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「交代日記」 アリス・マーガトロイド③

2009/07/02 02:49:42
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 ※この作品は、同作者の『「交代日記」 アリス・マーガトロイド』の設定を引き継いでおります。
  この一話でも完結していますが、気が向きましたらそちらを先にお読みください。あ、独自色濃い目です。








『 6月の終わりの日  天気:雨 』



 ザー ザー


窓から見える外の雨をぼんやりと見ながら、アリス・マーガトロイドは悩んでいた。一冊の日記帳を目の前にして。


この日記帳には不思議な特徴がある。
二冊でセットになっており、書いた内容がもう一冊の日記帳にも浮かび上がるのだ。

一冊は私が持ち、日記を書くことになっている。
もう一冊は、私の故郷である魔界の神が持っており日記に対して感想をくれる。


一日目は魔理沙のせいで滅茶苦茶なことを書いてしまい、神綺様に呆れられた。
二日目は里での人形劇の話を書いた。知り合いとの楽しい話もあったので、神綺様も褒めてくれた。
三日目となる今日は……。



 ザー ザー


窓の外を見ると、相変わらず雨が降っている。時間は既に、晴れならば日が沈む頃。
今日は雨のためにどこにも出かけず、もちろん魔理沙も乱入してこない。
一日中家に篭って魔法の研究をしていたのだ。

本来、魔法使いである私にとって一日が全て魔法の研究で終わることは珍しくも無い。
むしろ外にでかけているほうが珍しいくらい。

でも、そんなこと毎日書いていたら神綺様は心配してしまうわよね。
魔法の研究報告なんて面白くもないだろうし。

三日目で書くことが無くなるなんて、三日坊主より酷いじゃない…。


私はふと思い出して、日記に挟まっている手紙を取り出す。
そこには、なんでもいいから書いて欲しいと書いてある。
生活の話でも、悩みの相談でも。楽しい話も悲しい話も、つまらない日常でも辛い過去でも……、過去の話?

そっか。せっかくだから昔の、幻想郷に来た日の話でも書こうかしら。
魔法の修行をするためとか言って飛び出してきちゃったし、神綺様にも迷惑かけちゃったし。


幻想郷に来てからもうどのくらい経つのかしら……。







◇ ◆ ◇ ◆ ◇






その時、私は……わたしは、暗く深い森の中で立ち尽くしていた。




……迷った。


こんなことなら、もっと下調べしておけばよかったかな。
まだ幻想郷へ来てから半日も経っていないっていうのに…。後悔してももう遅い。


ここは幻想郷と呼ばれる場所。曰く、人々から忘れ去られた土地……。


元々魔界に住んでいたわたしが幻想郷へ来た理由、それは魔法使いとしての修行をするため。

魔界では数年前に、幻想郷から巫女やら魔法使いやらが乗り込んでくる事件があった。
その時に魔界の住人が応戦にでたのだが、ことごとくやられ、最後には魔界の神である神綺様まで負けてしまう始末。

……結局、来訪者たちは暴れるだけ暴れて帰ってしまったけど。


わたしはその時から、神を倒すほどの実力の魔法使いが居る幻想郷に興味をもっていた。
いつか幻想郷へ行って魔法使いとしての研究をしてみたい、と。

そしてついに、みんなの反対を押し切って魔界から通じる門を潜って来たのが半日ほど前。

幻想郷に来てまず目に付いたのは、人気の無い寂しい神社。
魔界へ乗り込んできた一人に巫女がいると聞いているから、もしかしてここの住人なのかもしれない。
となると見つかったらマズいことになりそうだ。
そう思ったわたしは、こっそりと神社から離れて近くにある森の中へ身を隠した。


で……、鬱蒼と木が生い茂る森で迷っている時間も大体半日程。

遠くを見渡そうと飛び上がっても、生憎と霧がかかった様な天気で遠くまで見えない。
まっすぐ行けば出れるだろうと思っても、特徴の無い森が続くばかり。


次第に辺りは暗くなり始めている。いっそのこと座り込んで泣いてしまえば楽になれるかな。
でもそんなことをしていて、狼とか妖怪とかに襲われたらどうしよう。

せっかくきたのに、何もしないで死んでしまうなんて、そんなのいやだよ……。
今にも座り込んでしまいそうな足に力をいれ、わたしは出口を求めて歩き続ける。


 くー

焦る気持ちとは裏腹にお腹のほうから空腹を訴えるのんきな泣き声がした。
わたしは背中のリュックから、小さいチョコレートのかけらを取り出して口に放り込む。

こんな事態を想定していなかったから、リュックにはたいした物が入っていない。

食料、とは呼べないようなお菓子と飲み物が幾つか。
着替えが数枚と、簡単なお裁縫の道具。
封印された鍵のかかった魔道書と、神綺様から貰った大事な人形が一体。


野宿の役に立つような道具は一つも入っていない。
魔法で火をおこせば狼とかはなんとかなるかもしれないが、妖怪相手には通じないよね。

不安な気持ちを紛らわすため、リュックから人形を取り出して小脇に抱える。

そしてわたしはまた歩き出す……。




……あれ、明かり?

しばらく歩いていると、遠くのほうにぼんやりと明かりが見えた。

人? 妖怪? もしかしたら家の明かり?
助かった、って思う反面。妖怪が人をおびき寄せる罠かもっていう不安に思う。

木の陰に隠れるようにして、ゆっくりと近づいていく。どうやら、あれは家の窓から漏れる明かりのようだ。
こんな森の中に住んでいる人がいるのだろうか? 森の中に住んでいるくらいだから魔法使いとか……、魔女?
もしかしたら魔法使いに会えるかもしれない。けどいきなり行っても追い返されるなぁ。

わたしの中の魔法使いのイメージは、親切で人々の願いを叶えるものと、偏屈で人を嫌い、害を成すものという両極端だった。
幻想郷の魔法使いはどっちなんだろうな。なにせ魔界に乗り込んで来るくらいだ、後者かもしれない。


家の外観を見渡せるほどに近づいて行くとわたしは大きな勘違いに気づいた。
森の中に家が建っているんじゃなくて、森の外に建っているようだ。
この家の少し手前で森は途切れ、この家から森とは反対側に道が続いている。
どうやらここは森の入り口と言ったところだろうか。


家の前に回りこんでみると、どうやら何かのお店のようだ。『香霖堂』と書かれた看板が掲げてある。
入り口の横には何だか判らないがらくたの山ができている。一体ここはなんのお店なんだろうか。

……お店なら害は無いよね。
自分に言い聞かせる様に呟いてから、わたしは店のドアを開いた。



 カランカラン

竹のぶつかるようなベルの音が来客を告げる。お店の中は思ったよりも広い。
けど外と同じようにがらくたが積まれている、何のお店なんだろう?

奥にあるカウンターには眼鏡をかけた一人の男が座っている。
気がついてないのか、手にした書物を読み耽っていてこちらを見ようともしない。


……どうしよう。

何を話しかければいいのかな。道に迷いました。って言ってもなぁ。
魔法使いのいる場所でも教えてもらう? それともまずは泊まれる場所かな。
そういえばこれからどうやって生活していこう……。魔法の研究するにもまずはお金が無いとだめよね。

今更ながらに何にも考えていなかった自分が恨めしい。
やだ、また泣きそうになってきた……。


わたしが何も言えずに佇んでいると、男がゆっくりと本から目を話してこっちを見た。

「……おや、珍しく静かなお客さんが来ているかと思えば。君はどうやら初めての来店かな。
 いらっしゃいませ、香霖堂へようこそ」

どうやら客が来ているのには気づいていたらしい。じゃあその時に挨拶してくれればいいのに。

「何かをお探しかな、可愛らしいお客さん」

どうしようどうしよう。可愛らしいだなんて……じゃなくて!
なんて聞こう? 素直に道に迷いました、かなぁ。


「……どうやらお客さんって感じじゃないね。道にでも迷ったのかな?」

もたもたしていたら先に言われてしまった。
なんで判ったんだろう。そんなにわたし、迷子に見えるかなぁ?

「その姿を見れば判るよ。疲れきった表情に汚れた服、迷子で無ければ何だと言うんだい?
 こんな場所で迷うなんて……、近くに住んでいるとは思えない。家出か何かかい?」

……うぅ、当たっている。魔法使いの修行のためとは言え、結局は家出みたいなものだ。

「この時間からでは人間の里へ向かうのにも、妖怪の山へ行くのにも安全とは言えないな。
 それに、君は一体どっちへ向かうんだい? 人間とも妖怪とも違うようだが」

なんでこの人はそんなことまで判るんだろう。確かにわたしは人間とも妖怪とも違う魔界の住人だ。
でもそんなこと正直に言っていいんだろうか。

「言いたく無ければ構わないよ。僕だって人のことを言えるような立場では無いからね」

言われてみるとこの人も妖怪には見えないが人間とも少し違う、不思議な空気を感じる。
でも魔界の住人では無いし…。どちらにせよ余り深く詮索するのも失礼かな。

でもわたしのことは話すしかないのかな。今、頼れるのは目の前の人だけ。
全てを隠したまま手助けを求めるのは余りにも都合が良すぎるよね。
魔界のことだけは上手く隠して話してみようかな……。





「……なるほどね。じゃぁ君は魔法使いと言うわけか。道理で人間とも妖怪とも違う感じがするわけだ。
 それにしても、家出をしてきた魔法使いか。どうやら僕はよっぽどそういうのに縁があるみたいだな」

なぜか店主は堪えられないと言った様子で笑い出した。
失礼な男。家出をした魔法使いがそんなにおかしいのか。

「ごめんごめん。そういうわけじゃないよ。ただ、君とよく似た女の子を知っていたからね。
 君と同じように魔法使いを目指して家を飛び出した女の子」

こっちの世界でもそんな子がいるんだ。その子はどうしたんだろう?
魔法使いになれたのかな……。

「今も修行中っていうところかな。まだまだ半人前だけど、頑張ってやっているよ」

……そっか、すごいな。わたしなんて始まる前から挫けそうになっているのに。
この人はその子のことをよく知っているみたい。どこか優しい目つきで話をしてる。
聞いてみようかな、その子は家を飛び出してからどうやって修行を始めたのか。


男はまた笑いながら答える。

「なんてことは無い、この店に飛び込んで来たのさ。元々この店にはよく来ていたからね。
 その時なんて言ったと思う? 魔法の修行をするから家を寄越せ、って言ったんだよ。信じられないだろう?」

本当に信じられない。家を寄越せ? そんな簡単に家が手に入るならこんなに苦労しないのに。
それでどうしたんだろう。まさか本当に家が手に入ったわけじゃないだろうし。

「そのまさかだよ。僕が所有していた家を一つあげたのさ、その子の親父さんには世話になった恩があったからね。
 ま、所有と言っても住む人がいなくなって誰も必要としない家を僕が管理していただけなんだけどね。
 どうせ人の来ない魔法の森の中だから売り物にもならなかったし」

たいしたことじゃないよ、と言って笑っているけど充分たいしたことだよ。
でも羨ましいな、そんな風にしてその子は魔法使いとしての第一歩を踏み出したんだ。

わたしは、どうすればいいのかな。知り合いも居ないし、家を買うお金なんて持っていない。
……なんだな、泣きたくなってきちゃった。


「……もし、よかったら。君に住む場所を提供してやれないことも無いが」

男はそんなわたしを気遣ってか、とんでもないことを言い出した。

「さっき話した子にあげた家と同じような、住む人がいなくなって誰も必要としない家が有るんだ。
 場所は安全とは言えない魔法の森の中だが、君はどうやら魔法の心得があるみたいだから大丈夫だろう」

どうだい、と男は優しく聞いてくる。そんなこと突然言われても……。
だって家だよ? ぽん、とあげるような安いものじゃないよね。

「何、元々はある妖怪がそこに住んでいたんだけどね。余りにも悪さが過ぎるから退治されちゃったのさ。
 それで僕が引き取ったはいいんだが、誰も買わないから管理の手間だけがかかってしょうがないんだ。
 それにもちろん、誰もタダであげるとは言ってないよ?」

それはそうだよね。タダでなんて旨い話があるわけが無いもん。
でもわたしは家を買える様な大金は持ってないし。まさか! わたしの体が目当てじゃ――

「それはないよ」

先回りして言われてしまった。
きっぱりと否定してくれてほっとする反面、ちょっと失礼な気がする。

「魔法使いを自称しているくらいだから、手ぶらではないのだろう?
 別にお金じゃなくても珍しい物と交換でも構わないよ」


少し悩んでからわたしはリュックの中身を取り出してみる。何か入ってたっけなぁ……。
お金も少しくらいは持ってきてたはずだ。ちょっとの足しにはなるかもしれない。

「これはなんだい? 何かのコインのようだが…」

え? 何ってお金じゃない。ひいふうみぃ……うん、3千マッカはある。

「マッカ? どこの国のお金だい? ここではそのお金は流通していないよ。ここで使えるのは円だけだよ」

えん? なにそれ? じゃあわたし、一文無し?

「……残念ながらそういうことになるね。まぁ珍しいコインだし、飾りとしてなら買い取ってもいいが」

そんなぁ……、頑張って溜めたお金だったのに。



次に出てきたのは、鍵のかかった魔道書。

「ほぉ……、これは外から見ただけでも中々の物だね。これ程の魔道書なら家の一つくらいは……、」

だめっ!! と叫んでわたしは魔道書を必死に抱きかかえる。
これだけはダメだ。これは大切な魔道書、これを失うくらいならまだ魔界へ引き返したほうがマシだ。

「おいおい、そんなに睨まなくても…。そんなに大事な物なら無理に奪い取ることはしないよ」

あ、怒らせちゃったかな。せっかく親切にしてくれているのに、ごめんなさい。

「気にしなくてもいいよ。誰にだって大事なものはある、うかつに触ろうとした僕が悪かったんだ」



……じゃぁ他には、お菓子とか。

「いや、そんな顔で見られても。食べかけのお菓子はさすがにダメだよ」



後は、このお人形くらい。

「おや? これは珍しいね。ここまで綺麗に作られた人形なんて。
 それになんだろう、見たことも無い素材で作られている」

……え? この人形がそんなに凄いんだろうか。
昔、神綺様が作ってくれた人形。素材は確かに魔界の物だから幻想郷では珍しいのかも。

「これほどの物なら、欲しがる人は高く買い取ってくれるだろうね。どうだい? これと家を交換っていうのは」

本気で言ってるの? たかが人形一体と家を交換?

「たかが人形、と舐めちゃいけないよ、大事にされた人形には命が宿ることも有ると言われている。
 想いの篭められた人形は、それだけで立派な一つの命を持つことになるんだ」

なんだかむずかしいことを言っている。人形がイノチを持つ? メイを持つ?

「……君にはまだ難しいかな。で、どうだい? これを僕に譲ってくれないか?」


どうしよう。確かに人形一つで家が手に入るなら安いものだ。
でも、これは神綺様から貰った大事な物。でもでも、家が無いと魔法使いとしての第一歩が踏み出せない。

「……どうやらこれは君にとっては大事な物らしいね。じゃあこうしようか。
 僕はこれを買い取ったらお店に商品として置かせて貰う。君は頑張ってお金を稼いで、いつかこれを買い戻せばいい」

どういうこと? それじゃ普通に売っているだけじゃないの。

「そういう事になるね。そこでだ、僕はこれを欲しがる客には凄い高い金額を提示するのさ。
 そしてもし君が買い取りに来た場合には、正当だと思う金額で提供しよう」

なるほど、それならわたしが買い戻せる可能性も高くなる。
でも、もし売れちゃったら?

「その時は諦めて貰うしかないな。仮にも僕は商売人だ。お金儲けを第一に考えているんでね。
 ところで、これはまさか君が作ったのかい?」

それこそまさか、だ。この人形は神綺様が作ったもの。
わたしも人形作りをしているが、まだここまでの物は作れない。

「成る程ね、じゃぁどうだろう。君の作った人形をここで売ってみないかい?
 他にも人形が売っているとなれば、高いお金を出してこの人形を買おうと言う人も減るだろう。
 君も収入が得られるのだから、買い戻すまでの期間が短くなるしね」


確かにそれなら、生活費を稼ぐ手段もできるから願ったり叶ったりだ。
でも……売り物にする……。わたしが作った人形を? そんな酷い――

「君は何か勘違いをしているようだね。確かに売り物にすると言うと聞こえが悪いかもしれない。
 けれども、考えてご覧。君がこの人形をプレゼントして貰った時、嬉しくは無かったかい?」

もちろん、嬉しかった。嬉しくないわけが無い。

「じゃあもし、その人形がお店で買った安物ものだったら? 手作りじゃない安物だからと言って怒るかい?」

そんな……ことは、ないと思う。
わざわざ選んでプレゼントしてくれるんだ、嬉しいに決まっている。

「そういうことだよ。もちろん相手を想って自らが作るという行為は大切な事だろう。
 でも誰もがそんなに器用に作れるわけじゃないんだ。忙しくて暇が無い人もいるかもしれない。
 そんな人たちの為にも、君の作る人形は喜んでもらえると想うよ」


わたしの作った人形が、想いを込められて誰かの手に渡っていく。
なんだか不思議な感じがする、けどさっきみたいに嫌な感じはしない。
いいかもしれない、なんにせよお金を稼ぐ手段は必要だし。

「交渉成立、だね。この人形と家の交換、そして君の人形の販売委託。
 材料と道具は貸してあげるよ。もちろん始めだけのサービスで、後々はちゃんと買ってもらうけどね」

なんだかいきなり大きな借りを作ってしまった気がする。
ま、いいわ。早く一人前になって、まとめて返させてもらおうじゃない。

「とりあえず今日の所はうちに泊まっていくといい。ちょうど明日、知り合いの子が来るから、その子に案内をお願いしよう」

どんな家なんだろう? 魔法の森の中って言ってたけど、さっき迷ってた森のことだろうな……。
じゃあ周りに人は住んでいなさそうね。魔法の研究をするにはちょうどいいかな。


でも……、話がうまく行き過ぎている気がする。
なんで? なんで会ったばっかりのわたしにこんなに優しくしてくれるのだろう。

「……なんでだろうね。やっぱり、似ているからかな」

さっき言ってた子のことだろうか。一体どんな子なんだろう。

「後でその子のことも話してあげようか。まずはなにか暖かい食事でも用意しよう」



――明日から、わたしは新しい家で暮らすことになる。



私は男について店の奥へ向かう。
ずっと歩いていたからお腹ぺこぺこだ。




――明日から、わたしの幻想郷での生活が始まる。


「そうそう、忘れていた。僕の名前は森近 霖之助。改めて、香霖堂へようこそ。今後ともご贔屓に」








  『 それと、幻想郷へようこそ 』



――どこからか、そんな声が聞こえた気がした。








◇ ◆ ◇







……これが、私が幻想郷へ来た日の出来事。

ごめんね、神綺様。貴方がくれた人形を売ってしまう様な事をして。
あの人形はまだ香霖堂に並んでいます。いくらで売っているのか何度も聞いたけど、いっつもはぐらかされて教えてくれません。
本当はもしかしたら売る気なんて無いのかも、なんて言ったら買いかぶりすぎかな?


あの話に出てきた魔法使いの女の子は、魔理沙でした。
同じ魔法の森に住むライバルってこともあって色々世話になったり、迷惑かけられたり。

香霖堂のもう一人の常連である神社の巫女、霊夢って言うのも居るのだけど。
ま、二人とも一昨日の日記に出てきたから判るかな?

二人とも年代が近いってこともあって、一緒になって騒いだり、時には対立したり。
でもなんだかんだで仲良くやっていると思います。


あの日の翌日に、今の家に住むようになってから、色々なことが有りました。
幻想郷中を騒がすような事件に巻き込まれることも有ったっけな。

魔法使いとしての腕前も結構あがったよ。
今の私が作った人形をみたらびっくりすると思うな。

ふふふ、日記のはずなのになんだか手紙みたいになってきちゃった。




……ごめんなさい。突然だけど、この日記は今日で終わりにします。


まだまだ書きたいことは一杯あるけど、伝えたいことも一杯あるけど。
でもそれを全部書いちゃったら、今度あったときに話すことが無くなっちゃいそうだから。

だから、この日記は今日で終わりにしたいと思います。


面倒なわけじゃないよ?

どうせならお母さんの喜ぶ顔を見ながら伝えたいからね。
元気でやってるってことは充分伝わったと思うし。


……きりがないからこの辺で終わりにしようかな。

それじゃぁ、いつかまた会える時まで元気でね。


        ~ いつまでも貴方を大切に想う 娘より ~









◇ ◆ ◇ ◆ ◇







   ぱたん


と私はノートを閉じる。
なんでだろう? 変な感じ。ホームシックってやつかな。


よーっし、晩御飯の支度でもしよう。



   バタン!!

「おーっす、アリス。晩飯はまだかー?」


あー、もう。せっかくしんみりしていたのに、騒がしいのが来たわ。

「……こんな時間に何考えてんのよ」
「いやー、一日中雨で家の中にいたからさ。雨が止んだら飛び出したくなっちゃってなー」

はっはっは、と豪快に笑う魔法使い。本当、いつの間にか雨が止んでいるわ。

「ついでに食材切らしてるのに気づいてさー。晩飯食わしてくれよー」
「……はぁ。判ったわよ。シチューでも作るから大人しく待ってなさい」

さっすがアリスと言いながら、勝手知ったるなんとやら、ソファーにふんぞり返る。


「お、なんだこのノート? 新しい魔道書か?」
「お生憎様、ただの日記帳よ。勝手に見ないでよね」

「へー、お前日記なんて書いてたんだ。どれどれ……」
「三日前から書き始めたの……よっ!」

人形を操ってノートを奪い取る。言ってるそばから油断も隙もあったもんじゃない。


「そりゃないぜー。私とお前の仲じゃないか」
「プライベートな日記を見せ合う仲になった覚えは無いわよ。それにこの日記はもう終わったのよ」

受け取った日記帳を大事に胸に抱え込む。

「終わり? まだ三日目なんだろう?」
「良いのよ、この日記はもう必要ないんだから」

気になるぜー、と言いながら駄々をこねている。


「ほらほら、大人しく待ってなさいっての」

むー、と頬を膨らませて抗議の色を示す。
まったく、いつまで経っても子供なんだから。

「三日で終わるなんてアレだよなー。えっと…、三日――なんだっけ」

三日坊主のことだろうか。
別に飽きたから辞めるってわけじゃないけど。


「そうそう! 三日プリースト!」

惜しい! いや惜しくない!!


同じ魔法使いとして、恥ずかしいわ……。




台所の窓から空を見上げると、雨雲が無くなった空には星が広がっていた。

「……明日は、晴れるかしら」


明日は何をしようかなー。
それとも、何が起こるかしら、かな。

ふふふ、まだ明日になった訳じゃないのになんでこんなに楽しいのかな。




 ――明日は、晴れますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 アリスちゃんが飛び出していった日、すっごい心配したわよ。
 でも、無事に生活が始められたみたいね。
 人形のことは、ちょっと残念だけど気にしなくていいわよ。
 アリスちゃんの力になれたのなら、私はそれで構わない。

 もう日記が終わっちゃうのは残念だけど、
 次に会う時に聞く楽しみが残るのだから許してあげる。

 大丈夫だと思うけど、アリスちゃんも元気でね。
 きっと、明日もいい天気になると思うわ。



 それにしても、三日で終わっちゃうなんてアレよね。
 えっと…、なんとか――坊主。


 そう、巫女坊主!
 
 
人形の月
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コメント



0.4860簡易評価
20.100煉獄削除
これで日記は終わりですかぁ……もう少し続くと思っていただけに残念ですね。
そして今度は神綺様サイドに……というのはありませんか……。
アリスが幻想郷に来たときの話で霖之助には「」がありアリスに
それを使っていないのも良かったです。
後書きでの神綺様の愛情と巫女坊主という間違いをしてて面白かったですよ。
21.100奇声を発する程度の能力削除
面白かったー!!!
けど、このシリーズが終わっちゃうのは少し残念です。
22.100名前が無い程度の能力削除
答.お客がいなかった
現実とは残酷である…
24.100名前が無い程度の能力削除
ロリス来た!これで勝てる!
矢張り霖之助と女児はお似合いですよね、お爺さんと孫的に考えて
25.100名前が無い程度の能力削除
これは にっき では ない
27.100名前が無い程度の能力削除
もっと続きが読みたかったです
28.100名前が無い程度の能力削除
実に面白いシリーズでした!
今後も是非あなたの作品を読みたいものです
29.100名前が無い程度の能力削除
他の方も言っておられますが、これで終わりなのが純粋に淋しくなりました
本当にいい作品でした
30.100名前が無い程度の能力削除
交尾日記に見えてしまう。この事は見なかったことにな。
33.100七人目の名無し削除
霖之助が紳士だなあ。
私だったらもちろん体目当てですけどね♪
・・・・・・とか言ってみるテスト。
41.100名前が無い程度の能力削除
こら33www
50.100名前が無い程度の能力削除
むぅ、完結ですか。続いてほしいし、結構ぶつ切りな終わり方になってしまったけど、面白かったです。
52.100名前が無い程度の能力削除
巫女坊主だったら女装巫女ってことに……!
53.80名前が無い程度の能力削除
アリスの設定は旧設定ですね。
確かに魔法の森に先に住んでいたのはたぶん霖之助でしょうから
上手い展開ですが、後半が少々やっつけだったので80点です。
58.100名前が無い程度の能力削除
続きを楽しみにしていただけにここで終了とは少し残念。
良いお話をありがとうございました。あとがきがとても良い味出してます。
65.100名前が無い程度の能力削除
珍しい人形なんだから非売品にしている可能性は高いなw
魔理沙とアリスが共に香霖堂から第一歩を踏み出したってのがなんかいいなぁ
74.90名前が無い程度の能力削除
マルカジリ
96.100名前が無い程度の能力削除
三日プリーストうめぇww
100.100名前が無い程度の能力削除
うむぅ、三日かぁ。
日記ってまあそんなものか。と思うと同時に残念です。

それにしても……草……
107.100名前が無い程度の能力削除
アリス三部作一気に読み進めましたが、どれも素敵な話でした
ありがとうございます