※この作品は作品集132『吸血鬼と砂時計』の続編となっております。
ですので、お手数ですが先に前作を読んでおくことを推奨します。
午前8時。
多くの生き物たちが眠りから覚め、一日の活動を本格的に開始する時間帯。
魔法の森で古道具屋を営む森近霖之助もその例外ではなく、普段ならもう既に店を開けている時間である。
"普段なら"と表現したのは、今現在霖之助が置かれている状況が、常日頃のものと異なっているからだ。
「………………」
無言で前方を見据える霖之助。いや、この場合は"見上げる"と言ったほうが正しいのかもしれない。
なぜなら今彼の目の前に存在しているのは、見上げるばかりの大きなお屋敷――紅魔館だからである。
強大な吸血鬼が住む紅い屋敷は、朝日を浴びて禍々しく輝いている。
「………………」
次いで霖之助は、無言のまま自らの隣に目を向ける。
「ん? どうしたの霖之助?」
その視線の先には、この屋敷に住まう吸血鬼の片割れ、フランドール・スカーレットが佇んでいた。
その手にはピンク色の可愛らしい日傘が握られており、日差しに弱いという彼女を、照りつける朝日から守っている。
「……いや、どうしてこんな朝早くから、こんなところに来ているのかと考えていたところさ」
「もう、昨日言ったじゃない。明日の朝迎えにいくからー、って」
「迎えにいくとは言っていたが、約束の時間は9時だったはずだ。どうして1時間以上も早く迎えに来たんだ? おかげでろくに準備もできなかった」
「何事も早め早めの行動が大事だって、霖之助がこの前言ってたじゃん」
「それは時と場合による。そしてこの場合、君の取った行動は明らかに間違っているよ。
ちゃんと時間を決めておいたのに、それを破られてはこっちの予定が狂ってしまうじゃないか」
午前9時に迎えにくると、昨日フランは言っていた。
そのため霖之助は、約束の時間にちょうど間に合うように行動すればいいだろうと、余裕を持って朝を過ごしていた。
さてそろそろ準備に取り掛かろうかと思った矢先、約束の時間よりも1時間以上早く訪れたフランに、半ば無理やり連れてこられたというわけである。
「時間ならたっぷりあるんだし、そう焦って迎えに来ることもなかっただろう?」
幻想郷の住人の大半は、時間に追われるということを知らない。
特に妖怪や妖精といった人外の連中となれば尚更だ。
彼、または彼女らは、自分の好きなときに好きなことをして、好きなように生きている。
仕事や義務、それらに対する責任感やらとは無縁の存在なのだから、それも当然と言えよう。
例外なのは独自の社会を形成している山の天狗や河童ぐらいだろうか。
そして目の前の少女も、時間に追われるという概念とは程遠い存在だ。
良家のお嬢様たる彼女が、仕事や勉学やらで忙しい日々を送っているとは思えない。
ましてや彼女は吸血鬼、優に数百年以上を生きる人外たちの中でも、さらに長寿の部類に入るであろう存在だ。
今日が駄目でも明日、それが駄目なら明後日、それでも駄目なら来週、来月、来年と、時間は無尽蔵のごとく所有している。
だからこそ彼女が今朝、約束の時刻を大幅にフライングして香霖堂に訪れたことが腑に落ちなかった。
そう思って傍らのフランに問いかけた霖之助だったが、
「だって……」
当のフランはバツが悪そうに、両手をもじもじさせながら言いよどんでいる。
「だって、何だい? 君は偉大な吸血鬼の血を引いているんだから、もう少し余裕を持った行動をだね――」
「……楽しみだったから」
霖之助の言葉を遮るようにして、フランは呟いた。
「楽しみにしてたから、つい行くのが早くなっちゃって……約束の時間まで、まだ余裕があるって分かってたんだけど、それでも我慢できなくて……」
そう言いながら、霖之助を上目遣いで見上げてくるフランドール。
恥ずかしさ半分、謝罪の意が半分といったところか。
「……楽しみ、か」
(そうだったな……この子に"楽しい時間"という概念を教えてあげたのは、他ならぬ僕だったじゃないか)
霖之助は心の中で、先の自分の態度や発言について少し反省した。
誰だって楽しいことを目の前にしたら、待ち切れないことだってあるだろう。彼女のような子供なら尚更だ。
霖之助は、なおもバツが悪そうに自分の顔を見上げているフランドールの頭に手を置くと、優しく撫でてあげた。
「ん……」
「別に怒ってないから、そんなに気にしなくてもいいさ。楽しみにしてくれていたというのも、素直に嬉しいしね」
霖之助は優しく微笑みながらフランの頭を撫で続け、フランはくすぐったそうにしながらも、されるがままになっている。
「さて、そろそろ中に入るとしよう。今日はせいぜい楽しませてもらうよ」
「うん! いっぱい遊んでもらうんだから!」
「それだといつもと変わらないし、楽しいのは君だけじゃないのかい?」
「霖之助は私と遊んでても楽しくないの?」
「……楽しくないということはないと言えるかと言われれば、そう言えなくもないと言うよりは、絶対にないだろうと言い切れるだろう、とだけ言っておくよ」
「なに言ってるか全然分かんないよ」
「分からなくて結構。それで、君はいつまでお客様をこんなところで立ち往生させておくのかな」
「またそうやってはぐらかすー。まぁいいけどね」
フランは霖之助から離れると、紅魔館を背にし、彼と向き合った。
「ようこそ、紅魔館へ!」
事の発端はつい先日、紅魔館で交わされた会話から始まる。
その時の状況、そしてそれに至るまでの経緯を事細かに説明すると、非常に時間を取られることになってしまう。
そのため、彼女たちの会話の様子だけを、簡潔に記すとする。
先も言ったよう、時間は有限なのだ。
「今日も香霖堂に行ってくるね!」
「このところ毎日あの店に通ってるわね、貴女。たまには家でゆっくりしてはどうなの?」
「えー、だってあそこに行くと面白いし、楽しいんだもの!」
「店主にも店主の都合があるでしょう? あまり連日押しかけると迷惑になるわよ」
「むー、お姉さまのイジワル」
「妹様、お嬢様は妹様が家にいなくて寂しいんですよ」
「なっ?!」
「もしくは店主に妹を取られて焼き餅を焼いているか、ね」
「ちょっと、パチェまで何を……!」
「お姉さま……」
「ち、違うわよ! ただ貴女が店主に迷惑をかけすぎたら、姉である私の人格まで疑われかねないでしょう? だから――」
「つまり店主に嫌われたくない、と」
「どうしてそうなるのよ?!」
「お姉さま……もしかして霖之助のことを……」
「だから違うって言ってるでしょう!? あーもう、ややこしいわね! 私はただ店主に悪いと思って――」
「でしたら、店主さんを紅魔館に招待するというのはどうでしょうか」
「え?」
「そうすれば妹様とも一緒にいられますし、店主さんにもいつものお礼ができますよ」
「だから別にフランと一緒にいたいわけじゃ――」
「それいいよ、咲夜! さっそく霖之助を呼んでくる!」
「って待ちなさいフラン! 館の主である私の許可もなしに――」
「いいんじゃない? レミリア・スカーレットともあろう者が、半妖ごときにいつまでも借りを作っておくのはどうかと思うけど」
「そ、それは……」
「妹様の姉として、偉大な吸血鬼として、紅魔館の主として、店主を招待し持て成すことで日頃の功績を称える……ただそれだけじゃない」
「それは……たしかにそうだけど……」
「それに私も興味があるのよ、その店主とやらに」
「貴女が? 会ったこともない他人に興味を持つなんて、珍しいわね」
「別に。聞けばその店主とやら、魔理沙の保護者のような存在らしいじゃない。今までアイツにどんな教育をしてきたのか、じっくり聞いてみたいと思っただけよ」
「あぁ、なるほど。本の恨みは怖いってことね……」
「……それだけじゃいけど」
「? 何か言ったかしら、パチェ」
「いえ、何も言ってないわ」
「ねぇお姉さま、いいでしょ?」
「はぁ……仕方ない。私の威厳にも関わるし、一日ぐらいなら構わないわよ」
「やったー! ありがとう、お姉さま!」
「れ、礼を言われる覚えはないわ。紅魔館当主として、そして姉として、当然の判断を下したまでよ」
「じゃあさっそく呼んでくるね!」
「だから待ちなさいって! いきなり今日招待するっていうのは無理があるでしょう? こちらにも店主にも、準備ってものがあるわ」
「そうですよ妹様。しっかり歓迎する準備を整えてからでないと、店主さんを満足に持て成すこともできませんわ」
「んー……分かった。じゃあ明日は?」
「一日もあればお持て成しする準備は整います。なので明日なら問題ないかと。如何です? お嬢様」
「それでいい。明日、紅魔館に香霖堂の店主を招待することを認めるわ。フラン、貴女は今からそのことを店主に伝えてきなさい」
「はーい!」
「もし断られたらどうします?」
「それはないでしょう。あの店主、いつも暇そうにしているし、何よりこのレミリア・スカーレットの招待を拒むだなんてこと、あっていいはずがないもの」
「まぁ多分大丈夫だとは思いますが……」
「大丈夫よ、霖之助なら来てくれるって! じゃあ行ってきまーす」
以上が、霖之助が紅魔館に足を運ぶ原因となったやり取りである。
そして現在、霖之助は紅魔館の敷地内にあるテラスでお茶をしていた。
あの後門番と挨拶を交わし、館内に入った霖之助は、レミリアを始めとする紅魔館の面々に迎えられた。
挨拶もそこそこに、とりあえずお茶にしましょうという咲夜の提案によって、こうして庭に面したテラスで寛いでいるのであった。
「しかし紅魔館に招待される日が来るとはね。僕の格もようやくここまで上がってきたということか」
「勘違いも甚だしいわね。フランがいつも世話になっているから、たまにはこうして労ってやらないと、当主としての威厳が保てないと思っただけよ」
「それに妹様が店主さんを招待したかったから、というのもありますわ」
「もう! 提案したのは咲夜でしょう?」
「あら、そうでしたか? ですが妹様自身も随分喜んでいられたようですし……」
「そ、それ以上はいいよ、もう!」
「………………」
現在テラスにいる者は5人。
招待された霖之助と、彼を招待したフラン。そして館の当主であるレミリアに、皆にお茶を配っている咲夜。そして黙々と本を読み続けているパチュリー。
男1人に対し女4人。それだけでも気後れしそうな状況なのに、加えて女性4人はいずれもかなりの実力者揃い。
さらに言うなら、ここにいる女性は全員、10人中10人が美人、美少女と評価するであろう者たちばかりである。
並の男性ならとてもではないが気を緩めることのできない状況の中、霖之助はまるでここが我が家であるかのように場に馴染み、存分に寛いでいた。
こういった面はたしかに大物と言えなくもない。
「まあともかく、いつも妹が世話になっているわね」
「大した世話なんてしてないさ。彼女は基本的にいい子だし、世話を焼くこともない。たまに物を壊すけどね」
「い、いい子って……霖之助ってば何言ってるのよ……」
「君は後半部分を聞いていなかったのか。あとそんなに恥ずかしがることもないだろう。普段なら素直に喜んでいるはずだが」
「人前で褒められるというのは、存外恥ずかしいものなんでしょう」
「そういうものかな。そういう君も、人前で褒められると恥ずかしかったりするのかい?」
「私ですか? 私は褒められるなんてこと滅多にありませんから」
「ちょっと咲夜、それじゃあ私が厳しいみたいに思われるじゃない。ちゃんといつも労いの言葉をかけているでしょう?」
「あぁ、あれは褒めてくださっていたのですね。気が付きませんでしたわ」
「どう考えてもあれは褒め言葉でしょうが……」
「そうでしょうか? 『悪くないわね』だとか『これからも精進なさい』だとか、褒められているのかどうか、判断しづらいお言葉しか頂いたことがない気がします」
「それは……そんなに分かりづらいかしら?」
「褒めるときは素直に褒め、叱るときは率直に叱る。これは子や従者を教育する上での基本事項だよ。
褒められたということが相手に伝わらなければ、褒める意味がなくなってしまう。次も頑張ろうという気が起きないからね」
「その教育の結果が、今の白黒というわけね」
パチュリーの言葉が場の空気に突き刺さる。
霖之助は気まずそうな顔でパチュリーの方に目を向けるが、パチュリーは素知らぬ顔で本を読んでいた。
レミリアとフランはにやにやと霖之助を見つめ、咲夜も表情はすましているものの、どことなく楽しそうである。
「……まぁ、あくまでそういうことが大事というだけで、結局のところどう育つかは本人次第ということだね」
カタリ、と飲み終えたティーカップを皿に戻す。
この話題はこれでお終いという、霖之助なりの意思表示だ。
「さて、お茶も済んだし、これからどうするんだい?」
「じゃあじゃあ! 皆で遊びましょう!」
「まあ待ちなさいフラン。咲夜は片付けがあるし、昼食までそんなに時間もないわ。遊ぶのは午後からでもいいんじゃないかしら?」
「うーん……霖之助はどうしたい?」
フランは霖之助の顔を覗きこみながら尋ねた。
今の霖之助はお客様だ。ここは彼の意思を尊重しようという、彼女なりの心配りなのかもしれない。
「そうだな……せっかく紅魔館に来たんだし、中を色々と見学させてもらってもいいだろうか? もちろん午後からはちゃんと遊んであげるよ」
「見学かー、じゃあ私が案内してあげる! いいでしょ、お姉さま?」
「いいわよ。ただし、昼食の時間になったら店主を食堂まで連れてくるように。
それから屋敷の中を散らかしたり、私の自室や立ち入り禁止の部屋には入らないこと。いいわね?」
「はーい!」
「ありがとうレミリア、前からこの館の構造に興味があったんだ。それに地下にあるという図書館にも行ってみたいしね」
ちらり、とパチュリーの顔を窺う霖之助。
それに対しパチュリーは短く一言「構わないわよ」と、本から目を離さずに放っただけであった。
(どうも彼女には嫌われているような気がしてならないが……魔理沙のことを考えると多少は仕方ない、か)
申し訳ないという気持ちと、なんで僕が責められなければならないのかという気持ちが交わって、何ともいえない微妙な表情を作り出す。
後でしっかり謝っておこう、そして魔理沙には改めて注意しておこうと心の中で決意した霖之助は、楽しそうにはしゃぐフランに手を引っ張られながら、テラスを後にする。
そんな霖之助の背中を、本越しにじっと見つめる魔女の姿が、テラスに残されていた。
「ここが客室でー、この廊下をまっすぐ進むと厨房があってー」
「はぁ……予想はしていたが、とんでもない広さだな」
霖之助はフランに連れられて、紅魔館の中を見て回っていた。
お屋敷や城といった、大きな建築物に招かれたことのない霖之助にとって、この屋敷の広さは驚愕と感嘆に値するものであった。
前に一度、人里にある稗田家の屋敷を訪れたことはあったが、そこと比べても紅魔館の広さは常軌を逸している。
「外から見た限りでは、稗田家の敷地より少し広い程度だと思っていたが……」
実際に中を歩いてみると、廊下の長さは想像以上であり、部屋の数も50程度では済みそうにない。
「多分、咲夜が館内の空間を弄ってるからじゃないかな。前にそんなことを言ってたよ」
「空間を? なるほど……そういえば彼女は時間を操る能力を持っていたな……」
時間と空間。
この2つは一見全く異なる概念のようでいて、実はそうではなく、同列の存在だということが外の世界から流れてきた本に書いてあった。
その理論が正しいとするならば、空間=時間と置き換えることができ、時間を操ることができる彼女は、空間も操れるということになる。
実際にこうして空間を操作できているのだから、その理論は正しいということなのだろう。
「それにしても、いくらなんでも広すぎやしないか? 住んでいる者の人数と館の体積がまるで合致していない」
「いいんじゃない? 確かに部屋はだいぶ余ってるけど、広すぎて困ることもないし」
「僕は不便だと思うがね。1人で出歩けば迷子になってしまいそうだよ」
「じゃあはぐれないよう、私にしがみ付いてればいいんじゃない?」
「遠慮しておこう。君が迷うという可能性もある」
「ここは私の家よ。そんなことがあると思う?」
「3回。君がここまでに道や部屋を間違えた回数だ」
「へへ……でも、毎日が探検気分で楽しいよ?」
「我が家というのは秘境でも未開の地でもない。安心して落ち着ける場所のことを"我が家"と言うんだ」
「ふーん、刺激的な毎日のほうが楽しいよ、きっと」
「君自身が刺激的だろうに」
「何か言った?」
「いや何も」
益体のない会話を交わしながら歩いていたら、いつの間にか廊下の突き当たりに辿り着いていた。
あれほど長く感じた廊下も、誰かと会話しながら歩いていれば、あっという間に歩き終わってしまうのだろう。
「この階はここまでっと。えーっと、次は地下を案内するね」
「ようやく地下か。お待ちかねの図書館というわけだね」
急に目の色が変わる霖之助。さっきまで疲れただの広すぎるだの愚痴をこぼしていたのが、まるで嘘のようだ。
それだけ本が好きということだろう。
「……地下には私の部屋もあるんだけど」
「さぁ早く行こうじゃないか。歩き疲れてしまったから、図書館でゆっくり休みたいと思っていたんだ」
「……別にいいけど」
「それに、君と遊ぶ前に疲れたままなのはどうかと思うしね。一旦休んでおきたいところだ。それと、君の部屋には入ってもいいのかな?」
「えっ、も、もちろん構わないけど……」
「レミリアの部屋には入るなと言われたし、君の部屋にも入れてもらえないかと思っていたよ。吸血鬼が普段、どんな環境で生活しているのか興味があるしね」
「……別に、そんなに珍しい部屋でもないよ? 暗いし、散らかってるし、無駄に広いだけで……」
「光を嫌う吸血鬼の部屋だ、暗いのは当然だろう。散らかってるということは物が大量にあるということだ。
僕が貸した道具の数々はちゃんと使われているみたいだね。それに広いのは別に悪いことじゃないだろう?」
「……さっき無駄に広くても意味がないとか言ってなかったっけ?」
「それは廊下の長さや部屋の数の話さ。私室が広いのはいいことだよ。僕の部屋は狭い上に道具で溢れかえっているからね。
広い私室があるというのは素直に羨ましいよ」
もっとも、そういった物が乱雑した空間も嫌いではない。
何かに囲まれているというだけで、だいぶ心が落ち着くものだ。
何もない部屋など面白味に欠けるし、そんな部屋では寛ぐことなど到底できない。
「とにかく、地下に行くとしようじゃないか。昼食までそう時間もないし、午前中に見学が終われば、午後からはたっぷり遊べるよ」
「うん、分かった! じゃあついて来て!」
「だからそう焦るんじゃないと――」
急に駆け出すフランに、それを見失わないよう早足で後を追う霖之助。
走ると余計に疲れるじゃないか、という霖之助の声は、はやくはやくー、と彼を急かす吸血鬼の耳には届いていないようだった。
「ここが件の図書館か……」
その光景は、霖之助にとって宝の山に見えた。
実際、生半可な宝よりもよっぽど貴重な書物が数多く貯蔵されているため、宝の山という表現はあながち間違いでもない。
香霖堂のものとはまた違った、独特の埃臭さが鼻をつく。
だがそれは決して不快なものではなく、まるでこの空間にいるだけで知識が満たされていくような、そんな錯覚を覚える香りだった。
「魔理沙から聞いていた以上だ。素晴らしいなここは」
これだけたくさんの本があるのだ。魔理沙が本を盗んでしまう気持ちも分からなくは……いや、やっぱり分からない。それに分かってしまっては駄目だろう。
「――あら、随分来るのが遅かったわね」
1人感動に浸っていた霖之助だったが、何者かの声で我に返り、声のした方角へと目を向ける。
するとそこには、先ほども顔を合わせた図書館の主である、パチュリー・ノーレッジが佇んでいた。
「あ、パチュリー。図書館に戻ってたんだ」
「当然でしょう。ここは私の部屋みたいなものだもの」
今さっきまで本を読んでいたのだろうか、パチュリーは眼鏡を掛け、片手には何かの本を持っている。
「それで、この図書館に見学に来たのかしら?」
パチュリーは霖之助の方に向き直り、そう言った。
その声は平坦で、とてもではないが親しみを感じることはできない。
「あ、ああ。他の場所の見学はあらかた終わったからね。最後にフランドールの部屋へ案内してもらう前に、この図書館を見に来たんだが……」
「が?」
「ここは素晴らしいね。こんなに大量の、それも多種多様な書物が一堂に会する様は見たことがない。
良ければ、ここにある本を少し読ませてもらってもいいだろうか?」
霖之助はパチュリーが自分に対し、好感を持っていないことが分かっていた。
それは魔理沙の件を考えると仕方のないことだし、別に危害を加えられるわけでもないから、特にどうこうしようとは思っていなかった。
しかし、この図書館の主は彼女、パチュリー・ノーレッジなのだ。
今の状態では図書館を利用させてくれと頼んでも、断られる可能性が高い。
フランやレミリアに口利きしてもらうという手もあったが、さすがにそれは男らしくないし、後にしこりを残すことになりかねない。
結局、さり気なく図書館を賛美しつつ、できるだけ低姿勢で正直に頼んでみることにしたのだが、
「別にいいわよ」
「え?」
「だから、別にいいわよ。ただし、本を汚したり勝手に持っていったりしなければね」
てっきり難色を示すだろうと思っていたが、思ったよりもあっさり許可が下りたことに対し、喜びよりも先に驚きが出てしまった。
「何? 自分から頼んでおいて、どうしてそんな呆気に取られたような顔をしてるのかしら」
そう言うパチュリーの声には、若干の苛立ちが混じっているように聞こえた。
これはまずい。せっかく許可してくれているのに、余計な態度を見せて機嫌を損ねるのは得策ではない。
「い、いや……魔理沙の件もあるからね、てっきり断られるか、利用するのを渋られるかと思っていたから」
「別に、魔理沙が本を盗んでいくのはあなたのせいではないでしょう? それとも、彼女に本を盗んでくるよう指示でもしていたの?」
「そんなことは断じてしていない。していないが、彼女がああいう風に育ってしまった責任の一端は、僕にあるかもしれないからね」
霖之助は基本的に、魔理沙を叱ることがなかった。
口先では注意するものの、最終的にはやれやれといった感じで、大抵のことを許容してしまう。
それは彼女が恩人の娘であるということと、もう1つ、とある宝剣が理由で彼女に負い目を感じているからだ。
「だから謝罪させてくれ。魔理沙がああなってしまったのは僕のせいでもある。本当にすまない。魔理沙には改めて注意しておくよ」
「……別にそこまで気にしなくてもいいわ。お門違いのことであなたを責めるほど、私は幼稚じゃないの」
「……ありがとう。それから、図書館を利用させてくれることについても礼を言うよ」
「礼なんていらないわ。あとは好きにしてなさい」
そう言い残して、この場を去ろうとするパチュリー。
どうやら魔理沙の件については、そこまで怒っていなかったらしい。
だが、それにしては彼女の僕に対する態度が、未だに冷たいような気がする。
もしかして僕のことを生理的に受け付けないのだろうか。
もしそうだとしたらどうしようもないし、若干以上に傷付く。
彼女とは本好きという共通点があるため、話が合うと思っていただけに非常に残念である。
(仕方がない……彼女とは今日初めて会ったばかりだし、これから少しずつ打ち解けていければいいだろう)
霖之助としては今後もこの図書館を利用させてもらいたいので、彼女とはできるだけ仲良くなっておきたかった。
そのことを抜きにしても、お互いの得た知識を交換し、語り合える同好の士が欲しいと思っていたのだが……
(これ以上悩んでいても仕方がない。とりあえず今は読書に浸るとしよう)
そう考えて、目ぼしい本を探そうと踵を返した霖之助だったが、
「……ねえ」
と、背後から声を掛けられて立ち止まる。
後ろを振り向くと、先ほど立ち去ったと思われたパチュリーが、霖之助と同じように振り返ってこちらを見ていた。
「……何かな?」
パチュリーは感情のない平坦な顔をしたまま、値踏みするかのような目付きで霖之助をじっと見続けている。
中々喋り出そうとしない彼女だったが、やがて視線を霖之助から外さぬまま、ゆっくりと語りだした。
「あなたは――」
「もう! いつまで2人で話してるのよ!」
突然上がった声のほうを見ると、フランが霖之助とパチュリーの中間に立ち、頬を膨らませて憤慨していた。
「いつまで私を放っておく気なの? それに、本なんか読んでたら昼食になっちゃうじゃない!」
霖之助とパチュリーが会話している間、フランはずっと放置されていた。
最初は大人しく待っていたフランだったが、霖之助が本を読みたいと言い出したときから機嫌が悪くなり、今に至っても自分を完全に無視していることに対し、ついに我慢の限界が来てしまったのだ。
「あぁ、すまないフラン。決して無視していたわけじゃないんだが――」
「無視してたじゃない! パチュリーと話し込んじゃってさ。パチュリーもパチュリーよ! 私がいるってこと忘れてたでしょ!?」
「忘れてないわよ。それに、別に話し込んでないわ」
「話し込んでたじゃない! 私を除け者にしてー!」
どうやらフランは大層ご立腹のようだ。
本を読むのは後でもいいかと、霖之助はフランを宥めにかかろうとしたのだが、
「まぁ聞きなさい」
パチュリーがそれを遮るように、フランに語りかける。
「何よ、ちょっと謝ったぐらいじゃ許してあげないんだから!」
「だから聞きなさい。貴女、店主を自分の部屋に案内するんだったわね?」
「そうよ! それがどうしたっていうの?」
「貴女の部屋、お客様を招けるような状態なのかしら?」
「!!」
「女の子が男性を自分の部屋に招待するというのに、ひどく散らかっていたりしたら大変よ?」
「わわわっ!」
「片付けもろくに出来ないような子じゃあ、きっと男性の方も幻滅してしまうんじゃないかしら。
それに、見られたくない物がそのままになってるという可能性も――」
「私、片付けてくる! 霖之助は私が呼ぶまで部屋に来ちゃダメよ! それまでここで本でも読んでて!」
「あ、おい! フラ――」
ン、と言う間もなく、フランは図書館を飛び出ていってしまった。
別に散らかっていても気にしないと言ったのだが。
それともよっぽど見られたくない物が散らかったままだったのだろうか?
「そんなわけだけど、あなたはどうするの?」
「……仕方ない。当初の予定通り、ここで本を読みながら待たせてもらうよ」
「そう」
そう言って、今度こそパチュリーは本棚の奥へと姿を消した。
霖之助もそれに習い、興味深そうな本を探すべく、本棚の密集している空間へと足を向ける。
(そういえば、さっきパチュリーは何を言いかけたんだ?)
そんな疑問が脳裏をよぎったが、眼前に広がる本たちの魅力には勝てず、また後で尋ねればいいだろうと結論付け、本棚の物色を開始した。
「………………」
「………………」
ぱらり、ぱらりと、本のページを捲る音だけが響き渡る。
先ほど一旦別れた霖之助とパチュリーだったが、今はこうして再び、同じ場所に存在している。
その理由は簡単。本を読むための机が1つしかなかったからだ。
考えてみれば当然のことだが、普段図書館を利用するのはパチュリーただ1人なので、机をたくさん置いておく必要もない。
他に図書館を利用する者として、彼女の使い魔で、本の整理やらを担当している悪魔が挙げられるが、常に図書館内を動き回っているわけではないようだ。
現に今日はその使い魔の姿が見られない。使い魔と言えど、毎日酷使し続けるのには何らかの問題があるのだろう。
もっとも、その悪魔とやらには会ったこともなく、魔理沙からそういった存在がいるという話を聞いただけなので、本当のところはどうなのか分からない。
「………………」
「………………」
沈黙が痛い。
普段の霖之助なら、親しくない誰かと同席し、気まずい沈黙が訪れたとしても、さして気にすることなく読書を続行するだろう。
だが今回は違う。
相手はほぼ間違いなくこちらのことを良く思っていない上、ここはホームではなくアウェーである。
危害を加えられるという心配はしていないが、場所が相手のホームである以上、会話や行動の優先権は目の前の彼女が握っていると考えていい。
(フラン、早く戻ってきてくれ……)
あれだけ本を読みたがっていた霖之助だったが、今となっては苦痛でしかない。
せっかくの本の内容も、6割ほどしか頭の中に入ってこない。何だかとても損をしている気分だ。
と、ここで霖之助は、先ほどパチュリーが何か言いかけていたのを思い出した。
(一体何を言おうとしていたんだ?)
そのことを彼女に尋ねて、この重苦しい沈黙を破ろうと考えた霖之助だったが、読書の最中に話しかけるのは好ましくない。
霖之助も普段読書をしているとき、何らかの外的要因でそれが中断されると、若干不機嫌になったりする。恐らく彼女もそうなるはずだ。
ここで機嫌を損ねるような真似をするのは逆によろしくないと考えた霖之助は、読書をするフリをしつつ、彼女が本を読み終わるのを待つことにした。
それから約10分後、彼女は手元の本を読み終え、パタリとその裏表紙を閉じた。
思いのほか薄い本だったため、読み終えるのが早かったようだ。
質問を投げ掛けるタイミングを窺っていた霖之助は、話しかけるなら今しかないと思い、若干緊張しながらパチュリーに声を掛ける。
「そういえば、先ほどのことなんだが……」
急に話しかけられるとは思っていなかったのだろうか、パチュリーは少し驚いたような顔を見せたが、それも一瞬のことで、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻る。
「何?」
「いや、さっき僕に何か言いかけただろう? そのことが気になってね……一体何を尋ねようとしたんだい?」
「ああ……そのことね」
パチュリーは納得したような声を出し、霖之助の顔をじっと見つめた。
奇妙な沈黙が辺りを支配する。
他に誰もいない静かな図書館で、お互いに見つめ合う男女が2人。
字面で表すと何ともロマンチックな光景を連想させられるが、今この場を支配している空気は、そんなに甘ったるいものではない。
霖之助は彼女に声をかけたことを早くも後悔し始めていた。
気まずさが限界まで達した霖之助は、さっさと彼女の顔から目を背けてしまいたかったが、なぜかそれをしてはいけないような気がしたので、今もこうして彼女の視線を真っ向から受け止める形になっている。
対するパチュリーは何食わぬ顔で、これでもかと言うほど霖之助の顔を見つめている。
その視線や表情からは、怒気や敵意が感じられないのがせめてもの救いだろう。
1分ほど経った頃だろうか、いや、霖之助がそう感じているだけであって、実際には10秒も経過していないだろう。
パチュリーは表情を変えることのないまま、ようやく声を発した。
「あなたは、妹様……フランのことをどう思っているの?」
その問いは、霖之助の予想だにしないものだった。
霖之助自身のことについて何か聞かれるのだろうと思っていたが、どうしてここでフランの名前が出てくるのだろう。
「どう、というのは?」
「あの子に対し、あなたが抱いている印象よ。あの子のことを、どんな子だと思っているの?」
霖之助は顎に手を当て、ほんの少しだけ考える。
フランのことをどう思っているか。
第一印象は、危なっかしくて放っておけない子。
続いて感じたのは、思ったよりも素直で、とてもいい子だということ。
世間ズレしたところや、人をからかったりする一面もあるが、決してそこに悪意はなく、どこまでも純粋な子。
霖之助はそういった内容をパチュリーに語った。
それに対し彼女は、相槌を打つでも返答をするでもなく、ただただ黙って聞いていた。
「――とまぁ、こんなところだろうか」
「……なるほど、大体分かったわ」
パチュリーはここで初めてその表情を崩し、小さな溜息を吐いた。
「随分とあの子のことを可愛がっているみたいね」
「別に可愛がっている訳ではないさ。僕は僕の正直な意見を述べただけだよ」
そう、今語った内容に偽りはない。
フランは間違いなくいい子だと、霖之助は思っている。
決してお世辞だとか、身内を褒めてパチュリーのご機嫌を取ろうだとか、そういった打算的な考えは一切含まれていない。
いないのだが、パチュリーの反応はあまり芳しくないようだった。何か気に障る点でもあったのだろうか?
霖之助はそのことを正直にパチュリーに尋ねてみた。
「……別に、気に障ったというほどではないわ」
ということは、気に障るほどではないにしろ、何かしら気にかかる点があったということだ。
「ただ、あの子のことを大して理解していないなと、そう思っただけよ」
どこか冷めた声で、パチュリーはそう言い放った。
それに対し霖之助は、若干どころではない不快感を覚えた。
咄嗟に反論の声を上げそうになるが、この程度で感情的になるのはよろしくない。
相手は常に冷静沈着な魔女なのだから尚更だ。
霖之助は感情を押し殺した声で、パチュリーに問い返した。
「……どういう意味だい? 確かに僕とフランは出会って間もないが、僕は僕なりに彼女のことを理解できるよう、努めてきたつもりだが」
「あの子がどうして500年近くもの間、外に出られなかったか分かる?」
パチュリーは霖之助の問い掛けに対し、間髪おかずに切り返した。
「それは……」
「そう、あの子の精神や能力が不安定で、いつ暴走するか分からなかったから。
あの子の周りや、あの子自身を守るためにも、長い間館の地下に幽閉してきた」
霖之助に先を語らせることなく、パチュリーは言葉を紡いでいく。
「そうしている内に、あの子自身も外に出ることを諦めたのか、あるいは外に対する興味を失ったのか、無理やり外に出ようとすることもなくなっていったわ」
たまに発作的に外に出たがることはあったけどね、と彼女は付け加える。
「あの子の持つ力は本当に危険なのよ。500年近くかけても、あの子の力を制御することはできなかった。レミィにも、私にも、そしてあの子自身にも」
目の前の魔女が何を語ろうとしているのか、大体掴めてきた気がする。
「それをあなたは制御しきれるの? あの子が暴走を起こし、あなたの親しい人たちや、或いはあなた自身、そしてあの子自身が傷付いたとき、
あなたは責任を取れるのかしら?」
「そんなものは――」
「無理でしょうね。あなたは半分妖怪のようだけど、戦闘が得意のようには見えないし、いざという時にあの子を力尽くで止めることはできない」
魔女はその一言一言を、僕の心に杭を打ち込むかのように、ゆっくり、はっきりと言い放つ。
「あの子が誰かを傷付けたとき、あなたはどう責任を取るというの? あの子の身内でもない、出会って間もないあなたが」
つい先ほどまでは、彼女の表情や言葉に感情らしい感情は篭っていなかった。
だがしかし、今ははっきりとその感情を読み取ることが出来る。
霖之助と無力な自分に対する憤り、そしてフランに対する自責の念という感情を。
「……あの子は確かにいい子だわ。素直で、明るくて、可愛げがあって……だからこそ、そう思っているだけではあの子を守れない」
魔女はまるで断言するかのように――いや、
「あんなにいい子を何の意味もなく、500年もの間閉じ込めておくと思ってるの? それだけあの子は危険で、繊細なのよ。
あの子のことをただの"いい子"としか認識していないあなたでは……あの子の危険性を分かっていないあなたでは、あの子を守ることは出来ない」
今度こそ彼女は、完全にそう言い切った。
「……少し熱くなってしまったわね。ごめんなさい」
「………………」
そう謝罪するパチュリーに、霖之助は何も言えなかった。
思うところは色々あったのだが、彼女の剣幕を前にして、ついぞ言葉は出てこなかった。
「でもね、これだけは言っておくわ」
「……何だい?」
「あの子のことをただの"いい子"としか見ていないのなら、その認識を改めるか、もしくはあの子とは距離を置いて付き合うようにしてちょうだい」
「………………」
「あの子の問題は、私たち紅魔館に住む者全員の問題よ。部外者が一時の同情や哀れみなんかで、気軽に手を出していい問題ではないわ」
「別に哀れみなんか――」
「あなたは甘すぎる」
「………………」
言い返そうとした霖之助だったが、彼女がはっきりと言い放った一言で、押し黙らざるを得なかった。
言いたいことは全て言いきったのか、パチュリーはそれ以上言葉を掛けてくることはなかった。
この話はこれでお終いということなのか、しかし霖之助としては、ただ言われっぱなしという訳にもいかない。
それに霖之助のほうも、彼女に聞きたいことや伝えたいことがある。
「僕が甘すぎるという点については、返す言葉もないよ。魔理沙の例もあるしね」
「………………」
今度は僕が話し、彼女がそれを聞くという形になる。
「だが、フランのことをただの"いい子"としか見ていないというのには、反論させてもらいたい。
そもそもあの子が僕の店に初めて訪れたとき、僕の店は半壊させられているからね。あの子の能力の危険性は分かっているつもりだよ」
「店が少し壊れただけでしょう? その程度であの子の能力の危険性が理解できたとは思えないわ。
もしかしたら、あなたは壊れた店の下敷きなっていたかもしれないのよ。もしくは、店と一緒に"破壊"されていた可能性だって――」
「しかしそうはならなかった」
「結果論だわ」
「結果が全てだよ」
僕の矢継ぎ早な反論に、パチュリーがむっとした顔になる。
「まあそれはともかく、だったら君に聞きたいんだが……
あの子の持つ能力が危険だから、あるいは精神が不安定だからといって、これからもあの子を幽閉し続けるつもりかい?」
「それは……そんなことはしないわ。いえ、もうできないと言ったほうがいいかしら」
「どういう意味だい?」
「あの子は既に、外の世界に興味を持ってしまっている。
生きることの喜びや、楽しさを知ってしまった。今更あの子を籠の中に閉じ込め直すなんて、とてもじゃないけどできないわ」
そう語るパチュリーの顔は、嬉しそうでいて、悲しそうでもあった。
その顔を見るだけでも、この魔女は決して冷淡で悪意ある人物ではなく、優しくて思いやりのある女性だということが分かる。
「……あの子にそういった感情を教えたのは、僕でもある」
正確には僕と、あの子の姉であるレミリアだ。
僕が責任を感じていると思ったのだろうか、パチュリーはまるで慰めるかのように言った。
「別にそのことに関して、あなたを責めているわけじゃないわ。むしろ、感謝していると言ってもいいかしら」
「感謝?」
「ええ。勘違いしないで欲しいけれど……別に私だって、あの子を好きで閉じ込めてきたわけじゃない。
できることなら、あの子には幸せになってもらいたいもの。
私たちが数百年かけて出来なかったことを、あなたはたった数日でやり遂げたのよ。それについては誇ってもいいわ」
レミリアも似たようなことを言っていた気がする。
そうだ。目の前の彼女もレミリアと同じくらい、フランのことを想っているのだ。
原因や結果がどうあれ、あの子に笑顔が増えたことを、喜ぶことはあっても嘆くことなどあるはずがない。
「あなたはよくやってくれたわ、もう十分よ。あの子ともう会うなとは言わない――言ってもあの子が聞かないでしょうけど。
ともかく、あまりあの子に深入りしすぎないで欲しい」
パチュリーはそう言って、再び霖之助の顔を見つめてきた。
その顔は真剣そのもので、か弱そうな見た目とは裏腹に、有無を言わさない迫力のようなものがあった。
そんな顔で見つめられながら、霖之助は考える。
彼女は魔女だ。それも相当な使い手の。
そして同時にレミリアの親友でもあり、フランにとっては家庭教師か、もしくはもう1人の姉のような存在なのだろう。
そんな彼女がこの数百年間、どのように過ごしてきたか。
フランが暴走しそうになったり、外に出ようとしたときには、レミリアと共に真っ先にそれを抑える役目を担っていたのだろう。
彼女が常駐する図書館と、フランの部屋が同じ地下にあるというのも、そういった理由が含まれているのかもしれない。
時には魔法で雨を降らせ、時には館に結界を張り、そして時にはフランと直接対峙する。
あの子のことを想っていながらも、いや、想っているからこそ、あの子を館に閉じ込めざるを得なかった。
それは恐らく、あの子の実の姉であるレミリアと同じぐらい辛いことだったのではないだろうか。
そんな辛い思いをしながらも、あの子のためを想って幽閉し続けていた。
それなのに――
それなのに、ある日出会ったどこの馬の骨とも分からない半妖が、あっさりとあの子を解放してしまった。
物理的な束縛からも、精神的な呪縛からも、あっさりと解き放ってしまったのだ。
あの子の危険性も理解していない、完全な部外者が。
そう考えると、彼女が憤りを覚えるのも無理はない。
しかしそれでも、その半妖のおかげであの子に笑顔が戻ったのも事実である。
憎むべきか、感謝すべきか、彼女は自分でも判りかねていたのだ。
だから霖之助に対し、怒りをぶつけるでも親しみを覚えるでもなく、まるで推し量るような曖昧な態度で接していたのだろう。
彼女の気持ちは分かる。
そして彼女の言っていることが間違っていないのも分かる。
それら全てを理解した上で、霖之助はこう返答した。
「残念だが……その頼みは聞けないな」
その言葉に対し、パチュリーは一瞬呆けたような表情を見せたが、すぐに眉間に皺をよせ、霖之助を睨み付けた。
「……私の話が理解できなかったのかしら?」
「いいや、君の言ったことに間違いはないし、君の気持ちも理解できたつもりだ」
「だったら――」
「だとしても、君の言う通りにはできない。あの子と距離を置いたり、あの子の問題に深入りしないなんてことは、約束できないよ」
「……なぜ?」
怒りを露わにするかとも思ったが、彼女にいたっては無用な心配だったようだ。
もちろん内心ではかなり憤っているだろうが、それを言葉や行動に表したりはしない。
それでも隠し切れない怒りや疑念が、わずかな仕草の節々に表れている。
「なぜも何も、僕がそう決めたからさ。あの子がこれから先も、笑って生きていけるように力を尽くすとね」
そう、僕は以前そう誓ったのだ。
「それが僕なりの責任の取り方だよ。あの子が外に出る原因を作った、僕なりのね」
「……それについては、それでいいかもしれない。けれど、あの子が問題を起こしたときはどうするの? 何の力もない半妖さん」
まるで挑発するかのようにパチュリーが問い詰める。
彼女が今までそうしてきたように、いざという時フランを止めることができるほどの力を、彼は有していないのだ。
それについてはどうするつもりなのだろうか?
(それとも私が知らないだけで、何らかの強力な能力を持っているとでも……?)
パチュリーの頭の中をそんな疑念がよぎったが、それを打ち消すように霖之助は言った。
「確かに僕自身の力は大したことはない。マジックアイテムの製作についてはそれなりの自信があるが……あの子を止めるだけの力は持っていないね」
男だというのに情けない、などと言って霖之助は肩をすくめる。
「だったら大人しく身を引き――」
「確かに僕自身に力はないが」
言いかけたパチュリーの言葉を制し、霖之助ははっきりと告げる。
「僕の知り合いなら、あの子を止めることができると思うよ」
は?
目の前の男は一体何を言っているんだろうか。
ここまで食い下がっておきながら、最後の最後で他人任せだと?
それはつまり、彼自身は責任を取るつもりがないということだろうか?
ここまで大人しく話を聞いていたパチュリーだったが、さすがにこの一言には怒りを覚え、それを通り越して呆れた後、さらにそれを越えて怒りが戻ってきた。
(この男、いざとなったら自分は知らんぷりするって言うの――ッ!)
思わず懐のスペルカードに手が伸びる。
こうなったら少しぐらい痛い目に合わせるべきか。
そうすれば、この問題に軽い気持ちで首を突っ込んだことを後悔するかもしれない。
それで大人しく引き下がるのなら良し。そうでなくとも、一発どついてやらないとこちらの気がすまない。
そんなパチュリーの剣呑な様子を察した霖之助は、目の前に危機が迫っているのにも関わらず、特に取り乱すこともなく、落ち着いて言った。
「君は何か勘違いしているようだね」
「勘違いですって? 一体何を――」
「僕は別に、全てを他人に投げ出すと言っているわけではない。ただ少し、手を借りると言っているだけさ」
そもそもだね、と霖之助は前置きしつつ、
「第三者の手を借りるということは、そんなに悪いことなのかい?」
「………………」
パチュリーの動きが止まる。
それを見た霖之助は、ひとまず落ち着いてくれたかと内心安堵しつつ、続きを語っていく。
「知っての通り、霊夢と魔理沙とは親しい仲でね。服や道具の修繕を受け持っているほか、時には食事を共にしたり、ウチに泊まっていくこともある」
特に魔理沙とは、彼女が幼い頃からの付き合いだ。
「そして彼女たちはご存知、異変解決のプロフェッショナルだ。実力の方は申し分ない。
実際にフランにも勝ったことがあるのは、君も知っているだろう?」
それについては勿論知っている。
何を隠そう、その時パチュリー自身も彼女らに撃墜されたのだから。
「その2人でも手に余るようなら、天狗や花の妖怪に頼んでみてもいいかもしれないな。
人里に最近できた寺にもツテがあるし……冥界の剣士では少し心許ないか」
霖之助は自分の知り合いでかつ、それなり以上の実力を備えた人物を、1人1人挙げていく。
否、それなり以上どころか、幻想郷でもトップクラスの実力者さえ、その中には混じっていた。
「極めつけは妖怪の賢者とその式神。彼女たちでも止められないなんてことは有り得ないだろう。
多少の代価を払う必要があるかもしれないが、断られることはないはずだ」
妖怪の賢者、八雲紫。
確かに彼女の手を借りられれば、暴走したフランを傷付けずに止めることなど、いとも容易いことだろう。
そして目の前の男は、彼女の手を借りられると、そう言った。
「……確かに、今言った連中の手を借りれば、いざという時でもあの子を止めることができるでしょう。けど――」
「けど、部外者の手を借りるのは気が進まない、かい?」
「………………」
言おうとしていたことを言い当てられ、パチュリーが押し黙る。
だが、そう思うのは当たり前のはずだ。
あの子の問題は紅魔館の問題であり、そうである以上、それは身内で解決すべきである。
問題自体が深刻で、場合によっては危険を伴う以上尚更だ。
「確かに、やたら滅多に部外者を頼るのは良くないかもしれない。
だがね、自分たちではどうしようもない問題に直面したときは、他人を頼るというのも大事だと、僕は思う」
それはパチュリーにはない発想だった。
身内の問題は身内で何とかする。何とかしてあげるのが身内という存在なのだ。
パチュリーは今までそう思ってきた。
「だから、レミリアは僕を頼ってきたんだと思うよ」
そう、自分たちではどうしようもできないからと、レミリアは霖之助を頼ってきた。
あのプライドの高い吸血鬼が身内の問題のことで、取るに足らない存在であるはずの半妖の男を頼ったのだ。
それは全て妹を想ってのことであり、自分のプライドや威厳など、全く気にかけない行動であった。
だからこそ霖之助は、レミリアのことを吸血鬼としても、そして姉としても高く評価している。
「ろくに努力もせず人を頼ったり、全てを他人任せにしてしまうのではなく、あくまで協力を求めるだけさ。
それだけで、大抵の問題は解決できると思うよ」
特に、個人個人が何らかの能力を持ち、一芸に秀でた、あるいは万能な者たちが多数存在している幻想郷なら尚更だ。
「それに――君もかつてはその"部外者"だったんじゃないのかい?」
彼の言う通りだと、パチュリーは思った。
今から何百年前になるだろうか、正確な年月は覚えていない。
初めてレミィに会ったとき。
最初は敵対していた彼女。
数日間にも渡る激闘の末、私たちは和解し、親友になった。
初めて美鈴に会ったとき。
彼女はレミィの部下として、私の前に立ち塞がった。
私の魔法を掻い潜り、至近距離で放たれる体術には相当手を焼いた。
初めて咲夜に会ったとき。
あの子はレミィの命を狙って館にやってきた。
あの子の能力を初めて味わったときは本当に驚いた。
初めて小悪魔に会ったとき。
彼女は私の使い魔だ。
広大な図書館をレミィに任された私は、とても1人では管理しきれないと、あの子を召還して契約を結んだ。
そして――初めてフランと会ったとき。
初めは警戒されていたのか、どこか余所余所しい態度を取っていた彼女。
彼女に本を読んであげるようになって、いつの間にか親しくなっていた。
小生意気で悪戯好きだけど、本当は素直で優しい子。
いつしか私は、この子を救ってあげたいと、この子自身が抱える闇から守ってあげたいと、そう思うようになった。
親友の妹だからだとか、同情の念だとか、そういった理屈を抜きにして――
そう心から思ったとき、私はあの子を『他人』ではなく、自分の『家族』と認識するようになったのだ。
この男も、自分が今まで歩んできた道のりを、今まさに歩いている途中なのかもしれない。
『他人』や『部外者』から、『友人』や『家族』へと――
「僕はフランと出会ってからまだ間もない」
男は再び語り出す。
「それでも、彼女を救ってあげたいと思う気持ちに、嘘偽りはない」
金色の瞳はパチュリーの目をしっかりと捉え、自分の意志を言葉にして紡いでいく。
「僕はそのために尽力するし、僕の力だけでは無理というのなら、先も言ったように僕の知り合いの力を借りてでも、彼女を守ってみせると誓おう」
その言葉からは、確固たる意志が伝わってくる。
「だから――僕があの子を救おうとすることを許して欲しい」
そう言って、霖之助は軽く頭を下げた。
目の前の彼女が、フランのことをどれほど想っているのかを理解しているからこそ、頭を下げずにはいられなかった。
「……あなたは甘すぎる」
それを見たパチュリーは、言外に頭を上げるよう促しつつ、語り始める。
「あまり甘やかしてばかりいると、レミィみたいに我侭に育ってしまうわ」
「……その辺は、気を付けようと思う」
「どうかしらね。魔理沙の例もあるし、何だかんだで甘やかしてしまうんじゃない?」
「確かにね。ならその時は、君が代わりにフランを叱ってやってくれ」
「呆れた……また人頼み?」
「持ちつ持たれつ、さ。僕にできないことは君がやり、君にできないことは僕がやる。君と僕の両方にできないことは、また別の誰かを頼ればいい」
そうやって人の輪は広がっていくんだからね、と霖之助は付け足した。
「……そう、ね。あなたが飴で私が鞭というのが少し気に食わないけど」
「それは仕方ないさ。誰かさん曰く、僕は"甘すぎる"らしいからね」
「事実でしょう?」
「否定はできないな。しかしまあ、子供を叱るのは基本的に『家族』の役目だろう?」
「私があの子の『家族』なら、あなたはあの子の何なのかしら?」
「今のところは『友人』か、よくて『兄』といったところだろうね。向こうがどう思っているかは知らないが」
「あら、『兄』も家族に含まれるんじゃない?」
「この場合の『兄』とは『近所の兄貴分』程度の意味合いだよ」
「いっそのこと本当の『兄』になってみてはどう? もれなくもう1人妹が付いてくるけど」
「丁重にお断りしよう。世話の焼ける妹はこれ以上いらないさ。
――それよりも今の言葉は、僕のことを認めてくれたと、そう解釈していいのかな?」
「……好きにしなさい『お兄さん』」
「ありがとう『お姉さん』」
2人はそう言って、お互いの立ち位置を再確認する。
立場は違えども、共に望むことは変わらない。
願うのはある吸血鬼の幸せだ。
(やれやれ、あの子の姉はレミリア1人だと思っていたが――まさかもう1人、こんな気難しい姉がいるとはね)
霖之助は言葉を発する代わりに、苦笑を浮かべながらそう思った。
「霖之助ー! 終わったよー」
フランが元気良く図書館に飛び込んできたのは、それからさらに10分ほど後のこと。
パチュリーとのわだかまりが解けた霖之助が、ようやく落ち着いて読書に没頭していた――まさにその最中だった。
「……おかえり、フラン。片付けは済んだのかい?」
読みかけの本を名残惜しそうに机に置き、フランに問いかける。
「うん、もう大丈夫! ささ、早く行こうよー」
「そんなに引っ張らなくても今行くよ。じゃあパチュリー、また後ほど」
「ええ、また昼食のときに」
ひとまず別れの挨拶を交わした霖之助とパチュリーを見て、フランが「んん?」と訝しむ。
「パチュリーと霖之助、何だか仲良くなってない?」
ただ挨拶を交わしただけだというのに、さっきまではそんなに仲が悪そうに見えていたのか。
「まあ、僕も彼女も本が好きだからね。話してみたら、意外とすぐに打ち解けたよ」
「ええ、初対面だから警戒していたけど、思ったよりもいい人だったわ」
先刻のやり取りを隠すよう、適当に話を合わせる2人。
「ふーん……」
そんな2人の様子に疑念を抱いているのか、それとも他に気に入らない理由でもあるのか、フランは口をへの字に曲げている。
「それより、部屋の片付けが済んだんだろう? 早く行かないと昼食の時間になってしまうよ」
「それもそうね、じゃあ行きましょう、霖之助!」
「はいはい……って服を引っ張るのはやめろと――!」
「ねえフラン」
霖之助の袖を引っ張って、図書館を後にしようとするフランをパチュリーが呼び止める。
「ん? なぁにパチュリー?」
「あなたは……店主のことが好きかしら」
静かに、ゆっくりと間を置いて尋ねるパチュリー。
それに対しフランは、
「うん!」
と、邪気の欠片もない満面の笑みで答えた。
「……そう、良かったわね、店主」
魔女はそう言って嫌らしい笑みを浮かべた。
「……ああ、そうだね」
対する霖之助は気恥ずかしそうに、しかしその感情を極力表には出さないように努めている。
(魔女め……最後の最後に嫌らしいことを)
内心歯噛みする霖之助だったが、ふと、魔女に対する意趣返しを思いついた。
「……ときにフラン、パチュリーは厳しいし、無口だし、何を考えてるか分からないから、苦手だと思うことがあるだろう?」
そっちがそう攻めてくるなら、こっちは逆のベクトルで返してやる。
パチュリーの口元が、ほんのわずかに歪むのが見えた。少し後が怖い。
少し悪質かな、とも思ったが、フランが本気でパチュリーを嫌っていないことなど、本人もちゃんと理解しているはずだ。
それでも本人の口から放たれる「うん、ちょっと苦手かも」などという一言は、多少なりとも破壊力を伴っているだろう。
自分とフランが立ち去った後、1人図書館でガラにもなく落ち込む魔女の姿を想像すると、若干胸がすくような気がした。
そんなことを期待してフランに話を振ったのだが、
「え? そうかなあ……パチュリーも何だかんだで優しいし、私は好きよ」
その期待はあっさりと裏切られた。
「……そうかい、良かったねパチュリー」
思惑が外れたことに対し、少し残念な気持ちになる霖之助。
だがその落胆は、パチュリーの方に向き直った瞬間、どこかへ吹き飛んでしまった。
「……そう、ありがと」
見るとパチュリーは、先ほどまで机の上に置かれていたはずの本を手に取り、それを広げて顔を隠している。
どうやら本を読んでいるつもりらしい。
その本はさっき読み終えたはずだとか、本が逆さまになっているとか、色々と付け入る隙はあったが、これ以上やると本当に後が怖いのでやめておく。
望んだ結果とは違ったが、相当なダメージを与えられたようだ。
パチュリーからこちらの顔が見えないのをいいことに、してやったりといった表情を作る霖之助。
いやまあ、結局はフランの1人勝ちなのだが。
「それじゃあパチュリー、また後でね!」
元気良く図書館の出口へと駆けていくフラン。
「それじゃあ僕も、また後で」
その後を追う霖之助。
「……ええ、また後で……覚えておきなさい」
2人を見送るパチュリー。不穏な単語が聞こえた気がする。
フランが先に図書館から出たのを見計らい、霖之助は出口付近でパチュリーの方に向き直って言った。
「君の想いは、ちゃんと伝わっていたみたいだね」
それだけ言い残し、反論や返事も聞かずにその場を後にした。
「………………」
残されたのは魔女が1人。
図書館は再び静寂を取り戻す。
外の廊下からは男と少女の楽しそうな声が、微かに聞こえてくる。
その声に耳を傾けながら、図書館の魔女は穏やかに微笑んだ。
「……せいぜいあなたも頑張りなさい」
誰にでもなくそう呟き、今度こそ読書を再開するパチュリー。
2人が去った後も、図書館は優しい空気に包まれていた。
そして霖之助の人脈が半端ない…w
今後も楽しみに読ませて頂きます。
それはそうとして、この二人なんというイケメン・・・・っ!!
感情の描き方が勉強になります。
次回も期待してます。
弱者には弱者なりの立ち回り方があるってことですね。
強者の集団である紅魔館には賭けがちな発想かも
フランの「うん!」ていう台詞に癒しを感じるのは俺だけではない筈。