妖怪の山中にある洩矢神社の巫女、早苗は包丁を持ち、今まさに、その無脊椎動物系妖怪に斬りかからんとした。
「買った包丁の威力を試させろ、です☆」
「よせ早苗! そいつに手を出すな」
「大丈夫です、私は負けませんよ魔理沙さん。それに妖怪は退治しなきゃ」
「そういう意味じゃねええっ」
魔理沙は叫んだ。しかし時すでに遅し、その妖怪は早苗によって真っ二つにされた後だった。
☆
暖かくなってきたものの、油断して毛布を減らすと時折寒さがぶり返す季節、魔理沙は洗濯のため魔法の森を流れる川に来ていた。
いつものとんがり帽子とエプロンドレスではなく、紺色のロングスカートに白い色のシャツを着て、頭に同じく白い頭巾をかぶり、洗濯物を入れた籠を持って歩く姿は、魔法使いというより洗濯女と言う方が似つかわしい。
「相当たまってたな、アリスはどうしているんだろうな」
河原の石と八卦炉でこしらえた即席のコンロでたらいの水を温め、衣服や洗剤を入れてじゃぶじゃぶと洗う。
汚れが落ちた後、取り替えたお湯ですすぐ。
今日は比較的暖かい日とは言え、まだまだ肌寒かった。
「う~さぶさぶ」
八卦炉で冷えた手を温めつつ、洗濯物を籠に入れて足早に家に戻ろうとした時、ばちゃん、と水面を叩く音に振り向くと、川面に誰かが流れている。
死人のような白い着物を着た少女が、仰向けになって流れに身を任せているではないか。
知り合いの河童の河城にとりではない。
(水死体? いやよく居る妖怪の類か)
一瞬水死体かと思って魔理沙はぎょっとしたが、次の瞬間よくいる妖怪の一種だと思い直して落ち着いた後、顔をよく見ようと目を凝らし、浮かんでいる妖怪と目が合った。
しばらくの沈黙を破ったのは好奇心旺盛な魔理沙のほう。
「よう、寒中水泳か?」
「げげっ、人間!」
初めて会った時のにとりのような事を叫んで、その妖怪は方向転換して逃げようとする。
だが魔理沙は好奇心から、岸辺を走って泳いで逃げる妖怪と並走してみる。
「おーい、何で逃げるんだよ」
「だって、人間は私にいつもひどい事をするんだもん」
「私は妖怪だからってひどい事なんかしないぜ、害を加えてこない限りはな」
「本当に?」
その水生妖怪は泳ぎを止め、魔理沙の方を向いた。
「ああ、本当だぜ」
「刃物とか持ってない?」
「ああ、このとおり」
両手を振り、武器になるようなものを持っていない事を示した。
寄り目で、耳の代わりに三角形の白いヒレのような物がついたその妖怪は、おそるおそる岸に上がり、魔理沙の眼を見つめる。
「あなた、悪そうな人じゃなさそうだけど、どうしてこんな所にいるの?」
「私は霧雨魔理沙、人間の魔法使いだぜ、この森は魔法研究に何かと都合がよくてな」
「そうなの? 私は芙羅那りあ。ウズムシの妖怪よ」
「よろしくな、りあ」
「気易く名前で呼ばないで」
「ああ、ごめん、芙羅那」
「まあ、でもどっちでもいいよ、魔理沙、私がここに住んでいる事は皆には内緒よ」
「ああ、約束するぜ。まあ、ここじゃ寒いし、陸に上がっても大丈夫なら家にくるか」
「うん、いいかも」
二つ返事で了承して、ゆっくりした足取りで岸に上がる。魔理沙は彼女を連れて家に戻った。
いい暇つぶしになりそうだと魔理沙は思う。
☆
「プラナリア、扁形動物門ウズムシ綱ウズムシ目ウズムシ亜目に属する生物の総称、海水や淡水、湿気の多い陸地に暮らす。消化管は口と肛門に分かれておらず、同じ穴から取り込んだり出したりする。……」
魔道書にまぎれていた生物関係の本をやっとの事で引っ張り出し、目の前の妖怪の元になったであろう生物の事を調べてみる。
魔理沙の外見に似つかわしくない、ひどく散らかった部屋の真ん中を強引に片づけ、空いたスペースにこれまた西洋魔法使いのイメージに反したちゃぶ台と座布団を置き、そこに件の妖怪少女りあは座っていた。
ちゃぶ台に置かれた緑茶入りの湯呑を、おそるおそる口につけている。
「そして、プラナリアの最大の特徴はその再生能力で、体を切断しても切片がそれぞれ一つの個体として復活する。昔ある学者がヤケクソで100以上の切……」
「それ以上言わないで!」
強い口調で魔理沙の言葉を遮った。
「すまん、いろいろ思い出したくない事があるんだな。それで特に益も害もなさそうな奴に見えるが……」
りあは冷めていた茶を一気に飲み干し、湯呑をちゃぶ台にとんと置いて言う。
「そう、私達は、べつに人を幸福にするわけでも、不幸にするわけでもない、ただ静かに暮らしていたいだけ、なのに、人間は面白半分で私達を切り刻む、それも生きたまま……。決めた、今から里に行って、人間に抗議してくるわ。魔理沙、あんたも手伝ってくれる?」
「まあ、私ら魔法使いも迫害された歴史があるがな……」
「本当に、じゃあ私達は同志ね、一緒に行こう!」
「しょうがないな、ほどほどにするんだぞ」
魔理沙はりあを箒の後ろに乗せて里に向かった。
ちょっと面白くなりそうだと思ってしまう魔理沙であった。
☆
「あっ、知ってるよ、プラナリアって斬っても再生するんでしょ」 ズバッ
「ねえ、一回切断させてよ」 ザクッ
「先生が言ってた、見つけたら切ってみようって」 ザシュッ
「あなた、切っても大丈夫な妖怪でしょ、剣の切れ味試させて」スパァーン
里に抗議に行って約一時間後、りあは数十体に分裂していた。
「あはははは、災難だったなお前」
魔理沙の膝丈サイズの者もいれば、手のひらサイズの個体もいた。そんなりあ『達』を目にして魔理沙は腹を手で押さえて吹き出してしまう。
そのうちの一体が怒りだしたが……。
「ちょっと、笑わないでよ、さっそく迫害されたのよ」
分裂、再生した別の個体がなだめる
「まあまあ、私達、切っても死なないんだからさ」
「のんびり行こうよ」
「私はどっちでもいいわ、復讐したければする、したくなければしない。好きにすれば」
「ぷぷっ、一匹一匹性格が違う」
「笑わないで、切られながら聞いたところだと、私達の性質を教えたのはケイネってやつらしいの」
「知ってるぜ、人と妖怪のハーフで、ここの守護者だ」
「魔理沙、あんたも広めたんじゃないでしょうね」
「いやいや、私はさっき百科事典で知ったばかりだぜ」
「その人に抗議に行くけど、怖いから魔理沙も来て」
りあの中で比較的一番大きいヤツが魔理沙の手をひっぱり、残りのりあ達は歩きがてら線香花火のような弾幕ごっこに興じたり、里の人間とおしゃべりしたり、捕まって切断されて解放されたりしながらぞろぞろ付いてくる。
☆
「そう言う事だったのか、すまんすまん、皆に自重するように言うよ」
里の寺子屋にいた慧音はりあの講義を素直に聞き入れ、謝ってくれた。
寺子屋はすでに放課後で、慧音の周りをりあ達と魔理沙が囲んでいるが、最も強硬的な一個体を除き、怒りよりも興味しんしんといった面持ちで慧音を見ていた。
外からは遊ぶ子供たちの元気な声が聞こえてくる。
「でも、こっちは単に授業に一環として、生命の神秘さを知って欲しかったんだよ」
「りあ、お前には受け入れがたいかも知らんが、人間は子供のうちに、生き物を殺す経験も必要なんだぜ、そうする事でかえって生命への敬意が高まるんだ」
魔理沙も慧音の見方をした。
「魔理沙、貴方どっちの味方なのよ」
「まあ私も基本的に人間だしな、でも妖怪とも仲良くしていきたいぜ」
「私も、里や人間に害を加えないなら、君達の安全を保障しよう」
「今回の所はそれで許してあげましょう、あと慧音、あなたはどうやって私の特性を知ったのか答えなさい」
「ああ、最近外界から来た神々がいてね、その神社の巫女が生物の授業で習ったそうなんだ」
「そいつか」
りあは魔理沙の方を向いてそこへ連れて行ってくれと急かす。
魔理沙はやれやれと肩をすくめて、箒を用意する。
分裂したりあ達を箒に乗せ、妖怪の山のふもとを目指す。
「わあ~すごい、里があんなに小さくなった」
「ちょっと、観光に行くんじゃないのよ」
「また里に遊びに行きたいなあ」
「切られるのも結構気持ちいいな」
「はあ、べつにどーでもいいわ」
背中の方がにぎやかだ。
☆
「ああ、魔理沙さんこんにちは、あれ、後ろに乗ってるのは?」
魔理沙達が到着した時、東風谷早苗は境内の石畳の掃き掃除をしている最中だった。
手を休めて、箒の後ろに乗っかった妖怪たちを見る。
「ああ、プラナリアって生き物の妖怪で、お前に話があるらしいぜ」
「あんたが早苗ね、よく聞きなさい」
りあ達の中の最強硬派が早苗に突っ込んでいく。
早苗は笑顔で時折うなずきながら話を聞いていた。5分ほど経ってりあがひととおりの抗議を終える。
「どう、わかった早苗さん? 私達は静かに暮らしたいだけなのよ」
「わかりました、もう貴方を傷つけるような事は言いません。でも、プラナリアさんって、切り刻んでも再生するんですよね。一度見たかったんですよ」
早苗は社務所からぎらりと光る包丁を持って、りあの目の前にかざした。
「ちょっと! 話聞いてた?」
「買った包丁の威力を試させろ、です☆」
「よせ早苗! そいつに手を出すな」
「大丈夫です、私は負けませんよ魔理沙さん。それに妖怪は退治しなきゃ」
「そういう意味じゃねええっ」
「頭に切れ込みを入れて、プラナリアのおろちにするのもいいですね」
「いやあーっ、せめて完全に切断してえっ」
☆
「と、とんでもない光景を見ちまった」
「結構快感ですね、病みつきになっちゃうかも☆」
普段強気な性格の魔理沙も、嬉々として妖怪を切り刻む早苗と、100以上の切片にされたりあの断片を、ただ茫然と眺めるほか無かった。
「早苗、お前、気は確かか」
「切っても再生するプラナリアさんじゃなければここまでしませんよ」
「でも、さすがにこれは……再生能力の限界超えてるだろ」
無数のりあの断片がぴくぴくと動き、やがて頭のひれと寄り目が各断片に形成された。見る見るうちに手足が伸び、ヒトの形が出来ていき、妖力で衣服が形成された。
最強硬派のりあは、大豆程の大きさの100以上の個体になってしぶとく生きていた。
魔理沙は両膝をかがめ、彼女達の声を聞いてみる。
「お~い生きてるか~」
「さすがに死ぬかと思ったわ」
「お前、驚異的な生命力だな。今日の事はグリモワールに記録しておくぜ」
「ほめられても全然うれしくないわ」
垣間見た生命の神秘に、魔理沙も驚嘆する。
☆
プラナリア妖怪のりあ達は、どうしようもないのでとりあえず元いた所に帰る事にした。
魔理沙は箒に増えまくったりあ達を乗せ(全員の質量は一人だった時と同じ)、小さくなりすぎた者は袋の中に入れ、魔法の森を目指す。
「あんまり収穫はなかったなあ」箒に腰掛けたりあの一体が、足をぶらぶらさせながらつぶやいた。
「気を落とすな、魔法の森で静かに暮らせばいいさ。私もそれなりに守ってやるよ」
魔理沙は最初、りあ達の受難を半ば面白がって見ていたが、少し哀れに感じるようだ。
「あっそうだ、紹介したいヤツがいるぜ」
ある妖怪の事を思いつき、箒の進路を変更した。
☆
「おっ、いたいた。お~いリグル~」
「なんだい魔理沙、今は蛍シーズンじゃないのだけど」
りあを発見した川の下流を飛び、リグル=ナイトバグを探した。意外と魔法の森から出た当たりの川辺に彼女はいた。
「どこかで冬眠していると思ったぜ」
「実は僕はね、冬はフユシャクガの妖怪として過ごしているんだ。ほらマントだって蛾の羽根風の物に変えてあるでしょ。今の僕はリグル=ウィンターバグさ」
リグルはくるりと体を一回転させ、マントを翻して見せた。
「以外な事を知ったな。話を変えて悪いが、こいつを守ってやって欲しいんだ。虫妖怪トラブル110番のお前になら簡単だろ」
「いつ僕がそんな仕事引き受けたんだよ、まあ別にいいけど、この子達の事は知ってるよ、上流に住んでいる子でしょ」
「知ってたのか、話は早い、頼むぜ」
「それから、この子達、さっき何体か空からぽとぽと落ちてきたよ、魔理沙の箒から落ちたんでしょ、気をつけなよ」
「わりいわりい」
これでこの妖怪たちはリグルに守ってもらえるだろう。
妖怪が非力な人間を守る例は色々あるが、今日の自分のように、逆に人間が妖怪を守るために動くなんてなんて珍しいなと魔理沙は思う。
「切っても再生するとは言え、面白半分に切られちゃ奴らもいろいろ辛いところがあるんだろうな、私もそっとしといてやる事にするよ」
「それがいいね、ありがとう」
☆
後日、魔理沙は天狗の発行する新聞を見て呆れてしまった。
「不思議生物プラナリアの秘密」
記事の最後にはこうも書かれてあった。
見つけたらあなたも一度切ってみよう
「あちゃー、あいつらの苦労もしばらく続きそうだな、何が切ってみようだよ、やれやれ」
魔理沙は、効果の程はともかく、機会を見つけて天狗にりあの気持ちを伝えてやらねばと、柄にも無く思うのだった。
「買った包丁の威力を試させろ、です☆」
「よせ早苗! そいつに手を出すな」
「大丈夫です、私は負けませんよ魔理沙さん。それに妖怪は退治しなきゃ」
「そういう意味じゃねええっ」
魔理沙は叫んだ。しかし時すでに遅し、その妖怪は早苗によって真っ二つにされた後だった。
☆
暖かくなってきたものの、油断して毛布を減らすと時折寒さがぶり返す季節、魔理沙は洗濯のため魔法の森を流れる川に来ていた。
いつものとんがり帽子とエプロンドレスではなく、紺色のロングスカートに白い色のシャツを着て、頭に同じく白い頭巾をかぶり、洗濯物を入れた籠を持って歩く姿は、魔法使いというより洗濯女と言う方が似つかわしい。
「相当たまってたな、アリスはどうしているんだろうな」
河原の石と八卦炉でこしらえた即席のコンロでたらいの水を温め、衣服や洗剤を入れてじゃぶじゃぶと洗う。
汚れが落ちた後、取り替えたお湯ですすぐ。
今日は比較的暖かい日とは言え、まだまだ肌寒かった。
「う~さぶさぶ」
八卦炉で冷えた手を温めつつ、洗濯物を籠に入れて足早に家に戻ろうとした時、ばちゃん、と水面を叩く音に振り向くと、川面に誰かが流れている。
死人のような白い着物を着た少女が、仰向けになって流れに身を任せているではないか。
知り合いの河童の河城にとりではない。
(水死体? いやよく居る妖怪の類か)
一瞬水死体かと思って魔理沙はぎょっとしたが、次の瞬間よくいる妖怪の一種だと思い直して落ち着いた後、顔をよく見ようと目を凝らし、浮かんでいる妖怪と目が合った。
しばらくの沈黙を破ったのは好奇心旺盛な魔理沙のほう。
「よう、寒中水泳か?」
「げげっ、人間!」
初めて会った時のにとりのような事を叫んで、その妖怪は方向転換して逃げようとする。
だが魔理沙は好奇心から、岸辺を走って泳いで逃げる妖怪と並走してみる。
「おーい、何で逃げるんだよ」
「だって、人間は私にいつもひどい事をするんだもん」
「私は妖怪だからってひどい事なんかしないぜ、害を加えてこない限りはな」
「本当に?」
その水生妖怪は泳ぎを止め、魔理沙の方を向いた。
「ああ、本当だぜ」
「刃物とか持ってない?」
「ああ、このとおり」
両手を振り、武器になるようなものを持っていない事を示した。
寄り目で、耳の代わりに三角形の白いヒレのような物がついたその妖怪は、おそるおそる岸に上がり、魔理沙の眼を見つめる。
「あなた、悪そうな人じゃなさそうだけど、どうしてこんな所にいるの?」
「私は霧雨魔理沙、人間の魔法使いだぜ、この森は魔法研究に何かと都合がよくてな」
「そうなの? 私は芙羅那りあ。ウズムシの妖怪よ」
「よろしくな、りあ」
「気易く名前で呼ばないで」
「ああ、ごめん、芙羅那」
「まあ、でもどっちでもいいよ、魔理沙、私がここに住んでいる事は皆には内緒よ」
「ああ、約束するぜ。まあ、ここじゃ寒いし、陸に上がっても大丈夫なら家にくるか」
「うん、いいかも」
二つ返事で了承して、ゆっくりした足取りで岸に上がる。魔理沙は彼女を連れて家に戻った。
いい暇つぶしになりそうだと魔理沙は思う。
☆
「プラナリア、扁形動物門ウズムシ綱ウズムシ目ウズムシ亜目に属する生物の総称、海水や淡水、湿気の多い陸地に暮らす。消化管は口と肛門に分かれておらず、同じ穴から取り込んだり出したりする。……」
魔道書にまぎれていた生物関係の本をやっとの事で引っ張り出し、目の前の妖怪の元になったであろう生物の事を調べてみる。
魔理沙の外見に似つかわしくない、ひどく散らかった部屋の真ん中を強引に片づけ、空いたスペースにこれまた西洋魔法使いのイメージに反したちゃぶ台と座布団を置き、そこに件の妖怪少女りあは座っていた。
ちゃぶ台に置かれた緑茶入りの湯呑を、おそるおそる口につけている。
「そして、プラナリアの最大の特徴はその再生能力で、体を切断しても切片がそれぞれ一つの個体として復活する。昔ある学者がヤケクソで100以上の切……」
「それ以上言わないで!」
強い口調で魔理沙の言葉を遮った。
「すまん、いろいろ思い出したくない事があるんだな。それで特に益も害もなさそうな奴に見えるが……」
りあは冷めていた茶を一気に飲み干し、湯呑をちゃぶ台にとんと置いて言う。
「そう、私達は、べつに人を幸福にするわけでも、不幸にするわけでもない、ただ静かに暮らしていたいだけ、なのに、人間は面白半分で私達を切り刻む、それも生きたまま……。決めた、今から里に行って、人間に抗議してくるわ。魔理沙、あんたも手伝ってくれる?」
「まあ、私ら魔法使いも迫害された歴史があるがな……」
「本当に、じゃあ私達は同志ね、一緒に行こう!」
「しょうがないな、ほどほどにするんだぞ」
魔理沙はりあを箒の後ろに乗せて里に向かった。
ちょっと面白くなりそうだと思ってしまう魔理沙であった。
☆
「あっ、知ってるよ、プラナリアって斬っても再生するんでしょ」 ズバッ
「ねえ、一回切断させてよ」 ザクッ
「先生が言ってた、見つけたら切ってみようって」 ザシュッ
「あなた、切っても大丈夫な妖怪でしょ、剣の切れ味試させて」スパァーン
里に抗議に行って約一時間後、りあは数十体に分裂していた。
「あはははは、災難だったなお前」
魔理沙の膝丈サイズの者もいれば、手のひらサイズの個体もいた。そんなりあ『達』を目にして魔理沙は腹を手で押さえて吹き出してしまう。
そのうちの一体が怒りだしたが……。
「ちょっと、笑わないでよ、さっそく迫害されたのよ」
分裂、再生した別の個体がなだめる
「まあまあ、私達、切っても死なないんだからさ」
「のんびり行こうよ」
「私はどっちでもいいわ、復讐したければする、したくなければしない。好きにすれば」
「ぷぷっ、一匹一匹性格が違う」
「笑わないで、切られながら聞いたところだと、私達の性質を教えたのはケイネってやつらしいの」
「知ってるぜ、人と妖怪のハーフで、ここの守護者だ」
「魔理沙、あんたも広めたんじゃないでしょうね」
「いやいや、私はさっき百科事典で知ったばかりだぜ」
「その人に抗議に行くけど、怖いから魔理沙も来て」
りあの中で比較的一番大きいヤツが魔理沙の手をひっぱり、残りのりあ達は歩きがてら線香花火のような弾幕ごっこに興じたり、里の人間とおしゃべりしたり、捕まって切断されて解放されたりしながらぞろぞろ付いてくる。
☆
「そう言う事だったのか、すまんすまん、皆に自重するように言うよ」
里の寺子屋にいた慧音はりあの講義を素直に聞き入れ、謝ってくれた。
寺子屋はすでに放課後で、慧音の周りをりあ達と魔理沙が囲んでいるが、最も強硬的な一個体を除き、怒りよりも興味しんしんといった面持ちで慧音を見ていた。
外からは遊ぶ子供たちの元気な声が聞こえてくる。
「でも、こっちは単に授業に一環として、生命の神秘さを知って欲しかったんだよ」
「りあ、お前には受け入れがたいかも知らんが、人間は子供のうちに、生き物を殺す経験も必要なんだぜ、そうする事でかえって生命への敬意が高まるんだ」
魔理沙も慧音の見方をした。
「魔理沙、貴方どっちの味方なのよ」
「まあ私も基本的に人間だしな、でも妖怪とも仲良くしていきたいぜ」
「私も、里や人間に害を加えないなら、君達の安全を保障しよう」
「今回の所はそれで許してあげましょう、あと慧音、あなたはどうやって私の特性を知ったのか答えなさい」
「ああ、最近外界から来た神々がいてね、その神社の巫女が生物の授業で習ったそうなんだ」
「そいつか」
りあは魔理沙の方を向いてそこへ連れて行ってくれと急かす。
魔理沙はやれやれと肩をすくめて、箒を用意する。
分裂したりあ達を箒に乗せ、妖怪の山のふもとを目指す。
「わあ~すごい、里があんなに小さくなった」
「ちょっと、観光に行くんじゃないのよ」
「また里に遊びに行きたいなあ」
「切られるのも結構気持ちいいな」
「はあ、べつにどーでもいいわ」
背中の方がにぎやかだ。
☆
「ああ、魔理沙さんこんにちは、あれ、後ろに乗ってるのは?」
魔理沙達が到着した時、東風谷早苗は境内の石畳の掃き掃除をしている最中だった。
手を休めて、箒の後ろに乗っかった妖怪たちを見る。
「ああ、プラナリアって生き物の妖怪で、お前に話があるらしいぜ」
「あんたが早苗ね、よく聞きなさい」
りあ達の中の最強硬派が早苗に突っ込んでいく。
早苗は笑顔で時折うなずきながら話を聞いていた。5分ほど経ってりあがひととおりの抗議を終える。
「どう、わかった早苗さん? 私達は静かに暮らしたいだけなのよ」
「わかりました、もう貴方を傷つけるような事は言いません。でも、プラナリアさんって、切り刻んでも再生するんですよね。一度見たかったんですよ」
早苗は社務所からぎらりと光る包丁を持って、りあの目の前にかざした。
「ちょっと! 話聞いてた?」
「買った包丁の威力を試させろ、です☆」
「よせ早苗! そいつに手を出すな」
「大丈夫です、私は負けませんよ魔理沙さん。それに妖怪は退治しなきゃ」
「そういう意味じゃねええっ」
「頭に切れ込みを入れて、プラナリアのおろちにするのもいいですね」
「いやあーっ、せめて完全に切断してえっ」
☆
「と、とんでもない光景を見ちまった」
「結構快感ですね、病みつきになっちゃうかも☆」
普段強気な性格の魔理沙も、嬉々として妖怪を切り刻む早苗と、100以上の切片にされたりあの断片を、ただ茫然と眺めるほか無かった。
「早苗、お前、気は確かか」
「切っても再生するプラナリアさんじゃなければここまでしませんよ」
「でも、さすがにこれは……再生能力の限界超えてるだろ」
無数のりあの断片がぴくぴくと動き、やがて頭のひれと寄り目が各断片に形成された。見る見るうちに手足が伸び、ヒトの形が出来ていき、妖力で衣服が形成された。
最強硬派のりあは、大豆程の大きさの100以上の個体になってしぶとく生きていた。
魔理沙は両膝をかがめ、彼女達の声を聞いてみる。
「お~い生きてるか~」
「さすがに死ぬかと思ったわ」
「お前、驚異的な生命力だな。今日の事はグリモワールに記録しておくぜ」
「ほめられても全然うれしくないわ」
垣間見た生命の神秘に、魔理沙も驚嘆する。
☆
プラナリア妖怪のりあ達は、どうしようもないのでとりあえず元いた所に帰る事にした。
魔理沙は箒に増えまくったりあ達を乗せ(全員の質量は一人だった時と同じ)、小さくなりすぎた者は袋の中に入れ、魔法の森を目指す。
「あんまり収穫はなかったなあ」箒に腰掛けたりあの一体が、足をぶらぶらさせながらつぶやいた。
「気を落とすな、魔法の森で静かに暮らせばいいさ。私もそれなりに守ってやるよ」
魔理沙は最初、りあ達の受難を半ば面白がって見ていたが、少し哀れに感じるようだ。
「あっそうだ、紹介したいヤツがいるぜ」
ある妖怪の事を思いつき、箒の進路を変更した。
☆
「おっ、いたいた。お~いリグル~」
「なんだい魔理沙、今は蛍シーズンじゃないのだけど」
りあを発見した川の下流を飛び、リグル=ナイトバグを探した。意外と魔法の森から出た当たりの川辺に彼女はいた。
「どこかで冬眠していると思ったぜ」
「実は僕はね、冬はフユシャクガの妖怪として過ごしているんだ。ほらマントだって蛾の羽根風の物に変えてあるでしょ。今の僕はリグル=ウィンターバグさ」
リグルはくるりと体を一回転させ、マントを翻して見せた。
「以外な事を知ったな。話を変えて悪いが、こいつを守ってやって欲しいんだ。虫妖怪トラブル110番のお前になら簡単だろ」
「いつ僕がそんな仕事引き受けたんだよ、まあ別にいいけど、この子達の事は知ってるよ、上流に住んでいる子でしょ」
「知ってたのか、話は早い、頼むぜ」
「それから、この子達、さっき何体か空からぽとぽと落ちてきたよ、魔理沙の箒から落ちたんでしょ、気をつけなよ」
「わりいわりい」
これでこの妖怪たちはリグルに守ってもらえるだろう。
妖怪が非力な人間を守る例は色々あるが、今日の自分のように、逆に人間が妖怪を守るために動くなんてなんて珍しいなと魔理沙は思う。
「切っても再生するとは言え、面白半分に切られちゃ奴らもいろいろ辛いところがあるんだろうな、私もそっとしといてやる事にするよ」
「それがいいね、ありがとう」
☆
後日、魔理沙は天狗の発行する新聞を見て呆れてしまった。
「不思議生物プラナリアの秘密」
記事の最後にはこうも書かれてあった。
見つけたらあなたも一度切ってみよう
「あちゃー、あいつらの苦労もしばらく続きそうだな、何が切ってみようだよ、やれやれ」
魔理沙は、効果の程はともかく、機会を見つけて天狗にりあの気持ちを伝えてやらねばと、柄にも無く思うのだった。
最近の実験結果によると、実はそこまで再生力強くはないらしいですねプラナリアって
真っ二つにしたら両方死んじゃうとかザラなようで
平成生まれだが俺がガキの頃はそこらの側溝にもいたのにな…
そうか、幻想入りしたか…
一回切っt…あ、いえ、なんでもないですゴメンなさい
だからそのダガーをしまって下さ\ピチューン/
りあちゃんかわいい。
でも結局なんだったんだろうって、なんか話としてまとまりきってないような感覚もある。
まぁいいかへんな生き物だし(ピチューン
りあちゃんが可愛かったけど、これからどうやって生きていくんだろう…