「ちょっと、どこまで登る気なの?」
「そうだな……とりあえず、景色が見えるまでだなっ」
「それって、頂上なんじゃ……」
この日、アリスと魔理沙は近くの山に来ていた。
夏も終わり、辺りは紅葉で満ちていた。風が吹くたび、やや肌寒さを感じる。
「おっ見ろよアリス! 柿が生ってるぜ!」
「待ってよ……魔理沙……」
後ろを振り返ると、声は聞こえるがまだ下の方に居た。
息を切らし、ペースが落ちていく様子のアリス。それに比べて、魔理沙は先に居るが息を切らしておらず、余裕が見られる。
「まったく困ったもんだぜ。普段から外に出ないから、体力が落ちるんだぞ?」
「魔理沙の体力が桁外れなのよ……ハア」
なんとか魔理沙に追いついたアリス。
膝に手をつき、ハアハア、と息を切らす。
「無理せずに、飛んでくれば良かったんじゃないのか?」
「ハア……ハア……」
「しゃべれないほど疲れてるのか……」
別に大した山道でもないはずなんだけど、と思う魔理沙。
ガサガサッ――と、二人のすぐ近くの茂みから音が聞こえた。
「! 妖怪か?」
瞬時に戦闘態勢に入る魔理沙。だが、アリスはそれどころではない。まだ体力が回復していない状態なのだ。
「出て来い!」
魔理沙が大声を出すと、茂みから音の正体が姿を現した。
「その声、やはり魔理沙さんでしたか」
「なんだ妖怪じゃないのかよ……」
「あら……ウィルソンじゃない……久しぶりね」
彼女の名前は、ウィルソン。淡い橙の髪に、紫の瞳が特徴……ちなみに、見た目は細身だが、意外とがっしりとした体つきをしている。
「アリスさん……あの、たいぶ息を切らしていますけど、大丈夫ですか? 酸欠?」
「ええ……大丈夫」
とても大丈夫には見えない。
「なあウィルソン」
「はい?」
「こっちの生活には慣れたか?」
「……ボチボチってところですかね」
「そうか……よしっ! 行くぞアリスー」
「ちょ、もう少しだけ休ませて」
「日が暮れるぞー」
魔理沙はアリスを引きずり、その場を後にした。
その様子を少し不思議そうな表情で、ウィルソンは見ている。
「やはり、変わったところですね……ここは」
青く広い空を見上げつぶやく。
彼女が幻想郷に来る前……過去の出来事を思い出す。だがそれは、決して良い思い出とは言えない、過去の話――。
◇◇◇
今から十六年前……彼女はここ、天空都市ミスティルにて命を授かった。
「あなた……元気な女の子ですよ」
「ああ……この世に生まれてきてくれて、本当にありがとう」
「紫の瞳、この子はきっと将来立派な――になるわ」
「――か……よしっ決めたぞ! この子の名前は、レイだ!」
「レイ……良い名前ね。レイ、あなたのお父さんとお母さんですよー」
母は指先で、レイの唇に触れる。すると、レイは笑顔で笑い始めた。
「まるで天使みたいね」
「いいや違う……レイは天使みたいではなく、私たちの天使そのものだ!」
その場にいた全員が、幸福で満たされた。
この家族はきっと、この先も幸せな家族でいられるのだろうと、誰しもがそう思っていた。しかし、それが叶ことはなかった。
レイが物心つく前に、両親は何者かに殺害されてしまった。互いの祖父母も他界しており、親戚もいなかったレイは、孤児院に預けられることになった。
言葉を覚えるようになるとレイは時々、両親のことについて話を聞いてくることもしょっちゅうあった。まだ小さい子に、親が殺されたなど、言えるはずもなかった。そのたびに、両親は仕事が忙しくて中々会えないと伝えた。
そして、レイが六歳を迎えるころ、養子の引き取り相手が見つかった。相手の名は――、
「やあ、こんにちわ」
「……」
「そう、怖がらなくても良いんだよ」
男はレイと同じ目線になるように姿勢を落とした。
「私の名前は、カーロイ・グレイス。君の新しいお義父さんだよ」
「……レイ、です」
男の名は「カーロイ・グレイス」この辺りでは有名な、グレイス家。魔法研究の第一人者であり、この家に養子として迎え入れられることは、とても素晴らしく恵まれているとも言われる程だ。
レイはカーロイに連れられ、家まで手をつないで案内された。
「いいかい? 今日からここが君の新しいお家だからね」
「……」
カーロイは扉を開けると、その先では女の人が帰りを待っていた。
「ただいま、ティアラ」
「お帰りなさい、カーロイ。その子が新しいうちの子ね」
レイはカーロイの後ろに身を隠す。
「お人形さんみたいで可愛いわね」
ティアラも腰を落とし、レイと同じ目線で話す。
「私はティアラ・グレイスよ。今日からあなたのお義母よ、よろしくねっ」
「……レイ、です」
「レイちゃんねっ。ほーら、こっちにおいでー」
ティアラは、笑顔で両腕を広げる。
少し警戒はしていたが、レイはティアラの胸の元に飛び込む。
「おーっ! ちっこくて可愛いー。食べちゃいたいくらい!」
「!」
その言葉にレイは驚き、ティアラの腕から抜け出し、再びカーロイの足の後ろに身を隠した。
「ティアラ、ダメじゃないか。レイが怖がっているだろ?」
「ごめんねレイちゃん。そのー冗談と言うか、なんというか……」
困った表情になるティアラ。
「うーん、言葉の表現って難しいわね……」
「大丈夫だよ。ティアラもレイも、そのうち馴染めるさ。そうだ、夕食はできてるかな?」
「はい、すぐにお持ちしますね」
レイは両親の記憶がほとんど無いため、これが家族なのか、まだ分からないでいた。
けれど、どこか暖かい感じがした。きっと出来立てのシチューが、体を暖めてくれたのだろうと、そう思った。
――一年生も経つと、レイは家族に馴染んでた。まるで、元からこの家族に居たかのようにすっかりと。
「レイ、何してるの?」
「お勉強です」
レイは熱心にお勉強をしていた。学校には通わないため、家で自主的に勉強をするしかないのだ。
「レイは本当にお利口さんね……でも、もっと子どもらしい事をしてもいいのよ? お絵描きしたり、走り回ったり……」
「……」
「……勉強が好きみたいね」
ティアラは切なくも、レイの姿を見て微笑んだ。
「私にも、子どもが出来たら……」
ティアラは片手で、自分の腹部を触る。
「さてと、お父さんが帰ってくる前に、掃除を済ませないとね!」
この頃から、レイはティアラに違和感を抱くようになっていた。けれど、それが何に対しての違和感なのか分からず、自分の勘違いだったのかもしれない。
お義母様は私が、勉強好きだと思っているみたいだけど……正直、勉強は嫌いだ。お外に出て、いっぱい遊びたい気持ちもある。でもね、それ以上に楽しみが私にはあるのっ。それは――、
ガチャッ、と扉の開く音がした。
「ただいま、今日は仕事が早く終わってね……家族に会いたい一心でまっすぐ帰って来たよ」
「お義父様!」
レイはカーロイの胸に飛び込む。
「ただいま、レイ。お利口にしてたかい?」
「はい、お義父様! お勉強をしていました!」
「そうかい、良い子だ。ご褒美に頭を撫でてあげよう」
「あはっ! くすぐったいですよ!」
それは、お義父様からのご褒美、愛情だった。こんなにも、幸福を感じられたことは今までになかった。時々、家族で遊びに行きたいと思う。だけど、お義父様はお仕事で忙しい……せめて良い子でいよう。そうすれば、誰にも迷惑はかからないし、お義父様も褒めてくれる。
「そうだ、まだ日は沈んでいないし、家族で少しお出かけをしよう!」
「本当ですか!?」
「ああ、お母さんも一緒さ。ティアラ、今すぐ支度をしなさい。家族で散歩にでも行こう」
すると奥の部屋を掃除していたティアラが、顔を出した。
「はい、分かりました!」
お義母様も嬉しそうだった。
グレイス家全員で、近所を散歩することになった。レイは義父と義母の手をつなぎながら、夕日に向かって歩いた。
すれ違う人は皆、笑顔でこちらを見ている。幸せな家族だな、と。
……日が沈んできた頃、家族はうち帰り、夕食を済ませた。
その後は……普段通りにお風呂に入って、勉強をして、あとは就寝。眠りについた。
「……おやすみ、レイ」
カーロイはレイが眠ったことを確認すると、部屋から出て行った。
コツコツ、と音を鳴らしながら一階へ降りる。
「レイは寝ましたか?」
ティアラはカーロイに質問をした、次の瞬間だった。
バシッ! 大きな音が立つくらいの威力で、ティアラの頬をビンタした。
その反動で、ティアラは体勢を崩し、床に倒れる。
「カーロイ……様……」
「言ったはずだティアラ。私に質問をするなと!」
「も、申し訳ございません!」
ティアラは床に手をつき、頭を下げる。
「お前は本当に物覚えが悪いな……私に何度同じことを言わせるつもりなんだ?」
「そ、それは……」
「さっさと答えろよっ!」
「ッ!」
カーロイはティアラの頭を、足で思いっきり床に叩きつける。
「いいか? お前みたいな出来損ないを、この私が拾ってあげたのだぞ?」
「しょ、承知しております」
「だったら少しは、私の役に立って見せろ!」
再びティアラの頭を、足で踏みつぶし、叩きつける。
「お前には、またお仕置きが必要みたいだな?」
「ッ! そ、それだけは! どうか、どうかご勘弁を!」
「……お前が子どもを産めない体にしたのは、私なんだぞ? お前は私の言うことに従ってさえいれば、それでいいんだ」
「はい……」
「痛い思いはしたくないだろ?」
「はい」
「私も同じだ。ティアラ、お前をこれ以上傷つけたくないんだ。分かるね?」
「はい」
「いい子だ。害虫らしく生きなさい」
カーロイは不気味な笑みを浮かべると、自室へと行ってしまった。
「……レイ」
ティアラの瞳には、涙が浮かんでいた。だが決して、それが落ちることはなかった。
仮に落ちるのであれば、それは一瞬の出来事だろう。時の流れとは、早いものだ。気がつく頃には、あったはずのものは無くなり、形は変化し続ける。
◇◇◇
「お義母様、おはよう……て、どうしたのその怪我!?」
ティアラの額には大きなアザがあった。
「あらレイ、おはよう。顔洗って来なさい」
義母はいつものように、台所で朝食の準備をしていた。
「顔はもう洗ったよ……それより大丈夫なの?」
「ああ……昨日、階段を踏み外しちゃって」
「安静にしておいた方が良いよ。朝食は私が作るからっ」
「でも、刃物は危ないし――」
「もう何言ってるの? 私、十五だよ? 一人で出来るって」
あれから八年……レイは十五歳になった。
短かった髪は肩まで伸び、美しい容姿になっていた。
「……分かったわ。それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「フフン、まかせてよっ!」
自身気になるレイ。その笑った顔を見ると、ティアラも顔が自然と笑顔になる。
もしかするとレイは、人を笑顔にする力を持っているのではないか、そう思えるくらいだった。
「そういえば、お義父様は? まだ寝てるの?」
「それが、今朝早くから仕事に行っちゃったわ。最近、ますます仕事が忙しいみたいで」
「そっか。お義父様も大変なんだね……あ、そうだ!」
何かを思い出したのか、レイは手を止め、ティアラの方に歩いてくる。
「どうしたの?」
「お義母様、ちょっとだけ目を瞑って」
「……分かったわ」
言われる通りに、ティアラは目を瞑る。
「よーしっ」
レイはティアラのアザがあるところに、両手をかざす。
全神経を手に集中させ、魔素を調整させる。すると、暖かい風が巻き起こり、アザと同じサイズの魔法陣が現れる。
すると、アザがと共に痛みが徐々に引いてくる。
「はいっ! 終わったよ!」
「……これは」
ティアラがアザのあった場所を触れるが、痛みどころかアザ自体が完全になくなっていた。
「もしかして、治癒魔法……なの?」
「どう? 驚いたでしょ?」
あまりの驚きに、ティアラは言葉が出なかった。それもそのはず、治癒魔法は扱うのがとても難しく、高度な技術が必要とされる魔法。そのため、この魔法を扱えるのはごくわずか……最低でも会得に二十年はかかると言われている。
その魔法を、レイは僅か十五歳と言う年齢で完全に会得している。まさに異例。
「レイ、あなた……いったいどこで覚えたの?」
「覚えたと言うか、感覚って言うか……?」
自然に覚えたとでも言うのだろうか? それとも、初めから?
ティアラの頭の中は混乱と同様でいっぱいだった。
「これが、カーロイの言っていた……」
「お義父様がどうしたの?」
「えっ! ああ、なんでもないわ。ただの独り言よ」
つい口に出してしまった。
「それより、朝食を作らないと……一緒に作ってもいいかしら?」
「うんっ!」
レイとティアラ、二人で一緒に朝食を作った。恐らくこれが、義母との初めての共同作業だっただろう。
「ねえ、お義母様が好きな食べ物って何?」
「うーん、食べ物って言うよりは料理かな。お義母さん、シチューが好物なのっ」
「どうしてシチューなの?」
レイの言葉に反応し、ティアラは口に運ぼうとしたスプーンを下す。
「なんでだろう……料理や食材だって、色んな種類があるのに。ただ、お母さんが作ってくれたシチューが、すっごく美味しかったんだ」
◇◇◇
「おかーさん、お腹空いたー」
「はいはい。もうすぐ出来ますからね」
台所に行くと、良い香りが漂ってきた。
「あっこの匂い、シチューだ!」
「正解! 今日はお母さん特製シチューよ!」
「やったー! ティアラ、お母さんの作るシチューが一番好き!」
ティアラは、お母さんに抱き着く。
「もう、料理中は危ないからっ! 抱き着く前に、お母さんに声をかけてね?」
「はーい!」
「……ティアラも大きくなって、結婚して子どもが出来たら、美味しい料理をいっぱい作ってあげるんだよ?」
◇◇◇
「まだ幼い頃の話だから、あまり覚えてないけどねっ」
「じゃあこの味は、受け継がれた味なんだね」
「それが……レシピが無くって、見様見真似で作ったから……ちょっと違うかな」
楽しいひと時は、永遠には続かない。必ず終わりがやって来て、儚く散る。まるで咲き誇る一輪の花の様に……一瞬にして、散る。
この日、レイは一日中魔法の勉強をして過ごした。
夜にはカーロイも帰宅し、家族団らんで夕食を済ませ、いつもと同じ様に過ごす。そう、同じ様に……。
コンコン、と部屋をノックする音が聞こえた。
「はーい、どうぞ」
「失礼するよ、レイ」
「あ、お義父様!」
「勉強の方は進んでいるかい?」
「はい! お義父様から頂いた教科書の問題は、ほとんど終わりました」
「うん、素晴らしい」
カーロイはいつものように、レイの頭を優しく撫でる。
「レイ、君は本当に賢い」
「ありがとうございます、お義父様」
「その調子でもっと、勉学に励みなさい。そしていつか、その日が訪れるのを待っているよ」
「はい!」
レイに一言告げると、カーロイは部屋を後にした。その後もレイはひたすら勉強をした。
ふと、時計見ると就寝時間を越えていることに気がつく。
「いけない、集中しすぎた」
レイは勉強を中断させ、部屋の明かりを消してベッドに入ろうとした、その時だった。
「この役立たずが!」
「ッ!」
カーロイの怒鳴り声が聞こえた。
「お義父様?」
普段、カーロイが怒る様子も怒鳴り声も聞いたことが無い。
レイはただ事ではないと思い、部屋を出て一階へ向かう。
「あれ程言ったのに、なぜ投与しなかった!」
投与……お薬のこと? もしかして、どこか悪いのかな?
「申し訳ございません!」
「覚醒したら、すぐに薬を投与させ、眠らせろと! あれ程言ったんだぞ! なぜ分からない、なぜ出来ないんだ!」
眠らせる?
いまいち話の内容が分からない様子のレイ。階段を降りきる手前で、驚きの光景を目にする。
「!」
「どうかお許しください!」
「それは私に命令をしているのか? 許せ、と命令をするのか!」
カーロイがティアラを壁まで追い詰め、右手で首を絞めていた。しかもティアラの足は床に着いておらず、宙吊り状態。このままでは、呼吸が出来ず命が危ない!
「お義父様、やめてください!」
「……レイ」
「ッ!」
義父の顔は、まるで悪魔だった。今まで見たことのない、怒り狂った表情をしていた。
「なぜ起きている? さっさと部屋に戻って寝なさい」
「その前にまず、お義母様の首から手を離してください」
「どうして、そんなことをする必要があるのかな?」
「どうしてって……」
そんなの、決まってる。
「そのままでは、お義母様が死んでしまいます!」
「死ぬ? だからどうしたって言うんだい?」
「え……?」
何を言っているの?
「こいつが死んで、何か不都合な事があるか?」
「不都合って……そんなの関係ないよ!」
「関係ない?」
「不都合とか、そんな話じゃなくて……」
どうしよう、言葉が思いつかない!
あまりの動揺に、レイはまだ状況の整理が出来ていなかった。
「その言葉に根拠の無い以上、死んでも構わないだろ?」
「……だったら言ってよ」
「私に何を言えと?」
「死んでも良い根拠を、言ってよ!」
この世の中に、死んでもいいことなんて一つもあるわけ――、
「この女は、役立たずの不良品だ。ゴミは早めに処分しなければ、埃をかぶってどんどん溜まっていく」
思いもしなかった。まさか、言葉が返って来るなんて。
「害虫だってそうでしょう? 被害が及ぶ前に、早めに処分する。そうすれば、何も起こらなかったことと同じで、元の状態を保てる」
「だからって――」
「それとあれかい? 君は掃除をしない人間なのかい?」
「そ、掃除?」
「普通するだろう? 常に綺麗な状態を保つために、部屋の掃除を」
「するけど……」
「じゃあ掃除をする時に、何を掃っている? そう埃だよ。埃と言う存在は、清潔を保つために邪魔な存在……私にとってこの女は埃、私を汚す存在なんだよ! だから消して、綺麗にする。ただそれだけのこと」
……おかしい。
「何か反論はあるかい?」
「……おかしいよ」
「はあ?」
「そんなの、絶対おかしいよ」
レイの言葉に呆れるカーロイ。
「ハア。話にならん」
カーロイがティアラから手を解放すると、レイに向かって腕を伸ばす。
「ッ! レイ、逃げて! ケホッケホッ!」
次の瞬間、レイは思いっきり壁に叩きつけられる。
「な、なに……これ!」
身動きが取れない。まるで、重力で押しつぶされている感覚だった。
「こんなものか」
「クッ!」
「覚醒でも何でもなかった。ただの偶然ってことですか」
カーロイはゆっくりとレイに近づく。
「これでは、計画が台無しになってしまいます」
「計画? なんのこと」
「……知りたいか? 君の身に何が起きたのか……今から十一年前――」
◇◇◇
十一年前、とある一家に「紫色の瞳を持つ子が産まれた」と言う情報を私は手に入れた。
やっとだ。長い年月をかけ、ついに産まれたのだ!
グレイス家に古くから言い伝えられている。黒魔術の起源は、紫色の瞳を持つ魔女が生み出したものだと。
だから私はどうしても、その子を手に入れたかった。私の所有物にして、この「天空都市ミスティル」を私の物にしたかった。だが、そのためには奴らが邪魔だった。だから殺した。そして養子と言う形で、我が子を向かい入れば、何も不自然ではない。だからティアラと結婚をし、子どもを産めないを理由にするため――破壊させた。
緻密な計画で、誰にも怪しまれずに、子どもを手に入れることが出来た。
あとは家族関係と言う信頼と、周囲からの信頼を得る事で、私の身に何かあったとしても、誰も私を疑わない。むしろ可哀想な被害者だ。
◇◇◇
「しかし、お前はいつになっても覚醒はしない。あんなに愛情を注ぎこんだと言うのに!」
「じゃあ……今までのは全部噓って、こと?」
「ああ、そうだよ。初めから真実なんてものは、存在しなかったのだよ! 唯一の真実は、レイの両親を殺したのは、私だってことだ! アハ、アハハ!」
「……な。ふざけ――」
「ふざけるな!」
「「ッ!」」
怒りを露にしたのは、レイではなくティアラだった。
カーロイは思わず、後ろを振り返る。
「カーロイ、あなたは多くの罪を犯した」
ティアラは両手でナイフを握っていた。刃先をカーロイの方に向けて。
「人の心をもてあそび、幼い子どもの両親を、自分の信念だけのために殺した」
「お義母様……」
「あなたは、生きていて許されない存在!」
◇◇◇
「ティアラ、私と結婚してくれないか?」
「カーロイ……」
◇◇◇
ティアラの頭に、過去の出来事が一瞬だけ思い浮かぶ。
「私がこの手で、あなたを殺すわ!」
「や、やめろティアラ! 私が悪かった、間違っていた!」
「今更公開したって、もう遅いわよ」
「頼む、お願いだ! 殺さないでくれ!」
「さようなら、カーロイ」
ティアラはナイフをカーロイに目掛けて、全力で走る。
「やめてくれ!」
「カーロイ、あなたの魔法は片手でしか使うことは出来ない。しかも右手で」
だからあの時、私に攻撃をするためにお義母様から、手を離したんだ!
「今のあなたは挟み撃ち状態。解除すれば、背後から攻撃を受ける! 終わりよ!」
「いやだああああああああああ!」
悲鳴をあげ、崩れ落ちる。
カーロイとティアラの距離は、あと数メートル。
行ける! そう思った。しかし――、
「全く、呆れた女だ」
「ッ!」
ティアラの攻撃が、カーロイに届くことはなかった。
なぜなら、カーロイが左手で魔法を放ったからだ。ティアラは吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「カハッ!」
ティアラは血を吐いた。
「フフ、アハ! アハハハハ!」
その笑い方は、まさに狂気そのものだった。
「私が右手でして魔法を使えないだって? 笑わせてくれるね……そんなわけないだろう?」
「……お願いだから……もう、やめて……」
「永続魔法を片手して使えない魔術師がどこにいる? 君の知識は浅はかだ、ティアラ」
「お義母様に近づかないで!」
身動きが取れない以上、下手に出るしかなかった。
「レイ、君にいいものを見せてあげよう」
するとカーロイは床に落ちたナイフを手に取り、ティアラの方へ距離を縮める。
「やめて……ティアラ逃げて!」
ティアラは意識を失い、レイの声も届かない。
このままだと、殺されてしまう。ティアラが……お義母様が!
今まで一緒に過ごした記憶が、フラッシュバックする。その時、レイの心の中で何かが壊れた。
「――よ」
明るい笑顔を見せるレイの面影は、もう何処にも無かった。
ただ、怒りと悲しみで溢れていた……その姿は「冷酷の魔女」そのものだった。
「やめろよおおお!」
レイの叫び声と共に、辺り一面が一瞬にして凍る。
「な、なんだこれ……! 氷結魔法だと?」
氷結魔法はカーロイの足まで凍てつき、動きを封じた。
「クソッ! 小賢しいマネを!」
必死に足を剥そうとするが、ビクともしない。
「ティアラ、起きて! ティアラ!」
「……レイ……?」
薄っすらだが、ティアラは意識を取り戻す。
辺り一面は凍りついており、カーロイは身動きが取れず、レイは必死に叫ぶ姿がティアラの目に映った。
このままでは、いずれ私もレイもこの男に殺されてしまう。せめて、レイだけでも……!
「はあ……フウ」
ティアラは大きく深呼吸をする。
そして、呪文を唱え始める。
「風の聖霊よ、どうかレイをお守り下さい」
詠唱を唱えると、室内に突風の竜巻が発生する。
「これは……ッ! 調子に乗るなよ、クソエルフがあああああ!」
突風はレイを直撃した。すると、レイは風に運ばれる様にそのまま外へ放り出される。
「余計なことをしやがって! どこまで運命に逆らうつもりだあああ!」
「ティアラ!」
「走りなさいレイ! 今のあなたでは、この男には勝てない。とにかく逃げるのよ!」
「ティアラ……ッ!」
レイは振り返ることをせず、走り出した。
それでいいのよ、レイ。例えこの先、あなたが私を忘れてしまっても……私はあなたを決して忘れない。二人の共同作業……血はつながっていなけど、初めて母親らしい事が出来たと思えた。今日のことは生涯一生、忘れることは無いわ。
「ティアラああああああ!」
ありがとう、レイ。
「ッ!」
無数のナイフが、ティアラを襲った。
カーロイの右手が無数のナイフを操り、ティアラ目掛けて一斉に動き出す。
「くたばれ! エルフの生き残りいいい!」
カーロイの怒りは絶頂に達し、興奮のあまり、目は紅く染まっていた。
ティアラの生死も分からず、ただ必死に走るレイ。何処に向かえば良いのか、何が正解なのか。夢中になって走る。走る、走る。
そして、たどり着いた。
「……ティアラ、お義母様……」
だだっ広い草原で、レイは膝をつき泣いた。
誰にも見せない涙は、大地を湿らせた。
「やっと追いつきましたよ……レイ」
「ッ!」
カーロイは息を切らし、服には返り血が付いていた。
「私はね、暇じゃないんですよ。明日も仕事に行かなければならない」
「近づかないで!」
レイは戦闘態勢に入る。右手をかざし、カーロイに標準を合わせる。
「……害虫が」
カーロイが攻撃を放つ。あの時と同じ攻撃だ。
レイは受け身を取り、その軌道を避ける。
「チッ交わしたか」
透明で見えない攻撃。発動時に音は出るが、それだけじゃ何の魔法か分からない。
とりあえず、反撃をするまで!
「くらえ!」
氷結魔法を放つ。雹の様な氷は、カーロイ目掛けて一直線に飛ぶ……が、しかし――
「くだらない」
カーロイに届くことは無かった。途中で威力を失い、落下。
原因はなんだ? 魔力の調整を間違えたのか?
「こんな低級魔法で私を倒せるとでも?」
「ッ!」
「レイ、君は知っているかい? 属性の相性というものを」
「……相性」
「魔法はそれぞれ、属性が存在する。火、水、土、風、氷、雷、陰、陽、とね。派生ではあるが星や毒と言ったものも存在する」
なぜこの場で、そのような話をするのか。
「でもね、私は特別なんだ。周りからは風魔法と思われているが、それは違う。私は風を操ってなどいない……私が操作するのは『重力』だ!」
「聞いたことが無い……重力魔法なんて」
「あたりまえだ、この魔法は無属性である、この私にしか使えないのだからね」
カーロイの口から出た属性の相性。しかし、無属性であるカーロイには、相性など関係ない。
今までの攻撃は、重力を操作することによって起きた魔法。身動きが取れなかったのも、横方向に重力が働いていたから。攻撃が届かないのも、重力に耐えきれなかったからだ。
「早くその瞳を、私に渡せ!」
「瞳……それをどうするつもりなの?」
「バカが、君には関係の無いことだ。害虫は早く散りなさい」
カーロイの攻撃が、レイに直撃する。
「……バカはそっちでしょ」
しかし、レイは重力の働きを受けなかった。
「なぜだ、なぜ立っていられる? 攻撃は完全に当たった!」
「相性が無い、無属性に対抗できるのは……無属性魔法しかないでしょ!」
「ッ! 馬鹿な、私と同じ魔法が扱えるだと? そんなはずはない! この魔法が使えるのは、この世で私一人しか――まさかお前!」
「奥の手だけど……もうこれしか方法がないのよっ」
「どこでそれを知った! 私の書斎か? あれほど入るなと言っただろ!」
レイの表情は変わらないままだった。
「模倣魔法……」
黒魔術の上位魔法。あれを扱えたのは、グレイス家で初代だけ。
「なぜ貴様がそれの魔法を! 私には出来なかったと言うのに!」
カーロイは動揺を隠せなかった。
これが魔女の力とでも言うのか! 黒魔術だぞ? 例えこの先、お前が生きたとしてもバレたら処刑される。
「私の計画が……私の、私の私の! 計画がああああああ!」
――変更だ。
「私はこんなところで、負ける訳にはいかないんだよ!」
流石に黒魔術を相手には出来ない。こちらの奥の手を出せば、相手に利用されてしまう。
「色は違えど、魔女の瞳を持つ子供は山程いる」
「他の子どもの所へは、絶対に行かせない!」
カーロイが、その場から逃走を図ろうとしたその時だった。
「逃がさないわ!」
「ッ! その声は……」
後ろを振り返ると、目を疑う光景があった。
「なぜ生きてる……ティアラ!」
息の根を止めたはずだぞっ! 脈も魔力も無いことを確認したのに、なぜ!
――違う、これは幻覚魔法だ!
「あなたをここで仕留める!」
一瞬の隙を見逃さなかった。レイの攻撃がカーロイを襲う。
しまった、逃げ遅れた! だが、何も学んでいないようだな。大きさの増した中級魔法など、重力操作で無効に――
「威力が落ちないだと⁉」
どうしてだ、私も魔法は起動している! なのに何故!
鋭い雹は、カーロイの腹部に直撃した。
「カハッ!」
反動でカーロイは地面に倒れる。雹の先端は腹部を貫通し、真っ赤に染まっていた。
「ハア……ハア!」
痛みを感じる……内臓をいくつか破壊された。血が止まらない、めまいもする。
倒れたカーロイのもとに、ゆっくりとレイが近づく。
「反対方向に重力の働きを与えることで、力は緩和される。だけど、それだけでは威力が落ちてしまい浮遊状態になってしまう。更に横の重力を与えることで、加速させた」
「その考えは、誉めてやろう……だが、卑怯だぞ。私に幻覚を見せ、一瞬の隙を与えるなど!」
「幻覚……あなたは一体、誰に向かって叫んだの?」
「とぼけるな! どこまで私をコケにする! 幻覚魔法で私に幻覚を……ッ!」
なんだ、その目は……その顔はなんだ?
その表情は冷たくも、ひっくり返った虫を見つめるかのような、可哀想な表情をしていた。
「……」
レイは何も言わず、その場から去ろうとしていた。
「待て! 私を助けろ……レイ!」
カーロイの言葉には耳を持たず、徐々に遠ざかって行く。
「お願いだ、助けてくれ……私は、まだここで死ねない……生きなくてはならないんだ!」
レイの姿はもう、何処にも無かった。
雲一つなかった夜空には、埃をかぶったカーテンによって遮られ、激しい涙がカーロイに降りかかる。
「いやだあ……死にたくないい……」
その声は誰にも届くことは無く、無残な姿だった。
ああ――、フチュール……。
◇◇◇
私が二十歳になるころに、十四歳も離れた義妹ができた。
母は五年前に他界しており、父は再婚だ。再婚相手の歳は、私の三つ上。感覚的には、姉だ。
「初めましてお義兄様! フチュールと申します!」
フチュールは礼儀の良い子だった。明るくて、人懐っこい性格だった。その姿はまるで、天使そのものだった。
私の仕事は、父の研究の後継ぎだった。そのため、毎日夜遅くまで父の研究に付き添った。
父はある日、私に話した。
「カーロイ、うちの家系は代々……黒魔術を扱ってきた」
「それって禁じられている魔法では――」
「分かってる。俺は手を出していない……だが、親父は違う」
祖父は一度も、私に顔を見せたことが無かった。自分の部屋に閉じこもり、何かをしていた。
時々、祖父の声は部屋の外にまで聞こえてくる。とても低い声だったのを覚えている。
グレイス家の黒魔術は、もう継ぐことは無いと父は言った。
「あれは悪魔そのものだ。親父は悪魔に、取りつかれたんだ」
グレイス家の秘密を離した父は、その二日後に亡くなった。あまりにも不自然な死を遂げた。
私は確信した。父を殺したのは、祖父だと。
「デュマン・グレイス! 絶対にお前を許さない!」
私は怒りに支配されていた。この時から予兆はあったのだろう。
「扉を開けろ、デュマン・グレイス!」
「……」
返事は帰ってこない。
だから私は、扉を無理やり壊して部屋に入った。
「デュマン・グレイス!」
「ッ!」
「……なんだそれは?」
デュマンは、爪の入った瓶を握っていた。
「ワシに近づくな! 貴様もどうな……どう、なっても……」
バタンッ。デュマンは突然倒れた。
「おい、どうした。おい!」
死因は心筋梗塞。今まで生きていたことが、不思議なくらいだと医者は言った。
私の怒りは、どこへ向ければ良いのか? 唯一、救いになったのはフチュールだけだった。
しかし、負の連鎖が止まることは無かった。
「フチュール、どうしたんだい?」
フチュールの様子がおかしくなった。一点を見つめ、何も話さなくなった。食事もせず、まるで人形の様に……。
そして事件は起きる。
「ただいま。今戻った……!」
家に帰ると、二人の死体が転がっていた。
それは義母とフチュールだった。フチュールの右手にはナイフが握りしめてあった。
私はすぐに状況を理解した。フチュールは義母を殺し、自殺したのだと。
「ああ、ああああああ!」
私は絶望した。全てを失った。家族も、幸せも、笑顔も全部。
気が狂うほど、一晩中泣いた。もう、全てがっどうでも良かった。
私は黒魔術に縋るしかなかった。そして、偶然にも見つけてしまった。
「これは……死者を蘇らせる魔法!」
記載にはこう書いてあった。
死者を蘇らせるには魔女の瞳が必要、だと。
「魔女の瞳?」
私は古い書物や歴史を、調べつくした。そしてたどり着いたのだ。
魔女の瞳には三種類存在する。「蒼色の瞳」「橙色の瞳」「紫色の瞳」その中で特に「紫色の瞳」は極めて珍しく、底知れない魔力をもっており、数万年に一度産まれると言われている。
最後に産まれた時代から計算すると、もうすでに産まれていても不思議ではない年月が経っていた。
すぐに情報屋を雇い、紫色の瞳を持つ子供の存在を知る。
全ては、そう――
◇◇◇
「フチュールのため、だったのに……」
時期に私は死ぬ。最後まで、誰にも愛されなかった不幸な男として……。
その時ふと、ティアラのことが頭に浮かぶ。
最初はただの道具としか、見ていなかった存在ティアラ。けど、彼女は違った。
「カーロイさん! 見てください、似合ってますか!」
「ううん、もう少しまともな服にしようか」
「ええ、まともですよー」
彼女の服のセンスは、絶望的だったな。いつも私が選んであげていた。そのたびに、彼女は頬を膨らませ怒っていたが、すぐに笑顔になり私に抱き着いてきた。
「いつもありがとっ。カーロイ」
いつしか彼女に魅力に、私自身が惹かれていたのかもしれない。
「ティアラ、私と結婚してくれないか?」
「カーロイ……」
断られても構わない……今までだって辛さは味わってきた――
「私で良ければ、喜んでっ!」
彼女は私を受け入れてくれた。その時の笑顔を、忘れていたのかもしれない。
ティアラ、あなたは今の私でも、受け入れてくれますか。
「もちろんっ。だってカーロイと過ごしてきた時間が、一番楽しかったもんっ!」
「ティアラ……」
私はもう一度、彼女の……あの時の笑顔を見ることが出来た。
「お義兄様!」
「フチュール! どうしてここに……そうか。私を迎えに来たんだね」
「カーロイ?」
「私は一人で行くよ。君たちをもう、巻き込めやしないよ……」
これが私の最後のケジメだ。
「ううん、違うよ」
「ティアラ?」
「お義兄様とお別れしたくないよ!」
「フチュール……」
二人はカーロイの両手を繋ぐ。
「あなたが一緒なら、地獄でもどこへでもついて行くわ!」
「フチュールも!」
「ティアラ……フチュール……」
私は不幸な男ではない。こんなにも愛してくれる存在が、近くにいるのだから。
「それじゃ行こう」
◇◇◇
雨も止み、長かった夜が明けた。
いずれ死体は見つかり、私は追われる身となる。
「お父さん、お母さん……ごめんなさい」
私はこの名を捨てることにした。
しばらくの間は、遠い町で身をひそめる。町に出る時は、コートを深くかぶり出来るだけ顔を隠す。
「そこの嬢ちゃん、これ買っていかない?」
「……」
渡されたのは一本のCDだった。
「この曲のアーティストは、西の町出身でね。ヒット曲ばかり出す、天才だったんだよ」
「……そうですか」
私の故郷に、そんな人がいたんだ。
「でもね、十五年くらい前だったかな? いきなりアーティストを止めちまったんだよ」
「変わった人ですね」
「なんでも、子どもが産まれたらしくてね。もう、天使の様に可愛かったみたいなんだ。名前は……忘れちまったけど、確か紫色の瞳をしてるって聞いたな」
「ッ! その、アーティストの名前ってなんですか!」
「ん? そこにも書いてあるだろ」
私はCDの裏面を見た。
「ウィルソン・ブラウニーだよ」
「ウィルソン……ブラウニー……」
「名字は偽名だけど、下の名前は本当だ」
「あのっこれ買います!」
「へいっまいど!」
初めて聞いた。実の父親の名前を。
「ウィルソン・ブラウニー」
「なんだい、そんなに気にいったのか? だったら良いことを教えてやろう」
「?」
「ウィルソンは作曲をする時に、秘密の場所に行って作曲をしてたらしんだ。しかもそこで奥さんに出会ったみたなんだよ」
「それってどこですか?」
「まあ、焦るなって。ファンの間じゃこう呼ばれている……『約束の大地デルタ』ってねえ」
「約束の大地デルタ……」
「意外と近いんだよ。この先の山を二つ越えた所にあるんだ。興味があるなら行ってみるのも――あれ、いない?」
お父さんとお母さんが初めて出会った場所、デルタ!
私の目的は、そこに向かうこと!
「待っててお父さん、お母さん!」
私は罪深き冷酷の魔女……。その名は、ウィルソン。
ウィルソンブラウニー ←ココアはバンホーテンのものを使用したのかな?