博麗神社近くの間欠泉。
その下をずっと潜っていけば、橋が見えてくる。
橋の隣に、私はいる。
正確にいえば、橋の隣に建つ小さな建物の中にいる。
建物の外には小さな看板があって、無料相談所と書かれている。
書いたのは私じゃなくて、勇儀。
何を血迷ったのかは分からないが、私はいわゆるカウンセラーになってしまっている。
経緯はこう。
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「お前さん、妬むってことは人の良さを見つけられるってことだろう?相手の良さを見つけてあげることってその人にとって自信になる事だ。それを生かせる事をすればいいんじゃないか?」
ことの発端は星熊勇儀。
いつものように唐突に話しかけてきた。
「何を言い出すのよ。そんなことして誰が得するのよ」
「みんなに決まってるだろう。まぁ、やってみるといいさ」
「何それめんどくさい」
「まぁ、適当な個室なんて鬼の私が作ってやるから」
「勝手に話を進めないでよ」
「いいから、な」
満面の笑みだった。
何でそんな笑顔が出てくる、妬ましい。
「それじゃ、また」
「え、あ!ちょっと!」
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翌日木材やらなんやらを持ってきて、数日で建ててしまった。
なんて早さ。
とりあえず、やる事も無いので勇儀が建てたの中に入っている。
基本相談に来るやつなんていないのだが、数日前に外の烏天狗が何処から情報を得たのか知らないけど取材に来て、新聞で取り上げていた。
「パルスィさん、カウンセラーになるんですか?」
「どっから情報拾ってきたのよ」
「勇儀さんですね」
「あの馬鹿…」
この烏天狗に捕まってしまっては、嫌でもやらなければならないじゃないか。
まぁ、しばらくやってれば慣れるか飽きるかするだろうし、暇つぶしにもなるからいいんだけど。
この間は、鳥頭の地獄烏が相談に来たところだった。
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個室の中でぼーっとしている私は、ドアの開く音を聞き、そちらに首を回す。
すると、そこにいたのは大きな翼と共に、胸に赤い瞳のついた地獄烏がいた。
初めての相談客だった。
「無料で相談してくれるんだよね?」
「まぁ、そういう形になってるわね。で、相談って何かしら?」
私は椅子に座るように促すと、素直に椅子に座る。
机越しに向かい合い、地獄烏を見ると、複雑な顔をしている。
「さとり様の誕生日が近いんだけど、何をプレゼントすればいいかわからなくて。何かいい案でもないかなぁ~、なんて」
ははぁん、なるほどね。
ちょっと前に異変を起こして迷惑かけたこともあるし、尚更悩むわよね。
さとりとは結構前から知り合いだから色々解るけど、私がプレゼントするのと、彼女のペットたる地獄烏がプレゼントするのとでは訳が違う。
それにしても、鳥頭って言われてるけど優しいのね、妬ましい。
ふと地獄烏の方を見れば、助けてくれと言わんばかりの眼差しでこちらを見つめている。
そんな目で見られなくても、カウンセラー(仮)の私が何とかするわよ。
「そうね、私はさとりとは長い付き合いだから好きなものも知ってるわ」
「それじゃあそれを渡せば喜んでくれるね!」
「でも、あなたは私よりもずっと近くでさとりと一緒に暮らしてきた。私とあなたが渡すのじゃ訳が違うの」
「うにゅ…。じゃあ、何を渡せばいいのかなぁ…」
泣きそうな顔で、俯いている。
あぁ、そんな顔しなくても助けてあげるから前向きなさい。
「あなたが本当にさとりを好きなんなら、その思いは必ず伝わるわ。だから、悩むことなんてないの。あなたがさとりが好きだろうと思うものでもいいし、手料理だっていいわ。とにかく、あなたの思いをぶつければ、さとりは喜んでくれるから」
「そうなの?でも、あなたが言うんだったら本当だよね。ありがとう!」
「どういたしまして」
そして元気よく外に飛び出していった。
この後、猫の方もやってきて、全く同じ相談をしてきた。
考えることは同じなんだなぁとつくづく思った。
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それ以外にも、ちょくちょくここに来る奴がいる。
それぞれが違った悩みを持って、助けを求めてこちらにくる。
でも、相談っていうのは、聞いてもらえるだけで落ち着いたり、話しているうちに自分で解決策を見つけたり、あるいは、もとから持っている解決策を認めてほしいから、などの理由で来る奴だっている。
私はそのたびに妬む。
だって、色んなことで悩める人たちが妬ましくてたまらないから。
だけど、妬むと同時に、助けてあげられるようなアドバイスだって生まれてくる。
話の最後には、みんな必ずありがとう、と感謝の言葉と笑顔を残していく。
私にはもったいない笑顔、だけどやっぱり嬉しいものだった。
ガチャ。
ドアの開く音と共に入ってきたのは、大きな唐傘を持った…妖怪だろうか。
唐傘には大きな瞳と、そして舌が垂れ下がって…え?何これ気持ち悪い。
「あの~、相談場所ってここでいいよね?」
「え、あ、えぇそうよ。とりあえず座りなさい」
そう促すと、傘を壁の方に置いておいて椅子に座る。
目の色が両方とも違う奴なんて初めて見たわね。
「私は誰かを驚かせることで満たされるんだけど、誰も驚いてくれないの。どうしたら驚いてくれるのかなーって」
「う~ん…そうねぇ。とりあえず、今までどんな事をやってみたか教えてくれないかしら」
変わった奴もいるもんだと思いながら問う。
まずやったことを聞かなければ、アドバイスをしたときにそれがやったことだったら意味が無くなる。
「とりあえず、うらめしやーって正面からぶつかってみたり、こんにゃくを使ってみたり、原点回帰で雨を凌いでみたり、あとは…」
「あ~っと、そこまで」
何でこんなわけのわからんことばっかり言ってるんだ。
そんな方法で驚かすことができるのか!と突っ込みたくなるような内容ばかりじゃないか。
とりあえず、私は基本的な驚かせ方を考えてみる。
「とりあえず、驚かすのなら夜まで待ちなさい。暗闇の山道とか、少し人里から離れた一本道で物陰に隠れて、大きな声でバァ!!って言えば驚くもんよ」
「うらめしやーじゃダメなの?」
「…別に構わないけど。あとは、そうね。そのおっきな傘を有効に使いなさい。背後から急に舌が伸びてきたら驚くわよ」
「そんな方法が…。ありがとう!早速試しに行かなきゃ!」
感謝を言うと、傘を持って急いで上空へと飛んでいった。
変わった奴だなぁ…、見かけも性格も。
そんなことを思いながら、ぐーっと背伸びをする。
意外とこうやってしてるのもいいもんだと思えてきた。
普段嫌われがちな私だけど、こう言ったことで感謝されるのはとても気持ちがいい。
褒められて嫌がる奴なんて少数に過ぎないだろう。
少なくとも、私は褒められると嬉しい。
褒められることで、また頑張ろうとか、やってよかったと思える。
それが達成感であり、生きがいにつながるのだと思う。
生きているからには悩みが生じるが、それを解決できるとまた気持ちがいい。
だから、私は今の立場を少しだけ、誇らしく思った。
…なんか私変わったなぁ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
人は、誰かを励ます時に使う言葉がある。
「お前なら、あなたなら、やればできるよ」
そんな言葉は嘘に過ぎない、だって出来ないことはできないのだから。
現に私が、一生懸命良いことをして、善行をつんだところで天人や神様になれるかと言われたら、それは無理な話だ。
そう、そんな言葉は嘘。
だけど、やらない限りは、それができることかできないことかなんて区別はつかないのだ。
だから、やる前から諦めてる奴には必ず
「やりもしないのにできないなんて言うな」
こう言うようにしている。
この言葉を貰って、やってみようという勇気を持つのならそいつは強い。
だけど、それを聞いて諦めるような、弱音を吐くのは弱い。
弱いから悪いのかと言ったら、そんなんじゃない。
だから私は、そんな弱い奴を助ける為に、一緒に考えて良い方向に導くのだ。
ガチャ。
また扉の開く音が聞こえる。
また一人、迷える子羊をいい方向に導いてやらないと。
それが今の私にできることだから。
どうすればいいですか?
それにしても、このアイデアは良いですね!
黒猫と~ に続き、シリーズ化できそうw
苦労人が大挙して来そう。
妖夢とか鈴仙とか美鈴とか一輪とか椛とか……沢山居すぎて笑えてくる。
今回も可愛いパルスィをご馳走様でした!
次作も楽しみにしてます!
評価ありがとうございます。
勤務先に住むことをお勧めするわ。
評価ありがとうございます。
確かに、シリーズ化出来そうな気もしますけど、する気はなかったですw
まぁ、これも機会があればって感じでしょうか。
次回作も頑張らせていただきます。
面白かったです
パルスィさん、対人関係がうまく築けません。どうすればいいですか?
評価ありがとうございます。
そんなSSが既にありましたか・・・調査不足といわざるを得ませんね。
うれしいお言葉、ありがとうございます。
>喚く 様
評価ありがとうございます。
100点をもらえるように精進したい限りです。
>23 様
評価ありがとうございます。
あの二人はやっぱり和む要素には必要だと思ったので出しました。
ありがとうございます。
評価ありがとうございます。
人をねたんでばかりで対人関係がない私に聞かれても困るけど、さりげない話題で一緒に少しでも盛り上がれば、それの積み重ねでどうにかなるもの。
あとは、時間がどうにかしてくれるもんよ。
先生、いつも橋の上に居る人を好きになってしまって告白したいんですけど、どうしたらいいですか?
評価ありがとうございます。
橋の上の人なんてえらい特殊な人ね、きっと面白い人なんでしょうね。
ストレートに告白すればいいじゃない。
だからパルスィ、私を慰めておくれor2
評価ありがとうございます。
相談所にいらっしゃいな。
評価ありがとうございます。
ちょっとした出来心で不快な思いをさせてしまいすみません。
もうこのようなことはしません。
普通のコメ返し+α程度なんだから問題ないと俺は思ったけどね
へたれ向日葵さんの書くSSは癒されます
評価ありがとうございます。
そう言っていただけると嬉しい限りです……。
私の作品で癒されるなんて、嬉しすぎて空が飛べそうですわ。