まるで時代劇――外来人としてはそういう感想を抱かずにはいられないわね、幻想郷の人里ってさ。
学校じゃなく寺子屋なんだ――外来人だもの時代錯誤にカルチャーギャップくらい抱くわ。
寺子屋の庭で子供達が遊んでいる――外の世界も幻想郷もこういうところは変わらないものね。
「モテモテねえ」
子供達に竹トンボの上手な飛ばし方を教えていた、長い白髪の美少女に声をかける。
するとほがらかな笑顔で振り向き、寺子屋の外の街路に立っている私の姿を認めた。
「菫子か。人里にいるとは珍しい」
「妹紅さんが人里にいるってのも珍しい気がするけどねー」
私はオカルト目当てで幻想郷に来ているので、妖怪に襲われないよう人々が慎ましく暮らすだけの人里というのは、あまり興味を惹かれない。それよりは巫女や魔法使いや仙人や、妖怪が跳梁跋扈する、そんな世界を楽しみたいのだ。
妹紅さんは不老不死の人間なので、寿命のある人間と一緒に暮らすのは色々と不都合があるのだろう。漫画などでよくあるパターンだ。不老不死は孤独だのなんだのみたいな。真に優秀で恵まれた人間なら不老不死の方が人生楽しいだろうと思っていた時期もあったけど、妹紅さんと仲良くなってからは……よく、分からない。
まだ遊びたがっている子供達にもう解散だと告げて、植木と柵を軽々と飛び越え、私の隣へとやってくる。
子供達は残念がりながらも、各々好き勝手に遊びを続行している。元気だなぁ。
「で、わざわざこんなとこまで……なにか用か?」
「永遠亭ってところ、行ってみたくて」
「あー……どっか具合悪いのか?」
妹紅さんは気まずそうに言った。
私を気遣っている訳ではなく、単に永遠亭に行きたくないだけだろう。永遠亭の主と不仲だってことは霊夢さんから聞いている。
それでも永遠亭に行きたがる怪我人や病人がいたら親切に案内するってんだから、人がいいなぁ。
「単なる好奇心。あとは外で不治の病の薬でもあったら面白いかなって。ハゲの治る薬とか」
「ハゲたことないから分かんないや」
妹紅さんは髪が長すぎるだけじゃなく、毛の本数もかなり多いと思う。
手入れはリザレクションすれば楽そうだけど、頭重くないのかな?
「それにしても意外。妹紅さんって子供好きだったのね」
「そういう訳じゃないよ。慧音に会いにきたついでだ」
「けーね?」
「ン……寺子屋の教師。結構つき合いが長いんで、色々とな」
結構つき合いが長い……不老不死にそう言わせるってことは、結構なご年配なのだろう。
妹紅さんがチラリと寺子屋を見たので視線を追ってみると、窓の向こうに二つの人影が見えた。
変な帽子をかぶった綺麗な女の人と、たっぷりと白髭を蓄えたハゲ頭のお爺さんが何事か話し合っている。
あのお爺さんが慧音さんか。妹紅さんとはいつ頃に知り合ったのだろう。
妹紅さんと外見年齢が同じくらいの頃か、あるいはもっと幼い頃からか……。
きっと「大きくなったら妹紅お姉ちゃんと結婚する!」みたいなやり取りもあったんだろうな。
不老不死ネタのお約束だけど、漫画でならともかく友達の体験となれば笑ってしまうのは不謹慎……いやまあ私の想像だから実際にあったかは分からないけど。
でも、男と女、寿命ある人間と寿命なき不死者……男が老人になるまで交流が続いているとなれば、自然と数々のドラマを乗り越えてきたのは間違いない。
「ねえ、ハゲの治療薬があったら慧音さんにプレゼントでもする?」
「……は? いや、必要ないだろ。アレでバランス取れてるし」
「うーむ、確かに」
あの見事なハゲ頭に、立派な白髭という風貌で、仙人めいたオーラが立ち昇っている。
下手に髪の毛を生やすより、今のままの方がカリスマを感じる。
「……? ほら、永遠亭に行くんだろ」
「あ、はーい」
こうして妹紅さんに案内されながら、妹紅さんと慧音さんのラブロマンスを色々と妄想してしまった。
私も女子高生なんだなぁと実感。
○ ○ ○
幻想郷は自然がいっぱい。その辺を歩いているだけでハイキング気分になれる。
つまり交通の便が悪いということだ。
私達のように空を飛べなきゃ大変なんだろうなぁ……。
日本の田舎でも車が必需品なんて言われてるのに、幻想郷は車もバスも、電車もない!
廃線が幻想入りして電車が走り回ってたら楽なのになー。
まあ、そんなことある訳ないかーあははー。
なんて思ってると、ガタンゴトンという電車が走っているような音が遠くから聞こえてきた。
不審に思ってそちらを眺めてみたが、黒い……空間の裂け目? のようなものが森の中にあり、青い髪をした誰かが上空高くすっ飛ばされていただけで、電車の走行音らしきものも聞こえなくなっていた。やっぱり気のせいかな。
そんな風に割と平和に幻想郷の空を楽しんでいると、今度は妙に騒々しい歌声が聞こえてきた。
下方の森の木陰から聞こえてくる。聞こえてくる。聞こえてくる。
なんか目に違和感が……いや、気のせいかな?
「フッフッフッ。飛んで火に入る夏の……」
と思っていると、木陰から唐突に妖怪が飛び上がってきた。茶色の服を着て、背中から翼を生やしている。
歌う鳥……ウグイスの妖怪かしら。
「夏の……飛んで火に入るなんとやらとはまさにこのことよー!」
推定ウグイスは確定馬鹿。
「飛んで火に入る夏の鳥な、夏の鳥」
「ふぇっ!? と、鳥が火に!? それじゃあ焼き鳥になっちゃうじゃないのよー!」
妹紅さん確定意地悪。
「ああそうだ。いきなりやる気なんだから、焼き鳥にされるのも覚悟の上だな?」
「なにおー! 私の歌を聞いて鳥目になってるくせに、威張るんじゃないわ!」
「今は昼だ」
「あ、あれ? さっきまで夜だったような……夢でも見たのかなぁ?」
やっぱり馬鹿……。
鳥目ってアレよね、暗いと見えないっていう。
「なんだか仲よさそうね。妹紅さんの友達?」
「ミスティア・ローレライって奴で……焼き鳥撲滅運動なんてもんしてるから、プライベートでちょくちょく突っかかってくるんだ。私の弾幕が焼き鳥なせいでな」
ローレライ……ウグイスじゃなくセイレーンだったか。
セイレーンの歌は人を狂わせるというけれど、鳥目にするだけってなんともショボいセイレーンね。
でも海で鳥目にされるのは危ないのかな? 星が見えなくなるし、船の操作も大変そうだし。
妹紅さんはため息をつく。
「屋台やライブの常連なんだから、プライベートでももう少しだな……」
「ソレはソレ、コレはコレ、アレはアレ、ドレはドレ、ミファはミファ、ソラはソラ、シドはシドよ!」
「ぬるま湯じゃないのは結構だが、お前じゃ弱すぎてイマイチ燃えられん」
「もはや問答無用、覚悟ぉー!」
両手の爪を鋭く伸ばし、翼を大きく広げるミスティア・ローレライ。推定セイレーンの確定馬鹿。
こうして見ると服のセンスはともかく、格好よさと可愛さを両立したビジュアルしてるわね。
ま、クールでホットな妹紅さんには劣るけど。
「人間は人間らしく妖怪に狩られればいいのよ! ヒューマンケージ!!」
「鳥は鳥らしく焼かれてろ。火の鳥、鳳翼天翔!!」
ミスティアの手から放たれる、青光する妖力の鳥が妹紅さんに迫る。
妹紅さんの手から放たれる、燃え盛る炎の鳥がミスティアに迫る。
そして。
下方の木陰から真っ黒な塊としか表現しようのないモノが、妹紅さんに奇襲をかけた。
「妹紅さん! 下ッ!」
「なにいっ――!?」
すでに強力なスペルを放った反動で、身体が硬直している妹紅さん。
炎の鳥が青い鳥をふき飛ばし、眼前の敵であるミスティア・ローレライが劣勢に陥ったというのに。
謎の暗黒空間はいともたやすく妹紅さんの全身を呑み込んでしまった。
「イダッ!? なんだ、やめ、かじるな!」
まさか一瞬で暗黒空間にぶち撒かれて即死してしまったのではと思ってしまったが、元気な悲鳴が聞こえてきた。
実際ぶち撒けられても平然と生き返るんだろうけど、別の空間とかに飛ばされたらどうなっちゃうんだろ。
「このっ――自傷火焔大旋風!!」
暗黒空間の内側から巨大な火炎の奔流が流出する。
それはまさしく大旋風となって大空に渦を巻き、肌を焦がすような熱風が私にまで届いてきた。
さすが妹紅さん、すごい火力。
「わははのはー! おゆはんゲーット!」
そして、火焔大旋風から弾き飛ばされる小さな少女。
金の髪に黒い服の妖怪らしく、両腕でなにか棒のようなものを抱えている。
ミスティア・ローレライはそんな彼女に飛びついて身体を支えた。
「ルーミア! さてはあんた、私をダシに使ったわね!」
「いやー、気持ちよさそうに昼寝してたからさー。周りを闇で覆ってからかおうと思っただけなんだけど、思わぬ漁夫の利を手に入れてしまった。ほら!」
ルーミアと呼ばれた少女妖怪は自慢気になにかを掲げる。
それは、人間の腕の形をしていた。
断面図が、たまたま私の方に向けられていた。
赤い肉から、赤い血がドクドクと流れ落ちる中、白い骨だけがやけに目立った。
生理的嫌悪がぞわりと這い上がり、私は息ができなくなってしまう。
「おお、新鮮な人肉! ナイスよルーミア、私がおいしく料理したげる!」
「という訳で、食べてもいい人類よさらば! またお肉ちょーだいねー」
ケラケラ笑いながらミスティア・ローレライとルーミアは急降下。森の木陰に身を隠し、いずこかへ逃げ去ってしまった。追いかけることもできず、ただただ空を舞っているだけの自分が情けなく思える。
火焔大旋風の勢いが弱まり、姿を現した隻腕の妹紅さんを見つけて、ますます……胸が苦しくなる。
「イテテ……くそう、妖怪に喰われるのは久し振りだな……」
「も、妹紅さん……大丈夫?」
どこからどう見ても全然大丈夫じゃない大怪我だ。
けれども妹紅さんはほがらかに笑う。
「平気平気、ほら」
断面図がこちらに見えないようもう片方の手で隠しながら、妹紅さんは再び全身を炎で覆った。
今度は柱のように垂直に燃え上がり、その中で妹紅さんのシルエットが砕け散る。
火柱が消えてみれば、そこには五体満足の妹紅さんの姿があった。
ああ、よかった――さすが不老不死。桁違いの再生能力。
「しかし、そうか。私は里の人間じゃないから食べてもいいって訳だ。モテモテで参っちゃうね」
「腕……本当に平気? 痛くない?」
「うん、平気平気。はい、握手」
安心させるように私の手を握り、しっかりと力を込めてくる。
ぬくもりもやわらかさも、極々当たり前の、ただの人間のものと区別がつかなくて……喜べばいいのか憐れめばいいのか、よく、分からない。
とりあえず妹紅さんに心配させないよう明るく振る舞わなきゃ。
「まったくもう、心配させないでよ」
「うーん、雑魚と思って侮りすぎた……ぬるま湯みたいなこと言ってないで、次からは容赦なく焼き殺すか」
「相変わらず攻撃的なのね……」
そんなだから向こうも攻撃的に接してくるのかもしれない。挨拶には挨拶が、弾幕には弾幕が返ってくるものだ。
指摘した方がいいのかしら?
でも妹紅さんって死にたがりだから、刺激を抜いたら鬱病の自殺常習犯になりそうで怖いし……現状維持で!
○ ○ ○
無事に迷いの竹林に……無事? まあともかく到着したので、妹紅さんの案内で竹林を進む。
鬱蒼と茂りに茂げ渡る竹、竹、竹。
同じ景色が延々と続き、立ち込める霧のせいで遠くも見えず、同じところをグルグル歩き回っている錯覚に陥ってしまう。実際妹紅さんの案内が無ければそうなっているのだろう。
「それにしても、こんな目標もなにもないのによく迷わないわね……」
「基本的には妖精の仕業よ。竹林の妖精は人を迷わせるのが大好きでな……順路を覚えるより先にこっちの対策をしなきゃどうにもならん」
「どんな対策してるの?」
「私は妖精に顔が利くからな、迷わされることはない。竹林で暮らしてる連中は妖精に顔が利く奴が多い。霊夢なんかは妖精を無視して真っ直ぐ飛んでるだけで目的地につけるらしいが」
「あー……あっちこっちワープしまくってるのに、本人は真っ直ぐ飛んでるつもりなんだっけ……」
霊夢さんらしいと言えばらしいのだが、つくづくインチキな巫女である。
「他にも幻覚を見抜いたり、むしろ幻覚を操ったりできる奴も惑わされないな。そういう住人もいる」
「うーん……私には無理そう。GPSが使えたらなぁ」
無駄とは承知でスマホを取り出す。当然ながら現在地不明。迷いの竹林だから――というより幻想郷だと常にこうだ。
さすがに対策の立てようがないなと落胆していると、妹紅さんがスマホを覗き込んでくる。
「そうそう、電子系の対策も有効らしいぜ。妖精には難しすぎて手に負えないんだそうだ」
「へー。あとで役立ちそうなアプリでも探してみようかな」
「歩いた道を自動記録するプログラムとかないの?」
「そういうのってGPS機能してなくても動くのかなぁ……んんっ?」
「タブレットの画面小さいくて見づらい。立体映像とか出せない?」
なんかさっきから妹紅さんの発言がおかしい。
まるで外の世界の現代人のような単語を口にしている。
「妹紅さん、言葉の意味分かってる?」
「なんとなくは」
「デジタル……電子機器に強かったりします?」
「いや全然。式を説明できないし、教えてもらってもチンプンカンプンだ」
式を構造やプログラムと受け取るなら、私にだって無理だ。
文明の利器を使うことはできても、作ったり構造を説明したりするなんて一般人にはできないのが普通だもの。
そういう現代人めいたノリを妹紅さんから感じる。
「もしかして使ったことあるの? スマホとかパソコンとか」
「いや。ゲームくらいはするけど、そういうややこしいのは使ってるの見たことあるだけ」
「幻想郷に電子機器が!? 外の世界の品を扱ってる香霖堂でさえ"アレ"なのに!?」
「永遠亭にいっぱいあるよ。菫子のみたいなタブレットも、古書型ノートブックとかいうのも」
「薬屋のはずじゃ……」
オカルト的カルチャーギャップはドキドキとワクワクも備わってるけど、科学技術的カルチャーギャップを味わうことになろうとは。
妹紅さんも特別詳しいって訳じゃなさそうだし、根掘り葉掘り訊ねてもどれだけ参考になることやら。
大人しく永遠亭を直接確かめた方がいいかも……。
などと思案していると、突然遠吠えが響いてきた。それも結構な間近から。
「アオーン! 妹紅発見助かったぁー!」
竹と霧を突き抜けて、前方から猛烈な勢いで黒髪の女の人が走ってきた。
頭部には立派な獣耳。つまり犬の妖怪!
「影狼か。どうした?」
「道に迷っちゃったのよー。ちゃんと匂いをたどってたはずなのにぃ」
かげろう……陽炎? 影の狼なら犬じゃなく狼の妖怪かな?
影狼にしがみつかれた妹紅さんは、訝しげに眉を潜めた。
「今さら迷ったのか? もう竹林に暮らしてだいぶ経つだろう」
「うう~……だから慌ててたのよう。妹紅の匂いがした時は天の助けと思ったわ」
「危険区域にでも近づいたのか?」
「近づいてないはず……わかさぎ姫からのお届け物を池の大ナマズさんに渡したあと、バミューダトライアングルを通り抜けたはずなんだけど、いつまで経ってもサルガッソーにたどり着けないまま匂いも方向も見失って……」
「モアイ像は確認した?」
「ええ。来週のトレンドはクリスタル・スカル」
「それだ。モアイ像とクリスタル・スカルが合わさり頭と頭でかぶってしまった……」
「あっ!? つまり多方次元の連結共振が発生してエリア51に小さなズレが生じていた?」
「ズレを感覚だけで知覚するのは至難の業だからな。だがこれだけ分かれば現在地も把握できるな?」
「アリアドネ・ルートの中間区域」
なに言ってんだろこの二人。
オカルトに精通していれば聞き覚えのある地名や単語がいっぱいだし、ジョークの類だと思いたい。
「いやー、さすが妹紅だわー。迷いの竹林に一番詳しい人間なんじゃないの?」
「人間の中じゃ一番だが、妖怪を入れたら上位三位にすら入れんよ。竹林に暮らし始めてまだ四百年くらいだし」
妹紅さんってそこらの妖怪よりよっぽどオカルトな存在なんだなぁ。
「あら? そっちのお嬢さんはどなた?」
「外の世界の人間でな。幻想郷に頻繁に観光旅行に来てるんだ」
「うわ、それはまた随分と骨太な子ねぇ」
「食べちゃ駄目だよ」
「食べないよぅ……。人間の肉は魅力的だけどね。でも、妹紅だけじゃなく巫女やら化け狸やら……鬼の匂いまでこびりついてるじゃない。怖いわー。手を出したらあとが怖いわー……」
巫女や化け狸は分かるけど、鬼?
そういえばカセンちゃんに小さな鬼娘が絡んでるのを見た覚えがある。あいつの匂いかな?
仙人なのに鬼に粘着されて可哀想だなー……。
「じゃあ私の肉でも食べる?」
「だから食べないってば! それに妹紅の肉だなんて妙なことになりそうだし」
「よーし、お前に喰われたら体内でリザレクションしてやろう」
「だからッ、食べないってば!」
見かけは美人なのに、ポンコツで可愛い狼さんだなー。
それにしてもよく懐いている。
「妹紅さんって友達いなさそーに見えて、意外と顔広い?」
「ああ? 誰が友達いなさそーだって? 友達くらいだな……」
指を一本立て、二本立て、停止する妹紅さん。
えっ、それ友達数えてたの?
「……私と慧音さんだけ?」
「ちがっ………………か、影狼。お前、私の友達?」
「えっ!? う、うーん……仲のいいご近所さん?」
おおっと、雲行きが怪しくなってきた。
不老不死の孤独がぞわぞわ這い上がってきた。
……いや孤独は孤独でも、これ、不老不死に由来する孤独? ただの人づき合い苦手系?
「妹紅さんって、霊夢さん達とは仲よくないんですか?」
「い、いや、友好的な関係だとは思うけど、霊夢が友達って言われると……一緒に遊んだりはしないし……。むうう、魔理沙とは気が合うけど、そっちもどちらかというと、仲のいい知人って感じで……」
それ、友達って言っていいと思うんだけどなぁ。
友達の線引きがへたっぴなのかもしれない。
悩んでいる妹紅さんを見て、影狼が首を傾げる。
「あれ? お姫様は友達じゃないの?」
「ハアッ!? 誰があんな性悪女と!」
妹紅さんはヤカンのように沸騰し、熱気を立ち込めさせた。
しかし影狼はどこ吹く風。
「えー。だってこないだ永遠亭のお月見にお呼ばれしてたけど……妹紅がいないの気になさってたわ」
「フンッ。誰があんな奴の誘いに乗るもんか」
「意地っ張りねぇ」
影狼は呆れ顔を浮かべ、同じように苦笑を浮かべている私と視線が合った。
「ところでそちらのお嬢さん、観光旅行だっけ? 竹林は面白スポットも恐怖スポットも危険スポットもいっぱいあるけど、どこ行くつもりなの?」
「永遠亭よ。外の世界には無い面白いものが色々ありそうだし」
「はー、永遠亭……あっ、そういうことか」
ニヤリと影狼が笑う。
「病人や迷子の案内とか、観光の案内とか、口実を見つけては永遠亭に通っちゃってるツンデレさんなのね」
「よーし、今日の夕飯はえのころ飯だ!」
嗜虐的な笑みを浮かべ、妹紅さんは指先に炎を灯らせた。
脅すだけかと思いきや攻撃スイッチが入ってしまったらしく、三筋の炎が空気を切り裂き影狼に迫る。
狼の持つ野生本能の賜物なのか、毛先を焦がすのみでギリギリ回避する影狼だったが、妹紅さんはさらに追撃の火焔鳥を無数に放った。舞い散る火の粉が線香花火のようにきらめき、熱気によって霧が払われていく。
「キャイン! ツン期間が長すぎて強すぎる!」
迷子の狼さんは脱兎の如く逃亡し、あっという間に竹藪の向こうに姿をくらませてしまった。
「ねえ。あの狼、迷子だったんじゃないの? 大丈夫?」
「現在地は把握したから普通に帰れるさ」
ミステリースポットめいた地名が乱発してたあの会話、マジだったんだ。
迷いの竹林とはいったい……。
「で、実際どうなの?」
「なにが」
「私を案内してくれるのも、永遠亭のお姫様ってのに会いに行く口実なの?」
「アホ言ってないで、行くぞ」
そう言って足早に歩き出す妹紅さん。
置いていかれないよう、私も慌てて駆け出した。
永遠亭に行くなら妹紅さんに案内してもらうのが一番だと聞いていたのだけれど、なんだか色々あるみたいね。
○ ○ ○
静かで、静かで、静かで……。
不思議と心身が落ち着いてしまう、不思議な空気の漂う、不思議な屋敷が竹林の奥底にひっそりと佇んでいた。
永遠亭――その名前が妙にしっくりとくる。
「ゲエッ、妹紅! なんでこんなタイミングで来ちゃうのさ」
入口には大きな兎耳を生やした小柄な少女が立っていた。
「てゐか。こんなところに突っ立って、どうかしたのか?」
「鈴仙の帰りを待ってんの。人里に薬売りに行ってるから……」
「なんであいつの帰りなんか……永琳がまたなんか無茶振りでもしようとしてんの?」
「いや……今回はむしろ……ああもう、迎えに行った方がいいのかなぁ。けど迂闊に永遠亭を離れるのも……」
チラチラと永遠亭へ視線を向ける、てゐという小兎。
どこか怯えたようにも見える。
「うーん。私、お邪魔かしら」
「んん? そっちのそいつ、確か鈴仙とボールぶつけ合ってた人間だったね。どしたの、病気?」
「いや、幻想郷観光の一環で永遠亭を見学してみたいなーって……でもそれどころじゃないみたいね」
一瞬、てゐの眼差しが細くなる。
瞳が淡く輝いたようにも見え、心を覗き込まれるような奇妙な感覚が這い上がった。
「いやいや、別にそんなことないよー? まあちょっと上がってきなさいな」
「おいコラ、私達をどうする気だ」
一転歓迎ムードになるや、妹紅さんがてゐとの間に割って入って警戒を強めた。
「いやいや、別にどうする気もないよ。ちょいとお茶でもいかがかなと」
「厄介事に巻き込む気だ……絶対厄介事に巻き込む気だ……」
「爆弾ってのは爆発しなければ無害だから平気へっちゃら」
「爆発しそうになったら私達にパスする気か……」
「大丈夫、そっちの人間には手ぇ出させないから!」
「私はどうなってもいいと。輝夜がまたなにかやらかしてるのか?」
私をほったらかしにして、ぎゃあぎゃあと口論を始めてしまった。
うーん……なにがあるのか分からないけど、私は大丈夫っぽいし、妹紅さんは不死身だから私以上に大丈夫だろう。
という訳で二人の横をすり抜けて永遠亭にお邪魔させてもらう。
近くで見るとますます不思議な感じのする建物だ。
遠目には長い歴史を感じさせるものがあったのに、全然傷んだ様子が見えない。せいぜい築数年といったところだ。
感心している私を、後ろから妹紅さんが追いかけてくる。
「菫子! 勝手に行くな危ないぞっ」
「えー、大丈夫よ。私だって腕に結構自信あるし、妹紅さんだっているんだもの」
玄関の戸へと手を伸ばし、ガラリと、勝手に開いた。
もちろん自動ドアではない。反対側からタイミングよく開けた人がいるだけだった。
中華風の黒い衣装を着た、長い長い金色の髪の、赤い赤い瞳の、女。
空洞のように吸い込まれそうな瞳は、眼前にいる私を素通りして、その後ろにいる妹紅さんへと向けられている。
「……気配がする。同じ気配が」
「ああ?」
ぶしつけに奇っ怪な言葉を向けられ、妹紅さんは眉をひそめた。
女は私など眼中にないとばかりに押しのけ、真っ直ぐ妹紅さんに歩み寄る。
なにか、根本的な歯車がズレているような違和感を覚えてしまう。
「ちょっと純狐~、急にどうしたのよ」
「あら、妹紅じゃない。いらっしゃい」
そしてさらに、二人の女性が永遠亭の中から現れた。
その姿を見て私はぎょっとしてしまう。
片方は普通のビジュアルだった。真っ黒なストレートヘアーを伸ばした、和風美人の見本のような……いや、芸術品と言えるほど磨き上げられた美貌の持ち主。
竹取物語のかぐや姫みたいな――つまり彼女が妹紅さんの嫌う輝夜なのだろう。
うん、こっちは普通。ものすごい美人っていうのは特筆すべき点なんだけど、もう片方がエキセントリックすぎて、普通と言わざるを得ないというか……。
もう片方は、すごかった。
顔立ちもスタイルもすごくいい、美人と言える容姿なのは間違いない。
セミロングの赤髪も色鮮やかですごく綺麗。
それらのすごいを、塗りつぶすほどのインパクトがあった。
まず、頭の上に赤いボールを載っけていた。
赤いボールである。バレーボールくらいの大きさの赤いボールを、黒い帽子の上に載っけている。
さらにボールは鎖がついており、反対側は彼女の首に巻かれているチョーカーと繋がっていた。
そのチョーカーからはさらに二本の鎖が伸び、その先端には青い地球儀と、月の模型らしきもがくっついている。
となると、頭の上の赤いボールも星の類なのだろうか。火星?
このインパクト、壮絶の一言に尽きる。
しかしまあ、ここは幻想郷、オカルトが常識である世界。
きっと魔術的な道理のある特殊な装備かなにか、なのだろう。
でも彼女の着ているTシャツはなんなの。
首どころか肩まで開いている黒字のTシャツに、大きな文字で『Welcome Hell』と書かれていた。
ハートマークつきで。
まるで変な漢字の書かれたTシャツを着ている外人を見ているかのような気分だ。
いや……見た感じ西洋人っぽいし、英語圏の人でなくとも英語自体が簡単な単語なので、読めないなんてことはないだろう。多分ネタで着てるだけ、ウケ狙いって奴よ。
そして魔術的道理は確実に介在していない。
「あら。その子がどうかしたの?」
Welcome Hellも私には興味を示さない。純狐――あの女を第一に気にかけ、そしてあの女が気にかけている妹紅さんに意識を向けている。
私がちょっと地味目だからって、こんなにも無視される謂われはないはずだ。
けれどある種、それこそが自然であると思えてしまうのが奇妙。
まるで、そう、象が足元の蟻など気にかけないかのような――。
「こちらのお嬢さんは患者かしら。うちになんの御用?」
けれどもう片方、推定輝夜さんは私に声をかけてくれた。
異様ななにかが進行している中、通常の感覚で接してもらえたのが妙に嬉しい。
「えっと、私、妹紅さんの友達で菫子っていうんだけど……永遠亭ってどんなところかなーって、見にきてみたの」
「あら、つまりお客さんね。こっちを片づけたらお茶菓子でも用意させるわ」
「はぁ、どうも……」
片づけるべきこっちとは、妹紅さんと純狐さん、どちらのことなのだろう。
振り向いてみれば、二人は間近に立って睨み合っていた。
いや……妹紅さんは喧嘩を売られていると思っているのか、確かに睨んでいる。
しかし純狐さんは、どちらかというと観察しているように見える。無機質に、機械的に。
「……なんだ、なにか用?」
「月の者ではないのに、同じ薬の気配がする」
「フンッ。輝夜から奪ってやったからな、確かに私も"あいつ"と同じさ」
妹紅さんは喧嘩を売るように輝夜さんを睨んだ。やっぱり相当仲が悪いみたい。
その視線を追うように、Welcome Hellも輝夜さんに声をかけた。
「ねえ。あっちの子、地上人なのにあの禁薬飲んじゃったの?」
「ええ。永琳が作ったものを地上に残したんだけど、それ盗んで飲んで、なぜか逆恨みされてるわ」
「私でも手に負えないものを、地上にばら撒かないでもらいたいんだけど……蓬莱人の対策って面倒なのよね」
「あなたなら面倒なだけとも言えるのね。例えばどうするの?」
「タルタロスに棄てて蓋」
タルタロス……ギリシャ神話における冥界の、さらに奥底にあるという奈落だ。
神々ですら手に負えない強大な怪物や巨人族が封じ込められているという。
随分と規模の大きい言葉に、わずかだが輝夜さんの顔を強張らせた。
「タルタロスの管理は冥界の仕事のひとつ。不死身の魂だろうと自力でタルタロスから脱出などできようはずがない。ふふっ、あなた達にはそんなことしないから安心なさい。この地域は管轄も違うし、純狐が退屈しちゃうわ」
薬屋で、竹取物語で、電子機器があって、ギリシャ神話で。
読めない……永遠亭がどういう場所なのか……。
でも今はそれより。
「ちょっと。なんかよく分からないけどあの純狐さんって人、止めなくていいの?」
「気配の正体がただの地上人って分かったし、ほっといても平気よ」
「復讐者同士で意外と気が合うかもね」
Welcome Hellも輝夜さんも安楽に構えている。
なら大丈夫なのかなと思いかけたが、塀の門のあたりで縮こまっている白兎を見つけて嫌な予感が高まった。
てゐ……だったか。なぜ隠れてこちらを観察してるのだろう?
爆弾は爆発しなければ無害だと言っていたけれど、もしかしてこの純狐さんとかいう女が爆弾なのかしら?
「復讐~? なんだ、お前も輝夜に恨みでもあるのか」
距離が近いため当然私達の会話も届いており、妹紅さんは挑発気味に訊ねる。
「月の姫はすでに地上に堕ちた。月の民ではない。ならば"お姫様"はもう構わない」
「なんだ……"それっぽっち"ですむ程度の憎しみか」
あれ? 純狐さんの復讐相手って輝夜さんでいいの?
否定してないから合ってるのかな……輝夜さん恨まれすぎ。
などと思っていると、突然身体が震えた。
急速に空気が冷えてきたような、張り詰めたような……。
「……今、なんて?」
「輝夜が地上にいるってだけでもういいとか、軽い憎しみで羨ましいよ。こちとら憎んでも憎んでも切りがないレベルだからな。真の復讐者ってのは、千年以上の時を経ても憎しみを燃やし続ける過酷な茨道さ……その程度ですんでるなら、復讐を忘れて平和に暮らした方が、きっと幸せだよ」
ピシッ――と空気が割れた気がした。
根本的にズレていた歯車が、致命的な歯車と噛み合ってしまったのだと直感する。
「も、妹紅さん! それくらいで――」
「ほう……あなたの憎しみは私以上だと?」
が、純狐さんの興味はすでに悪い意味で引いてしまったようで。
「私ほど憎悪に身を焦がしている奴なんていないさ。こないだも輝夜を倒すべく壮絶なバトルをしたしな」
「楽しい呑み比べだったわねぇ」
輝夜さんが壮絶なバトルの内容を口に出し、楽しそうに笑う。
どの辺が壮絶だったんだろう。肝臓? 腎臓?
「コラ輝夜、茶々入れるな!」
「茶々を入れ合ったり、馴れ合ったりするあなたより、私の憎しみが劣る……? あの子を喪った私の憎しみが……?」
どこか愉しそうに、どこか壊れたように、純狐さんは唇を歪め、歪め、哄笑する。
月まで届かんばかりに高く、高く、声を上げて笑う。
「不倶戴天の敵、嫦娥よ。見ているか!? お前と同じ蓬莱人を八つ裂きにし、予行練習と洒落込もう!!」
嫦娥? 嫦娥って確か中国神話の登場人物だったような……。
ていうか、不倶戴天の敵がそれなら、純狐さんの憎んでる相手って輝夜さんじゃないじゃない。
ああでも勘違いしても仕方ないような会話の流れだった気も。
「やる気か? こっちこそ輝夜を八つ裂きにする予行練習やってやんよ!」
妹紅さんももう引く気が無いみたい。
ここまでのいざこざはじゃれ合いみたいなものだったけど、本気で人を怒らせるのはよくないって。
こんなんじゃますます友達ができなくなっちゃうわ。
嫌な予感の正体はこれだったかー。
純狐さんの背後から揺らめくオーラが無数に出現し、妹紅さんも背中から炎の翼を広げて熱気を高める。
「ちょ、ちょっと! 今回はさすがに妹紅さんの煽りすぎだし、素直に謝った方が――」
止めた方がいいよねこれ。でも私一人で妹紅さんを止められるかな?
門の陰に隠れていたてゐが脱兎の如く逃げ出すのがチラリと見えたし、輝夜さんは妹紅さんに油を注ぐだけになりそうだし。他に頼れそうな人は――。
「そっちの変なTシャツの人も止めてください! 妹紅さんすごく強いから、お友達が怪我しちゃうわよっ」
「変な……Tシャツ?」
ピシリッ――また空気が割れた気がする。
Welcome Hellも瞳をギラギラさせ、剣呑な雰囲気をまとってしまった。
「よーし、私も純狐と同じように遊ぶとしましょう。ふふふ……いつぞやの人間をなぞるかのように『貴方は私に暴言を吐いた』……それだけの理由で貴方を地獄へ堕とす。ただそれだけの理由だ! 死んでも悔しがれ!」
「ええー!? ウケ狙いじゃなかったのそのファッション!?」
言ってから、火に油を注いでしまう発言だったと反省した。
事実、Welcome Hellの雰囲気はさらに苛烈なものへと変貌しつつある。
「いい度胸ね、気に入った! 殺すのは今すぐにしてやる! 純狐、せっかくだしいつぞやみたく一緒にやっちゃいましょう。タッグバトルよタッグバトル」
「あーもう、仕方ない! 怪我しても知らないわよ!」
こうして、最初から勝利が決まっているような最強タッグ菫子&妹紅が結成してしまった。
純狐さんとWelcome Hellなんか軽くのしてやろう。
「あらいけない。永琳を呼んでくるから、それまで死んじゃダメよ」
輝夜さんも慌てて人を呼びに行ってしまった。
日頃から妹紅さんと戦っているのなら、その実力は身をもって知っているはず。
薬屋さんで怪我人続出したら困るものね。
ま、営業妨害にならないよう手加減しときますか。私ってば優しいなー。
● ● ●
「……はっ!?」
眼前に迫りくる巨大な暴虐に押しつぶされんとした瞬間、私は目を覚ました。
自分の家の、自分の部屋の、自分のベッドで。
どうやら時間切れのようだ。
私は夢を見ている間、幻想郷に入り込むことができる。
逆に言えば現実の私が目を覚ませば、幻想郷から一瞬でこちらに戻ってこれるのだ。
「助かっ――」
思わず漏らした言葉も、息が詰まってしまって言い切ることができなかった。
なにがあったかと言えば――悪夢であり、恐怖という事象そのものだ。
あのWelcome Hellと純狐さんが繰り広げる弾幕はあまりにも凄まじく、私と妹紅さんのタッグがあっという間に崩壊した。
早々に無理を悟ってひたすら逃げ回っていた私はまだいい。
不死身の妹紅さんは意地になって敵陣の真っ只中に突っ込み、幾度となく花火のように弾け飛んでいた。
反撃の暇も与えられず、一片の容赦も無く、無残に凄惨に、宣言通り八つ裂きにされていた。
今まで幻想郷で出会った誰よりも強く、何よりも恐ろしい。
そんな相手が、二人同時に現れるなんて――。
あの地獄に一人残してきてしまった妹紅さんには申し訳ないけれど、正直助かったと思う。
目を覚ますのがもう一瞬遅れていたら、私は物理的に叩き潰されていたに違いない。
妹紅さんは今も物理的に叩き潰されたり八つ裂きにされたりしているのか……不死身だから大丈夫だと思う反面、何度も何度も殺される恐怖を味わわねばならない境遇に同情してしまう。
タルタロスに堕とされてなきゃいいけど。
冷たい汗で濡れた衣服を鬱陶しく思いながらベッドから降り、襟を緩めて息を吐く。
少しだけ呼吸が楽になって、助かったのだという実感が湧いてくる。
「はぁ……結局あの変なTシャツ女は、なんだったのよ……」
「私は地獄の女神ヘカーティア・ラピスラズリ」
背後から、声。
恐怖という冷気が背筋を駆け抜け、呼吸を止めて振り返る。
そこには青い地球儀を頭に載せ、髪が青く染まったWelcome Hellがいた。
私の肩をガッシリと掴んで逃すまいとし、顔をぐぐっと近づけて愉しそうにほほ笑んでいる。
「続きは地球担当の私がやらせてもらうわ。さあ、地獄までつき合ってもらうわよん」
その後――私と妹紅さんはすっかり参ってしまい、霊夢さん達から心配されるほど大人しくなってしまった。
理由は話していない。思い出したくないので。
END
学校じゃなく寺子屋なんだ――外来人だもの時代錯誤にカルチャーギャップくらい抱くわ。
寺子屋の庭で子供達が遊んでいる――外の世界も幻想郷もこういうところは変わらないものね。
「モテモテねえ」
子供達に竹トンボの上手な飛ばし方を教えていた、長い白髪の美少女に声をかける。
するとほがらかな笑顔で振り向き、寺子屋の外の街路に立っている私の姿を認めた。
「菫子か。人里にいるとは珍しい」
「妹紅さんが人里にいるってのも珍しい気がするけどねー」
私はオカルト目当てで幻想郷に来ているので、妖怪に襲われないよう人々が慎ましく暮らすだけの人里というのは、あまり興味を惹かれない。それよりは巫女や魔法使いや仙人や、妖怪が跳梁跋扈する、そんな世界を楽しみたいのだ。
妹紅さんは不老不死の人間なので、寿命のある人間と一緒に暮らすのは色々と不都合があるのだろう。漫画などでよくあるパターンだ。不老不死は孤独だのなんだのみたいな。真に優秀で恵まれた人間なら不老不死の方が人生楽しいだろうと思っていた時期もあったけど、妹紅さんと仲良くなってからは……よく、分からない。
まだ遊びたがっている子供達にもう解散だと告げて、植木と柵を軽々と飛び越え、私の隣へとやってくる。
子供達は残念がりながらも、各々好き勝手に遊びを続行している。元気だなぁ。
「で、わざわざこんなとこまで……なにか用か?」
「永遠亭ってところ、行ってみたくて」
「あー……どっか具合悪いのか?」
妹紅さんは気まずそうに言った。
私を気遣っている訳ではなく、単に永遠亭に行きたくないだけだろう。永遠亭の主と不仲だってことは霊夢さんから聞いている。
それでも永遠亭に行きたがる怪我人や病人がいたら親切に案内するってんだから、人がいいなぁ。
「単なる好奇心。あとは外で不治の病の薬でもあったら面白いかなって。ハゲの治る薬とか」
「ハゲたことないから分かんないや」
妹紅さんは髪が長すぎるだけじゃなく、毛の本数もかなり多いと思う。
手入れはリザレクションすれば楽そうだけど、頭重くないのかな?
「それにしても意外。妹紅さんって子供好きだったのね」
「そういう訳じゃないよ。慧音に会いにきたついでだ」
「けーね?」
「ン……寺子屋の教師。結構つき合いが長いんで、色々とな」
結構つき合いが長い……不老不死にそう言わせるってことは、結構なご年配なのだろう。
妹紅さんがチラリと寺子屋を見たので視線を追ってみると、窓の向こうに二つの人影が見えた。
変な帽子をかぶった綺麗な女の人と、たっぷりと白髭を蓄えたハゲ頭のお爺さんが何事か話し合っている。
あのお爺さんが慧音さんか。妹紅さんとはいつ頃に知り合ったのだろう。
妹紅さんと外見年齢が同じくらいの頃か、あるいはもっと幼い頃からか……。
きっと「大きくなったら妹紅お姉ちゃんと結婚する!」みたいなやり取りもあったんだろうな。
不老不死ネタのお約束だけど、漫画でならともかく友達の体験となれば笑ってしまうのは不謹慎……いやまあ私の想像だから実際にあったかは分からないけど。
でも、男と女、寿命ある人間と寿命なき不死者……男が老人になるまで交流が続いているとなれば、自然と数々のドラマを乗り越えてきたのは間違いない。
「ねえ、ハゲの治療薬があったら慧音さんにプレゼントでもする?」
「……は? いや、必要ないだろ。アレでバランス取れてるし」
「うーむ、確かに」
あの見事なハゲ頭に、立派な白髭という風貌で、仙人めいたオーラが立ち昇っている。
下手に髪の毛を生やすより、今のままの方がカリスマを感じる。
「……? ほら、永遠亭に行くんだろ」
「あ、はーい」
こうして妹紅さんに案内されながら、妹紅さんと慧音さんのラブロマンスを色々と妄想してしまった。
私も女子高生なんだなぁと実感。
○ ○ ○
幻想郷は自然がいっぱい。その辺を歩いているだけでハイキング気分になれる。
つまり交通の便が悪いということだ。
私達のように空を飛べなきゃ大変なんだろうなぁ……。
日本の田舎でも車が必需品なんて言われてるのに、幻想郷は車もバスも、電車もない!
廃線が幻想入りして電車が走り回ってたら楽なのになー。
まあ、そんなことある訳ないかーあははー。
なんて思ってると、ガタンゴトンという電車が走っているような音が遠くから聞こえてきた。
不審に思ってそちらを眺めてみたが、黒い……空間の裂け目? のようなものが森の中にあり、青い髪をした誰かが上空高くすっ飛ばされていただけで、電車の走行音らしきものも聞こえなくなっていた。やっぱり気のせいかな。
そんな風に割と平和に幻想郷の空を楽しんでいると、今度は妙に騒々しい歌声が聞こえてきた。
下方の森の木陰から聞こえてくる。聞こえてくる。聞こえてくる。
なんか目に違和感が……いや、気のせいかな?
「フッフッフッ。飛んで火に入る夏の……」
と思っていると、木陰から唐突に妖怪が飛び上がってきた。茶色の服を着て、背中から翼を生やしている。
歌う鳥……ウグイスの妖怪かしら。
「夏の……飛んで火に入るなんとやらとはまさにこのことよー!」
推定ウグイスは確定馬鹿。
「飛んで火に入る夏の鳥な、夏の鳥」
「ふぇっ!? と、鳥が火に!? それじゃあ焼き鳥になっちゃうじゃないのよー!」
妹紅さん確定意地悪。
「ああそうだ。いきなりやる気なんだから、焼き鳥にされるのも覚悟の上だな?」
「なにおー! 私の歌を聞いて鳥目になってるくせに、威張るんじゃないわ!」
「今は昼だ」
「あ、あれ? さっきまで夜だったような……夢でも見たのかなぁ?」
やっぱり馬鹿……。
鳥目ってアレよね、暗いと見えないっていう。
「なんだか仲よさそうね。妹紅さんの友達?」
「ミスティア・ローレライって奴で……焼き鳥撲滅運動なんてもんしてるから、プライベートでちょくちょく突っかかってくるんだ。私の弾幕が焼き鳥なせいでな」
ローレライ……ウグイスじゃなくセイレーンだったか。
セイレーンの歌は人を狂わせるというけれど、鳥目にするだけってなんともショボいセイレーンね。
でも海で鳥目にされるのは危ないのかな? 星が見えなくなるし、船の操作も大変そうだし。
妹紅さんはため息をつく。
「屋台やライブの常連なんだから、プライベートでももう少しだな……」
「ソレはソレ、コレはコレ、アレはアレ、ドレはドレ、ミファはミファ、ソラはソラ、シドはシドよ!」
「ぬるま湯じゃないのは結構だが、お前じゃ弱すぎてイマイチ燃えられん」
「もはや問答無用、覚悟ぉー!」
両手の爪を鋭く伸ばし、翼を大きく広げるミスティア・ローレライ。推定セイレーンの確定馬鹿。
こうして見ると服のセンスはともかく、格好よさと可愛さを両立したビジュアルしてるわね。
ま、クールでホットな妹紅さんには劣るけど。
「人間は人間らしく妖怪に狩られればいいのよ! ヒューマンケージ!!」
「鳥は鳥らしく焼かれてろ。火の鳥、鳳翼天翔!!」
ミスティアの手から放たれる、青光する妖力の鳥が妹紅さんに迫る。
妹紅さんの手から放たれる、燃え盛る炎の鳥がミスティアに迫る。
そして。
下方の木陰から真っ黒な塊としか表現しようのないモノが、妹紅さんに奇襲をかけた。
「妹紅さん! 下ッ!」
「なにいっ――!?」
すでに強力なスペルを放った反動で、身体が硬直している妹紅さん。
炎の鳥が青い鳥をふき飛ばし、眼前の敵であるミスティア・ローレライが劣勢に陥ったというのに。
謎の暗黒空間はいともたやすく妹紅さんの全身を呑み込んでしまった。
「イダッ!? なんだ、やめ、かじるな!」
まさか一瞬で暗黒空間にぶち撒かれて即死してしまったのではと思ってしまったが、元気な悲鳴が聞こえてきた。
実際ぶち撒けられても平然と生き返るんだろうけど、別の空間とかに飛ばされたらどうなっちゃうんだろ。
「このっ――自傷火焔大旋風!!」
暗黒空間の内側から巨大な火炎の奔流が流出する。
それはまさしく大旋風となって大空に渦を巻き、肌を焦がすような熱風が私にまで届いてきた。
さすが妹紅さん、すごい火力。
「わははのはー! おゆはんゲーット!」
そして、火焔大旋風から弾き飛ばされる小さな少女。
金の髪に黒い服の妖怪らしく、両腕でなにか棒のようなものを抱えている。
ミスティア・ローレライはそんな彼女に飛びついて身体を支えた。
「ルーミア! さてはあんた、私をダシに使ったわね!」
「いやー、気持ちよさそうに昼寝してたからさー。周りを闇で覆ってからかおうと思っただけなんだけど、思わぬ漁夫の利を手に入れてしまった。ほら!」
ルーミアと呼ばれた少女妖怪は自慢気になにかを掲げる。
それは、人間の腕の形をしていた。
断面図が、たまたま私の方に向けられていた。
赤い肉から、赤い血がドクドクと流れ落ちる中、白い骨だけがやけに目立った。
生理的嫌悪がぞわりと這い上がり、私は息ができなくなってしまう。
「おお、新鮮な人肉! ナイスよルーミア、私がおいしく料理したげる!」
「という訳で、食べてもいい人類よさらば! またお肉ちょーだいねー」
ケラケラ笑いながらミスティア・ローレライとルーミアは急降下。森の木陰に身を隠し、いずこかへ逃げ去ってしまった。追いかけることもできず、ただただ空を舞っているだけの自分が情けなく思える。
火焔大旋風の勢いが弱まり、姿を現した隻腕の妹紅さんを見つけて、ますます……胸が苦しくなる。
「イテテ……くそう、妖怪に喰われるのは久し振りだな……」
「も、妹紅さん……大丈夫?」
どこからどう見ても全然大丈夫じゃない大怪我だ。
けれども妹紅さんはほがらかに笑う。
「平気平気、ほら」
断面図がこちらに見えないようもう片方の手で隠しながら、妹紅さんは再び全身を炎で覆った。
今度は柱のように垂直に燃え上がり、その中で妹紅さんのシルエットが砕け散る。
火柱が消えてみれば、そこには五体満足の妹紅さんの姿があった。
ああ、よかった――さすが不老不死。桁違いの再生能力。
「しかし、そうか。私は里の人間じゃないから食べてもいいって訳だ。モテモテで参っちゃうね」
「腕……本当に平気? 痛くない?」
「うん、平気平気。はい、握手」
安心させるように私の手を握り、しっかりと力を込めてくる。
ぬくもりもやわらかさも、極々当たり前の、ただの人間のものと区別がつかなくて……喜べばいいのか憐れめばいいのか、よく、分からない。
とりあえず妹紅さんに心配させないよう明るく振る舞わなきゃ。
「まったくもう、心配させないでよ」
「うーん、雑魚と思って侮りすぎた……ぬるま湯みたいなこと言ってないで、次からは容赦なく焼き殺すか」
「相変わらず攻撃的なのね……」
そんなだから向こうも攻撃的に接してくるのかもしれない。挨拶には挨拶が、弾幕には弾幕が返ってくるものだ。
指摘した方がいいのかしら?
でも妹紅さんって死にたがりだから、刺激を抜いたら鬱病の自殺常習犯になりそうで怖いし……現状維持で!
○ ○ ○
無事に迷いの竹林に……無事? まあともかく到着したので、妹紅さんの案内で竹林を進む。
鬱蒼と茂りに茂げ渡る竹、竹、竹。
同じ景色が延々と続き、立ち込める霧のせいで遠くも見えず、同じところをグルグル歩き回っている錯覚に陥ってしまう。実際妹紅さんの案内が無ければそうなっているのだろう。
「それにしても、こんな目標もなにもないのによく迷わないわね……」
「基本的には妖精の仕業よ。竹林の妖精は人を迷わせるのが大好きでな……順路を覚えるより先にこっちの対策をしなきゃどうにもならん」
「どんな対策してるの?」
「私は妖精に顔が利くからな、迷わされることはない。竹林で暮らしてる連中は妖精に顔が利く奴が多い。霊夢なんかは妖精を無視して真っ直ぐ飛んでるだけで目的地につけるらしいが」
「あー……あっちこっちワープしまくってるのに、本人は真っ直ぐ飛んでるつもりなんだっけ……」
霊夢さんらしいと言えばらしいのだが、つくづくインチキな巫女である。
「他にも幻覚を見抜いたり、むしろ幻覚を操ったりできる奴も惑わされないな。そういう住人もいる」
「うーん……私には無理そう。GPSが使えたらなぁ」
無駄とは承知でスマホを取り出す。当然ながら現在地不明。迷いの竹林だから――というより幻想郷だと常にこうだ。
さすがに対策の立てようがないなと落胆していると、妹紅さんがスマホを覗き込んでくる。
「そうそう、電子系の対策も有効らしいぜ。妖精には難しすぎて手に負えないんだそうだ」
「へー。あとで役立ちそうなアプリでも探してみようかな」
「歩いた道を自動記録するプログラムとかないの?」
「そういうのってGPS機能してなくても動くのかなぁ……んんっ?」
「タブレットの画面小さいくて見づらい。立体映像とか出せない?」
なんかさっきから妹紅さんの発言がおかしい。
まるで外の世界の現代人のような単語を口にしている。
「妹紅さん、言葉の意味分かってる?」
「なんとなくは」
「デジタル……電子機器に強かったりします?」
「いや全然。式を説明できないし、教えてもらってもチンプンカンプンだ」
式を構造やプログラムと受け取るなら、私にだって無理だ。
文明の利器を使うことはできても、作ったり構造を説明したりするなんて一般人にはできないのが普通だもの。
そういう現代人めいたノリを妹紅さんから感じる。
「もしかして使ったことあるの? スマホとかパソコンとか」
「いや。ゲームくらいはするけど、そういうややこしいのは使ってるの見たことあるだけ」
「幻想郷に電子機器が!? 外の世界の品を扱ってる香霖堂でさえ"アレ"なのに!?」
「永遠亭にいっぱいあるよ。菫子のみたいなタブレットも、古書型ノートブックとかいうのも」
「薬屋のはずじゃ……」
オカルト的カルチャーギャップはドキドキとワクワクも備わってるけど、科学技術的カルチャーギャップを味わうことになろうとは。
妹紅さんも特別詳しいって訳じゃなさそうだし、根掘り葉掘り訊ねてもどれだけ参考になることやら。
大人しく永遠亭を直接確かめた方がいいかも……。
などと思案していると、突然遠吠えが響いてきた。それも結構な間近から。
「アオーン! 妹紅発見助かったぁー!」
竹と霧を突き抜けて、前方から猛烈な勢いで黒髪の女の人が走ってきた。
頭部には立派な獣耳。つまり犬の妖怪!
「影狼か。どうした?」
「道に迷っちゃったのよー。ちゃんと匂いをたどってたはずなのにぃ」
かげろう……陽炎? 影の狼なら犬じゃなく狼の妖怪かな?
影狼にしがみつかれた妹紅さんは、訝しげに眉を潜めた。
「今さら迷ったのか? もう竹林に暮らしてだいぶ経つだろう」
「うう~……だから慌ててたのよう。妹紅の匂いがした時は天の助けと思ったわ」
「危険区域にでも近づいたのか?」
「近づいてないはず……わかさぎ姫からのお届け物を池の大ナマズさんに渡したあと、バミューダトライアングルを通り抜けたはずなんだけど、いつまで経ってもサルガッソーにたどり着けないまま匂いも方向も見失って……」
「モアイ像は確認した?」
「ええ。来週のトレンドはクリスタル・スカル」
「それだ。モアイ像とクリスタル・スカルが合わさり頭と頭でかぶってしまった……」
「あっ!? つまり多方次元の連結共振が発生してエリア51に小さなズレが生じていた?」
「ズレを感覚だけで知覚するのは至難の業だからな。だがこれだけ分かれば現在地も把握できるな?」
「アリアドネ・ルートの中間区域」
なに言ってんだろこの二人。
オカルトに精通していれば聞き覚えのある地名や単語がいっぱいだし、ジョークの類だと思いたい。
「いやー、さすが妹紅だわー。迷いの竹林に一番詳しい人間なんじゃないの?」
「人間の中じゃ一番だが、妖怪を入れたら上位三位にすら入れんよ。竹林に暮らし始めてまだ四百年くらいだし」
妹紅さんってそこらの妖怪よりよっぽどオカルトな存在なんだなぁ。
「あら? そっちのお嬢さんはどなた?」
「外の世界の人間でな。幻想郷に頻繁に観光旅行に来てるんだ」
「うわ、それはまた随分と骨太な子ねぇ」
「食べちゃ駄目だよ」
「食べないよぅ……。人間の肉は魅力的だけどね。でも、妹紅だけじゃなく巫女やら化け狸やら……鬼の匂いまでこびりついてるじゃない。怖いわー。手を出したらあとが怖いわー……」
巫女や化け狸は分かるけど、鬼?
そういえばカセンちゃんに小さな鬼娘が絡んでるのを見た覚えがある。あいつの匂いかな?
仙人なのに鬼に粘着されて可哀想だなー……。
「じゃあ私の肉でも食べる?」
「だから食べないってば! それに妹紅の肉だなんて妙なことになりそうだし」
「よーし、お前に喰われたら体内でリザレクションしてやろう」
「だからッ、食べないってば!」
見かけは美人なのに、ポンコツで可愛い狼さんだなー。
それにしてもよく懐いている。
「妹紅さんって友達いなさそーに見えて、意外と顔広い?」
「ああ? 誰が友達いなさそーだって? 友達くらいだな……」
指を一本立て、二本立て、停止する妹紅さん。
えっ、それ友達数えてたの?
「……私と慧音さんだけ?」
「ちがっ………………か、影狼。お前、私の友達?」
「えっ!? う、うーん……仲のいいご近所さん?」
おおっと、雲行きが怪しくなってきた。
不老不死の孤独がぞわぞわ這い上がってきた。
……いや孤独は孤独でも、これ、不老不死に由来する孤独? ただの人づき合い苦手系?
「妹紅さんって、霊夢さん達とは仲よくないんですか?」
「い、いや、友好的な関係だとは思うけど、霊夢が友達って言われると……一緒に遊んだりはしないし……。むうう、魔理沙とは気が合うけど、そっちもどちらかというと、仲のいい知人って感じで……」
それ、友達って言っていいと思うんだけどなぁ。
友達の線引きがへたっぴなのかもしれない。
悩んでいる妹紅さんを見て、影狼が首を傾げる。
「あれ? お姫様は友達じゃないの?」
「ハアッ!? 誰があんな性悪女と!」
妹紅さんはヤカンのように沸騰し、熱気を立ち込めさせた。
しかし影狼はどこ吹く風。
「えー。だってこないだ永遠亭のお月見にお呼ばれしてたけど……妹紅がいないの気になさってたわ」
「フンッ。誰があんな奴の誘いに乗るもんか」
「意地っ張りねぇ」
影狼は呆れ顔を浮かべ、同じように苦笑を浮かべている私と視線が合った。
「ところでそちらのお嬢さん、観光旅行だっけ? 竹林は面白スポットも恐怖スポットも危険スポットもいっぱいあるけど、どこ行くつもりなの?」
「永遠亭よ。外の世界には無い面白いものが色々ありそうだし」
「はー、永遠亭……あっ、そういうことか」
ニヤリと影狼が笑う。
「病人や迷子の案内とか、観光の案内とか、口実を見つけては永遠亭に通っちゃってるツンデレさんなのね」
「よーし、今日の夕飯はえのころ飯だ!」
嗜虐的な笑みを浮かべ、妹紅さんは指先に炎を灯らせた。
脅すだけかと思いきや攻撃スイッチが入ってしまったらしく、三筋の炎が空気を切り裂き影狼に迫る。
狼の持つ野生本能の賜物なのか、毛先を焦がすのみでギリギリ回避する影狼だったが、妹紅さんはさらに追撃の火焔鳥を無数に放った。舞い散る火の粉が線香花火のようにきらめき、熱気によって霧が払われていく。
「キャイン! ツン期間が長すぎて強すぎる!」
迷子の狼さんは脱兎の如く逃亡し、あっという間に竹藪の向こうに姿をくらませてしまった。
「ねえ。あの狼、迷子だったんじゃないの? 大丈夫?」
「現在地は把握したから普通に帰れるさ」
ミステリースポットめいた地名が乱発してたあの会話、マジだったんだ。
迷いの竹林とはいったい……。
「で、実際どうなの?」
「なにが」
「私を案内してくれるのも、永遠亭のお姫様ってのに会いに行く口実なの?」
「アホ言ってないで、行くぞ」
そう言って足早に歩き出す妹紅さん。
置いていかれないよう、私も慌てて駆け出した。
永遠亭に行くなら妹紅さんに案内してもらうのが一番だと聞いていたのだけれど、なんだか色々あるみたいね。
○ ○ ○
静かで、静かで、静かで……。
不思議と心身が落ち着いてしまう、不思議な空気の漂う、不思議な屋敷が竹林の奥底にひっそりと佇んでいた。
永遠亭――その名前が妙にしっくりとくる。
「ゲエッ、妹紅! なんでこんなタイミングで来ちゃうのさ」
入口には大きな兎耳を生やした小柄な少女が立っていた。
「てゐか。こんなところに突っ立って、どうかしたのか?」
「鈴仙の帰りを待ってんの。人里に薬売りに行ってるから……」
「なんであいつの帰りなんか……永琳がまたなんか無茶振りでもしようとしてんの?」
「いや……今回はむしろ……ああもう、迎えに行った方がいいのかなぁ。けど迂闊に永遠亭を離れるのも……」
チラチラと永遠亭へ視線を向ける、てゐという小兎。
どこか怯えたようにも見える。
「うーん。私、お邪魔かしら」
「んん? そっちのそいつ、確か鈴仙とボールぶつけ合ってた人間だったね。どしたの、病気?」
「いや、幻想郷観光の一環で永遠亭を見学してみたいなーって……でもそれどころじゃないみたいね」
一瞬、てゐの眼差しが細くなる。
瞳が淡く輝いたようにも見え、心を覗き込まれるような奇妙な感覚が這い上がった。
「いやいや、別にそんなことないよー? まあちょっと上がってきなさいな」
「おいコラ、私達をどうする気だ」
一転歓迎ムードになるや、妹紅さんがてゐとの間に割って入って警戒を強めた。
「いやいや、別にどうする気もないよ。ちょいとお茶でもいかがかなと」
「厄介事に巻き込む気だ……絶対厄介事に巻き込む気だ……」
「爆弾ってのは爆発しなければ無害だから平気へっちゃら」
「爆発しそうになったら私達にパスする気か……」
「大丈夫、そっちの人間には手ぇ出させないから!」
「私はどうなってもいいと。輝夜がまたなにかやらかしてるのか?」
私をほったらかしにして、ぎゃあぎゃあと口論を始めてしまった。
うーん……なにがあるのか分からないけど、私は大丈夫っぽいし、妹紅さんは不死身だから私以上に大丈夫だろう。
という訳で二人の横をすり抜けて永遠亭にお邪魔させてもらう。
近くで見るとますます不思議な感じのする建物だ。
遠目には長い歴史を感じさせるものがあったのに、全然傷んだ様子が見えない。せいぜい築数年といったところだ。
感心している私を、後ろから妹紅さんが追いかけてくる。
「菫子! 勝手に行くな危ないぞっ」
「えー、大丈夫よ。私だって腕に結構自信あるし、妹紅さんだっているんだもの」
玄関の戸へと手を伸ばし、ガラリと、勝手に開いた。
もちろん自動ドアではない。反対側からタイミングよく開けた人がいるだけだった。
中華風の黒い衣装を着た、長い長い金色の髪の、赤い赤い瞳の、女。
空洞のように吸い込まれそうな瞳は、眼前にいる私を素通りして、その後ろにいる妹紅さんへと向けられている。
「……気配がする。同じ気配が」
「ああ?」
ぶしつけに奇っ怪な言葉を向けられ、妹紅さんは眉をひそめた。
女は私など眼中にないとばかりに押しのけ、真っ直ぐ妹紅さんに歩み寄る。
なにか、根本的な歯車がズレているような違和感を覚えてしまう。
「ちょっと純狐~、急にどうしたのよ」
「あら、妹紅じゃない。いらっしゃい」
そしてさらに、二人の女性が永遠亭の中から現れた。
その姿を見て私はぎょっとしてしまう。
片方は普通のビジュアルだった。真っ黒なストレートヘアーを伸ばした、和風美人の見本のような……いや、芸術品と言えるほど磨き上げられた美貌の持ち主。
竹取物語のかぐや姫みたいな――つまり彼女が妹紅さんの嫌う輝夜なのだろう。
うん、こっちは普通。ものすごい美人っていうのは特筆すべき点なんだけど、もう片方がエキセントリックすぎて、普通と言わざるを得ないというか……。
もう片方は、すごかった。
顔立ちもスタイルもすごくいい、美人と言える容姿なのは間違いない。
セミロングの赤髪も色鮮やかですごく綺麗。
それらのすごいを、塗りつぶすほどのインパクトがあった。
まず、頭の上に赤いボールを載っけていた。
赤いボールである。バレーボールくらいの大きさの赤いボールを、黒い帽子の上に載っけている。
さらにボールは鎖がついており、反対側は彼女の首に巻かれているチョーカーと繋がっていた。
そのチョーカーからはさらに二本の鎖が伸び、その先端には青い地球儀と、月の模型らしきもがくっついている。
となると、頭の上の赤いボールも星の類なのだろうか。火星?
このインパクト、壮絶の一言に尽きる。
しかしまあ、ここは幻想郷、オカルトが常識である世界。
きっと魔術的な道理のある特殊な装備かなにか、なのだろう。
でも彼女の着ているTシャツはなんなの。
首どころか肩まで開いている黒字のTシャツに、大きな文字で『Welcome Hell』と書かれていた。
ハートマークつきで。
まるで変な漢字の書かれたTシャツを着ている外人を見ているかのような気分だ。
いや……見た感じ西洋人っぽいし、英語圏の人でなくとも英語自体が簡単な単語なので、読めないなんてことはないだろう。多分ネタで着てるだけ、ウケ狙いって奴よ。
そして魔術的道理は確実に介在していない。
「あら。その子がどうかしたの?」
Welcome Hellも私には興味を示さない。純狐――あの女を第一に気にかけ、そしてあの女が気にかけている妹紅さんに意識を向けている。
私がちょっと地味目だからって、こんなにも無視される謂われはないはずだ。
けれどある種、それこそが自然であると思えてしまうのが奇妙。
まるで、そう、象が足元の蟻など気にかけないかのような――。
「こちらのお嬢さんは患者かしら。うちになんの御用?」
けれどもう片方、推定輝夜さんは私に声をかけてくれた。
異様ななにかが進行している中、通常の感覚で接してもらえたのが妙に嬉しい。
「えっと、私、妹紅さんの友達で菫子っていうんだけど……永遠亭ってどんなところかなーって、見にきてみたの」
「あら、つまりお客さんね。こっちを片づけたらお茶菓子でも用意させるわ」
「はぁ、どうも……」
片づけるべきこっちとは、妹紅さんと純狐さん、どちらのことなのだろう。
振り向いてみれば、二人は間近に立って睨み合っていた。
いや……妹紅さんは喧嘩を売られていると思っているのか、確かに睨んでいる。
しかし純狐さんは、どちらかというと観察しているように見える。無機質に、機械的に。
「……なんだ、なにか用?」
「月の者ではないのに、同じ薬の気配がする」
「フンッ。輝夜から奪ってやったからな、確かに私も"あいつ"と同じさ」
妹紅さんは喧嘩を売るように輝夜さんを睨んだ。やっぱり相当仲が悪いみたい。
その視線を追うように、Welcome Hellも輝夜さんに声をかけた。
「ねえ。あっちの子、地上人なのにあの禁薬飲んじゃったの?」
「ええ。永琳が作ったものを地上に残したんだけど、それ盗んで飲んで、なぜか逆恨みされてるわ」
「私でも手に負えないものを、地上にばら撒かないでもらいたいんだけど……蓬莱人の対策って面倒なのよね」
「あなたなら面倒なだけとも言えるのね。例えばどうするの?」
「タルタロスに棄てて蓋」
タルタロス……ギリシャ神話における冥界の、さらに奥底にあるという奈落だ。
神々ですら手に負えない強大な怪物や巨人族が封じ込められているという。
随分と規模の大きい言葉に、わずかだが輝夜さんの顔を強張らせた。
「タルタロスの管理は冥界の仕事のひとつ。不死身の魂だろうと自力でタルタロスから脱出などできようはずがない。ふふっ、あなた達にはそんなことしないから安心なさい。この地域は管轄も違うし、純狐が退屈しちゃうわ」
薬屋で、竹取物語で、電子機器があって、ギリシャ神話で。
読めない……永遠亭がどういう場所なのか……。
でも今はそれより。
「ちょっと。なんかよく分からないけどあの純狐さんって人、止めなくていいの?」
「気配の正体がただの地上人って分かったし、ほっといても平気よ」
「復讐者同士で意外と気が合うかもね」
Welcome Hellも輝夜さんも安楽に構えている。
なら大丈夫なのかなと思いかけたが、塀の門のあたりで縮こまっている白兎を見つけて嫌な予感が高まった。
てゐ……だったか。なぜ隠れてこちらを観察してるのだろう?
爆弾は爆発しなければ無害だと言っていたけれど、もしかしてこの純狐さんとかいう女が爆弾なのかしら?
「復讐~? なんだ、お前も輝夜に恨みでもあるのか」
距離が近いため当然私達の会話も届いており、妹紅さんは挑発気味に訊ねる。
「月の姫はすでに地上に堕ちた。月の民ではない。ならば"お姫様"はもう構わない」
「なんだ……"それっぽっち"ですむ程度の憎しみか」
あれ? 純狐さんの復讐相手って輝夜さんでいいの?
否定してないから合ってるのかな……輝夜さん恨まれすぎ。
などと思っていると、突然身体が震えた。
急速に空気が冷えてきたような、張り詰めたような……。
「……今、なんて?」
「輝夜が地上にいるってだけでもういいとか、軽い憎しみで羨ましいよ。こちとら憎んでも憎んでも切りがないレベルだからな。真の復讐者ってのは、千年以上の時を経ても憎しみを燃やし続ける過酷な茨道さ……その程度ですんでるなら、復讐を忘れて平和に暮らした方が、きっと幸せだよ」
ピシッ――と空気が割れた気がした。
根本的にズレていた歯車が、致命的な歯車と噛み合ってしまったのだと直感する。
「も、妹紅さん! それくらいで――」
「ほう……あなたの憎しみは私以上だと?」
が、純狐さんの興味はすでに悪い意味で引いてしまったようで。
「私ほど憎悪に身を焦がしている奴なんていないさ。こないだも輝夜を倒すべく壮絶なバトルをしたしな」
「楽しい呑み比べだったわねぇ」
輝夜さんが壮絶なバトルの内容を口に出し、楽しそうに笑う。
どの辺が壮絶だったんだろう。肝臓? 腎臓?
「コラ輝夜、茶々入れるな!」
「茶々を入れ合ったり、馴れ合ったりするあなたより、私の憎しみが劣る……? あの子を喪った私の憎しみが……?」
どこか愉しそうに、どこか壊れたように、純狐さんは唇を歪め、歪め、哄笑する。
月まで届かんばかりに高く、高く、声を上げて笑う。
「不倶戴天の敵、嫦娥よ。見ているか!? お前と同じ蓬莱人を八つ裂きにし、予行練習と洒落込もう!!」
嫦娥? 嫦娥って確か中国神話の登場人物だったような……。
ていうか、不倶戴天の敵がそれなら、純狐さんの憎んでる相手って輝夜さんじゃないじゃない。
ああでも勘違いしても仕方ないような会話の流れだった気も。
「やる気か? こっちこそ輝夜を八つ裂きにする予行練習やってやんよ!」
妹紅さんももう引く気が無いみたい。
ここまでのいざこざはじゃれ合いみたいなものだったけど、本気で人を怒らせるのはよくないって。
こんなんじゃますます友達ができなくなっちゃうわ。
嫌な予感の正体はこれだったかー。
純狐さんの背後から揺らめくオーラが無数に出現し、妹紅さんも背中から炎の翼を広げて熱気を高める。
「ちょ、ちょっと! 今回はさすがに妹紅さんの煽りすぎだし、素直に謝った方が――」
止めた方がいいよねこれ。でも私一人で妹紅さんを止められるかな?
門の陰に隠れていたてゐが脱兎の如く逃げ出すのがチラリと見えたし、輝夜さんは妹紅さんに油を注ぐだけになりそうだし。他に頼れそうな人は――。
「そっちの変なTシャツの人も止めてください! 妹紅さんすごく強いから、お友達が怪我しちゃうわよっ」
「変な……Tシャツ?」
ピシリッ――また空気が割れた気がする。
Welcome Hellも瞳をギラギラさせ、剣呑な雰囲気をまとってしまった。
「よーし、私も純狐と同じように遊ぶとしましょう。ふふふ……いつぞやの人間をなぞるかのように『貴方は私に暴言を吐いた』……それだけの理由で貴方を地獄へ堕とす。ただそれだけの理由だ! 死んでも悔しがれ!」
「ええー!? ウケ狙いじゃなかったのそのファッション!?」
言ってから、火に油を注いでしまう発言だったと反省した。
事実、Welcome Hellの雰囲気はさらに苛烈なものへと変貌しつつある。
「いい度胸ね、気に入った! 殺すのは今すぐにしてやる! 純狐、せっかくだしいつぞやみたく一緒にやっちゃいましょう。タッグバトルよタッグバトル」
「あーもう、仕方ない! 怪我しても知らないわよ!」
こうして、最初から勝利が決まっているような最強タッグ菫子&妹紅が結成してしまった。
純狐さんとWelcome Hellなんか軽くのしてやろう。
「あらいけない。永琳を呼んでくるから、それまで死んじゃダメよ」
輝夜さんも慌てて人を呼びに行ってしまった。
日頃から妹紅さんと戦っているのなら、その実力は身をもって知っているはず。
薬屋さんで怪我人続出したら困るものね。
ま、営業妨害にならないよう手加減しときますか。私ってば優しいなー。
● ● ●
「……はっ!?」
眼前に迫りくる巨大な暴虐に押しつぶされんとした瞬間、私は目を覚ました。
自分の家の、自分の部屋の、自分のベッドで。
どうやら時間切れのようだ。
私は夢を見ている間、幻想郷に入り込むことができる。
逆に言えば現実の私が目を覚ませば、幻想郷から一瞬でこちらに戻ってこれるのだ。
「助かっ――」
思わず漏らした言葉も、息が詰まってしまって言い切ることができなかった。
なにがあったかと言えば――悪夢であり、恐怖という事象そのものだ。
あのWelcome Hellと純狐さんが繰り広げる弾幕はあまりにも凄まじく、私と妹紅さんのタッグがあっという間に崩壊した。
早々に無理を悟ってひたすら逃げ回っていた私はまだいい。
不死身の妹紅さんは意地になって敵陣の真っ只中に突っ込み、幾度となく花火のように弾け飛んでいた。
反撃の暇も与えられず、一片の容赦も無く、無残に凄惨に、宣言通り八つ裂きにされていた。
今まで幻想郷で出会った誰よりも強く、何よりも恐ろしい。
そんな相手が、二人同時に現れるなんて――。
あの地獄に一人残してきてしまった妹紅さんには申し訳ないけれど、正直助かったと思う。
目を覚ますのがもう一瞬遅れていたら、私は物理的に叩き潰されていたに違いない。
妹紅さんは今も物理的に叩き潰されたり八つ裂きにされたりしているのか……不死身だから大丈夫だと思う反面、何度も何度も殺される恐怖を味わわねばならない境遇に同情してしまう。
タルタロスに堕とされてなきゃいいけど。
冷たい汗で濡れた衣服を鬱陶しく思いながらベッドから降り、襟を緩めて息を吐く。
少しだけ呼吸が楽になって、助かったのだという実感が湧いてくる。
「はぁ……結局あの変なTシャツ女は、なんだったのよ……」
「私は地獄の女神ヘカーティア・ラピスラズリ」
背後から、声。
恐怖という冷気が背筋を駆け抜け、呼吸を止めて振り返る。
そこには青い地球儀を頭に載せ、髪が青く染まったWelcome Hellがいた。
私の肩をガッシリと掴んで逃すまいとし、顔をぐぐっと近づけて愉しそうにほほ笑んでいる。
「続きは地球担当の私がやらせてもらうわ。さあ、地獄までつき合ってもらうわよん」
その後――私と妹紅さんはすっかり参ってしまい、霊夢さん達から心配されるほど大人しくなってしまった。
理由は話していない。思い出したくないので。
END
がんばれサイキック女子高生。
現役女子高校生が思う幻想郷の風景がツボに入りました。楽しかったです。
菫子のイメージがまさにという感じで良かったです。
こうして見るとつくづく不死の人が友人になって良かったなぁ……