Coolier - 新生・東方創想話

魔女と努力

2013/06/15 23:53:35
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「あっはっはっはっはっはっはっ!」
 図書館中に彼女の笑い声が響きわたった。
「あっ……だめ……お腹が……あっはっはっはっ!」
「…………」
 数秒前までのあらすじ。
 館の門番から聞いた、側近のメイドが主の非常食である話をしたら(お祝い用のご飯だっけ?)、目の前にいる魔女が笑いだした。
 あらすじ終了。
「あはは……げほっ、えほっ……。く……くくくっ……」
 この人、喘息持ちなのよね?
「ま……まぁ……ふふふ。ル、ルーミア……だっけ?」
 魔女は一度机の下に顔を隠し、数秒経って私の方に戻した。
「それは嘘よ。あなた、美鈴に騙されたのよ」
「ヨダレ拭き切れてないわよ」
 決め顔でこちらを向いているのは、紅魔館の魔女――パチュリー・ノーレッジ(だっけ?)。館の主と親友だとかなんとか。
 喘息で思ったけど、私と魔女がいるこの大きな図書館は、カビ臭くてしょうがない。自分のいる場所が昼空にならない私が言うのもなんだけど、こんな暗い所で生きているから喘息になるのだと思う。魔理沙はキノコを媒体に魔法を創り出していると言ってたけど、この図書館はそれを自家栽培でもしているのだろうか。
「でも、あなたみたいな妖怪が一人で来るのも珍しいわね。というか、美鈴はまた門番としての役目を放棄していたのかしら」
「いえ、さっきの話に私が半信半疑でいると、『中に入って確かめてみろ』って言われて、通されたわ」
「ふうん。美鈴にしては、手の込んだ嘘を吐くのね。それは騙されても仕方ないわ」
 組んだ腕を説いて紅茶を口に入れた魔女は、肘を付いて私の方を見据える。
「で、結局どうして私の所に来たの」
「別に何となくよ。あなたが魔理沙と親しいから選んだ。それだけよ」
「魔理沙……ねぇ」
 私の言葉を聞いて、迷惑そうに魔女は溜息を吐く。
「あの魔法使い、人の本を勝手に持っていって、あげくの果てに、『死ぬまで借りていく』とか言って、迷惑極まりないわ。死ぬまで借りていくなら、いっその事殺そうかしら」
「…………」
 この魔女はこの魔女で、対応に困る。
 門番と違って、魔女は(先程大笑いした時以外)常時真顔である。冗談を言っているのか一切わからない。
「あの人間は、何がしたいのかしらねぇ」
 喜怒哀楽をほとんど見せない表情から、愚痴のような一言が漏れた。
「何がしたい、って?」
「あの人間が借りて――盗んでいくのはいずれも魔導書。しかも、質屋に売るとしたって、人間程度にはその価値を理解できないものばかり」
「色々な魔法を扱えるようになりたいんじゃなくて?」
「なんのために」
 言って紅茶を口に入れた魔女の言葉に、私は反射のように返答する。
「魔女になるため?」
 私の言葉に魔女は薄ら笑い、カップを置いた。
「無理よ」
「そーなのかー?」
 口癖というわけではないけど、喰い気味に私が返答した際、魔女は溜息を吐いて私を見た。
「無理。魔界の人間ならともかく、純粋な人間が魔女になるなんて。あらゆる概念や現象を操る妖術があるらしいけど、そういう力を持った者の手を煩わせない限り、無理よ」
 周りでせわしなく動き回っている女悪魔を見ながら言って、パチュリーは言葉を続ける。
「あなた、『うさぎとかめ』という童話を知っているかしら」
 …………。
「食べ切るまで時間が掛かりそうな亀が生き延びた話……だったかしら」
「……二十点」
 思ったより高評価だった。
 仕方ないわね。と愚痴るように、魔女は童話のあらすじを話し始めた。
 眠ったうさぎが負け、起きてたかめが勝った。
 あらすじ終了。
「私はその話についていくらかの矛盾――というよりは情報不足を感じたわ」
 私の是非を問うことなく、魔女は話し続ける。
「『足の速いうさぎが怠け、足の遅い亀が怠けなかった結果、勝ったのは亀』という点。問題はこれよ。事象が一つしかないのよ。故にこの話は極論でしかないわ。最低でももう三つ。『亀の方が怠け者』、『両方怠け者』、『両方怠け者ではない』という事象がね。そしてその三つの事象はほぼ間違いなく……」
 ――兎が勝ち、亀が負ける。
 頭の中で思い浮かべた言葉は、魔女が最後に発した言葉と同じものになった。

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