皆様どうも初めまして、いつも主様がお世話になっております。
その1 陰陽玉はかく語りき
「くわぁ……ん~今日は……晴れる気がするから洗濯でもしましょうかしらねぇ」
意外に思われるかもしれませんが主様は大変早起きで御座います。いつも寅一つ……午前五時頃には起床なさいます。そして、大抵の場合その日何をするか起きてすぐに決めてしまわれます……主に勘で。そして、いつもの巫女装束に着替えるとすぐに行動を開始します。
「よいしょっと、さて水も汲んできたし石鹸入れて~後は~……行きなさい陰陽玉!!」
イエス・マスター!!……いえ、失礼しました。近頃こういうのが流行りと聞いたもので、それはさておき洗濯となると戦働き以外で私が主様の役に立てる数少ない機会です。どのようにかと言いますと……タライに入って回ります、私が。ええ、それはもう自転しつつ公転しながらゴロゴロと、コツは水を跳ね飛ばさないようにすることと石鹸を使い過ぎないようにすることです。主様は博麗大結界の維持という大儀を担う方ですがお給金は出ませんので節約です、はい。あ、あとドロワーズは細心の注意を払って洗います。以前やりすぎて脆くしてしまい、飛行中に穴が空いて主様が恥をかいてしまったということがありましたので。
「やー、やっぱり今日は晴れたわねぇ洗濯物が乾く乾く♪こんなにいい天気だと掃除の手も進むわ」
洗濯が終わると、この日主様は日課の境内の掃除に向かわれました。主様の御友人はよく主様の事を怠惰だのだれいむだのと言いますが主様はこの日課を欠かしたことがありません。雨の日でも私を浮かべて傘代わりにして掃除するくらいなのです……まぁその場合ほんの少しだけですが……コホン、そしてこの頃になると皆様も起床なさる頃合になりますので誰かしら主様を尋ねて神社に顔を出します。この日は確か……
「やっほー霊夢、元気してるぅ?」
「……そこのスキマ。前々から言ってるけど家にはちゃんと鳥居をくぐって来なさい」
「ん~そうしてもいいんだけど、妖怪が鳥居をくぐって正面から現れる神社っていうのもどうかと思うわよ私は、主に参拝客の信用的意味で」
「……(それもそうかも)」
や、主様騙されています騙されています。信用的に言うなら妖怪が出てくる時点で駄目ですから……と私は言いたかったのですが、私に言の葉を紡ぐ術はなし。ああ、すいませんよければ皆様から主様に仰っておいて貰えませんか?主様は勘に引っかかること以外は大抵まぁいいかで流してしまわれますので意外と騙されやすい方なのです……と、話が逸れました。まぁそれはさておいてこの日、尋ねて来られたのはお察しのとおり八雲紫様で御座いました。神社を訪れる頻度は霧雨様と並んで首位を争うお方です。この方は先代先々代先々々代先々々(以下略)代からのお付き合いの方なのですが、とかく博麗の巫女をからかうのが好きな(霊夢様には特に)お方であまり好きになれないかな……と思いきや不意に慈母もかくやという優しい微笑で主様を見ていたりと掴み所のないお方で御座います。
「で、今日はどうしたのよ?お賽銭入れに来たって言うんならお茶くらい出すけど」
「あらあら、ここのお賽銭箱にお賽銭が入るなんて奇跡を起こすには対価が安すぎますわ」
「奇跡言うな……ま、そこまで言うなら対価の価値を上げてもいいけど」
「あら、どんな風になるのかしら」
「出涸らしじゃなくなるわ」
「……(奇跡と等価、なのかしら?この子にとって)」
ぐすっ、ぐすっ……あ、いえすいません主様があまりにも不憫でうう、私に人の体があれば身売りでも夜鷹の真似事でもして稼いでくるのですが……こいんらんどりー?なんで御座いましょうかそれ?
「ま、まぁお賽銭の事は置いておきましょう。今日来たのはそれのことについてですわ」
「それ?って陰陽玉のこと?」
「ええ、それの通信機能について少し……貸してくれるかしら」
「……いいけど、壊さないでよ?」
「モチロンよ。言っておきますけど、これの価値について私は貴方より良く知っているのよ」
「そ、ならいいわ」
と言って主様は一瞬心配そうな目線を私に送ってお茶を淹れるべく台所の方に向かって行ったのでございます。ああ、主様その視線だけで私はこの先百年、貴方様に尽くせます。
「さってと、あの子が戻ってくる前に終わらせちゃいましょうか」
そう言って八雲様が展開した術式は主様の優しさに感涙を流す私ですら、感情を驚愕一色に染められるほど高度で精緻な物で御座いました。……近頃すっかり丸くなってしまわれたので侮られがちですが八雲紫と言えば幻想郷でも間違いなく五指に入る程の強者で御座います。日頃その事を皆様が感じられずにいられるのはこの恐ろしくも優しいお方が気を使って全力を見せないよう気を配っておられるからでしょう。昔からこの方はそういう表に出ない心遣いをする方でしたので。
「――――――……とこれで良し。近々また一騒動あるでしょうし念のためっと」
八雲様が私を日にかざし、満足そうに目を細めます。え?どんな細工を私がされたかで御座いますか?ああ、御心配なく私がこの時かけられたのは……
「古き博麗の秘宝よ、私の愛しい巫女をどうか守って頂戴ね。私も出来る限り力添えするから」
御意に御座います。伝える術を持たずとも私は自身にかけられた八雲様宛の警報術式を確認しつつ、そう答えたので御座います。
……………………
………………
…………
さて、昨日の昼頃で語るべきことはこんな所で御座いましょうか。尋ねて来る方次第ではもう一つか二つ波乱があることもあるのですが昨日は八雲様しか尋ねて来られませんでしたので。霧雨様がいらっしゃれば弾幕戦などについても語れたのですが……いえ、これで終わりでは御座いません。折角のこの機会もうしばし語らせて頂きます。次は夜の部、もはや恒例となった酒宴についてお話ししましょう。
「さってと、あいつらまた馬鹿騒ぎする気でしょうし……しょうがないから支度でもしましょうか」
主様がそう言って縁側を立つのはいつも日が丁度半分沈む頃で御座います。言葉のみでは億劫そうに思われるかもしれませんが、その時の主様がどこか楽しげに見えるのはきっと私だけでは無いと思います。
「♪~♪~筍に山椒あえてっと。ふう、もう一品二品いるかしらね」
……これは純粋に自慢なのですが、主様は大変な料理上手で御座います。速く安くお手軽にから本格的な懐石料理までこなしてしまいます。弱みと言えば西洋のものに疎いことですが……それも僅かに学べばあの瀟洒な従者が舌を巻く程のものを作ってのけるに違いありません。なにせ初めて包丁を手にとって鯉のあらいを美味しく作ってしまった方ですから……「お湯と氷に魚つけたら美味しそう、勘だけど」は私的に主様名台詞十選に入ります。
「霊夢~お皿萃めてきたけど何処に置く~?」
「大皿はこっち持って来て。で、小皿は拝殿の方に積んどいてー」
「わかったー」
神社で行われる酒宴は主様の人徳もあっていまや結構な人数で行われるため主様一人で用意すると些か荷が勝ち過ぎることになってしまいます。では何故つつがなく酒宴が行われているのかと言いますと、それはやはり伊吹萃香様のお力と言えるでしょう。何でも萃める特異な能力、天井知らずなその膂力、そしてなにより経験に裏打ちされた配慮でもって実に見事に立ち回るのです。主様は良き御友人を持たれたものです。
「霊夢~酒器の方も運んじゃおうよ、何処にあるの?」
「あーそれは私がやるからいいわ。それよりこれ持ってって」
「おーこれ何?」
「この前、紫が持ってきた鮪って魚で作った"かるぱっちょ"とかいう西洋料理のアレンジよ。二切れまでならつまんでいいから持って行って」
「わーい!!やりぃ!!」
……そういえばそうでした。主様は私の知らない間に西洋料理にも手を出していたのでした。我が主ながら見上げた方です。さて、そしてこの後の主様こそ私が切に皆様に語りたいと思う主様で御座います。
「それじゃ運びますかね」
そう言ってガラリと開けた戸棚には主様自ら選んできた酒器がずらりと並んでいます。そして、それには小さく名札が付いているのです。例えば、薄っすらと朱色がかった優美なグラスには"レミリア"、漆塗りの些か下駄の高い盃には"文"などと。これを知るのは恐らく私だけだろうと思うのですが、主様は異変を解決して酒宴によく来られる方が増えると人里に行ってこれらの酒器を楽しそうに選んで買ってくるのです。とはいえ主様は普段その事をおくびにも出しませんので自身に出される酒器が同じ物だと気付く方も少ないようですが。
「今日来るのは、ええと魔理沙とアリスと……」
さて私がこの話を語り何が言いたいかと申しますと、
「よっし、それじゃあ持ってきますか」
私の上に酒器の入った仕切り入の箱を載せて運ぶこの主様『空を飛ぶ程度の能力』や公平極まり過ぎる性格のため冷たい人間とも思われがちで御座いますが、
「さってと、今日は宴会、お酒もあるしツマミもあるし……」
その実、齢二十歳に満たない少女に御座います。がらりとした境内に一人住まい、僅かも寂しく思わぬはずが御座いませぬ。故に、
「うん、楽しみだわ!!」
皆様、博麗神社の酒宴には遠慮せずに是非ともお越し下さいませ。主様が皆様を拒むことは有り得ませんので。なにせ……
「ここはほんっっとーに……楽園ね!!」
主様が望む『空』は皆様の居らっしゃる
……あ、そうそう、とは言っても、
「「かんぱ~い!!」」
「あんたら何勝手に始めてんのよ!?萃香!紫ぃぃいいいい!!」
「「ごふぁ!?」」
羽目を外ずし過ぎると私が投げつけられますので、どうかお気をつけて。……ではお耳汚しでしたが、ご清聴ありがとう御座いました。
その2 ミニ八卦炉はかく語りき
あー、とそれじゃ俺っちも陰陽の姉ぇさんにならって自己紹介から始めた方がいいんかね?……俺っちは親は森近、ボスは霧雨のミニ八卦炉ってんだ、よろしく頼むわ。……んじゃま自己紹介も終わったところで俺っちも遠慮無く語らせて貰うかね。なにせ主語り出来る機会なんてそうそうないってのは俺っちも陰陽の姉ぇさんと変わんないんでね。
「ふ、ふぐぁ?……おー朝、か?」
さて、俺っちのボスこと霧雨魔理沙は朝には滅法弱ぇ、ていうか夜更かしし過ぎなんだろうな多分。ウチのボスは何が凄いって集中力が凄くてな。一度研究に没頭すると区切り付くまで朝も夜も関係無しになっちまうんだわ。一応俺っちにはそんなボスを気遣って森近のとっつぁんが付けたアラーム機能もあるんだが……それにすら反応しないからなぁ、どうしようもないわ。そんな訳で昨日起きたのも朝か、なんて言っちゃいるが確か昼前ぐらいだったな。
「うぅ、ていうかなんで私は床で寝てるんだ?昨日は確かベットになんとか潜ぐったはずなんだが……?」
あと寝相も悪ぃ、いやむしろ凄ぇ。寝相『スリーピングスター~lunatic~』とかそういう感じだなありゃ。一見の価値アリって奴だ。
「ぐわー首が、首が……くそうここはもう一度寝直し……お?」
そんでトドメに目覚めも悪い。いつもならここでもう一度ベットに飛び込んで宣言通り二度寝しちまうところなんだが……昨日は違ったんだな、うん。お?何故かって?そりゃあ勿論……
「おーこの味噌汁の香りは~」
出汁の利いた味噌汁のいい匂いが一階の台所からして来たからだな。他にボスが二度寝を断念する理由を俺っちは知らねぇ。そんで俺っちを寝間着姿のまま引っ掴んで一階に行くとだ。
「あら自分で起きてきたのね。あと五分遅かったら料理しながら人形を操る訓練ができたのに」
「お?ああ、そりゃ人形でお越してくれるって意味だよな?いつも悪いなアリス」
金髪碧眼なのに味噌汁マスターな通い妻、アリス=マーガトロイドの姉ぇちゃんが居るって訳だ。ちなみに来る頻度はだいたい週にニ、三回ってとこだな、魔法の研究がなければ多分もっと来るんだろうけどな。
「にしても、お前もよく来るよな。人形の研究とかいいのか?私も料理は出来るからそんなに心配しなくても平気なんだぜ?」
「料理は平気でも朝は起きれないでしょうがあんたは、この前夕暮れ時に来たら熟睡中で起こしたら起こしたで「眠い。後一日」とか言ったの私はまだ忘れてないわよ。……それに」
なにせ……
「来ないと……あんたに会えないじゃない」
「あん?何だって?」
「な、何でもないわよ」
あぁうん、よほどニブイ奴じゃない限りこの展開見てわかると思うんだが……ウチのボスにベタ惚れ何だわアリスの姉ぇちゃん。
「よく解からんが……別に朝来てくれなくても私は会いに行くぜ?」
「え……?」
「用があるか、気が向きさえすれば」
「……ああ、そうですか」
そんでまぁ同じくこの展開見りゃわかると思うんだが……ウチのボスは"よほどニブイ"部類なんだわ……残念なことに。それでもめげずにこうやって朝飯作ってくれてる健気なアリスの姉ぇちゃんには……いやもうホント申し訳なくて足向けて寝れないわ……いや足ないんだけどな俺っち。
「はぁ、まぁいいわ。慣れてるから。ほらもう出来てるから、お皿出して」
「おおう、了解だぜ」
さて、ここで是非とも語っときたいのは朝食の献立なんだが聞いて貰えるかい?まず、さっき言った味噌汁に旬の山女魚の塩焼き、野菜はほうれん草のおひたし、最後に勿論ホカホカの白米の純和風、大根おろしを忘れない当たりがニクイね。どれも小柄ながらも健啖家のボスに合わせて量多めだ。っていうか山女魚なんて一体何時起きで捕ってきたんだろうな?山奥にしかいないんだが。もちろん純洋風な見た目のアリスの姉ぇちゃんが初めから和風マスターだったって訳じゃねぇ。最初は出汁無し味噌汁なんて古典的な技繰り出すぐらいだったしな。それを誰かにあー……っていうか多分さっきの陰陽の姉ぇさんの話からするに巫女さんに習って腕上げたって訳だ。うん、重ね重ねすまねぇ。俺っちが人間だったら間違いなく膝付いて指輪持ってプロポーズしてるね。あんたらだってそう思うだろう?……ん?おおワリィワリィ、でそっからこの傍目から見たらすでに夫婦みたいな二人がどうするかって言うとだ。まずボスが着替えてそっから箒に二人乗りで……そうそうこの日はあの真っ赤な屋敷に行ったんだよ。そう紅魔館にな。
「ぐ、む、無念~~っていうか二人がかりはズルイわよぅ~」
「ふははは、残念、数もまたパワーだぜ!!んじゃ行くぜアリス!!」
「ええと、そうね……はいこれ傷薬よ一応」
「……うう、情けが身に染みる」
ここは詳しい話はいらんよな?いつもの事だしな。……ん?どうした青い顔して、ああ、ナルホドこれからの展開に気を揉んでんだな?心配はいらねぇぜ、多分あんたらが思ってるようなことにはならないと思うからな。……ちなみに二人が何を目当てに来たのかは言うまでもないだろ?魔法使いが肩並べて紅魔館に来たんなら、泣く子も黙って読書するヴワル魔法図書館に行かなきゃ嘘ってもんだ。
「……珍しいわね。時間通りに来るなんて」
「おおっと、そりゃ人聞きが悪いぜ。私はいつも時間通りに来てるだろ?パチュリー」
「そうね、標準時間線をずらせばそうなるかもね」
「おいおい、ずらす必要なんか無いだろ?なにせ標準時間線ってのはいつだって……」
「私の居るところだぜって続けるなら、今度から私の標準時間であんたを起こしに行くけど?」
「ぐ、そ、それは勘弁なんだぜ」
アリス姉ぇちゃんに先読みされて「そんなことされたら寝不足で死んじまう」なんて頭抱えてボヤくのは我がボスながら情け無くも思うんだが……まぁ愛嬌はあるから勘弁してくれ。可愛いってのは正義だからな、そうだろう兄弟?とまぁ、そしてここでさりげなく登場してるのが……ご存知、大図書館の管理人パチュリー・ノーレッジの姉ぇちゃんだ。待て待て、落ち着け期待通りじゃないか悪い方になんて怯えなくても平気だから。修羅場ったりしないから。
「それじゃあ、こぁ。二人に紅茶とケーキをお願い。あと昨日頼んでおいた本も」
「はい、少々お待ち下さい」
「ん?そっちこそ珍しいな。いつもならもう用意は済んでるのに。鬼ならぬ小悪魔の霍乱か?」
「……魔理沙。そこは遅刻前提でスケジュール組まれてるあんたが恥ずかしがるところよ」
「く……そ、そういうことか。引っ張るなそのネタ。……いやまぁいい、それよりパチュリーちょっと見て欲しい物があるんだが……」
「なにかしら?……これはまた……なんとも不思議なキノコ?ね」
「というかキノコなのこれ?角っぽいのが生えてるけど」
な、穏やかなお茶会が始まったろう?……いやお茶ないし、話題も花も恥じらう乙女達の話題としちゃ微妙だけどな。でも修羅場にゃなっちゃいねぇ。重要なのはそこだろう?うん、言いたいことは解る。ボスとパチュリーの姉ぇちゃんのイチャイチャっぷりも一部では有名だからな。なんで修羅場になんねぇのかって聞きたいんだろ?それはだな、
「凄いだろ?しかもそれだけじゃないぜ。なんとこの角を抜くとだな……」
「(わ、魔理沙ちょっと近い近いわよ魔理沙……あ、でもこれってチャンス?)」
「ほらこの通り、なんと色が変わるんだぜ凄いだろ……ってどうしたアリス?寄りかかってきて、具合悪いのか?」
「ッッ何でもない!!何でもないわよ!!」
「……ふむ、私もやってみていいかしら?魔理沙」
「ん?おお、やってみろやってみろ角はまだいっぱい有るからな」
「ではでは……(ぴとっ)」
「(ああっ!?しまったまたパチュリーが勘違いしちゃったじゃないの!!私のバカバカバカぁあ!!)」
……これだけだとまだ解りにくいかな?まぁつまりだ、アリス姉ぇちゃんは極限鈍感のボスにアタックしすぎて人前でやると恥ずかしいかどうかってラインが狂っちまってるんだわ。でもってそこをツッコまれると小っ恥ずかしいから慌てて誤魔化す、例えば……「これぐらい友達なら普通よ普通!!」とかな。それでそのセリフを真に受けるボスもボスなんだが……この場にはもう一人その言葉を真に受ける鈍感さんが居たわけだ。図書館に引き篭もって幾星霜な管理人さんがな。それでまぁこれはありがたい事なんだがパチュリーの姉ぇちゃんはボスのことを親友と思ってくれてるらしくて……アリス姉ぇちゃんのアタックをマジで友達同士なら当たり前と思って真似しちまうんだわ、うん。んでその結果が……
「(……ぴとっ)」
「(……ピトッ)」
「(な、なんだ?なんで私は二人に挟まれてくっつかれてるんだぁぁ!?)」
この誰もが羨まずにはいられない両手に花って訳だ。ちなみに俺っちはきっちりテーブルの上に居るから心配無用だぜ?こう見えても紳士なんだぜ俺っち、見た目派手だけどな。とにかくまぁ昨日はそんな感じのお茶会が図書館で開かれたって訳だ。いや、それにしても本当、
「パチュリー様!!皆さん!!私も混ぜてくださぁ~い!!」
「こ、小悪魔!?ちょっと待って貴方まで来たら……!!」
「こぁ待ちなさ……」
「ちょ、なんで真っ先に私に飛びついて来るんだお前はぁぁぁああ!!」
どんがらがっしゃあ~~ん!!
のんびりしてると誰かに持ってかれちまうぜ?ウチのボスは結構モテんだからよ、アリスの姉ぇちゃん。俺っちはアンタならボス任せていいと思ってんだから頼むぜマジで。
……………………
………………
…………
さて、ここで宴もたけなわって持ってくのが本当の所なんだが……もう少しだけ付き合ってもらってもいいかい?ちと個人的な話になるんだけどな。いや、心配しなくてもきっちりボスの話でもあるから大丈夫だぜ。なにせさっき話したお茶会の続きだからな。実はこの日、ボスは他にも用事を抱えててな何かって言うと……俺っちのメンテナンスだ。
「香霖来たぜー!!まだ生きてるか~?」
「……魔理沙か。騒がしいのはいつものことだからいいとしても……何故僕は生存を心配されているんだ?心当たりがないんだが」
「そりゃお前がそんな生っ白い顔してるからだろ。ちゃんと飯食べてるのか?」
「……君は僕の母親か?心配せずともきちんと三食とってるよ。この『絶対安心栄養学!!』を参考にしてるから栄養バランスもばっちりだ」
「ほーそうなのか……(ペラペラ)へー食いたい物食ってりゃ健康ってわけじゃないんだな……よし香霖、これ借りていくぜ」
「……ああ、持って行くといい」
「……へ??」
森近のとっつぁんのこの快諾には俺っちも驚いたね、いや本当に。大抵この後二言三言、苦言を呈した後に結局ボスに持ってかれるってのがお約束って奴だったからな。
「僕はもうその本は読みつくしたからね。なによりそれに似たような本なら他にもある。それより……魔理沙の方こそきちんと食べているのかい?今の台詞からすると相当偏った食生活を送っているようだが」
「お?あーどうだろうな……確かに自分で作るときは好きなもんばっかだけど……アリスには結構色々食わされてるからな」
「……ふむ。意外と大丈夫そうだが……一応それを読んで勉強しておくといい。君が人間でいる限り無駄になる知識ではないからね」
「お、おう。ありがとな」
……いや、そんな驚かれても困るんだがな。あれでとっつぁんも結構きちんと保護者やってるんだぜ?たまに貴重品騙し取ったりもするけどな。まぁ他に人がいるとそういう面しか見せないんだが……ありゃ照れてるのかねひょっとして。
「それで今日はどうしたんだ?」
「ああ、そうだ。こいつのメンテ頼めるか?」
「ミニ八卦炉か、もちろん出来るが……壊れたのか?」
「いや、ちゃんと動きはするんだが、どうにも火力が落ちた気がするんだよ。だからちょっと見てやってくれないか?」
これは一応、俺っちも感じてたんだが気付くかね普通?正直"そのもの"である俺っちですらようやく気付いたような差なんだが、これもボスに恵まれたってことかね。……おっと自慢話しちまったな済まねぇ、折角控えてたのにな。
「……解った、預ろう。どこも悪くなければ明日には返せるだろうから……そうだな明日の宴会に持って行くよ」
「お、来るのか香霖。珍しいな」
「なに、僕も偶には騒がしい酒が飲みたくなることもある。とはいえ不味い酒を飲むつもりはないからね。それが報酬だ」
「あん?」
「君は酒のほうも集めていただろう。その中でこのミニ八卦炉の修理代に見合うと思う物を持って来てくれ」
「……」
「さっき不味い酒を飲むつもりはないと言ったが……君が持って来た物ならそれがどんな酒でも受け取ろう。そも、霊夢達が用意する酒も決して味が悪いという訳ではないからね。問題はない」
「く、ずるいぜ香霖……」
ああ、そんでボスの次の言葉は良く覚えてる。てか俺っちがぶっ壊れてクズ鉄になっちまっても忘れねぇだろうな絶対。
「そいつに見合う酒っていったら一番いいの持ってくるしかないじゃないかよ……それでも足んないだろうけどな」
「そうかい、そいつは道具屋冥利に尽きるね」
それともう一つ。この時の飛び去ったボスと、この後のとっつぁんの横顔も絶対忘れねぇだろうな。うん、なんていうかこの二人格好良すぎだぜ全くよぅ。
「……魔理沙はいい子に育ちましたよ、親父さん」
そう言ってとっつぁんは俺の上に手を置いて……
「これからもあの子を宜しく頼むよ」
そう言ったんだ。返事?決まってんだろ……任せとけとっつぁん。
……ん?これのどこが個人的な話かって?ああ、簡単だ。これは決意表明って奴だ。我この身朽ち果てるまで主と共にあらんってな。こんなイカス二人の想い背負ってるんだそれぐら言わなきゃ格好つかねぇだろ。だから……気ぃつけろよ?弾幕ごっこじゃ手加減はしてやれないぜ……なぁ"河童の姉ぇちゃん"。
その3 そして全ては宴会にて
「えーと、っていう話を新発明で聞いちゃったんだけど……ゴメンね?」
「「「ごめんなさい」」」
「……( ゚д゚)」(れーむ)
「……( ゚д゚)」(まりさ)
「……( ゚д゚)」(ありす)
「……( ゚д゚)」(こーりん)
「……( ゚д゚ )」(ゆかりん)
絶句。想い溢れる"物達"の話を聞かされて関係者一同が取った反応は全員それだった、というか反応ができなかったと言うのが正確な所であろうか。その為、その場で引きつった顔をしているのは"物達"とは関係の無い面々――河城にとり、メディスン・メランコリー、鍵山雛、多々良小傘――のみであった。この面々を見ればお察し頂けるかと思うが念のため説明すると、にとりが他三人の元物品組の協力を得て人型は取れないけど意思はあるよ的な物の声を聞く装置――命名 オブジェクトスピーキングver4.6――を完成させてしまい、テンションが上がりきった彼女達がどう考えても不可侵領域である"物達"の話を聞いてしまったというのが現在の状況である。
「あ、あはは……それじゃ私はこれでッ!!ひゅい!!」
「あ、消えた!?」
「ちょっとズルイわよ!!」
「わちきも逃げるー!!」
そうして蜘蛛の子散らすように逃げていく発明側の面々。一方関係者側の面々は硬直から全く抜け出せない"物達"にバラされた秘密が余程衝撃的だったのだろう。しかも……
「えーと紫?ほら私は紫が優しいのは知ってたからさ。霊夢もさ私の盃がいっしょだな~とは前々から気付いてたから」
「えーと、その、ほら、いい話だったじゃない。感動したわよ私、うん」
なんの因果か秘密をバラされなかった組の萃香とパチュリー(思い切って初参加)がその場に居たので被害増大である。そして決死のフォローを行う二人は気付いていないかもしれないが、その言葉はどう考えても火に油だった。
「「「「「ギャーーーーーー!!!」」」」」
「ちょっと待ってちょっと待ってこれは夢、夢なのよきっと。ていうかもし本当だとしたら私って道具に気付かれるほど丸分かりだったってこと!?」
「ふ、ふふふ、ふわーーー!!スッキマ・オープンンンッ!!」
「ちょ、紫ッ!!何処行くのさ紫ぃぃいい!!」
「は、はは、僕は急用を思い出したので帰らせてもらうよ。無論さっきの話とは関係はないからねそこは誤解しなよう切にお願いするよ。はははは(ガサガサ)」
「(そっちは森なんだけれど、何処に帰るつもりなのかしら?)」
油を注がれ思い切り混乱する面々、そして当の所有者二人はというと、
「「な、何を話してんのよ(だ)この馬鹿ぁーーー!!」」
と盛大に絶叫し散々な暴露話をしてくれた"物達"を振りかぶり……
「「…………ッ」」
そのまま静止した。奇妙に固まった姿勢のまま霊夢と魔理沙は互いに横を向き視線を合わせる。
「ちょっとなんで投げないのよ?」
「お前こそ、なんで投げないんだよ?」
「「……ふんっ」」
今度は同時にそっぽを向き、"物達"を投げることなく手を下ろし互いに逆方向に歩き出す。
「全く、こんな裏切り想像したこともなかったわ!!」
「ったく、長年使ってやってるのにこんなことするなんて絶対許さないんだぜ!!」
「「……だから!!」」
歩きながら二人は再び同時に手の中の物を空に翳して……
「「一生こき使ってやるから覚悟しなさい(しろよ)!!」」
……その時月明かりを浴びて声に応えるようにキラリと輝いたのが偶然かどうかは……"二人"だけにしか解らないことである。
それらはかく語りき ~了~
しかし、報われないなアリス…。
しかし、基本的に肌身離さずな道具たちからこんな特Aネタを聞き出すとは
やるな技術者組