Coolier - 新生・東方創想話

朧月の夜に

2017/05/28 02:59:31
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一昨日の夕刻から降り出した雨は花びらを根こそぎもぎ取っていくような勢いで、今まさに満開になろうかとしていた幻想郷中の桜へと叩きつけられたが、博麗神社の周辺だけは常日頃から霊夢が張っている結界のおかげで、まるで雪でも積もっているかのように真っ白く染まっていた。
「あーあ。これじゃあお掃除なんか意味ないわね。」
と数少ない日課を桜に取られた霊夢が縁側でお茶を啜っていると、
「おーいっ、霊夢ーぅ!」と叫びながら桜の花びらを巻き上げ、雪崩と化した物体が鳥居をくぐって突っ込んできたかと思うと、霊夢の目の前で止まった。霧雨魔理沙。魔法使いである。
「よぉ霊夢。今日も魔理沙様がお茶を飲みに来てやったぞ。」ニカッ、と笑う魔理沙に霊夢はあきれ顔で、「まったく、朝っぱらから元気いいわね。じゃあ、境内の掃除でもしてもらおうかしら?」と返す。
「この綺麗な桜吹雪の中、私にだけ掃除させて自分は悠々とお茶を飲むなんて、あんまりなんだぜ…?」とちょっと拗ねた様子の魔理沙。「ハイハイ、分かってるって。じょーだんよ冗談。」と、霊夢はひとまず魔理沙を縁側に上げた。
「あれ、そういえばお茶請けはないのか?」「そう言うと思って。今日は桜餅よ。」二人して縁側に腰かけて、丁度朝日が昇り、濃紺から曙色へと変わり始めた空に舞い散る桜を見ながら、お茶を啜る。
「ぷはーっ。やっぱりお茶を飲むのは博麗神社に限るぜ。桜は綺麗だし、何より霊夢もいるしな。そ-言えば霊夢、随分と早起きだが、どうかしたのか?」何でもないかのようにサラッと恥ずかしい言葉を並べる魔理沙に、一瞬ドキッとしながらも霊夢が「み、巫女の朝は早いのよ。それよりあんたこそ、こんな朝早くに来るなんて、なんか用事でもあるんでしょ?」と答えると、「おっと、忘れるところだったぜ。」そういうと魔理沙は胡坐を掻いて、霊夢に向き直った。

「実は今夜の宴会で、博麗神社を使わせて欲しいんだぜ。私幹事やらされちゃってさー。知っての通り、昨日の雨で桜はほどんど落ちちゃって、唯一無傷なのが此処くらいなんだよな。」「別にいいけど。たいへんなのよねー、宴会となると。あいつら騒ぐだけ騒いで、片付けもせずに帰るじゃない。で、いっつも私が片付ける事になってさぁ。」「まあいいじゃないか。今日は私も手伝うからさ。それに、こんなに綺麗な桜を一人占めなんて、罪なんだぜ?」
どうせ今日も全部私がやることになるんだろうな……と思ってため息をつき、霊夢が渋々立ち上がると、「どこ行くんだ?」との声が。「バカね、決まってるじゃない。今から準備始めないと間に合わないわよ?」「えぇーっ。もうちょっと休憩してようぜ?」「あんたはまだ何もしてないでしょうが。それに『手伝う』って言ってたのはどこの魔法使いさんだったかしら?」と霊夢が満面の笑みを浮かべて魔理沙に詰め寄ると、「わかったから、そのお祓い棒を下してくれ……」あら。ついいつもの癖が。

そんでこんなで二人して準備を進めていると、あっという間に日も落ちて、のん兵衛共と妖怪共…いや、どっちも兼ねている奴がほとんどか…がやって来た。
「相変わらず此処だけは見事な桜ね。ねぇ、咲夜?」「仰る通りです、お嬢様。」「おい天狗ぅ、私の酒が飲めないわけないよなぁ?」「もう酔ってる…じゃなくて、その手を離してくださいよ萃香さ~ん、羽擦れてますってばぁ……」「あたいってば最強だから、一升瓶くらいよゆーでのみほs……」バタン。「チルノちゃん大丈夫!?だから一気飲みはやめようってぇ……」普段人が来ない神社はあっという間に賑やかな、駄目な人妖の見本市と化してしまった。
みんなが思い思いの場所に座り、霊夢と魔理沙が作ったり咲夜が時を止めて作ったりした肴をつまみ、各々持ってきた酒瓶交換して飲んでは、またとっかえひっかえしている中、霊夢は一人縁側に腰かけて杯を傾けていた。
そこへ「よっ、じゃまするぜ。」と瓶子と一升瓶とを抱えた魔理沙がやって来て、霊夢の横に腰かけた。
「霊夢もこんなとこで辛気臭い顔して一人で飲んでないで、向こうでみんなに混ざって飲んだらどうだ?レミリアとか萃香とかお前のこと探してたぜ?」「なんか今日は疲れちゃって、生憎そんな気分じゃないのよねぇ…レミリアと飲むと気が付けば本人だけでなく、咲夜とかパチュリーとかにも絡まれるし、萃香はこっちが泥酔するまで飲ませてくるし。悪いけど魔理沙、ちょっと付き合ってくれない?」「モチロンだぜ。そのためにお前のとこ来たんだしな。」「じゃあ魔理沙、私達の夜に…」「「乾杯!」」二人とも酒で舌が回りやすくなっているためか、話は弾み、杯も重なり、夜は次第に更けていく。宴会に来ていた妖怪どもは酔いつぶれて寝てしまったのか、博麗神社はだいぶその本来の静けさを取り戻していた。

「魔理沙ぁ、もうお酒ないのぉ?」「そう言うと思って、とっときのがあるんだぜ。」「やったぁ。さっすが魔理沙、意外に気が利くじゃないの。」「味わって飲んでくれよな?」そう言うと魔理沙は霊夢の杯と自分のそれに並々と注ぎ、一気に飲み干して「桜吹雪の舞う中、霊夢と一緒にお酒が飲める。これ以上の贅沢はないぜ……?」そう言って向日葵のように明るく笑った。

ちょっとしたことで拗ねたり、かと思うと直ぐに忘れていたり。気分屋でいっつも私のこと振り回したり、誰よりも努力家で私に何としてでも勝とうとしたり。何より、とびっきりの笑顔を私に見せてくれて。
やっぱり、魔理沙といると私…退屈しないなぁ。いつの間にか私、こいつに振り回されるのも楽しんでたんだなぁ……

「ねえ、魔理沙。」「何だぜ、霊夢。どうしたんだよ、改まっちゃって。もしかして愛の告白でもする気か?」と笑いながら答える魔理沙に霊夢は「…月が、綺麗ね。」と、呟いた。「ああ、そうだな。朧月というのも、オツなもんだぜ。…って、それだけかよ!なんか姿勢正して言うから、大事なことかと思ってびっくりしたじゃないか。」といささか大げさに驚く魔理沙。「クスッ。」「な、なんだよ霊夢。私なんかおかしいこと言ったか?」「…いや、別に?やっぱり魔理沙は魔理沙だなーって。」とどこかすっきりしたような様子で笑う霊夢に首を傾げる。「よーし、今日は朝まで飲むわよ?魔理沙!」「うおっ、霊夢が急に元気になった!?……よくわからんが、勿論私もとことん付き合うぜ!」
すっかり静まり返った博麗神社の境内に、巫女と魔法使いの笑い声が響き渡る。二人だけの夜は、まだ始まったばかりだ。

なお、伊吹萃香に酔いつぶされていた射命丸文によって翌朝撮影された、魔理沙が霊夢の肩に頭を預けて手を握り合い、二人仲良く気持ちよさそうに寝ている姿がその日の新聞に載ったとか載らなかったとか。
お読みいただきありがとうございました。
醒ヶ井
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コメント



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1.60名前が無い程度の能力削除
よかったけど ちょっとセリフが説明口調っぽいのが気になりました