Coolier - 新生・東方創想話

東方遊戯王 遊闘1

2009/08/30 00:26:23
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***あらすじ
紫の気まぐれにより、スペルカードシステム、ではなく遊戯王カードシステムを採用した幻想郷。
人も妖怪も争っていては数が減る。しかし争わなければ、各々力を失ってしまう。それを解決する為に作られたのが、このシステムである。
人々は自分の40枚のデッキを持ち寄り、戦わなければいけない際はこのゲームの勝敗で決着を付ける。敗者は勝者の指示に従わなければいけないが、取って食ったりするのはタブーだ。
このカードゲームなら多彩なカードの種類があり、自分の特性を活かして戦うことが出来る。故に、自らの特性を活かしたデッキを使い、戦って欲しいとのこと。





「夜の境内裏はロマンチックね」
「そんなこと言ってる場合かよ」
 久々の異変である。魔理沙は霊夢の居る神社へと来ていた。幻想郷一体が謎の紅い霧に覆われ、空に晴れ間を見せることのないこの事件。魔理沙は霊夢と共に、この異変を解決するつもりで来ていた。
「で、犯人の目星はついてるのか」
「いつも通り、勘よ勘」
「おいおい」
 魔理沙は呆れたように言った。しかし、当の霊夢はやけに自信満々である。実は言葉は嘘で、本当は犯人の目星はついているのではないか。少しだけ疑ったが、霊夢の様子を見るとどうやらそうでもないらしい。
 と、そんなとき。現れる影が一つ。正確には影ではない。影は光があって初めて生み出されるもの。中空に丸い闇がぷかぷかと浮いているだけなんて、あるはずがない。霊夢と魔理沙は同時にそれに気付き、互いに声を掛け合う。
「えっと、なんだあれ」
「知らないわよ。多分妖怪かなんかだと思うけど」
 それには同意と、魔理沙も頷く。しかし、ただの黒い球体しか見えないと言うのでは、確認のしようがない。霊夢はとにかく衝撃を与えてみましょう、と過激な事をいい、袖の中からお札を取り出した。
「いいのかな」
 魔理沙の言葉も無視して、霊夢はそれにお札を放った。真っ直ぐに球体の中心部へと向かい、中のそれを攻撃する。お札の当たり方から察するに、この「影」はほとんど空洞で、中心部に妖怪が一人だけ居るらしい。
「いたっ」
 声は可愛らしい少女の声だった。しかし、霊夢は容赦がない。
「中に妖怪が居るんでしょ、退治してあげるから出てらっしゃい?」
「それじゃ出ないぜ。普通は怒らないから出てこいって言うんだ」
「そう言って怒らなかった試しがないのよ」
 漫談の直後、黒い影は渦を巻き一瞬にして消え去った。中から金髪の少女が現れる。理由は知らないが、何故か両手を広げてぷかぷかと空を浮いている。
「うるさいなぁ、邪魔しないでよ」
「なんだそのポーズ」
 聞かずに魔理沙は自分の台詞を押す。妖怪はあぁ、これ? と言ってから、にこやかに聞き返した。
「聖者は磔刑にされました、に見える?」
「人類は十進法を採用しました、に見える」
「私は変な妖怪が飛んでるように見えるわ」
 魔理沙と少女が、霊夢の方を見た。霊夢は少しだけ驚きながら、2人のほうを睨み返した。
「すまんな、こいつ鳥目でよく見えてないんだ」
「そーなのかー」
「私は鳥目じゃないって」
 霊夢は怒って、魔理沙の頭を1度だけはたいた。帽子がずれたので、魔理沙はそれをいそいそと直す。妖怪はそんな2人の姿を見て痺れを切らしたのか、そのままの姿勢で2人に問いかけた。
「ところで、私の遊覧飛行を邪魔してくれたのはどっち? お礼がしたいんだけど」
 一瞬の沈黙。その後霊夢は魔理沙を見て、魔理沙は霊夢を見る。更に数秒が経ってから、霊夢は魔理沙を指差した。
「お礼がしたいだって、よかったわね魔理沙」
「指差すな指」
 差された指を払いのけてから、必死でそれを否定する。しかし、妖怪は聞く耳持たずと言ったところだ。力強い口調で、魔理沙に対して言う。
「有難う、じゃあ、私の憂さ晴らしに付き合ってもらうわよ!」
 妖怪は服の中からカードを取り出した。束になっていて、枚数は恐らく40枚。対する魔理沙も、スカートのポケットからデッキを取り出して叫んだ。
「やれやれ、やったのは霊夢なんだが……。まぁいいか、丁度決闘したかったしな、受けて立つぜ!」
 箒に載せてあったデュエルディスクを手に嵌めると、次いでデッキをディスクに差し込む。デュエルディスクが妙な機械音でデュエルスタート、と言った。
「「決闘!!」」





 互いに相応の距離を取り対峙する。先攻はルーミアと名乗る妖怪の方だった。
「私のターン、ドロー!」
 カードを引く。空を飛んでいるため、比較的自由な姿勢で決闘が為された。引いたカードを左手の5枚の中に入れて、違う1枚を取り出した。ディスクにセットする。
「私はまず、ジャイアント・オークを召喚するわ!」
 ディスクから短いメロディーが流れ出し。カードが認識される。と共に、ルーミアの前に青白い筋骨隆々の巨人が現れた。


《ジャイアント・オーク/Giant Orc》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻2200/守 0
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
次の自分のターン終了時までこのカードの表示形式は変更できない。


「いきなり2200とは、強いモンスターを出すわね」
 霊夢は感心したように言う。生贄なしで召喚可能なモンスターであると、攻撃力は1900程度が関の山だ。2000を越えると、ほとんどが重いデメリットを課せられる。しかしジャイアント・オークはというと、高い攻撃力を持っているにもかかわらず、課せられたデメリットは比較的軽い。
「カードを2枚セットして、ターンエンド」
 ルーミアがカードを置く。ジャイアント・オークに、裏側になった2枚のカードが現れた。魔理沙はそれを、訝って見る。
「2枚のカードか、やりづらいな」
 空には不気味な霧が立ち込めていた。後攻である次のターンから、モンスターは戦闘を行える。
(まずは様子見と言ったところか)
 魔理沙は自分のデッキを見つめていた。



ルーミア : 手札3 ジャイアント・オーク 伏せ2枚 LP8000
魔理沙 : 手札5 場は何もなし LP8000



「ドロー!」
 力強くカードを引く。魔理沙は既に引いていた5枚のカードを見た。引きは上々。今引いたカードを5枚の中に入れると、別なカードを取り出した。
「私はライトロード・パラディン ジェインを召喚するぜ」


《ライトロード・パラディン ジェイン/Jain, Lightsworn Paladin》
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1800/守1200
このカードは相手モンスターに攻撃する場合、
ダメージステップの間攻撃力が300ポイントアップする。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。


 魔理沙の目の前に、ジェインが召喚される。白い鎧を身に纏った、精悍な顔立ちの青年。剣に盾、そして髪までもが白く、何処か神聖さを思わせた。
 しかしジェインではジャイアント・オークを倒せない。魔理沙に攻撃の意思はなかった。それでもジェインは剣を構え、攻撃表示の姿勢を取っている。それは何故か。
 「さらにカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
 悠々と言いながら、カードを1枚裏側で置く。ターン終了ボタンを押すと、デッキの上から2枚を手動で墓地に送った。山札からカードを墓地へ送る効果は、ライトロードと名のつくカード群の特徴とも言えた。
「自分から山札を墓地に送るなんてね」
「ほざいてな。ライトロードはそっからが強いんだ」
 魔理沙は不敵に微笑む。ルーミアはそれが気に入らなかった。



ルーミア : 手札3 ジャイアント・オーク 伏せ2枚 LP8000
魔理沙 : 手札4 ジェイン 伏せ1枚 LP8000



「ドロー!」
 ルーミアはカードを引く。カードを見るまでもない。このターンの行動は、もう決まっている。引いたカードを手札の中に入れ、直ぐに号令をかけた。
「ジャイアント・オークでジェインに攻撃よ!」
 ルーミアの指示の下、ジャイアント・オークはその巨体を動かした。動きは鈍いが、その一つ一つに重みがある。ジェインは攻撃表示の姿勢を取っている為、ジャイアント・オークの進撃に逃げも隠れもしなかった。真っ直ぐに相手を見据え、剣を構える。
「いくら迎撃しようったって、攻撃力が足りないわよ!」
「そうだな、だから罠カードを発動だ」
 ディスクのボタンを押すと、裏側で刺さってたカードが突然表側になった。同時に、目の前で展開されているフィールドでも、同じカードが表側になり、立つ。ジャイアント・オークがとうとうジェインの下までやってきて棍棒を振り下ろしたが、不思議とその攻撃はジェインに届かなかった。
「ライトロード・バリア?」


《ライトロード・バリア/Lightsworn Barrier》
永続罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「ライトロード」
と名のついたモンスターが攻撃対象になった時、
自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る事で
相手モンスター1体の攻撃を無効にする。


 ルーミアは訝って声を上げる。よく見れば、ジェインの周りには桃色のバリアのようなものが張られていた。棍棒はバリアに沿って虚空を打っていたらしい。薄いバリアなのに、よく鈍重な攻撃を逸らせたものだと感心する。
「デッキからカードを2枚送って、相手の攻撃を無効にするカードだ」
 魔理沙は再びデッキからカードを2枚送った。墓地に送られたカードを見て、魔理沙は少しがっかりしたような表情になる。
「怖いのはここからなのよね」
 霊夢は呟く。魔理沙のデッキとは、何度か対戦した事がある。正直言って強いので、あまりやりたくないというのが本音だ。序盤は単なる普通の*ビートダウンだが、中盤以降からは毛色を変えてくる。上級モンスターや墓地を使った効果で、異常なまでの強さを見せるデッキだ。
「1ターンの攻撃を凌いだからって何よ。こっちの方が攻撃力は上なんだからね」
「そうだな」
 魔理沙の口元が緩んでいる。不敵な笑みは崩さない。緊張を解いてはならないと、魔理沙は自分に言い聞かせた。
「モンスターをセットしてターンエンド」
 ジャイアント・オークの横に伏せられる1枚のモンスター。魔理沙はそれを気にかけない振りをして、そのモンスターは何か想像した。
 そしてルーミアはと言うと、突っ張ってみた割には、実際は少しだけ怯えていた。
 モンスターが居る状態で、相手にターンを渡してしまった。

 ――上級モンスターが、来る。



ルーミア : 手札3 ジャイアント・オーク 伏せモンスター1枚 伏せ魔法罠2枚 LP8000
魔理沙 : 手札4 ジェイン ライトロード・バリア LP8000



「ドロー」
 静かに言ってカードを引き、それを見ずに手札へ加える。
 ルーミアの予感は当たっていた。わざわざ攻撃力の劣るジェインを生かしたのは、上級モンスターを召喚する為だ。ジェインを墓地に送り、代わりに手札から新たなモンスターを召喚する。
「ライトロード・ドラゴン グラゴニスを召喚だ!」
 ジェインの周りに、青白い渦が巻く。ジェインは光を放って形を変え、そのまま霧散していった。代わりに現れたのは、白い鎧を纏った神々しい龍。


《ライトロード・ドラゴン グラゴニス/Gragonith, Lightsworn Dragon》 †
効果モンスター
星6/光属性/ドラゴン族/攻2000/守1600
このカードの攻撃力と守備力は、自分の墓地に存在する「ライトロード」
と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップする。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを3枚墓地に送る。


「やっぱり……」
 ルーミアは悔しそうに、グラゴニスを見つめた。カードについては知らないが、この局面を見るに、恐らくはジャイアント・オークを穿つ攻撃力を持つモンスター。魔理沙はそんなルーミアを見ながら、高らかにカードの説明を始めた。
「こいつの攻撃力は2000。ジャイアント・オークには届かないが、便利な能力を持っている。それは自分の墓地に存在するライトロードの数だけ、攻撃力を上げるんだ」
「それで、今の攻撃力は?」
 ルーミアは低い声で言う。嫌な汗が垂れるのが、自分でも分かった。魔理沙は自分の墓地を確認し始める。ひぃ、ふぅ、みぃと、枚数を数えながら。
「残念ながら、ジェインしか送られてないみたいだな」
 本当に残念そうな声を上げる。ルーミアはディスクの表示を見た。グラゴニスの攻撃力は、2300。
 ジャイアント・オークを、100上回る。
「グラゴニスで、オークに攻撃!」
 疾風のような、魔理沙の叫び声。グラゴニスが首を起こし、ジャイアント・オークを見下ろした。如何な巨体のジャイアント・オークでさえ、グラゴニスのような龍には見劣りしてしまう。それだけでも、言いようのない威圧感を覚えた。
 グラゴニスの口が開く。喉の奥に見える光は、一瞬にしてジャイアント・オークに放たれた。光に包まれるジャイアント・オーク。それと共に、防ぎようのない風がルーミアの身を裂いてゆく。
「くっ」
 超過したダメージはたったの100。デュエルにはほぼ支障のないダメージとはいえ、最初のダメージという言葉がルーミアの脳に響き渡る。
「4枚も送ったから、あと2枚くらいあってもよさそうなんだがな」
 魔理沙は再び墓地を確認した。ディスクも2300と言っているし、何度確認しても墓地のライトロードは1種類。ディスクの墓地参照ボタンをもう1度押し、カードを元の場所に戻した。
 ルーミアは怒って魔理沙を指差す。そろそろデュエルを続けろ、という声が聞こえてくるようだった。
「ジャイアント・オークを倒したからなんだっていうの、ダメージもたった100よ!」
「そう言うならグラゴニスを倒してもらおうか、お望みどおりターンエンドだぜ」
 魔理沙はにっこりと笑んで言った。グラゴニスはエンドフェイズに山札を3枚削る効果を持つ。3枚墓地に送って、ルーミアの番となった。



ルーミア : 手札3枚 伏せモンスター1枚 伏せ魔法罠2枚 LP7900
魔理沙 : 手札4枚 グラゴニス ライトロード・バリア LP8000



「毎回カードを送らなきゃいけないなんて、まどろっこしいわね」
 言いながら、ルーミアはカードを引いている。横目で見て、それを手札に加えた。
「私もたまに忘れるんだよな、これ」
 何よそれ、とルーミアは呆れる。墓地を利用するとか言っていたから、墓地に送るのは重要なことのはずなのに。人差し指と中指でカードを挟みこみ、手札から出すと、伏せられていたモンスターを捨てて召喚した。
「私も上級モンスターを出すわ。邪帝ガイウスよ!」
「げっ、危険なカードを出すなぁ……」


《邪帝(じゃてい)ガイウス/Caius the Shadow Monarch》
効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000
このカードの生け贄召喚に成功した時、
フィールド上に存在するカード1枚を除外する。
除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。


 裏側のカードが消滅すると、同じ地に黒い闇が現れた。どうやらルーミアの能力ではないらしい。闇はただの円形から渦に変化すると、中に居るモンスターを吐き出した。黒いマントを羽織った、人型のモンスターだった。
 「そしてガイウスの効果で、グラゴニスを破壊!」
 ガイウスは胸の前で両手を掲げると、そこから黒い球体を生み出した。ただの黒いだけではないようだったが、暗くてよく見えなかった。ガイウスはその「闇」を手から放つと、グラゴニスにぶつける。グラゴニスは断末魔の叫びを上げ、闇の中に吸い込まれてしまった。
「よりによって除外かよ」
「これで場はがら空きよ、ガイウスで攻撃!」
 ルーミアが叫ぶ。ガイウスは頷いて、先程と同じ方法で闇の玉を放った。魔理沙は大きく足を踏ん張りスカートを抑える。玉が魔理沙を攻撃し、ライフが削られた。
「2400素通りは、ちょっと痛いぜ」
 言いながら、魔理沙は笑みを崩さない。
「100点のお返しにしては、少し多すぎたかしら」
「いいや、寧ろ少なすぎる方だぜ。お前は今から、7900削られるんだからな」
 平気そうな顔をして、魔理沙は答える。減らず口を、とルーミアは口の中で呟いた。



ルーミア : 手札3 ガイウス 伏せ2 LP7900
魔理沙 : 手札4 ライトロード・バリア LP5600



「ドロー」
 カードを引く。引いたカードを見て、魔理沙は思わず口元が緩んだ。
「良いカードを引いたの?」
「秘密だぜ」
 暗くて遠い相手の顔を見えるなんて、ずっと闇の中に居る妖怪は違うな、と魔理沙は少しだけ感心した。手札の別のカードを取り出し、ディスクにセットする。
「私はライトロード・マジシャン ライラを召喚して、そのまま効果を発動するぜ」
 長髪で、白い布を纏った魔女が出現する。杖を掲げ、雄々しく叫びを上げて出てきたはいいものの、杖を振るった瞬間、彼女は膝を折り守備の態勢になってしまった。
 そして、ルーミアの場に伏せられていたカードが砕ける。断片から察するに、伏せられていたのは最終突撃命令らしい。
「何事っ?」


《ライトロード・マジシャン ライラ/Lyla, Lightsworn Sorceress》
効果モンスター
星4/光属性/魔法使い族/攻1700/守 200
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードを表側守備表示に変更し、
相手フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。
この効果を発動した場合、次の自分のターン終了時まで
このカードは表示形式を変更できない。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。

《最終突撃命令(さいしゅうとつげきめいれい)/Final Attack Orders》
永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、
フィールド上に存在する表側表示モンスターは全て攻撃表示となり、
表示形式は変更できない。


「攻撃表示で召喚した直後に、効果を使って守備表示になったんだ。自分を守備表示にする事で、カードを1枚破壊する事が出来る」
 魔理沙は言いながら、ルーミアのデッキを分析していた。最終突撃命令。奇妙なカードではあるが、その意図は汲み取れた。
 強制的に守備表示になるジャイアント・オークを攻撃表示にし、その上で相手に攻撃表示を強要する。確かに2200の攻撃力のモンスターが攻撃し続けるのは脅威だし、守備を封じられるのは痛い。だが、どちらか1枚が壊されれば、そのコンボは脆くも崩れ去る。
(簡単に崩せるんだぜ、そんなもん)
「で、ライラが何よ。ライラが居たって、ガイウスは倒せないわよ」
 ルーミアが言う。魔理沙はそう慌てるなって、と宥めた。
「ライラではガイウスを倒せない。だから、私はライラを守備表示にしてターンエンドするぜ」
「もう逃げ腰?」
「どうかな」
 魔理沙はデッキの上から3枚を墓地に送る。中にライトロードと名のつくカードが見えた為、少しだけ嬉しくなった。
(――そろそろ、反撃開始だな)
 魔理沙は手札を温存している。ルーミアはそのことに気付いていなかった。



ルーミア : 手札3 ガイウス 伏せ1 LP7900
魔理沙 : 手札4 ライラ ライトロード・バリア LP5600



「ドロー」
 ルーミアは引いたカードを手札に入れて、すぐに手札を見ていた。モンスターで攻撃すれば、再びガイウスの攻撃が通る。ルーミアはモンスターを1枚、場に召喚した。
「ダーク・ヴァルキリアを召喚よ」
「また物騒なカードを出すなぁ」
 魔理沙の声。フィールドに出るのは、黒い兜を被った恐ろしい堕天使。今にも襲い掛かってきそうな形相で、魔理沙の事を睨んでいる。


《ダーク・ヴァルキリア/Dark Valkyria》 †
デュアルモンスター
星4/闇属性/天使族/攻1800/守1050
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードが表側表示で存在する限り1度だけ、
このカードに魔力カウンターを1つ置く事ができる。
このカードの攻撃力は、このカードに乗っている
魔力カウンターの数×300ポイントアップする。
その魔力カウンターを1つ取り除く事で、
フィールド上のモンスター1体を破壊する。


 次のルーミアのターンが来れば、ダーク・ヴァルキリアは効果で相手モンスターを1枚破壊する事が出来る。破壊しなくても攻撃力は2100。物騒なカードと言うのは、それが所以だった。
「ダーク・ヴァルキリアでライラを攻撃してから、ガイウスでダイレクトアタック」
 つまらなそうな声でルーミアが言う。どう見ても不利なのに、何故魔理沙は微笑んでいられる? ダーク・ヴァルキリアが手に黒いものを纏って、ライラに手刀をおみまいする。しかし、その攻撃は届かない。
「!?」
 ルーミアが驚いて、それを凝視した。ライラに張られた桃色の膜は、確かに見覚えがある。魔理沙が一向にカードを伏せてこないからと言って安心していたが、そのカードの存在を忘れていた――。
「おいおい、ライトロード・バリアは永続罠だぜ、忘れたのか?」
「しまったっ」
 次いでガイウスの攻撃も、桃色の膜によって閉ざされる。ルーミアの攻撃はついに、魔理沙を捉える事はなかった。魔理沙は代償として、山札の上から4枚を墓地へ送る。
「しぶといわねぇ、山札がなくなるわよ?」
「その前に片付けるって」
 ルーミアは静かにターンエンドを告げた。フィールドはほとんど変化を遂げていない。中々進まない、魔理沙の動き。ルーミアはそれが不気味に思えて仕方がなかった。



ルーミア : 手札3 ガイウス ダーク・ヴァルキリア 伏せ1 LP7900
魔理沙 : 手札4 ライラ ライトロード・バリア LP5600



「ドロー」
 魔理沙はカードを引く。カードは見ずに手札に加えられ、別のカードが取り出された。このターンにすることは、もう決めていた。
「私はライトロード・エンジェル ケルビムを召喚だぜ」
 ライラを捨て、新たなモンスターを召喚する。純白の翼と、純白の鎧に覆われた天使。神聖なる光が辺りを照らす。夜の闇が、一瞬だけ昼に変わった。


《ライトロード・エンジェル ケルビム/Celestia, Lightsworn Angel》
効果モンスター
星5/光属性/天使族/攻2300/守 200
このカードが「ライトロード」と名のついたモンスターを
生け贄にして生け贄召喚に成功した時、
デッキの上からカードを4枚墓地に送る事で
相手フィールド上のカードを2枚まで破壊する。


「こいつは出現したらカードを2枚破壊できるんだな、これが」
 魔理沙は嬉々として言い放つ。しかし、内心では破壊するカードで悩んでいた。伏せカードは怖いし、ガイウスはケルビムを越える攻撃力を持つ。ダーク・ヴァルキリアは生かすと、次のターンにケルビムを破壊してくるだろう。どれも危険なように見える。
 伏せカードとガイウスを選択すれば、そのまま攻撃でダーク・ヴァルキリアを破壊できることだろう。しかし、伏せカードが召喚に対して反応する罠カードだとすれば、訳が違う。ダーク・ヴァルキリアを生かして相手のターンを回してしまう事になり、危険極まりない。
 そこで、魔理沙は少しだけこのデュエルを回想した。大事なのは、グラゴニスが攻撃したときの記憶。グラゴニスと言うジャイアント・オークを上回る攻撃力を持つモンスターで攻撃しても、ルーミアは伏せカードを発動しなかった。
 つまり、あの伏せカードは――。
(*ブラフかっ)
 魔理沙はそう決め込み、対象のカードを指定した。伏せカードはブラフ。破壊する必要は、ない。
「私が破壊するのは、ガイウスとダーク・ヴァルキリアだ!」
 ケルビムが杖を振るう。空の暗雲に裂け目が生じ、2体のモンスターに雷が落ちた。身体が燃える。断末魔の叫びに、耳を塞ぎそうになった。
「2体もやられるなんて……」
 ルーミアは呆然と自分のフィールドを見ていた。残されたカードは、僅か1枚。瓦解したと言ってもいいだろう。ケルビムのことを、きっと睨む。ケルビムは冷たい表情で、ルーミアを見下げ返した。
「行くぜ、ケルビムで攻撃だ!」
 魔理沙が叫ぶ。ケルビムは空を舞い、ルーミアの下まで一瞬にして翔けて行く。眼前で杖を振りかぶると、ルーミアの下へ光が吐き出された。
「させないっ!」
 しかし、ルーミアに光は届かない。間に挟まれた赤紫の鎧のモンスターが、その攻撃を阻んでいた。フィールドにモンスターは居なかったはず。何故だ! 魔理沙が叫ぶと、ケルビムの攻撃が終わり、モンスターの姿がようやく確認できた。
「ネクロ・ガードナーよ」
「いつの間に……」


《ネクロ・ガードナー/Necro Gardna》
効果モンスター
星3/闇属性/戦士族/攻 600/守1300
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。


「ガイウスの生贄になった裏側守備モンスター。そいつがネクロ・ガードナーだったの」
「なるほどな」
 魔理沙は回想する。裏側守備表示のまま葬られたから、記憶になかったのだ。攻撃が通っていればライフは並んでいたのに、と口惜しそうに呟いた。
「あなた、私のモンスターを悉く往なしていくわね」
「そうだな、それが決闘ってもんだろ」
「もう怒ったわ。私の切り札を見せてあげる!」
 ルーミアの叫びを聞いて、魔理沙の目つきが変わった。口笛でひゅぅ、と鳴らしてはみたが、内心では少し恐れている。
「切り札、なんて言ってもいいのか?」
「いいわよ、どうせあなたはこのカードに倒される!」
 ルーミアは手札からカードを1枚取り出した。暗いし遠いしで、そのカードは分からない。だが、魔理沙はそれを見なくとも、大体なんのカードであるかは察していた。
 いつしか世界が暗みを帯び始める。それはルーミアの能力ではない。そのモンスターの威圧感が、世界を闇に包んでいる。
 魔理沙は自問自答した。
 ルーミアのデッキの特徴は?
 ルーミアのデッキの共通点は?
 それらを考えたとき、ルーミアのデッキの切り札が分かる。

(ズバリ、ダーク・アームド・ドラゴン)
 魔理沙はほんの少しだけ、それを恐れていた。何度か戦ったことがある。凶悪な効果と、強力な攻撃力を併せ持ったモンスター。思わず呟いた。
「全く、物騒なカードばかりだな」
 だから、
 魔理沙は手札を1枚残して全てデュエルディスクに差し込んだ。
「私はカードを3枚セットして、ターンエンドだ!」
「3枚セット!?」
 ルーミアの叫び。
 魔理沙は不敵に笑んでいる。



ルーミア : 手札3  伏せ1 LP7900
魔理沙 : 手札1 ケルビム ライトロード・バリア 伏せ3 LP5600



「ドロー!」
 ルーミアはカードをドローして、すぐにそれを手札に加えた。デュエルディスクの墓地参照ボタンを押し、必要なカードを魔理沙に掲げる。
「私の墓地の闇属性モンスターは3枚! ジャイアント・オーク、邪帝ガイウス、ダーク・ヴァルキリアよ!」
 魔理沙は小さく頷く。そして、自分の予想が当たっていた事を恨む。本当は3枚伏せるなんて奇策、したくはなかった。
 ルーミアのデッキの特徴は、全てのモンスターが闇属性であること。本人が闇を操る能力を持つゆえ、魔理沙も大体その辺りを把握していた。
 そして、闇属性のモンスターでデッキを組む場合の最大のメリット。それが、墓地の闇属性の数を参照して召喚される、特殊召喚モンスター。
 ――ダーク・アームド・ドラゴン。
 ルーミアは手札のカードを、静かにフィールドに置く。鋼鉄の鎧を身に纏う、赤黒い龍のモンスターが姿を現した。
「ダーク・アームド・ドラゴンを召喚!」


《ダーク・アームド・ドラゴン/Dark Armed Dragon》
効果モンスター(制限カード)
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、
このカードを特殊召喚する事ができる。
自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。


「来たかっ」
 叫ぶ。代償なしに突然出てくる攻撃力2800と、少ない代償でカードを破壊する能力がウリの特殊召喚モンスター。
 カードを破壊する代償は墓地の闇属性モンスターで、自身の召喚条件により基本的には3回まで発動ができる。その上、召喚した後に墓地にモンスターを送れば、その枚数はどんどん増してゆく。カードを破壊しつつ攻撃のできる、優秀なカード。
「召喚に対して発動する罠はないし、早く効果を発動しな」
 そうやって促したのは、或いは怯えからだったのかもしれない。怯えた心が、事態が早く終わることを望んでいる。
「望むところよ!」
 ルーミアもそれに釣られ、行動を急いだ。墓地のカードが闇へと送られる。ジャイアント・オーク、邪帝ガイウス、ダーク・ヴァルキリア。全てのモンスターを除外し、3枚のカードを破壊するつもりだ。
 しかし、そこには大きな罠がある。
「さっきのターンの伏せカードは、そういうことね……」
「そういうことだ」
 魔理沙の伏せカードは3枚。それにライトロード・バリアが表側で存在し、ケルビムをあわせて合計5枚のカードが存在する。召喚に対して発動する罠カードはなかったが、攻撃に対して発動する罠カードはまだ可能性がある。できれば今のうちに破壊しておきたい。
 だが、伏せカードを全て破壊したのでは、ライトロード・バリアが残ってしまい、ケルビムを破壊する事は敵わない。だからといってライトロード・バリアかケルビムを破壊すれば、伏せカードが残ってしまい、攻撃に対して罠カードを発動される可能性がある。
 前のターンの伏せカードは、このターンをノーダメージで過ごす為の奇策だった。
 ――しかし。
「私は伏せカードを全て破壊するわ!」
「ほぅ」
 ルーミアは臆せず、伏せられたカードを全て破壊する。ライトロード・バリアは残したままだ。破砕したカードの断片を見るに、3枚の内2枚は危険な攻撃反応系罠だったようだが、破壊してしまった今、そんなことはどうでもいい。ルーミアは続けて言う。
「更に、私は魔導戦士ブレイカーを召喚して、ライトロード・バリアも破壊する!」
「何っ」
 そう、ルーミアが怯えを見せなかったのは、ライトロード・バリアをも破壊することができるからだった。先の尖った帽子を被った、奇妙な魔法使いが場に召喚される。剣を振り上げ、ライトロード・バリアを破壊した。


《魔導戦士 ブレイカー/Breaker the Magical Warrior》
効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1600/守1000
このカードが召喚に成功した時、
このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大1つまで)。
このカードに乗っている魔力カウンター1つにつき、
このカードの攻撃力は300ポイントアップする。
また、このカードに乗っている魔力カウンターを1つ取り除く事で、
フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を破壊する。


 色々と面倒な事を書いているが、端的に言えば、1度だけ相手の魔法罠カードを1枚破壊でき、その権利を行使しなかった場合には攻撃力1900になるというもの。その上属性は闇で、カードを破壊した場合でも攻撃力1600と、中々の攻撃力を誇る優良カード。魔理沙もそのカードの存在はよく知っていたし、実際に使われる事もよくあった。だが、こんなところで召喚されて調子を崩されるなんて。
「さ、そろそろあなたの負けが決まったようなものだけど」
「そいつはどうかな。決闘は最後まで分からないぜ」
 ルーミアは余裕綽々といった表情で言う。相手の手札を見てみると、残り1枚。たった1枚のカードとケルビムで、逆転できるはずはない。
 なのに。
 魔理沙は一向に屈しない。不敵な笑みを浮かべ、目の前に居る敵と対峙する。
 ルーミアはそれを、もう気にもしていなかった。
(空元気に決まってる――)
「だったら実際にやってあげるわ! ダーク・アームド・ドラゴンでケルビムを攻撃!」
 ダーク・アームドが口を開く。喉の奥に見えるは大粒の火炎。時折漏れる火を気にしながら、ダーク・アームドはケルビムにそれを放った。ケルビムは杖を振るい、自らにバリアを張る。しかし攻撃力はダーク・アームドの方が上。必然的に、ケルビムの敗北だ。
 しかし。
 刹那、ケルビムの羽が七色に輝き始める。眩い光が辺りを照らし、ダーク・アームドの炎を押し返していった。拡散する光。魔理沙とルーミアは、眼を開けるので精一杯になった。
「な、なんで!」
 声が上がる。魔理沙は静かに、自らの手札を墓地に置いていた。ケルビムの一閃。杖が振るわれ、炎が完全に弾かれた。ダーク・アームドの出す炎が止まる。――そして、その身体に雷が走った。
 咄嗟にルーミアはデュエルディスクを見る。そんなはずはない。確かにダーク・アームドの方は攻撃力が勝っていたはず。ディスクに表示されているダーク・アームドの攻撃力は2800。一方、ケルビムの攻撃力は、
 ――5100。
「ごせんひゃく!?」
 かの有名な青眼の白龍でも届かない。青眼の究極龍でも届かない。デュエルモンスターズ最強の攻撃力を誇る、FGDでさえも届かない。攻撃力5100。ルーミアは驚愕した。
「何よ、この数字は……」
 ダーク・アームドの身体が焼け、その場に倒れた。まさか攻撃力2800を、こうも簡単に破られるとは思ってもいない。何が起こったの? ルーミアはそう言おうと思ったが、魔理沙が喋っているのでやめることにした。魔理沙は既に手札がない。いつの間に……。
「私は手札からオネストを捨てさせてもらった。オネストの効果で、ケルビムの攻撃力は2800上がったんだぜ」


《オネスト/Honest》
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1100/守1900
自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する
このカードを手札に戻す事ができる。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターが
戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、
エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。


 なるほど。ルーミアは心の中で納得する。攻撃力が2800も上がれば、5100という桁違いの数字になったのも頷ける。
 だが、だからといって、簡単にそんな数字が出てもいいものなのか。
「くそっ」
 ルーミアは、それだけしか言えなかった。
 ルーミアの場には攻撃表示のブレイカーと、最初のターンにブラフで伏せた役に立たない魔法カード。そして既に、切り札であるダーク・アームドは死に絶えた。
 ケルビムを破壊しないことには、魔理沙が倒せない。
 だが、

 ルーミアは自分の手札を見返した。そう、そこにはあったのだ。ケルビムを穿つことのできる、唯一のカードが。
「私はカードを1枚伏せて、ターンを終了よ!」
 攻撃表示で出した手前、ブレイカーは守備表示に直せない。
 だから攻撃表示のまま、ケルビムを穿つ。
(来なさい、魔理沙)



ルーミア : 手札1 ブレイカー 伏せ2 LP5600
魔理沙 : 手札0 ケルビム LP5600



「ドロー」
 魔理沙はデッキからカードをドローした。先程のターン、手札は全て使い切ってしまっている。既にない手札に、ようやく新たなカードが加わる。
(さて、どうするかな。あのカードは、あからさまに罠カードだぜ)
 魔理沙は伏せられたカードを凝視した。ルーミアの顔は、まだ歪んではいない。力強く、凛と魔理沙を睨みつけている。どんなに窮地に立たされようと笑んできた魔理沙とは正反対だ。自分の感情が、そのまま顔に出る。
 だが、だからこそやりづらい。
 ケルビムでブレイカーは倒せる。最初に伏せられているカードはブラフ。なら、最後のカードがケルビムを穿つカードに決まっている。魔理沙には分かりきっていた。そしてそれが、やりづらかった。
「あなたの場にはモンスターが1体居るだけ、そして手札も僅か1枚。もうあなたに、勝ち目はないわ!」
「そんなこと言って、さっきのターンダーク・アームドをやられたのは誰だっけな」
 魔理沙は憎まれ口を叩く。ぐっ、と堪えてルーミアは更に挑発した。
「それでも、1枚のモンスターが場に残っただけ。あなたのピンチは必至よ!」
「やれやれ、必至とか言うなよな全く」
 魔理沙は手札をフィールドに置いた。魔法・罠ゾーンに、気持ちの悪い壷が現れる。顔があり、口は様々な色の差し歯で彩られていた。口から舌を出し、何かを待っている様子だ。
「そのカードは!」
「これで、文句ないだろう?」


《貪欲(どんよく)な壺(つぼ)/Pot of Avarice》
通常魔法
自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、
デッキに加えてシャッフルする。
その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 魔理沙は墓地を参照し、5枚のカードを選び出す。ライトロードの効果で沢山捨てられたゆえ、戻すカードには困らない。しかし、ここで選ぶカードは慎重に吟味しなければ、後に響いてくるかもしれない。魔理沙はうんうん唸りながら、それを考える。
「この5枚を戻して、2ドローだ」
 カードを戻すと、デッキが機械的にシャッフルされる。シャッフルが止まるとカードを2枚引いた。魔理沙はふっと喜ぶ。
 確かに、貪欲な壷は良いカードだ。確実に手札の枚数が増えるため、相手との差をつけ易い。しかし、墓地のカードを5枚戻すと言うのがネックになっている。5枚戻すのはメリットでもあるが、それは同時に"墓地にモンスターが5枚以上ないと使えない"という意味を孕んでいる。
(でも、ライトロードは違う)
 魔理沙は新たな2枚の内、1枚を取り出した。1枚のカードは今は使えないカードだったが、もう1枚のカードは多分に使い道がある。
「私はライトロード・サモナー ルミナスを召喚だ!」


《ライトロード・サモナー ルミナス/Lumina, Lightsworn Summoner》
効果モンスター
星3/光属性/魔法使い族/攻1000/守1000
1ターンに1度、手札を1枚捨てる事で自分の墓地に存在するレベル4以下の
「ライトロード」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る。


 フィールドに現れる褐色肌の少女。やはり白い布を纏っていて、他のライトロードとの関連性を匂わせる。更に魔理沙は手札を1枚捨てて、ルミナスの効果を行使した。
「ルミナスは手札を捨てることで墓地のモンスターを蘇生する事ができる。現れろ、ライトロード・ウォリアー ガロス!」


《ライトロード・ウォリアー ガロス/Garoth, Lightsworn Warrior》
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1850/守1300
自分フィールド上に表側表示で存在する「ライトロード・ウォリアー ガロス」以外の
「ライトロード」と名のついたモンスターの効果によって
自分のデッキからカードが墓地に送られる度に、
自分のデッキの上からカードを2枚墓地に送る。
このカードの効果で墓地に送られた「ライトロード」と名のついたモンスター1体につき、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。


 斧を持った青髪の男が姿を現す。やはり着ているのは白い鎧だった。屈強そうなその身に違わず、攻撃力は高い。
 これでブレイカー以上の攻撃力を持つモンスターが2体になった。相手の伏せカードが聖なるバリア-ミラーフォース-でなければ、ガロスまで破壊されることはない。
 伏せカードはミラーフォースか、否か。魔理沙は覚悟を決め、ケルビムの攻撃を促した。
(ええい、ままよ!)
「私はケルビムで、魔導戦士ブレイカーを攻撃!」
 ケルビムが杖を振るう。呪文を詠唱し、ブレイカーの下に雷を落とそうとしていた。しかしそれが通らない事は、魔理沙にも分かっている。ケルビムは、囮。
「かかったわね! 私は炸裂装甲でケルビムを破壊よ!」


《炸裂装甲/Sakuretsu Armor》
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
その攻撃モンスター1体を破壊する。


 ケルビムの鎧の上から、黒銀に輝く邪悪な鎧が被さった。ケルビムは呪文の詠唱を止め、その鎧を剥がそうとする。しかし、取れない。
「良かった」
 魔理沙は呟く。ルーミアには聞こえていない。
 鎧を着けられたケルビムはなんとかもがこうとしていたが、遂にその苦労は報われなかった。鎧が爆発する。鎧に守られていたケルビムの身体が崩れ、光となって消えていった。
「でも、私にはまだガロスが居る! ガロスで攻撃だ!」
「うぐっ」
 ガロスが斧を振りかぶった。いつの間にか、ブレイカーの目の前に居る。ブレイカーは剣で立ち向かうが、攻撃力はガロスのほうが上。身体を裂かれ、ブレイカーは死んでゆく。
 更に、追撃。
「そしてルミナスでダイレクトアタック!」
 ルミナスが駆けてゆき、ルーミアの眼前へと向かう。ルーミアは、それを止める術を持たない。拳に光が集まり、ルミナスはその拳を大きく突き出した。
「くっ」
 ルーミアのライフポイントが下降する。更に1250。魔理沙と並んでいたライフポイントが、遂に魔理沙を下回ってしまった。間髪入れずに、魔理沙が言う。
「私はターンエンドだが、ルミナスとガロスの効果が発動する」
 山札から3枚を墓地に送ると、ガロスが唸り声を上げた。ガロスは自らカードを墓地に落とす事はしない。代わりに、仲間の効果で落とされた時にその枚数を増やしてくれる。
「ルミナスの効果でカードが捨てられたので、ガロスの効果を発動する。2枚のカードを送り、その内のライトロードの数だけカードをドローだ」
 カードを更に2枚落とす。その中にライトロードは――あった。
「ドロー」
 魔理沙は静かに言う。それと共に、墓地からモンスターが蘇生していた。フィールドに、狼の顔を持った筋肉質の男が立ちはだかる。ルーミアには何がなんだか分からなかった。
「なんで出てきたの!?」
「デッキからカードを落とす際、このカードが落とされれば場に召喚される。便利なカードを落としちまったな」


《ライトロード・ビースト ウォルフ/Wulf, Lightsworn Beast》
効果モンスター
星4/光属性/獣戦士族/攻2100/守 300
このカードは通常召喚できない。
このカードがデッキから墓地に送られた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。


 場に立ちはだかる3体のモンスター。ルーミアはそれらを見上げていた。
 凄い。たった1ターンで、ここまで場を回復させてくるとは。
 魔理沙の不敵な笑みの理由が、ようやく分かった気がした。
 だが、ルーミアだって負けるつもりはない。
(だけど、どうしようか……)
 手札に一発逆転のカードはない。
 頼ることが出来るのは、次のドローカード。



ルーミア : 手札1 伏せ1 LP4350
魔理沙 : 手札1 ルミナス ガロス ウォルフ LP5600



「ドロー」
 ルーミアはカードをドローした。そろそろ、やばいかもしれない。普段から危機感のないルーミアだったが、このときは流石にピンチだと思ってきた。
 手札と場をあわせたカードの枚数、盤上の不利、ライフポイントの差。どれもルーミアが負けているということを表しているだけに過ぎなかった。
 だが、ルーミアは諦めなかった。諦めるつもりがなかった。前のターン、確かに魔理沙は負けていた。表情から察するに、ケルビムが破壊される事も予期していたのだろう。だから、魔理沙に頼れるのは、あのドローカードだけだったはず。
 そんな状況にも拘らず、魔理沙は笑っていた。不敵に笑んでいた。魔理沙は諦めなかった。絶望しなかった。
(だから、私も―ー)
 ルーミアは引いたカードを見る。
 これでもない。このカードでは、状況は打破できない。仕方なく、ルーミアは伏せカードを発動することにした。フィールドに伏せられていたはずのカードが反転する。中のカードの模様が、魔理沙にもくっきりと見えるようになった。最初のターン、ブラフに伏せたカード。
「今頃発動するのか」
 ルーミアは小さく頷いた。そのカードは、闇の誘惑。


《闇(やみ)の誘惑(ゆうわく)/Allure of Darkness》
通常魔法(準制限カード)
自分のデッキからカードを2枚ドローし、
その後手札の闇属性モンスター1体をゲームから除外する。
手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。


 手札を2枚ドローし、手札を1枚除外する手札交換系カード。貪欲な壷と違い、手札の枚数は最終的に変わらない。故に、手札増強カードではなく、手札交換カードに分類される。
 しかも、

 ルーミアの手札には、肝心の闇属性カードはない。
 だからこのドローで、それを引くしかない。
 闇属性カードと、逆転のカードを。
「ドロー」
 ルーミアの手が山札に掛かる。2枚のカードを抜き去ると、ルーミアの腕は勢いよく後ろ側へ反った。
 カードを目の前へ持ってくる。そして、内1枚を、除外ゾーンに送った。
「私はディアボリックガイを除外するわ」
「ディアボリックガイだと、変なカードが入ってるな」
 悪魔のようなという名前の通り、黒く禍々しい体を持った人型のモンスターが闇へ送られる。そして、フィールドに楕円形の黒い棺が置かれた。
「更に異次元からの埋葬を使って、今送ったディアボリックガイを含む3枚を墓地に戻すわ。そして、ディアボリックガイの効果発動!」


《異次元からの埋葬/Burial from a Different Dimension》
速攻魔法
ゲームから除外されているモンスターカードを3枚まで選択し、
そのカードを墓地に戻す。

《D-HERO(デステニーヒーロー) ディアボリックガイ/Destiny Hero - Malicious》
効果モンスター(準制限カード)
星6/闇属性/戦士族/攻 800/守 800
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分のデッキから「D-HERO ディアボリックガイ」1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。


 流れるようなカード捌き。闇に葬られた3枚のカードが、墓地に舞い戻る。ルーミアは舞い戻ったばかりのディアボリックガイを取り出すと、再びそれを闇に返した。その代わりにフィールドには、別のディアボリックガイが出現する。
「生贄要因か」
 ディアボリックガイは便利な能力で、同名カードをデッキから特殊召喚が出来る。しかし、その攻撃力は低い。力なきモンスターゆえ、召喚された瞬間に生贄になるのが普通だった。
「えぇそうよ。私はディアボリックガイを生贄に捧げて、ダーク・パーシアスを召喚させてもらうわ!」
 ディスクのディアボリックガイを墓地に埋葬し、同じ場所に手札からカードを出す。めまぐるしいカードの動きから、ダーク・パーシアスが出現した。


《ダーク・パーシアス/Darknight Parshath》
効果モンスター
星5/闇属性/天使族/攻1900/守1400
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する
闇属性モンスターの数×100ポイントアップする。


 紫色の鎧を着けた、半人半馬の姿。さながらケンタウロスである。その邪悪な表情からは、何らかの自信が汲んでとれる。
「ダーク・パーシアスは墓地の闇属性モンスターの数だけ攻撃力を上げる。攻撃力は2400!」
 四本の脚を巧みに動かし、ダーク・パーシアスは空を駆けた。目指すはライトロード・ハンター ウォルフ。手に持っていた槍を振るい、ウォルフの体を穿つ。
「ウォルフに攻撃っ」
 ウォルフの体には風穴。悲鳴を上げてウォルフは倒れた。上級モンスターの出現で、再び盤面が動いてゆく。
「また、私が不利になったかな」
「そうね。しかも、ダーク・パーシアスの効果を使わせてもらうわよ」
 墓地の闇属性を1枚除外し、ダーク・パーシアスはドロー効果を使う事が出来る。自身の攻撃力増強効果も墓地の闇属性モンスターの数を参照するので、攻撃力は減ってしまうが、その差は僅か100。
「つらくなってきたか」
「だったら、絶望的な顔をしてほしいものだわ」
 魔理沙は自分の手札を見た。そして、互いのフィールドを見た。
 ダーク・パーシアスが、巨大な壁に見える。
「私はターンエンドよ」
 ルーミアの声。魔理沙は、必死でドローを祈るしかなかった。



ルーミア : 手札2 ダーク・パーシアス LP4350
魔理沙 : 手札1 ルミナス ガロス LP5300



「ドロー」
 引いたカードを見る。魔理沙は少しだけ考えていた。
 先程のターン、ルーミアが放った異次元からの埋葬は、ネクロ・ガードナーをも墓地に戻している。故に、ネクロ・ガードナーはもう1度効果を発動できる事になる。
 つまり、魔理沙はネクロ・ガードナーの攻撃無効を1度受けておいて、その上でダーク・パーシアスを倒し、ライフを4350削らなければならない。
 そして魔理沙の憂いはもう1つあった。デュエルディスクに表示されているデッキ枚数を確認する。残りデッキ枚数は、8枚。今場に出ているルミナスとガロスの効果によって、デッキは5枚から7枚削られる。これ以上ライトロードのモンスターを増やせば、次のターンでドローが出来なくなり、負ける。ルーミアは何故、わざわざライトロードを呼べるルミナスや、手札を補充できるガロスを攻撃しなかったかと思ったが、狙いはそこにあったらしい。
 絶体絶命。
 退くことも戦うこともほとんど禁じられた、絶体絶命の状況。
 しかし、

 ライトロードなら、この状況をも打破できる。

 ライトロードの切り札があれば、この状況をも打開できる。

 引いたカードを、そのまま場に出した。
「私が召喚するのは、裁きの龍のカード」
 白く、まるで植物の葉を思わせる肌を持つ龍が現れる。そのサイズは規格外で、今まで出てきた他の龍とは桁が違った。四本の髭、四本の足、十六の赤い爪。聖なる瞳が、ルーミアを捉える。


《裁きの龍/Judgment Dragon》 †
効果モンスター(準制限カード)
星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2600
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
モンスターカードが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、
このカードを除くフィールド上のカードを全て破壊する。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する場合、
自分のエンドフェイズ毎に、デッキの上からカードを4枚墓地に送る。


「裁きの……龍……?」
 ルーミアは呆けて見上げていた。
 攻撃力3000。代償なしで出現する、ダーク・アームド・ドラゴン以上の攻撃力を持つモンスター。ダーク・アームドをあざ笑っているかと言うほどの力強さ。そして、神々しさ。
 ルーミアは吼える。それは空元気と言うしかない、偽りの元気だった。
「でも、私の墓地にはネクロ・ガードナーが居るわ、攻撃は通らない!」
「あぁ、攻撃は通らないぜ。でもな」
 巨大な声が響く。裁きの龍の咆哮だった。大地を揺るがすほどの咆哮。しかし、それは決して煩くはなかった。
 裁きの龍の効果は、1000ポイントのライフと引き換えに、裁きの龍以外のカードを全て破壊する効果。それは魔理沙の場とて、例外ではない。
 咆哮を受けたモンスター達が、一斉に砕けてゆく。ダーク・パーシアスも、ルミナスとガロスも。とても安らかな表情で、彼らは墓地に眠った。まるで死が安息であるかのように。
(これで、デッキ切れまではまた遠くなった)
 ルーミアは悲しい表情で魔理沙を見つめる。ここまでくると、魔理沙はもう容赦がない。
「更に私はガロスを召喚して、2体で攻撃するぜ」
 裁きの龍の懐にガロスが現れ、そのまますぐに攻撃に移る。ガロスはルーミアの下まで寄ってきて、斧の重い一撃を食らわせた。ルーミアはそれを甘んじて受ける。ライフは、1850減ってゆく。
 しかし、次の裁きの龍の攻撃は通さない。裁きの龍はルーミアに吐息を吹きかけた。眼前にネクロ・ガードナーが現れる。攻撃が無効になる。
 ルーミアは倒れていないが、魔理沙は依然笑んで、ルーミアを見つめていた。切り札を出していい気になっているのか。ルーミアは憤って睨み返した。
「私はターンエンドだ。さぁ、こいつを破壊してみやがれ」
 魔理沙は静かに言った。
 ルーミアは自分のデッキに、手をかける。



ルーミア : 手札2 LP2500
魔理沙 : 手札0 裁きの龍 ガロス LP4300
魔理沙の山札 : 残り4枚



「ドロー」
 手札は3枚。如何に裁きの龍が強いとは言え、それはカードに描かれたモンスターに過ぎない。倒せる。強敵を前にして、ルーミアはそう確信していた。
 それに、裁きの龍を倒せなかったとしても、次のターンを耐え凌げば、魔理沙はデッキが尽きる。
(勝つ方法なんて、いくらでもある)
 まだ諦められない。心の中で、そう誓った。
「私はファントム・オブ・カオスを召喚するわ」
「ファントム・オブ・カオスだと!?」


《ファントム・オブ・カオス/Phantom of Chaos》
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0
自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、
選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。


 フィールドに現れる黒い闇。それはただ、闇としか言うほかない。ルーミアの纏うそれと似ている、ただの黒い球体。
 それが、姿を変える。
「ダーク・アームド・ドラゴンを除外し、その効果を発動よ」
 ダーク・アームド・ドラゴンを、黒のペンキで塗りたくったような姿。黒以外の色は使われていない。純粋な黒。以前よりも更に禍々しさを増したそのモンスターが、魔理沙の前に立ちはだかった。
 2枚のカードを墓地から取り除く。ダーク・アームド・ドラゴンと同じ効果を得た、ファントム・オブ・カオスの効果。取り除かれた数だけ相手のカードを破壊する事が出来る。対象は、勿論裁きの龍とガロス。2体のモンスターが、闇に引きずり込まれる。内側から黒い何かに食われてゆくように、その体色は黒に染まっていった。
 やがて完全な黒へと変貌を遂げたとき、それらは塵になって飛散する。魔理沙のディスクからも、2枚のカードが墓地へ移動した。
 だが、ファントム・オブ・カオスは攻撃しても、ダメージを与える事は出来ない。魔理沙のライフポイントは削られはしない。そこで、ルーミアはもう1枚のカードを取り出す。モンスター・ゲート。


《モンスターゲート/Monster Gate》
通常魔法(制限カード)
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。
通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、
そのモンスターを特殊召喚する。
他のめくったカードは全て墓地に送る。


 ファントム・オブ・カオスの扮するダーク・アームドの足元に、魔法陣が出現した。その魔法陣を取り囲むように、光が発生する。光に包まれたファントム・オブ・カオスは、再びその姿を変えた。
 ルーミアのデッキのカードが動き出す。1番上から、魔法カード、罠カード、魔法カード。初めてモンスターカードが現れたのは、4枚目。そしてそのカードの名は――
「出でよ、堕天使ゼラート!」
 堕天使ゼラート。
 悪魔のような翼を持つ、恐ろしい形相の天使が降臨する。相手の場にモンスターが居ない今、効果は意味を成さないが、攻撃力はダーク・アームドと同じ2800。この場を制圧するには、充分すぎる攻撃力だ。


《堕天使ゼラート/Darklord Zerato》
効果モンスター
星8/闇属性/天使族/攻2800/守2300
自分の墓地に闇属性モンスターが4種類以上存在する場合、
このカードは闇属性モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。
手札から闇属性モンスター1体を墓地へ送る事で、
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。
この効果を発動したターンのエンドフェイズ時にこのカードを破壊する。


「堕天使ゼラートで攻撃!」
 持っている剣をその場で振りかぶる。尖ったまま変わらない、非情の瞳が魔理沙を見据えた。掛け声と共に、その大きな剣を魔理沙にぶん投げる。
「うぐっ」
 ライフポイントが減ってゆく。しかし、まだ致死量には至らない。残り1500。次のターンで、全てが決まる。2人はそれを感じていた。
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドよ!」
 だから、ルーミアは手札を全て使い切った。
 伏せカードは、炸裂装甲。攻撃モンスターを破壊する罠カード。これなら、ゼラートを越える攻撃力のモンスターが現れたって、ゼラートを破壊するモンスターが現れたって、安心だ。
 大丈夫、きっと勝てる。ルーミアは自分にそう言い聞かせた。



ルーミア : 手札0 堕天使ゼラート 伏せ1 LP2500
魔理沙 : 手札0 LP1500
魔理沙の山札 : 残り4枚



「ドロー」
 それは、恐ろしく静かな声だった。聞き耳を立て、ルーミアはそれをなんとか聞き取る。
 そして魔理沙は、その口調のまま続けた。
「なぁ、知ってるか。裁きの龍は準制限カードなんだ」
「へぇ、そうだったの」
 ルーミアは平常心を保っていた。大丈夫、ここで裁きの龍なんて、引かれるはずがない。
 準制限カードとは、強すぎる上に使用に規制がかかり、デッキに2枚しか入れられないカードのこと。つまり、裁きの龍は2枚しかデッキに入れることはできない。
 1枚は既に葬られた。――では、残り1枚は。
「そして、私の墓地にはさっき破壊された奴しか落ちてはいない。これがどういう意味か分かるかな」
「デッキに1枚だけ残ってるってことでしょ、だとしても、それを引く確率なんて低すぎるわ」
 ルーミアはそう言った。それは確信と言うよりは、祈りに近い言葉だった。ルーミアは必死で祈っている。裁きの龍を引かれれば、負ける――。そんなとき、魔理沙の嬉しそうな声が聞こえた。
「私の残りのデッキ枚数を見てみな」
 はったりに決まっている。ルーミアはそう思いながらも、指示された通りにディスクを見る。魔理沙の残りデッキ枚数は――3枚。
(3枚、それがなんだっていうのよ)
 一瞬だけ、その意味が分からなかった。だが、すぐにその理由に気付く。まさか、まさかまさか……。ルーミアは叫びながら魔理沙を見上げた。
「4枚の内1枚が、裁きの龍!?」
「25%なんて確率、そう低いとは思えないがな!」
 魔理沙は叫ぶ。そして、フィールドには件のモンスター。

 ――裁きの龍。
「まさか、本当に引いたっていうの!?」
「だから4分の1を引き当てるなんて、そう難しい事じゃないっつーの」
 裁きの龍は咆哮する。再び、フィールドのカードが破壊された。魔理沙のライフは残り500。風前の灯火。
 だから、これで攻撃が出来なければ、魔理沙は負けるだろう。だが、魔理沙は攻撃が通る事を、既に確信していた。
(ルーミアは思ってることが顔に出すぎだぜ)
 或いは伏せカードが召喚に対して発動するカードだったら、魔理沙は躊躇っていたかもしれない。だが、それはない。ルーミアの顔を見ていればそれは分かる。
 だから、魔理沙は笑っていた。勝利を確信した、勝利の女神に愛されたときの笑み。
「攻撃」
 魔理沙が言う。裁きの龍が動いた。







「負けちゃったかー」
 ルーミアは悔しそうに声を出す。さっきとは別人のように、気の抜けた言葉だった。決闘にのめり込んでいるときは、誰もが普段の自分を見失う。普段よりも頭を働かせ、普段よりも格好良く。それがデュエルモンスターズの魔力だった。
「いやぁ、マジで冷や冷やしたぜ。まさかあそこで堕天使ゼラートが来るとはな」
 魔理沙も同じように、気の抜けた口調でルーミアに近づく。足と足の間には箒が挟まっていた。
「ま、負けても取って食われるわけじゃなし、別に負けても良かったんだけどさ」
「それじゃ面白くないでしょ。やっぱり、決闘は勝たなきゃ」
 ルーミアの顔は、驚いた事にひどく穏やかだった。魔理沙もそれを見て、笑顔で答える。
「敗者の台詞じゃないな、それは」
「負けたけど楽しかったよ、有難う」
 ルーミアは手を出した。魔理沙もそれに気付き、手を出して答える。2人は握手をした。そしてルーミアは思い直していた。やはり、決闘は楽しい。決闘は良いものだ。まるで自分が本物の召喚師になったかのように、世界に入り込ませてくれる。
 だけど、
(やっぱり、光だけは苦手だなー)
 ルーミアは、それだけは譲れなかった。










*ビートダウン
モンスターで攻撃する事によって相手を倒す事を目的としたデッキのこと。基本的な大体のデッキがこれに当てはまる。

*ブラフ
使えもしないのにカードを伏せたりして、相手をビビらせること。ブラッフとも。

*禁止・制限リストは2009年9月1日に準拠しております。
*カードテキストは全て遊戯王カードwiki様(http://yugioh-wiki.net/)のものです。
何番煎じかは知りませんが、東方の遊戯王ネタです……。
スペルカードがカードと名のつく限り、遊戯王とは相性が良いと思うんですよね。というわけで作ってみました。
話はこんなに壮大にするつもりはなかったんですが、いつの間にかこんなことに……。
でもまぁ、結構面白い展開には出来たかな、と思います。

正直ラストターン、魔理沙をあまりにも絶望的な状況にしすぎて、裁きの龍使わないと勝てなくなってしまった。元々ライトロードだから、使うつもりはあったんだけどね。



一応解説。作者はそれなりに遊戯王は詳しいので、最近の流行とかは分かるつもりです。
魔理沙のデッキは見て分かるとおりライトロード。但し最初はあまりガチガチな構成にはしていません。比較的緩いデッキ構成です。バリアとか入ってるし。
弾幕はパワー、ということでパワーの有るデッキというのと、一応主人公なので戦ってて映えるデッキ、色々と対応の出来るデッキを考えて選びました。ケルビムとライラの対応力は異常。
あとは光の魔砲→ライトロードとか、色々。安易に陵墓にしなかったのはそういう意図が。
ルーミアはとりあえずダークモンスターぶち込もう、となったのですが、上級モンスターがほいほい出せるわけでもなく、結局三種になりました。理由は言わずもがな。闇を操りますから、闇のデッキですね。
後々ルーミアの話書くことがあったら、ダーク・ホルスとかダーク・クリエイターとか出ると思いますが、再登場あるかなぁ……。

現実に遊戯王をやっている方は、ラストで裁きの龍を使うことが予想できたんでしょうね。故に、多分遊戯王プレイヤーにはあまり面白くない話かもしれません。
恐らく一番面白いと感じられるのは、昔遊戯王を触ったことがあるからルールくらいは分かるけど、最近のカードなんて知らない……、みたいな人だと思います。そういう人に向けて書きました。ルールに関しての説明はしてませんが、カードに関しての説明はしています。
少しでも楽しんでいただけたら幸いですが……、何番煎じだろうなぁ^^;
次回はチルノと霊夢が決闘する訳ですが、少し趣向を凝らして見たいと思います。

因みに、私はオリカが嫌いなのでオリカは永遠に出ません。




えーとコメに返信しますと…、
>>4
すみません、こちらのミスです。阿修羅オネストの件もありますしね・・・。
>>17
数え間違えですか……、すみません、以後気をつけます...
>>20
確かに裏側守備表示はセットですね。
原作で裏側守備表示はほとんどしないので、その辺りの描写が慣れてないんですね・・・、すみません。

>>21
文については精進します、参考にさせていただきますね。そうなると大幅な改訂が必要ですので、次の話書くのは大分難しそうですが・・・。
禁止制限リストに関しては、ただ単に新しいカードも使いたかったから、です。そうなると新しいリストにしないといけませんからね。
まさかお空がヤタロック使うわけにもいきませんし、制限に関しては最新のものを使わせていただきます・・・。
スペルカードシステムの代わりに遊戯王を、というのはただ単なるifネタというのに過ぎないのですが、敢えて言うなら
・種類が多いので各々の特徴を体現できる(例:リグルが昆虫デッキを使う)
・決闘の代わりとして使われてるシステムなので、わざわざ一回のゲームに「決闘」を使う遊戯王カードは適任だった
・スペルカードシステムと同じく、カードを使っている
等です。言ってしまえば「やりたかったから」に尽きるのですが・・・。

ストーリーは考えても良いのですが、原作を下敷きにする方が分かりやすいんじゃと思っただけです。ルーミアの再登場がしにくいなどの問題はありますが・・・。

遊戯王の分からない人には本当に分からない内容だと思いますが・・・、ルールの説明は元々するつもりがなく、分からない人に向けたつもりはありません、すいません。
一応少し触ったことがあり、ルールくらいなら分かるという人には向けて作ったつもりなのですが...

>>27
後で読んで気づいたのですが、すみません。今回は直してますので・・・。



あとがきが長くなるのは避けたいのですが、えっと、言われてるように直しました。
遊戯王小説を色々読んでみましたが、大体はこの書式にしているようですね、読みにくいといわれたので私もそれに従うことにします。
それ故、話の流れがだいぶ変わってしまうので、文章は書き直しました。多分同じような言葉がほとんど見受けられないことと思いますが、デュエル自体は変わりありません。
但し最後の3ターンはデュエル自体を変えています。結果は同じですが、更にドラマティックにしたかったので。
ポーカーでカードを5枚とも変えるレベルの違いになっていますが、すみません・・・。
aciul
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コメント



0.360簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
無理に原作のセリフを引用しなくてもよいのでは?

とりあえず遊戯王を知らない自分には全く意味がわからない話でした。
4.70名前が無い程度の能力削除
遊戯王も東方も好きなのでこれからがたのしみです。
あと、ひとつ気になったところが。オネストの効果はエンドフェイズまで続くのでは?
特にデュエルの結果に影響しないとおもうのですが一応
6.10名前が無い程度の能力削除
超頑張って読んだけど、俺も2の人と同じく。

そして東方と遊戯王が相性がいい……だと? ごめん、そこに関しても理解不能。違和感しかなかった。
7.10名前が無い程度の能力削除
どういうことなの
8.10名前が無い程度の能力削除
プチでの「東方で遊戯王」は終わったはずなのに、遊戯王ネタのSSがあるなーと思って、とりあえず読んでみました。
自分の中で「これは二番煎じ」という認識があるのと、どうしても過去の「東方で遊戯王」と比べてしまう意識があるので、不当な評価になるかもしれません。
正直、ストーリーも何も、最初に説明があったぐらいしかなかったので、本当に「ただ、遊戯王をやってるだけ」に思えます。時系列も描写されていないので、なにがなんだかわかりません。おそらくは東方紅魔郷の一面でしょうけど。
遊戯王は好きなんですが。
9.30名前が無い程度の能力削除
こういうのはちゃんと分かりやすく数値を文章化してほしい。

例えばプチのクラミ痔アさんの「東方で遊戯王」シリーズを見てみるとかいいかもね。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
すいません8の者です。時系列は書いてありましたね。評価は変わりませんが。
12.10名前が無い程度の能力削除
ぶっちゃけわかりづらいの一言に尽きます
デュエルシーンに入って数行読んだだけで見る気が失せました
一話なんだからちゃんと物語全体の土台を組んでから初めてほしかったです
14.10名前が無い程度の能力削除
既にいってる人がいますけどクラミ痔アさんのみたくカード説明を分かりやすくしてほしい。
16.10名前が無い程度の能力削除
遊戯王を知らないと全く面白くありませんでした。つまり東方の二次としてはダメダメと言うことです。

……スペルカードだと人や妖怪の数って減るんだ……ふーん、へー、ほー
17.10名前が無い程度の能力削除
>>9 >>14
細かいですが、クラミ痔あさんですよ。一応。

>「攻撃力は低いけど、墓地の闇属性の数だけ攻撃力を上げるモンスター。墓地の闇属性は4体だから、攻撃力は2300だよ」

玄米で戻した2体と、ディアボ、ダムド、ブレイカーの5体なのでは?
まあ、魔理沙のライフは途中から記載されていないとはいえ、裁きの龍を出した時点で4200あるので影響はないですが。

自分もどうしてもクラミ痔あさんの作品と比べてしまいます。
部分部分で入れているとはいえ、どうしても見難くて、状況把握が大変でした。
19.無評価名前が無い程度の能力削除
最初のほうで挫折して、後書きまで飛ばしました。
他の人と大体同じ感想でした。
あと、二番煎じだと判ってないのはどうかなと思います。
20.20名前が無い程度の能力削除
気になったことが・・・
裏側守備でモンスターをフィールドに出すのは召喚じゃなくてセットっていうんですよっと。
遊戯王知らない人には厳しいかもしれません・・・
21.20名前が無い程度の能力削除
東方キャラが遊戯王カードで戦う。これが幻想郷内での一時的な流行りなら別にいいんですよ。
でもこれがスペカシステムの代わりに採用されたとなると、それなりに理由付けが必要になると思いませんか?
妖力、霊力の類いを一切使わないカードバトルで妖怪たちの力の弱体化が防げるのか?とかね。
その点がおざなりなので、「紅魔郷if遊戯王カードver」じゃなくて
「僕の考えたかっこいいカードバトルを東方キャラにさせてみた。ストーリー考えるのめんどくさいから紅魔郷を下敷きに」
という印象が強くなってしまってるのが残念。

カードバトルものとして見ると、このターンで互いの手札枚数や場に出てるカード、
LPなどの情報が一目でわからないのでバトルの流れがつかみにくいのと、
情景、心情描写の地の文とカード説明の部分が連続しているので話の流れがいちいち中断されてテンポが悪いのでとっつきにくいです。
そういった部分を地の文と分けて書くとすっきりして読みやすくなると思いますよ。

最後にこれは蛇足かもしれませんが
>※禁止・制限は2009/09/01の制限リストに準拠してあります。多分。
幻想入りしているのだから廃れた構成や禁止カード使うほうがそれらしいと思います。
27.20名前が無い程度の能力削除
まだ言われてないようなので、1つ誤文というか訂正したほうがいいところを報告。
グラゴニスの効果は、自分の墓地に存在する「ライトロード」と名のついたモンスターカードの種類×300ポイントアップです。なので、「なんと墓地のライトロードと名のつくモンスターの数だけ300上がるんだ」ってのは読む人に誤解を与えるかと。

感想ですが、上でも言われているとおり・・・、遊戯王を知らない人には、ちょっと垣根が高くなってると思います。次の話では、上でも言われてるところを取り入れて、もっとわかりやすくなってることを期待しますっ!!
28.無評価名前が無い程度の能力削除
残り四枚中一枚裁きの龍て・・・
よく墓地におちなかったな・・・
29.無評価名前が無い程度の能力削除
遊戯王を知らない人には訳が分からず、
知ってる人にはツッコミどころ満載という状態になってしまっていると思います。
投稿前に読んでみて違和感を感じたら推敲すべきかと
36.無評価名前が無い程度の能力削除
二次創作に毒されてるせいか魔理沙だけは違和感が無かったが……なんだかな。

まぁ大妖怪の手加減無用な弾幕モロに食らったら人間や弱い妖怪の数減るんじゃないかな。
遊戯王なら大丈夫だろう多分。