Coolier - 新生・東方創想話

お嬢のプライド

2010/05/17 00:51:38
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 幻想郷の昼下がり――私は、『文々。新聞』を暇つぶし程度に読んでいた。
 毎度、こんなくだらないニュースをよく集めて来るものだと感心したりする。しかし、今日の新聞記事には目が止まった。紙を握り潰した手には汗をかき、身体はワナワナと震えていた。
 私は、小さな声でやられたと声無き悲鳴を叫んでいた。
















 あの日の夜もいつもと変わらない私の日常だった。
 霧の湖を臨むテラスで咲夜の入れた紅茶を飲み、氷の妖精が溺れている様子を眺めて呆れて笑い。
 廊下ではメイドたちに挨拶され、そのメイドたちをからかったりして遊び。
 思いつきで門番の美鈴を半殺しにしようかと思ったが、すでにボロボロで気絶していたりしていたり。
 咲夜を連れて外へ散歩に行って湖の妖精たちを威嚇して楽しんだりした。


 ただ一つ、いつもと違うことをしたのだ。これが悲劇になるなんて……思っても見なかった。


 紅魔館の地下には大図書館が存在する。私の親友がいつも本を読んでいる場所。私も時々にしか遊びに来ない場所だった。
「パチェ……。パチェはいる」
 静まりかえったような図書館で私の声はやたらと大きく響いた。いつもなら、使い魔の小悪魔がいるはずなのだが、彼女もいなかった。二人でどこかに出かけているようだった。
 私は仕方なく適当に本を読む。ここにある本は、パチェにしか読めない本もたくさんある。それでも、私や咲夜やメイドたちが読める本の方が多いのだけれど、手にとって読もうとする者は、数えるほどもいないのが現状。パチェは「何とかしないとね」といっていたような気がする。


 そして、この図書館にある本は、ある者たちには絶大な魅力があるようだ。それが災厄を引き寄せることになる。


 沈黙した図書館の空気が少し張りつめた気がした。私は耳をそばだてる。
 その時、大図書館の頭上、紅魔館のホールから爆音が轟いた。
 地下まで伝わる空気の振動……。メイドたちが駆け回る音。命令をする咲夜の声や美鈴の怒声などが聞こえた。
 敵襲――犯人は決まっているからこちらから赴く必要はない。ここで、この図書館で待っていればいい。
 数分の時間もかからずに何かが迫ってくる音がした。
 メイドや咲夜たちの攻撃の音も大きくなっている。確実にここにくる。私は身を翻して手に神槍を握った。
 私の抑えきれぬ殺気と歓喜をこれから来るであろうあの薄い扉一枚向こうに向け続けた。
「……」
「……」
 沈黙。
 突然と爆音は止まった。
 さらに長い沈黙。
 敵も私の殺気に気づいたのだろう。それでも、ここに乗り込んでくるのだ。侵略者の黒白という奴は……。

 虎穴に入らずんば、なんとやら。

「か、借りにきたぜー」
 大図書館の扉が開け放たれた。箒を片手に引きつった顔の黒白――もとい魔理沙が立っていた。
「くっ、パチュリーいない時を狙ったのにな。ここに来て、お前が出てくるのか」
「あら黒白。私じゃ不満かしら?」
 にじり寄るその顔には、大きく驚愕とかかれていた。
 どこで知ったのか、今日はパチェがいないことをいいことに本を奪いに来たそうだ。しかし、不運にもここで私と鉢合わせしまった。
「……子供はもう、寝る時間だぜ。おとなしく寝てろよ」
 ギリッと箒を握る音がした。しかし、私は一歩だけ前に進み。
「何を言っているのかねぇ、夜こそが私の世界なんだ。それに、今日はパチェがいないから私が遊んであげることにするわ」
「で、出来れば勘弁して欲しいぜ……」
 私が一歩進む度に黒白は一歩下がる。
 さすがは黒白だと思った。この距離が私の間合いだからだ。ギリギリのところで外に出ている。
 こちらも同じであるがそれでも、黒白の間合いに私は踏み入れない。それくらいの判断は私だって出来る。
 黒白は額に汗を溜めていた。逃げる算段か私を倒す算段か――たっぷりと考える時間を設けてあげたのだ。思考の迷路に迷い込ませるように。
 もう、どちらが一歩でも動けば戦いは始まる。
 それなら、私から始めてあげようか。
「黒白。そっちからこないなら、私からいくよ」
 私は足に力を込めて跳躍し、一気に間合いを詰めた。
 吸血鬼の運動速度に対応できる人間はそうはいないだろうが、黒白は箒に掴まって攻撃を回避した。私が宣言し瞬間に飛び上がったのだ。
 私は黒白を確認したと同時に大きく後方に跳んだ。私がいた場所に星屑の雨が幾重にも降り注ぐ。さらに、星屑の一部は私を追尾して迫ってきた。
 数個を破壊するも数が多い。そこで、私は一瞬だけ考え空中を全力で舞い、多くの星屑を集めて飛ぶ。そして、壁沿いに飛んでバラバラに迫ってくる星屑を一点に纏め、部屋の角に着地をして星屑に向きあう。
 並んだ……迫る星屑とその先にいる黒白が一直線に並んだ。
 私は手に持った神槍をかまえる。
 黒白の脳天に突き刺すような勢いで……投げた。
 空気の振動は衝撃波に変わり。知覚できる限界の速度で真直ぐに飛来していった。
 しかし、黒白は一瞬で高度を落とし、帽子だけが貫かれた。
「うお。か、かすった。だが、これで仕留められなかったのが運の尽きだぜ。お前がどんなに速くてもこの世で最も速い物からは逃げられないぜ。これがパワーだ」
<恋符「マスタースパーク」>
 視界を覆いつくす白い光。光速高温の力が私の目前まで迫る、それでも私は慌てていない。これが来る事は読んでいた。
 黒白が神槍を避けた瞬間に身体中に力を込め、紅いオーラが私の周りを包んでいた。
<紅符「不夜城レッド」>
 マスタースパークは威力がでかいが持続時間が極めて短い。私のスペルの方が幾分長いのだ。もちろん押し負ける道理は無い。
 黒白のマスタースパークと私の不夜城レッドは、拮抗していた。
 どちらも一歩も引かないまま放出し続けた。
 そろそろかしら、と黒白のマスタースパークが少し弱くなるのを待った。
「私の勝ちよ、黒白……」
「だ、だぜー」
 大図書館は、爆発がおこった。
 爆煙により二人の姿は見えなくなった。







~~追想する独り言~~
 ここまでは良かったと思う。黒白を戦って倒したし、何よりも私はかっこよかったじゃない。
 問題は、この後よね……。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「小悪魔。なぜかしらね……湖の方向から煙が見えるのだけど」

 紅魔館から煙が上がっていた。
外壁は崩れ、中が窺えるようになっている。薔薇園は見るも無残なことになっているし、門番の美鈴は外回りの修理に走り回っているようだった。
「どうなってるの。どういうことよ、これは」
 犯人は恐らく魔理沙であることは容易に想像できたが、それにしてもこの被害はどういうことだろう。
 紅魔館の中は、さらに被害が酷かった。メイドたちに命令をして修理をしていた咲夜を呼び止めた。
「咲夜。いったい、なにがあったの」
「ああ、パチュリーさま。これはその……魔理沙の襲撃です」
「そう、いつもどおりなのね。それにしても、どうしてここまで被害がでるのかしら」
 咲夜の目がしだいに泳ぎだしていた。
「それが……私たちはくい止めようとしたのですが、魔理沙に図書館まで行かれてしまって」
「だからって、私の図書館の本以外は被害がでないはずよ。まぁ、中も少しは壊れるだろうけど」
「ええまぁ、そうなのですが。図書館でお嬢様が魔理沙と戦ったらしく、このようになってしまって……」
「つまり、これは魔理沙ではなくてレミィの仕業なのね」
 咲夜は、ただ頷くだけだった。
 図書館の被害は少なくないだろう。どんなに主戦場になったとしても、パチュリーが再生の魔法をかけているから本は完全に復元されるからだ。もちろん、妹さまが暴れても再生される。
 それよりも魔理沙は無事だろうか。妹さまに比べたら平気だろうけど、レミィもたいがい強力な力を持ってるから。
「咲夜。それで、魔理沙はどうなったの、ついでにレミィもね」
「お嬢さまは、図書館で本を読んでますよ。まだ、掃除をしてませんが……魔理沙は気絶してましたから霊夢に持って行ってもらいました」
 パチュリーは小悪魔に咲夜の手伝いを命じて、図書館に向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ボロボロになった図書館で私は本をめくっていた。
黒白のとの戦いは、予想以上の体力を消費してしまって、まったく動く気になれないでいる。今だって、文字を目で追っているだけで読んではいない。だから、気配が近づいてきたことに気づくことに遅れた。
 そのとき、図書館の壊れた扉が軋む音をたてて、ゆっくりと開いた。
「ふぅ。レミィ、また派手にやったわね」
 そこには、友人のパチェがいた。私は、目だけで返事をするとすぐに本に目を落とした。
 この時、私の内心は友人のパチェに謝らなければの一色に染まっていた。
 パチェは私に聞こえるほどの溜息をしながら、周りに散らかった本を片付けていく。視界に入ると不満そうなパチェの顔がチラチラと見えて少し傷ついた。
 確かにここを破壊したのは私だけど、黒白から本を護ったのも私なのに……どうして、そんな顔をするのよ。
「もう、パチェ……なにか文句あるの」
「別にないわよ。レミィの方こそ何かあるの、私の顔をずっと見て」
「あ、あるわけないじゃない。私も。ただ――」
 目を逸らして口をとがらせた。口の中に広がるなんともいえぬもどかしさを言葉にするのは、何故か難しかった。私を構成しているプライドが言うべき一言を邪魔していた。
「……うぅん。パ、パチェ……」
「なによ、レミィ」
「そ、その。……ゴメン」
 私の中の何かが崩壊したような気がした。心の中にある大きなプライドを無視して謝ったのだ。友人であっても初めてだった。その言葉に内心で頭を抱えた。
 私の目の前にいるパチェも口を開けて驚いている。
「レミィ……何か変な物でも食べたの。まさか、レミィが謝るなんて槍でも降るんじゃないかしら」
 私は顔が熱くなるのを感じた。なんだか、むしょうに恥ずかしくなった。
 取り乱して焦っている顔でいるのが鏡を見なくてもわかった。
「……パチェ、あと一度しか言わないよ。図書館壊してゴメン――」
 私は何を言ってるのだろう、パチェの顔もキョトンとしてるし、私の頭の中もグチャグチャになっている。
「もう、いい!!」
 私は全力でその場から逃げた。パチェの顔も見ずに……。



~~追想の独り言~~
 あの時、確かに私は考えられないほど取り乱していたと思うわよ。
 そりゃあ、周りが見えなくなるほどだったし……だから窓の外のカメラに気づかったけど。
 問題は、その後に妖精が騒いでいた強風に舞う黒い羽のことも気にも留めなかったことよ。
 私の悲劇はこうして起こってしまったの。








~~後日、紅魔館~~
 大図書館でレミリアとパチュリーは、並んで本を読んでいた。
「ねえ、レミィ。その話のどこが悲劇なの」
「私にとっては悲劇よ。カリスマで通していた私の努力は、どうなるの。どこ行っても笑いものだわ」
「やっぱりレミィはレミィね。……やっぱり私の大事な親友だわ」
「な、何よ。突然」
 あの時のプライドを捨てて謝罪したレミリアの言葉が、パチュリーは嬉しかった。










~~いつまでも……大好きよ、レミィ~~
~後日談~
 天狗の新聞記者が行方不明になった。犯人は不明である。
                          by花果子念報の一面
雛菊
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コメント



0.510簡易評価
12.50名前が無い程度の能力削除
レミリアとパチュリーは公式で友人設定があるのに二次創作では仲良くしてるのをあまり見ませんね。