博麗神社はいつも平和だ。
気が付けば必ず神社に妖怪などがいる。
そのせいで、一部の人間しかそこに来ることがなく、賽銭など集まるはずもない。
霊夢は、そんなことは気にしていないようだが。
賽銭がないから生活が苦しいかと言われれば、そんなことはない。
妖怪達と関わっていると、何かと貰ったりするのだ。
何故か、今の代の博麗の巫女には妖怪等が寄りつく。
当の本人はというと、それを良いとも悪いともせず、ただ普通に振る舞う。
例え相手が妖怪だろうと人間だろうと、差別をするようなことはない。
まぁ、可愛いものとかにはちょっと態度がかわったりするが。
とにかく、神社には今日も一匹、人とは違う者が紛れ込んでいた。
霊夢は、ぐーっと背伸びをすると、その者の名を呼ぶ。
「萃香~、ちょっと掃除手伝って頂戴」
鳥居の上に寝転がり、酒を煽るのは萃香。
霊夢の声を聞き、よっと、と声を上げると、首を霊夢の方に向ける。
霊夢の表情は、何故か笑顔。
その表情を見るや、萃香はやれやれといった様子で手を振ると、ゆっくりと地へ下りる。
「とりあえず、境内のゴミとか集めてくれないかしら」
「仕方ないねぇ、やったげる」
手を前に差し出すと、みるみる内に散った桜の花びらや、ゴミが集まっていく。
萃香の能力によって、こういったものが集められたのだった。
萃香は、結構博麗神社に現れ、泊まったりする。
住む場所を定めておらず、色んな場所で泊めてもらったりしている。
代価とも言うべきものとして、お手伝いはちゃんとしてくれる。
「ありがとね」
「あいよ~」
霊夢は礼を言うと、大きな袋に集められたものを箒と塵取りを用いて詰めていく。
あっという間にパンパンになった袋。
「じゃ、お願いね」
「はいはい」
萃香はその袋をひょいと摘まむと、神社の奥の方にある小さな小屋へと持っていく。
これもいつもの事で、言われなくても霊夢の要求がわかるようになっている。
萃香はそれに不満を言うことも無く持っていく。
そんな萃香の後ろ姿を霊夢は笑顔で見守る。
(萃香がいれば楽ね。もういっそのことここに住めばいいのに。まぁ、騒がしくなるけど)
そんなことを思いながらの笑みである。
だれもそんなことを考えているなんて…いや、数名なら解るだろうか。
さとり妖怪は本当に心を読むし、スキマ妖怪や亡霊だって、何でか知らないけど思っていることが見透かされているような気になる。
なんでこんな特殊なのが多いんだと霊夢はつくづく思う。
まぁ、幻想郷だからという言葉で片付けられてしまうのが現状である。
萃香がゆっくりと返ってくると、霊夢の前に立つ。
その表情は笑顔で、なんとも不気味な笑みだった。
「何?なんか嬉しいことでもあったの?」
「ねぇ、ご褒美頂戴よ。いろいろお手伝いはしてるけど、ご褒美一回も貰った時ないもん」
「は?何言ってんのよ。あんた泊まらせてるんだからそんなのいいでしょう」
「え~、少しくらいご褒美欲しいな~」
ぶ~と頬を膨らませては腕を組む。
なぜこんな駄々をこねるようになったんだと霊夢は考える。
そりゃ、見かけは小さい子供だけど、鬼だし何年も生きているだろう。
そんないい年こいた鬼がご褒美とか何を言っている…。
「ご褒美って、何が欲しいのよ」
「う~ん、そうだな~」
萃香は考えるような仕草を見せている。
う~ん、う~んと唸るのを見ているが、少しばかり可愛らしいと霊夢は思った。
まぁ、ご褒美って言っても、簡単なことだったら別にいいかなぁとも思っていた。
いくら神社に泊めてやってるとはいえ、少しばかり酷使しているかもしれない。
喜んでやっているようだったから何も思わなかったが、こう言われてみると少し考えさせられる部分がある。
とりあえず萃香の要望を待つことにする。
一体どんな要望が…
「ほっぺにチューとかは?」
「…は?」
前言撤回、これは無理だと霊夢はすぐさま先ほどの考えを否定した。
それに対して萃香はちょこっと本気だった。
困らせるようなことを言って、悩む霊夢を見てみたかったからだ。
普段そっけない霊夢が見せない表情がみたいという願望に駆られた故の行為。
さぁ、どうでる?と萃香は思っていたが、「は?」という言葉が返ってきて少しばかり後悔。
「何言ってんのよ」
「いや~、可愛らしい霊夢にチューしてもらえたら萃香喜んじゃうよ?」
「何で同じ性別どうしでキスしなきゃならないのよ」
「むぅ、じゃあ別のご褒美じゃなきゃだめ?」
「当たり前でしょう」
萃香は残念だと言わんばかりの表情。
それに対し、霊夢は当然だと言わんばかりの表情で返す。
「それじゃあ…美味しいご飯が食べたいな~」
「なによそれ、いつも私が作ってる料理が不味いみたいじゃない」
「い、いや、そんなんじゃなくて、いつもより豪華な料理がいいな~って」
霊夢の料理は美味しい。
しかし、料理は美味しいんだけど、豪華な料理を作る事って言うのがない。
だから、萃香は食べてみたかったのだ。
霊夢は、少しばかりめんどくさいという思いがあった。
時間はかかるし、食材は沢山使うし、疲れる。
簡単にいえば、やりたくない。
だけど、断れば当然のことながらほっぺにチューに要望が変わる事はある程度解る。
私も心が読めるんだなぁと少しばかり驚く。
「…仕方ないわね、今日だけよ?」
「流石霊夢。それじゃあ、頼んだよ!」
「え?手伝ってくれないの?」
「私が手伝ったらご褒美の意味が無くなるんじゃないかい?」
「う…、仕方ないわね」
それじゃあ私は待ってるよ~、と言い残して鳥居の上へと戻って行った。
霊夢は一人残され、とりあえず台所の方へと向かった。
台所につくが、豪華な料理を作れと言われても困ったものだ。
現在家にあるものだけで作るにしては、少しばかり物足りない。
さて、何を作ろうかと思案する。
(豪華って言ったら何か知らないけどお肉が出てくるのよね)
霊夢の頭の中ではそう考えていた。
豪華な料理を振る舞われる中に、肉がなかった時がないからだった。
「困ってるのね」
「えぇ、困ってるわ。お肉持ってない、紫」
「あるわよ?だけど何かと交換してくれるならいいわ」
突如現れた紫に驚くこともせず、淡々と質問を繰り出す。
それに対し紫は何も言わず、ただ答えを返す。
「何ならいいのよ」
「ん~、ほっぺにチューとか?」
「お前もか」
思わず霊夢は突っ込んでしまう。
「嘘よ。いいわ、分けてあげるから。よっ…と」
すると、白いパックに詰められたお肉を取り出してくる。
紫は外の世界のものを沢山持っている為、これもそういうものなんだろう。
微妙に量が多い、何故ここまで奮発してくれるのだろうか。
「今日は機嫌がいいからよ、それじゃあ」
「え、あ、ありがと」
霊夢は短く礼を返す前に、紫は消えてしまった。
それにしても、やはりあのスキマ妖怪は心が読めているのだろうかと思ってしまう。
それはそうと、難なくお肉が手に入った。
さてと、これからどうしようか。
野菜も結構あるし、まだ少し寒い春だからお鍋もいいかなぁと思う。
だけど、それだけじゃ豪華と言うにはちょっと…と、霊夢は唸り声を上げる。
今更ながら難しい質問だなぁと霊夢は思う。
自分の思う豪華な食べ物と、他人の思う豪華な食べ物って、違いがあると思う。
さて、鍋は作るとして、もう一品作るとすれば…どうしようか。
「ちょっと~、霊夢いるかしら~」
「アリス?なによ、こんな忙しい時に…」
台所の小さな入口の方から顔を出していたのはアリスだった。
グリモアを片手に持ち、隣に人形が浮遊している。
しかし、アリスが神社に来るとは珍しい。
一体何の用だろうかと、霊夢は疑問に思った。
「忙しいって?」
「いや、こっちの用事だからいいわ。とりあえず、何の用?」
「神社に来るってことは、異変解決か暇なときしかないわよ。要するに、暇ってこと」
「あんたねぇ…」
霊夢は、はぁと溜息をつく。
今は暇人の相手などしている時間なんてない。
無駄な時間をつくらぬように、すぐさま頭を切り替えて料理の事に専念する。
「ところで、何が忙しいのよ」
「いや、萃香に色んな事してもらってたんだけど、ご褒美が欲しいっていって、豪華な料理が欲しいって言ってるのよ。とりあえずお鍋作ろうと思うんだけど、それ以外に何を作ろうかなぁって…」
萃香は少なくとも人間の霊夢よりは沢山食べる。
なので、それ以外にも少しばかり品を増やしたいのだ。
「ふ~ん…どんな食材があるか見せてくれないかしら?」
「え?いいけど」
そうしてアリスは、保存庫や棚を見て回る。
そうねぇ…とアリスは呟く。
「グラタンなんてどうかしら?足りないのは少し持ってくるから」
「グラタン?何それ」
「あら、知らない?まぁ、幻想郷じゃなかなか見ないわよね。外の世界の家庭料理なんだけど、どうかしら」
「作ってくれるの?」
「別に構わないわ、暇だし。でも、私も一緒に晩御飯はいただくわよ?」
「それくらいならいいわよ」
持つべきものは友だとつくづく思った。
それに、今まで自分が食べたことのないものだし、少しばかり気になる。
「薪焜炉なら、下の方のを使えば大丈夫ね。ちょっと足りないものを持ってくるから待ってて」
「頼んだわよ」
アリスが家から出て行ったのを見て、霊夢は土鍋を用意した。
「さてと、さっさと鍋を作りますか…」
首をぐるり一回回すと、早速調理にかかった。
「で、何であんたがアリスと一緒についてきてるのよ」
「食材だぜ」
「アリス。グラタンには人間も必要なの?凄いのね」
「えぇ、そうみたいね。とりあえずどう料理しましょうか」
「調理しても美味しくない食材だから入れない方がいいな、うん」
アリスの家からここまでの距離からして、予定した時間よりも大幅に遅れてアリスは来た。
アリスは、袋に食材と必要な用具を持ってくてくれたのだが、それと一緒に魔理沙もついてきた。
まぁ、魔理沙も暇だったからついてきたのだろうと察することが出来る。
それに、アリスから晩御飯の事も聞いて駆けつけてきたに違いない。
魔理沙相手だとすぐに考えが読める。
霊夢は、今日から読心術を学べばマスターできるかもしれないとさえ思った。
冗談はさておき、鍋の中ではすでに様々な食材たちがぐつぐつと音を立てている。
霊夢は、アリスが遅かったので、さっさと作業を済ませてしまっていた。
味噌の味付けがされており、台所は味噌の香りでいっぱいだ。
鍋は作るのが簡単で、後はもうずっと火にかけるだけでいい。
「それじゃあ、私ちょっと作り方とか教えてほしいからちょっと手順説明しながら作ってくれないかしら?」
「あら、別にいいわよ」
「私はどうすればいいんだぜ」
ぐーっと背伸びをしながら訪ねる魔理沙。
そんな魔理沙を見てアリスは一言。
「手伝いなさい」
「仕方ないな、やってやるぜ」
ぼーっとしてるくらいなら手伝った方がいいだろうと魔理沙は思い、素直に手伝うことにする。
「それじゃあ手順を言うから、霊夢はメモ、魔理沙は手伝って頂戴」
「頼むわね」
「了解だぜ」
そして、アリスグラタン作りが始まった。
アリスは玉ねぎを薄く切り、魔理沙は鶏肉を小さめにぶつ切りにしていく。
その横で、霊夢は覗き込むようにしてそれを見て、メモ帳に筆を走らせる。
「魔理沙、これ炒めといて。あ、この時に塩と胡椒を適量ふっておくことね」
「ふむふむ…」
霊夢は非常に熱心にそれを聞き、魔理沙はフライパンでそれをいためることにする。
その間、アリスはマカロニを取りだす。
鍋に多めの水と少量の塩を入れ、マカロニを鍋に放り込むと、鍋に火をかける。
「マカロニの柔らかさは自分の好みでいいわ。あ~、この間にホワイトソースを作った方がいいんだけど、今日は面倒だから缶詰を使うわ。ホワイトソースの作り方はこれね」
そう言って、アリスは霊夢にメモ帳を渡す。
いつの間に書いていたんだろうと霊夢は思ったが、こういうこともあったから遅れたのだろう。
何と用意周到なのだろうかと感心する。
しばらくすると、炒める作業も、マカロニを茹でる作業も終わった。
「それで、グラタン皿って言うのがあるんだけど、それにホワイトソースと今炒めた玉ねぎと鶏肉、それにマカロニを混ぜるっと」
玉ねぎや鶏肉をホワイトソースの波が襲う。
ホワイトソースが均等に絡まり、白に染められていく。
アリスは指をそれに付け、口元まで運ぶ。
「少し薄かったらまた塩と胡椒を入れて混ぜる。そして、チーズとパン粉をかけて焼けば十分よ。まぁ、詳しいことはこっちに書いてあるから」
そうしてまたアリスは霊夢にメモ帳を渡す。
これまた丁寧に、火の温度や、焼く時間などが書かれている。
これならこっちに来るのが遅れるのも頷ける。
アリスは、グラタン皿を薪焜炉の中に入れる。
後は待つだけらしく、使ったフライパンなどを洗う作業に入っている。
「鍋はもう十分でしょう。食卓に運べばいいと思うわ。グラタンが焼けたら持っていくから、それまで待ってて」
「なんか、ありがとねアリス」
「ん、気にしないの。ほら、持ってて。熱いから気をつけてね」
アリスが鍋をもっていくように促すので、素直に持っていくことにする。
それにしても、なぜこんな都合よく色んな人が集まってきたのだろう。
そんな疑問を抱きながら、霊夢は鍋を食卓へと運ぶ。
紫からもらった携帯焜炉の上に鍋を置くと、縁側から鳥居で寝転がる萃香に声をかける。
「そろそろご飯にするから降りてきなさい!!」
「お、もうそんな時間かい?今行くよ」
ゆっくりと鳥居から降りると、そのまま神社へと足を運ぶ。
ふと、夕陽を振り返る。
(豪華なものを二人で食べるより、多くで食べた方がいいだろう、霊夢?)
心の中でそっと呟くと、縁側から中へと入る。
その部屋には、鍋から香る味噌の香りと、向こう側から香る、嗅いだことも無い美味しそうなにおいが漂っていた。
「萃香~、お箸とか出すの手伝って頂戴~」
「あいよ~」
萃香はにっこりと笑うと、霊夢の指示に従った。
やっぱり騒がしいのはたまらないと、萃香は心の奥深くから思った。
アリスたちとの会話、霊夢が熱心にメモをとっている姿とか良いですね。
お酒抜きのなごやかなお食事会になりそうでね。
坦々とした日常を描いて読者を楽しませるのは、素人考えながら結構大変なのだと思います。
ご苦労様でした。
評価ありがとうございます。
ほのぼのな内容に出来ているようで良かったですわ。
>煉獄 様
評価ありがとうございます。
ほのぼのとした雰囲気で楽しませることが出来て嬉しい限りです。
>コチドリ 様
評価ありがとうございます。
本当に、どこにでもあるような日常の風景を切り取るようなSSを書けるようになるのが目標です。
それだけで人を楽しませるっていうのは本当に難しいことだと思っています。
それでも、少しでも和やかな雰囲気とかで気分が落ち着くような、そんな作品を作っていきたいです。
最近グラタン食べてないなぁ…
この二人は本当ほのぼのが似合うよ
もちろん独りだがなぁ!!
ってことで-10だ…
評価ありがとうございます。
俺も食べたいです。
>16 様
評価ありがとうございます。
いろんな意味でお粗末さまでした。
>奇声を発する程度の能力 様
評価ありがとうございます。
グラタンぜひ作ってみてくださいな!
>22 様
評価ありがとうございます。
好きなタイプの話…、書けて良かったです。
>24 様
評価ありがとうございます。
>ってことで-10だ…
なん…だと…
アリスが鍋つかみをはめてる姿って想像するとなんか萌えるなー。
そしてこの感じ好きよ
評価ありございます。
やっぱり、沢山で食べたほうが盛り上がって楽しいですしねぇ。
ちょっと幻想郷いってくる。
>33 様
評価ありがとうございます。
俺も混ぜてくださ(ry
嬉しいお言葉です。
評価ありがとうございます。
和むような作品を書くことが出来て光栄ですわ。
萃香の能力もあるだろうけど、皆が手伝ってくれるのは、霊夢自身が慕われてるからよね
評価ありがとうございます。
ですよね!皆に慕われる霊夢が羨ましいです。
評価ありがとございます。
どうすごいと言うんだ……っ!