Coolier - 新生・東方創想話

フルーツから身を守る永遠亭

2009/06/03 00:56:51
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 静謐な空気が満たされた永遠亭の一室に兎たちが集まっていた。
 うんざりとした顔、疲れたような顔、眠そうな顔、そのどれ一つとして明るいもの無い。
 そんな暗い顔のウサギ達の中には、月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバや兎達のリーダーであるてゐの姿も見受けられる。
 そうして兎達が集まっていると、突如、部屋のふすまが開け放たれた。
「さあさあさあ! みんな元気にしていたかしら!?」
 大声を張り上げて、現われたのは永遠亭の姫君である蓬莱山輝夜であった。
「……はーい」
「どうしたの? 全然元気ないわよ! 全く気持ちが入ってない! もっと元気を込めて返事をするのよ!」
 兎達の力ない返事が気に入らなかったのか、輝夜は声を張り上げて兎達にもう一度と挨拶を要求する。
「はーい!」
「エクセレント!」
 やけっぱちのような兎達の挨拶に、輝夜はようやく満足したようだ。
 そうして納得した輝夜はうんうんと頷くと、今度はまるで品定めをするように兎達の前をジロジロ見ながら往復し始める。
「さて、それではこれから貴方達には、いつ、なんどき、どんな時でも! どんな時も! フルーツで武装した敵に襲われてもいいようにフルーツから身を守る方法についてレクチャーするわよ!」
 その言葉を聞いて、兎達は心底げんなりとした顔をした。
「あの……姫様」
 兎達を代表して、兎達を取りまとめるリーダーのような何かである月の兎、鈴仙が輝夜の前に進み出る。
「あら、なにかしらイナバ」
 賢明な施政者とは、下々の意見にも耳を貸すものだ。
 輝夜は穏やかな表情で、鈴仙の言葉を聞きやすいように耳に手を当てた。
「ええと、大変言いにくいのですが、フルーツから身を守る方法は、もう十分だと思うのですが」
 その言葉を聞くと、見る見る輝夜の顔色が変わった。
「なん…だと…」
「姫様からレクチャーをしていただけることは嬉しいのですが、ここ何年も、教えていただく事はフルーツから身を守る方法ばかりです。流石にそろそろ別の事を……」
 鈴仙の言葉に、それまでの穏やかな輝夜は消えた。
 今、目の前にいるのは、永遠亭の姫の姿をした鬼軍曹そのものだ。
「ほうほうほう! そう言うならイナバたちは、完全なフルーツ防衛術を会得したってわけね! 舐めるのもいい加減にして頂戴!」
「ええと……でも、みんなフルーツ護身術ばかりで、気が滅入っています。たまには他の……」
 鈴仙は必死に輝夜に取りなそうとしている。
 そんな、一触即発の状況下で、いきなりてゐが口を開いた。
「たとえば、尖った棒から身を守る方法とか」
 その不用意な発言で、輝夜の顔は真っ赤になる。
「はあ―――!? つまりイナバたちは、尖った棒の方がフルーツよりも危険だと言いたいわけ! なるほどねぇ、流石は可愛い兎ちゃんね『もっと高度な事がやりたいでちゅ』と……ふざけるんじゃないわよ! もし、貴方達が迷いの竹林を歩いていて、突然、パイナップルを持った敵に襲われたらどうするの!?」
「姫様。パイナップルはやりました」
「えっ」
 鈴仙の冷静な一言で輝夜は、固まってしまう。
「リンゴも、オレンジも、キュウイも、ドラゴンフルーツも」
「メロンも、プラムも、ザクロも、ライチも」
「グレープも、パッションフルーツも、一切れでも、丸ごとでも」
「焼いたモノも、砂糖漬けのモノも」
「え、ええと、だったらサクランボは?」
 突然の兎達の攻勢に、輝夜はうろたえるように尋ねた。
「やりましたよー」
「イチゴもナシもブラックベリーも何もかも」
 兎達の言葉に、輝夜はヨロヨロと後ずさる。
 兎達の顔に少しだけ明るいものが見られてきた。ようやくフルーツ地獄から逃れられそうだからだ。
 しかし、輝夜は顔を上げると、
「バナナは?」
 と聞いた。

 あー……

 失望の声が兎達から漏れ、その声を聞き輝夜は生気を取り戻す。
「バナナはまだやってないわよねぇ?」
「……はい」
「よし! それじゃあ、今日はバナナから身を守る方法をレクチャーしましょう」
 渋々頷く兎達に、輝夜はバナナを持ってこさせる。
 黄色い、程良く熟したバナナ、幻想郷ではなかなか見られない高級品だ。
「では、行くわよ! レッスン1! まずバナナを持っている敵から、バナナを落とす!」
 そう言って輝夜は、バナナを持っていた鈴仙の手を叩いて、凶器であるバナナを叩き落とした。
「レッスン2! ここからが重要よ! 敵がバナナを拾ってまた襲ってこないようにバナナを拾う!」
 輝夜は、機敏な動作でバナナを拾い上げた。その動きに無駄は一切なく、そのすべてがバナナを拾うためだけに結実したかのような動作であった。
「最後にレッスン3! バナナを食べる! こうやって敵からバナナを取りあげて丸腰にしてしまうのよ!」
 そう言うが早く、輝夜はバナナを機敏な動作で剥いて、パクリと食べてしまった。
 満足げにバナナの皮を鈴仙に押しつける輝夜、その皮を持って鈴仙は嫌そうな表情をしている。
「敵がバナナをもうひと房持ってたら、どうするんですか?」
「うるさい!」
「尖った棒とか」
「しゃらっぷ!」
 次々と質問を浴びせる兎達を、輝夜は大声を出して黙らせた。
「……では、次は実戦形式で、バナナから身を守る方法について教えましょう。では、イナバ」
「……ええと、どのイナバですか?」
 鈴仙が輝夜に尋ねる。
 ここにいるのは、全員イナバなのだ。
「んー、じゃあ、そこので良いや。さあ、その手に持った凶悪極まりないバナナを振り上げて、私に襲い掛かって来なさい」
 適当に、輝夜は兎の一人を指差した。
「は、はい。では僭越ながら……でいあー」
「……駄目ね、そんなんじゃ。まるで気持ちが入っていないじゃない!」
 そう言うと、輝夜はどこか遠慮がちな兎が振り上げているをひったくった。そして、それを振り上げると、

「うおおおおおおおおおおぉぉぉッ!!!!!」
 
 と、凄まじい雄たけびを上げて、兎の眼の前まで襲いかかってみた。
「ひいいぃっ!」
 そのあまりの勢いに兎は悲鳴を上げるが、輝夜は何食わぬ顔でバナナを渡す。
「いい? こういう風にやるの。やってみなさい」
 渡されたバナナと輝夜の顔を兎は見比べる。
 いくら、手本を見せられたとはいえ、あんな鬼と見紛うばかりの勢いで、姫君に襲いかかることなどできるはずはない。
「……どうしたの? 来ないの? まったく、とんだ根性無しね! かかって来なさい! まさか怖いんでちゅか~?」
 そんな兎に輝夜は、赤ん坊をあやすような口調でベロベロバーをして見せる。
 いくら姫君とはいえ、ここまでされては黙っているいわれはない。
「う、うわあああああああっ!」
 兎は、まるで鬼神が宿ったかのような勢いでバナナを振り上げて輝夜に襲い掛かった。
「セイ!」
「ぐふっ!」
 襲いかかった兎は、輝夜の当て身を腹に受け、意識を失って倒れる。
「そして、バナナを拾って食べる!」
「なんてことするんですか姫様!」
 あまりの外道な行いに鈴仙が声を上げた。
「イナバがバナナで襲ってきたから、倒しただけよ」
「あんたが、そうしろっていったんでしょうが!」
 既に鈴仙は敬語を使うのをやめている。流石に堪忍袋の緒が切れたらしい。
「でも、こうしてフルーツから身を守る方法を教えるのが私の仕事なんだもん」
「尖った棒で襲われた時は?」
「しゃらっぷ!」
「だいたい、なんでフルーツから身を守らないといけなんですか! いったいどこにフルーツで襲ってくる敵がいるんですか!」
 そう鈴仙が叫んだ瞬間に、永遠亭の壁が爆発し、何者かが侵入してきた。

 銀色の髪、赤の瞳、それは蓬莱山輝夜の永遠の宿敵、藤原妹紅であった。
「久しぶりだな、輝夜! 今日こそは、この私のドリアンでお前を殺してやる!」
 巨大な、一個あたり八千円はしそうなドリアンを掲げて、妹紅は輝夜に近寄ってくる。
「……本当に居た」
 鈴仙は、呆然とドリアンを掲げた不死人を見ていた。
「そういえば、ドリアンを持った敵から身を守る方法についてはレクチャーしていなかったわね」
 果物の王様として知られるドリアンを持った妹紅を見て、輝夜は不敵に微笑んでいる。
 しかし、余裕を保っていると思われたその顔には、一筋の汗が見えた。さすがに果物の王、あるいは魔王とさえ恐れられるドリアンとの対峙、そのプレッシャーは並ではないようだ。
「ドリアンは簡単には割れないし、よしんば奪って割れたとしても臭気でダメージを受ける最凶の果物……だから、ドリアンから身を守る方法はたった一つよ」
 そう言って輝夜はパチンと指を鳴らす。
 すると永遠亭の床が開き、そこから両手で押し込むスイッチの付いた髑髏のマークが付いた四角い箱がせり上がってくる。
 それはB級映画に出てくるような起爆装置であった。
「ま、まさか……」
「この永遠亭には200キロのダイナマイトが仕掛けられている。それを起爆させればいかにドリアンだろうと無事では済まない!」
「ちょッ!」
 
 こうして永遠亭は、蓬莱山輝夜以下多くの兎達とドリアンを持った不死人を道連れにして爆発炎上した。



 ※  ※  ※
 
 
 
 たまには人間の里も良いものだ。
 そんな事を考えながらレミリア・スカーレットは、人間の里の外れにあるパブ兼小料理屋でギネスビールをあおっていた。
 今日は共に咲夜も連れていない。
 なんとなく一人酒をしたい時もあるのだ。
「……ふむ。永遠亭が爆発炎上ねぇ」
 パブの置かれている文々。新聞を広げながら、レミリアは少し温くなったビールをチビリチビリと楽しんでいる。
 この人間と妖怪が混ざったパブは、雑然としているがなかなか悪くない。
「……おーい」
「しかし、いきなり爆発なんて物騒な話ね」
「やっほー」
 口にビールの泡を付けながら、レミリアは記事に集中している。なんといっても紅魔館にはやんちゃ盛りの妹様が居るのだ。いきなり爆発炎上も十分にありうるから、用心するに越したことは無い。
 日頃の備えこそ重要だ。
「なー、聞こえてるか~」
 さっきから、レミリアの視界に白黒の何かがチョロチョロと映っている。
 しかし、レミリアは気がつかないふりをしてカウンターからテーブル席に移動した。
 吸血鬼だって、一人になりたい時がある。
「よお、レミリア。奇遇だなー このぉ、ちょんちょん!」
 しかし、空気を読まない白黒は肘で吸血鬼を小突きながら、レミリアの拒絶のオーラを無視して隣に座った。
「……そうね」
 果てしなく嫌そうな顔でレミリアが挨拶をした相手は、魔法の森に住む魔法使い霧雨魔理沙であった。
「いやー、奇遇だぜ本当に。このぉ、ちょんちょん!」
 執拗に魔理沙は、笑いながら肘でレミリアを突っつく。
 この吐く息は鬼もかくやという酒臭さで、顔は凄まじい赤ら顔。どうやら、すでに相当ご機嫌なようである。
「まあ、そうね。ところで何か用かしら?」
 言外に「用事がなければ帰れ!」と言わんばかりの威圧感を持って、レミリアは魔理沙に尋ねた。
「あー、そうなんだよ。ちょっと聞きたい事があってな」
 しかし、霧雨魔理沙はまるで臆することなくレミリアに訪ねてきた。
「……聞きたいこと、ね」
 一つ溜息を吐くと、レミリアは魔理沙に向きなおった。
 吸血鬼は一人酒を諦めたらしい。
「お前のとこにはメイドが居る訳だよな?」
 そう言って魔理沙は、ずいずいと酒臭い息を吐きながらレミリアの隣に座って来た。
「まあ、たくさん居るわね」
「うんうん。それで、そこのメイド長が居るだろ、お前はそれをどう思っているんだ?」
 ニヤニヤと魔理沙はレミリアに聞いてくる。
 絡み酒ほど見苦しく、実際に絡まれると最悪なものは無い。レミリアはうざったく思いながらも、
「信頼している大切なメイドよ」
 と、素直に答える。
「なるほどー、いいねぇ、主従関係に秘める思いがあるってわけかぁ、ちょんちょん! このぉ! 妬けるじゃないか!」
 グビグビとビールを飲みながら、魔理沙はレミリアを肘でつっ突く。
「ちょ、いったい何なの?」
 つっ突かれたレミリアは戸惑っているが、魔理沙はまるで気にしていない。
「いやー、いいねぇ、このぉ! ちょんちょん! ったく、堪らないな! しかし、あれだ。メイド長だけなのか? フランはどーなるんだ! 妹も大事だろ?」
 ビシビシと肘でつっ突く魔理沙にレミリアは凄い嫌そうな顔をするが、ここで答えないと逆に面倒そうだ。
「ええ、フランはかけがえのない私の妹だわ」
「かあー! 参ったね! ちょんちょん! このぉ! ここで二股か! いや、純愛ダブルアタックってところか!? くぅー、流石は上流階級は違うよな! マスター! ビールお代わり!」
 大声を張り上げてビールを注文する魔理沙、その様子はまさに泥酔者のそれであった。
「あと、最近お前、写真に凝ってるらしいじゃないか」
「……まあね」
 それは事実だった。
 この間、射命丸にお古の写真機を貰ったのだった。
 ボタンを押せば、その風景が切り取れる。それはなかなか新鮮な体験であり、所構わずパチパチと取っていたものである。
「で、色々と写真を取っているわけだろう?」
「まあ、そうね」
 妙にいやらしい顔で魔理沙はレミリアに聞いてくる。
 その顔に不審を覚えながらも、レミリアはビールをチビチビ飲みながら答える。
「誰の写真を取っているんだ? やっぱり咲夜か?」
「そうね。あとフランも……」
「かぁーッ、メイドに妹か! 流石はスカーレット! まるでそびえる不夜城レッドだ! 上流階級は違うねぇ! ちょんちょん! このぉ!」
「……? 何の事?」
 魔理沙があまりに嬉しそうに肘でつっつくので、レミリアは目を白黒させる。
「いやー、だって、あれだろ? んむふふっふ! 両手に花でお楽しみなわけだろ? その、あれを写すわけだよな?」
 そう言って魔理沙は手で何かを揉むようなジェスチャアをする。
 レミリアが、ついつられるように空中を揉んでしまうと、
「そうそう! そういう風にやってるわけなんだろ!? で、そういった写真を取ってるわけだろ、コノヤロ! ちょんちょん、このぉ!」
「……いったい、何のつもり? 何が言いたい!?」」
 流石に、理解不能な言動が続いてレミリアも声を荒げる。
「いやー、まあアレだ。つまりお前には可愛い妹と忠実なメイド長がいるわけだよな?」
「ええ、居るけどそれがなに!?」
 ドン! と、ビールをテーブルに置いて、レミリアは椅子の上に立ち上がった。
 その姿は、流石は紅魔館の主、妙に威圧感がある。
「うん、まーあれだ。ちょいと聞きにくいんだが、お前は、そのやってるんだろ? 妹やメイド長と、その……ちゅっちゅっしたりとか」
「……まあ、おはようとおやすみと行ってきますとただいまといただきますとごちそうさまとおやつとお昼寝のキスはしてるけど、それは、当たり前じゃない!」
 あまり当たり前ではない気がする。
「……かあー、さすがお嬢様! 凄いねぇ、ちょんちょん! このぉ! てなると毎晩お盛んだったりしっちゃったりなんかして!」
「なにを!?」

「○ックス」

 レミリアはビールを噴いた。
 
 
 ※ ※ ※
 
 
 里の端の寂れたパブ兼食事処に、二柱の神がやって来た。
「あー、結構空いているね」
 一柱は土着神の頂点、洩矢諏訪子と、
「まあ、奥の方は騒がしいけど、入口の方は随分空いているじゃないか、これならすんなりメシが食えそうだ」
 もう一柱は、山坂と湖の権化、八坂神奈子であった。
「さーて、どこに座る?」
 諏訪子はキョロキョロと店の中を見回すと、入口近くはプリズムリバー楽団がカウンターで飯を食べているぐらいで人はあまりいなかった。
「そこのテーブル席にでもしようか」
 神奈子の一声で、二人は入口に近いテーブル席に座った。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
 オーダーを取りにきたのはウェイトレス姿の魂魄妖夢だった。
 奥のカウンターには、エプロン姿の西行寺幽々子の姿も見える。
「そうね、お勧めはあるのかしら?」
「そうですねー、当店のお勧めは『ベーコンとスパムとたまごとスパムとほうれん草とスパムとスパムとスパムの炒め物』に『スパムとスパムとスパムとたまごとスパムとスパムとベーコンの炒め物』に『スパムとスパムとスパムとスパムとソーセージとスパムとスパムの炒め物』や『スパムとスパムと煮豆とスパムと豚肉とスパム』でしょうか」
「スパム以外無いの!?」
 あまりのスパムの多さに諏訪子が声を上げた。
 
 ちなみにスパムとは、SPAMと言い、アメリカのある会社が販売しているランチョンミートの事である。このランチョンミートとは、スパイスを入れたひき肉を金型に入れて固めたもので、昼食によく食べられた事から、その名が付いた。
 
「……うーん、だったら、この『豚肉とソーセージとスパムとほうれん草』を貰おうか」
 メニューを見て考え込んでいた神奈子が、妖夢に注文する。
「スパムが入ってるじゃないか!」
「いや、この『豚肉とソーセージとスパムとほうれん草』は、まだスパムが少ない」
「私はスパムが嫌いなんだ!」
 土着神の頂点は激怒する。
 なぜ、彼女はそんなにもスパムを毛嫌いするのだろうか?
 
 それは、第二次大戦のイギリスでの出来事が関係している。
 当時のイギリスのロンドンは、ナチスドイツの攻撃を受けていた。そう、かの有名なバトル・オブ・ブリテンが行われている空の下に諏訪子は居たのであった。
 そんな戦争の最中で、一番困るのが食糧である。
 戦争当時のロンドンで食べられる肉類と言えば、アメリカから送られてきたスパムぐらいのものだった。
 今日もスパム、昨日もスパム、明日も、明後日も、ずっとずっとスパムばかり……
 
 戦争中、ただそれだけを食べ続けたのだ。
 
「だから、今更そんなもの食べられるか!」
 諏訪子はちゃぶ台をひっくり返さんばかりの勢いでどなり声を上げた。
「いや、おかしいだろ! なんでお前が大戦中にイギリスに居るんだよ!」
 神奈子が突っ込みをするが、全く効果は無い。
「ジョン・ブルの魂にかけて、スパムなんてお断りだあああぁぁッ!」
 神気を迸らせ、全力のお断りをかます諏訪子に、幽々子と妖夢のパブ兼小料理屋は震えた。
 ちなみによく言われるジョン・ブルとは、擬人化されたイギリスのことであり、基本的に頑固そうな背の低いおっさんで表わされる。
 諏訪子は、様々な意味で間違っていた。
「……うーむ、この『豚肉とソーセージとスパムとほうれん草』のスパム抜きを頼む」
 諏訪子の剣幕に神奈子は、妖夢に『豚肉とソーセージとスパムとほうれん草』のスパム抜きを頼んだ。
 すると、カウンターの奥で幽々子が、ふるふると首を振る。
「ええと、当店ではスパム抜きは出来ないようです」
「ふざけるな! 私は客だぞ、しかも神様だ! そのお客で神様な私の言う事が聞けないのか!?」
「ほら、諏訪子。どーどー。あんまり人を困らせるな。とりあえず、この『豚肉とソーセージとスパムとほうれん草』を一つ頼む! ……ほら、スパムは私が食べてやるから、それならいいだろう?」
「あー、うー、ええと、そうだね……それなら、いいかな」

 どうやら、うまく収まったようだ。

 神奈子はホッと胸をなでおろす。
「では、ご注文入りまーす。『豚肉とソーセージとスパムとほうれん草』を一つ」
 妖夢がカウンター奥に居る幽々子に注文を伝えた。

 注文の声が店内に響く、そんな中、プリズムリバーは、ビールを片手にスパムをつまんでいる。諏訪子は、疲れたのかテーブルに突っ伏していた。
 ようやく訪れた憩いのひと時に、神奈子は背もたれに身体を預けた。
「わかったわー、『スパムと豚肉とスパムとスパムとスパムとスパムとソーセージとスパムとスパムとスパムとスパムとほうれん草とスパムとスパムとスパム』ね」
「ちょっと待てー!!」
 聞き捨てならないことを言う幽々子に、諏訪子が吠えた。
 さっそく料理を始めようとする幽々子の手には、たくさんのスパムの缶詰が握られている。
「何で増えているんだ、そんなにスパムを入れてどーするつもりだ! だいたいなんでこの店はこんなにスパムばかりあるんだよ! スパムスパムとうざったい……」


 スパムスパムスパムスパム、スパムスパムスパムスパム、おいしーいスパーム。

 
 歌が聞こえてくる。
 スパムを讃える奇妙な歌が。
 その歌の聞こえてくる方向を見ると、飲んでいたプリズムリバー達がビールを片手に音頭を取り、合唱していたのであった。
 
 
 スパムスパムスパムスパム、スパムスパムスパムスパム、おいしーいスパーム。
 スパムスパムスパムスパム、スパムスパムスパムスパム、かわいーいスパーム。
 
「うるさーい! 黙るんだお前ら! だいたい歌はミスティの仕事じゃないか! お前らは素直に演奏をしていろ!」
 諏訪子の剣幕にプリズムリバーはとりあえず黙った。
「とりあえず、『スパムとスパムとスパムと豚肉とスパムとスパムとスパムとスパムとスパムとスパムとソーセージとスパムとスパムとスパムとスパムとほうれん草とスパムとスパムとスパムとスパムとスパムスパムスパムスパムスパム……」
 幽々子が注文を繰り返そうとする度に、スパムというワードはどんどん増えていった。
 
 スパムスパムスパムスパム、スパムスパムスパムスパム、おいしーいスパーム。
 スパムスパムスパムスパム、スパムスパムスパムスパム、かわいーいスパーム。
 
 おおー、スパムスパムスパムスパムスパムスパムスパム、可愛い卵とスパーム。
 卵とースパーム、卵とースパーム、卵とースパーム、おお卵とースパムスパム。

「うるさーい! いい加減にしろよお前ら! 飽きもせずにスパムスパムスパムスパム……」


 スパムスパムスパムスパム、スパムスパムスパムスパム、おいしーいスパーム。
 スパムスパムスパムスパム、スパムスパムスパムスパム、かわいーいスパーム。
 

「ふうむ、そろそろフルーツから身を守る方法だけじゃなくて、スパムから身を守る方法も考えた方が良いのかしらね」
 突然、店の奥から輝夜が出てきた。
「いやー、いいねスパムてか、このぉ、憎いね、ちょんちょん!」
 更に霧雨魔理沙も続く。
「ちょ、ちょっと待てお前ら。人のスケッチにキャラを引きずったまま勝手に出てくるんじゃない!」
「いや、だって、もう終わりだし」
「はい?」






          出演
          
          
       永遠とスパムと須臾のスパム罪人
       蓬莱山スパム輝夜
       
       狂気スパムのスパム月の兎
       鈴仙・スパム・優曇華院・スパム・イナバ

       幸運スパムの素兎
       スパム因幡スパムスパムてゐ

       スパム兎の方々

       蓬莱のスパム人の形
       藤原スパム妹紅
       
       普通のスパム魔法使い
       スパム霧雨スパムスパム魔理沙

       永遠に紅い幼きスパム月
       レミリア・スパム・スカーレット

       土着神の頂点スパム
       洩矢スパム諏訪子
       
       スパムと山坂と湖の権化
       八坂神奈子スパム

       幽冥スパムスパム楼閣の亡霊スパム少女
       西行寺スパム幽々子スパムスパム
       
       半人半霊半スパムの半人前スパム
       魂魄スパム妖夢
       
       スパム騒霊ヴァイオリスト
       ルナサ・スパム・プリズムリバー
       
       騒霊スパムトランペッター
       メルラン・スパム・プリズムリバー
       
       騒霊キーボーディストスパム
       リリカ・スパム・プリズムリバー
       
       
       
       元ネタ
       モンティ・スパム・パイソン・フライングスパムサーカス
       
       原作
       東方SPAMProject
       
       
            完
       
       
       
 毒抜きをしても、まるで毒が抜ききれない気がします、モンティ・パイソンは。

 クリーズとチャップマンはスパムが大嫌いだったらしいですけど、結構おいしいですよスパム。
 スパムは軍用食でもあったので、アメリカ軍があったところには、スパムが有り余っている事が多く、戦後のイギリスもその例に洩れずに、スパム三昧だったそうです。まあ、毎日食べてれば飽きますな。
 うちの婆様が「戦時中、カボチャばかり食べたから、カボチャなんて見るのも嫌だ!」と言ってたのと同じなんでしょう。
 
 おかげで、パイソンズにネタにされて、現在のスパムメールの語源になるのだから、面白いものですね。SPAM作っている会社を思うと、おもしろがっちゃいかんのかも知れませんが。
 
 それぞれ元ネタは、フルーツから身を守る方法→ナッジナッジ→スパム・スケッチです。
 
 それでは皆様お疲れスパム様でした。
七々原白夜
http://derumonndo.blog50.fc2.com/
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コメント



0.1550簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
途中からスパムスパムうるせぇwwwwwww
2.100名前が無い程度の能力削除
再現度とアレンジが素晴らしいwww
香霖の「Lumberjack Song」とかも期待してます。
3.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙の声が広川太一郎で再生されて吹いたw
幽香が「デニス・ムーア」やるのとかも面白そうですね。
5.80名前が無い程度の能力削除
いいセンスだ。
8.100名前が無い程度の能力削除
spermspermspermsper~m

スパムソングを聴くと自動的に人生狂騒曲のEvery Sperm Is Sacredが思い起こされるwwww
9.90スパムが無い程度の能力削除
スパムスパムうるせえ!
スパムサンドぶつけんぞ!!
10.80名前が無い程度の能力削除
絶対来ると思ってた…w
そんじゃガンビーは⑨で、射名丸はブラックメールの司会者ですな…etc
11.100名前が無い程度の能力削除
スパムがゲシュタルト崩壊したwwwwwww
18.90名前が無い程度の能力削除
……あー、だからSPAMって言うんだw
物凄くよく分かった。雰囲気的に。
21.100名前が無い程度の能力削除
スパム抜きで


30年の時を越えてのコラボ...見事すぎるwwwww
23.80GUNモドキ削除
ふふふ、スパムが幻想郷に溢れかえっておるわい。
偶には野菜も食べましょう、ね?
25.100名前が無い程度の能力削除
どんだけパイソン好きなんだあんたはwww
にとりの自転車修理マンとか、映姫さまのザ・ビショップとかも是非。
26.80名前が無い程度の能力削除
あばばばばばばば\(^q^)/
27.90名前が無い程度の能力削除
スパム…SPAM…SMAP!?
なるほど、これが語源だったのか。一本とられたぜ。
32.無評価名前が無い程度の能力削除
あのスケッチでスパムがネタになるのはスパムとス○ルマの発音が近い事もあって
連呼するととっても卑猥というのがある(実際ほぼそう発音してる所もある、牧師が連れ去られるのもそのせい)
それを踏まえると魔理沙がこう言うのが前のネタ引きずってレミィに言ってるとすると深いね
>「いやー、いいねスパムてか、このぉ、憎いね、ちょんちょん!」
38.100名前が無い程度の能力削除
洗脳完了!!

んもー、スパムしか聞こえない。
39.80名前が無い程度の能力削除
ちょ(ピチューン
40.80名前が無い程度の能力削除
元ネタ解らないのに吹いた
41.100名前が無い程度の能力削除
表題作だけだと思って油断してたら次のスケッチで噴いた。
ナッジナッジをちょんちょんと訳した日本語版のセンスに敬服です。無論広川御大にも。
あと、何気にスタッフロールはスクロールさせると物凄く本物っぽくて感動しました。

次回は射命丸文のブラックメールをリクエストします。
43.90名前が無い程度の能力削除
元ネタがわからないのが一片の悔い。
45.80名前が無い程度の能力削除
肉符「マスタースパーム」
49.40名前が無い程度の能力削除
スパム
57.100名前が無い程度の能力削除
スパム・スケッチを観ておいて良かった