前編 → http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1256742404&log=0
の続きの物語ですが、少し雰囲気が違うかもです。
では本編をお楽しみください
<小傘お助け大作戦 後>
自分の存在意義というのはいったい何か。
迷わず進んでいたはずの、自分。
きっとそうあるべきだと、そう信じていた、自分。
でも、ふと地面に目を落とした瞬間。
何気なく、足を止めた瞬間に。
自分がなぜこの道を歩いているのか、わからなくなるときがある。
歩いているはずの自分の足が、見えなくなるときがあるのだ。
本当に自分は、自分の意志で進んでいるのかと。
誰かの足を借りて進まされているだけではないのか、と。
その不安が、あるはずのもの。そこにしっかりあったはずの彼女の信念をあっさり黒く塗り潰す。
彼女の価値観を狂わせる。
でも狂ったまま進んでいるなんて誰にも気づかれたくなくて。
気づかれたくないから、彼女は嘘をつく。
明るく笑って、心を殺して。
だから、ふとしたきっかけが必要だったのだ。
自然とその心の黒い部分を表に出すための、きっかけが……
秋という言葉には、さまざまな言葉がくっつくことを、皆さんご存知だろうか。
食欲の秋、文化の秋、読書の秋……
しかしそれは、秋の夜長や季節の変わり目を人間が楽しむために作り出したもの。だから妖怪にとってはあまり関係ないものと思われがちだが、決してそうではない。夏のように暑くなく冬のように寒くない。それでいて、春の日差しのような暖かさもあまりない。
集中して何かをするには適している季節。
妖怪たちにとっても、この季節は自分の趣味に気持ちよく時間を割くことができる。そんな事実を証明するかのように、妖怪の山の名物となる光景が今日も山の中腹で繰り広げられていた。
妖怪の山の、広々とした川原。
川の近くは大きな岩が積み重なっているが、それ以外の場所は平坦で、大掛かりな宴会も余裕で開催することができるだろう。そんな土の上に細かな丸石が敷き詰められた場所で、宴会とは程遠い張り詰めた空気が流れていた。
真剣にぶつかり合う二つの瞳。
視線で相手の心を読み、指の動きで牽制し合う。
その一挙手一投足のすべてに神経を集中させ、容易に初手を許さない。
そんな実力の拮抗したもの同士の勝負。
紙一重の争いにおいては、どちらかが冷静さを失い賭けに出た瞬間勝敗が決するはず。普通の戦場であれば、静寂に我慢できなくなった二人のどちらかが動いている頃なのに。
さらさら……
静かな川のせせらぎと程よい外気が、彼女たちの集中力をより一層高め。
普段より一段上の好勝負を生み出していた。
その高まった集中力の中――
「……っ」
そのうちの一人が声にすらならないほどの、小さな動揺を見せる。
いつもなら気が付かないほどの、わずかな、かすかな……迷い。
しかしそれは、勝負を決めるには十分な、致命的な隙。
「……これで! 終わりです!」
対面で静かにそれを見つめていた彼女、白い狼のような耳と尻尾を持つ白狼天狗は意を決したようにすばやく腕を振り、掴んだ獲物をそのまま振り下ろし――
パンッ
正方形のますに区切られた戦場を決定付ける一手を下す。
すると、目の前の座る帽子を被った河童の少女が……
指を一本立てて苦笑い。
「……えーっと、椛。さっきの、まったしていい? ね、一回だけ」
「ふふふ、駄目です。駄目駄目ですよ。
この好勝負をまったなどで、汚されては困ります! さあさあ、早く次の手を」
ここまで説明すれば、皆さんもおわかりになるだろうか。
二人はいつもどおり、川原に座布団を敷いて将棋をしているというわけだ。きっかけというのは椛にとっては山の哨戒任務が終わってからの楽しみ、にとりにとっては研究の合間の気分転換程度だったのだが、今ではもう趣味といってもいいほど。河童のにとりの順位的に言っても一位がきゅうり、二位が研究、三位が同率で人間と将棋、というかなりの上位にランクインされている。
そんな趣味の中で、にとりはほとんど『まった』というやり直しを要求したりはしないのだが……
おそらく、今までにない好勝負の中でさきほどの悪手が非常に悔やまれるのだろう。
しかし椛にとっても、これほどの勝負を大事にしたいという意思が強く……
「ほ、ほんとに、ダメ? ね、ねぇ、天狗様。椛様、白狼天狗様」
「そんなかわい子ぶったってだめです。
厳正な立場で山を警備するこの犬走 椛。
そんな汚い手にのるわけにはいきません」
足を正座に組替え、手を合わせてねだってみても椛はまったく意思を変える気はないようだ。にとりはぷーっと頬を膨れさせながら左右で纏めた髪を揺らす。
「なにさ、いつもは椛が『まった』ばかりするくせに」
「……ん~~ふふふ~ふ~ふふふんふ~~~」
おもいっきり遠くを見るように顔を上げ、耳を小さく動かしながら鼻歌で誤魔化し始める。
それでも瞳だけは将棋の盤を見ているのだから、しっかりしているというかなんと言うか。
「わかった、わかったよ~、もう、仕方ないなぁ」
にとりは肩を落としてそうつぶやき盤上の奥底に眠っていた、まったく動いていなかった駒を手に取った。
諦めて防戦でも敷くのか。
敗北はほぼ決まっている中で長期戦を望む理由はわからないが、椛はそのにとりが掴んだ駒が動ける場所を予測して……
さっと、顔から血の色が引いた。
そんな放心状態の椛に構うことなく、落ち込んだように見えたにとりは俯きながら何故か小さく笑い声を上げ……
ぱちんっと椛が思いつかなかった最悪な位置へと駒を運ぶ。
「ふっふっふ……
え~っと、確か……『まった』は、なしだったよねぇ?」
その満面の笑みを受け、椛はやっと理解する。
にとりはずっとこの瞬間を狙っていたのだと。
普段なら椛が乗ってこないような誘いをわざと目の前に吊るし、手札をよみ切ったように思わせ、乗ってきたところで一気に落とす。しかもその際に相手を調子づかせ絶対に逃げられない条件をつけさせたのである。
まったなし、と。椛自身の口から……
「え、えっと、こ、これは…… えーっとにとりさん……いや、河童様!」
「なにかな? 白狼天狗とは言え立派な天狗様。まさか、そんな椛様が?
私みたいな、小物の河童に『まった』なんて言わないよねぇ?
それに、さっき自分でなんて言ってたっけなぁ?」
「…………」
「…………」
「が、がるるるるる……」
「威嚇してもダメ」
「く、くぅぅぅん……」
「甘えてもダメ」
「じゃ、じゃあどうしろっていうんですか!」
「逆切れされても……
とりあえず、長考でもなんでもしていいから、次の手でも考えるべきだね。
時間ならたっぷりあるんだし」
うーっと低い唸り声を上げながら、前傾姿勢で将棋盤とにらめっこする好敵手。尻尾をばんばんっと座布団の上に叩きつけ、なんとか良い案を練ろうと躍起になっているようだ。こういうとき正規な規則に則るとすれば、振り子や砂時計を使って考えられる制限時間を定めるもの。
しかし、人間と違って妖怪には退屈過ぎるほどの時間がある。
だから相手の長考すら楽しみに変え、趣味としているというわけだ。
まあ、この妙な長さの長考さえなければ、人間が遊ぶ将棋とあまり変わらない。
にとりの中ではその『人間の遊び』というのが、続ける大きな理由の一つになるのである。
「ねえねえ、椛?」
「うぅぅぅぅぅ~~」
「たまには、人間と将棋を打ってみたいね……」
「うぅぅぅぅぅ~~」
「……ねえ、聞いてる?」
「うぅぅぅぅぅ~~」
どうやら、必死に考えすぎて会話すらできない状況らしい。
河童のにとりは、人間のことを盟友と呼ぶ。それは河童全般にも言えることらしいのだが、にとりほど友好的なものはいないだろう。
そして、彼女ほど……
人間に触れることができないものもいないだろう。
人間不信、というわけではない。
人間が好き過ぎて、触れるのが怖いのである。
触れてしまった後で、その手を振り払われるのが怖くて、勇気を持って輪の中に入れない。いつしかそれが彼女の中で大きな根を張ってしまい、見知らぬ人間が近くにいるだけで身を硬くしてしまう。
「椛と初めて会った頃は、知らない妖怪にもビクビクしてたけど……
異変が起きすぎて、その辺はどうでもよくなったし」
「……んぅ?」
「ああ、呼んでない呼んでない」
先ほど呼んでも反応しなかったのに、なぜ聞き流してほしいつぶやきには反応するのか。
にとりが何故笑っているのかわからない椛は、頭の上にハテナマークを浮かべたまま、再び盤に目を戻そうとして――
伏せようとしていた目を大きく見開き、にとりの頭の上を指差す。
「にとりっ! 後ろ、後ろ!」
「ふふーん、またそれでくるんだ、椛も学習能力ないねぇ。
それで私の動揺を誘おうとしても、無理無理」
昔、かなり昔だが。
将棋をやり始めた頃、どうしても勝ちたい椛が今のようににとりの視線を外させて、その間に自分の駒を動かすという。『さて、私は今どれを動かしたでしょう?』作戦を実施したことがある。まあ、どの駒が動いたかさえわかれば何の意味もない作戦で、そのときもあっさり看破したというのに。
「だから! 違うって、ほらすぐ後ろ!」
「はいはい、わかったから。後ろ向いてあげるからさっさと動かして――」
にとりはやれやれと言うように首を横に振りながら、椛が言う斜め後ろを振り向き――
ぽんっ
その瞬間。
何か暖かい。やわらかなものが、にとりの肩に触れた。
そして彼女の顔に降り注いでいた光を遮る何かの影……
何がその影を生み出しているのかと視線を少し上げると……
「こ~んに~ちは、にとりさん♪」
人間の、顔。
しかもそれが、視線が合った瞬間にぐっと近づいてきて、その距離およそ十センチ。
もう息遣いを感じられそうな距離……
あと少しでも身体を起こせば、桃色の唇が触れてしまいそうな……
しばらく放心状態のまま、ぼーっと不意な来訪者を見つめていた
だが、それが長時間続くはずもない。
段々と、にとりの身体が小刻みに震え始め……
「ひゃ、ひゃゅぉぉぉぅ!?」
にとりが奇声を上げて飛び退るのと、その光景を見た椛がため息をつくのは同時だった。
川原の石の上をまるで跳ねるように転がりながら、急に現れた人間との距離を取り、荒い息を弾ませる。何度か深呼吸をしてそれを整えてから、彼女はこほんっと咳払い一つして……
「な、何のようかな、盟友」
少しうつむき加減で帽子を軽く触って低い声でそう告げる。
体裁を整えたつもりなのだろうが……
「いや、にとり……そんな尻餅状態だと、かっこよく言っても無理だと思うよ」
「しょ、しょうがないじゃない、椛。腰が抜けたんだから!
は、早く起こして!」
「もー、しょーがないなぁ……」
椛は耳をぺたんっと倒し、尻尾をか弱く振りながら立ち上がる。
立ち上がりながら、にとりの方へと体を向ける前に一度その急な来訪者を見つめ不機嫌そうに目を補足した。
「ですから、いつも言っているじゃないですか、早苗さん。
いくら顔見知りでも、にとりの前に急に現れたら驚くと」
「すみません。あのかわいらしい背中を見ると、つい……」
その来訪者は、後ろ頭を撫でながら申し訳なさそうに深く頭を下げる。
その動作の度に揺れる美しい髪が特徴的な彼女は、東風谷 早苗。白と青を貴重とした巫女服を着る守矢の現人神、奇跡の使い手である。
その性格は、一言でいうなら穏やか。ときおり妙なことで積極的になるけれど、基本的には争いごとを積極的に行うほうではない。だから今のにとりに対する行動は、決して嫌がらせとかそういう類の行動ではなく、ただ親しい友人に挨拶を交わすのが目的だった。何せ守矢神社の中の機械的な品物の修理について、にとりにはお世話になりっぱなしなのだから。その件もあって少しは親しくなったかと思っていたのだが……
不意をつかれると、親しいとかそういう情報が無力化してしまうようだ。
「でも本当に知らない人だったら川に飛び込むと思うから、少しは効果があるかも……」
川との距離が、親しさの証明、というところだろうか。
何か悲しい基準だが……
「5メートルくらいでしょうかねぇ……」
「多く見積もっても、4メートル。希望的観測が過ぎるな、君は」
「……少しは大きな夢をみたい年頃なんですよ」
そんな早苗の上から新しい声が降ってきて、続いてトンっと軽く地面に触れる音が真後ろから聞こえてきた。誰が降りてきたかなんて、問うまでもない。一緒にここまで付いてきたネズミの妖怪、ナズーリンである。
話がつくまでは降りてこないで欲しいとお願いしておいたはずなのだが……
その早苗の内心を悟ったナズーリンは、小さく胸を張り口元を緩めた。
「心配無用だよ、さっき見回りに来た近くにいた哨戒天狗には話を通したし、守矢神社お墨付きの手形もある。
これを見せてやれば、問題ないのだろう?」
「それは、そうなんですが……
一応縄張りを荒らされたと思っていきなり襲ってくる妖怪もいますから。安全を確認してからと思いまして」
「心配無用さ、これでも一応毘沙門天の使いなのでね。こういう外見でもそれなりの能力はあると自負しているつもりだ。
神と共に暮らす君と似たもの同士、頼ってくれてもかまわんよ」
そうは言っても、どうしてもその外見だけを見ているとどうしても納得できない。
会話を交わしながらナズーリンが早苗の横に並ぶように前に出ると、丁度にとりの肩を支えるようにして早苗の方へやってくる椛と目が合った。ナズーリンが軽く会釈すると、椛も同じように会釈を……
「って、あなたいったい何者ですか!」
頭を下げようとして、知らない誰かが早苗の側にいるのに気付き慌ててその場から飛び退き、十分距離をとってから腰に下げてある刃を抜く。
「ほら、こういうことになるから、先に私が話を通すといったじゃないですか……
すいません椛さん、この人は怪しい人じゃないので、できればその剣を下げて貰えるとありがたいのですが。一応山の神様のお墨付きということで手形も持ってますし」
「……まったく、威嚇する前に確認して欲しい物だな。これだから品位の欠けた野蛮な妖怪は困る」
不遜な態度の小さな妖怪、その姿に椛は抗議の声を上げようとするが……
ナズーリンの右手に手形が握られているのを確認したため、何も言わず刃を鞘へと収めた。ただし、野蛮な妖怪呼ばわりされていい気がするはずもなく、じーっと鋭くした瞳を早苗に向けてくる。その視線が言いたいのはおそらく……
『なんでこんなやつに手形を渡したのか』ということだろう。
「もう、ナズーリンさん、いきなりそういう刺々しいことは言わないでください。
椛さんも、せっかく山にいらしてくれた妖怪さん相手にそんな態度を取らなくても……」
「妖怪でも人間でも、無遠慮に山には入る者に対しては厳正に対処しろと教えられていますから」
「……ええ、まあ、それはわかるんですけど……」
早苗は、どんどん表情が険しくなっていく椛を見据えながら、その少し横をゆっくりと指さして……
「その前に、さっき間合いを取るときに手放した人物の対処をするのが先決かと思います……」
その指先から、椛が視線を流していくと……
「……薄情者ぉ」
腰を抜かしたまま、河原に這いつくばる少女の姿があった。
その後、椛が土下座する勢いで地面に膝を付け、慌てて助け起こしたのは言うまでもない。
「人選、失敗なのでは?」
「うん、失敗だね」
「……うう、にとりさんまで」
一斉に反論されて、早苗は少し涙目になりながら瞳を半分ほど伏せた。
肩を落とし、少し恨めしそうに3人を見渡しても意見は変わらないようである。
「人間恐怖症とにとりのものは少し違う気がしますからね。
なんでしょうか、方向性が違うと言いますか……」
4つの座布団が円上に河原に並ぶという珍しい光景の中で、そこに座る椛が腕を組む。哨戒任務等でいろんな妖怪を見てきた彼女に言われると少し自信がなくなってくる早苗だったが、 それでも何故かにとりの顔が浮かんできたのだから仕方ない。
「でも、でもほら、人間になかなか近寄れないというかそういうものは似てるじゃないですか」
「……思慮が足りないな、君は。
確かに同じに見えるかもしれないが、それは客観的に見たときの話だよ。
なんとか近寄れる、と、近寄ることすらできない。では大きな違いがあるということさ」
「う~、ナズーリンさんはどっちの味方なんですか」
「そうだな、しいて言えば自分が正しいと思う方の味方だな」
そう言って、まったく他人事のように椛の意見に同意する。
彼女が相談したいと言ってきたのにも関わらず、なんと冷静なことか……
さっきは少し真剣な顔をしていたような気がしたのに、である。
それは、にとりが椛に助けられて起き上がったときのこと。はじめましての挨拶も早々に、ナズーリンが足早に二人の前へと進み、深々と頭を下げたのである。
「助けたい妖怪がいるので、力を貸してくれないか」と。
その後、早苗が人間恐怖症になった小傘という妖怪のことを説明し、『にとりさんと似てませんか?』と尋ねたわけだが……
結果、あっさり否定されて現在に至るというわけだ。
「それより、気になるのですが……
その人間を怖がる妖怪というのは今どこに? 人気の無いところにはいるだろうとは予測できるのですが」
そんな椛の台詞に続き、うんうん、っと首を縦に振るにとり。
小傘という妖怪を見たことがない二人にとって、相談の内容よりもそちらの方が気になるようである。そんな二人に向け、早苗はひざの上に置いてあった手を胸の高さまで上げて、10メートルほど離れた茂みを指差した。
「…………」
「…………」
そこには、確かに背の高い草で覆われた茂みがある。
普通の人間大人でも隠れてしまえばそうそう見つかることはないだろう。
ただ、その背の高い草のうえから……
なんだか見慣れない、紫色の突起物がみえるのだが……
「……遠いですね、目立ちますけど」
「……本人は隠れているつもりなので、あまり触れないであげてください」
自然物でありえるはずのないソレこそ、小傘の一部。
見た目が奇異すぎて使われなくなってしまった傘の妖怪。
そんな妖怪の姿を確認して、椛はやれやれと頭に手を当て、にとりはというと……何故か早苗をじっと見つめ続けている。それが終わったかと思うと、今度はアゴに手を当てながら何かをぶつぶつとつぶやき始めてしまった。
「……遠い? ……ん~」
何か思い当たる節でもあるのかもしれないが……
断片的に何かをつぶやいているだけで、まったく文章になっていない。そんなものが理解できるわけもなく、早苗は無性にそれを問いたくなる衝動に駆られた。しかし考え事をしているときに邪魔すると、あまり良い顔をしないのを思い出し、声をかけるのをやめた。そんなにとりの様子が伝播したのか、場にいる全員が思慮を始め静寂が場を支配し始める。
少し川の流れる音が大きく聞こえ始めた頃、ぴくりっと椛の耳が跳ね上がった。
「んー、えーっと、ナズーリンとか言いましたか。
その小傘という妖怪とは話はできないので?」
「いや、妖怪であれば近寄っても大丈夫と言っていたから、話をするだけなら平気ではないかな。
君がここに座ったままなら、下手に逃げることもないだろう」
「では、少し話をさせてもらいましょうか。
にとりはどうする?」
「……いや、いいよ。少し考えたいことあるし」
やはりにとりは自分の考え事に集中したいようである。
いつもどおりのにとりを見て安心したのか、椛は尻尾をなびかせて茂みの中へと駆け込んでいく。それと時を同じくして、背を丸めて悩んでいたにとりがようやく顔を上げた。
「ところで、ナズーリンさん。
その小傘という妖怪は最近人間が怖くなった、という事実に間違いないんだよね?」
「ん、ああ、本人からそう聞いている。
山道でも巫女に会うのを嫌がったから確かだろう。
引っ張って連れて行くのに苦労してしまったよ」
「嫌がるときの力の方向は? いつも正反対? それともたまにブレたりした?」
「そうだね。意識はしていなかったからあまり自信はないが……
おそらくは進行方向と正反対の向きしかなかったはずだ」
「じゃあ、小傘という妖怪が人間を見たときどう反応する?」
「反応か……
正直言えば、その様子を観察したことはない。
さっきも言ったとおり、守矢神社へ向かうときに嫌がる様子を体験しただけさ」
矢継ぎ早に質問を繰り返したかと思ったら、また頭を下げて沈黙してしまう。
そんなにとりの様子に、早苗とナズーリンは視線を合わせて首を傾げることしかできない。何せその質問がどのような意図でされたものなのかが理解できないのだから。
そんな頭が整理できない状況でも、にとりは再び顔を上げ質問を繰り返してくる。
今度はナズーリンでなく、早苗に向けて。
「その小傘という妖怪に何かした記憶は?」
「弾幕勝負で打ち負かした程度でしょうか、それまでは会ったこともありませんし」
「弾幕、ということはスペルカードバトル……
ということは……やっぱりこういうことかな……
そう仮定するなら……辻褄だけは合う」
ずっとうつむき加減でいたため、ずれてしまった帽子の位置を直す。その帽子の影から覗く表情から判断すると、にとりの中である結論がでたようだ。しかしその結論をにとりが口に出そうとしないということは、まだ不確かな部分があるのだろう。
そんな中、がさがさと茂みを突き破って椛が三人の前に戻ってくる。
その場に残っていた者たちの視線に促され、椛は席についてから一度咳払い。
「話は伺ってきましたが……
なにやら表情がないというか、纏う空気が重いというか。
人間が怖いということも言っていましたが、私としてはあの妙な暗さが気になるところです」
「なるほど、感覚の鋭い椛が感じたのは、あくまでも『暗さ』なんだね?
うんうん、大分情報が整理できたよ」
何かの手ごたえを感じ取り、表情を明るくしていく。
そんなにとりを見て、表面上は冷静で、無表情を気取っているナズーリンの尻尾が、おもしろいくらいクネクネと動き回っていた。
おそらくはその内容が気になって仕方がないのだろう。
それに気づいた早苗がくすくすと笑っていると、殺気を込めた瞳で睨まれてしまた。その視線の意思を語るのであれば……『早く聞け!』と言ったところだろうか。
「え、えーっと、にとりさん。なにが整理できたのですか?」
「その傘の妖怪の情報だよ。
私の予想が正しければ、思ったよりすぐ解消できそうな気がする。
ああやって、隠れてじっとしているなら可能性はあるからね」
「……隠れて、じっとしているから、可能性がある?」
にとりの言葉を反芻し、口の中で噛み締めるナズーリンだが、その言葉に何が含まれているのか。小さな賢者でも理解できないようだった。その横の早苗はというと、笑顔を浮かべているものの、首筋に光る汗から判断してナズーリンと同じ状況であろう。
「まあ、今日はひとまず帰ってもらおうかな。きっと進展あるだろうから、明日また来てよ。
たぶんそれで解決するから」
明日、という言葉をにとりの口から聞き、ナズーリンは一瞬眉間にしわを寄せ、難しい顔をする。しかし自分が焦ってもしょうがない事を理解している彼女は、すぐに表情を元に戻し、膝の上に置いた小さな手をぎゅっと握り締めた。
その気持ちを少しでも押さえつけようとするかのように。
「依頼をする立場で無礼なのは理解している。
理解した上で、尋ねるのだが……
一刻も早く解決する方法、というものは思いつかないだろうか?」
しかし、その切実な願いにも、にとりは首を縦に振らない。
「たぶん、これは時間が必要な問題だと思う。
それにさ、こっちも一応夜に先約の予定があってね。準備しないといけないんだよ。
趣味でやってることだけど、いままでやってきた信用ってやつもあってね。本当に悪いとは思うんだけどこっちの都合でも夜手伝うのは難しいね」
「……そうか、では、しばらく一人で動かせてもらってもいいだろうか。
頼んでおいて別な場所を当たるというのは、無礼ではあると思うのだが……」
「いいよいいよ。
もし別の手段があるのなら、そっちを選んでも。
こっちもこっちでやっとくから、どうしようもなかったらまた来て」
にとりの暖かな言葉を受け、ナズーリンは姿勢を正し、正座したまま深々と頭を下げた。そしてそのまま向きを変えて、すぐ近くに座る早苗へと再度一礼。
「すまない、結果振り回すことになってしまった。
君には思慮が足りないといっておきながら、自分の浅はかさが憎いよ」
「いえいえ、困ったときはお互い様じゃないですか。
明日もまたお待ちしてますから、また遠慮なくいらしてくださいね」
「……ああ、助かる」
傾き始めた日差しの中。
そこで初めて、ナズーリンが微笑む。
それは照れ隠しとかそういう意味だったのかもしれないが……
それでも、嬉しそうに目を細める様は、まるで無邪気な少女のようで……
思わず早苗が目を奪われてしまうほど輝いて見えた。
「では、失礼するよ」
そんな笑顔の名残を残しながら、ナズーリンはゆっくりと空へと舞い上がり……
その小さな影に続くようにして、茂みの中から小傘も飛び上がって、その後ろをついていく。
「……大丈夫でしょうか」
早苗は二人を見上げ、誰に伝えるでもなくそうつぶやいた。
「どうでしょう。
あの生意気なネズミのことですから、早苗さんなしだと門前払いじゃないですか?
ま、まあ、最後の礼だけは受けてあげてもいいですけど」
「あっれー、どうしたの椛? ほっぺが秋の紅葉色だねぇ」
「ちょっと考え事をして頭に血が上っただけ! それ以外のなんでもないの」
意地悪そうに笑うにとりからぷいっと顔を逸らし、上体を前後に揺らし始める。出会いの印象は決してよくはなかったが、話をしているうちに共感する部分があったのだろう。冷たい口調の中に隠れた優しさ、仲間に対する思いやり。
天狗にとって、その仲間のつながりが一番大切なものなのだから。
「しかし、やっぱり心配です。
いくらあのナズーリンさんが賢い妖怪だったとしても……
今のままでは難しいんじゃないでしょうか」
「へ~、どうしてそう思うのかな?」
聞き逃してしまえば、単なるつぶやきにしか過ぎないその言葉。
しかし、にとりはその言葉を待っていたかのように、嬉々とした表情で早苗に問い返す。その口調はまるですでに答えを知っているような口調だった。
「えーっと、ですね。
自信がないので例え話でお伝えしたいのですが……
例えば、あれです。
ここにりんごの絵があったとするじゃないですか」
早苗は、胸の前で両手を動かし、四角形の枠を表現する。
それを三回ほどなぞった後、手の指を曲げ、その中央に円を作り出した。
「りんごの絵、ですか?」
「そうです、おいしそうなりんごの絵。
それを思い浮かべて見てください。準備ができたらその絵についての問題を出しますので」
いきなり問い掛けられた椛は少し戸惑いながらも頭の中に真っ赤な、おいしいおいしいりんごのイメージを浮かべた。その表面はみずみずしく、雨を弾くような光沢を持っており――
想像の中とはいえ、思わず唾を飲み込んでしまう。
「準備いいですか?」
「はい、いつでもどうぞ」
このりんごは熟しているか。
この絵の中のりんごはいくつか。
思い浮かべたりんごは、赤か青か。
その程度の心理を探る問題だと思い、気軽に待っていた椛だったが――
「さて、りんごという果物は何年前からこの世界にあったでしょうか」
「…………え?」
あまりにも予想外の問題に椛の思考が停止する。
おいしそうなりんごという情報などどうでもよく、絵をイメージする必要性すらないものなのだから。何のためにその思考をさせたのかという憤りすら感じさせるほど。
「それは、反則ですよ……」
結局答えを返すことが出来なかった椛は口をすぼめて抗議の声を上げる。
しかし、それとは正反対に、にとりはパチパチと賞賛の拍手を早苗に送った。
「へ~、すごいね早苗さん。わかってる」
「あ、やっぱりですか?
まあ、なんとなくそう感じただけなんですけど」
「いやいや、謙遜することなんてないよ。
最初は人選失敗してると思ったけど。
巫女の直感って言うのかな、最初から正解していたなんてね。まあ正解を導き出しても、答えを出すのを急がせたら、余計に厄介なことになるし。
そっちの椛なんて、ぜんぜんわかってない見たいだし」
「……違います! 問題が間違ってるだけです!」
意地になってそういい返す椛だったが……
「はい、それで正解」
にとりにそう返されて、どんどん混乱していくのだった。
『付喪神』
昔、八百万の神がこの世にいた時代。
すべてのものに神は宿り、自然だけでなく人間が生み出したはずの道具にすら命が宿るといわれた。それが一部の妖怪の発祥とも呼ばれるが、事実かどうかは定かではない。
しかし、そう信じられていた時代――
彼女たちは確かにいた。
大事にされ、長年使われた道具は、福を呼び、安らぎを与え……
見捨てられ、使用されない道具は、病を呼び、害を成すと……
その中でも彼女は後者にあたる部類だった。
しっかりとした作りなのに。
他の傘よりも一回り大きく、雨を大きく遮ることができるというのに。
見た目が変だから、たったそれだけの理由で使われなかった傘……
だから、彼女が妖怪として新たな生を受けてからは……
その姿で人間を怖がらせてやろうと心に決めたものだった。
しかしそれは――
もしかすると、別な感情の裏返しだったのかもしれない。
「……はは、毘沙門天の使いがこの程度のことを解決できないとは。
情報収集能力では誰にも負けないと自負していたのだが」
夕日が山の麓へ沈み、深い群青が空を覆い尽くし始めたころ。
小さな妖怪は空を飛ぶのを止め、広い草原の中に足を下ろした。その途端、頭がぐらりと揺れて後ろへ倒れこんでしまう。
ずっといろいろな場所を飛び回ったせいで疲労が蓄積されたのだろう。
「ナズーリン……」
そんな姿を、後から降りてきた小傘が心配そうに見下ろす。
すると、草原の中に横になった少女は微笑みながら身を起こそうとした。
けれど……
どさり……
その小さな体は命令を聞き入れず、ただ地面の冷たさだけを求めた。
「……情けない」
そうつぶやいて夜空を見上げると、群青の中に一番星が輝きを放っている。そしてそこから瞳を動かすと、何故か今にも泣きそうな小傘の姿があった。
「すまないな、もう少し力と知識があれば、あんな強引な手段を取らずともよかったのだろう。
今思い返せば、あの軽率な行動が、君の心の傷を抉ったのではないかと心配になる」
「……ううん、大丈夫。確かにあのときは、怖かったけど……
ナズーリンが、私のために一生懸命になってくれてるってわかって、凄くうれしかった」
「はは、どうしても人間に何かを傷つけられたと思うと、熱くなってしまう。
そんな愚か者だよ、私は」
それはおそらく、主の星や、星が慕う聖のこと。
その昔、聖が封印されたときのことを言っているのだろう。
あのとき、何もできなかった自分が悔しくて、許せない。
だから、小傘が人間恐怖症になったと聞き、いてもたってもいられなくなったのだろう。もしかしたらそれは彼女のためではなく、過去に何もできなかった自分を許すための欺瞞だったのかもしれないが……
それでも、小傘は嬉しかった。
自分のためにこんなに必死になってくれる誰かがいると、知ることができたから。
小傘はナズーリンの横に腰を下ろすと、汗で塗れた少女の額をゆっくりと撫でた。
「もういいよ、どうせ、私は……」
自分で歩みを止めてしまった、駄目な妖怪。
人間の前に出て脅かそうとすると、いつも舞い上がってしまい……ぜんぜん怖い仕草をとることができない。だから彼女は、そんな自分から逃げる言い訳を作った……
あの日、空飛ぶ船の異変が起きた日。
巫女と戦い、敗北したあの日。
なんて人間は怖いんだ、私が脅かせるはずがない。
そうやって思い込むことで……
「……どうしようもない、妖怪だから」
自分が脅かせないのを、他人のせいにした。
それなのに、出会って間もない小傘に対して、このナズーリンという妖怪は真剣に行動してくれた。真剣に怒って、真剣に悩んで、真剣に飛び回って……
「そうやって、本当に諦められれば楽になれるのだろうが……
残念なことに、君はまだ諦め切ってはいない」
「そんなことないよ、もう駄目だってわかってるもの」
傘を地面に置き、腰を地面につけたまま肩を振るわせる。
ナズーリンからは表情を窺うことはできなかったが、おそらく彼女は今……
そんな弱々しい妖怪の姿を見つめる小さな賢者は、はぁっと小さなため息を漏らす。
「はぁ、まったく、自覚がないというのは困ったものだよ。
本当に諦め切っているのなら、なぜ君は私の後ろについてきたのかな?」
「……えっそれは……」
「私と行動すれば何かが変わるかもしれないと、そう思ったからではないかな?
だから多少ひどい目に合わされても、ついてきた。
それだけで十分だよ。
そんな小さな勇気でいいんだ。
恐怖だって、戸惑いだってあって良い。その感情を全部含めて君自身なのだから。
周りがなんと言おうと、君らしい唐傘おばけでいればいいのさ」
「私、らしさ?」
唐傘おばけは、人を驚かせそれを楽しみに生きる。
だから人を驚かせられない自分は、唐傘おばけでいる資格はないと、自分でもそう思っていた。
「そうさ、たとえ9999回笑われても、1回驚いてくれればいいじゃないか」
「それは、さすがに嫌かなぁ」
あまりの強引な理論に、小傘は涙目のまま噴き出してしまった。
でも星空の下、このネズミの妖怪と話をしているだけで、なんだか悩んでいたのが馬鹿らしくなってきてしまった。行動力に感化されてしまったのかもしれないが……
そうやって微笑む小傘を見て、ナズーリンは寝転んだまま満足げに腕を組んだ。
「ふむ、その顔だな。
君の目は左右が違う色で魅力的だから、そうやって瞳を見せたまま微笑むと実に幻想的で美しい」
「……へ、へへへへ、へんなこといわないでくださぁい!」
そんな奇妙な叫び声を残して、二人の妖怪の夜は更けていくのだった。
「……それで、にとり。昨日のあの、正解ってどういうことだったの?」
「あれ? まだわかってなかったんだ。
てっきりもう理解していると思ったのに」
秋晴れの日差しの中、にとりは昨日と同じ川原で見慣れない機械をいじっている。その横で椛はにとりの服をくいくいっと引っ張っていた。
「んーっとね、昨日、人間恐怖症を治すにはどうすればいいかって尋ねてきたよね?
あの、ナズーリンって妖怪」
その二人の目の前には、昨日やってきていたナズーリンと早苗がなにやら親しげに会話を交わしている。
ただ、昨日と違う変化があるとするなら。
その中に昨日は茂みの中に隠れていた傘の妖怪が加わって、早苗とも普通に会話を楽しんでいるように見えることだろうか。
「言ってたたよねぇ、もう治ってるみたいだけど……」
「あ、そうかそうか。うん、その言葉でわかった。
本当に理解してないってことが」
「だから、そう言われても全然わからないってば」
勿体ぶった言い方を続けられて、中々真相が聞けない椛は、うーっと小さな唸り声を上げながらさっきよりも強く服を掴んで来る。これ以上いじけられて服を部分的に広げられても困るので、にとりはこほんっと先生のように咳払いしてから、指を一本立てた。
「つまりだよ、椛君。
彼女は最初から人間恐怖症になんてなっていなかった。
そういう病気になったと思い込んでいたか、思い込んでいたかった。そのどちらかってこと」
「……え、ちょ、ちょっと待って。
じゃあ、あのときの正解って言うのは」
「うん、そういうこと。
提示された問題自体が間違っていたのだから、答えようがない。
早苗さんは巫女の直感というか、現人神的な何かで感じ取ったんだろうけど」
そう、人間恐怖症と聞いたとき、にとりはその言葉にすぐ疑問を持っていた。
昨日相談しに来たとき、直感で理解したのだ。
人間恐怖症だというのに10メートル程度しか離れていない場所に潜んでいるのだから。
その距離で十分ではないか、と思う人もいるかもしれないがそれは大きな間違い。
姿が見えるだけで恐怖を感じるのに、その程度の距離にいること自体ありえないのである。
人間が好きすぎて、中々近寄れなかったにとりが、その10メートルの距離を克服するのにどれほど苦労したことか……
「ふーん、なるほど、それであのときあんな質問をしたんだ。
神社に向かうとき力の向きはどうだったか、なんて」
「うん、この季節に人間が一人もあの道を歩いていないというのはありえないからね。
普通身近な人間を避けようと、斜めとか前とか、不規則な動きをするはずなんだよ。まあ早苗さんが酷い事をして必要以上の恐怖を与えていたら、とかも考えたけど。ルールが決まっているスペルカードバトルだと、私たち妖怪なら死ぬとかそういうことないでしょ? ちょっと痛いけど。
だからきっと、物凄く落ち込んでるだけなんだろうなと思ってね」
だから、ナズーリンがすぐ対処できないかと尋ねたとき。
「時間が必要」
と答えたわけである。
それに、ああやって自分からナズーリンの後ろを付いていこうとするということは……
自分でもどうにかしたいと思っていることに他ならない。
つまり、後はその心の傷をゆっくり癒してやる時間だけが必要、というわけだ。
「なーるほど、さすがにとりだなぁ……
私、そんなこと全然わからなかったのに」
「そうだね、きっと私も、いつもならわからなかったと思うよ」
「……どういうこと?」
「そうだねぇ、んーっと」
機械をいじる手を止め、少し遠い目をして青空を見上げる。
彼女がいち早く小傘の気持ちを理解したのは、きっと……
「早苗さんが私のところに来たのが、実は正解だったってことかな」
彼女も、小傘もきっと。
人間を驚かせる唐傘おばけになった後でも、きっと。
その想いを捨てきれなかったから。
大好きな人間に触れたいと願う、一つの存在だったから。
>椛はこほんっと先生のように
ここはにとりでは?
小傘の諦め切れない諦念も、尾羽打ち枯らしてる癖に無駄に格好良いナズーリンも
これが、こがなず…!
>3さん
うー、大事なところでしっぱいしてますね。
報告ありがとうございます。
前の話とのギャップを出したかったのでこういう展開をさせてみました。
>10さん
ある意味カップリングは意識して無かったですね。
仲のいい友達どまり、にとりと椛も ナズーリンとこがさも。
もう少し練習していきたいと思います。