Coolier - 新生・東方創想話

夢の中の現

2010/02/16 03:09:13
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天気のいい昼下がりの午後だった。
魔理沙は縁側であぐらをかいている。
今日も立たない茶柱を見、こんなもの本当に立つものなのかと疑問に思いながら口をつけた。

「そういやさ」

「んー……」

横で霊夢も茶をすすっている。
座布団の上にちょこんと正座している霊夢は、さながら90代のオーラを醸し出していた。

「幻想郷って忘れられたものとかが辿り着くんだろ?」

「正確にはちょっと違うけど、そんな感じらしいわね」

「じゃあさ、幻想郷でも忘れられたものってどうなるんだろうな」

「そうねぇ……」

今日はあまりにもいい天気だ。
絶好の茶のみ日和だが、少々退屈していたのも事実である。

「んじゃ、専門家に聞いてみますか」

「おう」

二人は湯飲みを置いて立ち上がる。
ふと魔理沙が霊夢の湯飲みを見ると、茶柱が立っていた。
それを報告すると

「別に、いつものことだし」

と言われた。
なんとなくむかついたので茶柱ごと飲み干してやった。




───────────




「ほう、幻想郷で」

二人は八雲藍に事情を説明した。
やはり幻想郷と言えばこのひとだろう。

「結論から言「いやいやいやいやいやいやいや」

藍と二人の間に時速200km/hでサイコクラッシャーしつつ紫が割り込んできた。

「幻想郷の専門家っつたらこの私でしょうが!」

アメリカンな笑顔でびしっと親指を自分に向けて指すその姿をよそに、三人は会話を再開した。

「結論から言うと別にどうにもならんな。 概念的なものはともかく、物理的なものは特に」

「なんだ、普通だな」

「概念的って?」

「あるぇ~? 私無視されてるー? みたいなー?」

二人の肩に手を回して左右に顔を向けたが、無言で払われた。

「物理的なものは昔の道具とかだから、別に入ってきても風化して終わり。
概念的なものというのは、例を挙げるなら死語や、古いスラングだな。
これらが忘れられても、ただ忘れられるだけだ」

「つまりそういうのは二度も忘れられるってことなんだなぁ」

「なんだか不憫ね、そう考えると」

「やあ僕ユカリーマン、夢の国から来たんだ。 ヒャフー!」

冬眠中に暇だったので考えた紫拳法108式の1柱、魔四秘牙の不思議な踊りを踊った。
残念だが三人のMP(マヨヒガポイント)が0だったので効果が無かった。

「これは私の推測だが、恐らくそういうものは里の白沢が管理しているんじゃないだろうか」

「あー、たしかにな」

「歴史、としては残るものね、そういうものって。 あー昔はそんな言葉流行ったなぁみたいな」

「ほら! 耳がおっきくなっちゃった!」

マギー紫が耳殻と非自己の境界トリックを使った渾身のマジックを行ったが、誰も見てなかった。
戻らなくなったので焦ったが、やっぱり誰も見てなかった。

「そういえばゆかり……」

「!?」

「ご飯が食べたいな」

紫拳法108式の1柱、ヘッドスライディングずっこけを発動した紫はその衝撃で耳が治った。

「治った! 耳が治った!」

クララが立った風に言ってみたが、少女ではない紫には荷が重すぎた。

「もう魔理沙ったら、さっきうちで私がお茶菓子出したでしょ……」

「ああ、まさか茶請けにぶどう糖出されるとは思ってなかったからな」

「ははは、もう昼過ぎだからな。 どれ、せっかくだからうちで食べていけ」

「そろそろ泣いていいかしら」

透明人間紫を置いて三人が歩いていく。
開き直った紫はもう、自分を偽るのをやめてカニ歩きで付いていった。

「サンキュー、もう腹が減って減ってさぁ」

「ご飯と言えば、そこのゆかり……」

「はーい!」

「の葉って、たしか食べられるのよね」

「うおおおおおおおおおお!」

紫は、叫んだ。

「ゆかりの葉ってなによ! ユーカリの葉でしょ! 無理やりすぎるでしょ!
てかなんでうちの庭にユーカリの葉があるのよ! 誰だよ植えたやつちくしょう!
つーかそもそも食べられるわけないでしょ! お前はパンダか! ぱおーん!」

「うわぁ……」

「ぱおーんは像でしょ……」

「紫様……ドン引きです……」

「あ、あるぇー?」

やっと反応されて困っていた紫の袖が、目の前の三人ではない誰かに引っ張られた。
振り返ると橙が目に涙をためて見上げている。

「っく…………ひっぐ…………あの………………植えたの……」

橙は半泣きになりながら、ユーカリの葉を指差す。

「…………植えたの?」

「…………」

無言で、頷いた。

「最低だな」

「さすがの私もそれは引くわ……」

「いくら主人でも、言っていいことと悪いことがあると思います」

「ど…………」

紫は、逃げた。
スキマという名の監獄へ……己の殻に、閉じこもったのだ。

「どちくしょおおおおおお!!」




───────────




「っは、ドリームか」

心地よい布団の中、目が覚めた紫は自身の寝巻きがびっしょり汗で濡れていることに気づいた。

「うぅ……」

思い出すだけでもおぞましい、酷い夢であった。
冷汗三斗とはこのことかと思いつつ、布団を後にする。
着替えをすました紫は、帰ってきた布団で紫が寝ているところを発見した。

「あるぇー?」

「なんてこったい……」

すると上から別の紫が降りてきた。

「間違えて、平行世界の夢と現の境界を狂わせちゃった」

てへっと舌を出して自分の頭をこづく紫を見て、紫は殴りたい衝動に駆られたが自分なのでやめた。
さて、ここで着替えた紫を現の紫、不貞寝している紫を夢の紫、最後に現れた紫を第三の紫とする。便宜的に。

「第三の紫とか、邪気目じゃないんだから」

「ねぇ、そこの寝ている私起こしていい?」

そうこうし、幻想郷三賢者(笑)会議が開始されることとあいなった。

「で、どうしましょうか」

まず第三の紫が火蓋を切った。
それに現の紫が、用意していたかのように答えた。

「どうもなにも、あなたが戻してくれたらいいのよ、第三」

「うーん、私もそうしたいのはやまやまなんだけど……」

第三の紫は、チラっと視線を布団の中の紫へと移す。
目を覚ましてはいるが、決して布団から出ようとはしない。

「いや…………いやぁぁぁぁぁ!」

あそこに戻るのは嫌だと言ったきり、引きこもってしまった。

「ね?」

現の紫はため息をついた。
ようするに、夢の紫をあちらに戻し、第三の紫がチャックをするということなのだが。
普段するように無理やり押し込むということは、できない。
なにしろ相手は結界を操る自分自身である。無理やり押し込めるはずもない。

「さ、私が夢違えしてあげるから、戻りなさいな」

現の紫が盛り上がっている(ハイテンションという意味ではない)布団に向けて、諭すように話しかける。
自分で自分を諭しているのだから、世話は無い。

───────────

◆夢違え(ゆめたがえ)
悪夢や不吉な夢を見たときには、夢違えを行うと良いとされる。
夢違えとは、不吉な夢が現実にならないようにする呪いである。

───────────

「それ、私のほうは何の解決にはなってない気がするのだけれど……」

「…………てへっ☆」

結局は自分のことしか考えてなかった現の紫。
自分のことなんてどうでもよかった。

「だって私だし」

「うぅ……こんな性格の自分が憎い…………」

しばらくこの漫才を眺めていた第三の紫は、諦めたように言った。

「しょうがない……私が身代わりになってあげるわ」

「ほんと!」

布団から飛び出した夢の紫は、これほど自分が頼もしく思えたことはない。
自信過剰、いや、自身過剰な期待をよせ、第三の紫の手をとる。

「お願い! 本当お願い!」

「まぁ、元はといえば私の責任だしね」

「そうかしら……」

現と第三の紫は紫拳法なんて使えないので、完全に夢の紫の責任だと現の紫は思った。
しかし夢を見たのは現の紫であり、創始者な手前、薮蛇になるので言わないでおいた。

第三の紫は笑顔で手を振りながらスキマに潜っていった。
行き先はもちろん現の紫の夢の世界、なんともややこしい。

数十分後、泣きじゃくりながら帰ってきた第三の紫を二人であやした。
あまりに泣くので同情した夢の紫は帰ることにしたという。

「まあ、私の拳法は108まであるから」

大抵ロクなものではないことは、二人は容易に想像できた。自分だから。
スキマで戻っていった夢の紫の叫び声が聞こえる前に、第三の紫は現の紫と別れを告げることにした。

「まぁ、貴重な体験ができたと思っておくわ」

「ほんと、もう勘弁してもらいたいものね」

アイコンタクトでお互いの考えていることはわかるので、これ以上は何もいらなかった。
二人はふっと微笑み会うと、一人は手を振り、一人は腕を組んで別れを告げた。
スキマから現実へと戻った第三の紫は、境界を元に戻し、ようやくほっとした。
一息つくため、藍に茶を頼んで飲んでいると、安心したのか急に疲れが押し寄せてきた。
こたつが、心地良い。
行儀が悪いと思いつつも、体は無情にも夢の世界へと紫を導いた。
意識が途絶える瞬間、藍が何かをかけてくれるのだけはわかった。

(ありがと……藍…………)

夢の世界で疲れた紫は、夢の世界に休息を求めて旅立っていくのだった。




───────────




「という夢だったのさ!」

「!?」

布団から跳ね起きた紫が最初に目にしたのは、二人の紫だった。

「え、えええええ!」

「もう、寝てる場合じゃないわよ、早く帰りなさいな」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「んんんん?」

第三の紫は、訳がわからず二人に問うと、目の前の紫たちは声を揃えていった。

「あなたは、夢の紫でしょ?」

「え、あなたは?」

右側の紫に問う。

「現の紫よ」

「あなたは?」

左側の紫に問う。

「“第三の”紫よ」

「つまり私、第三の紫が帰った後の夢の中の紫が夢の紫で夢の二人の紫が第三と現の紫で私はいま夢の紫だから……」

「さぁ、帰りなさいな」

「しょうがないわねぇ……こうなったら私が……」

「だ、だめええええええ!」

「何よ……だって私にだって責任が」

「行っちゃだめ! あの地獄はいっちゃ……あ、でも行って貰わないと私がいかないと、でも行ってもらうとまた第三の紫が……」

「あぁもう、いくわよ! 行ってちゃっちゃと解決してあげるから、いいわね」

「あ、ちょ」

「はい、あなたはゆっくり寝てていいのよ」

「は、離しなさい、現の!」

「ならあなたがいくの~?」

「う……」

「ほらぁ~」

「じゃあ、行ってくるわね」

「らめええええええええ」

元第三の現夢の紫の叫びは、空しく木霊した。




───────────




「…………」

紫は目を閉じていた。
眠いからではない。
むしろ逆である。
いま、“起きた”のである。
だが、まぶたを開けられなかった。
果たしてここは現実なのか、夢の中なのか。
そもそも私は境界を操ることなんてできたのか……いや、紫という自分自身すら虚空ではないのか。

怖かった。

「紫様?」
「ゆかりさま~?」

その瞬間、目が開いた。
そうだ、私にはこの娘たちがいる。
今日も私を慕ってくれるこの娘たちが、いる。
この娘たち……が…………

「今日は紫様の誕生日なので、紫様のコスプレをしてみました!」

「えへへ、おそろいですよ~!」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」













おまけ

「こんな紫だらけの世界にいられるか! 俺はスキマに帰らせてもらう!」天気のいい昼下がりの午後だった。
魔理沙は縁側であぐらをかいている。
今日も立たない茶柱を見、こんなもの本当に立つものなのかと疑問に思いながら口をつけた。

「そういやさ」

「んー……」

横で霊夢も茶をすすっている。
座布団の上にちょこんと正座している霊夢は、さながら90代のオーラを醸し出していた。

「幻想郷って忘れられたものとかが辿り着くんだろ?」

「正確にはちょっと違うけど、そんな感じらしいわね」

「じゃあさ、幻想郷でも忘れられたものってどうなるんだろうな」

「そうねぇ……」

今日はあまりにもいい天気だ。
絶好の茶のみ日和だが、少々退屈していたのも事実である。

「んじゃ、専門家に聞いてみますか」

「おう」

二人は湯飲みを置いて立ち上がる。
ふと魔理沙が霊夢の湯飲みを見ると、茶柱が立っていた。
それを報告すると

「別に、いつものことだし」

と言われた。
なんとなくむかついたので茶柱ごと飲み干してやった。




───────────




「ほう、幻想郷で」

二人は八雲藍に事情を説明した。
やはり幻想郷と言えばこのひとだろう。

「結論から言「いやいやいやいやいやいやいや」

藍と二人の間に時速200km/hでサイコクラッシャーしつつ紫が割り込んできた。

「幻想郷の専門家っつたらこの私でしょうが!」

アメリカンな笑顔でびしっと親指を自分に向けて指すその姿をよそに、三人は会話を再開した。

「結論から言うと別にどうにもならんな。 概念的なものはともかく、物理的なものは特に」

「なんだ、普通だな」

「概念的って?」

「あるぇ~? 私無視されてるー? みたいなー?」

二人の肩に手を回して左右に顔を向けたが、無言で払われた。

「物理的なものは昔の道具とかだから、別に入ってきても風化して終わり。
概念的なものというのは、例を挙げるなら死語や、古いスラングだな。
これらが忘れられても、ただ忘れられるだけだ」

「つまりそういうのは二度も忘れられるってことなんだなぁ」

「なんだか不憫ね、そう考えると」

「やあ僕ユカリーマン、夢の国から来たんだ。 ヒャフー!」

冬眠中に暇だったので考えた紫拳法108式の1柱、魔四秘牙の不思議な踊りを踊った。
残念だが三人のMP(マヨヒガポイント)が0だったので効果が無かった。

「これは私の推測だが、恐らくそういうものは里の白沢が管理しているんじゃないだろうか」

「あー、たしかにな」

「歴史、としては残るものね、そういうものって。 あー昔はそんな言葉流行ったなぁみたいな」

「ほら! 耳がおっきくなっちゃった!」

マギー紫が耳殻と非自己の境界トリックを使った渾身のマジックを行ったが、誰も見てなかった。
戻らなくなったので焦ったが、やっぱり誰も見てなかった。

「そういえばゆかり……」

「!?」

「ご飯が食べたいな」

紫拳法108式の1柱、ヘッドスライディングずっこけを発動した紫はその衝撃で耳が治った。

「治った! 耳が治った!」

クララが立った風に言ってみたが、少女ではない紫には荷が重すぎた。

「もう魔理沙ったら、さっきうちで私がお茶菓子出したでしょ……」

「ああ、まさか茶請けにぶどう糖出されるとは思ってなかったからな」

「ははは、もう昼過ぎだからな。 どれ、せっかくだからうちで食べていけ」

「そろそろ泣いていいかしら」

透明人間紫を置いて三人が歩いていく。
開き直った紫はもう、自分を偽るのをやめてカニ歩きで付いていった。

「サンキュー、もう腹が減って減ってさぁ」

「ご飯と言えば、そこのゆかり……」

「はーい!」

「の葉って、たしか食べられるのよね」

「うおおおおおおおおおお!」

紫は、叫んだ。

「ゆかりの葉ってなによ! ユーカリの葉でしょ! 無理やりすぎるでしょ!
てかなんでうちの庭にユーカリの葉があるのよ! 誰だよ植えたやつちくしょう!
つーかそもそも食べられるわけないでしょ! お前はパンダか! ぱおーん!」

「うわぁ……」

「ぱおーんは像でしょ……」

「紫様……ドン引きです……」

「あ、あるぇー?」

やっと反応されて困っていた紫の袖が、目の前の三人ではない誰かに引っ張られた。
振り返ると橙が目に涙をためて見上げている。

「っく…………ひっぐ…………あの………………植えたの……」

橙は半泣きになりながら、ユーカリの葉を指差す。

「…………植えたの?」

「…………」

無言で、頷いた。

「最低だな」

「さすがの私もそれは引くわ……」

「いくら主人でも、言っていいことと悪いことがあると思います」

「ど…………」

紫は、逃げた。
スキマという名の監獄へ……己の殻に、閉じこもったのだ。

「どちくしょおおおおおお!!」




───────────




「っは、ドリームか」

心地よい布団の中、目が覚めた紫は自身の寝巻きがびっしょり汗で濡れていることに気づいた。

「うぅ……」

思い出すだけでもおぞましい、酷い夢であった。
冷汗三斗とはこのことかと思いつつ、布団を後にする。
着替えをすました紫は、帰ってきた布団で紫が寝ているところを発見した。

「あるぇー?」

「なんてこったい……」

すると上から別の紫が降りてきた。

「間違えて、平行世界の夢と現の境界を狂わせちゃった」

てへっと舌を出して自分の頭をこづく紫を見て、紫は殴りたい衝動に駆られたが自分なのでやめた。
さて、ここで着替えた紫を現の紫、不貞寝している紫を夢の紫、最後に現れた紫を第三の紫とする。便宜的に。

「第三の紫とか、邪気目じゃないんだから」

「ねぇ、そこの寝ている私起こしていい?」

そうこうし、幻想郷三賢者(笑)会議が開始されることとあいなった。

「で、どうしましょうか」

まず第三の紫が火蓋を切った。
それに現の紫が、用意していたかのように答えた。

「どうもなにも、あなたが戻してくれたらいいのよ、第三」

「うーん、私もそうしたいのはやまやまなんだけど……」

第三の紫は、チラっと視線を布団の中の紫へと移す。
目を覚ましてはいるが、決して布団から出ようとはしない。

「いや…………いやぁぁぁぁぁ!」

あそこに戻るのは嫌だと言ったきり、引きこもってしまった。

「ね?」

現の紫はため息をついた。
ようするに、夢の紫をあちらに戻し、第三の紫がチャックをするということなのだが。
普段するように無理やり押し込むということは、できない。
なにしろ相手は結界を操る自分自身である。無理やり押し込めるはずもない。

「さ、私が夢違えしてあげるから、戻りなさいな」

現の紫が盛り上がっている(ハイテンションという意味ではない)布団に向けて、諭すように話しかける。
自分で自分を諭しているのだから、世話は無い。

───────────

◆夢違え(ゆめたがえ)
悪夢や不吉な夢を見たときには、夢違えを行うと良いとされる。
夢違えとは、不吉な夢が現実にならないようにする呪いである。

───────────

「それ、私のほうは何の解決にはなってない気がするのだけれど……」

「…………てへっ☆」

結局は自分のことしか考えてなかった現の紫。
自分のことなんてどうでもよかった。

「だって私だし」

「うぅ……こんな性格の自分が憎い…………」

しばらくこの漫才を眺めていた第三の紫は、諦めたように言った。

「しょうがない……私が身代わりになってあげるわ」

「ほんと!」

布団から飛び出した夢の紫は、これほど自分が頼もしく思えたことはない。
自信過剰、いや、自身過剰な期待をよせ、第三の紫の手をとる。

「お願い! 本当お願い!」

「まぁ、元はといえば私の責任だしね」

「そうかしら……」

現と第三の紫は紫拳法なんて使えないので、完全に夢の紫の責任だと現の紫は思った。
しかし夢を見たのは現の紫であり、創始者な手前、薮蛇になるので言わないでおいた。

第三の紫は笑顔で手を振りながらスキマに潜っていった。
行き先はもちろん現の紫の夢の世界、なんともややこしい。

数十分後、泣きじゃくりながら帰ってきた第三の紫を二人であやした。
あまりに泣くので同情した夢の紫は帰ることにしたという。

「まあ、私の拳法は108まであるから」

大抵ロクなものではないことは、二人は容易に想像できた。自分だから。
スキマで戻っていった夢の紫の叫び声が聞こえる前に、第三の紫は現の紫と別れを告げることにした。

「まぁ、貴重な体験ができたと思っておくわ」

「ほんと、もう勘弁してもらいたいものね」

アイコンタクトでお互いの考えていることはわかるので、これ以上は何もいらなかった。
二人はふっと微笑み会うと、一人は手を振り、一人は腕を組んで別れを告げた。
スキマから現実へと戻った第三の紫は、境界を元に戻し、ようやくほっとした。
一息つくため、藍に茶を頼んで飲んでいると、安心したのか急に疲れが押し寄せてきた。
こたつが、心地良い。
行儀が悪いと思いつつも、体は無情にも夢の世界へと紫を導いた。
意識が途絶える瞬間、藍が何かをかけてくれるのだけはわかった。

(ありがと……藍…………)

夢の世界で疲れた紫は、夢の世界に休息を求めて旅立っていくのだった。




───────────




「という夢だったのさ!」

「!?」

布団から跳ね起きた紫が最初に目にしたのは、二人の紫だった。

「え、えええええ!」

「もう、寝てる場合じゃないわよ、早く帰りなさいな」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「んんんん?」

第三の紫は、訳がわからず二人に問うと、目の前の紫たちは声を揃えていった。

「あなたは、夢の紫でしょ?」

「え、あなたは?」

右側の紫に問う。

「現の紫よ」

「あなたは?」

左側の紫に問う。

「“第三の”紫よ」

「つまり私、第三の紫が帰った後の夢の中の紫が夢の紫で夢の二人の紫が第三と現の紫で私はいま夢の紫だから……」

「さぁ、帰りなさいな」

「しょうがないわねぇ……こうなったら私が……」

「だ、だめええええええ!」

「何よ……だって私にだって責任が」

「行っちゃだめ! あの地獄はいっちゃ……あ、でも行って貰わないと私がいかないと、でも行ってもらうとまた第三の紫が……」

「あぁもう、いくわよ! 行ってちゃっちゃと解決してあげるから、いいわね」

「あ、ちょ」

「はい、あなたはゆっくり寝てていいのよ」

「は、離しなさい、現の!」

「ならあなたがいくの~?」

「う……」

「ほらぁ~」

「じゃあ、行ってくるわね」

「らめええええええええ」

元第三の現夢の紫の叫びは、空しく木霊した。




───────────




「…………」

紫は目を閉じていた。
眠いからではない。
むしろ逆である。
いま、“起きた”のである。
だが、まぶたを開けられなかった。
果たしてここは現実なのか、夢の中なのか。
そもそも私は境界を操ることなんてできたのか……いや、紫という自分自身すら虚空ではないのか。

怖かった。

「紫様?」
「ゆかりさま~?」

その瞬間、目が開いた。
そうだ、私にはこの娘たちがいる。
今日も私を慕ってくれるこの娘たちが、いる。
この娘たち……が…………

「今日は紫様の誕生日なので、紫様のコスプレをしてみました!」

「えへへ、おそろいですよ~!」

「あばばばばばばばばばばばばばばば」
「こんな紫だらけの世界にいられるか! 俺はスキマに帰らせてもらう!」
ハリー
[email protected]
http://kakinotanesyottogan.blog66.fc2.com/
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コメント



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12.無評価読む程度の能力削除
おまけが本文と冒頭以外何も違わないのは何で?
16.無評価ハリー削除
>12
HPのほうは、ここと同じものを張ってます
21.無評価名前が無い程度の能力削除
>16
それ質問に答えてるの?
自分には意味が良く分からなかった
22.70ずわいがに削除
天気のいい昼下がりの午後だった。
魔理沙は縁側であぐらをかいている。
今日も立たない茶柱を見、こんなもの本当に(ry

あばばばばばばばばばばばばばばば……めんどくせぇww