Coolier - 新生・東方創想話

レイセン

2017/05/20 17:21:05
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「はーいっ!、今日の稽古はここまでー」
稽古場に大きな声が響き渡った。
「さっすがレイセン、あんたには適わないわー、何でそんなに強いの?才能?悔しいわー」
そういって稽古後だというのに元気よく喋りかけて来たのは私と同じように師匠に連れらて来られた清蘭という仕事仲間だ。いつも私に気安く話しかけてくる。
「うーん、まあ才能かもね、でもあんた、私に勝てる勝てないで一喜一憂していてもしょうがないわよ。」
「えーなんでー、勝ったら相手に偉そうにできるじゃない、こんなに嬉しいことはないわよ」
「よく考えてもみなさいよ、私に勝ってもあんたの生活の根本は何も変わらないのよ、これからもずーっとひたすら稽古を続ける生活が続くの」
私もね、と続けようとしたが喉元まで来て勝手に止まった。
何故だろう、清蘭よりは強いという自意識からのものだろうか、それともあんたとは違うという思いが頭を過ったからだろうか。
「相変わらずレイセンは話のスケールがでかいのね。私は今の生活に退屈してないからなー、レイセンは退屈なの?」
退屈もそうだし、正直不安もある、さっき清蘭には稽古を続ける毎日と言ってしまったが、稽古を続ける毎日が終わる可能性もある。
それは、月の都が戦争状態になった時だ。そうなってしまえば退屈な今の状態よりも絶望的な日々を送ることになる。
何故私達兎が戦争状態になったら月の民の為に鉄砲玉にならなければならないのか。
「退屈なだけでは済まないかも」
「??今より刺激的な楽しい毎日になっちゃうのー?」
「おやおや、何やら楽しそうに話してるね」
「別に楽しくわないわよ。」
会話に入ってきたのは鈴瑚という自分から師匠のペットになった変わった子だ。
「レイセンってばまた難しい顔しちゃってー」
私達みたいに餅つきが嫌でさぼっていたから連れてこられたようなタイプではない。
「お気楽な清蘭の相手をしていたの」
「そう。じゃあレイセンの顔をほぐす為に今日も遊んじゃう?」
「あ、いいねー」
「悪いけど、遊びじゃ顔はほぐれないわ」
「きゃー、レイセンってばクール~」
「まあまあ、眠れば”秘密基地”に行けるんだから、いつもの場所で待ち合わせしましょ」
「だねー」
遊びじゃ顔はほぐれないけど、”秘密基地”は心が落ち着くので気に入っている場所だ。
「そろそろ帰らない?」
気付けば稽古場には私たち以外誰もいなくなっていた。


私はそのまま自分の「部屋」に戻った。
私は、師匠のペットとして清蘭、鈴瑚の三人で共同生活をしているのだ。
「二人とも、お師匠様から団子をもらってきたわよ」
ご機嫌な口調で遅れて部屋に入ってきたのは団子好きの鈴瑚である。
「さすが鈴瑚さん、みんなで食べましょ」
「あ、ありがとう」
とりあえずお腹もすいてきたし鈴瑚が持ってきた団子を食べる。
「はー、明日も稽古かー、疲れるわー」
「何よ、お師匠様の目を盗んでサボってる癖に」
「だってお師匠様の稽古厳しいんだもん、見てない時は休憩しないと、見てる時に真面目にできないじゃん」
「そんなんだから、レイセンに勝てないのよ」
「鈴瑚も勝てないじゃん!」
「ばれた?」
「二人とも、続きは秘密基地で話さない?」
「賛成ー」
「賛成」

―――
朦朧とした意識が徐々に覚醒していくのを感じた私は、当たりを見回した。
そうしてすぐに私はいつもの夢の場所だと気づいた。
---槐安通路、私達兎の間では昔からそう呼ばれている場所だ。
兎ならば寝ているときに訪れる事が出来る私たちの秘密基地。
私はこの場所をとても気に入っている。何故ならここは月人がいない、兎だけの、私達だけの場所だからだ。いるだけでとても落ち着く居心地のいい場所だ。
「お、レイセン発見」
すぐそばから鈴瑚の声が聞こえてきた。
隣に清蘭もいる。
いつもすぐ近くにこの子たちがいるのだが、寝る場所が近いと、槐安通路でも似たような場所に出るのだろうか。
詳しいことはよくわからない。
「でさー、今日は”開拓”する?それともここで適当に夢から醒めるまで話してる?」
清蘭が元気よく私達に話しかけてきた。
“開拓”とはこの槐安通路をひたすら探検すること、ここには私達以外にもたくさんの兎がいるがそれぞれが、この秘密基地でくつろいだり、”開拓”と呼ばれる槐安通路の探索を行っている。
そうして”開拓”された情報は兎達の間で共有されている。
「話しながら開拓しましょ」
私はそう提案した。
私達はまだ他の兎が入ったことのないと思われる場所を目指し、歩き始めた。
といっても真面目に”開拓”しているわけではないので、そこまで槐安通路の情報をほかの兎から受信しているわけではない。
既にほかの兎が来たことがあるかもしれないが、あまり気にしないで通路を”開拓”していく。
「それにしてもこの通路ってどのくらい広いのかしらね」
「そうそう、この前槐安通路の情報を探ってたら、面白ことを見つけたわ」
鈴瑚が目をキラキラさせながら言ってきた。
「なに?」
「あら?一年中耳で情報を受信しているあなたが知らないとは」
「あいにく槐安通路関連の情報を重点的に受信はしていない」
そう、私が重点的にチェックしているのは戦争関連の情報だ。
正直月の都が戦争状態になったら怖い。戦いたくもない。
「レイセン、私たちが目の前にいるのに遠くの兎の会話の受信ばかりしているものねー」
「大量の情報をひたすら受信するのは楽しいからね。で、面白いことってなに?鈴瑚」
「この槐安通路、実は地上に繋がっているって噂があるのよ、この槐安通路を全て踏破しようとしている兎のグループがあってね、そこのやり取りを聴いてみたらそんなことを話していたわ。」
「地上って都の監獄のこと?」
「そうよ。私達にとっては月も監獄のようなものだけどね」
私からしてみれば、月より地上の方が快適なんじゃないかとすら思う。
噂によると地上は月よりも色彩豊かできれいな場所らしい。
何より今みたいに月人の為に生活しているよりましなんじゃないだろうか。
昔から”通路”と呼ばれているだけあって、ここがどこか別の場所に通じていても不思議ではないが、
そもそもここは夢の中、夢の中で地上に行けたとしても目が覚めればそれでお終い。
ここから地上に行けることが事実だとしても特に意味はない。
それよりも寝ている時だけではあるが、こうしてほかの兎達と同じ場所で夢を共有出来ていることの方が奇跡だと思う。
「地上かー、一回は行ってみたいなー」
清蘭が暢気に呟いていた。
「清蘭、地上と戦争になれば行けるかもよ」
「あはは、それは嫌だ。」
「結構奥まで進んだけど、今日も特に収穫無しね」
「そろそろ時間切れかな。」
「でもここって夢の中だから迷ったとしても眼が覚めたら戻れるから良いよねー」
鈴瑚は奥までと言ったが、この通路の構造がそもそも分かっていないので、”奥”に進んでいるのかすらわからない。
そもそも私たちが訪れる位置がこの通路のどの辺なのかも分からないのだから。
今度槐安通路の踏破を目指している兎のグループのやり取りでも覗いてみようかな。
どこまで判明しているのだろう。私は少しワクワクしてきていた。



◇◇◇
―――何か地上人たちが月の都に攻めてきてるらしいよ
―――もう一部の仲間は戦闘を始めてるとか
―――地上人が旗を月に立てるみたい
―――もう立ってるんじゃなかった?
―――月の都の一部はもう破壊されてるとか

最近の仲間たちのやり取りは異常だ。
物騒な話ばかり流れてきている。
遂に始まってしまったのだ。
私が恐れていた事態が。
そう、月と地上の戦争が。
私達の部隊もいつ戦争に行かされるかも分からない。
今日から行くかもしれない。
「レイセーン?どうしたの?なんか凄い顔が怖いよ?」
「え?そ、そう?気のせいじゃないかしら。ちょっと出かけてくるね」
「あ、もう稽古始まるぞー」
やばい、これから稽古なのに飛び出しちゃった。
今から戻っても遅刻確定だ。
あ。戻りづらい。というより戻りたくない!
私はとにかく稽古場から離れるようにひたすら走った。
けど私に逃げる場所なんてない。このまま逃げても結局師匠に見つかってひどく叱られるだろう。
はー、逃げなければよかったぁ。でももう遅い。
とりあえず見つかるまで適当にぶらぶらしていよう。
しばらく月の都を歩いていたら遠くに何やら巨大な扉が設置されているのが見えた。
……あの扉は何なのだろう。何故外に扉だけが置かれているのだろう。
私は扉の目の前まで近づき、驚愕した。
外に設置されていた巨大な扉は、開かれている状態で置かれていたが、その先の空間がいつも夢で見ていた槐安通路に繋がっていたのだ。
え?今は夢の世界じゃないよね?私は鈴瑚の言っていた言葉を思い出した。
槐安通路が地上と繋がっているという噂。
今なら逃げ切れるかもしれない。
私は扉の中に足を踏み入れた。
槐安通路の中に入って私は清蘭と鈴瑚のことを思い出していた。
ごめんね、清蘭、鈴瑚、私だけ逃げ出しちゃって、いつも私に話しかけてくれてありがとう。
あんた達のこと、絶対忘れないからね。
槐安通路に入ってしばらくしてから、私はあることに気付いた。
いつも夢で入っていた時と違い、兎達がいないのだ。それに道も複雑な形ではなく一本道になっていた。
……ここって本当に槐安通路だよね?
もしかして似てるだけで別の空間?
ただ、もう後戻りはできない。
私は振り返ることなく歩き続けた。
それからどのくらいの時間がたったのだろう。
前方から明るい光が差し込むのが見えた。
私はその先に足を踏み入れた。
そこは様々な植物に覆われており、動物もたくさんいて、生命力に満ち溢れていた。
私はここが地上だと確信した。

◇◇◇
その頃依姫率いる兎達の部隊は大騒ぎになっていた。
「海の方まで探したけど居なかったわ」
「うぇーん、レイセンたらどこに行っちゃったのよー」
レイセンが見つからなくて清蘭は泣いていた。

レイセンがいなくなったという情報は綿月姉妹もすぐに知ることとなった。
「貴方のとこのペットがいなくなったようね」
「ええ、おそらく地上に逃げたかと」
「寂しくないの?」
「寂しいに決まっているじゃない。あの可愛い耳をもう触れなくなると思うとね」
「耳……?」
「こっちの話よ。それより戻ってきたらお仕置きをしなくてはね」
「しかし、どうやって地上に逃げたのかしら」
「あら、お姉様は気付かなかった?」
「あいにく貴方のペットのことをそこまで気にかけてはいないわ」
豊姫がそういうと、妹の依姫はレイセンがどのようにして地上に逃げたのか話しだした。
「お姉様、今日は何かいつもと違う行事が行われていたはずよ」
「行事?もしかして穢れた罪人を地上に追放する、あの儀式のことかしら」
「ええ。追放するのに使われる槐安通路を使って逃げたわ。レイセンの行動記録を調べたらその扉に入っていくことが確認できた。」
「あらあら、穢れた罪人と同じ通路を使って地上に行くとは、皮肉な兎ねぇ」
「お姉様、そこは兎達の”聖域”と言ってあげないと可愛そうだわ」
「ふふふ。最近の玉兎通信は不穏な情報ばかり流れていたから、怖くなって逃げだしたのかしら」
「あら?玉兎通信の管理はお姉様の仕事ではなかったはずですけど?」
「私にそんな重要な仕事を任されるわけないじゃない。私はただ暇つぶしに傍受していただけよ」
「地上に堕ちた月の兎、地上人にどのような変化をもたらすかしら、楽しみでもあるわ」

◇◇◇
「今日も幻想郷のパワーバランスは問題ないわねえ」
「紫様、今日は早いですね、といってももう昼過ぎですが」
「たまには早く起きることもあるわよ」
紫と藍は妖怪の山の頂上から幻想郷を見渡していた。
「それじゃ、私はちょっと外の世界でも散歩に行ってくるわ、あなたは今日は一日ここで幻想郷を見渡していなさい」
「分かりました、紫様」
そういうと紫はスキマから出てきたと思ったらすぐに消えてしまった。
「相変わらずあなたのご主人様は神出鬼没ですねえ」
「紫様はいつもああですから」
話しかけて来たのは天狗の射命丸文だ。
いつも山頂から幻想郷を見渡す時はこの天狗に案内をしてもらっている。
「さてさて、今日も入山料を頂きますよ。今日はあなたのご主人様も来たので二人分で」
「全く調子がいいやつだな。では一つ目、おいしい油揚げの探し方から」


―――紫は外の世界を散策している最中に珍しい姿を発見した。
??あれは妖怪兎?
いや、違う、まさか月の兎……?
何故こんなところに月の兎がいるのかしら。
まさか幻想郷を侵略しに来た……?
私は警戒しつつ月の兎に接触した。
「あなた、人間ではないわね」
「……!?いや、わわ私は、その」
「驚かなくてもいいわ、私も人間ではない。妖怪よ。あなたの命を奪う気もない。あなた、人間でもないし地上の者でもないわね。月の兎でしょう?」
「よ、よく分かりましたね。え、えと助けてください!私逃げてきて、それで地上の事何もわからなくて」
その月の兎はひどく怯えており、とても月の都の命令で幻想郷を侵略しに来ているようには見えなかった。
「逃げてきた?」
「はい、その地上との戦争が怖くてつい逃げちゃったんです。」
地上と月が戦争しているなど、私の情報網には引っかかっていなかったが、月の兎の言っていることに耳を傾けた。
「それで、助けてほしいと?」
「はい。なんでもしますので」
ふふふ、兎はどこまでいっても兎なのね……
この子を幻想郷に迎え入れれば月に対するカードが一つ作れるわ。
「いいわ、あなたを幻想郷に迎え入れてあげる。私の”特権”でね。」
「幻想郷……?」
「ええ。幻想郷ならあなたも馴染めると思うわ。」
私は月の兎と一緒に幻想郷へと戻った。
向かった先は迷いの竹林。
「ここで暮らしなさい。」
「え?ここで暮らせって、こんなところでどうやって生活するのよ。」
「ふふふ、後はあなたの運次第ね」
後は幻想郷の流れに任せましょう。

そうして紫は外の世界の散策に戻っていった。

◇◇◇
何か胡散臭い妖怪に変なところに連れてこられちゃったけど……
ここで暮らせるわけないじゃない。
助ける気なんて本当はなかったの?
というよりよく考えると地上の者に助けを求めてしまうとは。
あーもう、こんなことになるんだったら月の都から逃げるんじゃなかったかも。
とりあえずこの迷宮のような場所から抜け出さないと。

しかし歩けど歩けど見える景色が変わらない。
もう無理。何時間も歩いているはずなのに。どんだけ広いのよこの迷宮は。月の都に帰りたい。
私が絶望感に打ちひしがれているとき、後ろから声が聞こえた。
「綺麗なうさぎ……」
私は驚いて後ろを振り返った。
振り返った先には、私より背丈の小さな兎がいた。
月の兎でないことはすぐにわかった。
「あなたは……?地上の兎?」
「そんなことはどうでもいいわ。私はこの竹林のことなら何でも知っているわ。あなた、困っているんでしょう?」
「え、ええ。とりあえずここから出たいのだけれど。」
「どーしよっかなー。あなた、顔が泥だらけね、ちょっと付いてきて」
この迷宮をずーっと彷徨っていれば泥だらけにもなる。途中でこけたし……
とにかく私はこの小さな兎の指示に従ってみることにした。
しばらく小さな兎の後ろを付いていくと、透き通った水が溜まっている池が見えてきた。
「この池を知っているものは私以外ほとんどいないわ。あなたは可愛いから特別。」
「わ、私の方が背が高いからお姉さんなんだからね。」
「やっぱり可愛いわね。さあ服を脱いで汚れた体を洗い流して。」
「……恥ずかしいから後を向いていてくれない?」
「えー、いいじゃない、うさぎ同士なんだし♪」
しばらく後を向いてくれるのを期待していたが、いつまで経っても後ろを向いてくれないので、根負けして私は服を脱ぎ、透明な池に入り泥を洗い流した。
「あなた、月から来たのでしょう?」
小さい兎からいきなり”月”というフレーズが飛び出したので驚いた。
「さあどうでしょう。」
「誤魔化さなくても良いわ、この竹林にはあなたと同じように月から来た者が隠れ住んでいる。私が紹介してあげるから行ってみるといいわ」
地上に私以外の月の者ということは罪人だろうか?
だが地上人に頼るよりは月の住人の方が絶対に頼りになる。
紹介してくれるということは月の者とは交流があるということだろう
今はこの小さい兎の言うことを信じるしかない。
「わ、分かった。行ってみる。ありがとう。」
「あなた、名前は?」
「レイセンよ。あなたは?」
「てゐと呼ばれているわ、よろしくね。ところで、月から出るときに友達に挨拶はしたの?」
てゐがニヤニヤしながら聞いてきた。
清蘭・鈴瑚……
この二人にだけは勝手に逃げてしまって申し訳ないと思っている。
今頃怒っているのかな。悲しんでくれていたりするのかな。ごめんね。
「実はできてない……。逃げて地上に来たから。」
十分に泥は洗い流せたので、私は池から出た。
そうしたらてゐはいきなり私に近づいてきた。
「これを使って体を拭いて、いつも私が使っているタオルよ。」
「あ、ありがとう。」
受け取ったタオルで体を拭いている姿を、てゐはニヤニヤしながら見つめていた。
恥ずかしいのだけれど……
私は体を拭き終わったので、タオルを返そうとしたら、てゐがいきなり私に急接近してきた。
「そのタオル、欲しい?」
「……そ、そんなことより、顔が近い……」
私は自分の胸が高鳴るのを感じた。
「あ、今忘れたでしょ、お友達の事♪」
「え?」
「あなたのこと、ますます気に入ったわ、そのタオル、あげる。」

―――私は池から出て、てゐの後ろをしばらく付いて行った。
そうすると大きな屋敷が見えてきた。
「あそこの屋敷にあなたと同じ月の者がいるわ、少しここで待っていてね。”紹介”してあげるから」
私は緊張しながらてゐが戻ってくるのを待っていた。
……助けてくれるかなぁ。
しばらくするとてゐが屋敷からこちらに戻ってきた。
「屋敷の主人とその部下があなたと話がしたいってさ、後はあなた次第ね。」
そういうとてゐは竹林の奥深くに消えてしまった。
「え?ちょっと待って!てゐも一緒に来てよ!」
私は頭の中が真っ白になっていくのを感じていた。
とりあえず行くしかない……
屋敷の方まで歩いていくと、既に外に二人とも立っていた。
「あ、あのー……」
私は恐る恐る二人に向かって話しかけた。
「てゐから話は聞いたわ、あなた、月からの侵入者ね。」
侵入者?私は逃げてきたのよ。てゐはどんな紹介の仕方をしたのよ!
「し、侵入者ではなくて逃げてきました。」
「逃げてきた?」
「はい、月の都と地上が戦争状態になって、仲間たちが戦っていて、既に旗が立てられたり都の一部が崩壊していたりして、怖くなって逃げだしました!そして地上で幻想郷のことを知って、ここまで来ました!侵入者では決してないです。そ、それで私を助けてほしくて、何でもしますので。」
「……姫、どうしましょうか?」
「永琳、あなたの好きにしていいわよ。この子を私のペットにするかどうかはあなたが決めて頂戴。」
「あなた、どうやって地上に来たの?」
槐安通路を使って来たとは絶対に言えない。
あそこは私達兎の秘密基地。
もしばれたら清蘭と鈴瑚を悲しませることになる。
「え、えっと……。この月の羽衣で来ました。」
私は咄嗟にさっきてゐから貰ったタオルをヒラヒラさせながら永琳と呼ばれた人に見せた。
永琳はしばらく私とタオルを交互に見つめた後、喋り始めた。
「そう、もう未練はないのね……。あそこに。」
未練?正直竹林で迷ってた時は帰りたかったけど、月に住んでたこの人達が助けてくれるなら戦争状態の月には帰りたくなんかない。
「ま、まあそんな感じです。」
「いいわ、あなたを姫のペットにしましょう。」
良かった、助けてくれるみたい。
「今永琳が言った通り、あなたは今日から私のペットよ、月のイナバさん」
「私がこれからいろいろと教育してあげるわ。戦い以外のこともね……」
え?
「そしてあなたに”優曇華院”という名を授けるわ」
「うどんげいん?」
「そう、優曇華院、略して”うどんげ”ね」
「うどんげ……」

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