※下にある『友』愛、友『愛』の続編となります。
また、百合的表現がかなり含まれますので苦手な方はご注意ください。
トントントントン、と心地いい音がまず耳に入った。
そして次に、ほのかに漂う味噌汁の匂いと、小鳥のさえずりが聞こえた。
目を開けてみると、見えたのはあまり見覚えの無い天井だった。
いや、見覚えが無いわけじゃないけど、最近あまり見なかった天井だ。
とりあえず確信を得ようと上半身を起こしてみる。
朝日が目にしみる。
さっきまで布団で寝ていたからか、外の空気に触れると少し肌寒い。
「あら魔理沙。やっと起きたの? もうすぐ朝ごはんできるから顔洗ってきなさいよ」
と、同時に霊夢が顔を出した。
エプロンに三角巾なんかつけちゃって、まさか私を誘惑しているのだろうか。
「……時に霊夢さん。あの、まさか私が知らない間に、私達が結婚してた……とかって、無いですよね?」
「バカな事言ってないで、さっさと顔洗って来い」
ここで霊夢が顔を赤らめでもしてたら脈ありなんだけど、霊夢の顔は本気でバカにしてる顔だった。
なんというか、へこむわ。
でも、だとしたらなぜ私は霊夢の部屋で朝を迎えたのだろうか。
昨日何かあったか……昨日は、久し振りに宴会があったくらいで他には……
「早く顔洗って来い!!!」
ボスン!!!
ってな感じで、霊夢の放った陰陽玉が顔面にヒットした。
いや、ヒットしたなんて生易しいもんじゃない。めり込んだ。
とりあえず思考するのは後回しにするとして、私は顔を洗いにいくことにした。
なににせよ、霊夢の家で一晩明かしたという事に変わりはないんだ。
それに朝ごはんは霊夢と一緒だ。朝っぱらからテンションを上げていこう!
「もうみんなは準備して待ってるのよ!!」
……ん? 『みんな』?
『友愛』
「魔理沙ってば、目が覚めてもボーッとしちゃって。低血圧なの?」
「ボーッとしてるのならいつもの事じゃない。あ、萃香醤油とって」
「ほい。まぁ、陰陽玉は目覚めに最適だからね。おいチルノ、零れてる零れてる」
「え?」
「あーもう。アリス、布きん取って」
「あーらら……チルノ、もっと行儀良く食べないとだめでしょ?」
「…………」
……なんで、こいつらもいるんだ。
いつもの居間での朝食。ちゃぶ台を囲むメンバーは霊夢、私、アリス、萃香、チルノだった。
あれれー? 私だけじゃないんだー。あー、ちょっとへこむというか、自意識過剰だったのかなー。
「……魔理沙? ちっとも食べてないけど本当に大丈夫なの?」
「え? あ、いや。問題無いぜ。ちょっとこの味噌汁がおいしくてびっくりしてたんだ」
「そうでしょ。私が手伝ったんだから当然よね」
アリスがえへん。とばかりに胸を張った。霊夢じゃないんだ。
そう考えるとちょっとおいしさが半減した。
いやいやいや。これだってアリスががんばって作ってくれたものなんだ。贔屓目ってのはいけないよな。おいしいおいしい。
「へぇ、アリスが。珍しいな」
「ちょっと早く目が覚めたからね。誰かさんと違ってね!」
「だってよチルノ。ちゃんと早く起きないといけないぞ?」
「あ、あたいじゃないじゃん! 今のは魔理沙の流れでしょ!」
よしよし。どうやら霊夢と一緒モードからいつもモードの切り替えは完了したみたいだな。
最近この切り替えに時間がかかってきたからなー。自重しないとな、私。
そういえば、と私は起きかけに出てきた疑問を聞いてみることにした。
これだけ人数がいれば、誰かは正解を言ってくれるはずだ。
「あのー、ところで。なんで私は霊夢の家で朝ごはんを食べてるんでしょうか。しかもみんなで」
私の問いに、なぜか少しの間みんなが考える時間があって、
「昨日の宴会で酔っぱらった魔理沙が部屋で寝ちゃったから。他のみんなも」
と霊夢が言って、
「酔っぱらった魔理沙が私達を巻き込んでお泊り会しよう! って言ったんじゃない」
とアリスが言って、
「酔っぱらった魔理沙に水あげようと家にあげたら、そのまま寝ちゃったんだよね。アリス達は帰るの面倒だったから泊まっていったの」
と萃香が言って、
「酔っぱらった魔理沙に無理やり。あたいは帰りたかったのに!!」
とチルノが言った。
……なんでみんなの意見がバラバラなんだ。こいつらみんなバカなのか?
いや、これは私の反応を楽しもうとしているだけに違いない。
となると、誰の意見に乗るかでその後が変わるな……ふーむ。
というか、私が酔っぱらったっていうのは万場一致か。本人に記憶が無いからそうなんだろうけど。
「あー、とりあえず。酔っぱらった私が迷惑をかけたのは分かった。謝る」
「謝ればいいのよ。謝れば」
霊夢から冷たい反応がきた。
ということは、きっと昨日は霊夢になにかしたんだろうな私。恨むぞ昨日の私。
あぁ、でもそのしでかした『なにか』ってのが気になるな……やっぱり恨むぞ昨日の私。
「まぁまぁ霊夢。今日一日魔理沙が言う事聞くってことで話は終わってるんだからいいだろ?」
「……は!? ちょ、ちょっと待て萃香! 誰がいつそんな約束したんだ!?」
「昨日の酔っぱらった魔理沙」
……やっぱ恨むわ、昨日の私。
◇◇◇
結局、朝ごはんを終えたら私は霊夢に別室に呼び出された。
そこで手渡された巫女装束。霊夢の腋全開のやつじゃなくて、普通の巫女装束だった。
というか、腋出してないのもあるのかという発見が。
霊夢によると、これを着て今日一日私が霊夢の代わりをすればいいらしい。
するって言ったって、いつもみたいにダラダラ庭の掃き掃除とか、てんで入らない賽銭箱の点検とか、その程度だろ。
って言ったら睨まれた。本当の事を言ったらいけなかったな。
私が昨日なにしたのかは分からないけど、してしまった約束はしかたない。
それに今日一日霊夢と一緒に居れるってのも嬉しいし。
というわけで、私はその巫女装束にそでを通したのだった。
……霊夢は一回も着た事ない、完璧な新品の巫女服らしい。
いや、残念がってないよ? そこまでアブノーマルじゃないよ?
あ、でもなんというか、霊夢の家の匂いが…………。
私が庭掃除を始めると、霊夢は他のみんなで居間で談笑していた。
わざわざ戸を全部開けてこっちからも見えるようにしているのは、きっとわざとなんだろうな。
つーかお前ら帰らないのかよ。霊夢と2人っきりにさせてよ。そのくらいはいいでしょ?
まぁ、別にいいけど。みんなと談笑している霊夢を見るっていうのも。
……この間の、『H・マスタースパーク事件』(今考えた)から1週間が経っている。
あれから何かがふっきれたのか、霊夢は他のみんなと話しだすようになった。
別に昔だって霊夢から話しかけることはあったけど、最近のはちょっと違う気がする。
だって、笑顔があの頃よりも可愛いから。
もしかしたら、あの事件で霊夢への思いを高めた私の贔屓目なのかもしれないけど、でも笑顔以外だって変わっている。
こうやって談笑しているのを見ていると、本当にそう思う。
……でも自分も、霊夢にとってはみんなと同じ位置だと思うと、ちょっと悲しい。
『親友』だなんて言ってるけど、私は……その先に、いきたいって思っているから。
それはもう覚悟と呼ぶにふさわしい意気込みだった。性別の問題を乗り越えてやると思っている。
現実はそんなに甘くないものだってことは、重々に理解してるけどさ。
「はぁ……」
「ため息をつくと幸せが逃げるわよ」
「うおっ!!!」
気付くと、隣に霊夢がいた。な、なんで急に!?
慌てて居間の方を見ると、霊夢が抜けても変りない談笑が続いている。
萃香がチルノをいじってるらしく、アリスがそれを止めていた。
「どうしたのよ。今日は朝からおかしいわよ?」
「そ、そうか? 別に私は普通だぜ?」
「いつもよりご飯食べるスピードが遅かったし、今だってため息ついてばっかりで、全然掃除進んでないし」
「……毎日庭掃いてたら、そりゃ掃くものも無くなるって」
霊夢が私の事を見てくれていたことに、少しだけ嬉しく思った。
あの時以来、霊夢の一挙一動で一喜一憂している私がいる。
この状態だと正直日常生活が疲れるんだけど、それでもいい。いいったらいい。
「だって他にやることある?」
「……今私は、神社の存在理由を問いただしたい気分だ」
「信仰集めろって? そんな、早苗たちじゃあるまいし」
いやいやいや。あるまいしって。お前もあいつも同じ業種だろうが。
とつっこもうとした所に、今から一直線に飛んできたチルノが割って入ってきた。なんか涙目だ。
「うぅ、霊夢~。萃香がいじめる~」
「はぁ……ちょっと萃香! あんたねぇ!……」
泣き付かれた霊夢は仕方なさそうに居間へと戻っていく。
……本当、チルノ泣かすの好きだよな萃香は。好きな子ほど泣かせたがる子供かっつーの。
もう霊夢がこっちに来ることはないだろうから、私はとりあえず掃除に集中することにした。
いや、というか本当に掃除する場所無いし。掃除大好きキャラか霊夢は。
はい昼食です。もちろん私が作ることになりました。
もちろんみんなはまだいます。きっと夜までいます。もう気にしません。
「さて……んー、なに作ろうかな~」
香霖から買ったっていう(のも怪しいものな)冷蔵庫を開けてみた。ひんやりした空気が流れ込んでくる。
えーっと……なんだ、まともなもんねぇな。
「よくこれで生活してけるなあいつも」
「昨日酔っぱらった魔理沙が漁ってたから無くなっている。とも考えられるけどね」
台所の入口にアリスが立っていた。
にやりとした笑みは、明らかな挑発だ。
「なんだよアリス。今朝からやけに絡むな」
「……昨日の宴会で、お酒を顔面に噴き出された恨みはまだ消えないのよ?」
「すまん」
そりゃ怒るわ。
あの何か含むところのある極上の笑みを見ていると、今後はもう少しお酒を控えようと思わざるを得ない。
「ま、別にいつものことだからいいんだけど。それより本当にどうするのよ」
「だよなぁ……とりあえず飯は炊けるけど、おかずがなー……」
「あたいに任せな!!!」
今度はアリスの後ろからチルノが出てきた。
そして胸をドン! と叩くと自慢げな笑みを浮かべる。
「……チルノにか?」
「チッチッチッ。あたいの最強さにかかれば、おかずの1つや2つちょちょいのちょいよ」
「そう。だったら頼むわね、チルノ」
私の返事を待たず、アリスの慈愛に満ちた笑みを浮かべての返事に笑みでうなづくと、チルノは飛び出していった
……あれ、私なんか立場低い?
「なぁアリス」
「なに?」
「……さっきから、なんか私みんなに気ぃ使われてる?」
頭をポリポリと掻きながらアリスを見た。
アリスはちょっと言いづらそうな顔だけど、笑っていた。
「……だってあんた、今朝からちょっとおかしいし」
「あー、霊夢にも言われたよ」
「約束を守るのはいいけど、それで失敗して霊夢の手を煩わせるのもねぇ?」
あー、なんかみんなに変な気を使わせていたようで。だから帰らないのかこいつら。
……案外、私もけっこういい友人持ってるよな。
というか、みんないい奴らだよなー……。
「悪いなアリス」
「いいわよ。それより、チルノができるって言ってたけど、こっちもできるだけの事はしましょう」
「だな。よし、がんばるか!!」
「材料を食べたのは魔理沙のせいだしね」
……一言多いんだよ、アリス。自業自得だけどさ。
結局、帰ってきたチルノは橙から魚数匹、買い物途中の美鈴からだんご1袋、ミスティアから鰻2串を貰って来た。
予想外の出来だ。チルノって本当にみんなから可愛がられているなと再確認。
とりあえずあとでお菓子でもあげよう。
そんなわけで、お昼はそれなりに豪華になって霊夢も満足げだった。
まぁ、材料云々は結果オーライだな。
「後で食べたぶんの材料費払ってもらうけどね」
「……すまん」
現実は甘くなかった。
◇◇◇
昼食が終わったら、家の掃除をさせられた。
ここぞとばかりにコキを使う気らしい。あぁやってやるよ。やってやるとも。
もちろん霊夢その他3名は遊んでる。庭先でなんか遊んでる。
あーいいなー。私もみんなと遊びたいなー。
「自分も遊びたいな。って顔してるな」
「……なんだよ萃香」
今度は萃香か。つくづく、今朝の私はおかしかったみたいだ。
こんなに心配してくれる友人がいて嬉しいけど、そんなにおかしかったか?
「休憩だよ休憩。酒が適度に入ってないと動けないんだよー」
「根っからの呑兵衛だな。もうどうしようもない」
「否定はしないよ」
言ってるそばから、萃香はいつも持ってる瓢箪で酒をゴクゴクと飲みだした。
……今はあんまり酒は見たくないなぁ。
「酒は飲んでも飲まれるな。ってね」
「痛いほどに理解してるって。禁酒したいくらいだ」
「禁酒は止めた方がいい。酒はこの世で最高の趣向品だよ?」
横でグビグビと勢いよく飲まれると気が散るんですよ萃香さん。
酒が飲みたいだけなら縁側に行ってください。
「いやいや、ちょうどいいから魔理沙に話しておこうと思ってね」
「なにをだよ」
「霊夢のこと」
ピタリ
―――と、時間が止まった気がした。
やばい、なんか口が渇いてきた。なにか言わなきゃと思えば思うほど渇いてくる。
「れ、霊夢がどうしたんだ?」
「あ、違う違う。霊夢の事って言うより~、魔理沙の事、か?」
ニッとした笑み。あ、これもう絶対気づいてるよ。私の本心気付いてるよ。
おかしい。表面上はいつもと変わらないで過ごしてきた。最近だって前だって。
あれ、もしかしてこれは秘密を握られてなにか要求してくるパターン?
そんな、神様いったい私が何をしたっていうんですか。
『あんた、あんまりこっちの神社にお参り来ないじゃない』
御柱の神様には用は無いです。
「おいおいおい。そんなこの世の終わりみたいな顔しないで。別にお前についてなにか言おうなんて思っちゃいないよ」
「え……で、でもおかしいだろ……その、同性を、す、す……きになるのって」
予想外の言葉に、思わずひょうし抜けした。
引かれるだとかそういうマイナスのイメージしか持っていなかったからだろうか。
萃香はちょっとすっきりした顔で笑った。
「おかしい事は無いさ。私だって長い事人間を見ていたけど、『そういうの』が居なかったわけでもないしね」
……すこし心がすっとした気がした。
今日のことで、友人に恵まれていると感じて、その友人に理解されたからか。
もしかしたら私は、この思いを誰かに言いたかったのかもしれない。
理解されなくてもいいから、口にしたかったのかもしれない。だからあの日も、霊夢のいないところで言ったのかもしれない。
それはつまり、私の中でその思いが溢れそうなんだと。そういうことなのだろうか。
「用は気持ちの問題だろ?」
「いやでも……同性、だぞ?」
「じゃああんたは男好きになるかい? あんたほどの力持ってる奴が、そんじょそこらの男で満足するかい?
幻想郷で強いやつらなんて、ほとんど女じゃないか。そう考えると同性を好きになるのも自然じゃないか?」
なんとなく、理解できるようなできないような。
納得できるようなできないような。
でも少なくとも、私にとって一番身近な男である香霖には、そういった気持ちは無い。
「……でも、霊夢だし」
「ま、そこを引け目に感じるのは分からんでも無いけどね。あの子にしたって、最近やっと余裕できたみたいだし」
どうやら、萃香も霊夢の変化には気づいていたみたいだ。
だてに長い事生きてないな。
「なにが言いたいかって言ったらさ、魔理沙。少なくとも、私達は応援してる。ってことよ」
「あぁ、それはうれs………………私、達?」
「うん。チルノもアリスも」
…………
「えっと……萃香さん。その、そんなに私って、バレバレですか」
「え、うん。多分『みんな』。気付いてないのは霊夢だけじゃない。ってくらいに」
……穴掘って埋まってます。
「ちょ、ちょっと落ち着け魔理沙。大丈夫、きっとみんな同じ思いだから」
「そうじゃない……いままでちゃんと隠せてたって自信があったぶん……へこむ」
そっかー、みんな気づいてたかー。
今朝からアリスとかチルノがなんかいろいろ気を使ってくれてたのも、きっと霊夢の前でヘマさせないためなんだろうな。
きっとそうだ。だってあいつら友達だもんな。うん、きっと。多分……恐らく。
「いや、少なくとも私はそういう気持ちだったからね」
「フォローありがとな」
「いいえ。っと、酒も補充できたし、私また戻るわ。んじゃ」
言うだけ言って、萃香はまた庭へと走っていった。
……なんだ。こんなもんなのか。
同性だとか、霊夢だからとか、人に知られないよう知られないよう思ってきたけど、いざ知られてもこんなものなのか。
厳密に言えば、きっともっと前から知られてたことなんだろうけど。
環境のおかげっていうのもあるかもしれないけど。外の世界じゃまた違うかもしれないけど。
それに、もっと大変な問題とかいっぱいあるかもしれないけど。
「……うん。今日あたりにでも、言ってみようかな」
それでも。私の中で決心がついた。
この思いを、終わらせる決心が。
◇◇◇
夕方になってから、アリスたちは帰っていった。
なんだか意味深な視線を送ってくれたけど、あれは楽しんでる目だった。
まぁ他人の恋愛事情なんてかっこうの暇つぶしだけどさ。私は真剣なんだよみんな。
で、やることもないので霊夢と2人して縁側に座ってお茶を飲んでいる。
「…………ズズッ」
「…………ズズッ」
あ、あれ。会話が続かないどころかできない。
変に意気込みすぎてるのだろうか。やばいやばい。これはやばい。
せめて世間話を。せめて……
「……やっぱ変ね、今日の魔理沙。ずっと上の空よ」
「え、あ、い、お、そ、んなこと、ないぜ」
「どこがよ」
もっともだ。自分でもバカにたいに動揺してるのが分かる。
落ちつけ落ちつけ霧雨魔理沙。
大丈夫。えっと、人という字を3回飲めば……
「隣でブツブツ独り言は止めてよ」
「く、口に出てた!!?」
「……どうしたの、本当に。この間からたまにあるわよ、こういうの」
この間。ってのは、この前のあの事件のことか。
たしかにあれ以来、自分の中で気持ちが収まりきれてないよな。
「見てる分には面白いけど、あんまり心配させないでよ」
「し……心配、だったか?」
「そりゃそうでしょ、その……親友、なんだし」
ちょっと頬を赤らめて言う霊夢がとても可愛かった。
言葉自体はちょっとへこむものだけど、少なくとも霊夢にとって自分は特別なんだなとか。
……つられて、私の顔も赤くなってる。きっと。
「今日だって、アリスとかチルノとか萃香に心配されてたでしょ」
「ん……だな」
「あまり人様に迷惑かけちゃだめよ。チルノなんて、すごい心配してて泣きそうだったのよ」
あぁチルノは可愛いなぁ。
じゃなくて、あれ、ちょっと雲行きというか、思ってたような心配と違ってた?
やっぱアリス達と同列な意味での心配か。
いや、でもここだ。言うなら、きっとここだ。
霊夢が湯呑を自分の傍らに置いたのを見計らって、私は霊夢の手をギュっと握った。
すごく驚いた顔で、こっちを見ている。
「ど、どうしたの?」
「聞いてくれ、霊夢その……最近おかしかったのは、ずっと、その……」
「ずっと?」
「れ…………れ、れ、れ、」
「のおじさん?」
「じゃなくて!!!」
……言え! 霧雨魔理沙!!!
恋愛もパワーだ!!
「れ、霊夢の事ずっと考えてただけで!!」
「……は?」
きょとんとした顔の霊夢が見える。
でも、このまま突っ切る!
「わ、私は霊夢が好きだ!!!」
……言ってしまった。もう後戻りはできない。
霊夢の顔を見るのが怖いから、うつむく。
どうしよう。断られるか受け入れられるかとか、その前に霊夢の顔が見れない。
真っ赤だ。自分で分かるくらい真っ赤だ。霊夢の巫女服にだって負けない赤さだ。
というか霊夢が無言だ。なんだ、今どんな顔してんだ。
あーでも見れないよ! 怖いよ怖い。まじで怖い。助けて神様!!
『あなた1回もうちの神社に』
カエルの神様にも用はねぇよ。
すっ。っと、私の頭に手が下りてきた。
この状況でそんな事するのは霊夢しかいなくて、私は思わず顔を上げた。
霊夢の顔は、笑っていた。
「私も、魔理沙の事好きよ?」
………………え?
え、ちょ、え?
それはまじでいってるんですかれいむさん?
「まったく、なに言うかと思ったらそんなこと? バカねー魔理沙。当たり前じゃない」
「う、うん……?」
あ、れ? なんか、これ、違うくない?
違う方向行ってない?
「心配しなくても、もうあの時みたいな気持ちじゃないわよ。魔理沙も好きだし、アリスも好きだし、チルノも好きだし、萃香も好きだし、他のみんなももちろんよ!」
「…………」
こ、こいつ!!! そんなべたな反応してくるか!!!?
確かに私の言葉は友達としてか恋人としてかは分かりにくいかもしれないけど、女同士だけど、迷いなしにそんな反応するか!?
お前、ちょ、少女漫画かよ!!!
「あれ、どうしたの魔理沙。変な顔して」
「…………れ、れ、れ」
「のおじさん?」
ここで否定しれてばよかったのかもしれないけど。
でも今の私はそんな余裕無くて、結果、
「霊夢のバカ――――――――――!!!!!」
叫んで、ホウキにまたがって飛び出していた。
ものすごい勢いで離れていく博麗神社。
歪んでいる前方の景色を見て、多分私は泣いてるんだな。と自覚した。
あぁ、こらはつまり、フラれた。ってことなのかな。
◇◇◇
「ぐすっ……ぐすっ……」
「はぁ……つまりはまぁ、霊夢にとって魔理沙は、というか同性は恋愛対象ですら無かったと。いたって普通の女性だったと。そういうわけね」
「萃香、せめて慰めてあげなさいよ」
「ま、魔理沙。あたいの氷カエルあげるから、泣きやんでよ」
飛び出した私は、アリスの家に向かっていた。
そこにはさっき別れた3人がいて、私は一部始終を話して、また泣いた。
とりあえず、今はカエルは見たくないなと思った。
「ま、元気だせ魔理沙。完璧にフラれるよかましだろ?」
「フォローになってないじゃない……ほら魔理沙。泣きやんで。今紅茶淹れてあげるから」
「魔理沙~」
もう10分くらいみんなに慰められている気がする。
申し訳ないと思うと同時に、みんなの温かさが身にしみて、また涙が出てくる。
なんという悪循環。
「……ぐすっ。別に、分かってたことだけどさ……この間でも1回、ある意味でフラれてたわけだし……でも、なんつーか……」
「……この間ってのは知らないけど、なんというか、恋する乙女だね、魔理沙は。うらやましいよ」
「大丈夫よ魔理沙! あたいがついてるから、むしろあたい好きになっていいから!」
チルノの心遣いにちょっとだけ和んだ。
アリスは紅茶を淹れてきたみたいで、みんなの前にカップを置いて行く。
「……ありがとな、チルノ。でも、それは止めとくよ」
「あ、ご、ごめん」
「ほら魔理沙。声カラカラじゃない。飲んで飲んで」
確かに、すごく声はしゃがれていた。
涙も止まってきたから、アリスの淹れてくれた紅茶を1口飲んだ。
……温かい。さっき霊夢のお茶も飲んだけど、なんというか、こっちは違う意味で温かい。
「悪いなみんな……その、取り乱して」
「いいって。こんな魔理沙レア中のレアだからね」
「そうよ。泣きたかったらいくらでも泣いていいのよ。友達じゃない」
「うん! うん!」
……あ、やべ。また泣きそうだよ。
なにこいつら。すごい温かいよ。持つべきものは友達って言葉が今理解できるよ。
「……でも、私、これからどうしよう。霊夢に変なこと言って出てきちゃったし」
「あー……それは、ねぇ」
「時間が経って解決してくれればいいんだけどなぁ」
「あたい、今から霊夢のところ行ってこようか?」
「いやチルノ。それは止めた方がいいと思う」
「なんで?」
「んー……なんというか、霊夢の性格からするとさ……」
萃香がなんだか気まずそうな顔をして頭をかいてる中、ドアのノック音が聞こえた。
やっぱり。みたいな顔をしている萃香がいた。……まさか。
「あら。はーい、どちら様?」
「はぁはぁ……霊夢よ」
「ッ!!!!!」
予想外の声に、思わず私は隠れてしまった。
と言っても、テーブルに影にだから全然意味無いんだけど。
それを見て萃香が笑ってる。わ、笑うなよ!
「はいはい……って、どうしたのよそんな汗ダラダラで」
「はぁはぁ……はぁはぁ……ま、魔理沙いる?」
ドアから見えた霊夢は、滅茶苦茶息をきらせながら、ドアにもたれかかるように立っていた。
あんなに、急いで。飛べばいいのに、わざわざ走って……
もしかしたら、私のせいなのか?
「どこって……ねぇ?」
「は? って、そこにいるのか……はぁはぁ……なんで、また、そんなとこに……」
「お……おう」
テーブルの影なんて、むしろ隠れてる意味はない場所だけど。
霊夢に見付かっても私はまだ影に隠れたままで座っていた。
霊夢も入口から動かない。息を整えてるのだろうか。
「はぁはぁ……ふぅ。よし。あのさ、ちょっと悪いけど、席外してくれる?」
「……しょうがねぇなぁ。ほら、行くぞみんな」
息を整え、スクッとまっすぐ立った霊夢に言われ、萃香が2人をつれて外に出て行く。
ドアを閉める際に、萃香がウインクをしてきた。
……いまさらなにしろってんだ。
アリスの家に取り残された私と霊夢。
人の家で、その主が居ない状態で2人きりなんて、なんか居心地が悪いな。
無言が続く中、初めに口を開いたのはまた霊夢からだった。
「……何よ、バカって」
「あ、いや。言葉のあやって言うか……」
「変な事言い出したと思ったら、バカーって叫んで、飛んでって……どれだけ心配したと思ってるのよ」
「……ごめん」
それしか言えなかった。
「ったく、聞こえてなかったの? 私はべつに、あんたの事嫌いじゃないのよ」
「……聞こえてたよ」
ちょっとだけムスッとして、私は顔をそむけた。
私が聞きたいのは、それじゃない。
『嫌いじゃない』じゃ、不満なんだ。傲慢だと言われてもいい。変だと言われてもいい。
私は霊夢から、『スキ』と。言われたいんだ。
「……だから!!」
「へ?」
霊夢のちょっと苛立っている声に、思わず私は霊夢の顔を見た。
なんか赤かった。
え? 赤かった?
「……『嫌い』じゃ、ないのよ」
「……う、うん」
「……分かれよ」
「…………」
いや、そんなはずが無い。
まさかのまさかだろ。あの霊夢が、そんな、まさかさ……。
でも、一応、聞いてみよう。
「その、霊夢さん……つかぬ事を聞きますが……」
「……なによ」
「その、私の、そのー……気持ちってのが、分かってますか?」
なぜか敬語で聞きながらも、真っ赤な霊夢を見た。
真っ赤な霊夢はすこしの間の後、ゆっくりと縦に首を振った。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
「ちょ、ま、魔理沙!!?」
気付いたらなんか私はテーブルに頭をすごい勢いで打ちつけていた。
ガスガスと打ちつける私を霊夢が羽交い締めしてきた。
その音と声に驚いたのか、外にいた3人まで慌てて中に入ってくる。
「ま、魔理沙!!!?」
「ちょ、魔理沙、血! 血!!!」
「うわー!!! ば、ばんこうそう! ばんこうそう!!」
チルノ、それを言うなら絆創膏だよ。
とつっこみつつ、私はやっと冷静になった。
と、同時に、すごく恥ずかしくなった。
慌てていろいろと家中を駆け回っている3人をボーっと見ながら、まだ私を羽交い締めしている霊夢に小さな声で聞いてみた。
「なぁ……い、いつからだ?」
「……確信したのは、さっきのでよ。それまでは、私にとってはただの親友だったけど……」
……あぁつまり。あの告白は、ある意味で成功となったわけか。
「……私、分からないからさ。魔理沙は好きだけど、その、恋愛としてかとかはさ」
「うん……」
「だから、当分はまだ親友のままだけど、近いうちに私の中で決めるからさ」
「うん……」
「返事は、待ってて」
「…………うん」
まず、よかったと思った。
嫌われなくてよかったと。私の事考えてくれてよかったと。
その後、今慌てて駆けまわっている3人の友人に感謝していた。
なんにせよ、あいつらのお陰でこうなったわけだし。
「魔理沙! とりあえず横になれ!」
「ええっと、治療の魔法は……これじゃなくて、これでもなくて……」
「冷やすの!? まず頭冷やすの!?」
その友人3人が、慌ててそれぞれ駆け寄ってきた。
そして、萃香に横にされて、チルノの氷で頭を冷やされて、アリスの魔法でちょっとした治療をされた。
私は霊夢と顔を見合せて、ちょっと笑った。
まぁとりあえずこれで、一件落着、でも無いけど。
私ができることは終わったわけで。
あとは、霊夢がどんな返事をくれるかだな。
不安は不安だけど―――前みたいな不安じゃなくなった。
◇◇◇
数日後。
まずチルノの所に行って、心の中での約束通りにお菓子をあげた。
一緒にいたリグルとか橙とかも嬉しそうに食べていたのを見て、心が和んだ。
チルノも喜んでいたみたいで、ほっとした。
次にアリスの家に向かった。
研究中だったようで、顔を出したアリスは不機嫌そうな顔だったけど、今まで借りてた魔道書とかを返すと、
ちょっとだけ笑って休憩だと言って一緒にお茶を飲んだ。
次に萃香を探した。
人里でその辺の呑兵衛と一緒に酒盛りしているのを見て、本当にこいつは鬼なのかと疑問に思った。
でも私の顔を見ると嬉しそうに笑って、一緒に酒盛りに参加することにした。
……もちろん、ほどほどでやめておいた。
この後の予定もあるしな。
そして私はホウキをすっ飛ばし、目的地についたところで急停止をした。
博麗神社。それが目的地。
その主である紅白の親友、博麗霊夢は飽きもせずに庭掃除をしている。
あいつは庭にある落ち葉やゴミを1つ残らず抹消する気なのかとちょっと笑うと、私は霊夢の前に降り立った。
「待たせたな」
霊夢はいつも通りの顔で私を見ている。
私もいつも通りの笑顔で霊夢を見た。
「じゃあとりあえず、お茶でも飲む?」
そう言うと、霊夢は持っていた竹ぼうき木に立てかけて台所に歩いていった。
残った私は、喜びで弾む胸を押さえながら、いつもみたいに縁側へと歩いていった。
今日こそは返事を貰おうという意気込みと共に、私は1週間ぶりの『手合せ』に心を躍らせた。
霊夢から私に向けられているのが『友愛』だろうと、愛情は愛情。それだけで百人力だ。
恋する乙女がどれだけ強いか、見せてやるぜ。霊夢。
昔の人は言ってたぜ? 弾幕も恋愛もパワーだ。ってな。
魔理沙かわいいなぁw
こういう甘々なの大好きです。
いいぞいいぞもっとやれーwww
いや、いいレイマリでした。
チルノにも気持ちがばれる魔理沙すげぇ。
ああ、なんか皆可愛いなぁ。
だけど、うちはケロちゃんも好きなんだ!
もちろん続編希望ですともっ。
……あ、チルノのお話でもありです。
霊夢がちゃんと悩むとこなんかいいな。
どうなるか分からんが、魔理沙を応援したくなる。
頑張ってる魔理沙かわいいなぁ
霊夢を振り向かせるにはまだ時間がかかりそうだけどw
というか、霊夢、れれれのおじさん好きなのかw
そしてだんだんと味が染み出してくる感じで仕上がっている
作品でした。読み応えありました。
レズじゃなくて百合だよ。
つまり最高ということだ
でもレイマリは最高でした!