昼時の香霖堂、アルバイトのフランドールと倉庫の整理をしていた霖之助がふと、一つの箱を開けると、中から子ども用と分かる女の子の衣服が出てきた。
「これは・・・・・・懐かしいな」
「んー?どうかしたの霖之助」
パタパタと駆け寄ってくるフランドールに見せるように、霖之助は箱から服を取り出して広げる。
「昔の魔理沙の服だよ、魔法使いって名乗り出した頃のかな」
「へえー・・・・・・」
全身紫で彩られた、シンプルな魔女の服。今の魔理沙の白黒の服よりローブに近い形をしていて、セットでついてる魔女帽子には三日月の装飾が施されていた。
そういえばこの頃はまだ星にまつわる魔法は使っていなかったな、と感慨深げに帽子をなでる。
「その魔理沙の服がなんでここにあるの?」
「何年か前にいきなり持ってきて『この黒歴史は永遠にここに封印するぜ!』とか言って勝手に倉庫に置いて行ったんだよ」
「・・・・・・なにがあったんだろうね」
「聞くだけ野暮ってものだよ。それに今、魔理沙に返したところで彼女にはもう着れないだろうし」
目測でもわかるくらい、その魔女服は丈が短かった。彼女も小柄ながらちゃんと成長してることがわかり、少し安堵する。しばらく興味深げに服を眺めるフランドール、手にとって裏返したりと観察している内、ふと何か思いついたように霖之助の方に振りかえった。
「ねぇ、霖之助!これ私なら着れるんじゃないかな?」
「え・・・・・・?」
「だってほら、長さとかピッタリだし」
服を体に当てて、袖も手で持ってピンと伸ばして見せるフランドール。
確かに、言われてみればピッタリの長さだ。
「ああ、着てみたいのかい?フラン」
「うん!魔理沙の格好って一回してみたかったんだ!」
「そうか、じゃあ部屋まで持っていこう、流石に倉庫で着替えるわけにはいかないしね」
「はーい!」
元気よく返事をするフランドールを連れて、霖之助は裏から店へと向かった。
―――少女着替え中
店でフランドールが着替えてくるのを待ちながら本のページをめくる霖之助。ちょうど半分のページに差し掛かったくらいで、フランドールの元気な声が奥から響いた。
「霖之助ー!お待たせ!」
「ああ、さてどんな具合かな・・・・・・」
本を閉じて振り向けば、そこには金髪の魔女がいた。帽子の間から見える髪の長さや量は記憶している姿と比べて足りなかったが、十分だ。
まだまだ幼かったあの日の霧雨魔理沙の姿がそこにあった。
「どう?似合うかな霖之助」
「え?あ、ああ・・・・・・似合ってるよ、魔理沙そっくりだ」
しばらく茫然としていた霖之助は慌てて取り繕うように咳払いをした。もっとも当のフランドール自身は服の事に夢中で気付いた様子はなかったが・・・・・・。
「えへへー、魔理沙と同じだー!あ、じゃあ霖之助のことも“香霖”って呼べばいいのかな?」
「それは・・・・・・」
一瞬の逡巡、しかし霖之助はすぐにいつもの苦笑いを浮かべる。
「勘弁してくれ、フラン」
「わかってるよ、そう呼んでいいのは自分だけだ―って魔理沙も言ってたし」
無邪気な笑みを浮かべながら、くるくると楽しそうに回る。スカートがヒラッと舞うのがどうやら気にったらしい。時折、店の箒を構えては魔理沙の真似をして構えたり、その箒で飛んだり(実際は羽で)して遊んでいた。遊びに夢中になる姿もまた、昔の魔理沙を思い出させる。
そう考えれば、今の魔理沙は少しは思慮深くなったと捉えるべきなのだろうか?少なくとも店で暴れまわる事はなくなったが・・・・・・
「ねぇ・・・・・・ねぇってば!霖之助!」
「え!あ、すまない、フラン」
「もう、さっきから声かけてるのに全然返事しないんだもん」
いつのまにかまた考えることに没頭してしまったらしい、むくれるフランに謝りながら、気を取り直して用件を聞いた。
「うん、実はこの服、譲ってもらえないかなって。もちろんお金はちゃんと払うから、どう・・・・・・かな?」
「・・・・・・ふむ」
顎に手を当ててじっとフランドールを見る霖之助。
不安げに聞いてきた以上、フランドールにも、この服は霖之助にとって思い出の品であることはわかってくれている様子だった。自分自身、手元に置いておきたい気持ちはないと言えば嘘になる、しかし、道具屋としてはやはり使ってこそ、物には価値が生まれてくると考えてしまう。もしかしたら、この服も思い出として終わるつもりはないと言いたいのかもしれない。
しばらく黙っていた霖之助はやがてゆっくりと口を開く。
「いいよ、君にあげようその服は。お金も必要ない」
「え、でも、ほ、ほんとにいいの!?」
「ああ、ただその代わりの対価として、ちょっと僕が昔を懐かしむのを手伝ってほしい」
「???」
ちょっと言い回しが悪かったのか、フランドールの頭に疑問符が浮かんでいる。
「いや、なに、簡単なことだよ。このまま・・・・・・」
■
「ホントにこれだけでいいの?」
「ああ、十分だ」
「ふーん、変なの」
まだ首をかしげるフランドールであったが、気にしても仕方ないと言うように頭を霖之助の胸に預ける。そう、今、霖之助は魔女服を着たフランドールを自身の膝の上に座らせながら本を読んでいるのである。
「別に、今でもやってることじゃないの?魔理沙から聞いたけど」
「そうだね、まぁ、雰囲気の違いというやつさ」
やってることは同じでも、自分の膝にかかる重みも、胸に来る頭の位置も、やはり違う。
この服を着て、こんな風な無邪気な笑顔で、この膝に座っていた彼女の姿・・・・・・まだほんの少し前のことだと思っていたが、どうやら勘違いだったらしい。
―――しかし、時間は残酷だとは思わない
彼女が成長していく姿を見るのもまた、霖之助にとって大きな喜びでもあるし、楽しみでもある。たとえ・・・・・・いつか訪れる結末があることをわかっていても・・・・・・。
「霖之助!霖之助ってば!」
「あ、ああ、すまないフラン、また考え事をしてしまってたようだ」
「もー、何をそんなに考えてるの?」
「そうだな・・・・・・」
見上げてくるフランのむくれ顔に謝りながら、霖之助はどこか遠くを見る。
「・・・・・・子どもは、いつまでも子どもじゃないってことかな」
願わくば、この毎日も忘れられない思い出となりますように、と霖之助は祈るように目を閉じた。
≪終≫
「これは・・・・・・懐かしいな」
「んー?どうかしたの霖之助」
パタパタと駆け寄ってくるフランドールに見せるように、霖之助は箱から服を取り出して広げる。
「昔の魔理沙の服だよ、魔法使いって名乗り出した頃のかな」
「へえー・・・・・・」
全身紫で彩られた、シンプルな魔女の服。今の魔理沙の白黒の服よりローブに近い形をしていて、セットでついてる魔女帽子には三日月の装飾が施されていた。
そういえばこの頃はまだ星にまつわる魔法は使っていなかったな、と感慨深げに帽子をなでる。
「その魔理沙の服がなんでここにあるの?」
「何年か前にいきなり持ってきて『この黒歴史は永遠にここに封印するぜ!』とか言って勝手に倉庫に置いて行ったんだよ」
「・・・・・・なにがあったんだろうね」
「聞くだけ野暮ってものだよ。それに今、魔理沙に返したところで彼女にはもう着れないだろうし」
目測でもわかるくらい、その魔女服は丈が短かった。彼女も小柄ながらちゃんと成長してることがわかり、少し安堵する。しばらく興味深げに服を眺めるフランドール、手にとって裏返したりと観察している内、ふと何か思いついたように霖之助の方に振りかえった。
「ねぇ、霖之助!これ私なら着れるんじゃないかな?」
「え・・・・・・?」
「だってほら、長さとかピッタリだし」
服を体に当てて、袖も手で持ってピンと伸ばして見せるフランドール。
確かに、言われてみればピッタリの長さだ。
「ああ、着てみたいのかい?フラン」
「うん!魔理沙の格好って一回してみたかったんだ!」
「そうか、じゃあ部屋まで持っていこう、流石に倉庫で着替えるわけにはいかないしね」
「はーい!」
元気よく返事をするフランドールを連れて、霖之助は裏から店へと向かった。
―――少女着替え中
店でフランドールが着替えてくるのを待ちながら本のページをめくる霖之助。ちょうど半分のページに差し掛かったくらいで、フランドールの元気な声が奥から響いた。
「霖之助ー!お待たせ!」
「ああ、さてどんな具合かな・・・・・・」
本を閉じて振り向けば、そこには金髪の魔女がいた。帽子の間から見える髪の長さや量は記憶している姿と比べて足りなかったが、十分だ。
まだまだ幼かったあの日の霧雨魔理沙の姿がそこにあった。
「どう?似合うかな霖之助」
「え?あ、ああ・・・・・・似合ってるよ、魔理沙そっくりだ」
しばらく茫然としていた霖之助は慌てて取り繕うように咳払いをした。もっとも当のフランドール自身は服の事に夢中で気付いた様子はなかったが・・・・・・。
「えへへー、魔理沙と同じだー!あ、じゃあ霖之助のことも“香霖”って呼べばいいのかな?」
「それは・・・・・・」
一瞬の逡巡、しかし霖之助はすぐにいつもの苦笑いを浮かべる。
「勘弁してくれ、フラン」
「わかってるよ、そう呼んでいいのは自分だけだ―って魔理沙も言ってたし」
無邪気な笑みを浮かべながら、くるくると楽しそうに回る。スカートがヒラッと舞うのがどうやら気にったらしい。時折、店の箒を構えては魔理沙の真似をして構えたり、その箒で飛んだり(実際は羽で)して遊んでいた。遊びに夢中になる姿もまた、昔の魔理沙を思い出させる。
そう考えれば、今の魔理沙は少しは思慮深くなったと捉えるべきなのだろうか?少なくとも店で暴れまわる事はなくなったが・・・・・・
「ねぇ・・・・・・ねぇってば!霖之助!」
「え!あ、すまない、フラン」
「もう、さっきから声かけてるのに全然返事しないんだもん」
いつのまにかまた考えることに没頭してしまったらしい、むくれるフランに謝りながら、気を取り直して用件を聞いた。
「うん、実はこの服、譲ってもらえないかなって。もちろんお金はちゃんと払うから、どう・・・・・・かな?」
「・・・・・・ふむ」
顎に手を当ててじっとフランドールを見る霖之助。
不安げに聞いてきた以上、フランドールにも、この服は霖之助にとって思い出の品であることはわかってくれている様子だった。自分自身、手元に置いておきたい気持ちはないと言えば嘘になる、しかし、道具屋としてはやはり使ってこそ、物には価値が生まれてくると考えてしまう。もしかしたら、この服も思い出として終わるつもりはないと言いたいのかもしれない。
しばらく黙っていた霖之助はやがてゆっくりと口を開く。
「いいよ、君にあげようその服は。お金も必要ない」
「え、でも、ほ、ほんとにいいの!?」
「ああ、ただその代わりの対価として、ちょっと僕が昔を懐かしむのを手伝ってほしい」
「???」
ちょっと言い回しが悪かったのか、フランドールの頭に疑問符が浮かんでいる。
「いや、なに、簡単なことだよ。このまま・・・・・・」
■
「ホントにこれだけでいいの?」
「ああ、十分だ」
「ふーん、変なの」
まだ首をかしげるフランドールであったが、気にしても仕方ないと言うように頭を霖之助の胸に預ける。そう、今、霖之助は魔女服を着たフランドールを自身の膝の上に座らせながら本を読んでいるのである。
「別に、今でもやってることじゃないの?魔理沙から聞いたけど」
「そうだね、まぁ、雰囲気の違いというやつさ」
やってることは同じでも、自分の膝にかかる重みも、胸に来る頭の位置も、やはり違う。
この服を着て、こんな風な無邪気な笑顔で、この膝に座っていた彼女の姿・・・・・・まだほんの少し前のことだと思っていたが、どうやら勘違いだったらしい。
―――しかし、時間は残酷だとは思わない
彼女が成長していく姿を見るのもまた、霖之助にとって大きな喜びでもあるし、楽しみでもある。たとえ・・・・・・いつか訪れる結末があることをわかっていても・・・・・・。
「霖之助!霖之助ってば!」
「あ、ああ、すまないフラン、また考え事をしてしまってたようだ」
「もー、何をそんなに考えてるの?」
「そうだな・・・・・・」
見上げてくるフランのむくれ顔に謝りながら、霖之助はどこか遠くを見る。
「・・・・・・子どもは、いつまでも子どもじゃないってことかな」
願わくば、この毎日も忘れられない思い出となりますように、と霖之助は祈るように目を閉じた。
≪終≫
そのせいで、何故この二人はこんなに仲がいいのか、フランがなんで香霖堂で働いているのか、
疑問ばかりが残りました
別に違うキャラでも良くね? と思ってしまう。
適当に脳内補完した結果この点で
フランが働き始める理由とか面白い話ができそうなのに。
それでやっと、ああ、只のロリコン男の話だと気が付きました。
まあ、そんな反応も無理ではないが。