Coolier - 新生・東方創想話

多々良小傘のおどろけ会議

2015/07/30 23:29:28
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 わちきは唐傘お化け、多々良小傘。一人で人里から少し離れた道に、人間を驚かせるために身を屈めていた。道を通ろうとする人間に夢中になっていた私は、背後からから近付いてくる三人の妖精に気が付かなかった!

「「「わーっ!!」」」
「ぴゃー!?」

 そこで姿を現したのは博麗神社の裏に住んでいる三妖精……というか、私以外にこんなノリノリで他人を驚かそうとする存在なんて彼女らくらいしかいないから、姿が見えなくても推測はつくんだけど。

「相変わらず小傘ちゃんは百点満点のリアクションを返してくれるね」
 と、サニーミルク。
「どっちかっていうと驚かされる妖怪の方が近いのかもしれないわね」
 と、スターサファイア。
「……ていうか、そのザマでよく今まで消滅せずにやってこれたなあ、と」
 と、栗みたいな口をしてる……たしかルナチャイルド、だったかな?
 三人組がおのおの勝手に私のことを馬鹿にしてくる。二日振り、三十四回目の悪夢であった。能力的には完全にこの三人組の方が上、姿を消せたり、音を消せたり、生き物の位置がわかったり、もはや反則じゃないか! わちき立つ瀬ない!
「相変わらず辛辣だけど、言われてることは本当にその通りなんだよね……どうしよう、驚かせられないとお腹が減って……」
 本日のわちきは非常にアンニュイである。自分よりもかなり背の低い、しかも子供っぽい妖精にここまでしてやられれば、もうどうしようもない。自尊心が剥がれ落ちる音がする。
「よし、こうなれば悪戯の天才である私たちが協力してあげよう!」
 サニーミルクが右の拳を突き上げながら力強く叫ぶ。
 ……主にあんたらのせいで落ち込んでるんだけどなあ。
「そうね、私達の能力を応用すれば小傘ちゃんも立派な悪戯妖精!」
 スターサファイアがそれを追いかけるように手をぱんと胸の前で打ち鳴らす。
 ……私一応、妖怪なんだけどなあ。
「こんな所で立ち話もなんだし、私たちの住処に移動しない?」
 最後の一人が落ち着き払った様子で二人を見遣る。
 ……名前、なんて言ったっけなあ。

 時間を十分ほど進めて、場所は博麗神社裏の木の中。神社というのはどういうわけだかここも山奥のも、えてして巫女が怖いものであるので滅多に足を運ぶことがないのだけれど、三人の能力を借りて姿を消していれば安心して進める。
 喩えるなら、「地雷原で滑空」みたいな。
 なんかもうこの時点で私がこの三人組に全く優れていないような気がする。なんか自分自身が憐れになってきた……あ、でも鍛冶は得意だった。わちき個性出せた!
「ここが私たちの根城だよ、どう? けっこうイケてるでしょ?」
 サニーミルクが飛び立つのを追いかけ、木の枝別れしている部分の根元辺りに着地する。私くらいの体の大きさだとかなり入口がきついけれど、入れないことも無い。内装を見渡してみると、なんかもう、豪華だし、ちゃんと家具一式揃ってるし、多分博麗神社より豪勢だと思う。見たことないけど。
「わちき家とかないからなあ」
「なんかごめん」
 謝られた方がつらい。
「とりあえずお茶飲む?」
「あ、えっと、ありがと」
 お茶まで出されてしまった。えらいこっちゃ、余裕でもてなされてしまっている。本来ならば私は容赦なくこの三人組も怖がらせてやらねばいけないというのに。
「……ま、とにかく会議始めようよ。『家がある人間が恨めしいー!』ってやれば、ほらひとつネタができた」
「一発ギャグじゃないんだよ!?」
 スターサファイアは一人どうもこの話を完全に面白がっている節がある。サニーミルクはわりと真面目に考えてくれているように思えるし、ルナ……チャイルド? は、落ち着いているから多分この中で一番頼りになる。あんまり多く喋らないからよくわかんないけど。

「とにかく最初に決めるべきは、そのキャラクターだよ」
 サニーミルクが私を指差しながら言う。確かにキャラクターというのは大事だ、出会う前から与えておく情報というのは、まさに看板となる。
「例えば名前。多々良小傘っていうのは自分で名乗り始めたんだっけ?」
「そうだよー」
 小傘、は自分が傘であることの証明だし、多々良、これは実際にある苗字。だけど一本だたらを匂わせることによって、なんかちょっと大物っぽいな、という雰囲気を見せることに成功しているし、自分としては、かなり気に入っているんだけれど。
「ちょっと可愛いのがだめだなー。一本だたらと掛けてるのはわかるけど、「たたら」って響きが可愛いからこわくない。うらめしやー! ってよく言ってるあたり、怖がらせる類での驚かし方も有用なんだよね?」
 あれ、サニーミルク、意外とまともに考察してくれてる。名前について駄目出しされるのはちょっと恥ずかしいけど、この三人組、頼れば私もビッグになれるかも!
「普通なら問題ない可愛い名前で済むけど、怖がらせたいなら変えるべき」
「たとえばどんな?」
「鬼龍院 虎傘とか」
「つよそう! だけど、わちきには荷が重くないかな……?」
 なんかめっちゃ筋骨隆々の格闘家あたりが出てきそうな名前じゃないか。私一応女の子だし、そんなゴゴゴゴゴって効果音鳴らしつつ地面を揺らしながら登場するなんてことできないしなぁ……
「えー、でもこれくらいじゃないと相手を怯ませられないよ」
「まあまあ、逆にそんな名前で身構えてるのに小傘ちゃんが出てきたら拍子抜けでしょ」
 紅茶を飲んでいたスターサファイアが、不服そうなサニーミルクを制して話し始める。
「小傘ちゃんは、やっぱり怖がらせるのよりは驚かせるほうが向いてるし、本質らしいから、むしろ名前で一発インパクトを与えるのがいいんじゃないかな? 苗字の語呂の良さも活用しちゃおう」
「たとえばどんな?」
「ラッタッタ小傘」
「確かに聖も最近バイク乗り回してるしねって馬鹿!」
 予想を大きく上回る大ボケに、咄嗟にノリツッコミをしてしまった。なんでやねん。もはや怖がらせる気無いやないかい。
「ラッタッタ多々良の方が韻踏めてるかな……?」
「そういう問題じゃないよ!」
 ねえ貴女完全に遊んでるよね? 言いながら若干笑ってるよね? そもそも、ラッタッタ多々良って言いにくいことこの上ないじゃないか。名乗りにくいわ、自己紹介で「ラッタッタッ……ラッタタッ……」ってなることが目に見えてるじゃないか。
 そこで、なんとかイルドさんが久々に口を開いた。最も賢そうな彼女だけれど、一体どんなことを伝授してくれるのだろうか。
「……えーと、もう多々良小傘って名前である程度過ごしてるんだから名前を急に変えても「結局のところ多々良小傘だろ」と思われるだけで何も変わらないと思うんだけど」
 沈黙。そして数秒の後。
「ほんとだ!」
 感心するサニーミルクの声に、口みたいな栗の妖精が一人、溜息を吐いた。

「キャラを立たせるのに重要なことは、他にもいろいろあるよ。例えば一人称」
「わちき、だけど……」
「吉原かあんたは!」
「ひっ!?」
 突然怒鳴りだしたサニーミルクに、またしても私は怯えてしまう。ヨシワラっていうのが誰なのか、あるいは何処なのかはまったくわからないけれど、とりあえずわざと意識してやってるこの「わちき」という一人称は、どうやらあまりよくないらしい。
「元々「私」だったのを変えたんだけど、駄目なのかな?」
 私が顔を上げて問うと、サニーミルクは堂々と答えた。
「特徴として「私」を改める所まではいいけれど、「わちき」はどうだろう? もっと「驚かすぞ!」って威圧感のあるのがいいわ」
「たとえばどんな?」
「うぬ」
「鬼龍院さんに引っ張られてないかな!?」
 やっぱり脳内に浮かんでくるのは屈強なおっさんである。どうしても彼女は私を最強の、喩えるなら戦争の後に荒廃した世界を制覇するようなものすごいおっさんに仕立て上げたいらしい。おかしいだろう。そしてすかさず、脳内で激しく突っ込みを入れている私をよそに意見を言おうとするスターサファイア。また何か繰り出してくるぞ、この悪ふざけ妖精は。
「じゃあ儂っていうのは?」
「どこが「じゃあ」なのかな!? ほとんど変化してないよ!?」
 二人ともなんかおかしい。さっきからまともな意見が殆どでてきていないのだけれど、本当に彼女らに任せていていいのか心配になってきた。
 そんな私に助け舟を出すように、一人だけまともな……月子さん? が喋り出す。おかしいよね? 私がいきなり「うぬ」とか「儂」とか言い出したら違和感バリッバリだよね?
「私は「儂」に一票」
「なんで乗り気なの!?」

「でも小傘ちゃん、やっぱり肝心の能力の所が無いのは痛いよ」
「そうね……何か、これは得意! っていうのは無いの?」
 二人して私をいじめてくる。全く、他人を全く長所の無いお荷物みたいに。でも違う、あるのだ。私には、貴女たちにはおろか、有力者ですらもほとんどの者は持っていない特有のスキルが! さっき思い出した私の特技を、よーく聞くがいい! そしておどろけ! おののけ!
「聞いて驚け……実は私、鍛冶が得意なんだ!」
「可愛いだけじゃん!」
 私の言葉に、即座にサニーミルクが突っ込む。え、鍛冶ができるのって可愛いの? 最近は鍛冶系女子とかが流行ってるの? モテ期到来!? ひたむきに鉄を打つ姿が男子には魅力的に映るの? ああ、いやいや。私は男性諸君からの支持を集めようとしているのではないのだ、あくまで妖怪、驚かれなくては、恐れられなくては意味がない。むしろ好かれてはいけないのである。
「……サニー、それ多分家事だわ」
 栗チャイルドさんが冷静に訂正する……ってか、なにその下らないダジャレみたいな……
「えっ、違うの!? じゃあなに、火事!? 火事が得意なの!?」
「サニー、それじゃただの迷惑な人だわ」
 本格的に全く頼りにならなくなってきたなぁ……私がそんな猟奇的な大量破壊魔に見えるのだろうか。不本意ながら、私は現状ではほぼ人畜無害なのだけれど……
「でも鍛冶が得意って……多々良ってそういう意味だったの?」
 スターサファイアが私を見る。が、残念ながらこれは伏線回収でも、私のネーミングセンスがそこまで考慮された盤石のものだというわけでもない。
「いや、むしろ「多々良」って名前にしたからって頑張って練習したんだ」
「勤勉の方向性がおかしいわ……」
 よりによって貴女たちにそれを言われるかー。

「あーもう、実力行使よ実力行使! 他人を驚かす実績さえあれば何とかなるのよ!」
「飽きてきてるわねサニー」
「でもこれも一つの正論よ、もういっちゃいましょ! てっとり早く、向こうの巫女でも驚かせればいいのよ! あの巫女を陥れたとなれば周りの印象もかなり違うよ!」
 叫びながら飛び出したサニーミルク。急いで私たち残りの三人も彼女を追いかける。確かに、半ば強引な力技でこそあるが、彼女の言うことももっともだ。
「私たちの能力で手助けするから、おもいっきり巫女を驚かしてきちゃいなさい!」
「巫女は……ちょうど池の横に立ってるわね。突き飛ばして落とすのが、効果的じゃないかな!」
 スターサファイアのその台詞を聞き終えて、ルナチャ……えっと、ルナサさん? 聞いたことあるしこれだろう、ルナサさんの方を向くと、彼女が親指を立てていた。ありがとう、みんな! なんだかんだと彼女たち三人組に感謝しながら。結局、遊んでいるように見えても、喋る内容が微妙にバカっぽくても、能力自体は、私よりも実用性に富んでいたのだ。
 滑降して、魂を込めて、全力で、勢いをつけて。

 博麗霊夢を、池に突き落とした。

「よしっ! これでわちきも一人前だね!」
「……」

 この後滅茶苦茶おこられた。
「多良々木ちゃん!」
「わちきの名前は多々良だよ!」

十五作目です。倫理病棟です。おはようございます。
思いついたのですぐさま突貫工事で書き上げました。
倫理病棟
http://twitter.com/NeZaReN
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コメント



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6.100名前が無い程度の能力削除
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12.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
13.100名前が無い程度の能力削除
霊夢可哀想