Coolier - 新生・東方創想話

猫と炬燵で丸くなる。

2011/03/06 22:53:47
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※この作品は作品集137「紅白の巫女を襲う幸せな凶兆」でのちょっとあとの話となっています。内容を見なくても分かるかもしれませんが、とにかく橙は霊夢が大好きな話です。




年々冬が長くなってきている、と口々に囁かれる幻想郷。妖怪の山までもが白銀に染まり、紅魔館では美鈴が門番の仕事を免除された代わりに屋根の上で雪かきを行っている。広大な館の雪かきという重労働をたった一人でこなすあたり普段の苦労がしのばれる。かちかち、と歯を鳴らしながらも半ばやけくそになって人間では振るえないほどの大きさの特注雪かき用スコップを扱う美鈴。しかし、彼女は知らない。館の主が実はどれだけ信用しているか。彼女は知らない。メイド長が暖かいポタージュを用意しながらもどれだけ心配しているか。


レミリアは美鈴の雪かきが終わった後はその日の仕事は休みにしている。ついでに咲夜も。これは勿論わざとで、2人への日ごろの褒美としてゆっくりと過ごさせるつもりだ。与える褒美はけちらない。これがスカーレット家のやり方である。彼女らへの最大の労いとは何かを考えた結果なのだ。大切な人とのひと時を過ごした次の日の朝、レミリアは咲夜にこう話しかけるだろう。






「さくやはお楽しみでしたね」

当然だが、自分自身が楽しむ、ということを忘れることは無い。紅魔館の主の趣味は従者弄りなのだ。普段は完璧で瀟洒な従者が年相応の恥ずかしさで顔を赤らめるのを眺めるのが彼女の楽しみとなっている。しかし、しばらくの間食事にニンニクが混じり続けることになる運命には気づいていない。




そんな紅魔館ハートフルストーリーが紡がれようとしている中、霊夢は自身の気持ちよさを確保するため、紫から譲ってもらった炬燵、というもので暖をとっていた。外の世界のもので、えれきてる、というものが必要云々いっていたが、霊夢のつての広さを活用し、にとりに依頼を要請し、半ば無理やりにだが稼動できるようにしてもらった。最初は魔理沙の八卦炉を利用しようと、強奪作戦を敢行したが、成功しかけたところで「香霖が私のためだけに作ってくれたものなんだ」と彼女に泣きつかれてさすがに断念したのだった。乙女心を傷つけてはいけない。普段は動かない霊夢だが、一度動き出したら他人のアイデンティティーまで奪うような行動を起こすのだった。



熱いお茶と煎餅を堪能する霊夢。しかし、今は煎餅よりも蜜柑が欲しいなあ、とぼんやりとしているところに、この寒い中、外から元気な声が聞こえてきた。


「れいむ~~~」


このところ頻繁に顔を出すようになった八雲一家のマスコット、橙である。前回来たときに自慢していた藍特製のマフラーと手袋をしておりどちらも小柄な彼女にお似合いのもこもことした逸品であり、とても暖かそうだ。紫のスキマでやってきたのだろう、神社の縁側からたたたた、と可愛らしい足音をたてながら笑顔で霊夢のいるところへ向かっている。その両手に持っている器の中にはあふれんばかりの蜜柑。元気に走るものだから次々と蜜柑がこぼれてしまう。既に霊夢のことしか考えていない橙はそれに気付いていないのだ。しかし、不思議なことに器の中の蜜柑の数は変わらない。こぼれてしまった蜜柑が床に落ちる前にスキマが展開され、吸い込まれていった蜜柑は藍がキャッチ。
そして再び器の上にスキマが現れ、元の位置に戻される。紫、藍、橙による見事なチームワーク。端から見れば橙の周りに次々と異空間が現れるという少し怖い光景なのだが。



先日の宴会での出来事により、魔理沙と同じか、それ以上の頻度で訪れるようになっている。時にはお昼を一緒にしたかと思えば、翌日の朝にはいつの間にか同じ布団の中に包まっていたりする。この黒猫の懐きぐあいは尋常ではないのだ。橙の行動はとても分かりやすく、好きな相手にはとことん甘える。


「れいむ、藍さまから蜜柑もっていきなさいって。はい!」

「あら、ありがたく頂戴するわね。あなたもたべてく?」

「うん!」

霊夢は炬燵の中で外に向かって座っている。普通なら橙は霊夢と対面する位置に座るのだろう、と予測するのだが、そこは橙。霊夢のすぐとなりにもぐりこんだ。足を入れる位置は4箇所にあるにもかかわらず、1箇所に2人が座っているという形になる。橙は蜜柑がいっぱい入った器から1つ取り出して霊夢に手渡しした。その嬉しそうな表情はまさにお使いに成功したかのようだ。さすがに霊夢も何を期待されているかは解かる。

「ありがとう、橙は良い子ね。」

「えへへーー」

蜜柑を受け取ると同時に頭を撫でる。最近はこんなやり取りをずっと続けていて、馴れっこになっていた。こうしていつものやりとりをこなした後、橙は次々に話しかけてくる。藍が作ってくれる食事のこと。紫が藍に内緒でおこづかいをくれていること。マヨヒガでの猫たちが言うことを聞いてくれないものの、ずっと仲良しだった猫たちは協力してくれること。

橙はよく神社に来るようになったが、すぐにどこかに遊びに行くこともあれば、今日のようにずっとおしゃべりをすることもある。ただ単に昼寝スポットとして使われていることもあるが。



一緒にお昼を食べて、またのんびりしようと思っているところにまた誰かが来たようだ。やかましい気配に霊夢は相変わらず参拝客は来ないなあ、と心の中で愚痴る。

「よう、霊夢。今日も遊びに来てやったぜ…って、橙もいるのか」
「こんにちは、霊夢さん、遊びに来ました」

魔理沙と早苗。なんだか珍しい組み合わせだと思ったが、たまたま神社の近くで会っただけだという。2人ともなれたもので、早速我が物顔で各々の湯吞を取りに行くと、炬燵に入り、蜜柑に手を伸ばす。

「ほう、いい蜜柑じゃないか。どこから盗ってきたんだ?」
「ほんと、すごく甘くて美味しいですね、どういうルートで?」
「2人とも失礼ね、藍が橙に持ってこさせたのよ」


ほう、と魔理沙が橙の方を見ると、自慢げに無い胸を張っている。持ってきただけなのにな、と心の中で苦笑する。変なことを言って場を荒らすことも無いだろう。

「それにしても、橙は毎日のようにいるよな、他にすること無いのか?」

「人のこと言えないわよ。たまにはあんたも手土産のひとつやふたつ、持ってきなさい。ただし、茸はいらないからね、それに、この子は抱きしめたらすごく暖かくて昼寝するのに丁度いいのよ?」

ひどいぜ、といいながら橙が湯たんぽ代わりになっているという事実を知る。なるほど、霊夢より一回り背丈の低い橙はいい湯たんぽ兼抱き枕になるだろう、と想像すると、どうしてもその抱き心地を調べたくなってきた。決して普段一人寝が寂しいからとか、そんな理由ではない。

「それは気持ちよさそうだな。早速ためしてみるんだぜ」

魔理沙が橙の名を呼ぶと、炬燵からでて、トコトコ、と近づいてくる。ここ数日のやり取りで橙は魔理沙にも大分なれてきたのだ。

(おお・・・これは)

真下から見上げるほどに近づくと、じっと魔理沙の眼を見つめてきた。耳はぴこぴこと上下に揺れ、尻尾も左右へゆらゆらと揺れている。

(こいつ・・・誘ってやがる・・・!!)

誘ってはいない。

そして、霊夢の言うとおりに、本能の赴くままに両手をそのまま後ろに回して抱きしめてみる。つい先ほどまで炬燵に入っていたこともあってか、その体はとても温かく、無駄な肉はついていないはずなのに、子供特有の柔らかい感触が服越しに伝わってくる。

最初はピン、と尻尾と耳を張らせるが、すぐに元の位置に戻ると、

「きゅうぅ・・・」

喉を鳴らしながら顔を擦り付けてきた。魔理沙は言葉に出来ない感動を覚えた。

「おい、霊夢、こいつ持って帰っていいか?」 「駄目よ」 「なんでだよ!」

いいと思ってたのか、と心底飽きれた顔をする霊夢。これからはこの泥棒にも気をつけなければならない。

「魔理沙さん、魔理沙さん!次、私、私にもやらせてください!!」


瞳をきらめかせながらせがる早苗。外の世界にいたころから動物が好きで野良犬や野良猫を拾ってきては神奈子や諏訪子と良く喧嘩になっていたのだ。今でも白狼天狗を飼おうとひそかに画策中である。それが無理なら唐傘、と次の手も考えている。

やたらと興奮している早苗にしょうがないな、と未練たらたらながらも橙から手を離す。魔理沙から解放され、ふるふる、と首をふってあたりを見回す。

「橙ちゃん、ほら、こっちおいで!ほらほら!」

早苗のテンションが最高潮に達する。全身で歓迎を表現している彼女に橙は警戒することなく魔理沙のときと同じように近づいていく。早苗が橙を抱きしめたときにびっくりすることは無かったが、問題はここからだった。

「う、わ~可愛い!橙ちゃんすごく可愛い!!!」

これまでずっと叶わなかった夢が叶ったのだ。もはや有頂天である。早苗が今まで抱きしめてきたものは蛙の神様か人形ばかりであり、加減が分からなかったのか、全力で橙を抱きしめる。

「?!? む、む~!?んぅ~?!」

いきなり頭を締め付けられ、混乱した橙が脱出しようともがき始める。可愛いと連呼しながら抱きしめることに夢中な早苗は気づかない。長い尻尾があらゆる方向に振り回され、湯飲みを弾き飛ばす。幼いとはいえ、妖獣が脱出できないほどの力で抱きしめる現人神に霊夢と魔理沙は恐ろしいものを感じた。

「ちょっと早苗、苦しそうでしょ、離しなさいって!」

せっかくの蜜柑と湯吞が台無しになると思い、おもわず霊夢が懐から取り出した陰陽玉を投げつける。見事に早苗の脳天にヒットし、橙はようやく解放され、霊夢の元に飛び込み、フーッ!!と尻尾を逆立てて威嚇する。

アタタ…と、見事に喰らわせた筈なのにすぐさま立ち上がる早苗。おでこに陰陽玉の跡が残っていて本当に痛そうだ。橙の威嚇する様を見てさすがに反省する。

「あれ…怒らせちゃいましたか…ごめんなさい橙ちゃん!もう一回チャンスをちょうだい!」

もう一度勢い良く両手を広げておいでのポーズをとる。あきらめないのが早苗である。今彼女を止める2柱はいないのだ。

彼女に悪気が無いことを理解しながらも橙は不安そうに霊夢を見上げる。軽く霊夢が頷いたのを確認すると、もう一度まだ少し不安そうに早苗に近づいていった。


今度は早苗も気をつけて、優しく橙を抱きしめる。少し強張っていた体も、すぐに力を抜いて、早苗に身を預け、胸の中に顔をうずめてリラックスする橙に再び全力で抱きしめそうになったが、何とか堪えることに成功した。



しっかりと1分ほど堪能したあと、手を離す。早苗の胸元で少し不安そうに見上げる瞳は、先ほどの態度を気にしているかのようだった。気にしてないですよ、と笑顔で語りかけると、眩しいばかりの笑顔をみせた。

ほら、橙いらっしゃい、と霊夢に呼ばれると、嬉しそうにまた炬燵の中に潜り込む。もちろん霊夢の隣。やはり霊夢のことが一番好きなのだろう。ちょこんと座って頭を撫でられ、幸せそうな笑顔を浮かべる。その2人のやりとりがあまりにも自然すぎて―――


そんな2人を魔理沙と早苗は今までに見たことの無いようなものを見ている、そんな顔をしていた。

「何よ、あんた達。一体どうしたの?変なものでも見たみたいな顔して。」

霊夢の言葉につい周りに彼女たちはあわててその場を取り繕うとする。

「え?いや、ああ、もうこんな時間なのか、アリスの家に行く約束をしてたんだった、すっかり忘れてたぜ」

「あら、そういえば私も寅丸さんに以前私のところに来たときに忘れていった宝塔を届けに行くんでした。忘れちゃってましたね。いけないいけない」

と言うや否や2人ともそそくさと立ち上がり、「それじゃあな」「また今度」と霊夢たちの返事も待たずに障子を開けて飛び立っていく。いきなりの行動に呆気にとられ、まあ、どうでもいいか、と結論付ける。



――――
一方、博麗神社上空では、

「ふう、まったく驚いたぜ。あいつとはかなり付き合いは長かったんだがなあ」

「私は魔理沙さんに比べたら付き合いは短いですが、びっくりしましたよね」

もうすでに日が傾きかけている幻想郷。今日の夜もまた雪が降り、この世界を白く染め上げるのだろう。2人はついさっき見た光景のことを話し合う。文がいれば確実に写真にとってネガごと永久保存していただろう、とこの場にいないパパラッチを引き合いにしてクスクスと笑いあう。

「まさかあの霊夢が」
「そうそう、あの霊夢さんが」




「「あんな優しい笑顔をするなんて」」



――――

やかましいのが帰った後、橙が持ってきた蜜柑も無くなり特にすることもなくなったのでそのまま夕食前くらいまで、と炬燵の中で眠り込む霊夢と橙。そのうち日も暮れ、月が顔を出し始めるころに藍が橙を迎えに来た。まだ雪こそ降っていないが外は身を切るような寒さ。そんな中、彼女のふさふさして暖かそうな尻尾は紫をも魅了した楽園スポットである。そんな自慢の九尾をゆさゆさと揺らしながら2人のいる部屋の障子を開けると、仲良く向かい合って寝ているのをみつけた。


(本当に最近は霊夢に懐くようになったというか、仲良くなったというか。少し妬けるな。これが親離れ、というものなのだろうか)

自分の子供であるかのように橙を愛している藍。その成長に嬉しくもあるが、同時に複雑な気持ちもある。勿論うれしさの方が勝っているのだが。

(そうだ、日ごろのお礼といっては何だが今日の夕飯は霊夢も家へ招待しよう。きっと橙も紫様も喜ばれるだろう)

いつもよりも賑やかになるであろう夕食に目を細める。楽しいひと時を過ごせるのなら、料理を作る側としても腕が鳴るものだ。3人の美味しい、といってくれる笑顔を思い浮かべながら献立を考える。

(それにしても、この2人は―――)

炬燵の中で眠っている霊夢と橙。2人とも向かい合って、そしてくっつくように寝ている。橙の耳が時折ピクピクと動き、霊夢の頬をくすぐっている。その感触に気持ちよさそうに頬を緩める霊夢のその表情を見ていると、





(まるで、仲のいい姉妹みたいだな)


と、柔らかく微笑むのだった。
前回の投稿から1ヶ月近く。yanです。

前回は愛さ霊夢だったので今回は愛され橙に挑戦してみました。
早苗さんって書きやすいですね。

ところどころにジャスティスを入れた作品でしたが、いかがでしたでしょうか。
今作を書いている最中にも書きたいネタ(八雲家ばかり)思い浮かんでくるのでそのメモを保護してたらかなりの時間が経過してましたね。

…微妙にピクシブでも絵をかいてて更に亀ペースですが。


次回作は思いついているもののうち、どれにしようか迷っています。ちなみに、

・藍様と紫様の出会ったころの話(割とシリアス)
・橙が藍さまの式になるまでの話(割とシリアス)
・藍様が橙と紫様にエロい風に弄られる(ほのぼの系?)
・ゆからんKENZENもの(KENZEN)

です。ここ2作が平和気味だったのでブレソウデスネ。


それでは、またの機会に…。
yan
http://twitter.com/ yan003
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コメント



0.1350簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
やはり猫だな…
3.90奇声を発する程度の能力削除
猫ー!!!!
8.100名前が無い程度の能力削除
橙が猫という事を再認識しました。そして文章が面白すぎです。これからの作品に期待しています。
10.100名前が無い程度の能力削除
にゃんこは正義だけど、それを愛でるでっかい猫巫女も正義ですね!
ただただ和ましくて、幸せな気分を頂きました。ありがとうございます。
12.60鈍狐削除
橙の愛らしさがよく出ている作品だと思います。惜しむらくはそれに終止し、オチがないことだと思います。
17.100名前が無い程度の能力削除
うちにも橙が来てほしい…