Coolier - 新生・東方創想話

咲夜は魔理沙の姿に何を見るのか?

2013/07/12 14:42:21
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 お嬢様が引き起こした紅霧異変が解決されて以来、図書館でネズミを見かけることが多い。
 今日も白黒の服に身を包み、彼女の身長ほどもある大きな箒を片手に堂々と図書館を闊歩する後姿が見えた。

 『あら、また来てたのね。』
 『え、咲夜か!?』

 声をかけると彼女は慌てて振り返る。慌てた様子の魔理沙、恐らく私がパチュリー様に突き出すと思ったのだろう。
 先ほどまでの堂々とした姿はどうしたというのか、大胆小心とは正にこのことである。

 『別にそんな警戒しなくてもパチュリー様は、いま外出中よ?それに、今の私は休憩中だからあなたを捕まえるなんて面倒なことをする気はないわ。』

 そんな私の言葉に半信半疑の様子で私の言葉の真意を窺う魔理沙に対し私は続ける。

 『私は公私はちゃんと分けるタイプなのよ?』
 『なんというか、意外だな・・・。お前はなんというか、ワーカーホリックなんだと思ってたんだが。』

 完全に納得した訳では無い様子だが、警戒は解いてくれたらしい。我ながら不真面目なメイドだと思うが、いつでも瀟洒なメイドを演じていては疲れてしまう。適度に手を抜くのは大切なことなのだ。
 それにしても、こんな子がお嬢様を倒して巫女と供に紅霧異変を解決したなんて嘘のようである。異変の際には、彼女は小柄な体躯で箒に跨り私達の弾幕を華麗に避けてみせた。その姿はとても幻想的で私は思わず魅せられてしまったのだった。

 『そうそう、今日はお嬢様もお一人で神社に出かけているの。お陰で私は暇だし、お茶でもしていかないかしら?』

 これまでに何度も魔理沙を図書館で見かけることはあったが、お茶に誘うのは初めてのことだった。特に意図があった訳ではない。ただ、なんとなく、もう少し魔理沙とお喋りをしてみたいと思ったのだ。

 『おいおい、ちゃんと人間用のお茶なんだろうな?』

 冗談めかしながら言うが、笑顔が引きつっている。

 『当然よ、私だって人間よ?普通のお茶じゃなきゃ私も困るわ。』
 『じゃあ、少しだけご馳走になるかな。おいしいお茶菓子も期待してるぜ?』

 納得したのか、お菓子の注文までしてくる魔理沙、なかなか図々しい奴である。まぁ、自分からお茶に誘ったからには勿論ちゃんとお菓子も用意している、瀟洒なメイドの名は伊達ではないのだ。



 魔理沙を応接間に案内してお茶会が始まる。お茶の準備は時間を止めてから行ったので相手を待たせたりはしない。

 『時間を止められるっているのは、随分と便利な能力だよなぁ。』
 『いつも使ってるから私自身はあまりそう思わないけど、確かにそうかもね。』

 そんな他愛のない話をする私達だったが、ふと魔理沙が考え込むような表情を見せる。
 そして、意を決したように口を開く。

 『そういえばさ、この館で人間はお前一人なんだよな?』
 『そうだけど、それがどうかしたの?』
 『ずっとそう、なのか?』
 『そうね、それがどうしたの?』
 『その、人間がこの屋敷に一人だけっていうのは寂しくないのかな、とか思ってさ・・・。』

 なるほど、確かに他の人から見ればそう思われてしまうのかもしれない。しかし、私の答えは決まりきっていた。

 『全く寂しくなんて無いわね。確かに、この屋敷に人間は私一人だけだけど、家族がいるわ。
  吸血鬼であっても、種族魔法使いであっても、妖怪であっても皆が家族であることに違いはないのよ?』
 『家族、か・・・。』

 魔理沙は寂しげにそう呟くとしばらく黙りこくってしまった。気まずい時間が応接間に流れる。
 3分ほどの時間が経っただろうか、魔理沙は立ち上がって取り繕ったような笑顔で

 『気まずくしちゃって悪かったな、今日は帰るよ。』

 そう言って、私が返事をする暇もなく帰ってしまった。私の能力を使えば引き止めるのは簡単ではあるが、
後ろを向くときに見えた魔理沙の寂しげな表情を見ると踏み入ってはいけないような気がしてしまったのだ。



 2人きりのお茶会が行われてから1週間が経った。それ以来、魔理沙は紅魔館に一度も現れていない。
 これまで魔理沙が来るか否かについて気にしたことも無かったが、いざ1週間も姿を見ないとなるとどうにも気になってしまう。やはり、あの会話が原因なのだろうか。あの時、能力を使ってでも彼女を引き止めるべきだったのかもしれない。しかし、今更そんなことを考えても仕方が無い。私の能力は時を止めることは出来ても、巻き戻すことはできないのだから。
 なんというか、このままでは収まりが悪いというか、気になって仕事に身が入らない。
 幸いなことに明日は暇を貰っているので、自分から会いに行ってみようか。そういえば彼女がどの辺りに住んでいるのかも知らないのだった。
 まぁそれは巫女に聞けば分かるだろう。



 次の日、私は朝から神社を訪れた。

 『なるほど、そういうことだったのね。』

 事情を話して魔理沙の家を教えてもらおうとしたところ、霊夢は何やら得心がいったような様子でそう言った。

 『それはどういうことかしら?』
 『魔理沙のやつ、最近は神社に来ても一人で考え事してることが多かったのよ。どうしたのかと思っていたのだけど、
  どうしてなのかやっと分かったわ。』

 どうやら神社には姿を現していたらしいが、やはりいつもの魔理沙とは様子が違ったらしい。

 『その理由というのは何なのか私にも教えてくれないかしら。』
 『うーん、これはあいつの個人的なことだから私が話していいのか分からないわ。』

 なんともいつもの霊夢らしくない歯切れの悪い言葉である。しかし、私としても簡単に引き下がるわけにはいかない。

 『それでもどうか教えてもらえないかしら。私が原因ならきちんとと謝りたいのよ。』

 霊夢はしばらく考え込む様子を見せるが、『はぁ・・・。』と溜め息をついて

 『分かったわよ、教えてあげる。それにしても、どういう風の吹き回しなのかしらね。
  あんたって、あんまり他人に興味があるようには見えないのだけど。』 

 確かに自分でも珍しいことだとは思う。しかし、気になるのだから仕方ない。
それに、このまま魔理沙に会えなくなるのではないかと思うと、なんだか居ても立ってもいられない気分なのだ。

 『まぁ別にいいのだけど。でも一応言っておくわ。私がこのことを教えたとしても問題が解決するとは思えないわよ?』

 そして私は霊夢から、魔理沙が何年も前に実家から勘当されていて魔法の森で一人暮らしをしていることを聞き、どうして魔理沙があのような反応をしたのかを理解することができた。確かに霊夢が言った通り、この問題は私がこのことを知ったからといって解決できるものではない。私は、どうしたら良いのだろうか・・・。



 霊夢の話によると、霊夢自身も詳しいことを知っているわけではないらしい。ただ、魔理沙が魔法の森で一人暮らしをしているというのは確かなようだ。そんな訳で魔理沙の家までの簡単な地図を描いてもらい魔法の森に向かったのだが、魔法の森というのは想像していた以上に過酷な環境である。本当に魔理沙はこのようなところで一人で住んでいるのだろうか?そう考えてしまうほどだった。

 何はともあれ、霊夢に描いてもらった地図のお陰か無事に魔理沙の家と思われる建物にたどり着くことが出来た。ちなみに、霊夢の地図はかなり適当で、我ながらこれでよく辿り着けたものだと思う。
 魔理沙の家と思われる建物の壁には植物が繁茂しており、傍には『なんかします 霧雨魔法店』という立て札が倒れている。魔理沙がお店を開いているなんて聞いたことも無かったが、この様子からして実質ほとんど営業していないのだろう。
 おっと、今回の目的は魔理沙の家を見に来たのではない、魔理沙自身に会いに来たのだ。
 とりあえず、扉をノックして呼びかけてみる。

 『魔理沙ぁ~、いるかしらー?』

 すると、何かが崩れ落ちるような音がしたが返事は返ってこない。やはり避けられているのだろうか・・・?
 しかし、このまま帰るわけにもいかない。どこからか中に入れないだろうか。
 時間を止めて、建物の周りを回りつつ中に入れそうな場所を探すとお風呂場の窓が開いているのを見つけた。
 正直、罪悪感のようなものがあったが時間を止めたままそこから中に入る。中は物が溢れ返っていて、ひと一人がやっと歩けるだけのスペースしかない。この惨状を見るとメイドとして片付けたい衝動に駆られるが目的は失わない。
 
 色々な部屋を見て回ったがどこにも魔理沙は居らず、残る部屋は寝室と思われる部屋だけになった。
 我ながら随分と小心者だと思う。あえて魔理沙が居る可能性が一番高いところを最後まで避けて探していたのだから。
 時間の流れを元に戻し、部屋に入る前にノックをするがやはり返事は無い。

 『入るわよ?』

 念のためそう声をかけて扉を開ける。
 部屋に入ってすぐにベッドの上で膝を抱えて座る魔理沙が目に入った。
 一瞬、お互いの視線がぶつかるが魔理沙はすぐに目を逸らしてしまう。

 『久しぶりね、魔理沙。』
 『どうして、来たんだよ・・・。』
 『それは、その・・・。』

 しばらくの間、お互いに黙り込んでしまう。実際には、1分にも満たない時間だとは思うが私には10分にも20分にも
感じられた。覚悟を決めて話を切り出そうとした瞬間、魔理沙が口を開いた。

 『咲夜、その・・・ごめん。』
 『・・・え?』

 なぜ、魔理沙が私に謝るのか?謝るべきなのは私なのに。混乱する私を他所に彼女は続ける。

 『ひょっとしたら既に霊夢に聞いたかもしれないけど。私がこうして一人暮らしをしているのは、親に勘当されたからなんだ。もちろん、家を飛び出したのは自分で決めたことだし後悔はしてないはずだ。なのにこの前、お前が紅魔館の連中のことを家族だって話してたろ?あれが、すごく、羨ましく思えちゃってさ・・・。自分で選んだ道なのに、それなのにお前に対して嫉妬してしまう、そんな自分がどうしようもなく、不甲斐なく・・・て・・・・。』

 自分の罪を懺悔するような、そんな台詞を言い切ると魔理沙はそのまま顔を膝に埋めて泣き出してしまった。
 そんな魔理沙の姿に私は驚きを隠せなかった。しかしそれ以上に、この子をなんとかしてあげたいと思った。
 他人に対して淡白だとか無関心だとか言われる私がである。一度とはいえ一緒にお茶をした仲だ、放っておく訳には行かない。
 そう自分に言い聞かせ、魔理沙の隣に座ってそのまま彼女を抱きしめた。

 『っ!!!』

 魔理沙はとても驚いた様子だったが、構わず私は話しかける。

 『ねぇ、魔理沙。あなたは寂しかったのよね?そんなあなたが他の人に対して羨ましく思ったり、嫉妬したりするのは
とても自然なことだと思うわ。自分を責めることなんてないのよ?』

 特に考えての発言ではない。ただなんとなく、しかし心からそう思ったのだ。

 『それでも、自分が許せないのなら私のところに来なさい。私の時間が許す限り一緒に居てあげる。
そうすれば寂しくないでしょう?それに、そうすれば私にも初めての友達ができることになるわ。いい考えだと思わない?』
 『・・・うん。』

 魔理沙は一言だけ返事をしてそのまま泣き続け、私に抱きついたまま眠ってしまった。
 その表情はこれまでに見たことのないあどけない表情だった。
 そのまま自分も横になり彼女の寝顔を見つめているとどうして私が彼女に興味を持ったのかが分かった。彼女は、昔の自分にとてもよく似ているのだ、お嬢様に拾われる前の私に。もちろん容姿の話ではない。他人に頼ることを知らず、自分の力だけで全てを乗り越えようとして一人でもがき苦しんでいる。そんな姿を私は他人事とは思えなかったのだろう。

 『これじゃ友達というよりまるで姉妹ね。』

 そう呟き、クスリと笑う。まだ日は高いが、この昼寝から彼女が目覚めたらきっと夜になっているだろうから今夜は私が晩御飯を作ってあげよう。あぁ、でも先にお掃除をしないと。そんなことを考えつつ、私も魔理沙を抱きしめなおして目を閉じた。


おわり
お読みいただきありがとうございます。
これまでに一度も小説らしきものを書いたことの無い私が書いた正真正銘の初めての作品でしたがいかかでしたでしょうか?
テーマや内容は完全に私の趣味と妄想の産物ですが、少しでも楽しんでくれた方が居れば幸いです。
YANAGI
[email protected]
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コメント



0.860簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
咲マリは姉妹関係が1番似合いますね!
5.80奇声を発する程度の能力削除
とても良い咲マリでした
6.90名前が無い程度の能力削除
これは良い咲マリ、ありがとうございます
8.100絶望を司る程度の能力削除
初でこれってすげぇ・・・次回作も楽しみに待ってます。
11.80非現実世界に棲む者削除
中々のシリアス話で良い咲マリだとは思ったんですが、魔理沙ってそんなに脆かったかなあ?
むしろ歯牙にもかけず、笑い飛ばすといった感じなんですが、まあ作者さんがそうなのならそうなのでしょう。
そういうことにしておきます(嫌味ではないです)。
12.無評価YANAGI削除
みなさんコメントありがとうございます!

>11
そういった指摘はあるだろうなぁっと思っていました。
私の中では、魔理沙は普段は周りには弱さを見せないけれど実は繊細で一人で思い悩みがちなんじゃないかなぁという考えがあったためこういった展開になりました。
完全に私の妄想ですね!w
20.603削除
なんというか、文章に慣れていない感が。と思ったらやはり初作品ですか。
例えば、
>いつでも瀟洒なメイドを演じていては疲れてしまう。適度に手を抜くのは大切なことなのだ。
と言っておきながら、同じ「仕事をしていない時間」の間に
>瀟洒なメイドの名は伊達ではないのだ。
と来るのはおかしいとか。
咲マリはなかなか貴重なのでそれを読めたのは良かったです。
21.無評価YANAGI削除
>20
確かにその通りですね・・・。
推敲が足りなかったかもしれません。次の作品も書いている最中なので次からは気をつけます。
25.90名前が無い程度の能力削除
なかなかいい咲マリだと思います。咲マリこそ正義!