首をかしげたところに天井に張り付いた霊夢が落ちてきて拘束」くらいはしてもいいかも。
*視点が変化するのはちょっと気を遣った方がいいかも。霊夢視点・チルノ視点・魔理沙視点・複数共通視点と入り乱れるとなると、難易度が高い。
*方向性が固定されてないような印象を受けた。話の力点がわかりづらい、オチがオチとして心に収まりにくい、といったように感じた。
「ハチャメチャにラブラブする絡み合いをしていながら、キスもためらう初々しさ」をオチにもってくるには、ハチャメチャの度合いを強くし、初々しさを事前に匂わせる前振りが必要かも。
次回作、期待してます。
なんだこのえろ霊夢はw
よろしいんじゃないでしょうか。
私はギャグとエロはワンセットだと思っておりますからww