こころちゃんは悩んでいました。
「はて、感情とは一体なんだっけ」
こころちゃんは悩んでいました。
ここ最近とくに悩んでいました。
ご飯を食べている時も、歯を磨いている時も、舞っている時も
お風呂に入っている時も、弾幕ごっこをしている時も、布団に入って目を閉じるまで。
ずうっとこころちゃんは悩んでいました。
「感情はどこから来るのだろう。こいつはどうして動かないのだろう」
こころちゃんは自分の目を、鼻を、口を、額を触ります。
なかなか動かない自分の顔を一生懸命に動かそうとします。
しかし、なかなか顔は動いてくれません。
「悩む、悩むぞ。うむむ」
こころちゃんはポーカーフェイスのまま、頭をひねりました。
しかし、いくらひねっても答えは出てきません。
かわりに頭の上にクエスチョンマークが出てきましたが、これは求めていないものなのですぐに引っ込めました。
「うむむ、うむむ」
いくら頭をひねっても、こころちゃんにはいい案が思いつきません。
ひねってひねってひねってひねって。
それでも駄目です。
「うむむ、うむむ、うわあ」
こころちゃんは悩みに悩み、ひねりにひねり。
そうしているうちに、ころっと一回転してしまいました。
一回転して良い案が浮かべばよかったのですが、世の中そううまくいきません。
一回転してもやっぱりわからないので、こころちゃんは更にあたまをひねります。
「うむむ、うわあ、うむむ、うわあ」
こころちゃんは頭をひねり、回転し、頭をひねり、回転し、頭をひねって回転します。
そのうちこころちゃんは、ころころと転がってしまうはめになってしまったのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
「あれ、何かが転がってきたよ」
「やあやあ、我こそは秦こころなるぞ……ううっぷ」
「気持ちが悪いのねこころちゃん。私が背中を擦ってあげる」
こころちゃんはころころところがり、こいしちゃんの足元で止まりました。
こいしちゃんはこころちゃんの背中を擦り、なにがあったのかを聞くことにしました。
「こころちゃん、どうしたの?」
「……」
「黙ってちゃわからないわ」
「貴方に聞くのは間違っている気がする」
「え?」
「でも聞いてみる。感情ってどうやって生まれるの」
「そんなこと。簡単だよ」
こころちゃんはあっけに取られました。
まさかこんなに簡単に答えが得られるとは思わなかったからです。
こころちゃんはごくりとつばを飲み込み、こいしちゃんに尋ねました。
「美味しいものを食べればいいの」
「へ? それだけ?」
こころちゃんはおおとびでの仮面をはめて、驚きました。
「うん、あとはね、隣に好きな人がいれば完璧かな」
「好きな人……」
「お姉ちゃんとか」
「そんなものいないよ」
「ペットとか」
「そんなものもいないよ」
「家族とか」
「そんなものもっといないよ」
「残念ね」
「そう、残念」
こころちゃんはうばの仮面をかむり、しくしくと悲しみました。
自分には家族や友だちがいないこと、それよりも感情を得るために最適な手段が取れないことを悲しんだのです。
「もういく。いくら悩んでもわからない」
「あれもういっちゃうの、さっきの話だけど、こころちゃんには友達が」
「ころころ」
「いっちゃった。うーん、感情ねえ」
こころちゃんは頭をひねり、また転がって行きました。
こいしちゃんは転がっていくこころちゃんをみて、笑顔で「またね」と言いました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
「……何か来たわ。ちょっと誰かいないの」
「私が居るよ。いま来たよ」
「……こほこほ」
「風邪なの?」
「喘息なの。少し埃っぽくなったから、こほこほ」
「ひょっとして私が来たからかな? ごめんなさい」
こころちゃんは猿の仮面をかむっておろおろと行ったり来たりを繰り返しました。
なぜなら、こころちゃんは相手を苦しませようという気持ちはなかったのですから。
「ごめんなさい、どうしよう、どうしよう」
「こほこほ、大丈夫よ。小悪魔、来て。こほこほ」
パチュリーは手元にあるベルを鳴らすとまもなく、従者が吸入器を持ってきました。
しばらくすると、パチュリーは息を落ち着かせ、こころちゃんと会話が出来る状態になりました。
その間こころちゃんは、仮面を付け替えこっちに来たりあっちに行ったりと一人で大騒ぎをしていました。
こんなに苦しんでる人を見るのは、生まれて初めてだったからです。
「もう大丈夫なの? 私がごめんなさい、悪かったのね、私が」
「落ち着いて。いつものことだから。ところでなんの用なの?」
「うん、私は感情のことを聞きに来たの」
パチュリーはこころちゃんの話を真剣に聞きました。
彼女も以前から、最近うまれたこころちゃんに興味を持っていたのです。
こころちゃんの話をひとしきり聞くと、パチュリーは従者が持ってきた紅茶でくちびるを湿らせてからこう話しました。
「感情は『こうしよう』と思って生まれるものではないわ」
「そうなの? どうしよう」
「どうもしなくていいの。待っていればきっと貴方に感情は生まれる」
「そうなの? じゃあそうしよう。ありがとう、お大事にね」
「というか貴方には……あ」
「ころころ」
こころちゃんは聞きたいことが聞けたので、またころころと転がって行きました。
パチュリーは転がっていくこころちゃんをみて、ため息をつきながら「忙しい娘ね」とつぶやきました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
「ちょうどいいところに来た」
「え?」
「根を支えておいて。植木鉢から外の畑に植え替えるから」
「え、と。ここを持っていればいいの?」
こころちゃんは転がった先ですぐにその妖怪にいいように使われました。
暑い日差しの中、帽子もかぶらないままお庭というには広すぎるお庭いじりに付き合わされたのです。
やっとのことで開放されたのは、日が沈みかかり、人里ではお味噌汁のにおいが漂ってくる時間帯でした。
「お疲れ様。だいぶはかどったわ」
「ま、まて!」
「何か?」
「なぜ私は庭いじりなんかに付き合わされたのだ!」
こころちゃんははんにゃのお面をかむり、花の妖怪に怒号を浴びせました。
こころちゃんの足腰はもうへとへとで体中は土だらけになっています。
「ちょうど来てくれたからね。手伝いに来たのかと」
「そんな都合のいいやつがいるか!」
「ひどい言われようね」
その時、妖怪からおびただしい量の妖気が漏れ始めました。
あまりにも大量の妖気におもわずこころちゃんはたじろぎます。
「く、くそう……」
「なんてね。もちろんお礼はするわ。お風呂が沸いているから、入ってきなさい」
こころちゃんは言われるがままにお風呂に入りました。
湯船に入る経験もあまりない上に、疲れた体で入ったので
「こいつは効くわあ……」という言葉が漏れてしまいました。
もちろんその時、ひょっとこのお面をかむっていました。
「シチューが出来たわ」
「ずずず、これは最高の逸品である一品!」
「喜んでいただいたようで。ところでお手伝いに来たわけじゃないのなら、なにしにここに来たのかしら?」
「私は感情を知りたい、そしてこれで表現してみたいの」
こころちゃんは両手で頬をぐにょぐにょとやりました。
あまりにぐにょぐにょとやるもので、花の妖怪はくすりと笑いました。
「あ、笑顔。それがほしい」
「これは私の笑顔だから上げられないの。でも今あなた」
「ううん、他人の笑顔はもらえない、ならばやはり私で生み出すしかないものなのか、ううむ」
「あら、ごちそうさま?」
「ころころ」
こころちゃんはよたび頭をひねって、ころころと転がって行きました。
花の妖怪は転がっていくこころちゃんをみて、またくすりと笑いながら「面白い娘ね」と言いました。
「ころころ」
「あら、戻ってきた」
「いい忘れていた。ごちそうさま。ころころ」
「……おそまつさまでした」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
あら、最後は私の所に来たのね。
ずっと見ていたわよこころちゃん。
「え? 貴方は一体」
私はただの傍観者。
覗き見が趣味の性格が悪い妖怪よ。
「見ていたなら話は早い。私はどうすればいいのだろう」
どうもしない、と魔女に教わったのではなくて?
こころちゃんは狐のお面をかむり、私にこう言いました。
「そうだった。でもそれで本当にこいつは動くのかな」
こころちゃんは両手でぐにょぐにょと頬を動かしました。
その崩れた顔に思わず私はくすりと笑ってしまいます。
「笑った」
これは私の笑顔だからあげられないわ。
「貴方もそうなのね」
そうよ。
ところでこころちゃん。
「なに?」
鏡を見たこと有る?
「馬鹿にするな! 私はおめかしだってする!」
あららごめんなさい。
そのはんにゃのお面はしまってくださいな。
でもね、その質問をされるのはしようが無いことなのよ。
「どうして?」
こころちゃん、さっきからいろんな人と話しているでしょう?
「うん」
その間こころちゃん、いっぱい笑って、いっぱい驚いて、いっぱい泣いて、いっぱい怒っていたじゃない。
「え?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ころころ。
頭を捻ったまま、こころちゃんは自分の家に戻ってきました。
結局答えはわからなかったようです。
「最後に出会ったあの妖怪も、訳のわからない事を言ってすきまに消えてしまった。
答えはあのすきまのなかにあるものか」
こころちゃんはそうつぶやきました。
パジャマに着替え、鏡の前までやって来ました。
うつっているのは、なんの変化もない、いつものこころちゃんの顔です。
「……やっぱり、笑ってなんていない」
こころちゃんはそうつぶやいて、お布団に潜りました。
そのうち、寝息が聞こえてくるでしょう。
こころちゃんの一日は、今日もおわります。
こころちゃんは既に感情を得ていました。
それはいろんな人に出会い、話して、遊んだたまものです。
だからこそ、一人のこころちゃんの表情は、いつもポーカーフェイスなのです。
「ううん……」
あら、こころちゃんが唸っているようです。
悪夢でも見ているのでしょうか?
気付かれないように、布団をめくってみましょう。
……その心配はないようね。
こんな笑顔を見せられちゃあ。
きっといい夢見てるはず。
『こころころころ』
終わり
「はて、感情とは一体なんだっけ」
こころちゃんは悩んでいました。
ここ最近とくに悩んでいました。
ご飯を食べている時も、歯を磨いている時も、舞っている時も
お風呂に入っている時も、弾幕ごっこをしている時も、布団に入って目を閉じるまで。
ずうっとこころちゃんは悩んでいました。
「感情はどこから来るのだろう。こいつはどうして動かないのだろう」
こころちゃんは自分の目を、鼻を、口を、額を触ります。
なかなか動かない自分の顔を一生懸命に動かそうとします。
しかし、なかなか顔は動いてくれません。
「悩む、悩むぞ。うむむ」
こころちゃんはポーカーフェイスのまま、頭をひねりました。
しかし、いくらひねっても答えは出てきません。
かわりに頭の上にクエスチョンマークが出てきましたが、これは求めていないものなのですぐに引っ込めました。
「うむむ、うむむ」
いくら頭をひねっても、こころちゃんにはいい案が思いつきません。
ひねってひねってひねってひねって。
それでも駄目です。
「うむむ、うむむ、うわあ」
こころちゃんは悩みに悩み、ひねりにひねり。
そうしているうちに、ころっと一回転してしまいました。
一回転して良い案が浮かべばよかったのですが、世の中そううまくいきません。
一回転してもやっぱりわからないので、こころちゃんは更にあたまをひねります。
「うむむ、うわあ、うむむ、うわあ」
こころちゃんは頭をひねり、回転し、頭をひねり、回転し、頭をひねって回転します。
そのうちこころちゃんは、ころころと転がってしまうはめになってしまったのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
「あれ、何かが転がってきたよ」
「やあやあ、我こそは秦こころなるぞ……ううっぷ」
「気持ちが悪いのねこころちゃん。私が背中を擦ってあげる」
こころちゃんはころころところがり、こいしちゃんの足元で止まりました。
こいしちゃんはこころちゃんの背中を擦り、なにがあったのかを聞くことにしました。
「こころちゃん、どうしたの?」
「……」
「黙ってちゃわからないわ」
「貴方に聞くのは間違っている気がする」
「え?」
「でも聞いてみる。感情ってどうやって生まれるの」
「そんなこと。簡単だよ」
こころちゃんはあっけに取られました。
まさかこんなに簡単に答えが得られるとは思わなかったからです。
こころちゃんはごくりとつばを飲み込み、こいしちゃんに尋ねました。
「美味しいものを食べればいいの」
「へ? それだけ?」
こころちゃんはおおとびでの仮面をはめて、驚きました。
「うん、あとはね、隣に好きな人がいれば完璧かな」
「好きな人……」
「お姉ちゃんとか」
「そんなものいないよ」
「ペットとか」
「そんなものもいないよ」
「家族とか」
「そんなものもっといないよ」
「残念ね」
「そう、残念」
こころちゃんはうばの仮面をかむり、しくしくと悲しみました。
自分には家族や友だちがいないこと、それよりも感情を得るために最適な手段が取れないことを悲しんだのです。
「もういく。いくら悩んでもわからない」
「あれもういっちゃうの、さっきの話だけど、こころちゃんには友達が」
「ころころ」
「いっちゃった。うーん、感情ねえ」
こころちゃんは頭をひねり、また転がって行きました。
こいしちゃんは転がっていくこころちゃんをみて、笑顔で「またね」と言いました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
「……何か来たわ。ちょっと誰かいないの」
「私が居るよ。いま来たよ」
「……こほこほ」
「風邪なの?」
「喘息なの。少し埃っぽくなったから、こほこほ」
「ひょっとして私が来たからかな? ごめんなさい」
こころちゃんは猿の仮面をかむっておろおろと行ったり来たりを繰り返しました。
なぜなら、こころちゃんは相手を苦しませようという気持ちはなかったのですから。
「ごめんなさい、どうしよう、どうしよう」
「こほこほ、大丈夫よ。小悪魔、来て。こほこほ」
パチュリーは手元にあるベルを鳴らすとまもなく、従者が吸入器を持ってきました。
しばらくすると、パチュリーは息を落ち着かせ、こころちゃんと会話が出来る状態になりました。
その間こころちゃんは、仮面を付け替えこっちに来たりあっちに行ったりと一人で大騒ぎをしていました。
こんなに苦しんでる人を見るのは、生まれて初めてだったからです。
「もう大丈夫なの? 私がごめんなさい、悪かったのね、私が」
「落ち着いて。いつものことだから。ところでなんの用なの?」
「うん、私は感情のことを聞きに来たの」
パチュリーはこころちゃんの話を真剣に聞きました。
彼女も以前から、最近うまれたこころちゃんに興味を持っていたのです。
こころちゃんの話をひとしきり聞くと、パチュリーは従者が持ってきた紅茶でくちびるを湿らせてからこう話しました。
「感情は『こうしよう』と思って生まれるものではないわ」
「そうなの? どうしよう」
「どうもしなくていいの。待っていればきっと貴方に感情は生まれる」
「そうなの? じゃあそうしよう。ありがとう、お大事にね」
「というか貴方には……あ」
「ころころ」
こころちゃんは聞きたいことが聞けたので、またころころと転がって行きました。
パチュリーは転がっていくこころちゃんをみて、ため息をつきながら「忙しい娘ね」とつぶやきました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
「ちょうどいいところに来た」
「え?」
「根を支えておいて。植木鉢から外の畑に植え替えるから」
「え、と。ここを持っていればいいの?」
こころちゃんは転がった先ですぐにその妖怪にいいように使われました。
暑い日差しの中、帽子もかぶらないままお庭というには広すぎるお庭いじりに付き合わされたのです。
やっとのことで開放されたのは、日が沈みかかり、人里ではお味噌汁のにおいが漂ってくる時間帯でした。
「お疲れ様。だいぶはかどったわ」
「ま、まて!」
「何か?」
「なぜ私は庭いじりなんかに付き合わされたのだ!」
こころちゃんははんにゃのお面をかむり、花の妖怪に怒号を浴びせました。
こころちゃんの足腰はもうへとへとで体中は土だらけになっています。
「ちょうど来てくれたからね。手伝いに来たのかと」
「そんな都合のいいやつがいるか!」
「ひどい言われようね」
その時、妖怪からおびただしい量の妖気が漏れ始めました。
あまりにも大量の妖気におもわずこころちゃんはたじろぎます。
「く、くそう……」
「なんてね。もちろんお礼はするわ。お風呂が沸いているから、入ってきなさい」
こころちゃんは言われるがままにお風呂に入りました。
湯船に入る経験もあまりない上に、疲れた体で入ったので
「こいつは効くわあ……」という言葉が漏れてしまいました。
もちろんその時、ひょっとこのお面をかむっていました。
「シチューが出来たわ」
「ずずず、これは最高の逸品である一品!」
「喜んでいただいたようで。ところでお手伝いに来たわけじゃないのなら、なにしにここに来たのかしら?」
「私は感情を知りたい、そしてこれで表現してみたいの」
こころちゃんは両手で頬をぐにょぐにょとやりました。
あまりにぐにょぐにょとやるもので、花の妖怪はくすりと笑いました。
「あ、笑顔。それがほしい」
「これは私の笑顔だから上げられないの。でも今あなた」
「ううん、他人の笑顔はもらえない、ならばやはり私で生み出すしかないものなのか、ううむ」
「あら、ごちそうさま?」
「ころころ」
こころちゃんはよたび頭をひねって、ころころと転がって行きました。
花の妖怪は転がっていくこころちゃんをみて、またくすりと笑いながら「面白い娘ね」と言いました。
「ころころ」
「あら、戻ってきた」
「いい忘れていた。ごちそうさま。ころころ」
「……おそまつさまでした」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ころころ」
あら、最後は私の所に来たのね。
ずっと見ていたわよこころちゃん。
「え? 貴方は一体」
私はただの傍観者。
覗き見が趣味の性格が悪い妖怪よ。
「見ていたなら話は早い。私はどうすればいいのだろう」
どうもしない、と魔女に教わったのではなくて?
こころちゃんは狐のお面をかむり、私にこう言いました。
「そうだった。でもそれで本当にこいつは動くのかな」
こころちゃんは両手でぐにょぐにょと頬を動かしました。
その崩れた顔に思わず私はくすりと笑ってしまいます。
「笑った」
これは私の笑顔だからあげられないわ。
「貴方もそうなのね」
そうよ。
ところでこころちゃん。
「なに?」
鏡を見たこと有る?
「馬鹿にするな! 私はおめかしだってする!」
あららごめんなさい。
そのはんにゃのお面はしまってくださいな。
でもね、その質問をされるのはしようが無いことなのよ。
「どうして?」
こころちゃん、さっきからいろんな人と話しているでしょう?
「うん」
その間こころちゃん、いっぱい笑って、いっぱい驚いて、いっぱい泣いて、いっぱい怒っていたじゃない。
「え?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ころころ。
頭を捻ったまま、こころちゃんは自分の家に戻ってきました。
結局答えはわからなかったようです。
「最後に出会ったあの妖怪も、訳のわからない事を言ってすきまに消えてしまった。
答えはあのすきまのなかにあるものか」
こころちゃんはそうつぶやきました。
パジャマに着替え、鏡の前までやって来ました。
うつっているのは、なんの変化もない、いつものこころちゃんの顔です。
「……やっぱり、笑ってなんていない」
こころちゃんはそうつぶやいて、お布団に潜りました。
そのうち、寝息が聞こえてくるでしょう。
こころちゃんの一日は、今日もおわります。
こころちゃんは既に感情を得ていました。
それはいろんな人に出会い、話して、遊んだたまものです。
だからこそ、一人のこころちゃんの表情は、いつもポーカーフェイスなのです。
「ううん……」
あら、こころちゃんが唸っているようです。
悪夢でも見ているのでしょうか?
気付かれないように、布団をめくってみましょう。
……その心配はないようね。
こんな笑顔を見せられちゃあ。
きっといい夢見てるはず。
『こころころころ』
終わり
ご馳走様でした。
とても良かったです
内容ももちろん素敵ですし、そしてその文体は私の理想としているものの一つです。
いやらしい事想像しました、すみません
そんな私の穢れた心もすっと浄化してしまう、優しくて素敵なお話でした
ただこころが能動的なのに話の展開としては常に受動的なのがやや不思議な感じ。
ともあれ楽しめましました。
デフォルメキャラが頭の中で踊って、楽しい想像が出来ましたw
ありがとうございます
確かに、一人でいると無表情になってしまいますよね
絵本か童謡を読んでいる気分ですね。
こういうの書いてみたいです。憧れます。
楽しい時笑うようになったなら、鏡見ても笑いませんよね
こころちゃん可愛い!
可愛い内容にぴったりのタイトル。素敵な作品でした
素敵です。