Coolier - 新生・東方創想話

暗闇と拘束

2010/06/13 14:38:27
最終更新
サイズ
5.45KB
ページ数
1
閲覧数
1508
評価数
7/53
POINT
2430
Rate
9.09

分類タグ


目が覚めると、そこは真っ暗だった

僕は真っ暗な空間に一人寝ていた

自分の体が見えなかった

僕は目をつぶっている事を知った

僕はまぶたを開けようとしたが、

僕のまぶたは開かなかった

必死に必死に開けようとしても

まぶたは開かなかった

瞬きする事がこんなに難しい事なのだろうか

『おい香霖!!』

近くで魔理沙の声がした

僕は、手探りでどこに居るか探そうとしたが

体が全く動かなかった

一体何が起こったと言うのだろうか

『永琳 !!霖之助は大丈夫なのかよ!!』

魔理沙が誰かの服をつかむ音がした。

襟首をつかんでいるのだろう。その後、誰かの小声が聞こえた。



その声に聞こえたのは、僕は分からなかったが

確かに”不可能”という言葉は聞こえた。

落ちる音が二回連続で聞こえた

膝から倒れこんだのだろう。



だが、僕は未だに分からない

どうして僕がこんな事になっているのか。

どうして僕がこんな目に会っているのか

目が開かないからか

僕が一体どうなっているのか全く見当がつかない。








僕が動けなくなってから、一日が経っただろうか

小鳥がさえずる声が聞こえた。

そこで、乱暴に店に入って来る音が聞こえ、鳥は去っていった。

もうちょっと聞いて居たかったが。皆逃げてしまった。

魔理沙は僕の体に水をかけた。

僕の体がびしょびしょになるのを感じた

僕の目を覚ます為だろうか。

でも僕は、そんな事では目が覚めなかった。







そんな日が毎日続いた。でも結局、僕は目を開く事ができなかった。

魔理沙は泣きながら僕の体に水をかける事に専念していた

しつこいように何度も、何度も。

だが、最近は定期的に水をかけるようになっていった。

雪の音が聞こえる寒い日には、冷たい風が僕の全身に走った


正直、もうやめてほしかった。

僕の事など忘れて、どこかへ去ってほしかった。

だが、水をかける音は何時も聞こえた。

僕がどんどん水で濡れるのを感じた

僕の体は、それでも動こうとしなかった。

まぶたも、動かす事はできなくなっていた。




僕の体に触っている間隔がした

『ごめんな………ごめんな…………』

魔理沙がそう言って僕の足を触っていた。

魔理沙が急に、何かを吐いた

臭いを感じない体になったため、それが何かは分からなかったが、

吐いた後、魔理沙は倒れる音がした。

その後、霊夢が叫んで走って行った。

その後、永琳という言葉が聞こえたので、医者が来た事を僕は喜んだ。

だが、僕の体は動かない。

魔理沙はきっと大丈夫だろう。

僕は、永琳に魔理沙を心の中で任せ、心で見送った。




翌日、魔理沙はいつも通り僕の所に来ていた。

だが、いつもと浮かない様子だった

今日は水もかけずに、ずっとそこに居るだけだった。

そして魔理沙は、僕の体を背にして座りこんだ。

背中から白衣の感触が伝わり、魔理沙の体温を感じた。

さらに足音が増えるのを感じ、僕と魔理沙の近くに近づいて来るのを感じた

だが直接近づかず、ただ魔理沙を僕から離しただけだった








僕の隣で穴を掘る音が聞こえた。

もう僕は死んだ事になったのだろうか。




だが、不思議と怖くは無かった。

死ぬなら。僕は死ぬならもうなんでも良かった。

こんな体になっても長生する体を恨んだ程だ

僕はもう死にたい。



僕は自然とそう考えていた。


そして、穴を埋める音がそこらに響いた…………











もう僕が動けなくなって何年経っただろうか。

僕は今でも、まだ体は動かないままだった。

魔理沙も霊夢も もう、死んでいる年だろう。

朝に聞こえる鳥のさえずりは、もう万回も聞いたのだ。

そう思うと、少し悲しくなった。

最近は、水をかける人も居なくなっていた。

まぁそれは当然かもしれないが


僕はいつになれば死ぬのだろうか。

孤独になってしまった僕は、いつになったら。



足音が僕に近づいてきている事が分かった。

僕の前で、その足音は止まった。

その足音は僕の胴を触り、足元には暖かい雫が落ちている事を感じた

『結局、駄目だったわね』

その声は、冬に僕に灯油をくれる人だった。

動けなくなった今は、その人の顔も見る事ができない

『もう一度、あなたとお話もしたかったわね。』

そう言うと、僕の足元に何かビニールを置く音がした

『助けられなくて  ごめんね』

紫はそう言うと、再び僕の胴を触れた。

その胴の中に、日光らしきものが入っていくのを感じた











気がつくと、僕は前が見えた。

久しぶりに見える景色は、とても明るくてとても綺麗で

意識が無くなる前と全く変わって居なかった。

僕は、紫にお礼を言おうと彼女に近づいた。

だが、彼女は全く僕の存在に気付かなかった。

ただ、目の前の樹木に集中していた

その樹木の足元には、花束が置かれていた

紫は、寂しそうな顔でその樹木に手を触れた

その樹木の隣には、墓が二つ建てられていた


僕の一番近くの墓には、≪霧雨魔理沙≫と書かれていた


もう一つの墓には、≪博麗霊夢≫と書かれていた


空を見上げると、優しい光が僕を包み込んだ

とにかく、久しぶりに僕に光が戻ったのだ。

体も自由に動かせたので、僕は店に戻ることにした。

僕の店には、商品がほとんど無くなっていて本もほとんど無くなっていた。

僕はそれを見て不機嫌になったが、何百年もほっといていたのだ。

妖怪も人間も輪廻転生をしている程の時間だ。こんだけ朽ち果ててもしょうがない

と心に説得しながら、僕は残っていた本を読み始めた。






それからと言うものの、僕はずっと香霖堂で本を読んでいた。

僕の店の隣にあった樹木は、どんどん枯れていき、幽霊のようになってしまった。

魔理沙と霊夢の墓も、時間が経つほど墓石が老朽化していき、どんどん欠けていった

だが、物を持つ事ができなくなってしまった僕にはどうしようも無い事だ。

幸い本はつかむ事ができたので、これからもつまらなくはなかった

たまに魔理沙に似た少女が僕の店に来るようになった。

霊夢に似た少女も僕の店に来るようになっていた。



だが、入ってすぐに紫がスキマから顔を出した。なぜこんなにすぐに気付いたのだろうか

紫はその子達に説教をした。

『ここは立ち入り禁止よ。どうしていつもここに来るの』

紫がそう言うと、霊夢と魔理沙に似た少女たちはこう答えた








『だって此処、私達が一番好きな場所なんだもん』








《終》
こんにちは、全体的にどうして霖之助が樹木になったのかは書かれて居ませんが、
一応理由は『病気』か『呪い』という事にしています。
偶然に病気にかかったのか、誰かの嫉妬の呪いかとか。
あ、誰かってのは紫の結界の事ね。
ND
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1800簡易評価
8.100名前が無い程度の能力削除
涙出た
9.100名前が無い程度の能力削除
長い年月が過ぎようと、僕は香霖堂をずっと待ち続けていたい...
10.80名前が無い程度の能力削除
しんみり
14.70名前が無い程度の能力削除
襟首を掴む音、膝から倒れこむ音。
音だけでここまで細部に気付くだろうか?
これが気になったのが残念。良い話だけに。
15.無評価ND削除
↑直させていただきました。
ありがとうございます。
17.80名前が無い程度の能力削除
なんだか悲しい童話のような趣があり、
とてもよかったです。
24.100名前が無い程度の能力削除
なんだろう、国語か道徳の教科書にでも書いてあるかのような突き抜ける感じは。
32.100名前が無い程度の能力削除
面白い