Coolier - 新生・東方創想話

今宵は永夜をあなたと共に  前編

2010/05/01 16:15:39
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この作品は創想話作品集54「魔法使い達の夜」の設定(ある理由で紅魔組と冥界組は異変に関与しない等)を一部引き継いでいますが、未読でも問題ないと思います。

よろしければこの先へどうぞ。




















――――忘れないで

あなたが守りたいと願ったものに

あなたも守られていたことを――――


















いきなりだが、今のわたしがこのようにあるのは、じいさんの影響が大きい。
人里の商家の生まれの娘が魔法なんてもの触れることができたのも、じいさんの道楽で妖怪退治の道具を扱っていたおかげだし、魔法の森の家もじいさんが若いとき住んでいたもの。
親父が渋い顔をしながら、娘のやることに口出ししてこなかったのも、じいさんが睨みを効かせてくれていたからだ。
孫に甘いじいさんだったが、里では誰もが知る一廉の人物だった。
酒と歌と相撲が好きで、酒樽を担ぎ祭りに参じ、祝いの席では自慢の喉を披露。若い頃には里の奉納相撲で、河童を負かし優勝したこともあった。

じいがついておる

そういって守ってくれた。
無条件で、味方でいてくれた。

年の瀬も押し迫った師走の夜。
じいさんが亡くなった。

親父との確執が表面化する。
事あるごとに言い争い。
気がついた時にはもう、親父との関係を修復することは不可能だった。
喪が明けてすぐ、親父に自分の想いを伝える。
一人娘に、妖怪退治を生業にしたいと言われた親の気持ちはどんなものだろう。
「駄目だ」
あいつに追いつくために、自分の道を進むと決めた。
「あれは博麗の巫女だ」
その想いが親父に理解されることは無かった。
「おまえとは違う」
親父と最後にした大喧嘩。
その夜、わたしは家を飛び出した。








☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









蒼白い月の光に照らされた境内。
巫女により掃き清められた石畳がその光を鈍く反射している。
静まりかえった博麗神社。
最近増えた居候も今は不在なのか、巫女は一人就寝中。
月明かりが障子越しに差し込み、和紙の張られた細かな格子が畳と巫女の布団に幾何学的な模様の影を描く。
日中は束ねてあった艶のある黒髪を下ろし、白の寝巻き姿で眠りにつく少女。
掛けられた布団の胸の辺りが規則正しく上下し、形の良い唇から僅かに寝息が漏れる。

ンッ

布団の中で寝返りをうつ少女の僅かに寝息が乱れる。

フゥ

寝苦しいのか目を閉じたまま眉を顰めると再び寝返りをうつ。
その拍子に布団がめくれ、寝巻きの胸元が夜気にさらされる。

ァッ

少女の寝息は乱れ、枕の上で何度も首を振る。
「……っ」
苦しそうに、何かに耐えるように眠る少女の口から言葉が漏れる。
「ぁ…めぇ」
首筋は湿り気をおび、額には珠の汗が浮かんでいる。
「そ…んなっ、無…よ……」
上気した少女の頬は桃色に染まり、息遣いが荒くなる。
「そんな…、…れたら、こわ…れ、ちゃぁっ」
「異変よ、霊夢!」
「ゲボッ」
真夜中、当然アポなしで巫女の熟睡タイムに現われたスキマ妖怪。
博麗神社の霊夢の寝室に、それも就寝中の布団直上に開いたスキマから突然現われた紫は、自重による自由落下を敢行。布団の上からとはいえ鳩尾を強打された巫女の口から年頃の少女とは思えぬ呻きがこぼれた。
熟睡タイムを強制終了された霊夢は。
ガバッ
紫を掛け布団ごと跳ね除け。
ブスッブスッブスッブスッブスッブスッブスッブスッ
布団ごとスキマ妖怪に退魔針を雨霰と投げつける。
「あらあら、どうしたのかしら?」
ハリネズミのようになった布団の残骸が畳の上の落ちると同時に廊下に面した障子が開き、何事も無かったかのように優雅に巫女の寝室へ入り込む八雲の大妖。
針を投げつける前に御札でスキマを封じなかった霊夢の戦術ミスだが、寝起きでは仕方がない。
「いきなりなに!人が気持ちよく寝ていたのに、どういうつもり!」
馬鹿なの?死ぬの?とばかりにスペルカードを取り出し詰問する。
「いきなりなんて失礼ね、たっぷり小一時間は寝顔を鑑賞させていただいたわ、スキマからだけど、それより緊急事態よ!」
「緊急事態なのに一時間も覗き見か」
「霊夢の魅力が私を捕えて離さなかったのよ」
霊夢は上目遣いの紫を前に、部屋の結界強度を一桁上げることを決意した。
「さて、遺言を伝えて欲しい相手はいる」
真顔で符に霊力を込める巫女。
「まあ、そんな『賽銭箱が壊れそうなくらい、いっぱいお賽銭をいれてもらっている夢』の最中に起こされたような不機嫌な顔をしないで話を聞いて、ね」
「よし、コロス」
巫女は閻魔も真っ青なスピードで白黒つける。

『夢想封印』

取り出したカードに霊力が込められ、スペルが発動する。

結界 『八雲式』

さりげなく問答無用で式の九尾を盾にした紫。
「いきなりこんなのなんて激しすぎるわ」
何故か俯き頬を赤らめる紫。
その横に黒焦げでピクピク痙攣する九尾の式神。
霊夢は無言で追撃のコンボに入る。
「霊夢殿、話を聞いてください。おねがいします」
後生ですからと涙目で足にすがりつく藍の仲介により、神社の居間に会談の場が設けられることとなった。



「粗茶ですが」
「いえいえ、お構いなく」
馴れた手つきで出されたお茶を口にする紫。
「人の家でなに勝手しているの!」
そんな八雲の主従のやりとりにつっこみをいれる。
「気にしないで、藍も好きでやっているのよ」
「遠慮は無用、茶葉は出涸らしだがまだ色がつくぞ」
笑顔で卓袱台に湯のみを置く最強の妖獣。
「出涸らしで悪かったわね」
湯のみをもつ霊夢の手が震える。
「あ、奥の戸棚にのり煎餅があるから持ってきて」
「畏まりました」
すっかりリラックスモードで式に命じる八雲の大妖。

ブチッ

「なんであんたが煎餅のこと知っているのよ!っていうかなにしにきた!」
なにかが切れる音と共に額に青筋を浮かべ意見する。
「まあ、ゆっくり……」
「してられるか!すぐ用件を言いなさい。じゃなきゃ……」
御幣を手にゆらりと立ち上がる。
「狩るわよ」
声のトーンが下がり、目が完全に戦闘モードのそれになっている。
「はいはい、藍」
紫の声で姿を消す八雲の式。
「座りなさい」
「最初からそうしなさいよ」
態度を豹変させた紫を前にして何事も無かったかのように座りなおす巫女。
いちいちスキマの気まぐれに目くじら立てていてはスペルカードが何枚あっても足りない。
そのことを博麗の巫女は短くない付き合いから学んでいた。
「異変なのよ」
「だから、なんの異変よ」
異変解決の専門家たる博麗の巫女は動く異変感知器ともいえる存在。
その巫女が感知してないのだから異変は起きてないといっても過言ではない。
「そうね、気がつかないのも無理ないわ」
「なんでよ」
「だって私が隠しているんだもん」
紫は誇らしげに胸を張る。
「なんだ、そうなのか」
さてこれで解決とばかりに笑顔で御札を取り出す。
「イヤ~ン、まだ話は途中よ」
紫は扇子を広げ口元を隠す。
「異変に気がついたのは少し前のことよ」
博麗大結界の維持、修復は幻想郷の管理者の重要な責務である。
影響しうるだろう幻想郷の風の流れ、気の流れ、竜脈、水脈、その他あらゆる要素を観測し、記録し、分析してきた。
だからこそ気がついた違和感。
なにか大規模な術の準備が進み、決行されようとしている気配。

異変の前触れ

「なにごとも準備が大切よね、対策を講じていたことが有事の際には役に立つのよ」
実務担当者である藍の名を端折って霊夢に説明し、エヘンと胸を張る。
「なんで異変を隠し立てしているの」
「それはね」
扇子の向こう、紫の目つきが険しくなる。
「とても危険だから」
なにげない紫の一言が霊夢の背筋を凍らせる。
紅霧のときも春雪のときも幻想郷の管理者たる紫は異変に関与しなかった。
その紫をして危険と言わしめる異変。
「そうね、百聞は一見に如かず」
見ていなさいと言い放ち、片手で扇子を開き

パチッ

扇子を閉じる。
「これは」
霊夢の肌が粟立つ。
いきなり立ち上がると庭に面した雨戸を開け、夜空を見上げる。
「神社の周りの境界を元に戻したわ」
隣に立ち紫は夜空を見上げる。
その視線の先には巨大な異形の月。
「ただの妖怪ならこの月で狂ってしまうわ」
「そうね、里の人間もただではすまないわよ」
紫の言葉に、霊夢はサッと室内に戻る。
「あら、お出かけ」
「ちょっとね」
準備を整えた霊夢を玄関で待ち構えていた紫。
戸締りをして引き戸に貼り紙をする霊夢。
その張り紙をジト目で見る八雲の大妖。
「なに、文句でもあるの」
「……まあ、なにごとも準備は大切ね」
貼り紙の内容に一言あるが、巫女の鋭い視線が紫のそれ以上の発言を許さなかった。
「じゃあ出かけましょう」
「……ついてくる気」
「二人の初めての共同作業ね」
「だから俯いて頬赤らめるな!」
「もう、照れちゃって」
「勝手にしなさい」
勘の命じるまま夜空に飛び立つ巫女。
紫はフワリと浮き上がりその後を追う。










☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









雲の隙間から差し込む月の光。
神社の境内に降り立つ影が一つ。
「・・・・・・歪な月」
フワリと着地すると、髪をかきあげ夜空を見上げる少女。
異変の前兆。
月がオカシイと感じたのは何時からか。
大規模な術の準備を進めている気配。
その兆候は魔法使いの神経を逆なでた。
月と魔は、多くの物語にも出てくるほど深い関係をもつ。
オカシナ月の異常な波長。
それは彼女にとって害悪でしかない。
例えるなら、板チョコのはがし忘れた銀紙に気がつかず、思い切り奥歯で噛み締めた際の不快感が四六時中続くようなもの。
前兆ですらそうなのだ。
月の異変がどれほどの被害を及ぼすか。
人も妖も無関係に、幻想郷に住む全てのものを容赦なく襲う異変。
しかし、今は大きな混乱は起きていない。
異変を阻む力が幻想郷を覆っているのだ。
今宵の終わらぬ夜はその結果。
石畳に置いた大きめの鞄を見る。
準備はしていた。
あとは行動するのみ。
そう思い紅魔館を出た足で訪れた神社
しかし、巫女とは入れ違いになったらしい。
居候の気配もない。
母屋に向かい、玄関に張られた張り紙を見て溜息をつく。
巫女は、今宵の永夜を演出したものと一緒に出かけたのだろか。
さて、このまま巫女を追うかと思案する。
やらなければいけない用事を一つ思い出す。
彼女は再び夜空を見上げる。
空に浮かぶは歪な月。
「行くわよ。上海、蓬莱」
人形達を従えて、人形遣いは魔法の森へ飛んだ。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









「そこっ!」
竹林の妖に、クナイ型の弾幕を撃ち込み撃退。
八双跳びよろしく、竹林を縦横無尽に跳びまわり妖を次々倒していく金毛九尾。
八雲藍。
最強の妖獣にして、幻想郷の結界を管理する八雲紫の式。
主のためならいかなる無理難題にも笑顔でこたえる。
まさに式の鑑ともいえる存在だ。
日頃、多忙を極める主に成り代わり、結界管理のため幻想郷を東奔西走する彼女に与えられた任務は唯一つ。
『二人の邪魔をさせないこと』
紫はただ一言、そう藍に命じた。
異変解決のため、博麗の巫女と主を護るという重要任務。
あらゆる危険要素を事前に察知し、その芽を摘み取る。
主を護るための戦働き。
これぞ式の本懐。
幻想郷屈指の実力を持ちながら、主から命じられる日々の仕事は食事の支度や掃除洗濯といった雑務。
それに比べ今宵の使命のなんとやりがいのあることか。
群れを成して襲い来る妖怪を大回転の働きで倒し、主達の身に指一本触れさせない。
式の開いた血路を、紫と霊夢は飛ぶ。
「霊夢、お腹すいたでしょ?」
紫は懐から笹の葉に包まれたおにぎりを取り出す
「なにそれ?」
「中身は梅干、鮭、おかかよ」
「そうじゃなくて」
「あら、サンドイッチのほうが良かった」
次は袖口からバスケットを出す。
「いらない」
「ほら、喉は渇いてない?お茶もあるわよ」
スカートの中から水筒がでてくる。
「いらないわよ」
「そ、そう……」
藍の目に映るのは、巫女に邪険にされ続ける主の姿。
先の春雪異変のとき以来、巫女をやたらと気にするようになった紫。
昨日は霊夢がどこへいったとか、今日は霊夢がなにをしたとか、そんなことに結界管理の仕事もそっちのけ。
そして、今回の異変。
紫は異変解決にかこつけて、夜のデートと洒落込んだ。
千載一遇のチャンスとばかりに張り切る紫。
朝から台所に立ち、鼻歌混じりでおにぎりやサンドイッチを作る主の姿など、藍は初めてみた。
しかし、現実は非情である。
思惑とは裏腹に、紫の行動はだだすべり。
異変のことしか頭にない巫女には、さぞ滑稽に映ることだろう。
親しくなるどころか、巫女と主の間に見えないジェリコの壁ができつつあった。
(紫さま……)
藍は主の身を案じるが、妖怪達相手に忙しくフォローすることも出来ない。
「あ、見て、キラキラしてとても綺麗よ」
竹林の闇で瞬き、輝きを放つ光のイルミネーション。
いつもより強く瞬く蛍の光。
その幻想的な美しさに思わず霊夢も見とれる。
地上の星空のように周囲で瞬く光。
美しき光は強く輝き、弾幕となって二人を襲う。

蛍符『地上の流星』

不意打ち。
それを横合いからクナイ弾が迎撃。
「大丈夫ですか」
九尾は二人を背後に庇う。
「大丈夫よ」
「助かったわ」
体制を整える紫と霊夢。
「危なかったわね、ここは藍に任せて避難しましょう」
「あんたねえ」
「霊夢殿、先に行ってくれ。すぐに追いつく」
「……そう」
紫は霊夢の手を引いてこの場を離れる。
「気をつけて」
「心配ない」
振り向いた霊夢に藍は笑顔を返す。
「さて、出てきてくれるか」
竹林からスペルを放った敵が姿を現す。
黒いマントに身を包んだ小柄な姿。
青い瞳、緑の短髪から二本の触覚が見える。
「蟲妖の類か」
「リグル・ナイトバグ。蟲の王と呼んでいただけないか」
蟲の王は光瞬く蛍を周囲に漂わせ、凛とした声で言い放つ。
王というより、騎士の風格を漂わせる。
その身に纏う蛍はただの蛍ではない。一匹一匹が光る妖弾を放つ妖蟲。
「八雲藍。面倒を押し付けられた」
毎度のことながら、主の式使いの荒さに愚痴の一つもでる。
「余裕だね」
「まあ、いつものことだ。早く終わらせよう」
「楽しんでいきなよ。せっかくのイカレタ月夜だから」
「そうはいかない、主の機嫌が悪くなる」
「宮仕え、風情を楽しむ暇も無し。か」
蟲の王はスペルカードを掲げ、妖力を込める。
身に纏う妖怪蛍の群れが輝きを増す。
藍はクナイを両手に投擲の態勢を取り、後の先を取るため意識を集中。
スペル発動のタイミングを読む。
「来い、小僧!」
藍の挑発。
妖怪蛍の群れが乱れ舞い一斉に散開。
藍もそれに対し四方八方に気を張る。
蟲の王は単独、藍へと疾走。
「わたしは……」
瞳が攻撃色の赤へと変わり、発動寸前のスペルカードを両手で掴む。
発動のタイミングを見極めようと、リグルの持つ符に集中する八雲の式。
「お・ん・な・だ!」
スペルカードを破り捨て、叫ぶ。
突拍子もない敵の行動に呆気にとられた藍。
怒り狂う蟲の王は、なりふり構わぬ飛び蹴りで特攻。
虚を突かれ、九尾はそれをまともに顔面で受けた。





「遅かったわね」
「申し訳ございません」
藍は出迎えた主に頭を下げる。
怒りに我を忘れた蟲の王との戦いは肉弾戦となった。
ガチの殴り合い。
先手必勝とはよく言ったもの、苦戦を強いられた藍。
最後のトリプルクロスカウンター。
藍はリーチの差で辛くも勝利し、主に追いつく。
紫の冷たい手が、藍の痛む頬に触れる。
「ご苦労様」
主の労いの言葉に痛みもひいていく。
「霊夢が心配していたわよ、あなたのこと」
「そうでしたか」
頭を下げたままの藍に紫の表情は見えない。
「……妬ましい」
「へっ」
思わず顔を上げる。
そこには笑顔のまま、瞳の奥に嫉妬の炎を宿す紫の顔があった。
「ずるいわよ、自分だけいいとこ見せて。霊夢ったら、ずっとあなたのことばかり。藍は大丈夫?とか、助けに行かなくていいの?とか」
「紫様、それは誤解……」
「おだまりなさい。霊夢も冷たいのよ、こっちのアプローチに全然気がつかない振りをして、これじゃあ折角のデートの意味がないわ」
「紫様……」
「いいから黙って聞きなさい。そこで気がついたの。このままではまずいって。なにが原因を考えたわ。こんなに頭を使ったのは大結界を張ったとき以来よ」
「……」
「そして、閃いたの。原因は……」
手にした扇子を式へ突きつける。
「わたしですか」
「そうよ、もともとデートは二人きりでするもの。そこに邪魔者がいたら霊夢も気になって素直になれないわ。そして今夜、危険に満ちた竹林という状況が吊り橋効果をもたらし、二人をシャングリラへと導くのよ」
藍はしたり顔で自説を話す主に対し、それが目的でわざと異変の前兆を見逃していたのかと僅かな疑いを持つ。
「ここからは、自分の手で敵を排除します。ちょっと面倒だけど、これも二人のアルカディアのため。力を合わせ困難に立ち向かうことでより一層絆が深くなるのよ、だから……」
八雲の大妖はニコリと式へと微笑む。
「呼ぶまでちょっと休んでいてね」
足元にスキマが開き、落下していく藍。
「大丈夫、必ずサンクチュアリへ辿り着くから」
「ご武運を……」
頭を下げたままの格好でスキマへ落下していく藍の表情は、悟りを開いた聖者のようだった。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









歪な月が照らす竹林。
その竹林を飛ぶ箒に乗った魔法使い。
人形達を従えた人形遣いが後を追う。
「妖気は向こうからよ」
「ほんとうか」
白黒の魔法使いは右に舵をきる。
「おい、もっとスピードでないのか」
「ここは敵地よ、あなたこそもっと慎重になったら」
「そんな速さじゃ夜が明けちまうぜ」
「雇われた癖に態度がでかいのよ」
「労働者は団結するぜ、なあ上海」
「シャンハーイ?」
首を傾げる上海人形。
神社を後にしたアリスが訪れたのは、魔法の森の霧雨邸。
そこで行われた魔理沙との弾幕戦。
いつものスペルカードの応酬。
それが互いに反応し生じた、予期せぬ大爆発。
霧雨魔法店での真剣勝負(商談)を経て、アリスは魔理沙を雇い異変解決へ乗り出したのである。
「上海、こいつのいうことなんか、いちいち答えなくていいのよ」
「シャンハーイ♪」
「おいおい、傷つくぜ」
そんな軽口を叩きながら、襲い来る妖怪達を倒し進んでいく。
「アリス、一緒に乗れよ」
「絶対に嫌」
竹林まで魔理沙の箒に同乗してきたが。
同乗者に優しさのかけらもない無謀運転に嫌気がさしたのだ。
「じゃあ、先にいくぜ」
「待ちなさいよ」
「只の威力偵察だ、すぐ戻るからゆっくり来い」
アリスが引き止めるより早く、黒白の姿は見えなくなった。



「あらよっと」
マジックミサイルで襲い来る妖を撃墜していく。
先に邪魔者を片付けて、相棒と合流しようと考えた矢先。
「……なんだ」
箒を止めて耳を澄ます。
微かに聞こえる旋律。
風に乗ってくるのか途切れながら、しかし、段々強くなる音。
「歌……か?」
そう認識した瞬間、月明かりで照らされていた竹林に闇が張り付いた。
視覚強化の魔法。
視界にうっすらと光が戻る。
目に映ったのは、すぐ傍まで迫る光弾。
急上昇でかわす。
敵を探すが、視野は薄闇に覆われたまま完全に回復しない。
耳の奥で歌声が大きくなる。
目前に弾幕。
直前、反射神経だけで回避、出鱈目にマジックミサイルを乱射。
視野を制限された闇のなか、敵の姿は見えず、弾幕も目前に迫るまで感知できない。
(さすがにやばいな)
自慢の火力も機動力も、視野を奪われては役に立たない。
相変わらず歌は響き続ける。
敵が放つスペル、弾幕を直前で回避。
反射神経と機動力で一つ一つ最小限の動きでかわす。
第一波、第二波と交差状に襲い来る弾幕。
八卦炉に魔力を込める。
「これで明るくしてやるぜ」

恋符『マスタースパーク』

魔砲は閃光を伴い、敵の弾幕を消し去る。
眩い光を放つ魔砲。
しかし、魔砲の光は周囲を照らすことなく、闇に飲み込まれる。
想定外の事態。
魔理沙は動揺を隠せない。
再度迫る弾幕、回避行動。
動揺が動きを鈍らせ、光弾が箒を掠めた。
バランスを崩す。
魔法使いに集中する弾幕。
マジックミサイルで迎撃。
敵の弾幕が厚い。
スペルカード使用直後、魔力が回復していない魔理沙。
歌声が一際大きくなる。
(押し切られる!)


魔符『アーティフルサクリファイス』

眼前にいきなり割り込んだ人形は魔力の爆発を放ち、迫る弾幕を消し去る。
「シャンハーイ」
上海人形が魔理沙の肩にしがみつく。
『今のは貸しとくわ』
人形の主の声。
「死んだら返すぜ」
体勢を立て直し、闇の向こうの敵を見据える魔理沙。
『今すぐ返す、こいつなかなか素早いわよ』
敵と交戦中なのか、声にいつもの余裕が無い。
「暗くて視界がほとんど無い、今撃ったらお前に止めを刺しそうだ」
『合図したら撃つ、狙いは上海に任せて』
「シャンハーイ!」
上海人形が八卦炉を構えるよう魔理沙を促す。
「借りっぱなしは、好きじゃないぜ」
魔理沙は上海人形と八卦炉を構え、魔力をチャージ。
『あいつを追い込むわ、あと10秒』
(9・8・7……)
八卦炉チャージ完了。
『6・5・4……』
上海人形が八卦炉の射角を調整。
(3・2・1!)
『今よ!』
白の魔砲が唸りをあげる。
耳に張り付いていた歌声が悲鳴に変わり消えていく。

視野を遮る闇が消え、竹林に明るすぎる月明かりが戻り見慣れた顔が飛んでくる。
「よお、アリス久しぶり」
「なにが久しぶりよ、やられる寸前だったじゃない」
「敵は?」
「向こうで倒れている。ミスティアと名乗っていたわ、夜雀の妖怪よ」
「夜雀が相手だったのか」
「それがどうしたの」
「ああ、おかしなことがあってな……」
魔理沙は歌声のこと、視野を奪う闇についてアリスに話す。
「それは幻覚の闇、歌に込められた呪のせいね」
「だからスペルカードも効果なかったのか」
「幻覚の闇にはパワーも役に立たなかった、という訳ね」
アリスの言葉に少しむっとする。
「おまえは大丈夫だったのか」
「人間の脳を揺するには十分だけど、パワー不足だったみたい」
「本当か、お前の耳が悪いんじゃないのか」
「どういうこと」
「モスキート音が聴こえてない……」
ゴツン!
「イッ……痛いって、おまえ角は無いだろ、角は!」
マリサは頭を両手で押さえて、涙目で非難の声を上げた。
「天罰よ」
いつのまにか取り出した魔道書で天罰を与えた。
「少しは懲りた?勝手ばかりしていると、今に取り返しがつかないことになるわよ」
「わかっている」
魔理沙はいい笑顔でこたえる。
溜息をつく人形遣い。
「出発だぜ」
「それじゃあ、いきましょうか」
「?」
箒に過重を感じ振り返る。
後ろに座り魔理沙の腰に手を回すアリス。
「乗りたくないんじゃなかったのかよ」
「また勝手にされたら困るのよ、安全運転でお願い」
「いつも安全運転だぜ」
箒は二人の魔法使いを乗せ飛翔した。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









「ふう、思ったより邪魔が多いわね」
紫は笑いかける。
「あんたね、人の家にスキマで押しかけていきなり異変だなんて」
浮かれた様子の紫を、憮然とした表情で霊夢は睨む。
「しかも一緒に解決しようなんて、どういうつもり?」
歪んだ月が浮かぶ竹林。
迷いの竹林のなかを勘だけで進む霊夢。
霊夢の後ろからついていく笑顔の紫。
異変解決は巫女の役目。
人間と妖怪の奇妙な道行。
「こんな明るい月夜だと、逢引したくなるじゃない」
「こんな物騒な竹林がデートコースなわけ」
「あら、月光に照らされた竹林と蛍のイルミネーション、ちょっと他では味わえない趣よ」
「そうね、妖怪で弾幕張って、そのうえご丁寧にスペルカードまでだしてきたわね」
「ものごとの悪い面だけ取り出して、悲観するのは人間の悪い癖よ」
「いい面だけ見て喜んでいると、あんたみたいなお気楽妖怪が出来上がるのね」
「もう、霊夢ったら、照れちゃって」
博麗神社を後にした二人は、霊夢の勘に従い迷いの竹林へ辿り着いた。
そこで異常な月と明けぬ夜に浮かれた妖怪たちから、弾幕の手荒い歓迎を受けたのだが、ただ黙って受けていたわけではない。
弾幕の歓迎を倍返ししながら、竹林を異変の中心へと進む。
突然、その二人の前に人影が飛び出てきた。
「とまれ、ここから先は通行止めだ」
腰まで伸びた長い髪。
女性らしい凹凸のある体つき。
そして、なによりも目を引くのはその頭にある特徴的な帽子だろう。
「この先って、なにもないじゃない」
霊夢が不思議そうに女性を見る。
「あら、霊夢には視えないのかしら?」
「見えないって、なにがあるのよ」
「この先にある人里よ」
「竹林の近くに里はあるけど、ここにそんなもの見えないわよ」
紫に言い返す霊夢。
「おまえ・・・・・・」
「おまえなんてイヤ、ゆかりんって呼んでね」
「・・・・・・視えるのか」
「なにかまやかしがかけてあるけど、しっかり視えるわよ」
紫の金色の瞳で見つめられ女性に緊張が走る。
「ユカリン・・・、ゆかり・・・、八雲の大妖か?」
「そうよ、そしてこちらが博麗の巫女。私の霊夢よ」
「誰があんたのものよ、このスキマストーカー」
抱きついてくる紫を両手で押しのける霊夢。
「上白沢慧音。この先の里の世話になっている」
バカップルを前にいささか引き気味に自己紹介をする。
「ああ、人里に関わる奇特な半獣ね」
紫は珍しいものでもみるように慧音を見る。
「満月が消えた今夜は只の人と変わらないわね」
「たしかに、そうだな」
頷くと慧音はしげしげ霊夢と紫を見る。
「しかし幻想郷の管理者と守護者がおそろいとは大事だな」
「そうなのよ、本当に巫女の世話は大変よ」
「偉そうね、仕事は藍に任せっきりのぐーたら妖怪が」
「あら、霊夢ったら焼き餅かしら?」
オホホウフフと笑顔で交わす霊夢と紫の会話を前に、ひきつった笑顔を浮かべる里の半獣。
「で、何処に行こうとしている」
「あっち」
「こっち」
慧音の問いかけにバラバラな方向を指差す二人。
「異常な月の原因を作った奴なら。そっちだ」
痛む頭を片手で抑え、二人とは違う方向を指差す里の半獣。
「あら、ありがとう」
「ちょっと行ってくるから、里のこと宜しく頼むわね」
「承知した」
「特に団子が名物のお茶屋と、美味しい栗の木のある反物屋、通りの角の甘い柿のある農家は死守しなさいよ」
「ああ、分かっている」
慧音の返事にウムと頷くと夜の竹林の奥へと飛び立つ霊夢。
「いいのか」
「なにが」
慧音は霊夢の後を追おうとする紫を呼び止める。
「わたしは奴らの仲間かもしれないぞ」
「いいのよ、霊夢があなたを信じたのだから間違いないわ」
紫は笑顔で答える。
「そちらこそ良いのかしら」
「なにがだ」
「私達のことあっさりと信用して、偽者かもしれないわよ」
紫は胡散臭い笑みを浮かべる。
「……霊夢殿が里を気にしていただろ」
「ほんとに困った巫女なのよ」
異変解決の最中に団子と栗と柿の心配をする巫女の弁護を、紫は端から放棄している。
「お茶屋の小夜と反物屋の市、それに農家の源太。誰だか分かるか」
「さあ、人里のことはあまり詳しくないわ」
「わたしが隠した里に生まれた幼子達だ」
「そう……」
「本物の博麗かどうかは兎も角、彼女は信頼に値する人物だ」
慧音は霊夢が消えた竹林を見つめる。
「じゃあ、行くわね」
紫はそう一言残し、巫女を追い竹林に姿を消した。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









「次はどっちだ、アリス」
魔理沙は箒を自在に操り迷いの竹林を疾走する。
「右に行って頂戴」
アリスは箒の後ろに横向き座り、ナビゲートする。
「追いつきそうか?」
異変解決のため先行しているだろう博麗の巫女。
「そうね、弾幕の跡からみて四半刻は離されているわね」
並走させた人形達を器用に操り、襲い来る妖を迎撃しながらアリスは応える。
魔法使い二人組が突入した迷いの竹林、その中はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
とまでは言わないが、それでも霊夢にやられたであろう妖達があちらこちらに眼を回して転がっていた。
死屍累々の竹林の中、さらその上に弾幕で犠牲者を積み重ねて、二人を乗せた箒は猛スピードで進む。
「なら飛ばすぜ」
前方から迫る弾幕に更に箒を加速させ突っ込む。
「……っ」
アリスは魔理沙の腰に回した手に力を込めて奥歯を噛締める。
天地がひっくり返り、浮遊感で臍の下がむず痒い。
直前まで弾幕を引きつけ、グルリとコークスクリューの軌跡を描き回避する
「うん、10点」
風で飛びそうな帽子を片手で押さえ振り向き、箒が描いた光の軌跡を見てニンマリとする。
竹林の奥から新たな弾幕が迫る。
右に旋回、回避するが、それは魔理沙の動きを追尾してくる。
併走する人形達がレーザーで追尾弾を迎撃。
迎撃された弾幕は只の紙切れとなり、ハラハラと魔法使いの周囲を舞う。
その破片を手にしたアリス。
「破魔札?」
「ちょっと待て!」
竹林の奥から現われた人影。
「おかしいとおもったら…」
御幣を手にした幻想郷の巫女。
「げっ、霊夢!」
先程までの余裕はどこへいったのか、顔色を変える魔理沙。
「魔理沙、こんな時間にこんな場所にいるなんて」
明けない夜、迷いの竹林で冷たい笑みを浮かべて宙に浮く霊夢。
「この異変、あなたの仕業?」
「ち、ちがうぜ」
勘だけで異変を解決する巫女の言葉にたじろぐ魔理沙。
「そうよ、魔理沙の仕業ではないわ」
アリスは無表情のまま魔理沙をかばう。
「そうだ、わたしのせいじゃないぜ、この異変は」
「あなたじゃない?」
冷や汗をかきながら必死に釈明する。
「そう、こいつの仕業だ」
ビシッとアリスを指差す。
「そう、そちらの魔法使いだったの」
アリスに御幣を突きつける。
かるく溜息をつく人形遣い。
魔理沙は自分への疑いを逸らすことに成功しホッと一息つく。
「蓬莱に案内させるから先に行っていて」
蓬莱人形が魔理沙の傍に飛んでくる。
「そ、そうか、おまえは?」
「わたしは彼女に話があるの」
紅白の巫女を見据える。
「なんだ、そうか、じゃあ先に行って待っているぜ」
魔理沙は箒に乗りその場から飛び去り、竹林の奥へ消える。
「一人で残るなんていい度胸ね、アリス」
「……」
「妖怪は人間に退治されるものなのよ」
「……」
「さあ、大人しく退治されなさい」
ビシッと御幣を向けられた人形遣い。
アリスは大きく溜息をつく。
「……いい加減正体を現したら」
「なんのこと」
「そのまま負けても、後で言い訳しないでよ」
「……」
巫女の口元がにやりと歪む。
巫女装束の少女の姿が周囲の空間ごと歪み、扇子を手にした妖艶な女性が姿を現す。
「どうしてわかったのかしら」
「わたしの目はお飾りじゃないわ」
幻視力が違和感を捉えていたが、目の前の巫女が霊夢ではないと確信したのは『後ろ手に落とした小銭に、なんの反応もないからだ』とは言いづらい。
「霊夢に化けてまで邪魔をしようなんて、どういうつもり」
「あら、邪魔なんてしないわよ」
紫は胡散臭い笑顔を浮かべる。
「邪魔なのは、あ・な・た・た・ち」
手にした扇子の先をアリスへ向けた。
「わたし達が邪魔?」
「そうよ、とっても邪魔なの」
「何故?」
「分からないのかしら、この異変の危険性が」
「あなたは危険から守るためにいろいろしていた。とでも言いたいの」
「いろいろってなにかしら」
「そうね、境界を操って終わらない夜を創り出し、真に危険な月を隠す、とか」
紫は目を細める
「レミリアを懐柔し、紅魔館の勢力を異変に関与しないような根回し、とか」
アリスを見下ろしたまま、紫は黙って扇子を広げる。
「推測だけど、冥界にも同じことをしたのかしら」
「おなじことって」
「危険だからと、この異変から手をひくように亡霊嬢と示し合わせたり、とかよ」
「ご明察、流石は魔法使い、察しがいいのね」
よく出来ましたとばかりに扇を広げ、紫は口元を隠す。
「解っているならこのまま帰ってもらえるかしら、黒白と一緒にね」
「嫌だといったら」
周囲に人形達を展開するアリスを不思議そうに眺める。
「あなたも解かっている筈よ、この異変を起こしたものの力量を。この先には人にして人に非ず、妖にして妖に非ず。そんな存在が待ち構えている」
「危ないから、さっさと尻尾を巻いて逃げろと」
アリスの言葉に紫は顔を顰める。
「嫌ね、そんな下品な言い方」
「じゃあどういう意味」
「さっきあなたが言った通りよ」
紫はニコリと笑いかける。

ヒョイ

アリスが投げたこぶし大の石を紫は片手で受け止める。
石には文字らしきものが刻まれ何かしらの呪が施されている。
「それに見覚えはない」
「知らないといったら」
「魔法の森の魔法使いの家の周囲に置いてあった」
「あなたの家に近づいた覚えはないけど」
「魔理沙の家には?」
「さあ、私は知らないわ」
「……質問を変えるけど、あなたの式や関係者が関わっていないと断言できる」
アリスの視線を受けても紫は笑顔を崩さない。
「今のあなたに私の言葉が、なにかの役にたつと良いのだけど」
「否定をしないのは肯定と受け取って良いのかしら」
困り顔の紫をよそに一体また一体とアリスの操る人形は数を増やし、二人の周囲を埋め尽くしていく。
「あの黒白に異変に関与するなと言っても素直に従ったとあなたは思う?」
「魔理沙がそんな約束守るわけ無いわ」
「だから彼女の安全のためにも仕方なかったのよ」
「たしかに異変に関与することで危険が及ぶかもしれない。でも……」
心から溢れる言葉をアリスは止められない。
「それは彼女の意思が決めた結果」
無機質のようなアリスの存在が異質なものへと変化する。
「魔理沙の意識の境界を操り、周囲に結界を張り、彼女の注意を異変から逸らすなんて、褒められたことじゃないわよ」
「良かったじゃない、その様子だと注意はあなたに向いたみたいね。少なくともその辺の茸や魔道書なんかより、彼女にとってあなたは価値があったということよ」
紫はこれ以上ないという笑顔を浮かべ言い放つ。
「ふざけないで!」
普段は感情の無い人形のようなアリス。
今の彼女にはハッキリとした感情が浮き出ている。
「何故あなたが黒白のことで、そこまでの怒りを向けるのか理解に苦しむわ」
戸惑いの表情を浮かべる紫。
「私は幻想郷の管理者。大事の前に小事を殺すこともある。黒白にとって気の毒だったけど今回はそういうことよ」
「今は異変解決が最優先、わたしたちにかまけている時間はないという訳」
「そういうこと、異変は私と巫女に任せて、はやくここから立ち去りなさい」
話はお仕舞いとばかりに紫はアリスに背を向け人形でできた回廊を行く。
「最後にいいかしら」
言葉が形を持つのなら、呼び止めたそれは鋭い剣。
「本当に最後よ」
溜息をついて紫は振り返る。
「あなたがしたような仕打ちを他の誰かが霊夢にしたら、あなたはその誰かを許せるの?」
アリスの言葉が楔となり、紫の笑みへ打ち込まれた。
崩された仮面を取り繕うのも無粋と、生の感情を露にする紫。
周囲の空気が一変する。
「わたしはあなたを許せない、あなたにも言い分がある。二つの異なる見解を手っ取り早く解決する方法があるのだけど」
「そうね」
その言葉を受け、スキマを開き日傘を取り出す紫。
「異変解決中に悪いけど、アリス・マーガトロイドの名に置いて決闘を申し込みます。八雲紫」
腕を前にまっすぐ伸ばし、紫を指差すアリス。
「八雲紫の名に置いて、謹んでお受けいたしますわ。アリス・マーガトロイド」
紫はまるで貴族の娘のようにスカートの裾を掴み上げ、優雅に会釈を返した。








☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









「おい、ちょっと待てよ」
魔理沙は竹林の中を先導する蓬莱人形の後を追って飛んでいた。
密集した竹林を縫うように飛ぶ人形と魔法使い。
不意に視界が開ける。
竹林にぽっかりと広がった空間。
その広場に立つ人影を見て魔理沙は自分の目を疑った。
「お、おまえ」
「なに鳩が豆鉄砲食らったような顔しているの」
「なんで」
手には御幣、紅白の独特な巫女装束を身にまとった少女。
「なんでお前がここに……」
「ちょっと連れと待ち合わせ中、魔理沙こそどうしたの」
博麗霊夢がそこに立っていた。
「アリスは、アリスはどうした?」
「なに、いきなり。アリスなんて知らないわよ」
「だって、さっきお前がわたしとアリスの前に現われて、アリスがおまえに話があるからわたしに先に行けって」
「ああ、もうアリス、アリスって五月蝿いわね。今日、あんたとは、今、ここで初めて会ったの!寝ぼけてこんなとこまで来ないでよね」
霊夢は慌てる魔理沙に強い口調で言った。
「いや、待てよ。そうか……そういうことか」
「今度はなに」
ウンウンと一人頷く魔理沙を不審そうに見る霊夢。
「謎は全て解けた」
「謎って何よ」
「おまえ……偽者だな!」
「はぁ?」
自信たっぷりの魔理沙の態度に呆れる霊夢。
「よく化けてはいるが魔理沙さんには通用しないぜ」
「あんた、もう帰りなさい」
「あくまで霊夢の振りを続けるなら、今からするわたしの質問に答えな!」
「もう、面倒くさいわね」
魔法使いの勢いに押され、巫女は仕方なく付き合うことにしたようだ。
「最近一番怒ったことは?」
「あなたがとっておきの饅頭を勝手に食べたことよ」
「うっ、じゃあ一番嬉しかったことは?」
「お詫びにのり煎餅を持ってきてくれたことかな」
「むっ、なら今日でかけに書いた張り紙の最後の一文は?」
「お賽銭は素敵な賽銭箱へ。よ」
「くっ、本当に本物の霊夢だぜ」
「だから、最初からあなたの方がオカシイの、魔理沙」
「わたしのほうがオカシイ」
「そうよ、だいたいこの異変もあなたが……」
霊夢の小言も聞こえないほど魔理沙は思考を集中する。
こいつは間違いなく本物。
じゃあ、さっきわたしとアリスの前に現われたのは?

『蓬莱に案内させるから先に行っていて』

「ちょっと、魔理沙!聞いている?」
「あのバカッ」
「なによ、いきなり」
「アリス、弱い癖に」
「アリスって、アリスがこの異変に関与しているの?」
魔理沙は箒に跨り霊夢の声を背中に受ける。
「話はまた後だ。雑魚は任せたからボス戦でわたしと交代だぜ」
「なんであんたのために花道を作らなければいけないのよ」
「すぐに追いつく。ピンチだったらついでに助けてやるぜ」
蓬莱人形を掴むと魔理沙は今来た竹林へ猛スピードでかっ飛んでいく。



「なに、勝手にやって来て、勝手にいなくなって」
その場に一人残された霊夢。
「もう、しょうがないわね」
人の話にまったく耳を貸さない魔理沙に腹を立てる。
「魔理沙のやつ、全然人の話を聞かないんだから」
一人残された霊夢は魔理沙の消えた竹林を睨む。
「魔理沙がどうかしたの」
ニュウと空間を裂いて現われる紫。
「いつもながら心臓に悪いわね、その登場の仕方」
「大丈夫、そのうち慣れるわよ」
霊夢のクレームを紫は笑顔でかわした。
「お花摘みにいったにしては、なにも持ってないけど」
「そうなの、どこにもなかったのよ」
「こんな竹林に花なんかないでしょ」
「あるわよ」
「なにが」
「竹の花」
「はいはい、じゃあゆっくり探してなさいな」
六十年くらいかければ見つかるでしょうよと言い捨て、飛び立つ巫女。
「ねえ、霊夢」
「なによ」
霊夢の隣に追いつくと、紫はその横顔に問いかける。
「わたしがいない間になにかあったの」
「別に、なにもないわよ」
霊夢は無意識に魔理沙のことを伏せた。
「……そう」
おそらく魔理沙と会っていたのだろうと紫は見当をつける。
その証拠に、今までの気だるげな様子とは霊夢のテンションが明らかに違う。
「そっちこそ、なにしてきたのよ」
「だから、お花摘み。わたし似合う花が見つからなくて」
紫もアリスとのことを語らない。
「ハエジゴクは見つからなかった?」
「もう、霊夢のいけず」
「……いいわよ、もう」
紫の胡散臭さにうんざりした様子。
「さあ、さっさと行くわよ。あいつの分の異変なんか残して置いてやるものですか」
竹林から飛び出す妖怪達に勢いよく破魔札を投げつけ、霊撃を放ち進む。
先ほどまでの様子とうってかわったいきいきした巫女の姿を月の光は映し出す。
その巫女の姿をみる紫。
「さて、と」
その後ろから、日傘をさして悠々とついていく八雲の大妖。
片手で妖弾を撒き散らし、有象無象の竹林の妖怪達を倒していく。
巫女と八雲の大妖は竹林の中を進む。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









夜の竹林。
蓬莱人形を従え、もと来た道を急ぎ戻る魔法使い。
アリスと別れた場所で目にした光景。
竹林が消失し、焼け野原と化していた。
幾本もの竹が爆ぜ炭と化し、何箇所も地面が抉れている。
妖気の残滓が色濃く、空気は瘴気を孕み淀んでいる。
激しい弾幕戦が行われた跡。
必死に辺りを見渡す。
「ホラーイ」
蓬莱人形が視界のきかない竹林の一角を目指して飛ぶ。
「おいっ!」
蓬莱人形の目指す先、激戦の跡地、竹林の片隅に立つ人影。
こんな妖怪だらけの竹林にスカートを履いた軽装。
腰まで伸びた長い髪、その頭には立方体を組み合わせたような奇抜な帽子を載せた女性。
魔理沙の声に向こうも気づき彼女のほうを振り向く。
そして、魔理沙はその足元に傍らに倒れ伏す人形使いの姿を見つけ……
魔理沙の理性が吹き飛ぶ。
「この!」
人影目がけてマジックミサイルを撃つ魔法使い。
標的はアリスから離れ、ミサイル攻撃を飛び退き避ける。
「アリス!」
牽制の弾幕を撃ちながら、箒から降りてアリスの容態を確認する。
「おい、やめないか」
マジックミサイルを避けながら、おかしな帽子をかぶった女性は魔理沙に抗議の声を上げる。
「止めろといわれて、やめる弾幕はないぜ」
意識はないが命に別状なしとアリスの容態を判断すると、蓬莱人形をそこに残し魔理沙は目の前の敵に弾幕を集中する。
「だから、話をきけ」
「ああ、わかっている」
竹林の上へと、逃げる敵を目で追いスペルカードを出す。
「お前をぶっとばしたあと、ゆっくり聞いてやるぜ」
魔理沙は箒に跨りマジックミサイルを撃ちながら、夜空へ舞い上がる。
「逃がすか!」

魔符『ミゥルキー・ウェイ』

竹林の夜空に煌めく無数の星々が拡散して創られた弾幕が、敵の行く手を阻む。
「ええい、この与太郎が!」
魔力でつくられた星型弾をかわし、スペルカードを取り出す。

産霊『ファーストピラミッド』

自らのスペルを魔理沙のスペルにぶつけ相殺する。
(何故こんなことに)
魔理沙の攻撃を凌いだ、立法体の帽子をかぶったスカート姿の軽装な女性。
こんな歪な月夜に、こんな危険な竹林にいる人物。
いわずと知れた知識と歴史の半獣、上白沢慧音その人である。
霊夢達と別れたあと、竹林に住む知人のもとへ向かかった慧音。
道中、凄まじい妖気と魔力の激突に気づき様子を見に来た。
そこで、激しい弾幕戦の跡に倒れている少女を見つけた。
少女を介抱しようとした矢先、箒に乗った謎の魔法使いに襲われたのだ。
弁解する暇もなく、激しい弾幕を浴びせられ防戦のためスペルカードまで出した。
しかし、箒に乗った魔法使いは怯む様子も無くにやりと笑う。
「ようやくやる気になったか」
不敵な笑いを見せて八卦炉を構える魔理沙。
「致し方ない」
里の近くで好戦的な魔法使いを野放しにはできない。
「それじゃあ、いくぜ」
「おてやわらかに、な」
未だ色濃く瘴気の残る竹林で、再び弾幕戦が開始された。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









広い和室。
外の面した障子戸は開かれ、庭園の見事な枯山水が月の光に照らされている。
そこで作法に則り、茶を口にする紫。
「結構なお手前で」
「どうゆうつもり」
霊夢はジト目で茶と菓子を口にする紫を睨む。
少し前
竹林の跋扈する妖魔の群れを薙ぎ倒し、辿り着いた迷いの竹林の最深部。
紫と霊夢の前に質素でありながら、荘厳な和の佇まいをみせる屋敷が現われた。
「ようこそ永遠亭へ、お待ちしておりました」
その門前で出迎えた屋敷の住人、銀色に輝く長いストレートな髪と赤い眼を持つブレザー姿のウサ耳少女、鈴仙と名乗る娘に屋敷の中へと案内された。
「こちらへ」
長い板張りの廊下を通り奥の間へ紫と霊夢を案内すると、鈴仙は襖を閉めて退出。
歪な月の光が差し込む広間は香が焚かれ、御簾で仕切られている。
「こんな竹林の奥まで、わざわざご苦労様です」
御簾の前、香炉の傍らに座り労いの言葉をかけた紺色に白の十字のナースキャップ、紺と赤のナース服の出で立ちの女性。自らを八意永琳と名乗り、霊夢と紫のことを御簾の奥の主へ伝えている。
「だから、どういうつもりよ」
再び霊夢が紫を見る。
紫はお茶請けの羊羹を頬張ると、茶で流し込む。
二人へお茶と菓子を出した永琳も御簾の向こうの主となにやら話し込んでいる様子。
(「口にしないように」)
永琳にお茶を出された紫が小さなスキマを霊夢の耳元に開いて囁いた。
おかげで霊夢は大好物を目の前にしながら手を出せない。
隣で茶を飲み菓子をパクつく紫を恨めしそうに見ている。
「どうもこうもないわ、こちらの用件は伝えたし、あとは向こうの対応次第」
茶を飲みながらも器用にスキマ越しに霊夢の耳元で囁く紫。
「お待たせしました」
月の光を束ねたような白い髪を揺らし永琳は二人の方を向き座りなおす。
「月を戻すようにという、あなた方の願いですが」
張り詰めた空気の中、紫と霊夢に対峙する永琳。
「聞き入れられないとのことです」
永琳は御簾の向こうの主の意思を淡々と伝えた。
「まあ、どうしましょう」
紫は奥義を広げ口元を隠すと困ったような目をして霊夢をみた。
「どうもこうもないでしょう」
霊夢は御札を手に立ち上がる。
「話し合いがダメなら、実力行使あるのみよ」
「あら、そんなにやる気をだしては失礼よ」
紫はのんびりと霊夢を注意すると、
「相手が警戒しちゃうでしょ」

パチンッ

紫は右手の扇子を閉じた。
瞬間、召還された八雲藍が御簾へと飛翔。
いつ取り出したのか、永琳の弓が番えた矢を放つ。

『警醒陣』

巫女が矢を防ぐ。
疾風と化した金毛九尾が、御簾ごと張られた結界を切り裂く。
「しばらく見ない間に、外の世界では礼は失われたのかしら」
切り裂かれた御簾の奥から現われた少女。
月の光に輝く美しい長い黒髪。
全てを吸い込むような漆黒の瞳。
白亜の陶磁のように滑らかな白肌。
「あら礼は尽くすわよ、相手次第だけど」
姿を現した永遠亭の主を前に紫は目を細める。
「わたしは礼を尽くすに値しない存在かしら」
「顔も見せず、名も名乗らないものが礼を語るなんて話にならないわね」
霊夢の言葉にあらあらと今更ながらに慌てる主。
「挨拶が遅れました、永遠亭の主、蓬莱山輝夜と申します」
以降お見知りおきをと言ってニコリと微笑む。
並みの人妖ならその微笑みだけで魅了されていただろう。
「ありがとう名乗っていただいて、これでようやく文句をいえるわ」
「なにか気に入らないことでもあったかしら」
笑顔が効を奏さなかったことを気に留めた風もなく、紫へ応じる輝夜。
「こんなお茶を出しておいて白々しいわね、霊夢が間違って飲んでいたら明日から神社のお茶が飲めなくなるところだったわよ」
「まあ、お茶はもともと薬。月の天才薬師が淹れたお茶ですもの、薬効が過ぎて毒にでもなっていたかしら」
「違うわ、凄く美味しいわよ」
「美味かったのかよ!」
紫と輝夜の言葉を受け、霊夢は足元のお茶を見るが、先ほどの騒動で畳の染みと化していた。
「紫、それなら口にしないようになんていわないでよね!」
「美味すぎて普通のお茶で満足できなくなる。あなたが飲んでいたら、間違いなく中毒になっていたわよ」
どこにでもある茶葉と急須と薬缶で禁薬を作り出せるとは、流石は月の頭脳。
「ね、飲まないで正解なの」
釈然としない霊夢をなだめる紫。
「ところで、こちらのお仲間に物騒なものを仕舞っていただきたいのだけど」
輝夜は自身の喉元に鋼の硬度を持つ鍵爪を突きつける藍へ、臆することなく注文をつけた。
「なら月を戻して、この異変を止めなさい。さもないとその飢えた獣の爪があなたの血で真っ赤に染まるわよ」
「イヤ~ン。そんな言い方したらまるで私達が悪役じゃない」
「この異変が終わるならそのくらいの汚名、なんでもないわよ」
「仕方ないわね、このようにうちの巫女が言っていますが」
霊夢の非難の視線をものともせず紫は永遠亭の主従を見る。
座したまま動かない輝夜。
弓をひき藍へと狙いを定める永琳。
「永琳」
「はい」
輝夜は静かに従者に語りかける。
「しかたないわね」
「申し訳ありません」
永琳は引き絞っていた弓をおろす。
「ここまであなたの」
月の姫の瞳が閉じられる。
「計画通りだなんて」
口元に薄く笑みが浮かぶ。
輝夜の手が藍の鍵爪へ伸びる。
一瞬の迷い。
引こうと藍が手に力を入れたその時。
庭から差し込む月の光の中
幻想的なまでに激しく、美しく
白い首筋から

アカイ血飛沫が舞い上がる

月光さえ染めるアカ。
アカイ闇が巫女の視界を覆い尽くす。
刹那、周囲の天地が逆転した。





視覚が戻る。

霊夢は今自分のいる場所を確認する。
そこは周囲に無数の星々が強く輝く暗黒の世界。
地面はなく、重力すらも消えた空間に霊夢は浮遊していた。
「霊夢、大丈夫?」
いつの間に現われたのか、紫が巫女へ声をかける。
その顔には何故か鮮明に靴底の跡ついている。
「大丈夫、ここはどこ、あいつ等は?」
顔のことは全力でスルーして巫女は当然の疑問を口にする
「ここは偽の月と地上の間、偽の月と地上を結ぶ偽の通路」
問いに答えたのは弓を手にした月の薬師。
「で、だからなによ」
霊夢は永琳を睨む。
「藍はどこへ行ったのかしら?」
「あの狐なら虚数空間へ閉じ込めたわ。あなた達も送る予定だったけど、まあ想定内の誤差ね」
永遠と須臾を操る月の姫の血を媒体にした罠。
紫の境界を操る能力をもってしても、霊夢と共にこの空間へ跳ぶのが限界だった。
「あの狐のことが心配なのかしら」
「そうね、肝心な時にいないなんて、後でどうしましょうか」
靴跡がついた顔を抑えて紫は心配そうに答える。
「心配しなくても朝になれば満月は返すわ」
「私たちは朝になる前に返して欲しいのだけど」
薬師の提案を即座に巫女は却下した。
「術はもう完成している、地上人は月へ辿り着けず永遠にさ迷っている事でしょう。月の民も同じ。これで月の民も地上に来れないはず」
薬師は弓に矢を番え。
「地上は大きな密室と化した。これが私の最大の秘術の一つ」
大きく弓を引き絞り。
「何人たりとも姫を連れ出すことは出来ない」
二人に的を絞る。
「姫?姫なんて最初から興味はないわ」
「私達は満月さえ戻ればそれでいいの」
紫と霊夢は永琳に対してスペルカードを手に臨戦体制を取る。
「さあ、紫。こんな奴さっさと倒して、地上に帰るわよ」
霊夢の言葉を合図に亜空間での弾幕戦が始まる。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









「どうしたものかな」
輝夜の首から吹き出た血飛沫は藍を、虚数空間へと封じ込めた。
そこは全てが存在し存在しない世界。
あらゆる物質、空間、時間が不確定な空間。
ここへ跳ばされる瞬間、思い切り主を蹴り飛ばし、どうにか脱出させた。
緊急だったので、加減はできなかった。
その蹴りが、思い切り主の顔に入ったのは単なる事故である。
主への日頃の恨みや鬱憤を晴らす気など微塵も込められていない。
もう一度言う。
主への日頃の恨みや鬱憤を晴らす気など微塵も込められていない、事故だったのだ。
不幸な事故だったが、そのことは後悔していない。
たとえ後でどんな罰を受けるとしても、主を救えたのだから。
問題は……。
「出られるのか?」
またも九尾は考え込む。
今はこの不安定な空間でも存在できるよう結界を張っている。
その場凌ぎだがまあ良いだろう。
だが、脱出となると話は違う。
藍の計算では自らに憑いた式と妖力をほとんど失い、死力を尽くしても脱出の可能性は五割を切る。
失敗したら結界の維持すらできず、この混沌とした世界に飲み込まれる。
仮に脱出を成功させても、主の為に尽くす力は当分回復できないだろう。
主を信じて助けを待つのが一番の安全策だが……。
「馬鹿馬鹿しい」
己の考えを一笑に付す。
ふと、この異変の兆候を報告したときの紫の姿を思い出す。
迷い家から外を見る紫の後姿。
自分は以前にもそんな主を見たことがあった筈……。
月人が起こした異変……。

月面戦争

思い出す。
もう遠い昔。
妖怪の大群を率い、意気揚々と月に喧嘩を売りに行った主。
その中には当時の藍など足元に及ばぬ強力な大妖が数多く居た。
空前絶後、質も数もこれ以上は望めない。
地上の妖怪の誰もが勝利を確信していた。
その結果は惨敗
ただ、月を穢したくないという理由だけで、地上に戻された。
多くの妖怪達は己の力のなさを恥、あるいは憤怒して地上へ散っていった。
夜明け前、最後の帰還者を見送ったあとも紫は月を見上げたまま動かなかった。
その傍らに頭を下げたまま跪く藍。
『これで、月には手出しできないと証明されたわね』
誰に言うとはなく語り始める紫。
『やっぱり、創らなくちゃならないわね、とても小さくなるけれど』
その時はなんのことか分からなかった。
『ああ、とても面倒なことになったわ』
そう、紫様はこの時、決意されたのだ。
『これから忙しくなるわよ』
地上に楽園を創ると。
スキマを開き、迷い家の道を創る。
『でも、ちょっと悔しいわね』
最後に呟き、スキマへ潜る主の後姿。





「嫌なことを思い出したな」
藍は頭を掻く。
「これで、やるしかなくなった」
覚悟は決まった。
危機に際し、主の傍らに居ずしてなんのための式か。
結界を崩さぬよう、慎重にしかし迅速に空間操作の術を組み上げていく。
「また怒られるだろうな」
主の下へ参じても、素直に褒められるなんて思っていない。
逆に罰を受けるだろう。
『あなたは私の命令を聞いていればいいのよ』
そんな主の言葉を容易に想像できる。
「今、参ります」
今宵の演目は不可能への挑戦。
月人の罠からの脱出劇。
御代は見てのお楽しみ。
一世一代のイリュージョン。
とくと御覧じろ。









☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾ ☾









「イタタッ」
額のタンコブを押さえて起き上がる。
「この石頭!」
「上白沢慧音」
ちらりと魔理沙を見て自己紹介をする白沢。



慧音との弾幕戦。
先手必勝とばかり慧音に向けてスペルカードを発動しようとした矢先。
「ダメ!」
突然目の前に現われた上海人形は魔理沙の顔に張り付いた。
「おお、止めろ!前が見えな……」
どうにか上海人形を引き剥がすと目の前に弾幕戦の対戦相手の顔がある。向かい合い魔理沙の肩に両手を置くとそのまま大きく背をそり返し、勢い良くお辞儀をして自分の額を魔理沙の額へぶつけ……。



そこで途切れた意識が今ほど回復した魔理沙。
焼け爛れた竹林で倒れたアリスの傍らに跪く慧音。
「アリスの様子はどうだ」
その後ろ姿に魔理沙は声をかける。
「正直、分からない…」
「霧雨魔理沙だ」
魔理沙はアリスの傍へ近づくとその頬に触れる。
「柔らかいな」
「そうか、なら少し力を入れてみろ」
「ん」
慧音の言葉に。魔理沙は指先に力を込める。
指先から伝わるのは鉄の感触。
「なに?」
訝しむ魔理沙へ、慧音は説明する。
「触れることはできるが、動かすことが出来ない。傷つけたりしようとすると鉄のように堅くなる」
「なんだってそんなこと」
「魔法か呪いか知らないが、今はどうすることもできない」
慧音の言葉に魔理沙はアリスの頬を抓ろうと指に力を入れると、先ほどまで柔らかかった頬は鉄のように堅くなった。
「それでどうしょうもなく見守っていたら、与太郎が襲ってきて……」
「そいつは災難だったな」
「……」
「……」
「いいか、こういう時はだな……」
「ホラーイ」
しらばっくれる魔理沙に説教しようとした慧音だが、蓬莱人形に遮られた。
「どうした、蓬莱?」
弾幕戦で吹き飛んでいたのか、蓬莱人形はどこからかアリスの鞄を持ってきた。
そして自分の体ほどもある鞄を器用に開けると、中から魔道書を引きずり出す。
「ん、こいつは」
アリスがいつも持ち歩いている魔道書とは別物、しかし魔理沙には馴染みのある封印がされている。
「ヴワルの封印か」
紅魔館の魔女が良く使う術式、すでに解呪法は心得ている。
ルーンを逆字で描きながら表紙をなぞる。
薄い紫の光を発し魔道書が開く、ページが捲れ封じられて魔法が発動する。

『あら、そちらにいるのは誰』

良く知る声が聞こえた。
「よお、いろいろあったがアリスをもとに戻せ」
挨拶もそこそこに、魔理沙が要求を突きつける。
『その声は魔理沙ね、じゃあアリスに魔法が発動したかしら』
「そうだ、なんだか知らないがアリスが行動不能だぜ。早く直せ」
ゆっくりとした魔道書から聞こえる声に、不機嫌に声を荒げる魔理沙。
「おい、その本がしゃべっているのか」
『他に誰かそこにいるの?魔理沙』
「ああ、ここにいるのが慧音、本から聞こえるのがパチュリーだ」
苛々としながら魔理沙は互いを紹介する。
「はじめまして、上白沢慧音だ」
『こちらこそ、パチュリー・ノーレッジよ』
悠長にも互いに自己紹介を交わす。
「いいから、はやくアリスを元に戻せ」
八卦炉を魔道書に向けパチュリーを脅す。
『落ち着きなさい、アリスにかけられた魔法は、魔道書の持ち主の身に危険が迫った際自動的に発動するよう条件付けした魔法。あら、別に感謝なんかする必要ないのよ、彼女は大切な友達だし、それなりに貴重な魔道書だったけど、まあ、あなたが危険な目にあっても発動したのだけど、か、勘違いしないでよ。それは彼女に渡したのだから、それをアリスがあなたに渡そうとどうしようとわたしは関係ないっていうか、まあ、アリスにはあなたから借りていたといって持たせたのだから、魔理沙が持っていても不自然じゃ無いとは思うけど、そうそう、この魔法は『凍れる時の秘法』といってその昔勇者と魔王が…』

轟音一撃 『マスタースパーク』

「手短に頼むぜ」
青筋を浮かべ笑顔で放った魔理沙のスペルは魔道書をグレイズ。
『そ、そうね、魔法の解呪法ね、それじゃあ魔理沙』
「なんだ」
『アリスにキスなさい』

魔理沙の時が凍りついた。

「な、な、な、な……なんだって!」
『この魔法の解呪法は、乙女度85%以上の少女の接吻。勿論マウス・トウ・マウス、頬やおでこなんて論外。そして、夜の竹林にあなた以外にそんな乙女度もつ人間はいないわ。まあ魔法を解くには古典的な方法だけど、ということで魔理沙がんばって』
パチュリーの言葉に顔を赤くし、拳を握り締めワナワナと肩を震わす魔理沙。
その肩に、優しく手を置く慧音。
「慧音」
救いを求めるように涙目で魔理沙は慧音を見つめる。
「大丈夫だ」
慧音は笑顔で魔理沙にこたえる。
「人工呼吸のようなものだ、寺子屋じゃノーカンだから」
慧音の瞳はどこまでも優しかった。
「おまえ、覚えていろよ」
『むしろ忘れるほうが難しいわよ』
「……パチュリー、見えてないよな」
『勿論、魔女は嘘をつかない、赤字で復唱しましょうか?』
試しに魔道書の前で変顔をする魔理沙。
『……ププッ』
「上海、この本もってちょっと離れていろ」
「シャンハーイ」
『持ってかないで~』
声を無視し上海人形は魔道書を抱え竹林の奥へ消える。
自業自得、普段図書館なんかに引篭もっているから笑いの沸点が低くなるのだ。
「よし、これで大丈夫、さあ、アリスを助けよう」
「……」
「どうした、ほら、はやく」
魔理沙のジト目も気にせず、爽やかな笑顔でその場に居座る聖職者。
「蓬莱、頼むぜ」
「ホラーイ」
「ちょ、待て、わたしは、こういうことは、きちんと大人が立ち会ってだな……」
弁解虚しく、蓬莱人形に襟首を捕まれ竹林の奥へ引きずり込まれる慧音。
「さて、邪魔者は消えたぜ」
改めて横になったアリスの顔を覗き込む。
「そう、これは人命救助のための緊急避難のカルネアデスの舟だ」
地面に手をついて、ゆっくり顔を近づける。
乙女の敵は消えた、邪魔者は確かに消えた、しかし……。

(くそ、こんなに綺麗な髪して、羨ましいぜ)
(あ、睫毛、結構長いな)
(肌も白くて、きめ細かい、陶器みたいだ)
(唇も……)

アリスを前にウーウーとうなり続ける普通の魔法使い。
魔理沙は知らなかった。
彼女にとって目の前の人形のようなアリスの美しさこそ、最大の障害だということを。





『まだ終わらないの』
「大丈夫か?そちらに行ったほうが良いか?」
「五月蝿い、少し待っていろ」
竹林の奥に答える魔理沙の声には余裕がない。
ずっとアリスに覆い被さったまま、上体を支える腕が痺れて首も痛くなる。
(なんだってこんなこと)
こんな夜に迷いの竹林に来たのは、アリスに依頼された異変解決のため。
霧雨魔法店の名にかけて、依頼主の安全確保と異変の解決、両方やらねばならぬ。
しかし、そのためにキスする必要があるとは。
相手は依頼主である、アリス・マーガトロイド。
いくら異変解決の為とはいえ容易にできない。
(全然、知らない相手だったら)
それこそ人命救助と割り切って出来ただろう。
(せめて、こいつ以外だったら)
同じ魔法の森に住む、お隣同士。
収集家として時には競合し、時には取引する。
異変解決の際には敵対したこともある。
稀に助け合うこともあった。
魔理沙は今日までの自分の行動を振り返る、
アリスに私はどう写っていた?
同じ魔法使い?ただのお隣さん?
いつも人形のように表情を変えないアリスから多くを知ることできない。
(じゃあわたしはどうだ)
アリスは五月蝿いお隣さん。
お高くとまった気に入らない魔法使い。
しかし、アリスを嫌いと言えるかというとそうではない。
むしろ逆だろう。
人形のような容姿、洗練された美しい立ち振る舞い。
自分にないものを持つものに人は惹かれる。
私はアリスに惹かれていたのか?
(こんなときアイツならどうする?)
きっとこんなに悩むことなくことに及ぶだろう。
(ワタシとはチガう)
いつか聞いたコトバが甦る。

アレハ博麗ノ巫女ダ

「馬鹿野郎!」
知らずに上げた自分の声に驚く。
痺れた腕がいうことをきかない。
バランスを崩し、倒れこむ。
『どうしたの』
「なんだ」
慧音とパチュリーの声。
「うううっ」
目を開けると。

「ちょっと、重いわよ」

アリスと目が合った。
「ウワアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーー!」
魔理沙は口を手で押さえて、焼け焦げた竹林にできた野原を竹薮まで後ずさる。
『おめでとう、流石魔法使いね(棒読み)』
「よくやった、感動した!」
魔理沙の偉業を褒め称えるパチュリーと慧音。
「ちが、ちがう、わたしはなにもしていない」
慌てふためき、必死に否定する魔理沙。
何故かおめでとう、おめでとう連呼し拍手までしそうな慧音とパチュリー。
人形遣いはそんな魔理沙な尻目に起き上がると、上海から魔道書を受け取り、パチュリーと話し始める
「少し効果時間が不安定よ」
『あなたなら、それぐらい調整できると思ったけど』
「なに!」
魔理沙は魔道書をひったくる。
「おまえ、どういうことだ」
『魔法の効果時間切れによる状態解除。あなたがグズグズしているからよ』
「なんで言わなかった」
『永遠に続く魔法がないことなんて常識でしょ、聞かれなかったし』
「あの解呪法は嘘か!」
『あれはホント、あなた急いでいるみたいだったから』
「この~!」
怒りもあらわに魔道書を睨みつけるが、魔道書越しでは何も出来ない。

罵詈雑言の嵐。

魔理沙は魔道書に向かって思いつく限りの悪態を吐く。
「何をそんなに怒っているの」
「何をだって!……って、そ、それは、おまえ、な、なんだ」
アリスの問いに返答に窮す普通の魔法使い。
「ありがとう、パチュリー助かったわ」
『どういたしまして』
アリスは横合いから魔道書に話す。
魔道書の放つ輝きは少しずつ弱くなる。
『もうおしゃべりはお仕舞。今宵迷いの竹林に介入できるものは居なくなる』
月明かりの竹の国で、図書館の魔女の声が夢の様に響く。
『あなた達以外はね』
その言葉は魔理沙とアリスを揶揄しているようだ。
『魔理沙』
「なんだ」
『異変を解決しなさい、巫女も妖怪も吹き飛ばして』
「わかっているぜ」
『アリス』
「なに」
『……あなたには言うまでもないわね』
アリスは黙って頷く。
魔道書から発する光と魔力が消えていく。
『二人とも、土産話くらいはもってくるのよ』
パチュリーのその言葉を最後に通信は途絶え、魔道書は風化し魔理沙の手からこぼれ落ちた。
「お前達、異変を解決に来たのか」
「なんだ、ピクニックに来たように見えたか」
「いや、さっき巫女と八雲の大妖もそういってあちらへ向かったぞ」
魔理沙に慧音は竹林の一角を指差す。
「それはどれくらい前」
「半刻ほどかな」
アリスに答える慧音。
「さて、じゃあ仕事を続けるか、あんたはどうする」
「私は知り合いのところに行く。少々気になって、な」
「そう、いろいろありがとう」
「なに、気にするな」
アリスの礼を受け、慧音は飛んでいく。
「おまえの知り合いも無事だといいな」
「大丈夫さ、殺しても死なないような奴だからな」
そう言い残し、慧音は竹林へと消えた。
「あの石頭、冗談も言えたのか」
竹林の焼け跡に残る魔法使い達。
「なあアリス、きいていいか」
「なに」
魔理沙は仕事を続ける前に、アリスへ確認しなければならないことがあった。
「倒れている間、意識はあったのか」
「さあ、あまり覚えてないわ」
内心ホッと胸を撫で下ろす普通の魔法使い。
「それじゃあ、もう一つ」
魔理沙の顔つきが変わる。

「誰にやられた」

激しい弾幕戦末、アリスを危地に追い込んだ相手の正体。
答えることを拒絶するかのように、魔理沙に背を向けるアリス。
魔理沙は言葉を続けようとするが、思うように形に出来ない。
「そうそう、あなたに言っておきたいのだけど」
「なんだ」
アリスは背を向けたまま、魔理沙に言う。
「カルネアデスの舟、ああいう時に使うのは間違いよ」

ボッ

魔理沙の顔から火が出る。
あの時、一瞬唇に触れた甘く柔らかい感触。
クスクス
肩越しにアリスが笑っているのが見て取れる。
ああ、神様、誓って言うけど……

わたしはアリスが大嫌いだ!

魔理沙がそう心に決めた瞬間。
二人の前の竹林の空間が歪み。





裂けた
「パチュリー様、紅茶をお持ちしました」
「ご苦労様」
月明かりが照らすバルコニー。
パチュリーは、通信用に使用した水晶玉をしまい込む。
「魔理沙さん達の様子はどうでしたか」
「まあまあよ」
小悪魔から紅茶を受け取る。
「あ、そういえば咲夜さんに廊下で会いましたよ」
「咲夜に」
「そう、それで変な鍵を渡されて……」
小悪魔が古ぼけた銀製の鍵を取り出す。
「それで、これを管理するように言われたんですが」
「あなたが、これを」
「はい、咲夜さんもお嬢様から渡すようにと言われただけで、何の鍵かは知らないそうです」
「そうなの」
パチュリーは興味なさそうに鍵から目を逸らす。
「パチュリー様には、これがなにかお分かりですか」
小悪魔は不思議そうに主の顔を覗き込む。
「紅魔館の主の意向に逆らうような真似をしたのよ」
「アリスさんに魔道書を渡したことですか、でも異変に関わった訳ではないですよ」
「だからといって、なにも罰を受けないわけにはいけない。そんなことが他に知れたら紅魔館の、レミィの面子に関わるわ」
パチュリーは紅茶を飲む。
「それじゃあ、この鍵は……」
「鈍いのね、あなたも」
薄い笑みを小悪魔に向ける。
「大図書館の鍵、さっきレミィに返したの」
「そんな、どうして」
「レミィは親友よ、親友が困るような真似が出来るわけがないでしょ」
「パチュリー様」
「体面上、レミィは大図書館の使用を禁じ、わたしは制裁を受けた形になった」
小悪魔は鍵を見つめ、ふと思いつく。
「でも、この鍵がわたしの手にあるということは、これからはわたしが大図書館の主……」
「あなたのものはわたしのものよ」
「ですよね~」
小悪魔の妄想に釘を刺すパチュリー。
「でも酷いですよ、お嬢様のご配慮がなければ、家なき子になっていましたよ」
「ごめんなさい、あなたに黙って勝手なことをして」
パチュリーにしては珍しく小悪魔に真面目に謝る。
「い、いいんですよ」
小悪魔はパチュリーの普段は見せない態度にドギマギする。
歪な月の明かりの下、主にしか見せない笑顔で小悪魔は応えた。

「パチュリー様がいる場所が、わたしの居場所ですから」
綾宮綾
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コメント



0.1000簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
なんというかまぁ…
実に幻想郷の連中らしい。
4.100無休削除
読み返し三回目に突入…竹林でのアリスと紫の会話が最高~

パチュリーさんは流石魔女だねアリスもだけど魔理沙頑張れ
9.100名前が無い程度の能力削除
リグルと藍の肉弾戦を想像するだけで笑いが止まらん。
11.90名前が無い程度の能力削除
アリスかっけー!
12.90名前が無い程度の能力削除
アリスかっけー!
15.100名前が無い程度の能力削除
あれま、これは面白いねぇ
続きも期待して読もう
17.90ダイ削除
これは、霊×紫、魔理×アリと見るべきか、いいぞ、もっとやれ!
20.80ずわいがに削除
永夜抄は俺が最初にプレイした東方ですけん、ちょいと思い入れも強かばい。かなりオリジナルのストーリーに書き換えられてて、これはなかなか面白けんね。戦ったり戦わなかったり。
紫が少々勝手過ぎるような気もするけど、なんやかんや上手い具合に二組のバランスが取れてて、異変解決競争もどっこいどっこいだべな。さて、続き続き。
24.100名前が無い程度の能力削除
子供を気にかける霊夢カッコイイ
俺も最初に永やったから、思い入れは強いんだけど、違和感なく面白かった
29.100名前が無い程度の能力削除
 おもしろかったです!
32.100非現実世界に棲む者削除
初めて見た東方の作品が永夜抄だったので、一番思い入れがあります。
なので、この作品は素直な気持ちで読んでいます。
さて続きを読みに行きます。

夜はまだまだ永い。