「お姉さまは何を召し上がるの?」
「そうね、せっかくだから名物の【野菜天ぷら定食】にするわ」
「うーん、やっぱりこれが美味しそうよね。七種類の野菜だし……」
「美鈴、アナタはどうする?」
「お許しをいただければ、お嬢様と同じものを頼みたいですが」
「別に構わないわよ」
「ありがとうございます」
「フランは決まったの?」
「この【肉天ぷら定食】も美味しそうだけど……」
肉天ぷら定食とは大き目の鶏ムネ肉の天ぷらをメインに、カリッと揚げた薄切りの豚バラ肉の天ぷらが四枚、それにナスとインゲン素揚げが添えられているボリュームたっぷりの定食。この店のもう一つの人気メニューだ。
「やっぱり、私も【野菜天ぷら定食】!」
パタッと、お品書きを閉じたフランドール・スカーレット。
「美鈴、オーダーを」
レミリア・スカーレットの下知。
はい、と返事をした紅美鈴が声を張り上げる。
「すいませーん、注文お願いしまーすっ」
ここは人里の料理店【彩芭梨庵】。お手頃価格の和定食や弁当販売を中心とした繁盛店。
吸血鬼の姉妹は特徴のある羽を隠し、いつもと違う服装でお忍びの真っ最中。とは言っても、長身で真っ赤なロングヘアのメガトンダイナマイトバディ紅美鈴は人里では有名人。その美女がおつきなのだからその正体は自ずと知れてしまう。
「たまには外で食事をするのも良いわね」
「でもお姉さま、咲夜はなにか言いたそうだったけど」
「気にすることないわ。今頃はきっと羽を伸ばしているわよ」
「え? 咲夜にも羽があるの?」
「ものの例えよ」
格にも寄るが吸血鬼は血を啜るだけでの魔物ではない。この姉妹ほどの上級ヴァンパイアは様々な嗜好品を楽しむのだ。
『野菜って味が薄いけど、なんだか美味しいー』
『微かな苦味と意外に豊かな甘味、そして様々な歯応え。悪くはないわね』
ここ最近は【野菜】にハマっているようだ。
特級料理人十六夜咲夜の野菜料理に不満はないが、この度は【野菜の天ぷら】なるものの噂を耳にし、半ばゴリ押しで外出、外食におよんでいるのだ。
「咲夜ってば、私たちには天ぷら作ってくれないんだモン」
「そうね、妖精メイド達や美鈴や美鈴とか美鈴だけにしか作らないのよね」
「あ、あの、お嬢様、それは、その……」
美鈴があわあわと慌てる。
「贔屓ね」
「ひいきだよー」
分かっている。
咲夜は天ぷらを【下々が食すモノ】と自分基準で決めているため、主人達には供することをしないのだと。
だが、面白く無いのでからかい半分で咲夜の寵愛対象をイジることにした。
「そこのところ、実際はどうなのかしらぁ?」
「愛されてるって自覚があるのかなぁ?」
文字通り悪魔の責め、四つの魔眼が怪しく光る。普通の人間や並の妖怪ならあっさりと精神を持って行かれてしまうだろう。
「そ、それは、その、ええっとー」
「お待たせいたしましたー」
救いの手が差し伸べられた。
「野菜天ぷら定食でございますー」
―――†―――†―――†―――
ナス、カボチャ、サツマイモ、レンコン、インゲン、ニンジン、シイタケ。
七種類の野菜の天ぷらが品良く盛られている。このラインナップはタケノコ、春菊、オクラ、マイタケなどが季節によって一部入れ替わる。
ほかほかご飯、豆腐とワカメと油揚げのシンプルな味噌汁、そしてキュウリとダイコン、新生姜などを浅漬けにした小鉢が添えられた定食の盆が並べられる。
「彩りが綺麗ね」
「おいしそーお」
姉妹の興味はすでに美鈴から野菜の天ぷらに移っている。
「ライスは少しでいいわ」
「私もー」
「それじゃ私はフランと、おもやいで食べるわ。これは美鈴にあげる」
自分のご飯茶碗を美鈴の盆に乗せた。
「うぉ、ありがとうございますぅ!」
通常の一人前では足りない門番は『ご飯大盛り』が言い出せなくて困っていたところだった。
「パンは無いのかな?」
「フラン、天ぷらは【和食】だからライスなのよ」
「ふーん、パンも合うと思うけどなー。美鈴はどう思う?」
「さあて……試したことがありませんのでなんとも」
顔がひきつらないように注意しながら返事をした。
「ミソスープも美味しいのよね」
「もう少し血の味に近いといいのだけどねー」
「そうですね。あははは」
美鈴は取りあえず笑うしかない。
―――†―――†―――†―――
天ぷらの陣容を確認しているフランドールの目がある一品で止まっている。
紅美鈴は幻想郷で有数の【気を使える女】。すぐに察した。
「フランドール様の天ぷらゲーットォ!」
妹君のニンジンの天ぷらを箸でつまみ上げ、微笑む美鈴。
フランドールはちょっとの間、呆然としたが、すぐに立ち直る。
「やったわねー、私も美鈴の天ぷらゲーットォ!」
美鈴のカボチャの天ぷらをひょいとつまむ。
「あー、やられちゃいましたー。
これでお相子ですねー」
「そーね、うふふふ」
「なに? この茶番は」
レミリアは渋い顔。でへへっと笑うフラ&メイ。
「美鈴、フランを甘やかしてはダメよ」
「申し訳ございませんお嬢様。以後、注意いたします」
「このあいだもそんなこと言ってたじゃないの」
種族の特性から言えば栄養も好き嫌いも関係ないことなのだが、愛する妹のワガママを多少は矯正したいと考えているワガママお嬢様なのだ。
―――†―――†―――†―――
「ういーっす」
いつものように霧雨魔理沙が博麗神社にやってきたが、一人ではなかった。
博麗霊夢と東風谷早苗は魔法のホウキの後ろに乗ったその客人に見覚えがあった。
「あら? あんたは確か」
「知ってるだろ? 水橋パルスィだぜ」
「おじゃまするわ」
魔理沙より濃い金髪と緑眼、尖った耳が特徴的な旧地獄の橋姫、水橋パルスィがホウキからヒラリと降り立った。
(コイツ……こんな感じだったかしら?)
口にこそ出さなかったが霊夢は訝しむ。地底の異変で対戦した時と印象がかなり違うのだ。ピリピリとした陰湿な気が無くなり、代わって穏やかな気が溢れだしているように見える。
「命蓮寺で暇そうにしてたんだ」
「あんた、一人で来たの?」
パルスィは頭を軽く横に振る。金色の髪がフワフワっと揺れる。
「勇儀と一緒」
「その鬼はどうしたの?」
「ナズーリンさんと遊びに行っちゃったわ」
「相変わらず勝手なヤツね」
「ホントにね。んふふ」
ふわんっと微笑む。
(やだ。コイツ、可愛いじゃないの……)
「面白そうだから連れて来たぜ」
「あんたねぇ」
「大丈夫、おばあ……聖の許可はもらってるんだから。それにコイツを連れてるから」
ちうぅ~
パルスィの肩からネズミが顔を出した。
「きゃああああーー!」
絹を裂くような悲鳴は東風谷早苗。
「ナズーリン直属のヤツだぜ」
「きゃあー ねずみぃー きゃああー!」
「コイツはナズーリンと連絡できるんだってさ。何かあればアイツらがすっ飛んでくるらしいぜ」
ちゅちゅう~
「ぎいぃーーやああああーーー!」
「早苗っ! うっせーわよっ」
ぱちーーんっ
―――†―――†―――†―――
「叩くことないじゃないですか……」
後頭部をさすりながら文句を言う。
「ゲンコツじゃないだけありがたいと思いなさいよ」
「少しは落ち着いたか? ナズーリンの子ネズミは結構賢いんだぜ。騒ぐことはないぜ……ん?」
早苗の顔をのぞき込む。
「なんですか、魔理沙さん?」
「お前、顔になんか塗ってるのか?」
「これですか? ちょっとニキビができちゃって、バシルーラをのせてるんです」
「ばしるう? ……なにそれ?」
「どこに吹っ飛ばすつもりだよ。コンシーラだろ?」
「こちらではそう言うのですね」
「間違いは素直に認めろよ」
「脂っこいモンばっかし食べてるからでしょ」
「揚げ物や脂身、大好きだもんな」
「違いますよ、お年頃なんですっ」
「ふん、妖怪油すましのくせに」
「はあああ?」
「早苗は二口女じゃなかったのか?」
「ヒトを妖怪呼ばわりするの、やめてくださいよっ」
「二口油女ね」
「……絵的にスゴそうだな」
「やめてくださいって!」
「食べ物の美味しさは油の美味しさかも知れないわね」
それまで黙っていたパルスィが呟いた。
「そ、そうですよねっ」
「守矢の巫女さん、その節はお世話になりました」
以前、守矢神社で厄介になったパルスィが丁寧にお辞儀をした。
「いえ、あの時はお力になれませんで、すみません」
妖怪に対しては基本、上から目線が常の早苗だが、礼節を弁えている相手だと勝手が異なるようだ。
「そんなことないわ。助かりましたよ」
再び柔らかい笑み。
「は……はぁ」
何故か顔を赤らめている早苗。
「まー、そんなわけで地下の旨いモンの話でも聞かしてくれないか?」
「そうねえ……」
「とりあえず上がれよ」
魔理沙が家主の許可も得ず、パルスィを連れて居間に上がっていった。
「まるでじぶんちみたいじゃないの。別にいいけど……早苗? どしたの?」
「なんと言うか、……【女】ですよね」
「パルスィが? 当たり前じゃない」
「いえ、霊夢さんはきっと分かってません」
「なんですって?」
「女の中の女ですよ」
「なにそれ」
「私、妖(あやかし)の色気はまやかしだと思っています。でも、あのヒトはまやかしだと分かっていても引き込まれてしまいそうです」
「色気? んー、少しは有りそうだわね」
「ホラッ 分かってませんよ」
「さっきから何が言いたいのよ」
「色気を振りまいているようには見えないのに仕草の一つ一つが絵になっているじゃないですか。控えめなのに蠱惑的で、放っておけない危うさを見せ、かつ包容力がありそうな感じでっ」
「ちょっとー、落ち着きなさいよ」
暗い炎をまとった執着心が薄れ、可愛らしい嫉妬(ジェラシー)に変換されたパルスィの色気は、寅丸星の健康的な色気、十六夜咲夜の神秘的な色気とも異なる。時間をかけて丁寧に磨き上げられた一級工芸品のようなものだろうか。
「外面にだまされちゃダメよ。地底の妖怪はタチが悪いんだからね」
地下の異変ではその特殊性に予想以上の苦戦を強いられた霊夢が思いっ切り顔をしかめた。
「分かってるつもりですけど」
「いーえ、あんたの方こそ分かっちゃいないわ」
―――†―――†―――†―――
「ふーん。地底もこっちとあんまり変わらないんだな」
「でも、虫とか変わった魚とかはちょっと……」
「そこらへんは食べてみないと何とも言えないわね」
パルスィから地底の料理の解説をされた三人の感想。
米や味噌醤油を中心とした食生活。地上では見られない食材は奇怪なものもあるみたいだが惣菜としての加工方法はほぼ同じような感じだった。
「虫は大体揚げるわね。他にも揚げ物が多いの」
「そうなんだ。早苗向きだな」
「特に揚げ物が好きなわけでは……好きですけど」
「下の連中はせっかちなのよ。だから揚げ物が流行るのかもね。ふふ」
揚げ物調理のメリットは二百度近くまで加熱された油で調理するので、中までしっかりと火を通しながら加熱の時間を短縮することにある。
「揚げ物かあ、ハードルが高いんだよな」
「鶏の唐揚げならやるけどね」
霊夢の発言にピクっと反応する魔理沙。
「なによ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「いや、別に」
「確かに自分で作るとなれば面倒が多いですよね」
「そうね、ある程度量を作らないと油がもったいないし、その油の後始末とかね」
霊夢が腕組みをして頷く。
揚げ物は油の処理が最大の問題となる。目処が立っていないならやるべきではないのだ。
「こんにちわーー」
「誰か来たぜ」
「この声は確か」
―――†―――†―――†―――
来客は紅美鈴とフランドール・スカーレットだった。
「こんにちは」
スカートをつまんで軽く膝を折る悪魔の妹。魔理沙よりも淡い色の金髪が眩しい。
「はい、おこんちわ。
ねえ、ちょっとそこに並んでみて」
霊夢が魔理沙の隣を指さす。首を傾げながらも移動するフランドール。
パルスィ、魔理沙、フランドールと黄金色のグラデーションが映える。
「金髪にも色々あんのねえ」
「キラキラ綺麗で目の保養になりますね」
ダブル巫女はうむうむと満足げに頷く。
「ステキです」
美鈴も追随する。
吸血鬼とそのお供が橋姫との挨拶を終えたところで霊夢が切り出した。
「ところで何の用?」
「お嬢様方と人里で遊んだ帰りです。ちょっと寄らせていただきました」
「レミリアは?」
「お嬢様は館でご用事がおありなので、先にお帰りになりました」
「あのねあのね、私たち天ぷらを食べたんだよっ」
「里で天ぷらと言うと【彩芭梨庵】ですか?」
「せーかーい」
「あそこの天ぷら旨いもんなー」
「うん、美味しかった!」
そこからフランドールによる野菜天ぷらのディスクリプションが始まった。
サツマイモとガボチャの甘みの違い、レンコンの歯触り、ナスと油の相性の良さなど、手振り身振りを交え、知っている語彙を総動員して一生懸命説明した。
「そっかー、それは旨そうだな」
「なんだか食べたくなっちゃったわ」
最近は積極的にコミュニケーションをとろうと努力している可愛い吸血鬼に暖気のある眼差しを向ける五人。
「それじゃあ、今日は野菜天ぷらにしましょうよ!」
早苗の提案に目を丸くしたのは家主の巫女さん。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ」
「ホント? やったああー!」
フランドールが飛び上がって喜ぶ。
「めーりんっ また天ぷらよ! うれしー!」
「あ……ん、ぬぐぐぐぐっ」
ピョコピョコとジャンプして美鈴とハイタッチを繰り返すフランドールには何も言えず、代わりに言いだしっぺを睨みつける。憤激の般若と化して。その風祝はすかさず魔理沙の背中に隠れていた。
「油はあるし、やってみようぜ。な? 霊夢」
「むぐぐぐぐっ」
「私、手伝おうか?」
パルスィがちょちょっと手を挙げた。
「待ってた! その言葉を待ってたんだぜっ」
いかにも料理が上手そうな客人の申し出にガッツポーズ。
「これで万全ですね!」
「ふぐぐぐぐっ」
―――†―――†―――†―――
「あの、霊夢さん、本当によろしいんですか?」
美鈴が小声でたずねる。
「よろしいわけ、ねえーーじゃないのっ」
声を潜めて怒鳴るという器用なことをやってみせた。
「それでもこのタイミングでダメって言うほど鬼じゃないわよ、ふん!」
「ありがとうございます」
「その代わり、食材ガメてきなさいよね」
「へ?」
「天ぷらの具になりそうな野菜を持ってくんのよ」
「私が、ですか? 紅魔館からですか?」
「そーよ」
「食材の管理は咲夜さんがしてるんですよ?」
「だったらどうなのよ」
「何と言って持ってきたらいいんですか?」
「知ったこっちゃねーわよ。自分で考えろっての」
「そんなあ」
「知ってんのよ、あんたと咲夜のことは。色仕掛けでも使って何とかしてきなさいよ」
「い、いろじかけですかぁ?」
「さっさと行きなさいっ」
「ふえ~ん」
美鈴にとって限りなくインポッシブルなミッションだった。
―――†―――†―――†―――
「天ぷらの具は何があるの?」
パルスィの問いに台所を物色する魔理沙と早苗。
「えーと、レンコン、ニンジン、ゴボウがあるな。さてはキンピラの予定だったな?」
「この前、鍋に使った春菊が残ってますね。あ、マイタケもありました」
「あんたたちっ、勝手に漁るんじゃないわよ!」
「文句言うなよ、ほとんど私たちが持ってきたモンだろ」
「この刻んでない紅生姜も使えますかね?」
「紅生姜天って旨そうだぜ」
「あ、このタケノコの切り身、早く食べなきゃダメですよー」
「これ、シイタケ?」
魔理沙と一緒に捜索していたフランドールが小さな籠に入ったキノコを見つけた。
「おおっ、よく見つけたな。フラン、エラいぜ」
「ちっ」×2
「なんだお前ら、聞こえたぜっ」
「マイタケはアリよね」
「アリですね」
「はああああ? シイタケは?」
「別物じゃない」
「マイタケは美味しいですよ。魔理沙さん、嫌いなんですか?」
「いや、好きだけどさ」
「じゃあ、いーじゃない」
「ちょっと待てよ、シイタケは否定するのにマイタケはアリなのか? 同じキノコだぜ?」
「だから別物ですって」
「おっ まえらぁ~」
魔理沙の下顎がせり出してきた
「なに怖い顔してんのよ。人の嗜好に文句あんの?」
「シイタケの天ぷらは勇儀の好物なのよ」
パルスィが絶妙のタイミングで割って入った。
「マジかよっ」
「ホントよ。口直しの肴に良いって。塩をかけたり酢橘(すだち)を絞ったりしていくつも食べるわ」
「ぃやったあー、地獄の鬼を味方に付けたぜー!」
両の拳を振り上げ叫ぶ魔理沙。
「でも他の料理に混じっているのはイヤみたい」
「はああ? なんだそりゃ?」
「シイタケだけを食べたいんですって」
「そーんなのは、本物のシイタケ好きじゃないっ!」
今度は両の拳を腰だめにして叫ぶ。
ぷっぷ、ぷすぷすーっと口に手を当て失笑するダブル巫女。
「魔理沙はシイタケが好きなの?」
これはフランドール。
「大好きなんだぜ。お前は?」
「んー、嫌いじゃないけど好きでもないかな」
「あのなフラン、シイタケ食べるとスタイルが良くなるんだぜ」
「ホントぉ?」
「あんたが言っても説得力無いじゃない」
「私は成長途中だ」
「それを言ったらフランさんは、その……」
「私たちも成長するわ。人間よりずーっと長い時間をかけてだけど」
「そうなんだ」
「シイタケ食べてたら美鈴みたいにバインバインになる?」
全員が超乳傑尻の門番のプロポーションを思い出す。
「なるともさ」
「ちょっとー、ウソ教えちゃダメじゃないの」
―――†―――†―――†―――
「はあ? たったこれだけ?」
風呂敷包みを携えて戻ってきたバインバインに霊夢が文句を言っている。
「す、すいません」
包みの中身は大根、ナス、カボチャ、サツマイモ、ジャガイモ、ピーマンだった。
「使えないヤツね」
「これでも必死でおねだりしたんですよ。色々犠牲にして」
主に肉体を使った個人的なご奉仕を約束させられたのかも知れない。
「言い訳は聞きたかぁないわ」
「まあまあ、野菜天の主力選手を持って来てくれたんですから上々ですよ」
「でもさあ、ピーマンって天ぷらになんのかよ」
「あら、案外美味しいのよ?」
「そうなのか?」
疑いの目をパルスィに向ける。
「魔理沙はピーマン嫌いだからね~」
「おいっ霊夢! ここで言うことかよ!」
「ええっ? そうなの?」
食いついたのはフランドールだった。
「魔理沙ってば、ピーマン苦手なんだー、おっ子さまねー」
「はあん? お前はニンジン食べられるようになったのかよ」
「ふぐっ」
クロスカウンターを打たれるのが分かり切っているネタを振ってしまったフランドールに同情の余地はない。
「どーなんだよ」
「咲夜のグラッセなら食べられるモン」
それでも引き下がるのはシャクだった。
「ぐらっちぇ? ぐらっちぇってなに?」
「霊夢さん、それはケーシー高●ですって。この場合はバターと砂糖で超甘く煮込んだニンジンのことですよ」
「ふーん」
「そもそもお前ら吸血鬼のくせにベジタリアンなのか?」
「私たちくらいの吸血鬼は色々嗜むのよ。単なるアンデッドじゃないんだからね」
「べったり餡ってなに?」
「草食系女子のことですよ」
「違うだろ」
「霊夢さんは肉食系と言うより臓物(はらわた)系ですよね」
「なんですって?」
「間違った知識をさらに展開させるなよ、ややこしくなるから」
外野に回っている美鈴が同じ守備位置のパルスィに耳打ちする。
「あのーパルスィさん」
「なにかしら?」
「このノリに全然ついて行けないんですけど、私」
「私もよ。でも気にすることないでしょ。聞いてるだけでも楽しいじゃない」
「そうなんですか」
「もう少し面白くしちゃおうかしら」
「え? 何かするんですか?」
「んふふ、内緒よ」
―――†―――†―――†―――
「鍋は深くて厚くて大きいモノが良いわね」
予定通り指揮をとることになったパルスィが台所で器具を選んでいる。
揚げ物は高温を保って短時間で揚げてしまうことが大事。深い鍋ならたくさんの油が入るので食材を入れてもある程度は油の温度を維持することが出来る。また深さがあれば食材が底にくっついて浮かんでこないといった心配もない。
「これはどう? 唐揚げの時に使ってるけど」
霊夢が棚から引っ張り出したのはゴツい鉄製の鍋。
「いいわね。十分よ。揚げ始めたら早いわよ。他の用意も今のうちにやっておきましょう」
揚げたそばからハフハフ言いながら食べるのが天ぷらの醍醐味だ。
「天つゆ作っとかなきゃね」
醤油、みりん、水を一:一:四、鰹節を一掴み、弱火でゆっくり加熱。軽く煮立ったら火から下ろして濾す。
「大根おろしはお好みね」
「たっぷり作ろうぜ。美鈴、頼むぜ」
「はいはい、お任せください」
「結局ネタ(具)はどれにすんの?」
「せっかくだから全部やって見ようぜ」
「たっくさんありますねー、うひょうっ!」
「早苗ー、お前、ホントに嬉しそうだな」
サツマイモ、ジャガイモ、カボチャ、ニンジン、ゴボウ、ピーマン、ナス、春菊、マイタケ、シイタケ、レンコン、タケノコ、紅生姜……十種類以上に及んだ。
「どのくらいに切るの?」
「これまで食べた天ぷらの大きさや形を思い出して。大体そんな感じで良いのよ」
大きすぎれば火が通らないし、小さければあっという間に焦げてしまう。
「んー、なんとなく分かるぜ」
「他にネタになりそうなものはないかしら」
「今回は肉類は無しですかね」
「肉は何もないわよ」
「それじゃ虫を」
「それは無しの方向で!」×3
パルスィの言葉を一斉に封じた。
「それは残念。……ネズミはどうかしら?」
ぢゅっ ぢゅううーー!
「んふふ、冗談よ」
そう言って肩にしがみつている子ネズミの頭を撫でた。
―――†―――†―――†―――
「油はあるのよね?」
「普通の天ぷら油でいいんでしょ?」
「ごま油は無いのかしら?」
「ある……けど」
霊夢の歯切れが悪い。
「あれは高いんですよね」
「ケチケチすんなよ」
「あんた、ヒトんちのものだと思って簡単に言うわね」
「パルスィ、ごま油の方が美味しいんだろ?」
「そうね……」
返事する橋姫の口元は笑っているが、その瞳の緑色は先ほどより薄くなっている。
「高いと言っても使わなければ悪くなってしまいますよ」
「食べるの惜しんで結局ダメにするのはお前の悪い癖だぜ」
「う、うるさいわね」
―――†―――†―――†―――
「あんたはアリスとばっかり乳繰りあって、私をないがしろにし過ぎよ」
「お前だっていっつも一人で異変解決に行っちゃうだろ」
「霊夢さんは能力に恵まれ過ぎです。ズルいんですよ」
「あんた、ちょっと胸が大きいからっていい気になるんじゃないわよ」
「お前もお母さんが二人もいてズルいじゃないか」
「魔理沙さん、可愛い顔していれば何やっても許されると思っていませんか」
ごま油の論争がエスカレートし、いつのまにか心の奥にそれぞれが秘めていた【妬ましい、羨ましい】ことの罵りあいになっている。
「面白くなってきたわね。んふ」
「パルスィさん」
美鈴が少し顔をしかめて囁いた。
「なあに?」
「そのへんで止めときません?」
「あら? 気がついちゃった?」
「たまたまですけど」
あらゆる【気】に聡い美鈴はこの場を支配している陰の気を見過ごせなかった。
「面白いでしょ?」
「私はこういった展開は楽しめませんよ」
「それは残念。じゃあお終いにしましょうか」
パルスィがそう言うと室内に微かに漂っていた低周波のようなノイズがピタリと止んだ。
「……ん? 私、何言ってるんだろう」
「あ、あの、さっきの発言は無しにしてください」
「ふん、これはただの冗談よ。じょーーだん」
急激に頭の中の熱を奪われた三人はバツが悪そうにしていた。
「美鈴さん、あなた不思議な妖気をまとっているのね。何の妖怪なの?」
ねっとりとした淫靡な視線と共に問いかけた。
「えーっと、その件はまたいずれってことで」
橋姫の能力のほんの一部、児戯めいた発動ではあったが、未だその正体が知れない門番には通用しなかったようだ。
「何かの術だったの?」
フランドールが不審そうに妖怪二人に聞く。
高級ヴァンパイアは精神系の攻撃を全くと言って良いほど受け付けない。
「なんでもないわ」
「お気になさらずともよろしいかと」
「ふ~ん。美味しい天ぷらが早く食べたいんだけどな、私」
小首を傾げて微笑みながら可愛くおねだり。だが目は笑っていなかった。
「仰せのままに」×2
妖魔の頂点近くにいるご令嬢の【命令】に二妖は最敬礼。
「あのね、てんぷら油はくせがなくコクがいまひとつだけど、油切れは良いわね。ごま油はトロッとしてるけど風味があるからコクが生きてくるのよ」
三人娘に向かい、話を揚げ油に戻すパルスィ。
「だから混ぜる訳か」
「ごま油は多いに越したことはないけど少しでも良いのよ」
「分かったわよ。でも少しだからね」
「あと、天ぷらの要点は衣(ころも)だと思うの」
「サクサクの衣こそが天ぷらのレリッシュですよね」
「そりゃそうね」
「そこは異論ないぜ」
すっかりいつも通りの三人組。
「衣はとにかく冷やしておくの。そして軽~く混ぜるのよ。ダマが残ってるくらいでちょうど良いわ」
ぬるい、混ぜすぎは小麦粉のグルテンが働いて粘りが出てしまう。基本の割合は冷水百六十と玉子一個、ふるいをかけた小麦粉二百を一気に入れてざっくり混ぜる。ざっくりでオーケー、氷一個入れて常に冷たい状態にしておく。
「氷はあるわよ」
「チルノが作り置きしてたのがあるよな」
「それじゃ少し欠いておきましょう」
―――†―――†―――†―――
「準備は良いかしら?」
パルスィが全員を見渡す。
「ネタ、切り終わりましたっ」
「衣、オーケーだぜ」
「油はこんなもんでいいんでしょ?」
「お皿とお箸もオーケーだよ」
「天つゆ、大根おろし、準備できましたー」
「では始めましょう。鍋に火を入れてね」
「天ぷらを上げる温度はどのくらいなんだ?」
魔理沙の質問に首を傾げるパルスィ。温度を数値化する概念がないようだ。
「百六十度から百八十度くらいのはずですけど」
早苗が現世の指標を口にした。
「だからそれをどーやって確かめるんだよ」
「温度計……無いですよね」
「お前のとこ(守矢神社)揚げ物やってるじゃないか」
「いつも諏訪子様がタイミングを見てくれるので」
「使えないなー、霊夢は?」
「私? てきとーね」
「だと思ったぜ」
「目安はあるのよ」
パルスィが天ぷら鍋に菜箸を挿し込んだ。鍋底につかないようにしていると、菜箸に含まれる水分が蒸発して泡が出てきた。
「何してんだ?」
「お箸が揚がっちゃうわよ」
「ぽつぽつ泡が出てきましたね」
「これだとまだね」
しばらくすると箸の先から細かな泡が出てきた。
「これで揚げ時かしら」
「へー そんなんで分かるんだ」
「これ以上熱くなるとお箸全体から泡が出てくるわ。それだと熱すぎ」
「もっと熱いと煙が出てくんのよ」
霊夢が難しい顔で鍋の様子を見て言う。
「そうなったら焦げちゃうわ」
「そーね」
「さては経験済みだな? あはは」
「そーね」
言いながら霊夢の手が魔理沙に伸びたがサッとかわされた。
「ちっ」
「こういうやり方もあるわ」
菜箸を引き上げ、衣の容器にちょいと刺し、ついた衣を一滴鍋に垂らす。鍋底近くまで沈んだ衣の欠片はすぐに浮かんできた。
「これはどう判断するんですか?」
「沈んだままだとまだ低いの。高すぎると沈まずに表面で散ってしまうわ。だからこのくらいが野菜天ぷらにはちょうど良いわけ」
「なるほどね」
「肉や魚を揚げるときはもう少し熱くした方が美味しく揚がるわ。あと小麦粉をつけるときは……あれは何と呼んでいるの?」
「フライだよ」
洋風お嬢さんのフランドールが答えた。
「ありがとう。フライも高めかしらね」
「おっしゃ、そろそろ揚げようぜ」
「ネタは布巾で水気をよく拭き取ってね。揚げるとき油がはねるし、衣がはがれやすくなるから」
「私からやってみて良いか?」
最も好奇心旺盛な魔理沙が名乗りを上げた。
「どうぞ。衣はつけすぎないでね。……そう、そのくらい軽くで良いわ」
サツマイモに衣をつけ、素早く鍋に入れる。
じょわわわー
「次行くぜ」
「たくさん入れすぎると油が冷めてベタっとした仕上がりになるから気をつけて」
「どんくらいまでなら良いんだ?」
「油表面の半分以下ね」
「どんくらいの時間揚げれば良いんだ?」
「一分くらいですかね」
早苗がパルスィを見ると、本日何度目かの堪らない微笑みが返ってきた。
「ネタにも寄るし、油の具合でも違うから時間にこだわるのは良くないわ。ほら、ネタから泡が出てるでしょ?」
「しゃわしゃわ言ってるね」
美鈴に抱っこされたフランドールが天ぷら鍋をのぞき込んでいる。
「そして水気(みずけ)が無くなってくると……」
「あ、音が小さくなってきた。今度はぴちぴち言ってる」
「このくらいで良いわね」
「むう、微妙だな」
「正直分かりません」
「難しいわね」
「同じネタを何度も揚げて食べてみれば覚えられるわ。野菜はちょっと火を通し目で水気を飛ばした方が冷めても美味しいのよ」
「そーか。霊夢、あーん」
そう言われて菜箸で引き上げられたサツマイモ天に直接かぶりついた。
「あっ! ひぃーーー!」
「おまっ ホントに食べるなよっ 冗談なのに!」
「大丈夫ですかっ?」
「もーー、あっついじゃないのっ」
口を押さえながら怒っている。
「早く冷やしたほうがいいですよ!」
美鈴が氷の塊を差し出す。
「別にいーわよ。ビックリしただけだから」
「火傷(やけど)……してないの?」
パルスィも心配顔。
「こんくらいはどーってこと無いわよ」
(この巫女さん、本当に【種族:普通の人間】なの?)
全員が、ほぼ同時に抱いた疑問だった。
―――†―――†―――†―――
「揚げかすはこまめにとるのよ」
パルスィが網杓子でしゃっしゃと掬い取る。
「これが天かすなんだよな」
「じゃあ、シメはタヌキうどんですねっ」
「うどん? あんたうどんも食べるの?」
「じょ、冗談ですよー」
両の手のひらをブンブン振る早苗。
「……冗談なんですか……」
ガッカリしているのは美鈴だった。
―――†―――†―――†―――
皆が代わる代わる色々なネタを揚げていく。そして金網に乗せていく。
「紙を敷いとかなくて良いの?」
「私は使わないわ。衣の表面が紙から油を吸ってベタっとするから。重ねておくのもダメね」
―――†―――†―――†―――
全てのネタがそこそこの量揚がったので『いただきます』となった。
「フラン、お腹は大丈夫なのか? 昼も天ぷらだったんだろ?」
「へーき。私、結構食べるんだよ」
「こんなにたくさん揚げて大丈夫か?」
「平気でしょ」
霊夢が早苗と美鈴をチラ見した。
「余裕ですよ。紅魔館ではおそらく私が一番食べますし」
頼もしげな発言だが、美鈴以外はいかにも食が細そうな連中しかいないので参考になるかどうか。
「でもな、早苗にはかなわないと思うぜ」
「おやぁ? それは挑戦と受け取ってよろしいんですか?」
「まあな、ウチの早苗は【油モノ】にはめっぽう強いんだぜ」
「あんた、ウチの早苗を甘く見てると吠え面かくことになるわよ」
【魔理沙&霊夢】VS【美鈴】。不敵な笑いで牽制し合う。
「ちょーーっと! 私を差し置いて勝手に進めないでくださいよっ」
「早苗、格の違いってヤツを見せてやれよ」
「早苗、歌わしてやんなさいよ」
「あのですね、そもそも私は大食いキャラじゃありませんからね!」
「はああぁ?」×2
『コイツ、今更なに言ってんだ?』の顔。
「サツマイモがまだいっぱいあるから全部揚げましょうか?」
パルスィが乗ってきた。
「待ってくださいって」
「よおーし、薙払えっ!」
「えええー?」
「どおーしたっ バケモノ!」
「いー加減にしてくださいっ!」
―――†―――†―――†―――
結局、大食い選手権はナシになった。
改めて皆で『いただきまーす』。
ざばり ざばり しゃくっ しゃくっ
「おーーいしーー!」
フランドールが代表して感想を叫んだ。
ナスは適度に柔らかく淡白、サツマイモは予想を裏切らない王道の甘味、レンコンは粘りのある歯応えが気持ち良い、カボチャは優しいほっくり感、シイタケはニュリっとした感触と独特の香り、マイタケはジャキジャキしてほんのり土と木の香り、春菊は崩落する感触と青臭さ、紅生姜は酸っぱ味に油が合う、ジャガイモは期待通り……
「うんまいなー」
「揚げたては格別ですね!」
「クセになりそうで怖いわ~」
「これはたまりませんよおー」
「んふふ、大勢で食べると美味しさが倍増ね」
ざばり ざばり しゃくっ しゃくっ
お箸が止まらないったら止まらない、止まりませんな。
―――†―――†―――†―――
フランドールはサツマイモとカボチャとレンコン、そして春菊も気に入ったようだ。そしてさらに新しいネタにチャレンジしている。
「めーりん、これなに?」
「紅生姜ですね」
「ショウガ? ジンジャー?」
「酢漬けにして赤く染めたものですよ」
「ふーん、さっぱりしていて美味しいわ」
「紅生姜天の良さが分かるとはな。フラン、通になれるぜ」
「そうなの? えへ」
―――†―――†―――†―――
子ネズミがサツマイモ天をショリショリかじっている。
「美味しい?」
ちう ちう ちゅっちゅちゅ~
「そう。それは良かったわ」
橋姫も嬉しそうに笑った。
―――†―――†―――†―――
「まりさー、このピーマン美味しいよ」
「このニンジンも旨いぜ、フラン」
かなり低目の争点で火花を散らているマリ&フラ。
「天ぷら、美味しいでしょ?」
割って入ったのは緑眼の橋姫。
「うん、美味しいよ」
「文句ないぜ」
「これからちょっと変わった野菜天を揚げてみようと思うの」
「?」×2
すととととととっ
ピーマンとタケノコ、そしてニンジンとゴボウ、生姜を細切りにするパルスィ。
「何をするんだ?」
ピーマンとタケノコの束を海苔で巻く。
「それ、どうするの?」
ニンジン、ゴボウ、生姜を少々、これも海苔で巻いた。
しょわわわー
それぞれを少し長めに揚げる。
「さ、召し上がれ。ピーマンとタケノコは出汁で緩めた味噌で食べてみて。ニンジンとゴボウは天つゆで良いと思うわ」
「え……」×2
調理工程を見ていたマリ&フラが怯む。
「アナタたち二人だけの特別製よ」
ふわんと微笑む。万人を魅了してしまうスマイル。
特別と言われれば拒絶もしにくい。顔を見合わせていたが意を決して『せーのっ』と口にした。
ぱく もじょりっ もじょりっ
「あ……」×2
「旨いぜ!」
「美味しい!」
「んふふ、良かったわ」
「こ、これは何て言う天ぷらなんだ?」
「今日、初めて作ったの。アナタたちが気に入ってくれたなら嬉しいわ」
「ねえ、もうひとつ作ってよ!」
「私のも頼むぜ」
「ズルいですよー」
「そうよ、もっと作りなさいよ」
「私も食べてみたいです!」
「はいはい、ちょっと待っててね」
―――†―――†―――†―――
「ふー、さすがにお腹にたまるわね」
「なんたって油だからな」
「そうでしょうか?」
「あんたには聞いてないわよ」
「うーん、おなかいっぱーい」
フランドールがお腹をさすっている。
「この天ぷら残ったらどうする?」
食べきれなかった天ぷらがぽつぽつある。
ここでも答えを出してくれたのはパルスィ先生。
「明日の朝食べるのなら、少しだけ炙ってご飯に乗せて醤油を掛け回すの」
「そして?」
「熱いお茶を注いで天ぷら茶漬け」
「それは……旨そうだな」
「確かに」
「めんつゆで軽く煮て玉子で閉じてご飯に乗せれば天玉丼ですねっ」
「朝から食べるの? それを?」
「お前にかかると何でもガッツリ系になるよな」
「そんなつもりは……」
―――†―――†―――†―――
「もう帰らなくちゃ」
「えーー」
フランドールは名残り惜しいようだ。
「勇儀はああ見えてとてもヤキモチ焼きなのよ」
そう言って悪戯っぽく笑う口元がなんともセクスィ。
「フランドールさん、今度は地底にいらしてね。ご馳走するから」
「ホント? 私、きっと行くわ!」
「お待ちしてますわ」
「おい、私たちも良いんだろ?」
「もちろんよ、んふ」
妖美可憐な橋姫の印象は豪勢な野菜天ぷらよりはるかに強かったとさ。
閑な少女たちの話 了
「そうね、せっかくだから名物の【野菜天ぷら定食】にするわ」
「うーん、やっぱりこれが美味しそうよね。七種類の野菜だし……」
「美鈴、アナタはどうする?」
「お許しをいただければ、お嬢様と同じものを頼みたいですが」
「別に構わないわよ」
「ありがとうございます」
「フランは決まったの?」
「この【肉天ぷら定食】も美味しそうだけど……」
肉天ぷら定食とは大き目の鶏ムネ肉の天ぷらをメインに、カリッと揚げた薄切りの豚バラ肉の天ぷらが四枚、それにナスとインゲン素揚げが添えられているボリュームたっぷりの定食。この店のもう一つの人気メニューだ。
「やっぱり、私も【野菜天ぷら定食】!」
パタッと、お品書きを閉じたフランドール・スカーレット。
「美鈴、オーダーを」
レミリア・スカーレットの下知。
はい、と返事をした紅美鈴が声を張り上げる。
「すいませーん、注文お願いしまーすっ」
ここは人里の料理店【彩芭梨庵】。お手頃価格の和定食や弁当販売を中心とした繁盛店。
吸血鬼の姉妹は特徴のある羽を隠し、いつもと違う服装でお忍びの真っ最中。とは言っても、長身で真っ赤なロングヘアのメガトンダイナマイトバディ紅美鈴は人里では有名人。その美女がおつきなのだからその正体は自ずと知れてしまう。
「たまには外で食事をするのも良いわね」
「でもお姉さま、咲夜はなにか言いたそうだったけど」
「気にすることないわ。今頃はきっと羽を伸ばしているわよ」
「え? 咲夜にも羽があるの?」
「ものの例えよ」
格にも寄るが吸血鬼は血を啜るだけでの魔物ではない。この姉妹ほどの上級ヴァンパイアは様々な嗜好品を楽しむのだ。
『野菜って味が薄いけど、なんだか美味しいー』
『微かな苦味と意外に豊かな甘味、そして様々な歯応え。悪くはないわね』
ここ最近は【野菜】にハマっているようだ。
特級料理人十六夜咲夜の野菜料理に不満はないが、この度は【野菜の天ぷら】なるものの噂を耳にし、半ばゴリ押しで外出、外食におよんでいるのだ。
「咲夜ってば、私たちには天ぷら作ってくれないんだモン」
「そうね、妖精メイド達や美鈴や美鈴とか美鈴だけにしか作らないのよね」
「あ、あの、お嬢様、それは、その……」
美鈴があわあわと慌てる。
「贔屓ね」
「ひいきだよー」
分かっている。
咲夜は天ぷらを【下々が食すモノ】と自分基準で決めているため、主人達には供することをしないのだと。
だが、面白く無いのでからかい半分で咲夜の寵愛対象をイジることにした。
「そこのところ、実際はどうなのかしらぁ?」
「愛されてるって自覚があるのかなぁ?」
文字通り悪魔の責め、四つの魔眼が怪しく光る。普通の人間や並の妖怪ならあっさりと精神を持って行かれてしまうだろう。
「そ、それは、その、ええっとー」
「お待たせいたしましたー」
救いの手が差し伸べられた。
「野菜天ぷら定食でございますー」
―――†―――†―――†―――
ナス、カボチャ、サツマイモ、レンコン、インゲン、ニンジン、シイタケ。
七種類の野菜の天ぷらが品良く盛られている。このラインナップはタケノコ、春菊、オクラ、マイタケなどが季節によって一部入れ替わる。
ほかほかご飯、豆腐とワカメと油揚げのシンプルな味噌汁、そしてキュウリとダイコン、新生姜などを浅漬けにした小鉢が添えられた定食の盆が並べられる。
「彩りが綺麗ね」
「おいしそーお」
姉妹の興味はすでに美鈴から野菜の天ぷらに移っている。
「ライスは少しでいいわ」
「私もー」
「それじゃ私はフランと、おもやいで食べるわ。これは美鈴にあげる」
自分のご飯茶碗を美鈴の盆に乗せた。
「うぉ、ありがとうございますぅ!」
通常の一人前では足りない門番は『ご飯大盛り』が言い出せなくて困っていたところだった。
「パンは無いのかな?」
「フラン、天ぷらは【和食】だからライスなのよ」
「ふーん、パンも合うと思うけどなー。美鈴はどう思う?」
「さあて……試したことがありませんのでなんとも」
顔がひきつらないように注意しながら返事をした。
「ミソスープも美味しいのよね」
「もう少し血の味に近いといいのだけどねー」
「そうですね。あははは」
美鈴は取りあえず笑うしかない。
―――†―――†―――†―――
天ぷらの陣容を確認しているフランドールの目がある一品で止まっている。
紅美鈴は幻想郷で有数の【気を使える女】。すぐに察した。
「フランドール様の天ぷらゲーットォ!」
妹君のニンジンの天ぷらを箸でつまみ上げ、微笑む美鈴。
フランドールはちょっとの間、呆然としたが、すぐに立ち直る。
「やったわねー、私も美鈴の天ぷらゲーットォ!」
美鈴のカボチャの天ぷらをひょいとつまむ。
「あー、やられちゃいましたー。
これでお相子ですねー」
「そーね、うふふふ」
「なに? この茶番は」
レミリアは渋い顔。でへへっと笑うフラ&メイ。
「美鈴、フランを甘やかしてはダメよ」
「申し訳ございませんお嬢様。以後、注意いたします」
「このあいだもそんなこと言ってたじゃないの」
種族の特性から言えば栄養も好き嫌いも関係ないことなのだが、愛する妹のワガママを多少は矯正したいと考えているワガママお嬢様なのだ。
―――†―――†―――†―――
「ういーっす」
いつものように霧雨魔理沙が博麗神社にやってきたが、一人ではなかった。
博麗霊夢と東風谷早苗は魔法のホウキの後ろに乗ったその客人に見覚えがあった。
「あら? あんたは確か」
「知ってるだろ? 水橋パルスィだぜ」
「おじゃまするわ」
魔理沙より濃い金髪と緑眼、尖った耳が特徴的な旧地獄の橋姫、水橋パルスィがホウキからヒラリと降り立った。
(コイツ……こんな感じだったかしら?)
口にこそ出さなかったが霊夢は訝しむ。地底の異変で対戦した時と印象がかなり違うのだ。ピリピリとした陰湿な気が無くなり、代わって穏やかな気が溢れだしているように見える。
「命蓮寺で暇そうにしてたんだ」
「あんた、一人で来たの?」
パルスィは頭を軽く横に振る。金色の髪がフワフワっと揺れる。
「勇儀と一緒」
「その鬼はどうしたの?」
「ナズーリンさんと遊びに行っちゃったわ」
「相変わらず勝手なヤツね」
「ホントにね。んふふ」
ふわんっと微笑む。
(やだ。コイツ、可愛いじゃないの……)
「面白そうだから連れて来たぜ」
「あんたねぇ」
「大丈夫、おばあ……聖の許可はもらってるんだから。それにコイツを連れてるから」
ちうぅ~
パルスィの肩からネズミが顔を出した。
「きゃああああーー!」
絹を裂くような悲鳴は東風谷早苗。
「ナズーリン直属のヤツだぜ」
「きゃあー ねずみぃー きゃああー!」
「コイツはナズーリンと連絡できるんだってさ。何かあればアイツらがすっ飛んでくるらしいぜ」
ちゅちゅう~
「ぎいぃーーやああああーーー!」
「早苗っ! うっせーわよっ」
ぱちーーんっ
―――†―――†―――†―――
「叩くことないじゃないですか……」
後頭部をさすりながら文句を言う。
「ゲンコツじゃないだけありがたいと思いなさいよ」
「少しは落ち着いたか? ナズーリンの子ネズミは結構賢いんだぜ。騒ぐことはないぜ……ん?」
早苗の顔をのぞき込む。
「なんですか、魔理沙さん?」
「お前、顔になんか塗ってるのか?」
「これですか? ちょっとニキビができちゃって、バシルーラをのせてるんです」
「ばしるう? ……なにそれ?」
「どこに吹っ飛ばすつもりだよ。コンシーラだろ?」
「こちらではそう言うのですね」
「間違いは素直に認めろよ」
「脂っこいモンばっかし食べてるからでしょ」
「揚げ物や脂身、大好きだもんな」
「違いますよ、お年頃なんですっ」
「ふん、妖怪油すましのくせに」
「はあああ?」
「早苗は二口女じゃなかったのか?」
「ヒトを妖怪呼ばわりするの、やめてくださいよっ」
「二口油女ね」
「……絵的にスゴそうだな」
「やめてくださいって!」
「食べ物の美味しさは油の美味しさかも知れないわね」
それまで黙っていたパルスィが呟いた。
「そ、そうですよねっ」
「守矢の巫女さん、その節はお世話になりました」
以前、守矢神社で厄介になったパルスィが丁寧にお辞儀をした。
「いえ、あの時はお力になれませんで、すみません」
妖怪に対しては基本、上から目線が常の早苗だが、礼節を弁えている相手だと勝手が異なるようだ。
「そんなことないわ。助かりましたよ」
再び柔らかい笑み。
「は……はぁ」
何故か顔を赤らめている早苗。
「まー、そんなわけで地下の旨いモンの話でも聞かしてくれないか?」
「そうねえ……」
「とりあえず上がれよ」
魔理沙が家主の許可も得ず、パルスィを連れて居間に上がっていった。
「まるでじぶんちみたいじゃないの。別にいいけど……早苗? どしたの?」
「なんと言うか、……【女】ですよね」
「パルスィが? 当たり前じゃない」
「いえ、霊夢さんはきっと分かってません」
「なんですって?」
「女の中の女ですよ」
「なにそれ」
「私、妖(あやかし)の色気はまやかしだと思っています。でも、あのヒトはまやかしだと分かっていても引き込まれてしまいそうです」
「色気? んー、少しは有りそうだわね」
「ホラッ 分かってませんよ」
「さっきから何が言いたいのよ」
「色気を振りまいているようには見えないのに仕草の一つ一つが絵になっているじゃないですか。控えめなのに蠱惑的で、放っておけない危うさを見せ、かつ包容力がありそうな感じでっ」
「ちょっとー、落ち着きなさいよ」
暗い炎をまとった執着心が薄れ、可愛らしい嫉妬(ジェラシー)に変換されたパルスィの色気は、寅丸星の健康的な色気、十六夜咲夜の神秘的な色気とも異なる。時間をかけて丁寧に磨き上げられた一級工芸品のようなものだろうか。
「外面にだまされちゃダメよ。地底の妖怪はタチが悪いんだからね」
地下の異変ではその特殊性に予想以上の苦戦を強いられた霊夢が思いっ切り顔をしかめた。
「分かってるつもりですけど」
「いーえ、あんたの方こそ分かっちゃいないわ」
―――†―――†―――†―――
「ふーん。地底もこっちとあんまり変わらないんだな」
「でも、虫とか変わった魚とかはちょっと……」
「そこらへんは食べてみないと何とも言えないわね」
パルスィから地底の料理の解説をされた三人の感想。
米や味噌醤油を中心とした食生活。地上では見られない食材は奇怪なものもあるみたいだが惣菜としての加工方法はほぼ同じような感じだった。
「虫は大体揚げるわね。他にも揚げ物が多いの」
「そうなんだ。早苗向きだな」
「特に揚げ物が好きなわけでは……好きですけど」
「下の連中はせっかちなのよ。だから揚げ物が流行るのかもね。ふふ」
揚げ物調理のメリットは二百度近くまで加熱された油で調理するので、中までしっかりと火を通しながら加熱の時間を短縮することにある。
「揚げ物かあ、ハードルが高いんだよな」
「鶏の唐揚げならやるけどね」
霊夢の発言にピクっと反応する魔理沙。
「なによ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「いや、別に」
「確かに自分で作るとなれば面倒が多いですよね」
「そうね、ある程度量を作らないと油がもったいないし、その油の後始末とかね」
霊夢が腕組みをして頷く。
揚げ物は油の処理が最大の問題となる。目処が立っていないならやるべきではないのだ。
「こんにちわーー」
「誰か来たぜ」
「この声は確か」
―――†―――†―――†―――
来客は紅美鈴とフランドール・スカーレットだった。
「こんにちは」
スカートをつまんで軽く膝を折る悪魔の妹。魔理沙よりも淡い色の金髪が眩しい。
「はい、おこんちわ。
ねえ、ちょっとそこに並んでみて」
霊夢が魔理沙の隣を指さす。首を傾げながらも移動するフランドール。
パルスィ、魔理沙、フランドールと黄金色のグラデーションが映える。
「金髪にも色々あんのねえ」
「キラキラ綺麗で目の保養になりますね」
ダブル巫女はうむうむと満足げに頷く。
「ステキです」
美鈴も追随する。
吸血鬼とそのお供が橋姫との挨拶を終えたところで霊夢が切り出した。
「ところで何の用?」
「お嬢様方と人里で遊んだ帰りです。ちょっと寄らせていただきました」
「レミリアは?」
「お嬢様は館でご用事がおありなので、先にお帰りになりました」
「あのねあのね、私たち天ぷらを食べたんだよっ」
「里で天ぷらと言うと【彩芭梨庵】ですか?」
「せーかーい」
「あそこの天ぷら旨いもんなー」
「うん、美味しかった!」
そこからフランドールによる野菜天ぷらのディスクリプションが始まった。
サツマイモとガボチャの甘みの違い、レンコンの歯触り、ナスと油の相性の良さなど、手振り身振りを交え、知っている語彙を総動員して一生懸命説明した。
「そっかー、それは旨そうだな」
「なんだか食べたくなっちゃったわ」
最近は積極的にコミュニケーションをとろうと努力している可愛い吸血鬼に暖気のある眼差しを向ける五人。
「それじゃあ、今日は野菜天ぷらにしましょうよ!」
早苗の提案に目を丸くしたのは家主の巫女さん。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ」
「ホント? やったああー!」
フランドールが飛び上がって喜ぶ。
「めーりんっ また天ぷらよ! うれしー!」
「あ……ん、ぬぐぐぐぐっ」
ピョコピョコとジャンプして美鈴とハイタッチを繰り返すフランドールには何も言えず、代わりに言いだしっぺを睨みつける。憤激の般若と化して。その風祝はすかさず魔理沙の背中に隠れていた。
「油はあるし、やってみようぜ。な? 霊夢」
「むぐぐぐぐっ」
「私、手伝おうか?」
パルスィがちょちょっと手を挙げた。
「待ってた! その言葉を待ってたんだぜっ」
いかにも料理が上手そうな客人の申し出にガッツポーズ。
「これで万全ですね!」
「ふぐぐぐぐっ」
―――†―――†―――†―――
「あの、霊夢さん、本当によろしいんですか?」
美鈴が小声でたずねる。
「よろしいわけ、ねえーーじゃないのっ」
声を潜めて怒鳴るという器用なことをやってみせた。
「それでもこのタイミングでダメって言うほど鬼じゃないわよ、ふん!」
「ありがとうございます」
「その代わり、食材ガメてきなさいよね」
「へ?」
「天ぷらの具になりそうな野菜を持ってくんのよ」
「私が、ですか? 紅魔館からですか?」
「そーよ」
「食材の管理は咲夜さんがしてるんですよ?」
「だったらどうなのよ」
「何と言って持ってきたらいいんですか?」
「知ったこっちゃねーわよ。自分で考えろっての」
「そんなあ」
「知ってんのよ、あんたと咲夜のことは。色仕掛けでも使って何とかしてきなさいよ」
「い、いろじかけですかぁ?」
「さっさと行きなさいっ」
「ふえ~ん」
美鈴にとって限りなくインポッシブルなミッションだった。
―――†―――†―――†―――
「天ぷらの具は何があるの?」
パルスィの問いに台所を物色する魔理沙と早苗。
「えーと、レンコン、ニンジン、ゴボウがあるな。さてはキンピラの予定だったな?」
「この前、鍋に使った春菊が残ってますね。あ、マイタケもありました」
「あんたたちっ、勝手に漁るんじゃないわよ!」
「文句言うなよ、ほとんど私たちが持ってきたモンだろ」
「この刻んでない紅生姜も使えますかね?」
「紅生姜天って旨そうだぜ」
「あ、このタケノコの切り身、早く食べなきゃダメですよー」
「これ、シイタケ?」
魔理沙と一緒に捜索していたフランドールが小さな籠に入ったキノコを見つけた。
「おおっ、よく見つけたな。フラン、エラいぜ」
「ちっ」×2
「なんだお前ら、聞こえたぜっ」
「マイタケはアリよね」
「アリですね」
「はああああ? シイタケは?」
「別物じゃない」
「マイタケは美味しいですよ。魔理沙さん、嫌いなんですか?」
「いや、好きだけどさ」
「じゃあ、いーじゃない」
「ちょっと待てよ、シイタケは否定するのにマイタケはアリなのか? 同じキノコだぜ?」
「だから別物ですって」
「おっ まえらぁ~」
魔理沙の下顎がせり出してきた
「なに怖い顔してんのよ。人の嗜好に文句あんの?」
「シイタケの天ぷらは勇儀の好物なのよ」
パルスィが絶妙のタイミングで割って入った。
「マジかよっ」
「ホントよ。口直しの肴に良いって。塩をかけたり酢橘(すだち)を絞ったりしていくつも食べるわ」
「ぃやったあー、地獄の鬼を味方に付けたぜー!」
両の拳を振り上げ叫ぶ魔理沙。
「でも他の料理に混じっているのはイヤみたい」
「はああ? なんだそりゃ?」
「シイタケだけを食べたいんですって」
「そーんなのは、本物のシイタケ好きじゃないっ!」
今度は両の拳を腰だめにして叫ぶ。
ぷっぷ、ぷすぷすーっと口に手を当て失笑するダブル巫女。
「魔理沙はシイタケが好きなの?」
これはフランドール。
「大好きなんだぜ。お前は?」
「んー、嫌いじゃないけど好きでもないかな」
「あのなフラン、シイタケ食べるとスタイルが良くなるんだぜ」
「ホントぉ?」
「あんたが言っても説得力無いじゃない」
「私は成長途中だ」
「それを言ったらフランさんは、その……」
「私たちも成長するわ。人間よりずーっと長い時間をかけてだけど」
「そうなんだ」
「シイタケ食べてたら美鈴みたいにバインバインになる?」
全員が超乳傑尻の門番のプロポーションを思い出す。
「なるともさ」
「ちょっとー、ウソ教えちゃダメじゃないの」
―――†―――†―――†―――
「はあ? たったこれだけ?」
風呂敷包みを携えて戻ってきたバインバインに霊夢が文句を言っている。
「す、すいません」
包みの中身は大根、ナス、カボチャ、サツマイモ、ジャガイモ、ピーマンだった。
「使えないヤツね」
「これでも必死でおねだりしたんですよ。色々犠牲にして」
主に肉体を使った個人的なご奉仕を約束させられたのかも知れない。
「言い訳は聞きたかぁないわ」
「まあまあ、野菜天の主力選手を持って来てくれたんですから上々ですよ」
「でもさあ、ピーマンって天ぷらになんのかよ」
「あら、案外美味しいのよ?」
「そうなのか?」
疑いの目をパルスィに向ける。
「魔理沙はピーマン嫌いだからね~」
「おいっ霊夢! ここで言うことかよ!」
「ええっ? そうなの?」
食いついたのはフランドールだった。
「魔理沙ってば、ピーマン苦手なんだー、おっ子さまねー」
「はあん? お前はニンジン食べられるようになったのかよ」
「ふぐっ」
クロスカウンターを打たれるのが分かり切っているネタを振ってしまったフランドールに同情の余地はない。
「どーなんだよ」
「咲夜のグラッセなら食べられるモン」
それでも引き下がるのはシャクだった。
「ぐらっちぇ? ぐらっちぇってなに?」
「霊夢さん、それはケーシー高●ですって。この場合はバターと砂糖で超甘く煮込んだニンジンのことですよ」
「ふーん」
「そもそもお前ら吸血鬼のくせにベジタリアンなのか?」
「私たちくらいの吸血鬼は色々嗜むのよ。単なるアンデッドじゃないんだからね」
「べったり餡ってなに?」
「草食系女子のことですよ」
「違うだろ」
「霊夢さんは肉食系と言うより臓物(はらわた)系ですよね」
「なんですって?」
「間違った知識をさらに展開させるなよ、ややこしくなるから」
外野に回っている美鈴が同じ守備位置のパルスィに耳打ちする。
「あのーパルスィさん」
「なにかしら?」
「このノリに全然ついて行けないんですけど、私」
「私もよ。でも気にすることないでしょ。聞いてるだけでも楽しいじゃない」
「そうなんですか」
「もう少し面白くしちゃおうかしら」
「え? 何かするんですか?」
「んふふ、内緒よ」
―――†―――†―――†―――
「鍋は深くて厚くて大きいモノが良いわね」
予定通り指揮をとることになったパルスィが台所で器具を選んでいる。
揚げ物は高温を保って短時間で揚げてしまうことが大事。深い鍋ならたくさんの油が入るので食材を入れてもある程度は油の温度を維持することが出来る。また深さがあれば食材が底にくっついて浮かんでこないといった心配もない。
「これはどう? 唐揚げの時に使ってるけど」
霊夢が棚から引っ張り出したのはゴツい鉄製の鍋。
「いいわね。十分よ。揚げ始めたら早いわよ。他の用意も今のうちにやっておきましょう」
揚げたそばからハフハフ言いながら食べるのが天ぷらの醍醐味だ。
「天つゆ作っとかなきゃね」
醤油、みりん、水を一:一:四、鰹節を一掴み、弱火でゆっくり加熱。軽く煮立ったら火から下ろして濾す。
「大根おろしはお好みね」
「たっぷり作ろうぜ。美鈴、頼むぜ」
「はいはい、お任せください」
「結局ネタ(具)はどれにすんの?」
「せっかくだから全部やって見ようぜ」
「たっくさんありますねー、うひょうっ!」
「早苗ー、お前、ホントに嬉しそうだな」
サツマイモ、ジャガイモ、カボチャ、ニンジン、ゴボウ、ピーマン、ナス、春菊、マイタケ、シイタケ、レンコン、タケノコ、紅生姜……十種類以上に及んだ。
「どのくらいに切るの?」
「これまで食べた天ぷらの大きさや形を思い出して。大体そんな感じで良いのよ」
大きすぎれば火が通らないし、小さければあっという間に焦げてしまう。
「んー、なんとなく分かるぜ」
「他にネタになりそうなものはないかしら」
「今回は肉類は無しですかね」
「肉は何もないわよ」
「それじゃ虫を」
「それは無しの方向で!」×3
パルスィの言葉を一斉に封じた。
「それは残念。……ネズミはどうかしら?」
ぢゅっ ぢゅううーー!
「んふふ、冗談よ」
そう言って肩にしがみつている子ネズミの頭を撫でた。
―――†―――†―――†―――
「油はあるのよね?」
「普通の天ぷら油でいいんでしょ?」
「ごま油は無いのかしら?」
「ある……けど」
霊夢の歯切れが悪い。
「あれは高いんですよね」
「ケチケチすんなよ」
「あんた、ヒトんちのものだと思って簡単に言うわね」
「パルスィ、ごま油の方が美味しいんだろ?」
「そうね……」
返事する橋姫の口元は笑っているが、その瞳の緑色は先ほどより薄くなっている。
「高いと言っても使わなければ悪くなってしまいますよ」
「食べるの惜しんで結局ダメにするのはお前の悪い癖だぜ」
「う、うるさいわね」
―――†―――†―――†―――
「あんたはアリスとばっかり乳繰りあって、私をないがしろにし過ぎよ」
「お前だっていっつも一人で異変解決に行っちゃうだろ」
「霊夢さんは能力に恵まれ過ぎです。ズルいんですよ」
「あんた、ちょっと胸が大きいからっていい気になるんじゃないわよ」
「お前もお母さんが二人もいてズルいじゃないか」
「魔理沙さん、可愛い顔していれば何やっても許されると思っていませんか」
ごま油の論争がエスカレートし、いつのまにか心の奥にそれぞれが秘めていた【妬ましい、羨ましい】ことの罵りあいになっている。
「面白くなってきたわね。んふ」
「パルスィさん」
美鈴が少し顔をしかめて囁いた。
「なあに?」
「そのへんで止めときません?」
「あら? 気がついちゃった?」
「たまたまですけど」
あらゆる【気】に聡い美鈴はこの場を支配している陰の気を見過ごせなかった。
「面白いでしょ?」
「私はこういった展開は楽しめませんよ」
「それは残念。じゃあお終いにしましょうか」
パルスィがそう言うと室内に微かに漂っていた低周波のようなノイズがピタリと止んだ。
「……ん? 私、何言ってるんだろう」
「あ、あの、さっきの発言は無しにしてください」
「ふん、これはただの冗談よ。じょーーだん」
急激に頭の中の熱を奪われた三人はバツが悪そうにしていた。
「美鈴さん、あなた不思議な妖気をまとっているのね。何の妖怪なの?」
ねっとりとした淫靡な視線と共に問いかけた。
「えーっと、その件はまたいずれってことで」
橋姫の能力のほんの一部、児戯めいた発動ではあったが、未だその正体が知れない門番には通用しなかったようだ。
「何かの術だったの?」
フランドールが不審そうに妖怪二人に聞く。
高級ヴァンパイアは精神系の攻撃を全くと言って良いほど受け付けない。
「なんでもないわ」
「お気になさらずともよろしいかと」
「ふ~ん。美味しい天ぷらが早く食べたいんだけどな、私」
小首を傾げて微笑みながら可愛くおねだり。だが目は笑っていなかった。
「仰せのままに」×2
妖魔の頂点近くにいるご令嬢の【命令】に二妖は最敬礼。
「あのね、てんぷら油はくせがなくコクがいまひとつだけど、油切れは良いわね。ごま油はトロッとしてるけど風味があるからコクが生きてくるのよ」
三人娘に向かい、話を揚げ油に戻すパルスィ。
「だから混ぜる訳か」
「ごま油は多いに越したことはないけど少しでも良いのよ」
「分かったわよ。でも少しだからね」
「あと、天ぷらの要点は衣(ころも)だと思うの」
「サクサクの衣こそが天ぷらのレリッシュですよね」
「そりゃそうね」
「そこは異論ないぜ」
すっかりいつも通りの三人組。
「衣はとにかく冷やしておくの。そして軽~く混ぜるのよ。ダマが残ってるくらいでちょうど良いわ」
ぬるい、混ぜすぎは小麦粉のグルテンが働いて粘りが出てしまう。基本の割合は冷水百六十と玉子一個、ふるいをかけた小麦粉二百を一気に入れてざっくり混ぜる。ざっくりでオーケー、氷一個入れて常に冷たい状態にしておく。
「氷はあるわよ」
「チルノが作り置きしてたのがあるよな」
「それじゃ少し欠いておきましょう」
―――†―――†―――†―――
「準備は良いかしら?」
パルスィが全員を見渡す。
「ネタ、切り終わりましたっ」
「衣、オーケーだぜ」
「油はこんなもんでいいんでしょ?」
「お皿とお箸もオーケーだよ」
「天つゆ、大根おろし、準備できましたー」
「では始めましょう。鍋に火を入れてね」
「天ぷらを上げる温度はどのくらいなんだ?」
魔理沙の質問に首を傾げるパルスィ。温度を数値化する概念がないようだ。
「百六十度から百八十度くらいのはずですけど」
早苗が現世の指標を口にした。
「だからそれをどーやって確かめるんだよ」
「温度計……無いですよね」
「お前のとこ(守矢神社)揚げ物やってるじゃないか」
「いつも諏訪子様がタイミングを見てくれるので」
「使えないなー、霊夢は?」
「私? てきとーね」
「だと思ったぜ」
「目安はあるのよ」
パルスィが天ぷら鍋に菜箸を挿し込んだ。鍋底につかないようにしていると、菜箸に含まれる水分が蒸発して泡が出てきた。
「何してんだ?」
「お箸が揚がっちゃうわよ」
「ぽつぽつ泡が出てきましたね」
「これだとまだね」
しばらくすると箸の先から細かな泡が出てきた。
「これで揚げ時かしら」
「へー そんなんで分かるんだ」
「これ以上熱くなるとお箸全体から泡が出てくるわ。それだと熱すぎ」
「もっと熱いと煙が出てくんのよ」
霊夢が難しい顔で鍋の様子を見て言う。
「そうなったら焦げちゃうわ」
「そーね」
「さては経験済みだな? あはは」
「そーね」
言いながら霊夢の手が魔理沙に伸びたがサッとかわされた。
「ちっ」
「こういうやり方もあるわ」
菜箸を引き上げ、衣の容器にちょいと刺し、ついた衣を一滴鍋に垂らす。鍋底近くまで沈んだ衣の欠片はすぐに浮かんできた。
「これはどう判断するんですか?」
「沈んだままだとまだ低いの。高すぎると沈まずに表面で散ってしまうわ。だからこのくらいが野菜天ぷらにはちょうど良いわけ」
「なるほどね」
「肉や魚を揚げるときはもう少し熱くした方が美味しく揚がるわ。あと小麦粉をつけるときは……あれは何と呼んでいるの?」
「フライだよ」
洋風お嬢さんのフランドールが答えた。
「ありがとう。フライも高めかしらね」
「おっしゃ、そろそろ揚げようぜ」
「ネタは布巾で水気をよく拭き取ってね。揚げるとき油がはねるし、衣がはがれやすくなるから」
「私からやってみて良いか?」
最も好奇心旺盛な魔理沙が名乗りを上げた。
「どうぞ。衣はつけすぎないでね。……そう、そのくらい軽くで良いわ」
サツマイモに衣をつけ、素早く鍋に入れる。
じょわわわー
「次行くぜ」
「たくさん入れすぎると油が冷めてベタっとした仕上がりになるから気をつけて」
「どんくらいまでなら良いんだ?」
「油表面の半分以下ね」
「どんくらいの時間揚げれば良いんだ?」
「一分くらいですかね」
早苗がパルスィを見ると、本日何度目かの堪らない微笑みが返ってきた。
「ネタにも寄るし、油の具合でも違うから時間にこだわるのは良くないわ。ほら、ネタから泡が出てるでしょ?」
「しゃわしゃわ言ってるね」
美鈴に抱っこされたフランドールが天ぷら鍋をのぞき込んでいる。
「そして水気(みずけ)が無くなってくると……」
「あ、音が小さくなってきた。今度はぴちぴち言ってる」
「このくらいで良いわね」
「むう、微妙だな」
「正直分かりません」
「難しいわね」
「同じネタを何度も揚げて食べてみれば覚えられるわ。野菜はちょっと火を通し目で水気を飛ばした方が冷めても美味しいのよ」
「そーか。霊夢、あーん」
そう言われて菜箸で引き上げられたサツマイモ天に直接かぶりついた。
「あっ! ひぃーーー!」
「おまっ ホントに食べるなよっ 冗談なのに!」
「大丈夫ですかっ?」
「もーー、あっついじゃないのっ」
口を押さえながら怒っている。
「早く冷やしたほうがいいですよ!」
美鈴が氷の塊を差し出す。
「別にいーわよ。ビックリしただけだから」
「火傷(やけど)……してないの?」
パルスィも心配顔。
「こんくらいはどーってこと無いわよ」
(この巫女さん、本当に【種族:普通の人間】なの?)
全員が、ほぼ同時に抱いた疑問だった。
―――†―――†―――†―――
「揚げかすはこまめにとるのよ」
パルスィが網杓子でしゃっしゃと掬い取る。
「これが天かすなんだよな」
「じゃあ、シメはタヌキうどんですねっ」
「うどん? あんたうどんも食べるの?」
「じょ、冗談ですよー」
両の手のひらをブンブン振る早苗。
「……冗談なんですか……」
ガッカリしているのは美鈴だった。
―――†―――†―――†―――
皆が代わる代わる色々なネタを揚げていく。そして金網に乗せていく。
「紙を敷いとかなくて良いの?」
「私は使わないわ。衣の表面が紙から油を吸ってベタっとするから。重ねておくのもダメね」
―――†―――†―――†―――
全てのネタがそこそこの量揚がったので『いただきます』となった。
「フラン、お腹は大丈夫なのか? 昼も天ぷらだったんだろ?」
「へーき。私、結構食べるんだよ」
「こんなにたくさん揚げて大丈夫か?」
「平気でしょ」
霊夢が早苗と美鈴をチラ見した。
「余裕ですよ。紅魔館ではおそらく私が一番食べますし」
頼もしげな発言だが、美鈴以外はいかにも食が細そうな連中しかいないので参考になるかどうか。
「でもな、早苗にはかなわないと思うぜ」
「おやぁ? それは挑戦と受け取ってよろしいんですか?」
「まあな、ウチの早苗は【油モノ】にはめっぽう強いんだぜ」
「あんた、ウチの早苗を甘く見てると吠え面かくことになるわよ」
【魔理沙&霊夢】VS【美鈴】。不敵な笑いで牽制し合う。
「ちょーーっと! 私を差し置いて勝手に進めないでくださいよっ」
「早苗、格の違いってヤツを見せてやれよ」
「早苗、歌わしてやんなさいよ」
「あのですね、そもそも私は大食いキャラじゃありませんからね!」
「はああぁ?」×2
『コイツ、今更なに言ってんだ?』の顔。
「サツマイモがまだいっぱいあるから全部揚げましょうか?」
パルスィが乗ってきた。
「待ってくださいって」
「よおーし、薙払えっ!」
「えええー?」
「どおーしたっ バケモノ!」
「いー加減にしてくださいっ!」
―――†―――†―――†―――
結局、大食い選手権はナシになった。
改めて皆で『いただきまーす』。
ざばり ざばり しゃくっ しゃくっ
「おーーいしーー!」
フランドールが代表して感想を叫んだ。
ナスは適度に柔らかく淡白、サツマイモは予想を裏切らない王道の甘味、レンコンは粘りのある歯応えが気持ち良い、カボチャは優しいほっくり感、シイタケはニュリっとした感触と独特の香り、マイタケはジャキジャキしてほんのり土と木の香り、春菊は崩落する感触と青臭さ、紅生姜は酸っぱ味に油が合う、ジャガイモは期待通り……
「うんまいなー」
「揚げたては格別ですね!」
「クセになりそうで怖いわ~」
「これはたまりませんよおー」
「んふふ、大勢で食べると美味しさが倍増ね」
ざばり ざばり しゃくっ しゃくっ
お箸が止まらないったら止まらない、止まりませんな。
―――†―――†―――†―――
フランドールはサツマイモとカボチャとレンコン、そして春菊も気に入ったようだ。そしてさらに新しいネタにチャレンジしている。
「めーりん、これなに?」
「紅生姜ですね」
「ショウガ? ジンジャー?」
「酢漬けにして赤く染めたものですよ」
「ふーん、さっぱりしていて美味しいわ」
「紅生姜天の良さが分かるとはな。フラン、通になれるぜ」
「そうなの? えへ」
―――†―――†―――†―――
子ネズミがサツマイモ天をショリショリかじっている。
「美味しい?」
ちう ちう ちゅっちゅちゅ~
「そう。それは良かったわ」
橋姫も嬉しそうに笑った。
―――†―――†―――†―――
「まりさー、このピーマン美味しいよ」
「このニンジンも旨いぜ、フラン」
かなり低目の争点で火花を散らているマリ&フラ。
「天ぷら、美味しいでしょ?」
割って入ったのは緑眼の橋姫。
「うん、美味しいよ」
「文句ないぜ」
「これからちょっと変わった野菜天を揚げてみようと思うの」
「?」×2
すととととととっ
ピーマンとタケノコ、そしてニンジンとゴボウ、生姜を細切りにするパルスィ。
「何をするんだ?」
ピーマンとタケノコの束を海苔で巻く。
「それ、どうするの?」
ニンジン、ゴボウ、生姜を少々、これも海苔で巻いた。
しょわわわー
それぞれを少し長めに揚げる。
「さ、召し上がれ。ピーマンとタケノコは出汁で緩めた味噌で食べてみて。ニンジンとゴボウは天つゆで良いと思うわ」
「え……」×2
調理工程を見ていたマリ&フラが怯む。
「アナタたち二人だけの特別製よ」
ふわんと微笑む。万人を魅了してしまうスマイル。
特別と言われれば拒絶もしにくい。顔を見合わせていたが意を決して『せーのっ』と口にした。
ぱく もじょりっ もじょりっ
「あ……」×2
「旨いぜ!」
「美味しい!」
「んふふ、良かったわ」
「こ、これは何て言う天ぷらなんだ?」
「今日、初めて作ったの。アナタたちが気に入ってくれたなら嬉しいわ」
「ねえ、もうひとつ作ってよ!」
「私のも頼むぜ」
「ズルいですよー」
「そうよ、もっと作りなさいよ」
「私も食べてみたいです!」
「はいはい、ちょっと待っててね」
―――†―――†―――†―――
「ふー、さすがにお腹にたまるわね」
「なんたって油だからな」
「そうでしょうか?」
「あんたには聞いてないわよ」
「うーん、おなかいっぱーい」
フランドールがお腹をさすっている。
「この天ぷら残ったらどうする?」
食べきれなかった天ぷらがぽつぽつある。
ここでも答えを出してくれたのはパルスィ先生。
「明日の朝食べるのなら、少しだけ炙ってご飯に乗せて醤油を掛け回すの」
「そして?」
「熱いお茶を注いで天ぷら茶漬け」
「それは……旨そうだな」
「確かに」
「めんつゆで軽く煮て玉子で閉じてご飯に乗せれば天玉丼ですねっ」
「朝から食べるの? それを?」
「お前にかかると何でもガッツリ系になるよな」
「そんなつもりは……」
―――†―――†―――†―――
「もう帰らなくちゃ」
「えーー」
フランドールは名残り惜しいようだ。
「勇儀はああ見えてとてもヤキモチ焼きなのよ」
そう言って悪戯っぽく笑う口元がなんともセクスィ。
「フランドールさん、今度は地底にいらしてね。ご馳走するから」
「ホント? 私、きっと行くわ!」
「お待ちしてますわ」
「おい、私たちも良いんだろ?」
「もちろんよ、んふ」
妖美可憐な橋姫の印象は豪勢な野菜天ぷらよりはるかに強かったとさ。
閑な少女たちの話 了
200ページってめっちゃ溜まってますな、短編とは言え16本も書けばそらそうか、とも思いますが
やっぱ続ける事が大事なんやなぁ、見習いたいです
しかし、パルスィさんが登場するとは驚いた。けど橋姫の本性忘れずに嫉妬心を
もてあそぶのは流石ですなwあとフランちゃんもお行儀良くて可愛らしいし。
早苗はまぁあれですな、これも現代っ子に生まれた者の定めと思って油を摂って頂きましょう -人- 。
そういや最近ナズーリンシリーズの登場人物がこのシリーズにも出てきいますけど、
次回はあやはたもみじの三天狗が出るのかな?それとも勇儀の姐さんが出るのかな?
楽しみにしています。
・・・実は次回はもこけねだとか(勝手な予想が止まらないw)
そして何より腹が減った
毎度ご馳走様です! 一般ですが今回も例大祭に参加しますので、挨拶に伺わせていただきますね。総集編、期待しております!(拝)
有閑少女隊とともに楽しみにしています!
美鈴がいいキャラですね。
助演女優賞あげたい
いつもありがとうございます。
2番様:
いつのまにか結構書いてました。実はここだけの話、まだまだまだまだまだ続くんですよ。
ご期待(?)ください。
19様:
毎度ありがとうございます。
ナズーリンシリーズもお読みくださっている方にはホント、恐縮です。
久しぶりに本編アップします(例大祭前)。
次は誰が出るのか……(もこけね、んー惜しい!)
5番様:
本当にどうしてこうなっちゃったんでしょう? もっと危ないフランのはずだったのに。
6番様:
やっぱ、フランには幸せになって欲しいんですよね。ハッキリ言って贔屓してます!
大根屋様:
ありがとうございます。
私、熱燗の時は「塩」ですね~。
当日は全裸で(嘘)お待ちしております!
10番様:
ありがとうございます。
本編、動きますっ 動かなくでどうするよ自分! 書きます!
12番様:
お目が高い! そうですよね、美鈴なしでは紅魔館は立ち行きませんよね。
実は密かなご贔屓キャラです。
うどん屋の天ぷら食べに行こう