『女三人寄れば姦しい』という言葉がある。
この言葉は文字通り、「女」の字を三つ合わせると「姦」の字になることから由来するもので、
『女が三人も集まると、おしゃべりで大変やかましい』という意味を示す。
これだけ聞くと、女性に対する偏見を孕んだ失礼極まりない言葉のようにも思えてしまう。
が、しかし。
とある古道具屋の店主を務める男、森近霖之助。
彼はこの数日間で、件の言葉が偏見でも何でもない、紛うことなき真実であるということを身をもって痛感していた――
「じゃあ次はぬえが鬼ね! 行こっ、フランちゃん!」
「うん! じゃあ私たちは隠れるから~」
「ちょっと待ちなさいよ! フランはともかく、こいしを見つけることなんて不可能に決まってるじゃない!」
8月、真夏の太陽が容赦なく地表を加熱し、人々の活力を根こそぎ奪っていってしまうような、そんな蒸し暑い昼下がり。
にも関わらず、香霖堂の店内には元気そうに駆け回る少女たちの姿があった。
吸血鬼の妹、フランドール・スカーレット。
無意識の少女、古明地こいし。
正体不明の妖怪、封獣ぬえ。
外見は多く見積もっても十代前半にしか見えない彼女たちだが、その実数百年以上を生き永らえた人外揃いである。
もっとも、生きた年数と精神年齢は必ずしも比例するわけではないらしく、
「大丈夫よ、能力は使わないから。ほらほら、早く数えてよ~」
「ったく……大体何で私が“かくれんぼ”だなんて幼稚な遊びを……」
「ぬえちゃん、私たちと遊ぶの……嫌、だった……?」
「そ、そんなことないってば! だから泣きそうになるのをやめなさい!」
「あー!! せんせー、ぬえがフランちゃんを泣かせてまーす」
などと、どこにでもいそうな人間の子供たちと何ら変わりない様相を呈していた。
というか待て。
「誰が先生だ誰が」
「誰って、お兄さん以外にいないでしょ?」
心底面倒くさそうにツッコミを入れた霖之助に対し、こいしはキョトンとした顔で言葉を返す。
霖之助は三人の遊びに付き合うつもりなどなかったし、ましてや彼女らの先生になった覚えもない。
「君たちのような問題児を教え子に受け持つだなんて、天地がひっくり返ってもお断りだ。学校ごっこなら人里の寺子屋でやってくるといい」
「うーん……あそこの先生は怒らせると怖いから、お兄さんで我慢するわ」
「私は……人里には行っちゃダメだって、お姉さまに言われてるの」
「そもそも学校ごっこなんてするつもりないわよ。ていうか、さり気なく私のことまで問題児扱いしたわね……?」
三者三様の反応からは、それぞれの性格が見て取れる。
素で小生意気なこいし、軽い冗談でさえ真面目に受け止めてしまうフランドール、どこか大人ぶっている節のあるぬえ。
三人が三人とも、それぞれ違った意味で扱いにくい少女たちだ。
(はぁ……どうして僕がこの子たちの面倒を見なければならないんだ……)
彼女らは全員、並みの妖怪以上の力を有している。少なくとも一介の道具屋風情に制御できる少女たちではない。
それでも霖之助が彼女たちの面倒を(嫌々ながらも)見ているのには深い理由があるのだが……それについて説明するのはまたの機会にしておこう。
なにせ、彼女たちとの出会いから現状に至るまでのプロセスを語り尽くそうとしたならば、気の遠くなるような時間を要することになるからだ。
(ここは道具屋であって託児所じゃないんだが……まったく、実に面倒な仕事を押し付けてくれたものだ)
霖之助の脳裏に浮かぶのは、この仕事――彼女たちの面倒を見るように依頼してきた、三人の“保護者たち”の姿だ。
具体的な名前を挙げることは避けるが、吸血鬼とか心を読む妖怪とか僧侶とか、概ねその辺である。
「……とにかく、僕を君たちの遊びに巻き込むのはやめてくれ。遊ぶなら君たちだけで遊びなさい」
「えー、たまにはお兄さんも一緒に遊ぼうよー!」
「わ、私も……おにーさんと一緒に遊びたいな」
「私一人でこの二人の面倒を見るのは疲れるのよ……だ、だから霖之助も一緒に遊んで、私の負担を少しでも減らしなさい!」
勘弁して欲しいと、霖之助は切に思う。
営業時間中の店内で自由に遊ばせてやっているだけでも、彼からしてみればかなりの譲歩なのだ。
だというのに、それに加えて一緒に遊んで欲しいなどと……少々冷たい物言いではあるが、そこまでしてやる義理はないと霖之助は思っていた。
「すまないが、僕は今仕事中なんだ。またいつか遊んであげるから、今日のところは三人で――」
「その台詞、一昨日も聞いたわ」
こいしから鋭い指摘を受け、「ぐっ……!」と言葉に詰まる霖之助。
一見お気楽そうに見える彼女だが、意外と抜け目ない一面も併せ持っていたりするから侮れない。
「もうっ! 一回ぐらい遊んでくれたっていいじゃない! ねぇ、二人とも?」
「う、うん! 一回ぐらい一緒に遊ぼうよ、おにーさん」
「二人もこう言ってることだし、一回ぐらい遊んであげたらどう? 別に私はどっちでもいいけど」
『一回ぐらい』というフレーズが、甘美な響きをもって霖之助の意思を揺らがせる。
たった一回遊んでやるだけで、彼女たちが満足してくれるのなら……
「……一回だけなら遊んでやってもいい」
「ほんと!? だってさ、フランちゃん!」
「やったぁ! じゃあ四人でかくれんぼの続きをしようよ!」
「じゃあ誰が鬼をやる? 言っとくけど私は嫌よ」
「それなんだが、僕に一つ提案がある」
遊びに関する意見を進んで述べようとする霖之助に、三人の少女は驚いたような表情を見せる。
あれだけ一緒に遊ぶことを拒んでいた彼が、思いのほか乗り気になっていることが不思議でならないのだろう。
無論、霖之助がこのような行動に出たのは、ある思惑があったからだ。
「ただかくれんぼをやるだけではつまらない。そこで、ルールを一つ付け加えようじゃないか」
「ルールって?」
「まず鬼役についてだが、君たち三人が全員鬼になればいい」
「鬼が三人? 何だか面白そう!」
「ってことは、霖之助一人が隠れるの?」
「そういうことになるね。君たちは三人で協力して僕を探すのもいいし、各々で勝手に探し回ってもいい。
三人の内誰か一人でも僕を見つけることができたなら、君たち全員の勝利となる」
ただし、と霖之助は付け加え、
「もし、誰も僕を見つけることができなかったのなら、その時は僕の願いを一つだけ聞いてもらおう」
「私たちが勝った時は?」
「その時は、君たちの願いを一つだけ聞いてあげようじゃないか。ただし、願い事は三人で一つのみだ」
勝者が敗者に願いを叶えて貰えるというこのルール。
一見すると、人数の差で霖之助が圧倒的に不利なように思える。
しかし忘れてはいけない。かくれんぼの舞台となるのは香霖堂――言ってみれば、霖之助の城も同然なのだ。
(この三人が香霖堂に通うようになってから、まだそれほど日数は経っていない。建物の構造に関しては殆ど知らないと見ていいだろう)
勝手知ったる我が家や、長年慣れ親しんだ遊び場ならともかく、この香霖堂においては地の利は霖之助にある。
十分な勝算があるからこそ、霖之助はこのような勝負を持ちかけたのだ。
(この勝負に勝って、『今後は店内で騒がしくしないこと』という約束を取り付けてやる……!)
連日この店に押しかけて来ては、店内でキャーキャーとはしゃぎ回る三人の少女たちに、霖之助はいい加減辟易していた。
かと言って、彼女たちの面倒を見るようにとそれぞれの保護者から依頼されている以上、三人の来店を拒否するわけにもいかない。
ならばせめて、店内で騒ぐことだけはやめさせたい……それこそが、霖之助が一緒に遊ぶことを許可した理由であった。
「ねぇ聞いた? お兄さんがどんな願いでも叶えてくれるって!」
「どんな願いでも、とは言っていない。僕に叶えられる範囲で頼むよ」
勝手に拡大解釈をするこいしに、霖之助はすかさず釘を刺す。
ここでこうして釘を刺しておかなければ、万が一彼女たちが勝ったときに無理難題を申し付けられかねない。
もっとも、霖之助には負ける気などさらさら無かったが。
「うーん……どんな願い事にしよっかなぁ」
「そういうことは勝った後で考えるといい」
まるで自分たちが勝つのが当然だと言わんばかりに、早くも願い事を考え始めているフランドール。
こういった意識せずに不遜な態度を取ってしまうところは、レミリアの教育の賜物であろうか?
純真無垢なフランドールが、姉のような高慢ちきにならないことを願うばかりである。
「そんなことより早く始めるわよ!」
「分かった、分かったから服を引っ張るんじゃない」
他二人に比べて、あまりかくれんぼには乗り気でないように見えたぬえだったが、内心では早く遊びたくて仕方がないらしい。
三人組の中では最年長であり、フランドールやこいしよりも精神的に達観したところのあるぬえ。
しかしその実、最も内面的に幼稚なのは彼女なのかもしれない。
――――。
――――――――。
――――――――――――――。
「それじゃあルールを確認しよう。1つ――」
「行動範囲はこの建物の中のみ!」
「2つ――」
「三人の内、誰か一人でもおにーさんを見つけることができたら私たちの勝ち、誰も見つけられなかったらおにーさんの勝ち!」
「3つ――」
「勝った方が負けた方に一つだけ願いを叶えてもらえる。ただし、私たちの願い事は三人で一つ!」
「よし、それじゃあ……スタートだ!」
ゲーム開始の宣言と共に、霖之助は店の奥へと姿を消した。
残されたフランドール、こいし、ぬえの三人は、横一列に並んで両手と額を壁に押しつけると、三人揃って数を数え始める。
「「「 いーち、にーい、さーん――」」」
三人の声はぴったりと重なり合い、まるで蛙の合唱のようだ。
いや、壁に張り付くような形になっているその姿は、どちらかというとセミに近いかもしれない。
時季的に考えても、そちらの例えのほうがしっくりくるだろう。
一方その頃、霖之助は彼の自室へと足を運んでいた。
離れたところから聞こえてくる可愛らしいセミたちの合唱に、彼の頬は思わず緩んでしまう。
(ああしているぶんには、ただの子供にしか見えないんだが)
だがしかし、腐っても彼女たちは妖怪なのだ。
子供だと思って舐めてかかると、確実に痛い目を見ることとなる。
「少々卑怯だが……そうも言っていられない、か」
霖之助はそう呟くと、自室の中央付近に敷かれた一枚の畳――その端に両手の指を掛け、徐に引っ張り上げた。
すると、持ち上がった畳の下から扉のようなものが姿を現したではないか。
(まさか、この場所をこんな形で利用することになるとはな)
畳の下に隠された謎の扉。
これは元々、貴重品の類を隠しておく目的で、霖之助が密かに増設しておいたものだった。
しかし結局このスペースが利用されることはなく、今日の今日まで封印されていたのだが……
(行動範囲はこの建物の中のみ……つまり、それさえ破らなければどこに隠れようとルール違反にはならない)
まさか畳の下に隠し部屋が存在するなど、鬼役の彼女たちは知る由もないだろう。
よってこの場所に隠れてしまえば、それだけで霖之助の勝利は揺るぎないものとなる。
大人気ないどころか姑息にも程がある手段ではあったが、勝負とは勝たなければ意味が無いのだ。
(よっ、と。何とか僕一人が隠れるだけのスペースはあるな)
できるだけ物音を立てないように、床下に隠された収納スペースへと体を進入させる。
霖之助は自らの全身が完全に入りきったのを確認すると、畳が元通りになるように内側から慎重に扉を閉めた。
「……やはり暑いな」
視界を墨で塗りつぶしたかのように真っ暗な空間の中で、霖之助は気だるげに呟いた。
真夏の昼過ぎに、このような密閉された狭い空間にいれば暑いのは当然だ。
おまけにこの収納スペースは縦横それぞれ1メートルもなく、碌に体を伸ばすこともできない。
こんな場所に身を隠すことは、はっきり言って苦行以外の何物でもなかった。
(だが、この苦行と引き換えに僕は勝利を……平穏な暮らしを手に入れることができる……!)
そう思えば、これしきの苦しみは屁でもない。
霖之助は己が勝利を確信しながら、暗闇の中で息を潜め続けるのであった。
「「「――ごじゅーはち、ごじゅーきゅう、ろーくじゅう!!」」」
こいし、フランドール、ぬえの三人は、カウントを終えると同時に輪になって作戦会議を開く。
「で、どうやって探す?」
「やっぱり、三人で手分けして探したほうがいいのかな?」
「ま、その方が効率的よね」
三人で一塊になって捜索に挑むよりは、それぞれが違う場所を探した方が明らかに効率がよい。
問題となるのは、誰がどの辺りを探すのかという役割分担だ。
「じゃあ私は縁側の周辺を探すわ!」
「私は物置を探してみるね」
「それじゃあ私はそれ以外の部屋ってことで」
こいしが縁側の周辺、フランドールが物置、ぬえがそれ以外の部屋。
以上のように捜索範囲を分担した三人は、それぞれの右手を前方に差し出して重ね合わせると、
「お兄さんを見つけ出して、私たちの願いを叶えてもらうぞー!」
「「 おー!!」」
元気の良い掛け声と共に、捜索を開始した。
◇ ◇ ◇
「お兄さーん、どこに隠れてるのー?」
古明地こいしはそんなことを口にしながら、誰もいない縁側をスタスタと歩いていた。
これがかくれんぼである以上、いくら呼びかけたところで返事など返ってくるはずもないのだが、きっと彼女はそこまで考えてはいないのだろう。
というか、下手をすると何も考えていない可能性もある。
無意識を操ることができると同時に、無意識のままに行動することもできる少女――それが彼女、古明地こいしなのだ。
彼女の言動および思考は、実の姉である古明地さとりですら理解することができないという。
「お兄さー……ん?」
と、その時。
こいしの視界の片隅に、何やらヒラヒラと宙を舞う物体が映り込んだ。
「わぁ、綺麗な蝶々!」
縁側が面している庭の虚空を、とても色鮮やかな羽を持った蝶が舞うようにして飛んでいた。
その蝶は、カラフルな羽と魅惑的な動きで、少女の好奇心を刺激する。
「あんなに綺麗な蝶々、見たことないわ! フランちゃんやぬえにも見してあげよっと!」
そう言うや否や、こいしは縁側からひょいっと飛び降りて蝶の元へと歩み寄る。
それに対し蝶は、まるで彼女を何処か遠くへ誘うかのように、森の奥へと逃げ込んでいってしまった。
「あーん、待ってったらー! 蝶々さーん!」
ヒラヒラと飛び去っていった蝶の後を、フラフラとした動きでこいしが追いかける。
今、自分たちがかくれんぼの真っ最中であることも忘れて――
◇ ◇ ◇
「うわぁ……色んな物がいっぱい!」
物置の中で大量の道具に囲まれながら、フランドール・スカーレットは感嘆の声を上げた。
彼女が捜索を割り振られたこの物置には、店先には出していない非売品の数々が眠っている。
(そういえば、おにーさんが言ってたっけ……)
『あそこの物置には、商品にはなりそうもない道具が仕舞ってあるんだよ』
フランドールは、以前霖之助がそう言っていたのを思い出した。
従ってここにある道具の大半は、大して価値のない物ということになる。
(にしても、探すの大変そう……)
大小様々な道具が乱雑に放置されているこの物置は、隠れ場所としては最適だろう。
そのぶん探す側からしてみれば、捜索するのに手間のかかる厄介な場所であると言える。
「とりあえず、邪魔な道具を一旦移動させないとね」
隅々まで念入りに捜索するためには、積み上げられた道具の山を一時的にどかす必要がある。
そう思ったフランドールは手始めに、目の前に積まれていた木箱を一つ手に取ると――
「えいっ」
と、実に自然な動作で横へと投げ捨てた。
ガシャーン、という何かが破壊される決定的な音が、木箱の中から鳴り響く。
恐らくは割れ物の類が入っていたのだろう。
「おにーさんはどっこかな~♪」
軽快な歌を口ずさみながら、進行の妨げとなっている道具の数々を何食わぬ顔で蹴散らしていくフランドール。
彼女が歩を進めるたびに、押し倒された木箱の山が、蹴り飛ばされた壷のようなものが、投げ捨てられたダンボール箱が、致命的な破壊音を上げて蹂躙されていく。
フランドールを擁護するために言っておくが、彼女の行動は決して悪気があってのものではないのだ。
彼女は以前、霖之助から『この物置にあるのは商品価値のない道具だ』という情報を得ていた。
そのため彼女の脳内では、『商品価値のない道具=要らない道具=雑に扱っても大丈夫』という、破天荒な公式が出来上がってしまっていたのである。
常人ならば、そのようなハチャメチャな解釈には至らないだろうし、そもそも必要ない道具だからといって、ここまで乱暴に扱ったりはしないだろう。
だがしかし、世間知らずで物事の正しい意味を捉えることのできないフランドールは、今自分がしている行動に何の疑問も抱いてはいなかった。
そう……彼女はただ、恐ろしいほどに純真無垢であるだけなのだ。
「~♪」
ガチャン、バキッ、ガッシャーン!
……いやもう純真無垢とかそんな生易しい言葉で擁護するには無理がある気もしてきたが、それでも彼女に悪気が無いのは事実である。
むしろ余計に性質が悪いような気がしないでもないが――
◇ ◇ ◇
「何だかうるさいわね……」
客間を捜索していた封獣ぬえは、物置の方から断続的に聞こえてくる物騒な音に眉を顰めた。
あの場所では現在、フランドールが霖之助の捜索を行っているはずだが……
(……嫌な予感がする)
今現在、自分たちが興じているのはただの“かくれんぼ”である。
しかし、先ほどから絶え間なく響いている破壊音は、明らかにかくれんぼによって生み出されるような音ではない。
しばらくその場で逡巡していたぬえだったが、結局は言い知れぬ不安に耐え切れなくなり、捜索を一時中断して物置の様子を見に行くことにした。
客間を出て右に曲がり、そう長くはない廊下を突き進む。
そうして物置の前まで辿り着くと、入り口から顔だけをひょいっと出して中の様子を覗き込んだ。
「フラン? さっきから一体何を……って何やってるのよ!?」
「あ、ぬえちゃんだ。おにーさんは見つかった?」
物置の惨状を目の当たりにして驚愕の声を上げたぬえに対し、フランドールの方は至って暢気そのものだ。
自分の周りに広がっている凄惨な光景に、何も思うところがないのだろうか? きっとないのだろう。
「いや、まだ見つかってないけど……ってそんなことより、これは一体どういうこと!?」
「? これって?」
「この見るも無残な光景は何だって訊いてるの! まるで戦場みたいになってるじゃない!」
床に散らばった道具の数々は、粉々に砕けている物や潰れている物がほとんどで、八割がた原型を留めていない。
道具の並べられていた棚を倒してしまっただとか、足下にあった道具を気付かずに踏ん付けてしまっただとか、
そんなチャチな理由ではここまで酷い有様にはならないだろう。
これはどう見ても、意図的な破壊行動によって引き起こされた惨状だ。
「あーあ、こんなにメチャクチャにして……霖之助に怒られるわよ」
「え……? で、でもっ! ここにある物は全部要らない物だっておにーさんが……」
「そんなこと言ってなかったでしょうが!」
フランドールと違って世間の一般常識を所持しているぬえは、霖之助の発言を正しい意味で解釈していた。
ここにあるのは、ただ単に“商品にはなりそうもない物”というだけであって、決して“不要な物”というわけではない。
本当に不要な物ならば、こんな場所にわざわざ保管しておいたりはしないだろう。
「だ、だってだって! おにーさんが、おにーさんが言ってたんだもん!!」
「だからそんなこと言ってないってば! それよりどうすんのよコレ……」
「……う、ううう゛う゛っ」
「ちょ、ちょっと泣かないでよ! 泣いたって壊れた物は元に戻らないわよ?」
「……ぬえちゃん、どうしよう……? わたし、おにーさんに嫌われちゃう……」
『もしも霖之助に嫌われてしまったら……』
それを想像しただけで悲しくなったフランドールは、とうとう泣き出してしまった。
両の瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ち、埃にまみれていた床を濡らしていく。
「……はぁ、しょうがないわね。私が何とかしてあげるから安心しなさい」
「ぐずっ……ほんとに……?」
「私が嘘なんて吐いたことがあった? いいからこの封獣ぬえ様に任せておきなさい!」
ドン、と薄い胸を張るぬえ。その姿には、大妖怪・鵺の貫禄が見て取れる……ような気もする。
少なくとも、窮地に立たされていたフランドールにとって、ぬえの姿は実の姉と同等かそれ以上に頼もしく感じられた。
「……ありがとう、ぬえちゃん」
「いいってことよ! さて、それじゃあ早速手を打つとしましょうか」
「手を打つって、一体どうするの?」
こうも完膚なきまでに破損した道具を元通りにするのは、いくらなんでも不可能だろう。
となると残された道は、正直に謝ることぐらいしか存在しないように思える。
「壊れた道具を直してくれるの? それとも、一緒に謝ってくれるの?」
「どっちもノーよ。私の能力では壊れた物を修復することは不可能だし、馬鹿正直に謝るだけならあんな大見得切ったりしないわ」
「じゃあどうするの?」
「それはね……こうすんのよ!」
ぬえは威勢のいい掛け声と共に掌から何かを生み出すと、それを側らに転がっていた道具(の残骸)に向けて投げ付けた。
するとどうだろう。
今の今まで無残な姿を晒していたはずの道具が、見る見るうちにその外見を変貌させていくではないか。
「うわぁ! ねえ、今何したの?」
「ふっふっふっ……なぁに、ちょっと“正体不明の種”を仕込んでやっただけよ」
正体不明の種。
それは、封獣ぬえが操る不思議な効力を持った飛行物体の名称だ。
この種には決まった姿がなく、見る者が持っている知識で認識できる物に見える、といった効力を持つ。それはこの種を植え付けられた物体も同様だ。
「私の能力では壊れた物を修復することはできなくても、誤魔化すことならできるわ」
霖之助は、この物置には非売品の数々が置かれていると認識している。
そのため、道具が破壊されたという事実を知らない彼から見たら、惨たらしい道具の残骸も壊れる以前の正常な姿で見えるはず……というわけだ。
さすがに未来永劫隠し通すことは不可能だろうが、少なくとも当分の間は彼の目を欺くことができる。
「要はバレなきゃいいってことよ!!」
またしてもドン、と胸を張って言い放つぬえ。
しかし、先ほど僅かに感じられた大妖怪の貫禄は、もはや微塵も感じられない。そこに漂っているのはセコい小者臭だけだ。
「ぬえちゃん……」
そんなぬえの態度を見たフランドールは、俯いて拳をぷるぷると震わせている。
『バレなければ問題ない』という犯罪者さながらの言い分に、さすがに思うところがあったのだろう。
あるいは、期待を裏切られたことに落胆と憤りを感じているのかもしれない。
やがてフランドールは俯けていた顔を起こし、真っ向からぬえの顔を見据えると、
「すごいよぬえちゃん! これなら安心だね!」
と、満面の笑顔でぬえを称賛した。
……くどいようだが、彼女に悪意はない。
ただ単に、霖之助に嫌われずにすむということに安堵を抱いているだけなのだ。善悪の区別に疎いだけなのだ。きっとそうに違いないのだ。
「そうと決まれば、さっさとこのガラクタ……じゃなくて壊れた道具に細工を施すわよ! フランは散らばってる残骸を一箇所に集めてちょうだい!」
「うん、分かった!」
こうして、かくれんぼそっちのけの隠蔽工作が始まった――
◆ ◆ ◆
(…………暑い)
立方体に切り取られた空間の中、霖之助の我慢は限界に達しようとしていた。
この場所に身を隠すと決めたときから、多少の暑さや息苦しさは覚悟の上であったが、まさかこれほどまでに辛いとは思っていなかったのである。
(それにしても、あの子たちが僕を探している気配がまるで感じられないな……)
霖之助が隠れている隠し部屋と外界を隔てているのは、薄い畳一枚と木製の床のみ。
屋内を駆け回る足音や、話し声の一つや二つは聞こえてきてもいいはずである。
それなのに、霖之助がここに身を隠してから今に至るまで、この部屋はおろか側の廊下を通る足音さえ一切聞こえてはこなかった。
本当に探す気があるのか? などと勘繰りたくなってくるぐらいだ。
(まぁ、見つからないに越したことは無いが……)
霖之助は正直に言って、今すぐにでもこの蒸し風呂のような空間から脱出したかった。
しかし今外に出れば、高確率で彼女たちに見つかってしまうだろう。
そうなれば霖之助の敗北が決定し、これまで耐えしのいできた苦労が水泡に帰すこととなってしまう。
(もう少し……もう少しだ! 時間切れまで何とか持ちこたえて――)
と、そこで。
霖之助は、ある重大な事実に気が付いてしまった。
(……時間切れって、一体いつまで隠れていればいいんだ?)
――彼は一つ、大きな見落としをしていた。
そう、制限時間の設定である。
(……どうする? 一体どうすればいいんだ!?)
茹るような暑さの中、朦朧としかかった意識を何とか繋ぎとめながら、現状の打開策を思案する。
そもそも、かくれんぼにおける隠れる側の勝利条件とは、時間切れまで鬼に発見されないことだ。
しかし時間切れという要素が無かった場合、隠れる側はいつまでも経っても勝利することができない。
(冗談じゃないぞ……いくら僕が半妖とはいえ、これ以上は身がもたない)
いい歳した大の男が、少女たちとのかくれんぼの最中に熱中症で死亡(しかも床下の隠し部屋に隠れたせいで)などと、まったくもって笑えない。
しかし先も言ったように、今ここで外に出ることは霖之助の敗北を意味する。
(だが、このまま隠れ続けていたところで時間切れが無かったら結局勝ち目など……いや待て)
袋小路かと思われたその矢先に、霖之助の脳裏に一筋の閃きが訪れる。
そうだ、隠れる側の勝利条件は何も一つだけではない。
(『鬼役の降参』……まだ十分、僕に勝機はある!)
あの三人が霖之助を見つけられずに、自分たちから降参を申し出てしまえば霖之助の勝ちとなる。
かくれんぼが開始されてから既に2時間以上が経過した今、そろそろ彼女たちの間にも諦めムードが漂っていることだろう。
(ならばもう少し耐えてやる……あの子たちが僕を見つけるのを諦めるまで……!)
挫けそうになっていた身体と精神に鞭を打ち、霖之助は気合を入れ直す。
あの三人が降参するのが先か、霖之助が暑苦しさに耐え切れなくなってリタイアするのが先か。
いずれにせよ、決着の時は近い。
一方、霖之助が一人戦意を滾らせていたその頃――
「待ってってばー、蝶々さーん!」
こいしは香霖堂から数キロ離れた草原で蝶を追いかけ回し、
「よいしょっと。……あ、また壊れちゃった。外の世界の道具は脆いなぁ」
フランドールは新たな破壊を生み出し、
「久々にノってきたーっ! この私の能力で、ありとあらゆる物を正体不明にしてやるわ!!」
ぬえはフルテンション&能力全開で偽装工作を行っていた。
既に彼女たちの脳内に“かくれんぼ”という単語は一片たりとも存在していない。
それから約1時間後。
とある一室の畳の上でぐったりとしている霖之助の姿を、隠蔽工作を終えたフランドールとぬえが発見し、かくれんぼは彼女たち三人組の勝利に終わった。
ルール確認の際に制限時間を設定し忘れたこと、そして、彼女たちを色んな意味で見くびっていたことが彼の主な敗因である。
「…………んん」
霖之助が瞼を開けると、そこには彼の顔を覗きこむようにして見ている三人の少女の姿があった。
「あ、やっと起きた!」
「おにーさん、大丈夫……?」
「一体どうしてあんなことになってたの? ……割と本気で心配したんだから」
今まで意識を失っていた霖之助に向けて、三人はそれぞれ安堵と気遣いの言葉をかける。
霖之助は目覚めたばかりで停滞気味の思考回路を徐々に加速させていき、やがて現状を粗方把握した。
「そうか、結局あの後僕は気を失って……」
最後の最後まで暑さと戦い続けた霖之助だったが、ついには生存本能が警鐘を鳴り響かせたため、勝負を捨てて地上へと脱出したのであった。
もしあそこで外に出る決断をしていなかったら、今頃彼は床下で蒸し焼きになっていたことだろう。
「……君たちが僕を介抱してくれたのか?」
霖之助の額には濡れたおしぼりが乗せられており、三人の手にはそれぞれ、先程まで彼を扇いでいたのか小さな団扇が握られている。
どうやら霖之助が熱中症で倒れたことを察して、看病をしてくれていたらしい。
「フランちゃんがお兄さんを運んで、私がおしぼりを濡らしに行って、ぬえが団扇を探し出してきたの」
「で、この部屋に寝かせてからおしぼりを頭に乗せて、その後は皆して霖之助のことを扇いでたってわけ」
「おにーさん、もう平気なの? 気分は悪くない?」
こいしとぬえが説明をし、フランドールは未だに心配そうな瞳で霖之助の顔を見つめている。
そんな三人を前にして、霖之助は自らの失態に対する恥よりも、彼女たちへの感謝の思いが勝るようになっていた。
「すまない、色々と迷惑をかけたね」
「別にいいけど……ていうか、どこに隠れてたの?」
ぬえの鋭い指摘が飛び、霖之助は思わずその身を硬直させる。
彼の脳内では『正直に言ってしまおうか……いやしかし、隠し部屋に隠れていたなんて言えるわけが……』などという葛藤が展開していた。
「おにーさん、顔色悪いよ? やっぱりまだ体調が悪いんじゃ……」
「い、いや、本当にもう大丈夫だ。何でもないよ」
冷や汗を流しながら黙り込んでしまった霖之助を見て、何やら勘違いをしたフランドールは再び気遣うような言葉をかける。
霖之助はそれに返事をしながら、『やはりどこに隠れていたのかは黙っていよう』と、脳内会議の末そう結論づけた。
「さて、どうやらお兄さんも大丈夫みたいだし」
「そろそろ例のアレ、いっときますか!」
「? 一体何の話をしているんだ?」
フランドールが霖之助の身を案じている一方で、こいしとぬえは何やら怪しげな会話を繰り広げている。
そのやり取りを耳にしたフランドールも、まるで何かを思い出したような顔をすると、急いで二人の会話に加わった。
「はてさて、どうしますかねぇ、ぬえさんや」
「そうさねぇ……やっぱり、さっき話し合った通りでいいんじゃない? ねぇフランさん?」
「え、ええと……うん、それでいいと思う……ますわ」
芝居がかった口調で話し合う三人を見て、霖之助はますます疑問の色を濃くしていく。
「なぁ君たち、さっきから何を言って――」
「あら、お兄さん忘れちゃったの?」
「忘れたとは言わせないわよ!」
「ルールはルールだし、ちゃんと約束は守ってもらわないと!」
「約束? …………あ」
そこでようやく、霖之助は全てを思い出した。
どうして自分が“かくれんぼ”などという遊びに参加していたのか、
そして、そこにはどのようなルールが定められていたのかを。
「……ちょっと待ってくれ。やはり、かくれんぼは僕の負けということになるのか?」
「そりゃそうよ。理由はどうあれ、私とフランが霖之助を見つけたことは事実なんだから」
「そうよそうよ! 見つけたことは事実なんだから!」
「お前は外をうろついてただけだがな!」
スパーン! という快音と共に、ぬえ渾身のツッコミがこいしに炸裂する。
霖之助は漫才を始めてしまった二人を無視して、その隣で顔を輝かせている(今のやり取りが面白かったとでも言うのだろうか?)フランドールに話を振った。
「フラン、君もやはり僕の負けだと言うのかい? 言っておくが僕は熱中症で――」
「おにーさん」
フランドールは霖之助の言葉を遮ると、
「約束は守らなきゃダメだって、お姉さまも言ってたよ」
とてもにこやかな、それでいて何故か悪魔を連想させる笑顔と共に、霖之助に引導を渡した。
その顔でそんなことを言われたら、誰であろうと首を縦に振るしかない。
「……はぁ、分かったよ。僕の負けを認める」
制限時間の設け忘れという致命的なルール不備があった以上、ノーカウントにしようと思えばできなくもない。
しかし霖之助は、自分を看病してくれたことへの感謝の意を込めて、潔く自らの負けを認めたのであった。
(願い事か……一体どんな内容になるやら)
霖之助は、三人がどんな願い事を申し付けてくるのか、彼なりに推測していた。
こいしはきっと、誰も予想だにしない奇想天外な願い事を思いつくだろう。三人の中では最も警戒すべき人物であるといえる。
フランドールは恐らく大丈夫だろうが……もしかすると、世間知らずゆえのとんでもない発想が飛び出す可能性もある。ある意味で一番怖いのが彼女だ。
ぬえは一応常識を持ち合わせてはいるものの、性格自体は悪戯大好きな天邪鬼だ。きっと霖之助が困ってしまうような願いを考え付くに違いない。
どう転んでもマトモな願いにはなりそうもないという事実に、霖之助は自らの頭を抱えたくなった。
唯一救いがあるとすれば、願い事が三人で一つということだけだが……
(しかし裏を返せば、三人の願いが一つに凝縮されるということだ)
こいしの奇抜さ、フランドールの意外性、ぬえの底意地の悪さ。
その三つが凝縮された、悪い意味で究極ともいえる願いが誕生してしまう可能性もある。
もしそうなったら……霖之助は考えただけで怖気が走るのを感じた。
(……こうなったら覚悟を決めるしかないか)
半ば諦めの境地に達した霖之助は、パンドラの箱を開けるがごとく、自ら一歩を踏み出していく。
「で、願い事は決まったのかい?」
「うん! それじゃあ『せーの』で言おっか!」
「はいはい」
「じゃあいくよ?」
三人は揃って息を吸い込み、霖之助は固唾を呑んで(心の)衝撃に備える。
「「「 せーの!」」」
そして、三人の口から同時に放たれた“願い事”とは――
「「「 どうか、これからもよろしくお願いします!!! 」」」
「…………は?」
「いやさ、私ら自身が言うのも何だけど……」
「お兄さん、私たちの面倒を見るのって大変でしょ?」
「いや、そんなことは……」
「嘘、だっていっつも疲れたような顔してるもの!」
「それは……まぁ」
正直に言ってしまえば、この三人の面倒を見るのは大変だ。否、大変なんてものではない。
彼女たちの保護者から頼まれていなければ、とっくに出入り禁止にしていたことだろう。
「だから……だからね、いつか私たちと一緒にいるのが嫌になるんじゃないかと思って……」
今にも泣き出しそうな声で、必死に言葉を紡ぐフランドール。
霊夢や魔理沙、そして目の前にいるこいしやぬえなど、生意気な少女たちとばかり接してきた霖之助は、フランドールのこういった健気な態度に弱かった。
それに何より、もし彼女を泣かせるようなことがあれば、彼女の姉を始めとする紅魔館の住人が黙ってはいないだろう。
「……嫌になったりなんかしないさ。たしかに大変といえば大変だが、僕にかかればどうってことはない。
僕は“あの”霊夢と魔理沙が幼い頃から、彼女たちの面倒を見てきたんだぞ?
今さら君たちの相手をするぐらい屁でもないよ」
霖之助は子供の面倒を見るのが好きではなかったが、別に苦手というわけではない。
その辺は、霊夢と魔理沙のおかげで嫌というほど鍛えられている。
「だから――これからもせいぜい、面倒を見させてもらうさ」
極度の熱中症で苦しんでいたことも、
どんな無茶な願いを聞かされるのかと不安で仕方がなかったことも、
霖之助は全てを忘れて、彼女たちのささやかな願いを聞き入れた。
「これからもよろしくね、お兄さん!」
「わ、私も……! よろしくおねがいします、おにーさん」
「まぁ、その……よろしくね」
心から喜びを表現するこいし、照れの混じったフランドール、赤くなった顔を背けているぬえ。
三者三様違いはあれど、いずれも自分たちの願いが霖之助に届いたことに、嬉しさを感じているようだった。
一人の古道具屋と三人の妖怪少女たち。
彼と彼女らの日常は、まだまだ始まったばかりである――
「――で、これは一体どういうことだい?」
霖之助は凍て付くような微笑を顔に貼り付けたまま、物置の前で仁王立ちしていた。
その背後には、だらだらと冷や汗を流すフランドールとぬえの姿がある。
「正体不明の種、か。なるほど、この種の効力を使って壊れた道具をあたかも壊れていないかのように見せようとしたわけだ」
霖之助が持つ能力は“未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力”である。
そんな彼の異能の前では、正体不明の種による偽装工作もまるで意味を成さなかった。
なにせ彼は道具の外見に惑わされずに、その名称と用途を直接読み取ることができるからだ。
そして今、彼の目に映っているのは……
名称:ただの残骸 用途:もう使用できません
「あのー……おにーさん?」
「わ、私たちも悪気があったわけじゃないのよ……?」
ただならぬ霖之助の様子に、フランドールとぬえは何とか弁解を試みる。
しかしそれがどう考えても無駄なのは、誰の目から見ても明らかであった。
『うっかり壊しちゃいましたー』というだけならまだしも、これだけの量を破壊し尽くした上で、隠蔽工作まで行おうとしたとあっては……
いくらなんでも言い逃れはできない。
「……二人とも、そこに座るんだ」
「え? でも、ここって廊下――」
「いいから座れ」
「「 はい 」」
凍えるような霖之助の声音に、500年近くを生きた吸血鬼と1000年以上を生きた大妖怪は、まるでお手本のような正座を披露してみせた。
その背後ではこいしが『二人とも何で怒られてるの?』と、不思議そうに首を傾げている。
「えっと……ねぇ、おにーさん?」
「願い事の内容を『私たちを許してください』に変更することって……できる?」
びくびくと怯えながらも、何とか逃げ道を見つけ出そうと足掻く二人の少女。
霖之助はそんな二人を見下ろしながら、
「却下だ」
どこまでも冷たい声で、そう宣告した。
是非シリーズ化して欲しいです。
猛烈に希望する。
熱烈に希望する。
文体としてもスラスラ読めるし長さも丁度いい。
しかし、EX娘が素直に正座する様も想像が出来ない。
勿論、労働的な意味で
霖之助は意外に(色々な意味で)強い。
どれも素晴らしかったです
これからも楽しみでなりません
香霖堂が託児所になる日も近いな。
和ませてもらいました。
ちょうちょ追いかけるこいしちゃん可愛いよ。
しかしどういう経緯で託児所になったのかその辺が謎だな。聖がわざわざお願いするなんて。
ふらんちゃんの「わ、私も……おにーさんと一緒に遊びたいな」の破壊力が高すぎる……
可愛い
霖之助もいいな
シリーズ化を切に希望