Coolier - 新生・東方創想話

胡蝶之夢

2015/07/25 13:40:20
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______魔理沙______
ある日、霊夢が突然神社から姿を消した。
幻想郷が騒然とする中、その僅か数日後に霊夢は何事もなかったかのように戻ってきた。
しかし、霊夢には一つ、以前と違う点があった。

体が不自由になっていたのだ。



____________
蝉の鳴き声が聞こえる。どことなく気忙しそうな、甲高い鳴き声。
顔に日差しが当たっているようだ。眩しくはない、柔らかな光。
朝......か......。
軽く深呼吸すると、夏の朝の爽やかな空気が、頭に満ちていく。
私はぼんやりと目を開け、天井を見つめた。
この時間帯はまだ涼しいからいいが、すぐに蒸し暑くなってくる。早く起きないと。
......いや
起こしてもらわないと
天井を見上げながら、もう一度息を吸う。
蜘蛛の巣が、風とともに揺れていた。



「おーい、霊夢。起きてるかー?」
聞き慣れた声がして、私は目を開いた。
蜘蛛の巣は変わらずに揺れ続けている。しかし、吹いてくる風は、すでにじっとりとした息苦しさを含んだものに変わっていた。どうやら、二度寝してしまったらしい。
「 起きてるかー?」
繰り返すその声に、私は大声で応える。
「起きてるわよ。早く起き上がらせてくれない? 魔理沙」
「はいはい」
そう即答しつつも、何やらゴソゴソしているばかりでなかなか来てくれない。
私は痺れを切らし、首を捻って縁側の様子を眺めた。
「よっこいしょっと」
ちょうど魔理沙が、大げさな掛け声とともに縁側を越えてくるところだった。
「いやあ、すまんな。遅れた」
そう言いながら枕元に立ち、肩に手をかける。
そして、一気に私の身体を引き起こした。
「痛たたた......。もう少し丁寧に起こしなさいよ」
顔をしかめて文句を言うと、魔理沙はニヤッと笑った。
「そうか。こうすると痛いのか」
嫌な奴だ、と私はもう一度顔をしかめた。
「それより、いくら何でも遅すぎない? もう朝というより昼間よ」
そう言うと、魔理沙は恥ずかしくなって、顔を赤らめながら言った。
「すまん、なんか最近寝起きが悪くてな」
「こんな時刻まで寝てたの?」
自分のことを棚に上げて、呆れてみせる。
「なんか、最近寝坊増えてない?」
「うーん」
魔理沙は返す言葉が見つからずに、口ごもる。
「ま、まあ、次から気を付けるぜ。そ れより霊夢、今日は永遠亭に行く日だぞ」
「あ、そう」
とっさに、何気ない風を装って返事したが、抑えきれず不自然に声が弾んだ。
身体が不自由になってから、外出できる機会はぐっと減った。どんな用事だろうと、外の空気を吸えるのはそれだけでも嬉しかった。魔理沙も霊夢のそんな気持ちを察し、薄っすらと微笑む。
「ほら、立つぞ」
魔理沙が私の肩に手を回した。そしてそのまま、勢いをつけて立ち上がる。
「おっとっと」
私の全体重が預けられて、魔理沙は少しふらついた。私も必死に脚を動かしてバランスを取ろうとする。
しばらく二人で悪戦苦闘した後、なんとか真っ直ぐ立ち上がると、魔理沙は鋭く口笛を吹いた。
その直後、開け放たれた障子の外から、箒が猛スピードで部屋の中に飛び込んできた。
以前なら散々文句を言ってるだろうが、さすがに今は黙認している。何しろこの身体では、歩くことすら難しいのだ。
目の前でぴたりと止まった箒に、ゆっくり腰を下ろす。
私がしっかり座ったことを確認すると、魔理沙は明るく声を張り上げた。
「じゃあ、いくぜ‼︎」



突き抜けたような快晴だ。雲一つない、塗りつぶされたかのような空。青と緑が、世界を二分割していた。
天と地に挟まれながら、箒は一直線に飛ぶ。
じっとりとした暑さも、髪をなびかせる微風によって中和され、あとには清々しい真夏の昼が残る。
私は周りの風景を忙しなく眺めた。こういう風景を見るのも久しぶりだ。前見た時よりも、一段と緑が濃くなっているだろうか。
ゆっくり飛んでくれる魔理沙に感謝しながら、私は幻想郷の夏を満喫する。
「魔理沙」
不意に、真下から呼ぶ声がした。見ると、アリスが、生い茂った木々の合間から、にこやかな笑顔を向けていた。
「こんな暑い日に、どこ行くの?」
「おう、アリス。今から霊夢を永遠亭に連れて行くんだぜ」
と、魔理沙が言ったその瞬間。
アリスの顔が、一瞬にして凍り付いた。
「あ......そうなの? ......そうなのね......」
うつむいて、どこか悲しそうに呟くと、一つ深呼吸して顔を上げた。
「ねぇ、魔理沙。あの......あなたの......その......れ、霊夢と......」
威勢良く話し出したものの、話していくにつれて、言葉が勢いを失っていく。最後には、顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「ん? 何だ? 霊夢がどうかしたか?」
魔理沙は私の方を振り返った。私は何のことか全く分からず、きょとんとするばかりだ。
アリスは大きく肩を落とすと、
「......何でもない」
そう言って、木々の下へ身を隠してしまった。
私はようやく合点がいって、魔理沙の背中をつっついた。
「いやぁ、若いねえ、お二人とも」
「う、うるさいぞ」
魔理沙の耳が赤く染まった。



______アリス______
アリスは家の扉を閉めると、すぐそばにあった椅子にぐったりと座り込んだ。今は、いつものように人形をいじる気も起きない。頭の中では、ついさっき見た光景がぐるぐると渦巻いていた。
......魔理沙が箒に乗って、ゆったりと飛んでいる。そして背後に向かって話しかける......
『今から霊夢を永遠亭に連れて行くんだぜ』
アリスはふらふらと立ち上がると、壁にもたれかからせていた人形を抱きしめた。
魔理沙の、等身サイズの人形。いつだったか、ふと思い立ってコツコツ作り上げた、大切な二部作の一つ。
それでも、アリスの心は晴れなかった。
魔理沙と、その後ろにのっている霊夢......
もう嫌だ。こんな光景、見たくない。
後悔と悲しさが、ひたひたと胸を満たしていく。
「魔理沙......」
アリスの心の中で、何かがしっかりと固まりつつあった。
そうだ、迷ってる場合じゃない。はっきり言わないと。私が、自分の口で。
アリスは一人、大きく頷くと、魔理沙人形の腕を、強く握りしめた。



______永遠亭______
八意永琳は腕を深々と組むと、目を閉じ、じっと何かを考え込み始めた。
私と魔理沙は丸椅子にちょこんと腰掛け、息を詰めてその様子を見守る。診断といっても大したことはない。身体の様子を魔理沙が話したら、、後はこうやって、永琳がひたすら考えるだけだ。
しかし、今回の永琳はかなり長考していた。
全員が黙ったせいで、シミ一つない白い壁と、うるさいほどの沈黙が一斉に圧迫してくる。
やがて魔理沙は我慢ができなくなって、恐る恐る口を開いた。
「で、どうなんだ? 何か、前回と変わったことなんかあるのか?」
永琳はその言葉に、ぱっと目を見開いた。
「前も言った通り、治療法が存在しない病気なのよ。いずれ元に戻ると思うから、まずは焦らず待つことね」
それだけ一息に言うと、また目を閉じた。その姿からは、もう何も言わないという、固い決意が感じられた。
今の言葉にまだ不満が残る魔理沙は、未練がましく永琳を見つめていたが、やがて諦め、やれやれと首を振った。
「霊夢、行こうぜ」
そう言って、手を差し伸べてくる。
私はふらふらと立ち上がりながら、永琳の顔を眺めてみた。
眉に皺を寄せて、何かを考え込んでいるのだろうか、今まで見たことないような厳しい表情だった。
魔理沙にもたれかかるようにして部屋を出て行く。その時、突然後ろから呼び止められた。
「魔理沙」
「ああ?」
魔理沙は振り向かずに返事する。
わずかな沈黙。
「......お大事に」
それだけだった。



______永琳______
魔理沙が部屋を出て行った後、永琳は腕組みを解くと、重々しくため息をつく。
「本当のことを教えてあげないの?」
いつの間にか隣に、蓬莱山輝夜が立っている。
「もう、いいかげん真実を示さないと。このまま、傷をつけ続けるつもり? 本人にも、周りの人々にも」
「分かっています」
こめかみを抑えながら、永琳は再び顔を歪める。
「けど、本人が自ら、元に戻ろうと、現実を直視しようとしなければ意味がない。『焦らず待つこと』しか、我々にはできない」
「それは......そういうことなの?」
輝夜の大雑把な問いに、永琳はしっかりと返事をする。
「ええ」
そう頷くと、ぼんやりと天井を見上げる。その目は、どこか遠く、箒が飛んでいるであろう空の彼方を眺めているようだった。



______紅魔館______
「あら、いらっしゃい魔理沙」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットは、大理石のテーブルの向こうで、驚いたかのように目を見開いた。
「箒に乗ったまま、一体何の用かしら。 ......後ろにのってるのは...... ああ」
そこでレミリアは、納得したように一つ頷くと、口調を和らげた。
「霊夢を連れてきてくれたのね」
「ああ、外出するのは久しぶりだったからな。連れてきたんだ」
魔理沙はそう言うと、慣れた手つきで私を箒から降ろした。
「このソファー借りるぜ」
そう言って、やけに大きいソファーに私を座らせる。
「霊夢と会うのも久しぶりね。まあ、ゆっくりしていってちょうだい」
レミリアは慣れた手つきで紅茶をカップに注ぎ、こちらへ押しやった。
「こんなのしかないけど、どうぞ」
「おお、ありがとう」
魔理沙はカップを両手で包んで、すぐに口を尖らせた。
「何で夏にホットティーなんだよ。飲めないじゃないか」
そう、軽く茶化してみる。
ところが、レミリアはなぜかしょげかえった様子で項垂れてしまった。
「あら......ごめんなさい。気を付けるわ」
今までの元気はどうしたのか、すっかり意気消沈している。
魔理沙は慌てて取り繕った。
「まあ、でも、香りが良く立っていいじゃないか。なあ霊夢」
私も優しく微笑んで頷く。
するとレミリアはぱっと顔を上げ、急に生き生きと話し出した。
「霊夢は満足した?なら良かったわ。で、霊夢の様子はどう?元気にしてる?」
魔理沙がさらりと答える。
「おう、特に変わりないぜ。元気っていうのも変だけどな」
「体はどうなの?まだ動かないって?」
「ああ。永琳にも治せないらしい」
魔理沙が苦々しく言うと、レミリアは思案顔で問いかけてきた。
「霊夢の体が動かなくなったのって、何日くらい前かしら?」
「えーっと、一ヶ月ほど前だな。その五日ほど前に、姿を消したんだ」
「霊夢はその五日間、一体何をやっていたのかしら」
そう言うとレミリアは私の目を真っ直ぐ見つめた。私が戸惑って口ごもっていると、魔理沙がそっと割り込んでくる。
「どうしても教えてくれないんだ。霊夢は話したくないみたいだし......」
「あら、そう」
がっかりしたように呟くと、レミリアはじっと何かを考え込みはじめた。
しばらく、気まずい沈黙が三人の前に覆い被さる。魔理沙は居心地が悪くなり、控えめに咳払いをした。やけに広く高い部屋に、その音は、深々と響き続けた。
不意にレミリアが声をあげた。
「そうだ、魔理沙。パチェに会ってきたら?図書館にいるわよ」
魔理沙は少しだけ悩んだが、すぐに首を横に振った。
「今日はいいや。この後昼飯を食べないといけないから」
「そう、残念ね」
さして残念でもなさそうにレミリアは言う。そして、再び私を見つめてきた。
「じゃあ、霊夢、またね。体が治ったら、好きなだけ遊びにきてね」
暖かく言葉をかけられ、私は少し口ごもりながら答える。
(え、ええ、また)
その声は響くことなく、周りの空気に押し潰されて消えていった。



______レミリア・スカーレット______
大図書館は今日もジメジメとした息苦しさに包まれていた。無数のランプの光と隙間無く積まれた本棚が、いっそう、尽きることがないような妖しさを醸し出している。
そんな中に一つ、ぽっかりと大きく開いた空間があった。この大図書館の主が、そこに住んでいるのだ。人外境の奥地にあるテーブルは、今日もその傷だらけの天板を飴色に光らせながら、二人の妖怪を向かい合わせていた。
「魔理沙、来てたわよ」
レミリアはおもむろにそう言うと、巨大な影を小刻みに揺らした。
「そう」
対するパチュリー・ノーレッジは、読みふけっている本から目を逸らさない。
レミリアは、パチュリーの様子を慎重に伺いながら、次の句を告げた。
「霊夢を連れてきてくれたわ」
その言葉に、相手はちらりとこちらの顔を見た。
「それで、なにか?」
身も蓋もない投げやりな言い方だが、付き合いが長いレミリアは、彼女がこの話に興味津々であることは分かっていた。
「いや、ただ、あの子、いつになったらよくなるのかしらって思ってね......何か、いい魔法はないかしら」
パチュリーは大袈裟に溜息をついて、本から顔を上げた。
「あのね、もう何回も言ってるけど、あれは心の病なの。魔法じゃどうにもならない分野なのよ」
子供を諭すような口調でそう言われ、レミリアは意固地になって口を尖らせた。
「でも、貴方はそれでいいの? あんな姿を見て、傷付いたりしないの?」
「私は良いのよ。“彼女”にとって、それが幸せなら、わざわざ破ることはないじゃない」
パチュリーはいつものように落ち着いて答えたが、レミリアは納得しなかった。
「そんなの馬鹿げてるわ。あんなのおかしいって思いなさいよ。あいつはただ、幸せの幻影を見ているだけなのよ。あんな惨めな姿のどこが幸せなの?」
一気にそう言うと、レミリアはガタリと立ち上がった。
「もう残された時間は少ない。パチェ、なんらかの手を打ちなさい。わかるかしら。魔理沙が霊夢を連れてくるたび、私がどんな気分になるか......」
それだけの言葉を叩きつけると、足早にテーブルから離れた。
魔理沙も霊夢もパチュリーも、いまのレミリアには不気味に思えて仕方なかった。この大図書館すらも、入り込んだ異物を排除しようと、レミリアを威嚇しているかのように見えた。
みんな馬鹿だ。なぜ前を向こうとしない。私はこうやって頑張っているのに......
心でそう愚痴りながら、本の山を掻き分け、足早に出口を目指す。ゆらゆら揺れるランプの炎に囲まれて、レミリアはなぜか、魔理沙が褒めてくれた紅茶のことを思い出した。



______帰路______
行くときは頭の上から降り注いでいた日差しも、今はもう顔に直接当たってくるようになった。
涼しかったはずの風も、ぬるい空気の塊がぶつかってくるように感じるだけだ。
魔理沙は結構なスピードで飛ばしているが、それでも服の下にじわりと汗が滲む。
ひっきりなしに鳴り響く蝉の声が、空間を埋め尽していく。息をする隙間もないほど、暑く、濃密な世界である。
容赦のない、夏。
「うー。あっついぜ」
魔理沙はパタパタと服を仰ぎながら、精一杯目を細め、太陽を恨めしく眺めた。
「それにしても、もうだいぶ遅くなっちまったな。昼は何食べたい?」
「さらっとしたものならなんでも良いわ」
「そうめんでも茹でるか。麺つゆは残ってるよな?」
「ええ」
そんな、たわいもない会話をダラダラと交わしているうちに、外から照りつける太陽は気にならなくなってきた。その代わりに体の内側が、じんわりと暖かくなっていく。
私はそっと、魔理沙の背中にもたれかかった。
「魔理沙」
「ん? どうした?」
日光を浴び続けて、背中はすっかり熱くなっていたが、私は力を抜き、全身を委ねた。かすかな鼓動が、服の向こう側に聞こえる。
「こんな体になって、不便なことも増えたけど」
軽く目を閉じ、言葉を壊さないように、優しく口にする。
「こういうのも楽しいかなって」
「......そうか。それは良かった」
魔理沙は、ふっ、と微笑みながら言った。
私は体の奥の温もりを確かに感じながら、呟くように言った。
「ありがとう、魔理沙」
魔理沙は、自分の顔が、かあっと赤くなるのを感じた。
「あ......う、お、おう。そうか」
しどろもどろになりながら、言うべき言葉を探す。
「え、えっと......私も、感謝してるぜ。ありがとな」
そう言うと、さらに顔を赤く染めて、じっと黙り込んだ。
私はそっと笑みを浮かべると、魔理沙の鼓動に耳を澄ませた。
わずかな静けさの間に、蝉の音がねじ込んでくる。
戻ってきた夏の雰囲気に浸りながら、箒は一直線に帰路についていた。



______博麗神社______
「もうそろそろ着くぞ」
魔理沙の言葉で、ふと目が覚めた。いつの間にか、眠り込んでしまったらしい。頬は、ずっと背中に当たってたせいで、すっかり熱くなっている。
肩越しに景色を見ると、確かに前方に神社が小さく見えた。私は目をこらしながら言った。
「境内に誰かいない?」
「ああ。そうみたいだな」
「誰だかわかる?」
「いや、そこまで遠くは見えない」
「目、悪いわね」
「お前だってはっきり見えてないだろ」
ついさっきのやり取りが無かったかのように軽口を叩きながら、神社にいる人物を見定めようと、じっと目を凝らす。
「あ」
魔理沙がポツリと言った。
「あれ、アリスじゃないか」
「え?」
言われてみれば、あの服や髪の色といい、アリスのように見えてくる。 「なんでアリスが神社に来てるんだ?」
魔理沙は不思議に思って首をひねっていたが、私は合点がいって、こっそりニヤついた。 魔理沙も幸せな奴だ。
箒が神社に近づくにつれて、人影はよりはっきり見えてきた。
それは、間違いなくアリスだった。境内の真ん中に立って、こちらをじっと見つめている。
魔理沙は箒を急加速させると、軽やかに着地した。衝撃はほとんど伝わってこない。
魔理沙が箒から降りると、早速アリスが駆け寄ってきた。
「ねえ魔理沙。ちょっと良いかしら」
慌てた様子で話しかけるアリスを、魔理沙は押しとどめた。
「待ってくれ。今、霊夢を降ろすから」
そう言うと、いつもの様に私の肩に腕を回し、ぐっと引っ張った。それに合わせて、私は両足に力を込める。
魔理沙が私を箒から降ろすのを、アリスは唇を真っ白に噛みしめて見ていた。そんな様子に少し慄きながら、私は地面をしっかり踏みしめる。
箒を手に取り、魔理沙はアリスに向き直った。
「で、どうしたんだ?」
しかしアリスは、どこか怯えた様に私の方をちらちら見るだけで、何も言おうとしない。
魔理沙は不思議に思って、私の方を見た。
「どうしたんだ?なんか分かるか?霊夢」
「全然」
私がニヤニヤを押し殺し、真顔で首を振った、その時。
「もうやめて‼︎」
突然、アリスが叫んだ。
魔理沙はびくっと肩を震わせ、慌てて振り返る。
「な、おい、どうしたんだ?」
アリスは両手を固く握り締め、駄々をこねる子供の様に叫んだ。
「それは霊夢じゃないのよ‼︎」



______魔理沙______
「......何?」
私は魔理沙が低い声で言うのを聞いた。アリスは少し後ずさり、それでもしっかりとした声で言う。
「それは人形なのよ、魔理沙。霊夢はもう死んでるのよ」
魔理沙がこちらを振り返った。魔理沙が笑みを浮かべた。魔理沙が面白がっていた。魔理沙の口が動く。しかし声は私が出していた。
「そんなわけないじゃない。私は生きてるわ」
魔理沙はその言葉を聞いて嬉しかった。霊夢の声は魔理沙のものだった。しかしそれは霊夢の声だ。魔理沙は霊夢は生きてると信じていた。だからたとえ表情が変わらなかろうと何もしゃべらなかろうと体が動かなかろうと大丈夫だった。魔理沙の声は霊夢の声だった。魔理沙の気持ちは霊夢の気持ちだった。魔理沙の表情は霊夢の表情だった。だから霊夢は生きているのだ。
「お願い、魔理沙、目を覚まして。もうあの頃には戻れないのよ。もうあなたは少女じゃないの」
何か声が聞こえる。聞き覚えがあるが、魔理沙にはどうでもいいことだった。世界には霊夢と魔理沙の2人しか存在しなかった。魔理沙は言った。
「これからもずっと一緒だよな、霊夢」
その声は妙にしわがれていたようだったが、言い終わる頃には再び、若々しい、張りのある声に戻っていた。
霊夢はにっこり微笑んで答えた。
「ええ。ずっと一緒にいましょう」

霊夢のいつも通りの笑顔を見れて、魔理沙は嬉しかった。
やっぱりいつも通りの日々が一番ですね
読書家
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コメント



0.310簡易評価
1.無評価秋塚翔in創想話削除
やめろ。がっこうぐらし!みたいなのをレイマリでやらないでくれ……
2.無評価名前が無い程度の能力削除
自分で「おかしいところがある」と言ってしまう作品を投稿するんですか?
8.80名前が無い程度の能力削除
他人事でもない話。こう云うのは限定的サザエさん時空とも呼べる